事業承継での知的財産権とは?知っておくべきポイントや流れを解説!

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

本記事では、事業承継における知的財産の取り扱い方や知的財産の種類、知的財産を承継するポイントなどを解説します。近年、事業承継において、知的財産の注目度が高まっています。事業承継における知的財産権について知りたい方は必見の内容です。

目次

  1. 事業承継での知的財産権とは
  2. 知的財産権を切り口とした事業承継で知っておくべき2つのポイント
  3. 事業承継の際に知的財産を承継する流れ
  4. 事業承継の際に知的財産の強みを確認する方法
  5. 事業承継M&Aでの知的財産権の相談先
  6. 事業承継での知的財産権のまとめ
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1. 事業承継での知的財産権とは

事業承継とは、親族や社員などの後継者もしくは第三者に、経営している会社や事業を引き継ぐことです。経営者が引退を考えている場合や、経営を立て直したい場合などに行われます。

事業承継では、経営や株式の承継に注意が払われがちですが、知的財産も経営にとって非常に重要な項目であるため、知的財産の承継も丁寧に行う必要があります。

本章では、事業承継の構成や知的財産権、事業承継が知的財産に与える影響などを詳しく解説しましょう。

事業承継とは

事業承継は「株式の承継」+「代表者の交代」と考えられており、文字どおり「事業」そのものを「承継」する取り組みです。 事業承継後に後継者がスムーズに経営を実施していくためには、現経営者が培ってきたさまざまな経営資源を承継する必要があります。

近年、中小企業の経営者の高齢化が進み、事業承継は重要な経営課題となっています。事業承継は単に、次の経営者を誰にするかの問題だけではなく、自社株を誰に引き継ぐか、後継者教育の実施、知的財産をどのように引き継ぐかなども重要です。

事業承継の構成

事業承継では一般的に、後継者や第三社に承継する経営資産を以下の3つの要素に分けて考えます。

【事業承継の構成】

  • 経営の承継
  • 株式の承継
  • 知的財産の承継

事業承継を行う目的には、従業員を守ることや取引先との契約を継続すること、創業者利益を手に入れることなどがあり、経営者の考えによってさまざまです。

どのような場合も、円滑でトラブルのない事業承継が求められるため、事業承継を構成するそれぞれの要素について正しく把握することが重要です。

経営の承継

経営の承継とは、後継者を決定して経営権をその後継者に引き継ぐことです。人の承継ともいわれており、例えば、社長の座を息子に引き継ぐことが経営の承継にあたります。後継者が若く経験も乏しいために経営を任せられないような場合は、複数の後継者に経営権を分割して承継し、チームとして事業承継をするケースもあります。

後継者が完全に独り立ちができるまでに時間がかかるケースもあるため、できるだけ早期に後継者を決定し、経営の承継に向けて時間をかけて準備していくことが重要です。M&Aなどで第三者に事業を承継する際は、M&A契約が完了した時点で経営の承継は完了されますが、契約内容次第では譲渡後に経営をサポートする必要があります。

株式の承継

株式の承継は、後継者に株式や資産を承継することです。資産の承継ともいわれ、株式だけではなく現金・不動産・売掛金・設備・負債など、さまざまな資産が後継者に承継されます。

親族内承継および親族外承継では、株式の承継時に贈与税や相続税が課せられるでしょう。株式の評価額によって課せられる税額は異なりますが、基本的に現金で支払います。

株式を承継する前に贈与税や相続税分の現金を確保しておかなければなりません。ただし、事業承継税制など税金が免除される制度もあるので、効果的に活用することで無駄なく株式を承継することも可能です。

M&Aによる事業承継では、株式の承継に得られる株式売却益に対し課税されることになります。

事業承継の相続税対策については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継の相続税対策に悩む経営者に!節税対策を徹底解説!

