個人事業主の事業承継方法とは?メリットや注意点、手続きの流れ、法人との違いも解説

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

個人事業主の事業承継についてまとめました。個人事業主と法人の違い、個人事業主の事業承継手段・その際に引き継がれる要素・メリット・注意点・手続きの流れ・経費や債務の処理方法・課される税金、活用すべき事業承継税制などを解説しています。

目次

  1. 個人事業主と法人の違い
  2. 個人事業主の事業承継で引き継ぐ要素
  3. 個人事業主の事業承継時に採用される手法
  4. 個人事業主の事業承継にある背景
  5. 個人事業主が事業承継するメリット
  6. 個人事業主の事業承継を行う際の注意点
  7. 個人事業主が事業承継する手続きの流れ
  8. 個人事業主が事業承継した際の経費・債務の処理方法
  9. 個人事業主の事業承継時に問題となる税金
  10. 個人事業主は事業承継税制を有効活用すべき
  11. 事業承継に悩む個人事業主はM&A仲介会社に相談しよう
  12. 事業承継したい個人事業主のまとめ
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1. 個人事業主と法人の違い

まずは、あらためて個人事業主と法人の違いを確認しておきましょう。

個人事業主・法人の定義

法人とは、登記によって法人格を得た事業を行う組織のことです。具体的には、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、社団法人、財団法人などが該当します。オーナー経営者がワンマン体制で事業を行っていても、会社組織である以上、法人です。

一方、個人事業とは、会社組織を持たず一個人が主体となって事業を行います。その一個人が、個人事業主です。法人のように従業員を雇用して事業を行っているケースも多いですが、会社組織を持たず登記もなされていない事業の経営者が個人事業主ということになります。

両者の事業承継の違いを述べておくと、法人(株式会社)の場合、会社の株式を後継者に引き渡せば事業承継の成立です。株式の取得は経営権の承継を意味します。一方、個人事業主は法人格を持たないので、法人のような事業承継方法が行えません。

個人事業主が所有する事業に必要な資産を後継者に譲渡することで、事業承継が成立します。

2. 個人事業主の事業承継で引き継ぐ要素

個人事業主が事業承継を実施する際に、後継者に引き継がれる具体的な要素は以下の3つです。

  • 経営権:現個人事業主が廃業手続きを行い、後継者が開業手続きを行うことで現個人事業主が行っていた事業の経営権が承継される
  • 資産(物的資産):事業を行うために必要な設備・機械・備品・店舗・敷地などの固定資産と売掛金・買掛金・借入金などの債権債務
  • 経営資源(無形資産):経営ノウハウ・ブランド力・技術力・販売ネットワーク・顧客・取引先・知的資産・従業員・許認可など

3. 個人事業主の事業承継時に採用される手法

個人事業主が事業承継するときに採用される手法は、以下の3つです。

  1. M&A
  2. 贈与
  3. 相続

①M&A

個人事業主が事業承継する1つ目の手法は、M&Aです。M&Aによる売買を利用すると第三者に事業を承継でき、売却に際して利益を獲得できます。これは親族内承継が難しいケースや、売却資金を手に入れたいケースにおいて大きなメリットです。

M&Aによる事業承継を検討する際には、専門家であるM&A仲介会社などに相談・依頼するのをおすすめします。相談先のM&A仲介会社をお探しでしたら、M&A総合研究所にご連絡ください。

個人事業主のM&Aの相談は案件規模が小さく、収益性が高くないことから取り扱っていないM&A仲介会社も多いでしょう。しかし、M&A総合研究所では個人事業主のM&Aも対応可能です。

M&A総合研究所では、経験豊富なアドバイザーが親身になって、クロージングまでサポートします。料金体系は、完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)で、着手金は譲渡企業様・譲受企業様とも完全無料です。

随時、無料相談を受け付けていますので、個人事業主様のM&Aによる事業承継をご検討でしたら、お気軽にお問い合わせください。

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②贈与

個人事業主が事業承継する2つ目の手法は、贈与です。この手法は親族内承継だけでなく、第三者への事業承継でも広く活用されています。なお、贈与で事業承継する場合、生前贈与が主流です。

贈与による事業譲渡は安心感があるものの、売却益を獲得できない点でデメリットがあるともいえます。

③相続

個人事業主が事業承継する3つ目の手法は、相続です。相続は贈与とは異なり、個人事業の経営者が亡くなって相続が発生した場合に事業が承継されます。相続時に相続財産の一部として事業用資産を後継者に引き継ぐ手法です。

