2025年03月16日公開
熱供給業界のM&A動向!売却・買収事例2選とメリットを解説!【2025年最新】
熱供給業界は、地球温暖化問題を受けての低炭素社会の実現などに寄与できる業界であることから、隣接する業界に買収されるM&Aが活発化しています。この記事では、熱供給業界でのM&Aのメリットや、売却や買収の事例を紹介します。
1. 熱供給業界の概要と動向
エネルギー自給率が低いにもかかわらず、化石燃料への依存度が高い日本では、効率的なエネルギーの活用というのが、今後社会にとって大きな課題となってきます。
そのような中で、注目を集めているのが熱供給事業で、熱供給事業とのシナジー効果が期待できる会社から、M&Aについて熱い視線を集めています。
この記事では、熱供給業界の近年の概要と、M&A動向について解説します。
熱供給業界とは
熱供給とは、ひとまとまりの地域や複数の建物に対して、熱供給プラントから、温水、冷水、蒸気といった熱媒を配管を通じて供給して、冷暖房や給湯、融雪などに利用することです。地域熱供給ともいいます。
熱供給会社とは、熱供給プラントを所有、運営して、担当する地域に熱媒体を製造して届けている会社のことです。
熱供給プラントは、下水処理施設やごみ処理施設の排熱を利用した設備もあり、集中的に温水、冷水、蒸気を製造させることができるので、建物ごとに個別に冷暖房設備などを設置するよりも、経済的でエネルギーの利用効率を高められるというメリットがあります。
地域熱供給は、1875年にドイツのハンブルクで地域暖房が始まり、寒冷地での蒸気を使った暖房システムとして設置が広がりました。
日本では、1970年に高度経済成長の影響で悪化していた大気汚染への対策として導入されて、1980年代後半からの都市開発が進むにつれて2005年ころまで広がりをみせます。
その後は、地域熱供給が提供される地域の数はあまり増えておらず、現在まで横ばいの状況が続いています。
利用地域が増加しない背景には、熱供給システムは配管の敷設などの初期投資が膨大になることや、配管が長くなると維持管理や熱媒を搬送するコストが大きくなるために、建物や利用者が集中している地域でしか利用できないためだと思われます。
熱供給業界の市場規模と動向
NIKKEI COMPASSが伝えるところによると、2010年度の熱供給量は2,442万GJ(ギガジュール)で、売上高は1,501億円、2013年度は1,447億円と減少しています。
2014年時点での熱供給が提供されている地域は国土面積の0.1%で、1供給区域あたりの売上高は平均10億円です。これは、同じ面積あたりの電気の平均1.8兆円、ガスの193億円と比較するとかなり小規模だとわかります。
熱供給システムの設置は2004年をピークに減少しており、さらに2011年の東日本大震災以降の省エネと節電意識の高まりで、冷暖房を控える風潮が広がったことで売上が減少しているようです。
熱供給事業は、多額の設置費用がかかることから、新規設置は難しく、都市開発と一体化したプロジェクト以外には、今後の広がりも難しいことが予測されます。
参考:NIKKEI CPMPASS「熱供給サービス」
2. 熱供給業界のM&A動向
熱供給業界では、隣接する業界が事業を拡大するためのM&Aを実施する動きがみられます。
特に石油関連会社やガス会社などが、熱供給会社をM&Aで買収しています。熱供給会社が持つ技術や、自社にはない顧客層を取り込み、積極的にエネルギーシェアの拡大による売上増加を見込んでいる模様です。
3. 熱供給会社をM&Aで売却するメリット
熱供給会社をM&Aするメリットとはどのようなものがあるのかみていきましょう。
売り手側のメリット
熱供給会社をM&Aで売却する側のメリットは次の通りです。
事業承継問題の解決
売却側のメリットとしては、事業承継問題を解決できるという点が挙げられます。
熱供給業界に限らず、現在、日本全体では6割以上の社長が60歳以上と高齢化しており、さらに4割程度の会社が後継者問題を抱えています。
社内や経営者の身内に事業承継できる人がいなくて、現在の経営者が経営を続けられなくなった時に、業績が良くても廃業する可能性が高い会社が増加中です。
