種類株式まとめ!特徴やメリット・デメリットを解説【事例あり】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

種類株式とは、配当や議決権などの権利が異なる株式を発行した場合の各株式のことです。本記事では、会社法で定められている9種の種類株式の内容や特徴を詳しく解説します。合わせて、種類株式のメリット・デメリット、種類株式が活用された事例も紹介します。

目次

  1. 種類株式とは
  2. 種類株式の内容と特徴
  3. 種類株式のメリット・デメリット
  4. 種類株式が活用された事例
  5. 種類株式を検討する際におすすめの相談先
  6. まとめ
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1. 種類株式とは

種類株式とは、2種類以上の異なる権利内容を有する株式を発行した場合の各株式のことです。

普通株式は、すべての株主に平等の権利を有するように定められていますが、種類株式では、株主が所有している株式の種類によってそれぞれ異なる権利を有します。

例えば、ある会社が配当金の権利内容が異なる2種類の種類株式を発行した場合、一方の株券を有する人や企業は、他方よりも多くの配当金をもらえるようになります。

ただし、配当金が高い株式では議決権がないなどの条件を有することが一般的です。

種類株式の目的

株式を買いたいと考えている人のなかには、配当金や優待券に興味があり議決権は重視していないという人もいれば、経営などに関わりたいので配当金よりも議決権を重要とする人もいます。

種類株式を発行することで、株を買いたい人のそれぞれのニーズを満たすことができるので、より多くの株式が売れて資金を調達しやすくなります。

また、会社としても、外部の人に会社の経営や人事について口出されたくないと考えていることが多く、種類株式の発行により会社側のニーズも満たすことができます。

種類株式の設定

種類株式を新たに設定する場合は、まず、種類株式の内容と各種類株式の発行可能総数を定款で定める必要があります。

その後は株主総会を招集し、特別決議により定款の変更や株式の募集事項などを決定します。

種類株式の種類の追加や内容変更、発行可能総数の増加を行う場合は、当該種類株式を所有する株主による、種類株主総会特別決議が必要になります。

2. 種類株式の内容と特徴

種類株式で与えられる権利の内容は、会社法第108条により、以下のように定められています。この章では、それぞれの種類株式の詳細や記載例を解説します。

【種類株式の内容】

  1. 剰余金の配当規定
  2. 残余財産の分配規定
  3. 議決権制限規定
  4. 譲渡制限規定
  5. 取得請求権規定
  6. 取得条項規定
  7. 全部取得条項規定
  8. 拒否権規定
  9. 役員選任権規定

1.剰余金の配当規定(1号)

1つ目は、剰余金の配当規定です。この規定では、配当金の額を普通株式よりも多くしたり、少なくしたりできます。一般的には、配当金を多くした優先株式を発行するケースが多くなっています。

剰余金の配当とは

剰余金の配当とは、いわゆる会社の利益に応じて株主が受け取れる配当金のことです。普通株式より配当金が多い、もしくは少ない株式を発行することができます。

配当金が多い株式を優先株式といい、配当金を上げることで株式自体の人気を上げ、株価を高める効果があり、結果として会社の資金調達が容易になります

一方で、普通株式よりも配当金が少ない株式は劣後株式といい、配当金ゼロの株式にすることも可能です。既存株主の利益を損なわずに資金を調達するために発行されます。

一般的には、経営者が会社の株式を取得する際や、政府が特殊法人や公共事業会社の株式を取得する際に利用されます。

定款内容

剰余金の配当に差をつける場合、定款には以下の3点を記載しなければなりません。

【剰余金の配当規定における種類株式の定款内容】

  1. 配当財産の種類
  2. 株主に分配する配当財産価額
  3. 剰余金の配当条件や配当に関する取扱い内容

配当財産の種類に関しては、一般的にはお金を支給する会社が多いですが、金銭以外の財産を選択することも可能です。したがって、何を配当財産にするのかについても定款に記しましょう。

一方で、上記の⓶と③は、詳細な内容を定款に記さなければならないわけではありません。種類株式が発行されるまでに決定するという旨を定款に記すことも可能です。

記載例

一般的に優先株式が発行されるケースが多いので、以下では優先株式の記載例を紹介します。

【優先株式の定款記載例①】

  • 当会社は、毎事業年度の末尾において、優先株式の株主に対し金銭による剰余金の配当を行う。

【優先株式の定款記載例②】
  • 当会社は、優先株式の株主に対し1株につき金○円を普通株式に優先して配当する。

このほかにも、剰余金が優先配当額を下回った場合の取り決め(累積型・非累積型)や、普通株式への配当分配時の優先株式の処遇(参加型・不参加型)などを定款に記載します。

