病院/医療法人の事業承継!ポイントや注意点を解説!成功事例15選も紹介

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

病院/医療法人も事業者であるため、一般企業同様に事業承継が必要です。この記事では、病院/医療法人における実際の事業承継事例を確認しながら、個人診療所も含めた病院/医療法人の事業承継を成功させるポイント、注意点、おすすめの相談先などを解説します。

目次

  1. 病院/医療法人の事業承継の現状
  2. 医療法人の種類
  3. 病院/医療法人と株式会社との違い
  4. 病院/医療法人の事業承継の形態
  5. 病院/医療法人の第三者承継
  6. 病院/医療法人を事業承継する際のポイント
  7. 病院/医療法人を事業承継する際の注意点
  8. 病院/医療法人の事業承継の成功事例15選
  9. まとめ
  10. 病院・医療法人業界の成約事例一覧
  11. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧
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1. 病院/医療法人の事業承継の現状

事業承継は「一般企業が行うもの」というイメージを持っているかもしれません。しかし、病院/医療法人においても事業承継は必要です。

まずは、病院/医療法人の事業承継に関する昨今の動向を確認しましょう。

病院/医療法人の事業承継とは

帝国データバンクが行った「全国企業 後継者不在率 動向調査(2022年)」によると、調査対象となった全国・全業種の約27万社の後継者不在率は57.2%であり、同社が調査を開始した2011年以降では初めて60%を下回る結果となりました。

業種別で最も高かったのは専門サービス業の68.1%(前年比△4.5%)ですが、医療業は68.0%(前年比△3.2%)と全体で2番目に高くなっており、後継者不在率は1位とほぼ変わらない割合です。

病院/医療法人で後継者不在率が高い理由としては、少子化の影響のほか、子どもがいても医師ではないケースや医師であっても専門分野が異なるケースなどが挙げられます。そのほか、経営環境の激化などにより事業承継を望まない経営者が増加したことも要因のひとつです。

参考:株式会社帝国データバンク「特別企画 全国企業後継者不在率 動向調査(2022)」

病院/医療法人での事業承継の意味合い

病院/医療法人では、経営者の高齢化などの原因により事業承継への関心が高まっているのが現状です。

従来、病院/医療法人においては、経営上の収益性よりも患者の治療を優先して考える傾向があります。例えば、病院/医療法人が廃業となれば、その地域における住民に大きな影響を与えてしまうからです。

そのためにも、病院/医療法人の経営者は円滑に事業承継を実施し、病院/医療法人事業が引き継がれ存続することに腐心しています。

個人診療所は特に後継者問題に悩んでいる

多くの個人診療所が抱える問題として、後継者問題があります。個人診療所の事業承継に多く見られるのは、親族への事業承継です。

しかし、「診療科目が違う」「都心の病院/医療法人に勤務して戻ってこない」などの理由から、親族内の事業承継が現実的ではないケースも増えつつあります。

したがって、事業承継ができずに現場で働き続ける高齢の経営者も多く、この問題の解決策として個人診療所の事業承継方法に関心が高まっています。

2. 医療法人の種類

医療法人は、社団医療法人、財団医療法人、特定医療法人に分かれます。社団医療法人は「出資持分ありの医療法人」、「出資持分なしの医療法人」に分かれ、全体のほとんどを占めます。

出資持分ありの医療法人

出資持分ありの医療法人とは、定款の定めにより出資者が財産権(出資持分)を持つ法人をいいます。退社時や解散時に出資した金額に応じた払戻しや分配を受ける権利を持ち、その出資持分は譲渡や相続の対象となります。

出資金1,000万円で設立し1憶円の財を成した場合、この時点で法人を解散すると、定款の定めに従って1億円は出資者に分配され、相続の対象となります。

2007年4月の医療法改正で、出資持分ありの医療法人は設立できなくなりました。

医療法人は配当ができないため財産が大きくなりがちで、出資者の死亡で相続が生じると、相続税を納付できないなどの問題が起きることもあり、事業承継がスムーズにできません。

地域での医療を続けるために設立を許された医療法人が、相続などの問題で医療サービスができなくなるのは問題です。そのため、現在は、出資持分なし医療法人の設立のみ許可されているのです。

