クリニック・医院の事業承継を徹底チェック!手順からメリット・デメリットは?

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

クリニック・医院では院長高齢化や経営課題への対処として、事業承継を実施するケースが見られるようになりました。この記事では、手順、メリット・デメリットを押さえた上で、クリニック・医院業界の事業承継を詳しく解説します。相場算出式や過去事例もチェックしましょう。

目次

  1. クリニック・医院の実情と事業承継
  2. クリニック・医院の事業承継を行うメリットとデメリット
  3. クリニック・医院の事業承継の手順と流れ
  4. クリニック・医院の事業承継の事例
  5. クリニック・医院の事業承継の費用相場
  6. クリニック・医院の事業承継により生じる課題
  7. クリニック・医院の事業承継を成功させるポイント
  8. クリニック・医院の事業承継は専門家に相談しながらすすめよう
  • 今すぐ買収ニーズを登録する
  • 経験豊富なM&AアドバイザーがM&Aをフルサポート まずは無料相談

1. クリニック・医院の実情と事業承継

クリニック・医院では院長の高齢化に伴う後継者問題などの理由から、事業承継の事例が見られるようになりました。まずはクリニック・医院業界と事業承継の実情を押さえた上で、事業承継の種類、事業承継が増えた理由を具体的に解説します。

クリニック・医院業界の実情

クリニック・医院は地域住民の健康増進に大きく貢献する重要な存在ですが、院長高齢化で医療サービス維持が危ういケースが見られるようになりました。廃院となると地域住民においても大きな負担が想定されるため、事業承継を検討せざるを得ない医院が増加しているのが現状です。

ただ、クリニック・医院は他の業種に比べて専門性が高く、なかなかく後継者が見つかりにくいという側面があります。何かあったら後継者に継がせれば良いというわけにはいかないのが実情です。入念な計画と準備が求められる業界と言えるでしょう。

クリニック・医院の事業承継種類

クリニック・医院における事業承継には、親族間承継と第三者承継の2種類の承継方法が存在します。それぞれの承継における特徴を確認しましょう。

①親族間での承継

1つ目の方法が、親族間における事業承継です。院長の息子や娘を含めた親族にクリニック・医院を引き継がせます。患者やスタッフから信頼されやすい点がメリットですが、親族が居ても引き継ぐ意思がない場合もあるので注意が必要です。

②第三者への承継

2つ目の方法が、第三者への事業承継です。親族が居ない場合や、親族が居ても後継者にならない場合に用いられます。医療を提供できる点がメリットですが、新院長の掲げる医療方針が極端に変わってしまう可能性もあり得るので注意が必要です。

クリニック・医院の第三者への事業承継が増加している理由

上記で記載した2種類の事業承継方法の中でも、特に第三者への事業承継が多く見られるのが現状です。第三者への事業承継が増加する大きな理由としては、主に以下のような点が挙げられます。

  • 親族が都市部の病院に勤務している
  • 経営者としてのリスクを回避する傾向にある
  • 経営状況が不安定な状況ではメリットが無いため
  • 医療科目が大きく異なるため

【関連】病院/医療法人の事業承継!ポイントや注意点を解説!成功事例15選も紹介

2. クリニック・医院の事業承継を行うメリットとデメリット

クリニック・医院で事業承継を行うメリットとデメリットを解説します。どのような点で恩恵が受けられて、どのような点に留意すべきなのでしょうか。両方を確認し、リスクを想定した上で手続きを進めましょう。

メリット

まずは、クリニック・医院が事業承継を実施することで得られるメリットから確認しましょう。売却側・買収側でメリットは異なるので、それぞれの視点に分けて解説します。

売り手側

クリニック・医院の事業承継で、売却側が得られるメリットには、以下の点が挙げられます。

  • 売却による利益を獲得できる
  • 必要な医療を維持することで地域貢献できる
  • 大規模医療法人の傘下になれば経営が安定する
  • 医療スタッフの雇用を維持できる
  • クリニック経営者が個人債務から解放される

クリニックの売却により経営者は売却益(譲渡益)を受け取ることができます。また、地域の医療を続けられるので、近隣住民の健康増進に貢献できる点もメリットです。廃院を避けられるので、医療スタッフの生活も守ることができます。