2.残余財産の分配規定(2号)

2つ目は、残余財産の分配規定です。この規定では、会社が倒産や合併などにより解散もしくは清算する際、負債などを返済した後に残った財産の株主への分配額に差を付けることができます。普通株式より分配額の多い優先分配株式が発行されるケースが一般的です。

残余財産の分配とは

残余財産の分配とは、倒産や合併などの何らかの理由で、会社が解散もしくは清算される際に、負債返済後の会社の財産を株主に分配することです。

なお、負債の返済などにより財産が残らない場合には、残余財産の分配はありません。

優先残余財産分配権のある種類株式では、優先的に残余財産を受けることができます。剰余金の優先株式と同様に、分配金を上げることで株式自体の人気が上がり株価を高め、結果として会社の資金調達が容易になります。

一方で、分配額が普通株式より少ない株式や、分配金がゼロとなるような株式の発行も可能です。ただし、剰余金の配当がゼロで、なおかつ残余財産の分配もゼロという種類株式の発行は認められていません。

定款内容

残余財産の分配を規定した種類株式を発行する際には、定款には以下の3点を記載しなければなりません。

【残余財産の分配規定における種類株式の定款内容】

  1. 分配する残余財産の種類
  2. 株主に分配する残余財産価額
  3. 残余財産の分配条件や分配に関する取扱い内容

分配財産の種類は、一般的に金銭を支給する会社が多いですが、金銭以外の財産を選択することもできます。その場合は、何を分配財産にするのかを定款に記しましょう。

一方で、上記の⓶と③に関しては、詳細な内容を定款に記さなければならないわけではありません。

記載例

残余財産の分配を規定した株式の定款への記載例を紹介します。

【残余財産分配権を有する株式の定款記載例】

  • 当会社は、残余財産を分配する際は、優先残余財産分配権を有する株式の株主に対し1株につき金○円を普通株式に優先して配当する。

3.議決権制限規定(3号)

3つ目は、議決権制限規定です。この規定では、株主総会の際の議決権に制限を付与した種類株式を発行することができます。

議決権制限とは

議決権制限とは、株主総会での株主の決議への参加を制限するものです。一部の議題に関しての議決権を付与しない株式や、全ての議案に関しての議決権を付与しない株式などがあります。

一般的に、優先株式と抱き合わせて発行され、経営に口を出されたくない会社側と、配当金を多くもらいたい株主側の利害関係が一致した種類株式です。

公開会社では、議決権制限株式を全株式の1/2以上発行することはできません。というのは、公開会社には、多くの投資家による意見を聞き入れる必要があるためです。

一方で、非公開会社は、全ての株式を議決権制限株式にすることができます。親族で経営している小さい会社やカリスマ社長のワンマン経営の会社などでは、これにより会社の意思決定を円滑に進めることができます。

定款内容

定款には以下の2点を記載しなければなりません。

【議決権制限株式の定款内容】

  1. 株主総会で議決権を行使できる又は行使できない事項
  2. 議決権の行使の条件

どの議案に関して議決権を有しているのか、もしくは有していないのかを明確にして定款に記載する必要があります。

上記の⓶は、詳細な内容を定款に記さなければならないというわけではなく、種類株式が発行されるまでに決定するという旨を定款に記すことも可能です。

記載例

議決権に制限がある株式を発行する際の定款への記載例を紹介します。

【議決権制限株式の定款記載例①】

  • 議決権制限株式を保有する株主は、募集株式の発行について議決権を有しない。

【議決権制限株式の定款記載例②】
  • 議決権制限株式を保有する株主は、次の議案に関して議決権を有する。 1.取締役の選任 2.種類株式の発行 3.解散

4.譲渡制限規定(4号)

4つ目は、譲渡制限規定です。この規定では、株主総会や取締役会、代表取締役などの承認がないと株式を譲渡できないように制限をかけることができます。

譲渡制限とは

譲渡制限とは、株式の第三者への譲渡に制限をかけることです。取締役会または株主総会のような指定の承認者の承認がなければ、株式を譲り受けることはできません。

譲渡制限株式の発行の大きな目的のひとつに、第三者による会社の乗っ取りを防ぐことがあります。会社に不利益をもたらす第三者に、株式が譲渡されようとしている際は、第三者への譲渡を会社が認めない限り行うことはできません。