出資持分なしの医療法人

定款に定めがなく出資者に財産権(出資持分)がない法人が、出資持分なしの医療法人です。

拠出金1,000万円で設立し1億円の財を成した場合、この時点で法人を解散すると定款等の定めに従い1,000万円は拠出者が返還を受けることができますが、残りは最終的に国庫に帰属することになります。ただ、残余財産なので、退職金などで引き出せる場合は国庫に帰属しないこともあります。

また、相続が生じると拠出金のみが相続財産となるので、相続から見ると利点があるといえるでしょう。

3. 病院/医療法人と株式会社との違い

病院/医療法人は、株式会社と比べると大きく異なる点があります。

まず、医療法人の設立には理事が3名以上必要となります。株式会社では理事は取締役に該当しますが、1人で医療法人を設立することはできません。

また、株式会社では誰でも代表取締役になれます。しかし、医療法人の理事長は原則医師もしくは歯科医師でなければいけません。

議決権も異なります。株式会社では、原則として株式数に応じて議決権数が決まるので、出資金額に応じた議決権を持ちます。一方、医療法人では、出資額や持分割合にかかわらず、社員が1人1つの議決権を持つことになります。出資をしなくても、社員は1個の議決権を持てるのです。

配当金は、医療法人は非営利性を求められる法人なので、剰余金の配当は禁止です。株式会社では、一定のルールにより自由に配当できます。

残余財産は医療法に規定されています。持分ありの医療法人は定款に従って出資者に分配され、持分なしの医療法人は定款に従って国・地方公共団体などに帰属します。株式会社では会社法に従い、株主に分配されます。

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4. 病院/医療法人の事業承継の形態

一口に事業承継といっても、誰が後継者になるかによって種類や手法が分類されます。この項では、病院/医療法人における事業承継の形態を確認しましょう。

出資持分の移転

医療法人は株式会社と違って株式がなく、医療法人の設立時に出資者(1人あるいは複数人)が必要資金を出し合います。

その出資分を出資持分と呼び、株式会社でいえば保有株式にあたるもので、出資持分のある医療法人の出資者が有する財産権のことです。出資者は保有する出資持分の全部あるいは一部を第三者へ譲渡(移転)することができます。

出資持分の移転とは

出資持分の移転とは、持分の所有者が持分の一部あるいは全部を第三者へ譲渡することです。医療法人の親族内承継で出資持分の移転を行う場合、理事長が持っている出資持分を後継者へ贈与・相続・譲渡することで財産権の移転が可能です。

株式会社の場合、経営者が保有する株式全てを後継者へ譲渡すれば、経営権も後継者へ移転されます。ですが、あくまでも出資持分は医療法人の残余財産分配請求権や払い戻し請求権の財産的な権利であり、経営権とは完全に切り離されているため、出資持分の移転だけで事業承継は完了しません。

医療法人の場合、出資額の多寡にかかわらず社員全員が1人1つずつ議決権を持ち、経営権は社員に委ねられます。そのため、医療法人の経営権を後継者へ引き継ぐには、社員からの賛同が必要です。

出資持分の移転のメリット

出資持分移転のメリットは、手続きが非常に簡単という点です。出資持分を移転する際は、まず移転を行う当事者間で持分譲渡契約書を作成し、締結後に社員を入れ替えれば完了します。

また、出資持分を移転しても医療法人の法人格は変わらないため、基本的に雇用・許認可・取引先への影響はなく、各々の契約に特段の定めがある場合を除き、契約相手から同意を得る必要はありません。

そのほか、出資持分の移転方法は有償譲渡だけでなく、親族内承継の場合は相続や生前贈与ができる点もメリットのひとつです。

出資持分の移転のデメリット



親族内承継では、出資持分の移転を相続や贈与で行うことができるのはメリットのひとつですが、その場合は後継者へ相続税や贈与税が課されます。

出資持分を移転する場合の評価額は「設立時の出資金額+経過年度の利益剰余金」となり、一般的に経過年度数が多いほど評価額は高くなるため、後継者の税負担が大きくなる点がデメリットです。

また、有償で出資持分を譲渡した場合は、持分取得費と譲渡代金の差額に所得税と住民税が課されます。もし、著しい廉価で譲渡した場合、譲渡代金と時価との差額分は贈与税の課税対象となり、後継者は贈与税分も納めなければならないため注意が必要です。

そのほか、相続では後継者以外の相続人とのトラブルが起こらないよう、調整や話合いをしっかり行う必要があります。後継者以外の相続人には当然相続の権利がありますが、出資持分以外に財産がない場合はそのすべてを後継者へ移転させるとトラブルになりやすいため注意が必要です。