知的財産の承継

知的財産の承継とは、知的財産権・ブランド・ノウハウ・経営理念・人的資産・顧客ネットワークなどの知的資産全般を承継することです。知的財産権には特許などが含まれますが、知的財産権の詳細は、次項で詳しく解説しましょう。

資産の承継とは異なり、経営者の思いや従業員の技術など目に見えない分かりにくい資産も含まれているため、具体的に言葉や数値で表し後継者と共有するなど、丁寧な承継が求められます

特に注意を払いたいのは、従業員の技術や技能をしっかりと承継することです。従業などの人的資産は知的資産に該当しますが、もし事業承継やM&Aに納得できなければ大量に退職してしまうといったケースも考えられるでしょう。人口の減少や少子高齢化の影響により、人材確保が難しい現在の日本では、従業員は非常に重要な知的資産のひとつです。

人材を大量に失うことになれば新しい人材を集めることも難しく、技術を身につけるにも時間がかかるため、事業承継後の経営に大きな影響を与える可能性もあります。従業員が事業承継やM&Aに納得できるように、細かく丁寧な説明を怠らないことが重要です。

知的財産権とは

知的財産権とは、特許権・実用新案権・意匠権・著作権・商標権などのことを指し、知的財産基本法によって定義されています。発明やアイデアは商品や設備のような「モノ」とは異なり、他社が盗用したり複数人が同時に使用できたり、といった側面があるでしょう。

そのような知的財産は、創作者の財産として一定期間保護されるように定められています。事業承継により、知的財産権の権利者が変更になる場合には、特許庁で権利移転の手続きを行わなければなりません。

ただし、会社が権利者の場合も多く、その場合は必ずしも変更する必要はありません。特許庁が所管する代表的な知的財産権の特徴は、以下の表のとおりです。

【知的財産権の種類と特徴】

知的財産権 特徴 保護期間
特許権 ・高度な技術に基づいた「発明」を保護
・物の形状に限定されない
出願から20年
実用新案権 ・物の形状や構造に関する考案を保護
・特許ほど高度である必要はない
出願から10年
意匠権 ・物の形状や模様、デザインを保護 登録から20年
商標権 ・会社のロゴや独自の商品、サービスに
 使用している商標を保護
登録から10年
(更新あり)

知的財産権が事業承継に与える影響

事業承継時に知的財産権が正しく承継されず、権利者が会社にいなくなった場合はその権利を利用できなくなります。それでも利用を続けていると、最悪の場合、事業承継後に特許や実用新案の侵害による損害賠償請求を求められる可能性があります。

そうなれば、高額の損害賠償金や裁判費用がかかるため、事業承継後の会社経営に大きな影響を与えることにもなりかねません。多くの会社では知的財産権の権利者を会社名義で登録しているので、親族などの承継する場合は権利者を変更する必要はありません。

ただし、個人名で知的財産権を登録している、M&Aによる事業承継を行い会社名が変わるなどの場合は、特許庁で手続きをして権利者の名義変更を行う必要があります。

事業承継での知的財産権の取り扱いに関する課題

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「知財を切り口とした中小企業の事業承継における支援の在り方に関する調査実証研究 事業報告書(令和2年3月)」によると、事業承継にかかる知的財産権に関する課題がいくつか挙げられています。

  • 事業承継時の経営者に対して、取り組むべき経営課題の中で、知的財産が話題になることが少なく、支援対象企業、支援機関ともに、知的財産に対する意識の向上が求められます。
  • 経営者が知的財産権を自ら考えることが重要であるとの背景から、支援する側からの一方的な提案ではなく、経営者の気づきを促したり、一緒に取り組んでいく考え方で助言などを行ったりなど、経営者と向き合うような支援を行う必要があるでしょう。
  •  まだまだ知的財産権の認識や理解が十分に深まっていない経営者が多いとされており、その結果、承継活動の進捗(しんちょく)が遅延するケースが多くなっています。
  • 事前の事業承継の整理がされておらず、時期を逃してしまうケースも見受けられるため、早期に現状把握を行うのが重要です。
  • 経営者における理解不足もあり、事業承継を進めるにあたり、早期にM&Aの専門家などに依頼する必要があるでしょう。

事業承継のメリット・デメリットについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継のメリット・デメリットを徹底解説【親族内/親族外】

2. 知的財産権を切り口とした事業承継で知っておくべき2つのポイント

知的財産権が会社の経営に非常に重要な役割を果たしている場合や、長い会社経営の中でこれまでに取得してきた知的財産権やその権利者が複雑な場合には、事業承継時の知的財産権の承継を丁寧に行う必要があります。