また、持株比率の変動により既存株主の会社支配力が変化することを防いだり、株式の所有者を明確にさせるという目的もあります。

そのほか、役員の任期延長・迅速な株主総会の開催・円滑な事業承継などのメリットもあります。

一方で、譲渡制限株式を発行することで、株主からの株式買取請求権の行使や、事業承継時の会社の乗っ取りなどといったデメリットもあります。

【関連】譲渡制限株式とは?メリット・注意点を解説!

定款内容

譲渡制限付きの種類株式の定款には、以下の2点を記載しなければなりません。

【譲渡制限株式の定款内容】

  1. 譲渡にあたって会社の承認が必要であるということ
  2. 承認の必要が無い条件がある場合には、その条件について

定款には、シンプルに譲渡の際には会社の承認が必要となることを明記するだけで、十分に効力を発揮します。

承認者を代表取締役や株主総会、取締役会などと具体的に記すことで、株式を譲り受けた株主が誰に承認を得ればよいのか明確になります。

承認の必要がない条件があるのであれば、その旨を定款に記載します、例えば、株式の譲受側が既存の株主だった場合、つまり既存の株主から既存の株主への譲渡の場合は承認の必要がないなどのように定めることができます。

記載例

譲渡制限株式の定款への記載例を紹介します。

【譲渡制限株式の定款記載例】

  • 当会社の株式を譲渡により取得するに際し、株主総会の承認を要する。ただし、当会社の株主に譲渡する場合は承認があったものとみなす。

5.取得請求権規定(5号)

5つ目は、取得請求権規定です。この規定では、株主に取得請求権を付与した種類株式の発行ができます。

取得請求権とは

取得請求権とは、会社に株式を取得してもらう権利のことです。取得請求権を行使された会社は、その請求を拒否することはできないため、定められた種類の対価を株主に交付しなければなりません。

つまり、会社は株式を発行する際に、株主に対して事前に定められた対価で買取ることになるため、株主はリスクを軽減したうえで会社に出資することができます。

会社としては、取得請求権付株式の発行により資金の調達を容易にすることができるので、株主側と会社側の双方にメリットのある種類株式です。取得請求の対価としては、現金・普通株式・社債・新株予約権などがあります。

定款内容

取得請求権付株式の定款には、以下の3点を記載する必要があります。

【取得請求権付株式の定款内容】

  • 株主に取得請求権が付与されているということ
  • 取得請求権付株式の取得と引換えに交付する対価について(種類、個数、算定方法等)
  • 取得請求権を行使できる期間

上記の⓶と③は、詳細な内容を定款に記す必要はなく「取締役会などで決定する」と定款に記載することもできます。

記載例

取得請求権付株式の定款への記載例を紹介します。

【取得請求権付株式の定款記載例】

  1. 株主は、当会社に対して、当該株式の取得を請求することができる。
  2. 前項の請求ができる期間は、令和××年××月××日から令和△△年△△月△△日
  3. 第1項に定める請求があった場合、当会社は、当該株式の取得と引き換えに、当該株式1株につき金〇〇円の金銭を支払う。

6.取得条項規定(6号)

6つ目は、取得条項規定です。この規定では、会社はある特定の事由がある場合に限り、強制的に株式を取得することができます。

取得条項とは

取得条項とは、ある一定の事由の発生を条件として、その条件を満たしたときは強制的に株式を取得できると定めた条項のことです。

取得の際には、株主に、現金、普通株式、社債、新株予約権などの対価を支払わなければなりません。


ある一定の事由に関しては、定款で細かく定めることができます。例えば、株式を公開した時、会社が定める日が到来した時、株主が亡くなった時などがあります。

取得条項付株式を発行する目的は、会社にとって好ましくない者に株式が渡るのを防ぐことです。事業承継の円滑な実現のため、取得条項付株式が発行されるケースがよくみられます。

事業承継のケースでは取得事由を「株主が死亡した時」とし、この条件を満たしたときに株式が相続されるのを防ぎ、会社が株式を取得できるようにします。それにより、後継者が安定した経営権を確保でき、円滑な事業承継となります。