買い手側

一方、クリニック・医院の事業承継で、買収側が得られるメリットは、以下の通りです。

  • クリニック開院コストを抑えられる
  • 医療体制の拡充や規模拡大ができる
  • 医療スタッフや患者を引き継げる
  • 売却側の医療技術やノウハウを獲得できる
  • クリニックの認知度を獲得できる

買収側は、売却側が保有する医療設備を獲得できるので、新規開院を目指す場合にかかるコストや医療が軌道に乗るまでの労力を一気に短縮できる点が大きなメリットです。また、前院長への患者を引き継げるので、収益面でもある程度見込みを立てることができます。

デメリット

では次に、クリニック・医院の事業承継におけるデメリットをチェックしましょう。売却側・買収側それぞれの視点に分けて解説します。

売り手側

クリニック・医院の事業承継で売却側に想定されるデメリットは、以下の通りです。

  • 後継者が見つからない場合がある
  • スタッフが退職してしまうおそれがある
  • 売却後の医療方針が変わる可能性がある
  • 希望通りの取引条件になるとは限らない

場合によっては後継者を見つけるまでに時間を要する可能性があります。経営面で課題を抱えている際は、この間に廃院にならないよう注意が必要です。また、事業承継できても、買収側の院長が方針を変える可能性もあるので、この点を理解した上で売却しましょう。

買い手側

一方、クリニック・医院の事業承継で買収側に想定されるデメリットには、以下のような点が挙げられます。

  • 資金の調達が必要
  • 引き継ぐ医療内容が限られる
  • 売却側にいたスタッフが医療方針や待遇に不満を抱く可能性がある
  • 患者離れが起こる可能性がある

親族内承継では親の医療をそのまま引き継がなければならない場合が多く、自由度が下がります。また、前院長を信頼していた患者が、事業承継後に来院しなくなる可能性もあります。極端に医療方針を変えてしまうとスタッフが困惑し、業務効率が下がるおそれがあるので配慮が必要です。

【関連】病院/医療法人の事業譲渡・売却の手続きやメリット・デメリット、動向を解説

3. クリニック・医院の事業承継の手順と流れ

クリニック・医院で事業承継を実施する場合、どのような手順で進めていけば良いのでしょうか。ここでは、基本的な手順と流れを7つのステップに分けて解説します。仲介会社をはじめ専門家のサポートを得ながら、1つずつ着実に手続きを進めましょう。

  1. 事業承継を行いたい理由を明確にする
  2. 事業承継・M&Aの専門家に相談する
  3. 事業承継相手の選定と交渉
  4. 基本合意書の締結
  5. デューデリジェンスの実施
  6. 契約と引継ぎ
  7. クロージング

①事業承継を行いたい理由を明確にする

まずは準備段階として、理由の明確化から行います。事業承継は、院長高齢化による引退や、経営の安定化、医療体制拡大など、実施の理由はさまざまです。今回はどれに当てはまるのかを明確に決めましょう。理由が明確になれば、ニーズが合致した売却先を見つけられます。

②事業承継・M&Aの専門家に相談する

理由や目標を正しく設定したら、事業承継やM&Aに詳しい仲介会社などの専門家に相談します。一般的に後継者とのマッチングは時間も労力もかかるので、プロフェッショナルの力が必要です。今の状況にふさわしいM&A手法や相手先候補など、有益な助言が得られます。

③事業承継相手の選定と交渉

M&A仲介会社や専門家の助言を受けながら、相手候補の選定を行います。最も効果が得られそうな売却先を見つけ、経営者と会談を重ねて相互理解を深めましょう。医療方針で多くの共感が得られたら、事業承継のマッチングは成功です。スタッフの雇用・処遇も確保しましょう。

④基本合意書の締結

経営者による交渉で事業承継の取引条件をまとめられたら、基本合意書を取り交わします。基本合意書は双方のM&Aへの合意を証明する書類で、取引実施日、取引株式の種類・数量、取引価格、支払い方法、表明保証、デューデリジェンスへの協力といった項目を記載するのが一般的です。

⑤デューデリジェンスの実施

次にデューデリジェンスが実施されます。売却側の財務状況や設備、負債やリスクなどあらゆる項目を調査する手続きのことです。買収側は、売却側の簿外債務発覚リスクを軽減できるので、非常に重要なプロセスと言えます。売却側の協力のもと、入念に行いましょう。