出資持分の払い戻しの場合


親族内事業承継の場合、前理事長など事業承継をする側が出資持分払の払い出しを行って後継者へ引き継ぐこともできます。
 

出資持分の払い戻しとは

出資持分の払戻しは、前理事長など事業を引き継ぐ側が医療法人を退社して自身の出資持分の払い戻し、その後に後継者が新たに出資と入社を行う方法です。

この方法を用いた場合、前理事長などは払い戻した出資持分を後継者へ相続や贈与などのかたちで引き継ぐことができます。出資持分の移転と同様、医療法人の経営権を後継者へ引き継ぐには、社員からの賛同が必要です。

出資持分の払い戻しのメリット

出資持分の移転と同じく、出資持分の払い戻しは手続きが非常に簡単であり、法人格は変わらないため雇用・許認可・取引先からの同意も不要です。

また、前理事長が出資持分を払戻す(出資分の現金を得る)ので、後継者以外に相続人がいる場合でもトラブルが起こりにくい点もメリットです。

出資持分の払い戻しのデメリット

出資持分の払い戻しは、前理事長から後継者へ出資持分が移転するかたちではないため、贈与税や相続税はかかりません。ですが、譲渡側の前理事長に利益が生じた場合、その利益分は総合課税により配当所得の課税対象となります。

税率は最高45%であり、高額の税金がかかる可能性もあるため注意が必要です。また、後継者にとっては出資金の用意がデメリットとなる場合もあります。

認定医療法人の活用の場合

認定医療法人とは、持分あり医療法人が厚生労働大臣の認定を受けて持分なし医療法人へ移行した医療法人のことです。この制度は事業承継の際に活用することもできます。

認定医療法人の活用とは

認定医療法人制度は、認定医療法人の認定を受けて持分なし医療法人へ移行した場合、贈与税が猶予されて移行後6年経つと税金が免除される制度です。

もし移行期間中に相続が生じた場合は、相続人が担保を提供することで相続税(出資持分の相続分)が移行期限まで猶予され、期限までに相続人が出資持分を相続放棄した場合は相続税が免除されます。

持分なし医療法人へ移行するためには、出資持分の放棄と定款変更が必要です。ですが、出資持分の放棄があった場合は医療法人あるいはほかの出資者が放棄分に相当する贈与を受けたとみなされ、贈与税が発生します。

認定医療法人制度は、そのようなデメリットを減らし、持分なし医療法人への移行を促進するために設けられたものです。もともとは2020年9月までの制度でしたが、2023年9月まで延長されています。

認定医療法人の活用のメリット

認定医療法人制度を活用するメリットは、出資持分の処分などを行う場合に税金面でリスクがないこと、後継者は出資持分を取得するための資金が不要なことなどがあります。

また、認定医療法人制度を活用した場合も許認可はそのまま引き継がれるため、病院経営に影響がないこともメリットのひとつです。

認定医療法人の活用のデメリット

認定医療法人として認可されるためには、所定要件を満たす必要があります。また、出資持分は放棄しなければならないため、前理事長は出資持分の払い戻しができなくなる点もデメリットのひとつです。

ですが、前述したように、医療法人の出資持分と経営権は切り離されているため、出資持分を放棄した場合でも経営権はなくなりません。

5. 病院/医療法人の第三者承継

親族以外の第三者へ病院/医療法人を引き継ぎたい場合も、持分譲渡や出資持分の払い戻しを活用することができます。

持分譲渡の場合

第三者へ出資持分を移転する場合、一般的には有償譲渡によって行われます。必要な手続きや流れは親族間へ承継するケースと基本的に同じです。

出資の払い戻しの場合

出資持分の払い戻しを行って第三者へ引き継ぐ場合も、基本的には親族間へ承継するケースと同じです。

合併の場合

事業承継先となる第三者が医療法人であれば、合併によって事業を引き継ぐことも可能です。株式会社が行う合併と同様、吸収合併と新設合併の2つの方法があります。

合併とは



合併とは複数(2つ以上)の法人が1つの法人格になるM&A手法です。吸収合併と新設合併があり、どちらの手法でも権利・義務はすべて存続する法人へ引き継がれます。

両者の違いは存続する法人が既存法人か新設法人かという点です。吸収合併の場合は、消滅する法人の権利・義務をすべて存続する法人へ承継させ、合併後に消滅側法人の法人格は消滅します。