もし、取得条項付株式にしておらず、株主の相続人に会社の経営にとって好ましくない人がいれば、事業承継後の会社経営に影響が出る恐れもあります。

定款内容

取得条項付株式の定款には、以下の内容を記載する必要があります。

【取得条項付株式の定款内容】

  1. 取得条項が付与されているということ
  2. 一定の事由について
  3. 一定の事由が「会社が定める日が到来した時」である場合にはその旨
  4. 取得する株式が全部ではなく一部の場合にはその旨とその詳細
  5. 当該種類株式の取得と引換えに交付する対価について(種類、個数、算定方法等)

一定の事由については、細かく定めることができるので、定款には具体的な内容を詳細に記載する必要があります。

記載例

取得条項付株式の定款への記載例を紹介します。

【取得条項付株式の定款記載例】

  1. 当会社は、次に定める事由が発生した際に、当該株式を取得することができる。
  2. 前項の取得することができる事由は、当該株主が死亡したとき
  3. 前項に定める事由により当会社が当該株式を取得した際には、当該株式の取得と引き換えに、当該株式1株につき金××円の金銭を支払う。

7.全部取得条項規定(7号)

7つ目は、全部取得条項規定です。この規定では、会社は、株主総会の決議があれば当該種類株式を全て取得することができます。

全部取得条項とは

全部取得条項とは、株主総会の特別決議によって、当該種類株式を全て取得できると定めた条項のことです。

取得の際には、株主に現金・普通株式・社債・新株予約権などの対価を支払うことも、対価なしとすることも可能です。

全部取得条項付株式の発行により、少数株主を排除すること(スクイーズアウト)や100%減資、敵対的買収の防衛などが可能になります。

スクイーズアウトのケースでは、対価は金銭や別の種類株式が割り当てられます。全部取得により、保有株式が1/3以下の株主を排除でき、支配権を強化したり会社の経営に好ましくない株主を排除したりできます。

ただし、株主総会の決議に反対の場合には、株主は株式買取請求を行うことができます。

【関連】スクイーズアウトとは?少数株主の排除手法や手続きを解説【事例あり】

定款内容

全部取得条項付株式の定款には、以下の内容を記載しなければなりません。

【全部取得条項付株式の定款内容】

  1. 全部取得条項が付与されているということ
  2. 対価として金銭などを交付する場合は、その価額の決定方法
  3. 株主総会の決議ができるか否かについての条件を定めるときは、その条件

また、株主総会の特別決議により、以下のような具体的な対価の内容などが決められます。

【株主総会の特別決議で決める項目】
  1. 取得対価が株式の場合、株式の種類、数もしくは算定方法
  2. 取得対価が社債の場合、社債の種類、各社債の合計額もしくは算定方法
  3. 取得対価が新株予約権の場合、新株予約権の内容、数もしくは算定方法
  4. 取得対価が新株予約権付社債の場合、社社債の種類、各社債の合計額もしくは算定方法と新株予約権の内容、数もしくは算定方法
  5. 取得対価が株式や金銭以外の財産である場合、その財産の内容、数、額もしくは算定方法
  6. 全部取得条項付株式の株主に対する取得対価の割当てに関する事項
  7. 全部取得条項付種類株式を取得する日

記載例

全部取得条項付株式の定款への記載例を紹介します。

【全部取得条項付株式の定款記載例】

  • 当会社は、株主総会における特別決議で、会社法第171条第1項各号に規定する事項を定めることにより、当該種類株式の全部を取得する。

8.拒否権規定(8号)

8つ目は、拒否権規定です。この規定では、ある事項に関して株主総会や取締役会の決議に加え、拒否権付種類株式を保有する株主だけで行われる種類株主総会での決議が必要であると定めることができます。

この株式を保有する株主が反対すれば議案を否決できるため、この種類株式のことを拒否権付株式といいます。

拒否権とは

拒否権とは、株主総会などで議論されるべき重要議案を否決できる権利のことです。

会社法第108条第1項8号では、ある議案について通常の株主総会や取締役会の決議に加えて、当該種類株主による種類株主総会の決議が必要であると定められています。

当該種類株主が反対すれば否決できることから、拒否権付株式といわれています。また、強力な権力を持つことから黄金株とも呼ばれます。

拒否権付株式のメリットは、保有株式が1株であっても議案を否決できることや、敵対的買収からの防衛、引退後でも経営に大きな影響力を与えられることなどが挙げられます。

一方で、公正な会社経営の阻害や、事業承継税制の不適用などのデメリットもあります。例えば、会社の経営に好ましくない人が拒否権付株式を相続したり、拒否権対象議案の決議に時間を要したりするなどの実務的な問題が発生する可能性も考えられます。