⑥契約と引継ぎ

基本合意書の内容とデューデリジェンス結果を基準に、詳細な条件調整を行います。条件調整が済んだら、最終契約書を取り交わしましょう。最終契約書を締結した時点で法的拘束力が発生します。記載された内容に従って、引き継ぎ作業を進めましょう。

⑦クロージング

事業承継の流れの中で最後に行われる手続きがクロージングです。クリニックの事業の引き継ぎと対価の支払いが当事者双方によって実行されます。承継後はスタッフと医療方針のすり合わせを行い、医療サービスを円滑に展開できるよう努めましょう。

【関連】医院継承・承継の手続き・流れ、費用を徹底解説!親子間継承は得?

4. クリニック・医院の事業承継の事例

ここで、過去実施されたクリニック・医院における事業承継事例をチェックしましょう。今回は、以下の2事例を解説します。

  1. 廣仁会と昭和皮膚科クリニック院長の事業承継事例
  2. 三井物産とIHH Healthcare Berhadの事業承継事例

廣仁会と昭和皮膚科クリニック院長の事業承継

こちらは、院長が医療法人グループから事業承継を行い独立したM&A事例です。
 

承継元 廣仁会 昭和皮膚科クリニック
承継先 立石八寿貴先生
M&Aの手法 事業承継
実施時期 2021年5月
売却価格 不明

昭和皮膚科クリニック 事業承継のお知らせ|廣仁会からのお知らせ|医療法人社団 廣仁会

三井物産とIHH Healthcare Berhadの事業承継

こちらは、国内企業がアジアの民間病院最大手(マレーシア法人)に出資参画したM&A事例です。ヘルスケア関連事業の拡大・国内産業の国際競争力向上を目指します。
 

売却側 IHH Healthcare Berhad
買収側 三井物産
M&Aの手法 融資
実施時期 2019年3月
売却価格 400百万米ドル(貸付上限)

三井物産株式会社によるマレーシア法人IHH Healthcare Berhadの株式取得資金を融資 | JBIC 国際協力銀行
【関連】クリニックのM&A・事業承継の成功・失敗事例まとめ!業界動向・成功ポイントも解説

5. クリニック・医院の事業承継の費用相場

クリニック・医院で事業承継を行う場合、どの程度の金額で売却されるのでしょうか。ここでは、事業承継における費用相場の算出方法と算出時の注意点を解説します。

費用の基本的計算式

売却価格(価値)を算出する際は、さまざまなアプローチがありますが、以下のような計算式を用いるのが一般的です。年倍法と呼ばれ、多くのM&Aで企業価値を求める際に活用されます。

  • 売却価格 = 時価純資産 + 営業利益 × 3~5年分

この方法では、企業(医院)の価値評価が必要です。収益性など見えない価値を加味しなければならないため、専門家のサポートを受けながら算出しましょう。

交渉によって金額は変わってくる

上記の計算式を用いて費用相場を算出した場合でも、最終的な取引金額は交渉で決定します。計算で算出した相場と実際の金額で大きな差が生まれる可能性もあるので、算出結果はあくまでも参考材料として活用してください。

【関連】眼科(クリニック)のM&A(売買)動向・価格相場【最新事例あり】

6. クリニック・医院の事業承継により生じる課題

事業承継では、クリニック・医院において大きく環境が変化する可能性があります。例えば、診療内容や医療設備、人材面における課題への対処が必要です。ここでは、事業承継で生じる課題点を3つ解説します。

診療内容が変化する

デメリットでも記載しましたが、事業承継後に診療内容が変わってしまう可能性もあります。親族内承継の場合は、親の医療を継ぐケースが多くありますが、極端に医療内容が変わると患者が従来通りの治療を受けられず、来院者が減るおそれがあるので注意が必要です。

新しい医療設備や医療機器が導入される

事業承継で引き継いだ設備に老朽化が見られる場合があります。より効率的な医療サービスを目指すなら、適宜設備投資を行い医療機器を更新することが重要です。医療体制や設備がより新しいものになれば、スタッフの業務効率もアップするでしょう。

