2020年11月22日更新
事業承継の相続税対策に悩む経営者に!節税対策を徹底解説!

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。
事業承継における相続税の対策方法を紹介します。事業承継には高額な相続税がかかる場合があり注意が必要です。事業承継税制やその特例措置を利用すれば相続税の負担を軽くできます。ただし手続きが煩雑なのでM&A仲介会社に相談して上手に相続税対策をしましょう。
目次
1. 相続税の節税対策をして事業承継を成功させよう!
事業承継を成功させたいなら、節税対策が非常にポイントとなります。
なぜなら、事業承継では大きな金額が動くケースが多く、その分だけ税金も多く支払う必要が出てくるからです。特に、相続による承継の場合では、多額の相続税が必要となり苦労する人も多くいます。
事業を引き継ぐ後継者のことを考えて、少しでも支払う税金の金額が少なくなるように対策を講じたいとお考えのことでしょう。
そこで今回は、事業承継シーンで採用されている相続税対策を紹介していきます。紹介した中から自社の状況に最適な相続税対策を選んで実践してください。
ちなみに事業承継で相続税はどれくらいかかるのか、疑問に感じている方は少なくないはずです。ここからはまず、事業承継における相続税の計算方法について紹介します。
事業承継で相続税はどれくらいかかる?
事業承継の相続税の計算方法は、引き継がれる財産をすべて時価総額に換算したうえで、引き継ぐ人に応じた控除をしながら課税遺産の総額を算出します。
そこに税率をかけて相続税の納税額を計算するのです。
相続税の課税価格に応じた税率と控除額を、以下の表にまとめました。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照:国税庁「相続税の税率」
例えば、正味の遺産額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を引いた課税価格が5,000万円のケースでは、税率が20%で控除額が200万円であるため、相続税額は800万円となります。
上記の表を活用して、事業承継による相続税額がどれほどになるか計算してみてください。
2. 事業承継における相続税の節税対策7選
ここまで事業承継における相続税の概要を紹介しましたが、相続税対策を講じたくなった方も多いはずです。
ここからは事業承継における相続税の節税対策方法をまとめたので確認しておきましょう。事業承継の相続税の節税対策としては以下の7つが代表的です。
- 株価を引き下げる
- 株式を移転させる
- 相続時精算課税制度を利用する
- 遺産分割を検討する
- 不動産投資を行う
- 法人保険に加入する
- 事業承継税制を活用する
それぞれわかりやすくお話しますので、参考にしてみてください。
①株価を引き下げる
まず考えられるのが、自社の株価を下げていく方法です。
自社の価値を評価する方法で株価を参考にするものがあり、評価額を低下させることで相続税を減らします。
より詳しく説明すると、自社株からの評価額の計算方法は3つあり、その中でも類似業種比準方式がよく使われる方法です。この計算式であれば株価を引き下げることで相続税を抑えられます。
では計算式で使われている純資産額・利益額・配当の3つの観点についても知っておきましょう。
純資産額で株価を引き下げる
はじめに、純資産額で株価を引き下げる方法です。
なお純資産とは会社の資産のことで、内部留保も含まれます。この純資産額が下がることで会社の価値も下がるため、相続税の節税対策を講じるのが可能です。
純資産額を引き下げる具体策としては、特別配当や記念配当を実施し、積立金をなくす方法や、退職金の支払い、費用の早期計上によって純資産を圧縮するといった方法が挙げられます。
利益額で株価を引き下げる
次に、利益額で株価を引き下げる方法です。
利益額を下げれば会社の時価総額も下がるため、節税対策となります。具体策としては、定期保険への加入や、減価償却資産の購入により経費支出すによって、利益額を圧縮して引き下げるのが可能です。
配当で株価を引き下げる
最後に、配当で株価を引き下げる方法です。
具体的には、配当の引き下げや配当を中止させることで、会社の総額を引き下げて相続税を抑えます。
なお純資産引き下げで紹介した、特別配当や記念配当などの一時的な配当は、この計算からは除外されているため注意しましょう。
②株式を移転させる
次に効果的なのが、株式を移転させることです。