拒否権付株式の発行にあたっては、株主が死亡した際に会社への影響力が非常に強い拒否権付株式が相続されないよう、取得条項を付与することが一般的です。

定款内容

拒否権付株式の定款には、以下の内容を記載しなければなりません。

【拒否権付株式の定款内容】

  • 当該種類株主総会の決議が必要な事項
  • 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件

記載例

拒否権付株式の定款への記載例を紹介します。

【拒否権付株式の定款記載例】

  • 当会社の取締役の選任または解任については、株主総会の決議に加えて、当該種類株式の株主による種類株主総会の決議を必要とする。

9.役員選任権規定(9号)

9つ目は、役員選任権規定です。この規定では、取締役や監査役などの役員を選任する際に、役員選任権付株主による種類株主総会の決議が必要と定めることができます。

役員選任権とは

役員選任権とは、会社の取締役や監査役を選任する権利のことです。役員選任権付株式を発行した場合、当該種類株主総会の決議により役員を選任しなければなりません。

拒否権付株式とよく似ていますが、さまざまな議案で拒否権を有する拒否権付株式とは違い、役員選任時のみ効力を発揮します。

この種類株式のメリットは、たとえ保有株式が1株だけだったとしても、役員選任に関して会社に強い影響力を持てることです。

拒否権付株式の場合と同様、事業承継の際に活用することもできます。後継者に会社を任せて引退した後も、役員選任権付株式を保有していれば会社に対して影響力を持てるので、会社の経営をサポートすることができます。

また、ベンチャーキャピタルがベンチャー企業に投資する際や、合弁会社の設立の際に活用されることもあります。なお、上場企業は、役員選任権付株式の発行が認められていません。

定款内容

役員選任権付株式の定款には、以下の内容を記載しなければなりません。

【役員選任権付株式の定款内容】

  1. 当該種類株主総会において役員を選任する旨、および、役員の種類(取締役または監査役)と数
  2. 他の種類株式の保有者にも役員選任権を与える場合にはその詳細
  3. 役員選任にかかわる事項に変更の条件がある場合にはその条件や内容の詳細
  4. 法務省令で定める事項

記載例

役員選任権付株式の定款への記載例を紹介します。

【役員選任権付株式の定款記載例】

  1. 当該種類株主は、その種類株主総会において、取締役○名および監査役×名の選任をすることができる。
  2. 前項の内容を変更する場合は、取締役会の決議において定める。

3. 種類株式のメリット・デメリット

剰余金の優先配当や、残余財産の優先分配、譲渡制限、拒否権・取得請求権・役員選任権の付与など、種類株式にはたくさんのメリットがあります。

種類株式を有効に活用することで、事業拡大や後継者への事業承継などを円滑に進めることができ、会社に大きな利益をもたらしてくれます。

しかしながら、デメリットがあることも忘れてはなりません。メリット・デメリットをしっかり理解し、会社にも株主にも利益となる種類株式を選択することが大切です。

種類株式のメリット

種類株式には以下3つのメリットがあります。

【種類株式のメリット】

  1. 優先権の確保
  2. 資金調達のしやすさ
  3. 株主による会社経営の介入防止

1.優先権の確保

一部の株主にとって、優先権を確保できる優先株式には大きなメリットがあります。剰余金の配当や残余金の分配の際に、普通株主に先立って配当を受けることができ、より多くの利益を得ることができるためです。

ただし、議決権制限により、会社の経営に関与することができなくなる可能性もあります。会社経営には興味のない投資家にとっては、優先株式は非常に価値の高いものとなります。

2.資金調達のしやすさ

種類株式の発行により資金を調達しやすくなるというメリットがあります。優先株式では優先権を確保でき、一部の投資家に人気が高いため株価は必然的に上昇します。

つまり、会社としては、優先株式を発行することにより少ない株式発行数であったとしても、より多くの資金を集めることが可能になります。

優先株式以外にも、取得請求権付株式の発行は円滑な資金調達に有効な手段です。取得請求権付株式を保有する株主は、その株式をいつでも会社に取得してもらう権利を持っているので、投資家としてのリスクを抑えることができます。

