ベンチャー企業のM&Aの成功方法【事例30選あり】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

近年、ベンチャー企業のM&Aが盛んに実施されています。バイアウト件数が増加したほか、取引金額も高額化している状況です。今回は、ベンチャー企業のM&A成功に向け、買収額の決定方法・買収後のPMI・スタートアップベンチャーの買収などを成功事例とともに解説します。

目次

  1. ベンチャー企業M&Aの市場動向
  2. ベンチャー企業にとってのM&Aとは
  3. ベンチャー企業のM&Aが増加している理由
  4. M&Aに成功するベンチャー企業の特徴
  5. ベンチャー企業がM&Aを成功させる方法
  6. ベンチャー企業がM&Aで失敗する理由
  7. ベンチャー企業M&Aの買収額決定方法
  8. ベンチャーのM&A相談ならM&A総合研究所
  9. ベンチャー企業のM&Aまとめ
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1. ベンチャー企業M&Aの市場動向

ベンチャー企業のM&Aといえば、2005年頃にライブドア・村上ファンドなどによるM&Aが話題となり、一時期はテレビ番組でもM&Aに関する用語が連日解説されるほどの盛り上がりを見せました。

それから10年以上もの年月が経ち、現在ではM&Aに対する企業の考え方が変化している状況です。はじめに、ベンチャー企業M&Aの市場動向について解説します。

バイアウト件数が増加

ここ数年、ベンチャー企業をM&Aによってバイアウトする大企業や、ベンチャー企業が他のベンチャー企業をM&Aによってバイアウトする件数が増加しています。

従来はIPOを目指すベンチャー企業が多かったですが、近年は大企業への売却を目的に経営する起業家が増えている状況です。

スタートアップ企業のデータベースを持つ「INITIAL」の資料によると、IPOの件数はリーマンショック前から微増という結果に留まっています。

その一方でM&Aの件数はリーマンショック後も増え続けており、2019年におけるベンチャー企業のM&A件数は全体の3割(1,375件)を記録しました。

取引金額の高額化

ベンチャー企業のM&Aでは、バイアウト件数のみならず、取引金額も高額化しています。上場企業によるベンチャー企業のM&Aは従来では10億円以下が主流でしたが、近年では10億円以上のM&Aが増えており、100億円を超える大型のM&Aも出てきました。

これまでM&Aに消極的だった大企業が方針を転換しており、事業シナジーがあると判断した場合には高額案件でも積極的にバイアウトする企業が増えています。

2. ベンチャー企業にとってのM&Aとは

ベンチャー企業にとって、M&Aはどのような目的で行われる行為なのでしょうか。ここでは、ベンチャー企業から見たM&Aの意義を中心に紹介します。

ベンチャー企業の経営戦略

ベンチャー企業の経営戦略は、大きく分けて「長期経営・IPO・M&A」の3つがあります。それぞれの特徴は、以下のとおりです。

長期経営

ベンチャー起業家が目指す経営戦略としてはマイナーですが、安定した長期経営を目指すベンチャー企業も存在します。

IPOやバイアウトでのイグジットをゴールに考えるベンチャー企業が多い中で、長期経営を目標とするベンチャー企業は上場のみならずバイアウトによる大企業の子会社化も考えません。

上記のような経営戦略の代わりに、株主や親企業に振り回されることなく安定した事業で長く生き残る経営戦略を選択します。

短期間で大きく成長する可能性は低いですが、大きなリスクを取らないため長寿企業を目指しやすいといえるでしょう。

IPO

IPOは、従来のベンチャー起業家が目指す主流のゴールでした。上場して資金調達したうえで、さらなる事業拡大が目標となります。かつては、少しでも早く上場しようと、会社を短期間で大きくするための戦略を取るベンチャー企業がほとんどでした。

しかし、実際には、上場に至るまでのお金と時間が足りず挫折する会社が大半です。たとえ上場したとしても、それまでの経営方針から切り替えることができずに苦しむ会社も多く存在します。

M&A

最近のベンチャー起業家の間では、IPOではなくM&Aを目指すケースが増えています。従来の起業家は、自身の会社を子供のように大事にする傾向がありました。

こうした起業家は、経営が苦しくてもバイアウトは拒否するという考え方を持っており、M&Aに対して懐疑的な姿勢を取っていました。

現在では、ベンチャー起業家のM&Aに対する価値観が変化しています。大企業からのバイアウトで資金を得て新たな事業を行う戦略や、大会社にバイアウトされることで豊富な経営資源を利用する戦略を取るようになりました。