ここでは自社株式の株価を意図的に引き下げてから、後継者に生前贈与する方法を取り上げます。相続時の株式にかかる相続税は時価で計算されるため、意図的に株価を下げてから後継者に移転させることで節税効果が得られるのです。
ただし生前に株式移転を行うと経営者が会社の筆頭株主ではなくなってしまうことに注意しましょう。つまり経営権の安定を保ちながら株式を移転させる工夫が必要となります。
③相続時精算課税制度を利用する
相続時精算課税制度を利用するのも節税には役立ちます。
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の子や孫に対し財産を贈与した場合において使える制度です。累計贈与額が2,500万円までの贈与財産に対して非課税にし、相続の際にその分を計算します。
贈与税に関する特例であるため、経営者が亡くなる前に事業承継を行わなければなりません。
なお累計2,500万円を超える部分については、通常の贈与税と同じ扱いとなります。そのためすぐに実行できる節税対策としておすすめです。
④遺産分割を検討する
遺産分割を検討するのも節税にはちょうど良いです。
この方法は、相続財産を引き受ける後継者が相続税の控除を受けられる場合に限ります。適用する場合は遺産分割により節税できるのです。
例えば、小規模宅地の特例について見ておきましょう。小規模宅地の特例とは、被相続人と同居している人が居住用宅地を相続するときに評価額が80%減らされて相続税が計算されます。
親族内承継で考えて、後継者である子どもは被相続人と同居していなかったが、他の子どもが同居していたとします。このケースでは、後継者ではなく同居していた子に相続させることで、親族内全体で考えると相続税の節税になるのです。
ただし節税のための遺産分割を優先させすぎると遺産分割が不公平になってしまうので注意してください。相続後にトラブルが発生するケースもあるため、節税と遺産分割において公平感を損なわないよう工夫する必要があります。
⑤不動産投資を行う
不動産投資をするのも節税につながります。
なぜなら、土地の評価額は公示価格の80%程度で計算されるからです。これにより、評価額を減らせるので、同時に節税にも効果が期待できます。
例えば、現金1億円を相続した場合、相続税評価額が1億円ですから相続税額は2,300万円です。
その一方で、公示価格1億円の土地を相続した場合には約80%の相続税評価額が対象ですから、8,000万円となります。すると、相続したときには相続税額は1,700万円です。
つまり1億円の相続例に対しては、600万円の節税ができます。
他にも、所有している土地にアパートやマンションなどを建築した場合、さらに評価額が下がることもあるでしょう。ただし、節税のために建築すると、現金化するのが難しくなるためメリットが少ないです。
節税をもっとしたいからとアパートやマンションの建築を進めるのではなく、最初からそこにアパートやマンションがあればより節税できる認識をしておきましょう。
⑥法人保険に加入する
法人保険に加入していないケースでしたら、節税効果もあるので加入を検討してみましょう。
なぜなら、法人保険の保険料は損金計上できるため、利益を圧縮して自社株の評価額を下げられるからです。こうして下がった評価額から課税されるので、利益を圧縮する前よりも税金の支払い額が少なくなります。
ただし、法人保険の節税対策では、損金と解約金の返戻率に注意してみてください。損金に大きく算入できる法人保険を選べば、節税対策に効果的です。
なお解約金の返戻率については、相続税を節税するために法人保険に加入する場合、将来的に現金化して、会社の運転資金として用いるのが通例です。しかし解約金の返戻率が低すぎる場合は、手元から減る金額が多くなるので、節税対策にならない場合があります。
この方法で節税対策を行う場合、上記の注意点に気をつけて法人保険に加入してください。
⑦事業承継税制を活用する
最後に、事業承継税制を活用するのも検討してみましょう。
事業承継税制は、「相続税猶予のための税制」ともいわれています。会社を引き継ぐ際に一定の条件を満たせば、非上場株式分に対する相続税を猶予してもらうのが可能です。
また、その要件が満たしている状態で後継者が死亡した場合、猶予されている税金の納付について免除される制度です。
適用要件があることや手続きが煩雑であることなど、利用するまでに幾つかのハードルがありますが、相続税の負担を大きく減らせるメリットがあるので、利用を検討してみてください。
3. 相続時精算課税制度と累進課税制度はどう選ぶべき?