そのため、取得請求権付株式は投資家からの人気が高く、普通株式より高い株価で取引され、会社の資金調達を容易にしてくれます。

3.株主による会社経営の介入防止

議決権制限株式の株主は、定款の内容にもよりますが、基本的に株主総会で議決権を行使できません。つまり、会社経営には介入できないということです。

また、譲渡制限付株式・取得条項付株式・全部取得条項付株式では、会社にとって好ましくない者が株主となり会社経営に介入することを防いでいます。

これらの種類株式を活用することで、株主の会社経営への介入を防ぎ、会社の経営陣だけに経営権を持たせることが可能になり、その結果、会社の意思決定を経営陣だけで行うことができ、会社経営や事業承継を円滑に実行できるようになります。

種類株式のデメリット

続いて、種類株式のデメリットを3つ紹介します。

【種類株式のデメリット】

  1. 株式売買に不向き
  2. 議決権制限の可能性
  3. マイナスイメージ

1.株式売買に不向き

優先株式のデメリットのひとつに、株式売買により利益を得ることに向いていないという点が挙げられます。

優先株式は、配当でより多くの利益を受けることができるタイプの株式なので、配当が実施されるまでは保有しておかなければ、優先株式の意味がなくなってしまうためです。

株式売買により利益を出すことを目的とした投資家にとっては、株価が高い優先株式はデメリットとなります。

2.議決権制限の可能性

一般的に、配当や残余財産が多くもらえる優先株式の多くには、議決権制限が付いています。定款の内容にもよりますが、この議決権制限によって優先株式の株主は、会社の経営に関与することが難しくなります。

会社経営に興味のない株主にとっては、一見大きな問題ではないように思えますが、万が一会社の経営が傾いたときでも、会社の経営に口を出せないということでもあります。

場合によっては、株主が大きな不利益を被ってしまう可能性もあるということを理解しておかなければなりません。

3.マイナスイメージ

日本では、種類株式、特に優先株式の発行は会社の経営が傾いてきたときなどに実行されるというイメージが根強く残っています。

そのため、優先株式を発行している会社に対して、投資家がマイナスイメージを抱くということも十分に考えられます。

また、優先株式以外でも、拒否権付株式や譲渡制限株式のような会社や経営陣にとっての利益が大きい種類株式はコーポレートガバナンスの観点からは好ましくないと考えられており、マイナスイメージの原因ともなりかねません。

4. 種類株式が活用された事例

では、実際には種類株式はどのように活用されているのでしょうか。ここでは、種類株式の活用事例を3つ紹介します。
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【種類株式の活用事例】

  1. 転換権付配当優先株式の発行
  2. 黄金株の発行
  3. 無議決権配当優先株式の発行

①転換権付配当優先株式の発行

財政破綻状態にある株式会社Aは、企業再生のために債権者であるB銀行から債権の現物出資を受け、その対価として転換権付配当優先株式を発行しました。

【A社が発行した転換権付配当優先株式の特徴】

  1. 議決権なし(議決権保有制限のため)
  2. 剰余金の優先配当権の付与
  3. 残余財産の優先分配権の付与
  4. 普通株式を対価とする取得請求権の付与

債務者であるA社は、転換権付配当優先株式の発行により、資本金の増強や有利子負債の圧縮を実現できました。

これにより、財務状況の改善を図ることができ、事業再生に注力することができるようになります。株式を受け取ったB銀行は、優先配当によるインカムゲインを得ることができます。

また、取得請求権が付与されており、普通株式に変換できるので、投下資本の回収ができないというリスクも抑えることができます。さらに、将来的にA社が事業再建に成功した場合には、株価の上昇を期待できます。