相続による事業承継では、しっかりと遺言が残されていない場合に遺産分割協議が行われます。これにより、先代経営者の希望に添えない事業承継が行われるおそれがある点に注意してください。

4. 個人事業主の事業承継にある背景

中小企業庁の「令和元年中小企業実態基本調査速報(要旨)(平成30年度決算実績)」によると、経営者(個人事業主)の事業承継については、「今はまだ事業承継について考えていない」の割合が35.3%と最も高く、次いで「現在の事業を継続するつもりはない」が28.2%でした。

そして、「親族内承継を考えている」が26.6%となっています。事業承継先は、親族に加え、役員・従業員、会社、個人への引き継ぎなど、いくつかの選択肢の中で承継を考えている人の割合が全体の34.1%でした。

近年は、職業選択の自由や少子高齢化の影響を受けて、後継者となる子供が不足しています。それだけでなく、後継者候補となる子供がいても、苦労を考えると継がせたくないと考えている経営者も少なくありません。そのようなときに有効策となるのが、M&Aを利用した第三者への事業承継です。

M&Aを活用すれば親族外承継を実現できるため、後継者問題を解決できます。認知の高まりを受け、M&Aによる個人事業主の事業承継は増加傾向です。そして、売却資金を得られるメリットなども相まって、今後も魅力的な事業承継手段であり続けると予想されています。

個人事業主が事業承継をしやすい業種

個人事業主が事業承継しやすい代表的な業種は、以下のようなものです。

  • WEBサイト運営
  • 学習塾
  • 各種スクール
  • 整体院
  • 古民家・民泊施設

これら5つの業種では、売り手と買い手の数が多く、好条件でのM&Aが成約しやすいため、これらの業種を営んでいる個人事業主であれば、M&Aでの事業承継を検討してみるとよいでしょう。

【関連】個人事業主の事業承継のやり方と注意点まとめ!固定資産税や借入金はどうなる?| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 個人事業主が事業承継するメリット

個人事業主が事業承継によって得られる主なメリットは、以下の3点です。

  1. 後継者問題を解決できる
  2. 新規事業に転換できる
  3. 売却益を獲得できる

①後継者問題を解決できる

個人事業主が事業承継する1つ目のメリットは、後継者問題を解決できることです。個人事業を営んでいる人の中には、後継者の育成が間に合わなかったり、親族や従業員が引き継ぎを拒否したりと、後継者問題を抱えている個人事業主も少なくありません。

事業を何とか残したいと考えている経営者にとって、後継者問題で悩み続ける日々は大変です。しかし、M&Aなどの手法で事業承継を行えば、事業経験のある同業者などの経営を任せられる人物に、安心して事業を譲り渡せるメリットがあります。

②新規事業に転換できる

個人事業主が事業承継する2つ目のメリットは、新規事業に転換できることです。個人事業主が事業承継する場合、新しい事業を起こすことを目的とする場合も少なくありません。

完全に新規の事業をスタートさせる場合だけでなく、並行して営む別事業に集中するために、事業承継を選択する個人事業主の方も多いでしょう。

③売却益を獲得できる

個人事業主が事業承継する3つ目のメリットは、売却益を獲得できることです。M&Aで事業承継する場合、個人事業主は売却益を獲得できます。売却益を利用して、事業で発生した借入金の返済やリタイア後の生活費に充てることも可能です。

上記の理由から、事業承継を通じて資金を得たい個人事業主は、M&Aの手法を採用するとよいでしょう。

6. 個人事業主の事業承継を行う際の注意点

個人事業主が事業承継する際の注意点は、以下の3点です。

  1. 煩雑な手続きが求められる
  2. 希望の買い手が見つからない可能性がある
  3. M&A仲介会社選びは慎重に検討すべき

①煩雑な手続きが求められる

1つ目の注意点は、煩雑な手続きが求められることです。事業承継する場合、M&A・贈与・相続のいかなる手法を採用したとしても、書類作成などの煩雑な手続きが求められます。手続きが遅れてしまうと、適切に事業承継できないこともあるものです。

手続きに不安があれば、M&A仲介会社などに相談してサポートを受けるようにしましょう。

②希望の買い手が見つからない可能性がある

2つ目の注意点は、希望の買い手が見つからない可能性があることです。事業内容によっては、希望に合う買い手が見つからずM&Aを進められないこともあります。買い手探しには時間がかかる場合が多く、本当に見つかるのか不安な心情になりがちです。