新設合併の場合は承継側となる法人を新設し、合併を行う他の法人が保有する権利・義務を承継させる手法です。合併後は新設された法人だけが残り、他の法人は消滅します。

なお、医療法人が合併を用いる場合は互いが医療法人でなければ行うことができません。異なる種類の医療法人同士でも行うことができますが、合併後に存続するのが社団医療法人の場合、原則として合併後は持分なし医療法人となります。

ただし、持分あり医療法人間で吸収合併を行う場合は、例外的に持分あり医療法人とすることが可能です。

合併のメリット

合併のメリットは、許認可をすべて引き継げる点や、持分を対価にできるため買収資金が不要になる点です。また、合併には適格合併と非適格合併があり、適格要件を満たす場合は簿価での取得が認められ法人税が課されない点もメリットとして挙げられます。

そのほか、適格合併で一定要件を満たす場合は消滅側法人の繰越欠損金を引き継ぐことができるので、節税効果が見込める点もメリットです。

合併のデメリット

合併では存続側となる法人が権利・義務をすべて引き継ぐため、消滅法人側の簿外債務や偶発責務を引き継ぐリスクがある点がデメリットです。

また、合併を行う場合は都道府県知事による認可が必要であり、債権者保護手続などの法定手続きも行わなければなりません。諸手続きは煩雑であり一定期間を要する点もデメリットといえるでしょう。

6. 病院/医療法人を事業承継する際のポイント

病院/医療法人の事業承継を円滑に進めるためには、いくつかのポイントを押さえることが必要です。この項では、病院/医療法人を事業承継する際のポイントを解説します。

①事業承継の準備

病院/医療法人の事業承継は、前々から準備をする必要があります。特に重要なポイントは、以下の3つです。

経営状態を黒字化する

病院/医療法人における事業承継の準備1つ目は、経営状態を黒字化することです。黒字状態でなければ、事業承継を行えないわけではありません。赤字経営であると第三者への事業承継の場合、候補者の目に止まらない可能性もあります。

少しでも条件をよくするためには、経営状態を黒字化することが大切です。それは、親族に事業承継する場合も変わりません。

後継者が経験を積んでいても、赤字状態で経営権を渡されると困惑してしまい、経営状態がさらに悪化する可能性も考えられます。

後継者を育成する

病院/医療法人における事業承継の準備2つ目は、後継者の育成です。将来的に、内部の人間に事業承継をしたいと考えている場合は、前もって後継者を育成することが大切です。

子供もしくは有望な従業員などの候補者をピックアップして、時間をかけて育てなければならないため、高齢になってからでは手遅れになることも多いです。そのため、早い段階から動き出すことが必要です。

相続税・出資持分などの確認

病院/医療法人における事業承継の準備3つ目は、相続税・出資持分に関する確認です。病院/医療法人は、高額な設備投資や利益の配当ができないことから評価額が高くなり、結果的に相続税も高額になることが多いです。

このときに確認すべきなのは、病院/医療法人が設立された日付です。2007年4月1日以降に設立した病院/医療法人は「出資持分のない医療法人」とされ、2007年3月31日までに設立した病院/医療法人は「出資持分のある医療法人」と分類されます。

出資持分とは、出資額に応じて有する財産権ですが、「出資持分のある医療法人」の出資持分を相続すると、財産を相続するとものとして多額の相続税が課せられます。したがって、相続税がどのくらいになるのか事前に確認することも大切です。

②事業承継計画を練る

病院/医療法人の事業承継を行う際のポイントに、事業承継計画を練ることも挙げられます。

具体的には、事業承継をするタイミング・それまでの経営方針・後継者選定などがあり、何歳まで経営者として現役で働くのか、それまでどういう形で経営を進めていくのかなどの計画を練ります。