②黄金株の発行

株式会社Cのオーナー社長であるD氏は、息子E氏に事業を承継し、自身は引退しようと考えていますが、E氏はまだ若く経営には不安が残ります。

そこで、D氏は黄金株(拒否権付株式)を発行し、引退後も会社の経営をサポートできるようにしました。

【C社が発行した黄金株の特徴】

  1. 拒否権を付与
  2. 株主の死亡時を条件にした取得条項を付与

黄金株の発行により、D氏は、息子であるE氏の未熟な会社経営や無謀な組織の改編、役員の選任・解任などをコントロールすることができるようになりました。

会社の経営に強い支配力を持つ黄金株が、D氏の死後に会社にとって好ましくない人に相続されないよう、「株主死亡時」を条件とした取得条項も付与しました。

③無議決権配当優先株式の発行

ベンチャー企業であるF社は、自社製品の研究開発やマーケティングに多くの資金を費やしています。更なる事業拡大のために、それらの必要資金を種類株式の発行により調達しました。

F社は、配当優先株式の発行により、より多くの投資家からの資金調達を考えましたが、創業者の議決権比率が下がってしまい、円滑な経営ができなくなってしまうことを防ぐために、議決権制限も付与した、無議決権配当優先株式を選択しました。

【F社が発行した無議決権優先配当株式の特徴】

  1. 剰余金の優先配当権の付与
  2. 議決権制限の付与

これにより、F社は創業者の議決権を希薄化させることなく、投資家からの資金調達に成功しました。

5. 種類株式を検討する際におすすめの相談先

事業拡大や資本金の調達、円滑な事業承継などを実施する際には、種類株式の発行は非常に効果的です。また、現在発行している普通株式を種類株式に変更することも可能です。

しかしながら、多種多様な種類株式の中から、どれを選択し、どのように活用するか、定款には何を定めるべきか、他の種類株式を組み合わせる際にはどれを選択するのかなど、さまざまな事案を検討する必要があり、決して簡単ではありません。

会社にとってベストな種類株式を発行し、種類株式の効果を最大限に発揮するためには、専門的な知識が必要です。

M&A総合研究所には、専門的な知識を持つ経験豊富なM&Aアドバイザーによるサポートを行っております。

無料相談をお受けしておりますのでお気軽にお問い合わせください。
 

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6. まとめ

本記事では種類株式の全9種類について詳しく解説をしてきました。会社の事業拡大のために資金を集めたいときや、引退して事業を後継者に引き継ぎたいときなど、さまざまなシーンにおいて種類株式を上手に活用することで、円滑に事を進めることができます。

【種類株式とは】

  • 種類株式とは、普通株式とは異なる特別な権利や制限を有する株式のこと。

【種類株式の内容】
  1. 剰余金の配当規定
  2. 残余財産の分配規定
  3. 議決権制限規定
  4. 譲渡制限規定
  5. 取得請求権規定
  6. 取得条項規定
  7. 全部取得条項規定
  8. 拒否権規定
  9. 役員選任権規定

【残余金の配当】
  • 配当金の額を普通株式よりも多くまたは少なくした株式のこと。一般的には配当金を多くした優先株式を発行するケースが多い。

【残余財産の分配】
  • 残余財産の分配額を普通株式よりも多くまたは少なくした株式のこと。一般的には、分配額の多い優先分配株式が発行される。

【議決権制限株式】
  • 株主総会での議決権に制限を付与した株式のこと。

【譲渡制限株式】
  • 株式譲渡の際に、株主総会や取締役会などの承認が必要な株式のこと。

【取得請求権付株式】
  • 会社にいつでも当該種類株式を取得してもらう権利(取得請求権)を付与した株式のこと。

【取得条項付株式】
  • ある特定の事由がある場合に限り、会社が強制的に当該種類株式を取得することができる株式のこと。

【全部取得条項付株式】
  • 株主総会の決議があれば、会社が当該種類株式を全て取得することができる株式のこと。

【拒否権付株式】
  • 株主総会などで議論されるべき重要議案を否決できる権利(拒否権)を付与した株式のこと。

【役員選任権付株式】
  • 会社の取締役や監査役を選任する権利(役員選任権)を付与した株式のこと。

このように、多種多様な種類株式がありますが、種類株式の発行にはメリットもデメリットもあります。それらをしっかり理解したうえで、会社にも株主にも利益となるような種類株式の発行が必要となります。

【種類株式のメリット】
  1. 優先権の確保
  2. 資金調達のしやすさ
  3. 株主による会社経営の介入防止

【種類株式のデメリット】
  1. 株式売買に不向き
  2. 議決権制限の可能性
  3. マイナスイメージ

種類株式は複雑で、いくつかの種類を組合わせなければマイナスの効果となってしまうこともあります。種類株式発行に際しては専門家の意見を聞くことをおすすめします。

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