では、どのような点に注意して知的財産権の承継を行えば、円滑に事業承継を完了できるのでしょうか。ここでは、知的財産権を切り口とした事業承継で知っておくべきポイントを詳しく解説します。

【知的財産権を切り口とした事業承継で知っておくべきポイント】

  • 棚卸しを行い、事業に関する知的財産を可視化する
  • 適切な後継者を選定して、知的財産を承継する

棚卸しを行い、事業に関する知的財産を可視化する

まずは、どのような知的財産権を有しており権利者が誰になっているのかを把握することが大切です。このように自社で保有している知的財産を洗い出すことを知的財産の棚卸しといいます。

特許や実用新案のような知的財産権に限らず、ブランドやノウハウのような知的財産や従業員や経営理念のような知的資産も、同時に棚卸しをします。こうすることで、実際に事業に大きく関係する重要な知的財産とそれ以外の知的財産を分別できるようになり、必要な知的財産を整理できるでしょう。

会社の運営に必要な知的財産を選択できれば、今後の経営や必要経費のスリム化も可能となり、事業承継後の円滑な経営につながります。経営者自身が持っている人脈や顧客・取引先とのネットワークなども知的資産です。これは会社経営に非常に重要なものとなるため、丁寧に可視化して後継者に承継する必要があります。

適切な後継者を選定して、知的財産を承継する

後継者の選定は、円滑な事業承継に非常に重要なポイントになります。知的資産である経営方針や会社の持つノウハウ、事業への思いを受け継いでくれる後継者であれば、事業承継後もうまく経営を続けることが可能となります。

特に人的資産である従業員や従業員が持つ高度な技術は、円滑な会社経営に大きな影響を与えることになるため、慎重に承継が行わなければなりません。たとえ親子や親族間での事業承継でも、経営者の意思を理解していなかったり、経営方針を独断で変更したりすれば、事業承継後の従業員の退職や経営悪化、会社の分裂などを招きかねません。

そうならないように、慎重に時間をかけて後継者を選定し、経営者や会社が保有する知的財産や知的資産を丁寧に承継する必要があります。

3. 事業承継の際に知的財産を承継する流れ

事業承継で特許権や意匠権のような知的財産権の権利者の名義変更が必要な場合は、特許庁で権利の移転手続きを行います。書面の提出により移転の手続きができるため、比較的簡単に完了できます。ただし、特許庁から報告書やレポートを求められた場合は、その都度対応が必要となるでしょう。

ノウハウ・技術・企業理念などのような知的財産は、知的財産権や株式などとは異なり、事業承継に伴う特別な手続きは必要ありません。

知的財産を承継する際に専門家は必要

知的財産権を承継する際には、弁理士のサポートがあれば円滑に進めることが可能になります。弁理士は、知的財産権など法律に関わる事項を取り扱う専門家です。

知的財産以外の承継に集中したい場合には、知的財産権に関して全面的に弁理士からのサポートを受けることで円滑な事業承継を進めることにもつながります。特にM&Aにより事業承継を行う際は、相手企業との交渉や従業員・取引先への説明、契約内容の精査などさまざまなことを行わなければなりません。

中小企業や零細企業であれば初めてのM&Aであることも多く、専門的な知識も経験もないために知的財産権の手続きまで手が回らないケースもあるでしょう。そのような場合には、弁理士のような知的財産権の専門家に知的財産権に関する手続きやアドバイスを求めることで、円滑な事業承継を進めることが可能になります。

知的財産の特許を残す場合もある

基本的にM&Aにより事業承継を行う際は、知的財産権も含めてM&A価格を決定します。しかし、保有している知的財産権がビジネスに直接関係のない場合、その知的財産権は承継しないケースもあります。

事業承継を行う会社が単独で保有している知的財産権であれば、スムーズに権利者の移転を行えますが、複数社の共同で権利を保有している知的財産権の権利移転には、全ての権利者の同意が必要です。

時間や手間がかかることになるため、ビジネスに影響を及ぼさない知的財産権は承継しないケースもあります。IT事業などでは、今後、知的財産権を残して事業承継をする事例が増加することが予想されています。