事業承継における相続税の節税対策を紹介しました。ここまで読めば、事業承継における相続税対策を講じられます。
しかし紹介した相続税対策の中には、あまり聞き馴染みのない制度も登場していたかもしれません。ここからは相続時精算課税制度の利用について詳しくまとめたので確認しておきましょう。
前述した相続税対策の1つである相続時精算課税制度の利用におけるポイントを解説します。
相続時精算課税制度とは、生前贈与のタイミングではなく、相続のタイミングで相続税として税金の支払いをする制度のことです。贈与税に関する特例であるため、経営者が亡くなる前に事業承継を行わなければなりません。
相続時精算課税制度では2,500万円までの贈与が非課税となるほか、相続の際に納める相続税合計額が基礎控除3,000万円+600万円✕法定相続人数の範囲に収まっている部分も非課税となります。
なお贈与が2,500万円を超えた部分に関しては、一律に20%の税金が課されることを押さえておきましょう。また相続税についても基礎控除を超えた部分に関しては、相続税の累進課税制度が適用されます。
まとめると、贈与税の非課税範囲や相続税の基礎控除に収まるようなケースでは、相続税精算課税制度の利用を検討すると良いでしょう。それを超える大規模の相続による事業承継であるなら、事業承継税制を活用するのが得策です。
4. 相続税対策で事業承継税制を活用する利点・注意点
事業承継対策において、事業承継税制を活用するメリットは大きいです。ただし事業承継税制を活用する際には注意点もあり、知っておかないと不利益を被るおそれもあります。
ここからは事業承継税制の利点と注意点をまとめたので、順番に確認しておきましょう。
事業承継税制の利点
相続税対策で事業承継税制を活用する利点は以下の3つです。
- 相続税の負担を軽減できる
- 相続税対策について考える手間を省ける
- 後継者問題の改善に繋がる
これら3つの利点を押さえて、自社のケースにおいてどれほどの利点となるのか確認してください。それでは、それぞれの利点を順番に見ていきましょう。
①相続税の負担を軽減できる
事業承継税制の1つ目の利点は、相続税の負担を軽減できることです。
これは、事業承継税制が持つ本来の目的とされています。会社の経営を続けるためには資金が必要となりますが、莫大な相続税を支払うと会社を経営できなくなるおそれがあるのです。
事業承継税制で納税猶予となるのは非上場株式に対する税金分だけですが、相続税の負担が軽減させられる大きなメリットを持っています。
②相続税対策について考える手間を省ける
事業承継税制の2つ目の利点は、相続税対策について考える手間を省けることです。
前述したように、相続税対策には株式だけでなく不動産や法人保険なども挙げられますが、相続税対策はまとめて行えず、財産のひとつひとつについて対策をそれぞれ講じていく必要があります。
その代わりに事業承継税制を利用すれば、財産のうちの非上場株式について対策を考える必要がありません。つまり先ほど紹介した相続税対策のうち、株価引き下げと株式移転については考える必要がなくなります。
これだけでも相続で事業承継を行う側としては、とても大きなメリットになるはずです。
③後継者問題の改善に繋がる
事業承継をする場合に、株式を相続した人が相続税を納付できず、事業存続を断念する可能性もあります。そのため中小企業が事業承継するにあたって、事業承継税制を利用すれば、後継者が相続税の支払いを心配することなく引き継げます。
したがって、この税制は後継者問題の改善に繋がります。
事業承継税制の注意点
相続税対策で事業承継税制を活用する際の注意点は以下の3つです。
- 手続きに多くの時間と手間がかかる
- 認定取消で猶予額と利子額を納付しなければならない