M&Aは、社内や身内ではなく、他社に事業承継することで後継者問題を解決するための手段として大きな注目を集めており、熱供給業界でも事業承継問題の解決のためのM&Aを検討する動きが見られます。
従業員の雇用確保
売却側のメリットとしては、従業員の雇用を確保できるという点も挙げられます。
後継者問題などで廃業することになると、従業員は全員解雇するしかありません。熱供給会社には、エネルギー関連で資格や技術を持つ人も多いので、若い技術者なら簡単に次の仕事が見つかるでしょう。
しかし、高齢の職人や、特にスキルもない事務職員は、再就職に困る人も出てくる可能性もあります。
M&Aでは、通常は従業員の雇用も買収側が引き取ってくれるので、現在の経営者が経営を続けることが難しくなっても、従業員を露頭に迷わせる心配がありません。
売却益の獲得
熱供給会社を売却するメリットには、経営者は売却益を獲得できるという点も挙げられます。
売却金額がどのくらいになるのかは、会社の規模や上げている利益、企業価値評価の方法などで大きく変わりますが、経営者が個人で受け取る金額としてはかなり大きなものになるのは確実でしょう。
売却金からM&Aの手数料と税金を差し引いた残りは、全額経営者の手元に残り、引退後の生活費や新規事業のための資金など、自由に使うことができます。
もしも、M&Aでの売却ではなく廃業することになると、従業員への退職金や設備などの処分費用などのコストがかかります。
M&Aでの売却では、従業員も設備も全て買収側に引き取ってもらえるので、廃業のときにかかるコストは一切必要なく、売却益でプラスの収支にできるのです。
個人保証・債務の解消
熱供給会社を売却するメリットには、経営者が個人保証の負担から解放されるという点も挙げられます。
中小企業では会社の金融機関からの借り入れに対して、経営者が連帯保証人となり個人保証をつけていることがほとんどです。
廃業した場合、廃業時に債務が残っていたら、担保に設定していた自宅を差し押さえられてしまったり、引退後も返済を続けなければいけなかったりする可能性があります。
M&Aで会社を売却できれば、会社の債務も買収側が引き取ってくれるので、経営者は個人保証を外して債務の負担から解放されて、その上売却益を得ることができるのです。
買い手側のメリット
M&Aで熱供給会社を買収する側のメリットは次の通りです。
迅速な事業展開
M&Aで熱供給会社を買収するメリットの一つが、迅速に熱供給事業に参入できるという点です。
熱供給事業を始めれば、自社のその地域のエネルギーシェア率を大幅に向上させることができます。しかし、新規に熱供給事業を始めるためには、多大な初期投資が必要で、収益を得られるようになるまでの時間も長くかかります。
その点、すでに事業が回っている熱供給会社をM&Aで買収することができれば、その会社が敷設した配管などの熱供給システムをそのまま引き継いで、熱供給事業に参入することが可能です。
自社で新しく技術を導入して、設備を設置して、という手間を省いて、熱供給事業を自社の事業に組み入れることができます。
優秀な人材の獲得
M&Aで熱供給会社を買収するメリットの一つが、優秀な人材を獲得できるという点です。
熱供給会社には、エネルギー関連や機械関連の優秀な技術者がたくさん働いています。M&Aでは、売却側の人材を買収側が引き取るのが一般的なので、M&Aで熱供給会社を買収できれば、その会社で働いている技術者を自社に取り込むことができるでしょう。
現在、優秀な技術者はどの分野でも不足しているので、エネルギー分野でのシェア率拡大とともに、優秀な人材獲得を目的としたM&Aを検討している会社も多いようです。
新たな技術やノウハウの獲得
M&Aで熱供給会社を買収するメリットの一つが、自社にはない新しい技術やノウハウを獲得できるという点です。
熱供給会社には、より少ないエネルギーで効率的に熱媒体を製造して、温度を保ったままで顧客の元まで配管を通して届けるための高い技術やノウハウがあります。