M&Aで事業承継する場合には、M&A仲介会社などの専門家に依頼しましょう。専門家であればそのネットワークにより、買い手候補情報を多く持っています。スピーディーに事業承継を進めるのに役立ちますから、ぜひ検討してみてください。

③M&A仲介会社選びは慎重に検討すべき

最後の注意点が、M&A仲介会社選びの時点で難航する可能性があることです。これは、サポート対象となる企業に制限を設けている可能性があるのが関係しています。たとえば、中小企業のみ、大企業のみと単純に規模で制限がかかるなどです。

大規模な企業を対象としているM&A仲介会社であっても、小規模に対応していることはあるでしょう。しかし、料金面が厳しいといったようなケースが起きます。したがって、自社に合ったM&A仲介会社を選ぶときに難航する可能性は考えておきましょう。

【関連】個人事業をM&Aで事業承継する方法と問題点まとめ!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

7. 個人事業主が事業承継する手続きの流れ

個人事業主が事業承継する際には、以下の6つのステップで手続きを取らなければなりません。

  1. 後継者を選ぶ
  2. 後継者を教育する
  3. 廃業手続きをする
  4. 後継者による開業手続き
  5. 屋号引き継ぎの処理をする
  6. 取引先に連絡する

①後継者を選ぶ

1ステップ目は、後継者を選ぶことです。まずは後継者を選ばないことには、事業承継はできません。親族内で後継者が見つからない場合は、第三者からの後継者選びです。M&A仲介会社に相談・依頼すると、有力な後継者探しをサポートしてもらえます。

②後継者を教育する

2ステップ目は、後継者の教育です。後継者が決定すると、次は個人事業を引き継いでいきます。しかし、全てを一気に引き継ごうとしても事業に支障が出てしまうので、教育をしながら徐々に事業を引き継ぐとよいでしょう。

個人事業は信頼や人間関係のうえに成り立つ場合が多いため、信頼を損なわないよう念入りに教育することが必要です。事業に使用する固定資産や顧客情報などの引き継ぎも進めます。業務に必要な書類など、後々後継者が困らないように引き継ぐのが肝要です。

③廃業手続きをする

3ステップ目は、廃業手続きです。法人の場合とは異なり、比較的簡単に行えます。現事業主は廃業の届出を提出するだけで手続きを終了させられるため、この手続きをもって個人事業主としての立場は終了です。廃業手続きでは、以下の書類を役所もしくは税務署に提出します。

  • 個人事業に関する廃業届
  • 青色申告を行っている場合は、その申告を中止するための届け出
  • 事業を廃止するための届け出

④後継者による開業手続き

4ステップ目は、後継者による開業手続きです。個人事業主が廃業手続きをすませた後、後継者は開業手続きをしなければなりません。この手続きを終えることで、後継者が個人事業主として認められ、事業承継は完了です。

開業手続きでは、以下の書類を役所もしくは税務署に提出します。

  • 個人事業に関する開業届
  • 所得税が発生する場合の青色申告承認書
  • 青色申告者を採用する予定がある場合には、それに関する届け出

⑤屋号引き継ぎの処理をする

5ステップ目は、屋号引き継ぎの処理です。個人事業主がもともと使用していた屋号を後継者も使用したい場合には、開業届に引き継ぎたい屋号を記載しておく必要があります。これにより、屋号を引き続き使用するのが可能です。屋号とは、個人事業主が使用する商業上の名称をさします。

商標登録のような法的制限がないため簡単につけられますが、他の法人や個人が商号登記している屋号の場合は、会社法の規定により同一市区町村内で使用できないので注意してください。商号登記のある屋号を引き継ぐ場合には、法務局に行き名義を変更する必要があります。

⑥取引先に連絡する

6ステップ目は、取引先への連絡です。個人事業はクライアントとの信頼や人間関係によって成り立っているケースが多いため、事業承継の際もおろそかにしてはいけません。

事業承継したら、今後もつき合いを継続する業者や取引先に、代表交代をした旨と引き継ぎをした後継者のあいさつ周りを行ってください。代表交代をして何も連絡がないと信用問題が起こります。事業がうまくいかなくなることもあるため、怠らずに実施しましょう。