なぜなら、残した特許権やサービスなどを他社に売却でき、そのほうが会社にとってメリットであると判断する会社が増える可能性があるためです。

4. 事業承継の際に知的財産の強みを確認する方法

近年、事業承継における知的財産の注目度が高くなってきています。会社が保有する知的財産の強みを磨き上げることで買い手企業にとって魅力的な会社になり、よりよい事業承継を実施することが可能となります。

知的財産を磨くためには、会社が保有する知的財産にどのようなものがあり、どのような強みや価値があるのかを洗い出すことが重要です。

本章では、知的財産の強みを洗い出し、よりよいものに磨き上げるための方法や支援機関を解説します。

【事業承継の際に知的財産の強みを確認する方法】

  • 特許庁による事業承継支援事業
  • 経営レポート・知的資産経営報告書作成マニュアルの活用
  • 特許評価ツールの活用

特許庁による事業承継支援事業

政府は中小企業の経営資源を守るために、事業承継税制や資金的な融資などさまざまな事業承継支援を行っています。特許庁による事業承継支援事業では、中小企業に知的財産の専門家を派遣して会社が保有する知的財産を洗い出し、会社にとって強みとなる知的財産をさらに磨き上げるためのサポートを行っています。

対象となる企業は、すでに事業承継を進めている、または、5年以内の事業承継を検討している中小企業です。中小企業の強みとなる知的財産に関して無料で専門家が直接アドバイスしてくれるため、知的財産の価値を高めるためには非常に有効な方法といえるでしょう。

経営レポート・知的資産経営報告書作成マニュアルの活用

独立行政法人である中小企業基盤整備機構では、企業の保有する知的資産を洗い出して磨き上げるためのマニュアルを発行しています。経営レポート・知的資産経営報告書作成マニュアルは、どの企業でも手軽に無料で利用できるため、事業承継を検討しはじめたばかりの段階でも活用できます。

経済産業省や中小企業基盤整備機構の公式サイトでは、具体的な知的資産経営報告書の事例なども紹介しているので、類似業種会社のレポートを参考にするのも可能です。

特許評価ツールの活用

特許評価ツールを活用により、自社で保有している特許を適切に評価し、その強みを確認できます。知的財産の一種である特許は、製造業の中小企業では非常に重要であるため、その強みを確認することで、経営戦略や事業承継、会社売却を有利に進めることが可能になります。

特許評価ツールには、経済産業省が提供している「ULTRA Patent」や、民間の会社が運用する特許評価システムなどがあるでしょう。それらを活用すれば、特許の棚卸しや不要な特許の処分、休眠特許の見直しなどを行えるので、円滑な事業承継の一助となります。

5. 事業承継M&Aでの知的財産権の相談先

長年経営をしてきた会社を後継者や第三者へ円滑に承継するためには、事業承継に関する専門的な知識が必要です。特にM&Aにより第三者に事業承継を行う場合には、相手企業の選定やM&A契約・交渉を行わなければなりません。

事業や経営を続けながらM&A交渉などを独自に行うことは、専門的な知識があったとしても簡単なことではありません。どのような場合も、円滑な事業承継のためには、専門家のサポートがおすすめです。

M&A総合研究所では、事業承継に精通したM&Aアドバイザーが事業承継の成立までを丁寧にサポートします。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。

ご相談も無料で受け付けていますので、事業承継での知的財産の取り扱いに疑問や不安のある経営者様やM&Aによる事業承継をご検討の経営者様は、どうぞお気軽にご連絡ください。

【関連】M&A・事業承継ならM&A総合研究所
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6. 事業承継での知的財産権のまとめ

本記事では、事業承継の構成や知的財産権の種類・特徴、事業承継における知的財産の取り扱い、知的財産の承継する際のポイントなどを解説しました。知的財産とは、特許権や商標権、会社の持つノウハウ、技術など、会社が長い年月をかけて培ってきた目に見えない資産のことです。

近年、事業承継や会社経営で知的財産の注目度が高まっています自社の知的財産を把握し磨き上げを行っておけば、よりよい事業承継の実現が可能になります。

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