また、経営者の一存で後継者を決められるとも限らないので、病院/医療法人内の主要な役員の間でも意識を共有する必要があるでしょう。

③適切な後継者を決める

病院/医療法人の事業承継を円滑に進めるためには、事前に適切な後継者を決めることが大切です。

親族内に適任者がいないのであれば、病院/医療法人内から候補者を選出しましょう。

適任者が決まれば、早い段階で後継者育成に入る必要もあります。短時間ですむものではないため、長い時間をかけてゆっくり経験を積ませることが重要です。

7. 病院/医療法人を事業承継する際の注意点

実際に病院/医療法人を事業承継しようとすると、いくつかの問題点が浮かびます。この項では、病院/医療法人を事業承継する際の注意点を解説します。

①税制面での注意

病院/医療法人を事業承継する際の注意点1つ目は、税制面での注意です。

出資持分とは、医療法人を設立する際の出資額に応じて有する財産権です。出資持分の承継方法はさまざまで、種類によって課税対象も変わります。

複雑な手続きや専門知識が必要なため、M&A・事業承継の相談先にサポートを求めましょう

②納税猶予の特例処置について

病院/医療法人を事業承継する際の注意点2つ目は、納税猶予の特例処置です。2014年度税制改正において、医療法人の持分にかかる相続税・贈与税に関する特例措置が創設されました。

本来、持分ありの医療法人は、多額の相続税を国に収めなければなりません。しかし、この改正により、持分なしの医療法人に移行を進める医療法人は、事業承継にかかる相続税・贈与税が移行期限まで猶予され、猶予期間中に免除事由に該当した場合は免除されます。

持分ありの医療法人が事業承継を行う際は、特例措置を活用することで大幅な減税が受けられる可能性があります。

③個人診療所の事業承継に注意

病院/医療法人を事業承継する際の注意点3つ目は、個人診療所における事業承継の生前贈与対策です。これは、経営者の死後に個人診療所を事業承継する場合です。

個人診療所の場合、全ての事業資産が課税対象となるため、生前贈与対策もしくは遺言を残していない場合、遺産分割により他の相続人に承継されて事業承継できないケースがあり得ます。

そのような理由から、引退せず最後まで経営者として働き続けたい場合は、生前贈与の手続きを進めることも検討するとよいでしょう。

④情報公開のタイミングや漏えいに注意

病院/医療法人を事業承継する際の注意点4つ目は、情報公開のタイミングや漏えいです。

特に第三者への事業承継を検討している事実が漏れてしまうと、従業員や患者に動揺を与えてしまいかねません。

その結果、従業員が辞めたり、患者が他の病院に移ったりするなどの影響も考えられるため、情報公開のタイミングは最終決定後が好ましいといえるでしょう。

⑤経営理念や診療方針、カルテの引き継ぎに注意

病院/医療法人を事業承継する際の注意点5つ目は、経営理念や診療方針、カルテの引き継ぎです。

親族内への事業承継であれば、経営理念や診療方針を引き継ぐことはさほど難しくないでしょう。しかし、M&Aで第三者への事業承継を実施する場合、後継者側独自の経営理念が存在することも考えられ、前任者の経営理念が引き継がれるとは限りません。

経営理念の変化は、従業員や患者にも大きな影響を与えることにつながります。第三者への事業承継を行う場合は、交渉段階で後継者の経営理念・診療方針の確認を取る必要があるでしょう。

また、カルテの引き継ぎは患者を引き継ぐことを意味します。入院・通院している患者を受け入れて継続した治療を行ってもらえるかどうかも確認しましょう。

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8. 病院/医療法人の事業承継の成功事例15選

病院/医療法人の事業承継は、実際にどのように行われているのでしょうか。この項では、M&A総合研究所によって実際に行われた病院/医療法人における事業承継の成功事例15選を紹介します。

①産婦人科クリニックの親子間承継

元産科クリニックを親族へ事業承継した事例です。病院長は、産科クリニックを経営していましたが、早い段階から息子に引き継ごうと事業承継を決意しました。

事業承継と同時に内装や医療機器など全面リニューアルを実施し、改装中も可能な限り診療を中止しなかったため、患者への影響も最小限に抑えて事業承継を実現しています。

②内科クリニックの親子間承継

内科クリニックを親族へ事業承継を行った事例です。病院経営者が、息子への新規開業をきっかけに、事業承継を決意しました。

既存のクリニックは閉院し、本人は息子が開業したクリニックの勤務医となり、スタッフと患者の承継もスムーズに行われて事業承継は成功しています。

③内科から内科・産婦人科病院に転換

内科クリニックを親族内事業承継で行った事例です。病院は、雇われ院長が経営していたものの経営不振であったため、息子への事業承継を決意しました。

事業承継とともに内科から内科・産婦人科へ転換し、内装、機器などにも同時に投資しています。この投資によって一時的に負債が拡大するものの、診療科目の転換が成功して病院の経営は大きく立て直されました