8. 個人事業主が事業承継した際の経費・債務の処理方法

個人事業主が事業承継した際に失敗しやすい経費や債務の処理は、以下の2点です。

  1. 固定資産税は経費として計上できる
  2. 借入金は承継できる

①固定資産税は経費として計上できる

固定資産税は経費として扱えます。個人事業主が親族や第三者に贈与を利用して事業承継するケースでは、不動産などの固定資産によって贈与額が高額になる場合が多いです。これは税額を少しでも減らしたい方にとって大きなデメリットといえます。

そこで、固定資産を贈与ではなく使用貸借にすることで、後継者に貸している扱いとなるため贈与税を減らすことが可能です。使用貸借では権利金を発生させずに実質無料で土地を貸せるので、後継者に土地を引き継ぎたい場合にとても便利な方法といえます。

使用貸借で生じる不動産の減価償却費、固定資産税、修繕費などは後継者に計上させる仕組みです。ただし、この使用貸借では無料で貸すことになるので、地代も無料にしなければなりません。

子供に使用貸借して贈与税を節税したとき、親側の固定資産税となりますが、これを子供が払う場合は大丈夫です。このような運用が可能ですので、固定資産による贈与税に悩む個人事業主は、使用貸借への切り替えを検討してみましょう。

②借入金は承継できる

借入金は承継できます。個人事業主の事業承継で引き継がれる資産の中には、借入金も含まれます。これは、事業承継で負債も引き継ぎたい個人事業主にとってうれしいメリットです。

ただし、事業譲渡による代表交代をしても、事業自体の借入金はなくならないため、親族内で事業承継するケースでは注意しましょう。親族内承継では、債務である借入金をいかに対処するのか、事業承継時に考えておかなければなりません。

第三者に事業承継する際も高値での売却を狙うならば、なるべく借入金を減らしておくのが得策です。

9. 個人事業主の事業承継時に問題となる税金

個人事業主の事業承継時に問題となる税金は、以下の4つです。

  1. 贈与税
  2. 所得税
  3. 消費税
  4. 相続税

①贈与税

個人事業主の事業承継で代表的なのが贈与税です。親から子への親族内承継が多いですが、この場合は事業を無償で譲り受ける形になるので、贈与税が発生します。引き継いだ資産の総額から、同じく引き継いだ負債総額を引いた金額が贈与税の対象です。

  • 資産:不動産などの固定資産、預貯金、商品、機械類など
  • 債務:未払金、借入金、買掛金など

金額が110万円以下の場合には贈与税は発生せず、110万円を超えていれば、超えた部分に税率をかけて贈与税が課税されます。贈与税には暦年贈与という制度があり、毎年1月1日~12月31日までに贈与された額が合計で110万円以下だった場合、課税されません。

贈与税の税率は以下のとおりです。
課税対象額(110万円超の部分) 一般税率 控除額 特例税率 控除額
200万円以下 10% 10%
200万超〜300万円以下 15% 10万円 15% 10万円
300万超〜400万円以下 20% 25万円 15% 10万円
400万超〜600万円以下 30% 65万円 20% 30万円
600万超〜1,000万円以下 40% 125万円 30% 90万円
1,000万超〜1,500万円以下 45% 175万円 40% 190万円
1,500万超〜3,000万円以下 50% 250万円 45% 265万円
3,000万超〜4,500万円以下 55% 400万円 50% 415万円
4,500万円超 55% 400万円 55% 640万円

特例税率は、祖父母や父母から20歳以上の子供や孫へ贈与する場合に使用されます。一般税率は、特例税率に該当しない場合に使用されることを押さえておきましょう。

②所得税

所得税は、個人が1月1日から12月31日までの1年間で得た「所得金額(収入ー経費)」から、「所得控除額」を差し引いた額を所得額として計算します。所得税には10種類ありますが、事業承継を売買(M&A)によって行う場合は譲渡所得です。

親族内承継などで無償による事業承継をした場合には、事業承継後に後継者が得た収入が「事業所得」として課税されることを理解しておきましょう。

③消費税

事業承継を生前贈与によって行うのか、相続として行うのかで、消費税の計算方法が異なるため注意が必要です。消費税は、年間売上高が1,000万円以上あるかどうかにより、課税か非課税かに分かれます。その際、2年前の売上高により納税義務の有無の判断です。

事業承継を生前承継で行ったとき、後継者が他に事業をしていない場合では開業して1年目になるため、この年に1,000万円以上の売上がある場合は2年後に消費税の納税義務が課せられます。