- 最低でも5年間は事業を継続させなければならない
これら3つの注意点をあらかじめ押さえて、事業承継時のトラブルを回避してください。それでは、それぞれの注意点を順番に見ていきましょう。
①手続きに多くの時間と手間がかかる
事業承継税制を活用する際の1つ目の注意点は、手続きに多くの時間がかかることです。
事業承継税制の認定を受けるためには、さまざまな適用要件をクリアしなければならないことに加え、多くの書類を作成・提出するのが求められています。
そのため要件の確認や書類の提出などに、多くの時間と手間を割かなければなりません。スムーズに手続きを済ませるためには、M&A仲介会社や税理士などの専門家に相談するのが得策です。
②認定取消で猶予額と利子額を納付しなければならない
事業承継税制を活用する際の2つ目の注意点は、認定を取り消されると猶予額に利子額を加えて納付しなければならないことです。
利子税とは、納税できずに支払いまでの期間を延期してもらった際、さらに払う必要のある税金をさします。事業承継税制の利用によって相続税の支払い期間を延期してもらうため、認定取消されるとその分の利子税を支払わなければなりません。
このように事業承継税制を打ち切られると、納税の負担はむしろ大きくなってしまうことに注意してください。
③最低でも5年間は事業を継続させなければならない
事業承継税制を活用する際の3つ目の注意点は、最低でも5年間は事業を継続させなければならないことです。
もしも5年以内に会社を倒産させてしまうと、認定が取り消されてしまいます。
しかしもともと事業が軌道に乗っていなかったり、経営状況が悪かったりすると、納税猶予を受けてもその後事業を継続できるか不透明です。納税猶予は要件を満たす限り継続できますが、一生猶予を受けるのは大変でどこかの時点で支払うこととなります。
そのため事業承継税制を利用する前には、あらかじめ相続税がどのくらいかかるか把握しておかなければなりません。税金がどれくらいかかるか把握したうえで、事業承継税制を利用するかどうかを先代経営者と後継者でしっかり話し合いましょう。
以上、相続税対策で事業承継税制を活用する利点・注意点を紹介しました。ここまで読めば、それぞれを比較したうえで相続税対策の一環として事業承継税制の活用を検討できます。
そこで次に「事業承継税制はどのように手続きすれば良いの?」と疑問に思う方も多いはずです。ここからは相続税対策で事業承継税制を活用する際の申請手続きをまとめたので確認しておきましょう。
5. 相続税対策で事業承継税制を活用する際の申請手続き
相続対策で事業承継税制を検討しているなら以下6つの手続きが必要です。
- 適用要件に当てはまるか確認する
- 経営承継円滑化法による認定申請をする
- 税務署へ申告する
- 年次報告書を提出する
- 継続届出書を提出する
- 実績報告書を提出する
これら6つの手続きを事前に押さえて、事業承継税制の手続きをスムーズに済ませましょう。それでは、早速それぞれの手続き方法を解説していきます。
①適用要件に当てはまるか確認する
相続税対策で事業承継税制を活用したいなら、はじめに適用要件に当てはまるかを確認しましょう。
事業承継税制の適用要件は、大きく分けて以下の4つがあります。
- 会社に関する要件
- 先代経営者に関する要件
- 後継者に関する要件
- 担保に関する要件
これら4つの適用要件を事前に理解すると、事業承継税制をスムーズに申請できます。次に、それぞれの適用要件を順番に見ていきましょう。
会社に関する要件
事業承継税制は、以下の条件に対応していなければ利用できません。
- 中小企業に該当するか
- 総収入金額は0を超えた経営か
- 上場企業・風俗営業会社に該当しない企業であるか