④内科・健診クリニックの第三者への事業承継

内科・健診クリニックが第三者へ事業承継した事例です。オーナーの高齢化で経営が難しくなり、親族に医師がいないため、第三者への事業承継を決断しました。

コンサルタントに売却の相談をして売却先の検討を行い、適正な調査によって事業譲渡価格を算定し、無事に事業承継が行われています。

⑤大手医療法人による病院/医療法人の買収

大手医療法人による病院/医療法人の買収事例です。もとから病院の経営状態が芳しくなく、運営支援を受けていたコンサルタントに事業承継を相談しました。

総合病院切り離しの必要性が浮上したため売却を決断し、内情をよく知っていることもあり、円滑な事業承継が行われています。

⑥病院/医療法人を個人へ事業承継

病院/医療法人を個人へ事業承継した事例です。グループとしてクリニックを複数持つ院長による打診で、クリニックの1つの院長が高齢によって経営が難しくなったため、事業承継を決断しました。

関西の医療法人を関東に移転させる形で事業承継を行っています。

⑦経営者の他界により病院/医療法人の後継者探し

理事長他界による病院/医療法人における後継者探しの事例です。新しいオーナーはスムーズに見つかったものの、「別の県で診療所の再開」「診療所の再開は2カ所で展開」などの事情も重なり、多数の手続きが必要となりました。

審査に大幅な時間をかけましたが、無事に事業承継と病院の移転が行われています。

⑧閉院した病院/医療法人の内装の一部を買取

老朽化の激しい病院/医療法人における事業承継の事例です。買い手からの打診により、閉院後、手つかずのクリニックの内装一部を承継しようと交渉を開始しました。

当初の買取価格は1,000万円と想定されていましたが、承継できる内容物と廃棄物を細かく確認処理することで、半値以下による承継を実現しています。

⑨産婦人科医の親子間承継

産婦人科医における親子間承継の事例です。経営者が高齢となったため経営が難しくなり、息子夫婦に事業を引き継ぐことを決断しました。

また、事業承継を進めると同時に、病院内装のリニューアルも行い、産婦人科に特化した形で承継を成功させています。

⑩歯科診療所チェーンの売買

歯科診療所チェーンにおける事業承継の事例です。オーナーの高齢化により、個人医師へと事業承継されました。

譲渡価格は約4,000万円と規模が大きいものの、M&Aに要した期間は半年間で、円滑に交渉が進んでいます

⑪経営不振により健診クリニックを売却

健診クリニックの売却事例です。健診クリニックが経営不振により破産となり、残された資産の売却を決断しました。

売却は成立し、買い手は設備・リース・スタッフを承継して新医療法人を開業しています。

⑫美容皮膚クリニックの事業承継

美容皮膚クリニックにおける事業承継の事例です。医療法人の美容皮膚クリニックを、オーナーが個人で承継する形となりました。

譲渡金額は約300万円です。M&Aに要した期間は3カ月で、スピーディーな引き継ぎを実現させ、その後の経営も軌道に乗っています。

⑬病院/医療法人の経営再生に伴いMBOを実施

病院/医療法人における経営再生の事例です。ファンド管理下で経営再生を図っている病院/医療法人が、理事長主体でMBO(マネジメント・バイアウト)を実施し、オーナー経営者として独立を果たしました。

⑭地域密着型の小規模病院を第三者に事業承継

地域密着型の病院/医療法人が事業承継した事例です。病院は地域密着型として経営してきたものの、オーナーの高齢化によって事業承継を決断しました。

コンサルタント会社に依頼をして後継者探しを行い、全てのプロセスが終了するまで8カ月間を要しましたが、無事に事業承継を成功させています。

⑮医療法人間の事業承継

医療法人間の事業承継事例です。売り手側医療法人における院長の体調不良により、経営が難しい状態に陥りました。

後継者も不在のため、知人の医療法人理事長に交渉を持ちかけ、コンサルタント会社をとおして必要な書類作成や適正な価値が算定され、順調に引き継ぎが進み事業承継を成功させています。

9. まとめ

病院/医療法人は生活になくてはならない重要な存在であり、適切なタイミングでの事業承継が求められます。医療法人の事業承継やM&Aは方法によって持分の扱いや税負担も大きく変わるため事前にしっかり確認することが重要です。

医療法人の事業承継やM&Aを安全に進めていくためにも、専門家に相談しながら進めていくことをおすすめします。

10. 病院・医療法人業界の成約事例一覧

11. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧

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