つまり、原則として開業から2年以内は納税義務が生じないことになり、それ以降も1年で1,000万円以上の売上高がないときには消費税は発生しません。

事業承継を相続で行う場合も、消費税の課税期間の変動などはないため、2年前の売上高が1,000万円以上の場合のみ納税義務が課せられます。ただし、相続による事業承継では、代表交代前で後継者が事業をしていない期間の会社の売上高も、消費税の課税対象となるため注意が必要です。

たとえば、2年前まで事業を行っていた親が年間1,000万円以上の売上高をあげていた事業を、子供が2年後に相続により引き継いだ場合、この年から消費税の納税義務が発生してしまいます。

課税期間の途中で経営者が亡くなり、後継者に代表交代した場合も同様です。代表交代前が500万円の売上高で代表交代後が600万円の売上高とすると、年間1,100万円の売上高になるので、消費税が課されます。

④相続税

相続での事業承継では、相続が発生した時点を基準にして評価額が査定され課税されます。事業承継では固定資産だけでなく、棚卸資産など不確定な要素が含まれるため、後継者への負担が大きくなることもあり注意が必要です。

相続税では小規模宅地の特例が適用される場合があります。小規模宅地の特例とは、被相続人が住んでいた土地や事業のための土地など一定条件を満たしていれば、評価額を80%または50%減額してもらえる特例です。

これを活用したとき、相続税の評価額が1,000万円だった場合、最大200万円の評価額まで減額できるので後継者の負担はかなり少なくなります。

ただし、要件が少し難しくなっており、被相続人と同じ財布で生活した場合などの要件が含まれ、また、宅地の面積などにより減額割合が異なるので注意しましょう。

10. 個人事業主は事業承継税制を有効活用すべき

個人事業主は事業承継税制を有効活用すべきです。これまで事業承継税制は法人の事業承継シーンにおいて活用されてきましたが、2019(令和元)年の法改正により、個人事業主の事業承継で生じる相続税・贈与税について納税猶予が受けられるようになりました。

個人版の事業承継税制は先代が保有する事業用の資産を後継者がスムーズに引き継ぐ有効策であり、要件を満たせば個人事業主の資産相続にかかる相続税の納税が100%猶予されるものです。後継者が亡くなるまで事業が継続できれば、猶予は免除に変わります

個人版事業承継税制を受ける要件まとめ

個人版の事業承継税制を受けるための要件は、以下の5点です。

  • 個人事業承継計画の提出
  • 経営者が満たすべき要件一覧
  • 後継者が満たすべき要件一覧
  • 担保の提供
  • 継続届出書を3年ごとに提出

個人事業承継計画の提出

1つ目の要件は、個人事業承継計画の提出です。後継者は、あらかじめ都道府県庁に対して個人事業承継計画を提出し、確認を受けましょう。承継計画は税理士などの認定経営革新支援機関の指導と助言を受けながら作成することが必須です。

個人事業承継計画には、先代経営者名・後継者名・承継までの経営見通し・承継後の事業計画などを記載します。ここで注意すべきなのは、相続開始から8カ月以内に申請をしておかなければならない点です。

相続税の申告期限である10カ月よりも時期が早く、制度上の提出期限が2019(平成31)年4月1日から2024(令和6)年3月31日までとなっています。認定は、都道府県知事の認定を受けてから2年間の有効期限があることも留意しておきましょう。

経営者が満たすべき要件一覧

2つ目の要件として、経営者が満たすべき要件をまとめて紹介します。先代経営者である被相続人は、以下の要件を満たしてください。

  • 青色申告書を提出済み
  • 資産管理型事業でない(引き継ぐ事業が対象)
  • 性風俗関連営業でない(引き継ぐ事業が対象)
  • 売上がゼロでない (引き継ぐ事業が対象)

後継者が満たすべき要件一覧

3つ目の要件として、後継者が満たすべき要件をまとめて紹介します。後継者は、以下の要件全てを満たしていなければなりません。

  • 相続により承継する事業の特定事業用資産の全てを取得していること
  • 相続するとき、承継する事業かそれと同種の事業に従事していること
  • 相続開始の日の翌日から5カ月を経過する日まで、特定事業用資産の全てを保有し、自己の事業の用に供していること
  • 性風俗関連の事業でないこと
  • 所得税法上の開業の届出書を提出していること
  • 青色申告の承認を受けていること
  • 個人事業承継計画の確認を受けていること 