- 資産保有型会社等に該当しないか
なお中小企業であることに関しては、法人と個人とで基準が異なります。
法人の場合の中小企業は、以下の表内の資本金または従業員数が該当すれば利用できます。個人の場合は、資本金は関係なく従業員数だけで判断されるので、覚えておきましょう。
業種目 | 資本金 | 従業員数 |
製造業 | 3億円以下 | 300人以下 |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
参照:国税庁「平成30年度改正関係(法人版事業承継税制抜粋)」
会社の条件だけでいえば、例えば製造業で資本金が4億円で従業員数が200人の場合、法人版事業承継税制を利用できます。サービス業で従業員数が50人なら、法人でも個人でも利用可能です。
会社の条件がどちらも当てはまる場合は、承継する対象が株式なら法人版を、特定事業用資産なら個人版を選ぶとよいでしょう。
先代経営者に関する要件
相続税対策で事業承継税制を利用する場合、先代経営者が満たすべき要件は以下の3つです。
- 会社代表権を有していたこと
- 相続開始の直前、議決権数の50%以上を有していたこと
- 後継者を除き最も多く議決権数を有していたこと
はじめて事業承継税制の認定を受ける場合、以上の要件をすべて満たす必要があります。しかし、相続前にすでに事業承継税制の適用を受けているのであれば、要件を満たしていなくても問題ありません。
なお個人の場合、先代経営者である被相続人は、以下の要件を満たす必要があります。
- 青色申告書を提出していたこと
- 承継する事業が資産管理型事業でないこと
- 承継する事業が性風俗関連営業でないこと
- 承継する事業の売上がゼロでないこと
すべての要件を満たしていなければ、適用にはなりませんので必ず確認しておきましょう。
後継者に関する要件
相続税対策で事業承継税制を活用する場合、後継者となる人は以下の要件を満たさなければなりません。
- 相続開始時に後継者およびその親族などを合わせ総議決権数の50%超である
- 相続開始の翌日から5ヶ月以内に会社の代表権を持っている
- 後継者が最も多くの議決権数を有していること(後継者が1人の場合)
- 総議決権数の10%以上、そして後継者の親族などを合わせ最も多くの議決権数を持つこと(後継者は2人または3人の場合)
- 相続開始直前に会社の役員であること(被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く)
後継者が以上の要件を満たしていれば、事業承継税制の利用が可能です。
なお個人の場合、後継者である相続人は、以下の要件を満たす必要がありますのであわせてチェックしておきましょう。
- 特定事業用資産のすべてを取得できている
- 承継する事業、または同種の事業に従事している
- 相続開始の日の翌日から5ヶ月が経過する前に、特定事業用資産のすべてを保有して、自己の事業の用に供している
- 性風俗関連の事業でない
- 所得税法上の開業の届出書を提出している
- 青色申告の承認を受けている
- 個人事業承継計画の確認を受けている
これらすべてを満たしていなければ、適用にはなりませんので注意してください。
担保に関する要件
事業承継税制の適用を受けるためには、猶予される税金額に見合った担保を用意する必要があります。
担保として有効なのは不動産・国際・地方債・有価証券・支払い能力のある保証人などです。もしもこれらの担保を用意できない場合は、引き継いだ非上場株式を担保とするしか方法がありません。
事業承継税制は便利な制度ですが、会社の資産が少ない場合は引き継いだ株式すべてが担保になる可能性を事前に意識しておくのが不可欠です。
②経営承継円滑化法による認定申請をする