環境問題やエネルギー問題が深刻化する中で、熱供給会社が持つ省エネ技術などは多くの会社にとって今後とても重要なものになってくるでしょう。
自社で新しく技術開発をしたり、人材を育成したり他社の技術をコストをかけて導入することを考えれば、すでに収益が見込める熱供給事業を手に入れながら、熱供給会社が持つ技術やノウハウを獲得できるメリットは、多くの企業にとってとても大きなものです。
4. 熱供給会社のM&A・買収・売却事例2選
熱供給会社で実施されたM&Aの事例を紹介します。
伊藤忠エネクスが東京都市サービスを子会社化した事例
平成24(2012)年4月27日に、伊藤忠エネクス株式会社から、東京都市サービス株式会社の発行済株式66.6%を取得して子会社化することを決議したことが発表されました。
伊藤忠エネクスは、全国各地で石油製品やLPガスなどの生活に欠かせないエネルギーを供給している会社です。東京都市サービスは、1987年に電力業界を母体として設立された地域熱供給会社で、17か所の熱供給センターを運営しています。
東京都市サービスの電気式の熱供給システムは、国内トップレベルの省エネルギーを実現しており、電力需要のピークシフト、エネルギーコスト削減、低炭素化などのノウハウを数多く有しています。
伊藤忠エネクスでは、さらなる飛躍を求めて成長戦略を実行しているところです。
事業基盤である石油製品領域の他に、東京都市サービスの業務用領域の電力関連、熱供給事業へ参入することで、顧客ニーズに合わせたエネルギーのベストミックスを果たせるようになるとしています。
参考:東京都市サービス株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
北海道瓦斯が北海道熱供給公社を子会社化した事例
平成21(2009)年4月26日に、北海道瓦斯株式会社から、株式会社北海道熱供給公社の発行済株式300,000株を取得して、子会社化したことが発表されました。
このM&Aで、北海道瓦斯が所有する北海道熱供給公社の株式の割合は45.91%から、50.87%となります。
北海道瓦斯は、札幌市や函館市、小樽市、北斗市、北見市などを営業エリアとするガス会社です。北海道熱供給公社は、1966年の札幌オリンピックをきっかけとして導入された地域熱供給事業を行う会社で、札幌市中央区などで熱供給事業を行っています。
北海道瓦斯がこのM&Aで取得した株式は北海道が保有していたもので、北海道が実施した指名競争入札で取得しました。北海道熱供給公社をグループ内に置くことで、エネルギーシェアの獲得に努めたいとのことです。
参考:株式会社北海道熱供給公社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
5. 熱供給会社のM&Aにおける成功のポイント
熱供給会社のM&Aを成功させるためのポイントをみていきましょう。
M&Aの専門家に相談をする
熱供給会社のM&Aを考え始めたら、自分だけで進める前にまずはM&Aの専門家に相談しましょう。M&Aの専門家とは、中小企業のM&Aのマッチングや手続きのサポートを専門的に行う専門家のことです。
会社の将来を考えてM&Aをするべきなのかどうか、といったところから親身になって相談に乗ってくれるでしょう。
M&Aを決断したら、M&Aの未経験者には難しい最適な相手探しや、法律や財務についての高度な知識が必要な手続きをサポートしてくれます。
M&Aをするべきかどうか迷い始めたら、まずは専門家への問い合わせから始めましょう。
M&Aのご相談はお気軽にM&A総合研究所までお問い合わせください
M&A仲介会社選びにお悩みの場合は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所では、各業界のM&Aに精通したM&Aアドバイザーが専任となって案件をフルサポートします。
M&A総合研究所の料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ)随時、無料相談をお受けしていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