また、買収を繰り返して成長までの道筋をショートカットするベンチャー企業も増えています。

国内と海外のベンチャー企業におけるM&A比較

日本に比べて海外では、M&Aを選ぶベンチャー企業が多いです。特にアメリカではその傾向が強く、9割のベンチャー企業が、IPOではなくM&Aを選択します。

近年では日本でもM&Aを選択するベンチャー企業が増えていますが、海外と比べると依然として割合が少ない現状です。

また、日本でも金額の規模が大きいベンチャー企業のM&A事例が出てくるようになりましたが、海外に比べると買収額の平均は低い状況だといえます。

3. ベンチャー企業のM&Aが増加している理由

最近はベンチャー企業のM&Aが増加していますが、その理由を買収側と売却側の各視点から解説します。

買収側の理由

M&Aが増加している理由について、はじめに買収側の視点から解説します。

素早く効率の良い経営戦略が描ける

現代は技術の進歩が速く、大企業がゼロから経営に向けた準備を行っていては世界の流れに追いつけません。M&Aによりベンチャー企業を手に入れることで、技術と人材を迅速に確保可能です。

その一方で、M&Aで買収されたベンチャー企業も慢性的な資金不足や経営力の弱さを補えるため、早期の段階でM&Aを決断して合意に至るケースが多くなっています。

オープンイノベーションを加速させるため

従来の大企業は、自社のみで製品やサービスを開発する「クローズドイノベーション」によって、独自の商品を生み出してきました。

しかし、多くの企業が安価で高性能な製品を生み出すようになった現在では、自社のみでイノベーションを起こすことは困難です。

M&Aにより異なる価値観と大企業にはないスピード感を持ったベンチャー企業を取り込むことで、オープンイノベーションを起こそうとする企業が増えています。

新たな事業領域の拡大

トレンドの移り変わりが激しい現代では、特定分野だけで経営を安定させることが難しくなっています。しかし、全くの異業種への参戦は失敗の確率が高いというのが従来の定説です。

そこで、すでに顧客や販売網を持っているうえに現時点では企業価値の低いベンチャー企業をM&Aで手に入れることで、異業種へのスムーズな参入を果たす戦略が注目されるようになりました。

現在では、IT企業を中心にさまざまな業種の企業をM&Aで手に入れて、多角化経営を図る企業が増えています。

売却側の理由

M&Aが増えている理由について、次は売却側の理由を解説します。

売却資金を手に入れるため

最近の若いベンチャー起業家の傾向を見ると、会社がある程度育った段階で、今後行う起業の運転資金を確保すべくM&Aで自社を売却するケースが多いです。

こうした起業家は会社の規模拡大にはこだわりを持たず、シリアルアントレプレナーとしてシード期やスタートアップ期の経営を手掛けること自体を目的としています。

まだ海外ほどの勢いはなくとも、日本においてM&Aを行いやすい環境が整備されたことも、自社を売却するベンチャー起業家が増えてきた要因の1つです。

IPOより資金調達が早い

多くのベンチャー企業にとって、資金調達は大きな壁となっています。とはいえ、IPOによって潤沢な資金を得るには、長い時間と大きなリスクが伴うのです。M&Aによって早く大きな金額を得られれば、円滑な経営を目指せます。

従来はIPOがベンチャー企業のステータスだったように、現在では迅速かつ規模の大きい資金調達や大きな金額のM&Aで買収されることが、ベンチャー企業のステータスとなっている状況です。

大企業とのシナジーが期待できる

ベンチャー企業はバイアウトされる側ですが、M&Aによって大企業のリソースを活用できるメリットもあります。

M&Aによって資金・人材・技術支援を一方的に得るだけでなくお互いに協力する関係になれば、より大きなシナジーを得られる可能性が高いです。

経営資源に乏しいベンチャー企業にとって、大企業によるM&Aでは大きな成長が期待できます。

廃業を回避できる

M&Aによる売却では、ベンチャー企業の経営を相手側に引き継ぎます。従業員や経営資源なども引き継ぐため、自身は廃業を回避しつつ経営者の立場から身を引くことが可能です。

これにより、廃業で発生する費用を削減できるばかりか、売却利益の獲得も期待できます。M&Aによる売却で得た利益は、経営引退後の生活資金に充てることも可能です。

以上のことから、早期の引退を希望する経営者を中心に、ベンチャー企業の売却を図る動きも目立っています。

4. M&Aに成功するベンチャー企業の特徴

ベンチャー企業がM&Aに成功する方法を紹介する前に、注意点を紹介します。注意点とは、M&Aに成功する方法を実行すればいかなるベンチャー企業でも成功するというわけではないことです。