相続税対策で事業承継税制を活用する場合の手続きとして、経営承継円滑化法による認定申請があります。
相続税の認定申請は、相続発生後5ヶ月を経過する日の翌日から8ヶ月を経過する日までです。最新の様式は中小企業庁のホームページからダウンロード可能ですので忘れず申請してみてください。
法人の場合、申請書以外に以下のような書類も必要となります。適宜必要な書類を用意してください。
- 定款の写し
- 株主名簿
- 登記事項証明書
- 遺言書または遺産分割協議書の写し
- 相続税額の見込み額を記載した書類
- 従業員数証明書
- 決算書類
- 各誓約書
- 戸籍謄本
なお個人であれば、提出が必要な書類は以下の2つです。
- 先代経営者の前年の青色申告書
- 貸借対照表および損益決算書その他の明細書の写し
ケースに応じてしっかりと準備しておきましょう。
③税務署へ申告する
相続税対策で事業承継税制を活用する場合の手続き3つ目は経営承継円滑化法による認定申請です。
経営承継円滑化法による認定申請が通れば認定書を取得できるので、認定書の写しとともに相続税の申告書を税務署に提出しましょう。
相続の場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告してください。なお申告時に納税猶予税額および利子税の額に見合う担保を、税務署に提供する必要があります。
④年次報告書を提出する
相続税対策で事業承継税制を活用する場合の手続き4つ目は、年次報告書の提出です。
法人版事業承継税制の場合、1年に1回、年次報告書を都道府県へ提出する必要があります。なお個人版事業承継税制の場合、提出は必要ありません。
年次報告書の提出は認定を受けてから5年間です。継続要件を維持していることをしっかりと記載します。
継続要件とは、以下の内容をさします。
- 後継者が会社の代表者に従事している
- 雇⽤の8割以上を5年間平均で維持できている
- 後継者が同族内で筆頭株主となっている
- 上場会社、⾵俗営業会社に該当しない企業である
- 猶予対象となった株式を継続保有できている
- 資産保有型会社等に該当しない企業である
継続要件を満たさない場合は認定を取り消されてしまいます。そうすると、納税猶予されている税金の全額または一部を納めなくてはならないので注意しておきましょう。
⑤継続届出書を提出する
相続税対策で事業承継税制を活用する場合、5つ目に継続届出書を提出しましょう。
事業承継税制を利用している間なら、税務署へ「継続届出書」を提出しなければいけません。継続届出書の提出は、引き続き納税猶予の特例を受けたい旨の届け出です。
納税猶予の継続には提出が必要不可欠なことから、忘れずに出しておくようにしましょう。もちろん、法人でも個人でも必須です。
法人の場合、認定後5年間は1年に1回提出して、6年目以降は3年に1回の提出です。個人の場合、初めから3年に1回提出します。
⑥実績報告書を提出する
相続税対策で事業承継税制を活用する場合、6つ目に継続届出書を提出しましょう。
法人版の特例措置を利用しているケースでは、認定5年経過後に雇用が5年平均8割を下回ると実績報告書が必要となります。
実績報告書には、雇用が80%を下回った理由を明記し、認定支援機関の所見とともに提出しなければなりません。なお特例措置では雇用が8割を下回っても認定は取り消されませんが、認定支援機関から指導や助言を受ける必要があります。
認定支援機関は、経営相談を受け付けている国指定の専門家のことです。
認定支援期間は各都道府県にいくつか設置されていますから、中小企業庁の「経営革新等支援機関認定一覧について」で調べてみると良いでしょう。
6. 相続税対策には事業承継税制の特例も有効!メリットは?