情報管理の徹底
M&Aが成功するかどうかは、M&Aの実施を公表できる段階に至るまでに、情報漏洩が起きないかどうかにかかっているといっても過言ではないほど、情報管理がとても重要になります。
通常、M&Aの実施の公表は、最終契約書締結後になるのですが、その前に、会社売却の噂などが従業員や取引先の間で流れてしまう事態が起きてしまうことがあるようです。
会社売却やM&Aの噂が流れてしまうと、従業員や取引先が不安になり、退職や取引停止を招く可能性があります。
また、情報管理が徹底していないということで、売却側と買収側の間の信頼関係にもヒビが入りかねません。
情報流出や噂が広がるのは、経営者の社内での専門家やM&Aの相手との会話を聞かれることが原因である場合が多いようです。
M&Aについて話をするときには、周囲の状況によく気をつけて、社内や家ではM&Aについて話をしないなど、情報管理を徹底しましょう。
目的の明確化
M&Aを進めることを決断したら、売却側も買収側も、最初に目的の明確化をしておきましょう。
なんとなく、M&Aをする目的を分かっているつもりでも、明確化させておかないと、後々方針がブレてしまうものです。
売却側は、会社を買収する目的によってM&Aのスキームが変わります。経営者の引退が目的なら会社を丸ごと譲渡できる株式譲渡、一部事業を整理するために売却するなら事業譲渡です。
スキームによって税額や売却後の会社のあり方が大きく変わるので、最初の目的に沿ったスキームを選べるようにしておくことが大切です。
買収側も、自社のどのような点を補強するために他社を買収したいのか、目的が明確化していないと、全く見当違いの会社を買収してしまい、後々、会社全体のお荷物になってしまう可能性があります。
既存事業の強化なのか、新規事業の開拓なのか、どのようなシナジー効果を望むのか、といった点から目的を明確化した上で、買収先の選定に入りましょう。
早めの検討
より高額でいい条件で会社を売却したいと考えているのなら、売却の準備には早めに取り掛かり、数年単位で進められるようにしたほうがいいでしょう。
M&Aでの会社売却でのよくある失敗は、経営者が高齢化して健康問題が生じてから会社の売却に乗り出してしまうというものです。時間切れで売却できずに廃業するしかなくなってしまうことや、売り急いだ結果、安く買い叩かれてしまうことがよくあります。
後継者問題を抱えているのであれば、まだ経営者が元気で判断力がしっかりしているうちに、将来的な売却に備えた準備を始めて、最も高額で売却できるタイミングを見計らって売却することをおすすめします。
シナジー効果が見込まれる相手先の選定
M&Aはクロージングの後から始まる、会社統合の過程が本当の勝負だともいわれています。これまで、全く違う企業文化を持つ会社として存在してきた2社が1つの会社になる過程では、さまざまな軋轢が生まれて、両社の役員や従業員がぶつかることもあるでしょう。
そのような中でも、両社がうまく統合していくためには、売却側の会社が買収側の会社にとって大きなメリットとなることが重要です。そのメリットとは、売却側の会社が買収側の会社の業績アップに貢献することです。
そのために重要なことは、お互いにシナジー効果が見込まれる相手なのかどうかを、マッチングする際に見極めることがとても大切になります。
売却側は、従業員が安心して働き続けることができる環境を作るために、買収側は自社の業績アップに繋がるかどうかを判断するために、お互いにどのようなシナジー効果が見込めるのかをよく判断しましょう。
6. 熱供給業界のM&A・事業譲渡まとめ
市場が伸び悩む一方で、熱供給業界が持つ様々な技術やノウハウには、隣接する他の業界から熱い視線が注がれています。また、すでに設置済みの熱供給システムはインフラとしてとても重要なものです。
熱供給会社の将来が不安だからといって、安易に廃業を考えていい業界ではありません。M&Aでの会社売却の可能性について、M&Aの専門家に相談してみることをおすすめします。
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