M&Aに成功するための前提条件として、以下の条件を満たしている必要があります。これらの条件は買収側にも当てはまりますが、特に売却側の立場によく当てはまるものです。

将来性に期待できる

ベンチャー企業のM&Aで重視される条件は、現時点での売り上げや利益ではありません。将来性のある事業を行っているかどうかが、M&A成功の鍵を握ります。

将来性があれば、現時点で赤字経営であり買収額が多少大きな金額であっても、M&Aを実行するという積極的な大企業が増えている状況です。

反対に、現時点で利益が出ていても将来的に大きな成長が見込めないような事業内容であれば、希望どおりのM&Aを実施できない可能性があるといえます。

スタートアップでも利用者がいる

スタートアップの段階でほとんどマネタイズできていないベンチャー企業であっても、多額の資金調達や大きな金額のM&Aを達成できるケースも見られます。

買収側にとって、熱心なファンが多いベンチャー企業には、M&Aで手に入れる価値が大いにあるのです。

新しい事業を成長させる時に最も苦労するのが、初期の熱心なファン作りだといえます。ファンの人数が一定数を超えると、加速度的にファンの人数が増えていきますが、その段階に至るまでには運やタイミングも必要です。

すでに熱心なファンを持っていれば、スタートアップだったとしても希望どおりの条件で売却に成功する可能性があります。

優秀な人材がいる

ベンチャー企業のM&Aを検討する際に大きな魅力となる要素が、優秀な人材です。日本では、2000年前後から、大企業よりもベンチャー企業に就職して力を付けたいという優秀な人材が増えました。

特にIT関連の優秀な人材は、勢いのあるベンチャー企業に就職するケースが多いです。

大企業とは違った経験と技術を積み重ねたベンチャー企業の優秀な人材をM&Aによって確保すれば、企業にとって貴重な資産となります。

5. ベンチャー企業がM&Aを成功させる方法

実際にベンチャー企業がM&Aを成功させる方法は、以下のとおりです。
 

  1. 業界トレンドを狙う
  2. 競合がいない市場を狙う
  3. 業績上昇時に売却する
  4. 株式譲渡の手法で売却する
  5. 買収後PMIの事前計画

それぞれのポイントを順番に見ていきます。

①業界トレンドを狙う

ベンチャー企業がM&Aを成功させるには、M&A時点の業界トレンドを狙うと良いでしょう。ITバブルの頃は、IT関連企業のIPOであればいかなる案件でも取引価格が高騰していましたが、現在は有望なIT関連企業でも高騰する案件が減っています。

その代わりに、トレンドに乗った有望なベンチャー企業は、高い買収額により売却されるケースが多いです。

近年では、IoTや自動運転に関わるベンチャー企業が、高額のM&Aにより高額取引されるケースが多くなっています。また、買収側も、成長産業のベンチャー企業をM&Aで手に入れた方が将来的な利益につながりやすいです。

②競合がいない市場を狙う

ベンチャー企業をM&Aで売却する場合、競合がいない分野を狙った方が、M&Aによる売却可能性が高まります。

実際に、ベンチャー企業が立ち上げ当初とは異なる事業で経営を続けるケースは多いです。もしも途中からイグジットを考える場合には、売れやすい事業に転換した後で、M&Aにより売却する戦略も有効策となります。

買収側も、競合がいない市場を狙ってM&Aを行うことで業績を伸ばしやすいです。

③業績上昇時に売却する

事業をM&Aで売却する場合には、タイミングも重要です。望ましいのは、業績が右肩上がりの時に売却する戦略だといえます。

高額で売却するには、買収する企業に「勢いがあって将来性のある会社」だと認識してもらうことが大切です。

M&Aで売却する場合、その時点で赤字かどうかはそれほど重要ではありません。先行投資で赤字が出ているケースでも、ほとんどマイナス要因にはならないのが現状です。その代わりに、M&Aでは売上の伸びが重視されています。

④株式譲渡の手法で売却する

M&Aによりベンチャー企業を売却する場合には、株式譲渡の手法を選択すると多くのメリットが期待できます。株式譲渡を採用する場合、事業譲渡をはじめとする他のM&A手法と比較すると簡易的な手続きで取引を完了させやすいです。

また、他のM&A手法よりも課税割合が少なくなるケースが多く、売却利益を最大限獲得できます。以上のことから、ベンチャー企業を売却する場合には、なるべく株式譲渡を採用してM&Aを実施すると良いでしょう。