スタッフの入れ替わり・増員

事業承継で医療体制の拡大を目指す場合は、スタッフを増員する必要があります。中には退職なども考えられるため、入れ替わりも起こりうるでしょう。スタッフの処遇や労働環境の整備に努め、満足度を高めることが重要です。人間関係面も考慮した上で事業展開しましょう。

【関連】歯科の事業売却や事業譲渡について!メリットや注意点は?成功事例も調査

7. クリニック・医院の事業承継を成功させるポイント

クリニック・医院の事業承継における成功確率を上げるためには、いくつか留意したいポイントがあります。ここでは、事業承継を成功させるために留意すべきポイントを6つ確認しましょう。

  1. 前院長退職後間をあけずすぐに医院をオープンさせる
  2. 前院長が新院長にアドバイスしながら引継ぎを行う
  3. 患者離れに注意する
  4. 雇用を確保する
  5. 専門器具の点検・病院のリニューアル
  6. 事業承継・M&Aの成功事例案件を多く持つ専門家に相談

前院長退職後間をあけずすぐに医院をオープンさせる

クリニック・医院で事業承継では、M&A後の事業再開の速さが重要です。引き継ぎ等で準備が長引いてしまうと、医療を受けられない既存患者が別の医院に通い始めるおそれがあります。前院長退職後すぐにオープンできるよう、計画的に引き継ぎを進めましょう。

前院長が新院長にアドバイスしながら引継ぎを行う

より円滑な事業承継を目指すなら、前院長による新院長へのアドバイスが欠かせません。患者の情報や医療内容を的確に引き継ぐことで、承継後の医療におけるギャップを最小限に抑えられます。両院長が綿密に連携しながら、承継後の円滑な医療展開を目指しましょう。

患者離れに注意する

患者離れの抑止には特に注意が必要です。長い間通っている患者は、多くの場合前院長に強い信頼をおいています。院長が変わるだけで不安に思い、承継後の医院に通わなくなる可能性もあるでしょう。これを防ぐためにも前院長は患者に引き継ぎの旨を伝え、理解してもらう必要があります。

雇用を確保する

スタッフの雇用確保も大切なポイントです。売却側クリニックに在籍したスタッフの処遇に不利益が無いように配慮し、新しく雇用する場合でも事業に馴染めるように研修を丁寧に行いましょう。事業承継時の退職を防ぐためには、待遇の維持と労働環境の整備は必須です。

専門器具の点検・病院のリニューアル

専門器具や病院設備の点検。リニューアルが必要な場合は、積極的に投資しましょう。売却側の設備を引き継ぎコストを抑えられるのがメリットですが、老朽化が顕著な状態だと医療サービスの質や効率が低下してしまいます。投資すべきところはしっかり投資し、環境整備を行いましょう。

事業承継・M&Aの成功事例案件を多く持つ専門家に相談

また、場合によっては後継者が見つからないリスクも想定されます。円滑に承継先を見つけるには、事業承継やM&Aの成功事例を持つ専門家に相談することが重要です。クリニック・医院分野に強いM&A仲介会社に相談・依頼し、アドバイスを受けながら事業承継を行いましょう。

【関連】医院継承の成功事例を紹介!失敗/トラブルになるポイントは?カルテは引継ぐ?

8. クリニック・医院の事業承継は専門家に相談しながらすすめよう

クリニック・医院の事業承継は、経営者(院長)だけが恩恵を受けるものではありません。地域医療を継続できるため、患者の健康増進に引き続き貢献でき、大きな意義をもたらします。もちろんスタッフの雇用も維持することができるなど、多くのメリットがあるでしょう。

ただ、業種的に後継者を見つける難易度が高く、個人で進めるのはおすすめできません。基本的な手続きの流れを確認した上で、M&Aの知識が豊富な専門家に相談しながら進めましょう。

M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所

M&A・事業承継のご相談なら経験豊富なM&AアドバイザーのいるM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。

M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴

  1. 譲渡企業様完全成功報酬!
  2. 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
  3. 上場の信頼感と豊富な実績
  4. 譲受企業専門部署による強いマッチング力
>>M&A総合研究所の強みの詳細はこちら

M&A総合研究所は、成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。

>>完全成功報酬制のM&A仲介サービスはこちら(※譲渡企業様のみ)

関連する記事

新着一覧

最近公開された記事