相続税対策には従来の事業承継税制だけではなく、その特例の活用も有効です。
事業承継税制の特例とは、平成30年度(2019年)から期間限定で置かれた、従来の制度よりも事業承継を手厚く支援する制度をさします。
従来の事業承継制度(一般)と特例との違いは、以下の表をご覧ください。
一般措置 | 特例措置 | |
事前の事業承継計画提出 | なし | あり |
制度利用制限 | なし | 2027年末まで |
猶予・免除対象株数 | 総株式の3分の2まで | 全株式 |
相続税の納税猶予割合 | 80% | 100% |
後継者の人数 | 1人 | 最大3人 |
事業承継後5年間の雇用維持割合 | 8割 | なし |
参照:国税庁「措置法第70条の7の6(非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例)関係」
特例措置では一般措置よりも適用要件が緩和されたほか、相続税の100%が納税猶予を受けられるといったメリットもあるので、一般措置と特例措置のどちらも選べるなら特例措置を選んでください。
7. 相続税対策で事業承継税制の特例を活用する前の手続き方法
事業承継税制の特例を活用する場合、申請前に行わなければならない手続きがあります。ここからは事業承継税制の特例を申請する前に必要な手続きをまとめたので確認しておきましょう。相続税対策で事業承継税制の特例を活用する場合、事前に必要な手続きは以下の3つです。
- 特例承継計画を提出する
- 認定支援機関の確認を申請する
- 相続を行う
これら3つの手続きを済ませてから、従来どおり事業承継税制の手続きを行ってください。それでは、それぞれの手続きを順番に見ていきましょう。
①特例承継計画を提出する
まず、特例承継計画を策定し、都道府県に提出します。
この事前計画には、会社・後継者・事業承継した後の経営計画などを記載してください。特例承継計画は、2018年4月1日から2023年3月31日までに提出しなければなりません。
なお事前計画は、認定申請と同時に提出するのも可能です。ただし事前計画提出には、次に紹介する認定支援機関の確認書を添付する必要があります。
②認定支援機関の確認を申請する
次に、認定支援機関の確認を受けるための申請をします。
ここで得られる確認書は、事前計画に添付しなければならないもので、認定経営革新等支援機関(以下、認定支援機関)が計画をチェックし、指導および助言を受けたことを示しているのです。
③相続を行う
最後に相続を行います。特例措置の場合、2018年1月1日以降の相続が対象です。
ただし事前計画の提出期限は、各制度の創設から5年以内になります。そのため計画提出期限前に、相続を行えなくても問題ありません。
もしも実際の相続が先に行われているならば、事前に特例承継計画は提出しておき、その後で計画に沿って制度適用期限内の相続を実施してください。
以上、相続税対策で事業承継税制の特例を活用する前に必要な手続きを紹介しました。ここまでの手続きが済んだら、事業承継税制の従来どおりの手続きに進んでください。
ここまで見たように、事業承継の相続税対策を講じる手続きは複雑なため、多くの手間と時間がかかるほか、しっかり手続きできるのか不安になる方も多いはずです。最後に事業承継の相続税対策を相談できるおすすめの専門家を紹介するので、確認しておきましょう。
8. 事業承継の相続税対策については専門家に相談しよう
事業承継の相続税対策を検討したときには専門家に依頼しましょう。
なぜなら、手続きの不備や失敗によるやり直しには膨大な時間がかかるほか、節税効果を得るためには複数の手続きと調査を必要とするからです。
この記事では必要な手続きをできるだけ簡潔に説明していますが、それでも相当な量があるのがおわかりいただけるでしょう。
お話してきた手続きを丁寧に失敗なく進めようとすると、本業に支障が出るだけではなく手続きをしても節税効果がない場合も考えられます。
そのため専門家へ依頼すると、失敗のリスクを抑えてスムーズに進められるのです。
また、専門家の中でもM&A仲介会社であれば、事業承継の知識にも長けていることで、より節税効果を高めて手続きを進められます。
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9. まとめ
今回は、事業承継における相続税対策の方法を紹介しました。
事業承継を行う際には、高額な相続税がかかる場合があるので気をつけなければなりません。事業承継税制やその特例措置を利用すれば相続税の負担を軽くできるメリットがあります。
ただし相続税対策の手続きは煩雑で手間と時間がかかるため、専門家であるM&A仲介会社に相談し、不安や疑問を解消しつつ上手に相続税対策をしましょう。
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