ただし、株式譲渡による売却では、自社のそれぞれの株主から株式を取得しなければなりません。少数株主などから同意を得られないケースもある点には注意してください。

⑤買収後PMIの事前計画

ベンチャー企業をM&Aで買収する場合、あらかじめ買収後のPMIを念入りに検証する必要があります。PMIとは簡単にいうと、買収後にバイアウトした企業のマネジメントする行為です。

買収後のPMIを怠ると、M&Aで買収した企業の顧客離れ・社員の流出・社長のモチベーション低下など、さまざまな問題が発生してしまいます。

結果的に、M&Aで期待していたシナジーが生み出せず、業績低下につながりかねません。しかし、M&A仲介会社によっては、買収まで完了するとサポートが終了してしまい、買収後のPMIに関するフォローが受けられないケースもあります。

M&A仲介会社と契約する際には、買収後のPMIに関するサポート内容も十分に確認しておきましょう。

6. ベンチャー企業がM&Aで失敗する理由

ここでは、ベンチャー企業のM&Aでよくある失敗例として、以下の3つを紹介します。
 

  1. 決断に時間をかけすぎる
  2. 社長同士の相性が合わなかった
  3. 買収後に社員が流出する

それぞれの項目を順番に見ていきます。

①決断に時間をかけすぎる

ベンチャー企業がM&Aを行う際、決断までの時間が長すぎると交渉が決裂してしまいかねません。金額などの条件でなかなか折り合えず、気が付いたら相手側から断りの連絡が来てしまうケースが多いです。

特にベンチャー企業同士のM&Aではスピードが求められます。時間をかけるほどM&A費用がかさむこともあって、ベンチャー企業同士のM&Aでは大きな負担になりやすいです。

②社長同士の相性が合わなかった

ベンチャー企業の創業社長の中には、会社を子供のように大事にしている人や、個性の強い人もいます。M&Aによる会社売却では、大事な会社を売却しても良いほどに信頼できる相手なのか、相手社長の人柄も重視されるのです。

ここで信頼関係が築けなかった場合、たとえ条件が良かったとしても話が決裂してしまうことがあります。M&Aでは、社長同士の相性も重要なポイントです。

③買収後に社員が流出する

M&Aでは買収後のPMIが非常に重要となります。M&Aは社員にも秘密で進められるケースがほとんどであるため、突然M&Aについて聞かされると離職する社員が発生しかねません。M&Aにより社長のみが利益を得ていることに不満を持って離職するケースも見られます。さらには、新しい企業文化に馴染めずに辞めてしまうケースも少なくありません。

せっかく優秀な人材の確保を目的にM&Aで買収したとしても、M&A後のマネジメントを丁寧にしなければ人材を失うことになるため注意が必要です。

7. ベンチャー企業M&Aの買収額決定方法

ここでは、M&Aの買収額を決定する際に広く用いられている算定方法を紹介します。

DCF法

DCF法とは、簡単にいうと、対象企業の将来的な資産価値を表す算定方法です。売却対象となる企業の数年後までの成長から数年間に起こり得るリスクを割り引いて計算します。

ベンチャー企業はリスクが高めに設定されるため、M&Aの買収対象として魅力的な数字を出すには、数年間で大きな成長を遂げなければなりません。

ベンチャー企業をM&Aで買収する際には、将来性が大事な要素となります。DCF法によって算出された数字を参照すれば、対象企業の将来性をある程度予測可能です。

マルチプル法

マルチプル法とは、簡単にいうと、類似する企業との比較により対象企業の企業価値を算定する方法です。

具体的には、類似した複数の企業をピックアップしたうえで、各社の株価から事業価値や評価を簡単な計算式に当てはめて平均値などを算定します。ここで求められた数値に評価対象企業の主要指数をかけて、企業価値を推定する仕組みです。

マルチプル法は計算が簡単で数値がわかりやすいため、多くのケースでM&Aを検討する初期段階で参考にされています。

以下の動画でM&Aアドバイザーが計算例を用いてマルチプル法について解説しておりますので、是非ご覧ください。

8. ベンチャーのM&A相談ならM&A総合研究所

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9. ベンチャー企業のM&Aまとめ

今回は、ベンチャー企業のM&Aを成功させる方法を成功事例とともに解説しました。とはいえ、ベンチャー企業のM&Aは教科書どおりには行かず、状況に応じた柔軟な対応が求められます。特に買収後のPMIでは、トラブルになることも多いです。

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