担保の提供

4つ目の要件は、担保の提供です。猶予される相続税の金額および利子税の金額に見合う担保を、税務署に提供しなければなりません。

継続届出書を3年ごとに提出

5つ目の要件は、継続届出書を3年ごとに提出する必要があります。制度適用時は、3年ごとに継続届出書を税務署に提出しなければなりません。適用を受けたからと安心せずに、要件を満たし続けられるよう努めましょう。

個人版事業承継税制と法人版の違い

念のため、以下に個人版事業承継税制と法人版の相違点を掲示します。

  • 適用期限:法人版(一般措置)は無期限であるのに対し、現状、個人版は2025(令和7)年12月31日まで。
  • 対象資産:法人版は株式だが、法人格を持たない個人版では特定事業用資産。
  • 納税猶予割合:法人版(一般措置)は贈与100%・相続80%だが、個人版はいずれも100%。
  • 青色申告要件  :法人版は対象外だが、個人版では必須。
  • 雇用確保要件:法人版(一般措置)では一定の従業員数を雇用し続けなければならないが、個人版では要件なし。

個人版事業承継税制の注意点

個人版事業承継税制の適用が認められても、維持要件を満たさなくなると猶予措置が解かれ納税義務が生じます。しかも、猶予されていた期間分の利子税も加算される点も要注意です。以下のようなケースでは、猶予措置が解除されてしまいます。

  • やむを得ない場合を除いて廃業するケース
  • 青色申告の承認が取り消されたケース
  • 青色申告の取り止め届け出をしたケース
  • 事業所得の総収入金額がゼロになったケース
  • 継続届出書を期限内に提出しないケース
  • 資産管理事業などの特定の事業も始めたケース

その他の税負担を抑える制度

最後に、個人版事業承継税制以外にも、税負担を抑えられる制度を紹介します。

  • 相続時精算課税制度
  • 小規模宅地等の特例

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、個人事業主が子や孫などの後継者に事業用資産を生前贈与する場合、その評価額の合計額2,500万円分までに関して贈与税を非課税とする制度です。

ただし、先代経営者の死亡時に贈与された資産も相続税の対象となるため、税負担が免除されるわけではありません。高額となり得る税負担の時間的猶予を得られる制度ともいえるでしょう。なお、この制度を選択して以降は、贈与の暦年課税は利用できなくなります

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、相続税の説明でも概要を述べましたが、ここでは細かな条件を紹介します。

  • 事業用の宅地(特定事業用宅地等)を後継者が相続(相続開始前3年以内に事業用に供された宅地などは除く)
  • 申告期限まで宅地を保有し事業を継続
  • 400平方メートルまでの評価額を80%減額

特定居住用宅地等(被相続人または被相続人と同一生計の親族の居住用宅地等で一定の要件を満たしたもの)と特定事業用宅地等の両方がある場合は、以下の条件で併用が認められます。
  • 貸付事業用宅地等がないこと
  • 特定居住用宅地等330平方メートル
  • 特定事業用宅地等400平方メートル
  • 合計730平方メートルまで小規模宅地等の特例併用可

貸付事業用宅地等がある場合は、以下が条件です。
  • 200平方メートルまで小規模宅地等の特例併用可

なお、小規模宅地等の特例を受けると個人版事業承継税制は受けられなくなります。どちらかしか選べません。

【関連】事業承継税制とは?相続税・贈与税の納税猶予(特例)を徹底解説【中小企業庁データ参照】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

11. 事業承継に悩む個人事業主はM&A仲介会社に相談しよう

個人事業主の事業承継には専門知識が必要であるうえ手続きも多岐に渡るため、M&A仲介会社など専門家に相談して進めるのがおすすめです。特に事業承継税制などを活用する際は要件や手続きがわかりづらいため、専門家に相談したほうがスムーズに進められます。

個人事業主の事業承継をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所では、案件ごとに知識・経験豊富なアドバイザーがつき、丁寧にフルサポートします。

料金体系は、完全成功報酬制(※譲渡側のみ)で、着手金は譲渡側・譲受側ともに完全無料です。無料相談を随時、受け付けていますので、事業承継をご検討中の個人事業主様は、お気軽にお問い合わせください。

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12. 事業承継したい個人事業主のまとめ

個人事業主の事業承継で、後継者問題や経営課題の解決に悩んでいるのであれば、M&Aの手法を検討してみてください。多くのメリットが得られることから、現状を打開するきっかけになるはずです。もし不安な点があれば、M&A仲介会社などの専門家に相談してみましょう。

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