産業廃棄物業界のM&A動向!会社売却のメリットや成功のポイント・事例12選を徹底解説【2024年最新】

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、産業廃棄物・環境関連業界の市場動向やM&A動向、M&Aによる買収・売却のメリットやM&Aを成功させるポイントなどを解説します。産業廃棄物・環境関連業界のM&Aによる買収・売却事例なども紹介します。

目次

  1. 産業廃棄物処理業界とは
  2. 産業廃棄物処理業界の現状
  3. 産業廃棄物処理業界のM&A動向
  4. 産業廃棄物処理業界のM&Aメリット
  5. 産業廃棄物処理業界のM&Aにおける注意点
  6. 産業廃棄物処理業界のM&Aを成功させるポイント
  7. 産業廃棄物処理会社をM&Aで売却する流れ
  8. 産業廃棄物処理業のM&A事例
  9. 産業廃棄物処理業界のM&Aまとめ
  10. 産業廃棄物・環境業界の成約事例一覧
  11. 産業廃棄物・環境業界のM&A案件一覧
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1. 産業廃棄物処理業界とは

産業廃棄物処理業とは、都道府県から許可を得て産業廃棄物の収集・運搬・処分を行う事業です。廃棄物は、一般廃棄物(家庭から出る廃棄物および、産業廃棄物に該当しない企業から出る廃棄物)と、産業廃棄物に大別されます。

産業廃棄物は、さらに産業廃棄物・特別産業廃棄物に二分されており、その詳細は以下のとおりです。

  • 産業廃棄物(20種):燃え殻、泥炭、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラス・コンクリート・陶磁器くず、鉱さい、がれき類、ばいじん、紙くず、木くず、繊維くず、動植物性残さ、動物系固形不要物、動物のふん尿、動物の死体、以上20種に該当しないもの(コンクリート固型化物など)
  • 特別管理産業廃棄物:廃油・廃酸・廃アルカリのうち特殊な物、感染性産業廃棄物、特定有害産業廃棄物(廃PCB等、PCB汚染物、PCB処理物、廃水銀等およびその処理物、廃石綿等、有害産業廃棄物)

※PCB=Poly Chlorinated Biphenyl(ポリ塩化ビフェニル)

産業廃棄物処理業の区分

産業廃棄物処理業は、収集から最終処分までが大きく3つに分かれています。ここでは、産業廃棄物処理業の区分についてみていきましょう。

収集運搬業



収集運搬業に含まれる業務は、収集車による回収など産業廃棄物の収集・運搬や、回収した産業廃棄物の保管・分別です。収集運搬業務は都道府県からの許可がなければ行うことはできません。

また、許可を受けるためには、使用する収集車に廃棄物の流出・飛散防止の設備および悪臭発生防止の設備を有しているなどの要件が決められています。

中間処理業

中間処理業とは、産業廃棄物の最終処分を行う前段階処理にかかわる事業のことです。中間処理業では、産業廃棄物を焼却・破砕・脱水・溶融・中和などによって減量化・安全化する業務のほか、再生利用できる廃棄物の選別も含まれます。

中間処理業は、中間処理業の許可と中間処理施設の設置許可、2つの許可がなければ行うことはできません。廃棄物処理施設を作るためには、施設の基準と運営能力の基準を満たしたうえで当該地域の市町村長または都道府県知事からの許可が必要です。

しかし、実際は要件を満たしても、業者の数が足りていれば申請が通らないケースも多くみられます。

最終処分業

最終処分業とは、中間処理された廃棄物を最終処分する業務です。最終処分の方法には、海中への投棄や地中への埋立のほか、専用設備での保管などがあります。また、産業廃棄物の種類によっては中間処理を行わず、収集後にそのまま最終処分するものも多いです。

産業廃棄物処理業界の特徴

産業廃棄物処理業界の特徴としては、以下の4つが挙げられます。

ローカルビジネス

産業廃棄物処理業界の特徴のひとつは、ローカルビジネスであることです。広範なエリアで事業展開するケースはほとんどなく、処理上から車で遠くないエリアを営業対象地域としています。

細分化された市場

産業廃棄物は個々に処理方法が異なるため、市場が細分化されています。各事業者にはそれぞれ専門とする産業廃棄物があり、市場が細かく分かれているのが特徴です。

許可制ビジネス

産業廃棄物処理業を行うためには、都道府県からの許可を得なければなりません。しかし、新規の処理場設置は認められづらいため、新規参入をするのは難しいのが実情です。

専業者の少なさ

産業廃棄物処理業を専業で行っている事業者は、全体の1割程度しかいません。ほとんどは自社で生じる産業廃棄物処理のため、産業廃棄物処理業を行っています。

裁判に発展する可能性がある

廃棄物処理業では裁判に発展する可能性もありますので注意が必要です。

廃棄物処理法違反として、さまざまな行為が当てはまります。廃棄物の不法投棄の事例、廃棄物を保管していた土地が廃棄物によって汚染された事例、廃棄物の中間処理方法が不適切だった事例などが挙げられます。

廃棄物処理業では、廃棄物処理法などの法令、市町村の規則などを厳格に遵守するが重要です。

法改正の影響を受けやすい

産業廃棄物を適正に処理することは、世界的な課題でもあり、廃棄物処理法はたびたび改正されてきました。 2020年に施行された廃棄物処理法の改正ポイントは、一部の事業者に電子マニフェストが義務づけられました

電子マニフェストとは「産業廃棄物管理伝票」をさしており、マニフェスト情報を電子化し、排出事業者、収集運搬業者、処分業者の3者が情報処理センターを介したネットワークでやり取りする仕組みです。これは、厳格に遵守するための改正といえるでしょう。

2. 産業廃棄物処理業界の現状

産業廃棄物処理業のM&Aを行う場合、業界の特性や動向を把握しておくことが重要です。ここでは、産業廃棄物処理業界の現状について解説します。

産業廃棄物処理業界の市場規模

環境省「令和4年度環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」

出典:https://www.env.go.jp/content/900517693.pdf

環境省が公表しているデータによれば、2021年における環境産業の市場規模(全体)は118 兆8,824億円であり、前年からは約4.0%増加し、 2000年(58兆3049億円)と比べると約1.9倍に増えています。

分野別に見ると、2021年と比較して、「A.環境汚染防止」、「B.地球温暖化対策」「C.廃棄物処理・資源有効利用」分野は増加し、「D.自然環境保全」分野は減少しました。

環境産業の市場規模は、2000年から2003年にかけて約60兆円で微増の動きにとどまっていましたが、2004年以降は徐々に増加傾向が強まり、2006年には90兆円台に達しました。

ただし、2008年の96兆円をピークに、2009年は世界的な金融危機の影響による景気減速から70兆円台後半にまで落ち込みました。

2010年は景気の持ち直しもあり、90兆円近くまで回復し、2013年には100兆円を突破しています。

この増加については、「B.地球温暖化対策」分野が寄与しており、、2014年以降は概ね増加傾向で、2020 年は対前年比で減少でしたが、2021年は再び増加に転じました。この減少については、コロナウイルス感染症の拡大による影響が考えられています。

参考:環境省「令和5年度環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」

売上の多くは大手が占める

環境関連業界の中でも市場規模の大きい廃棄物処理・資源有効利用分野ですが、その売上の多くは大手企業が占めています。今後、産業廃棄物処理設備や処理技術が進歩するにつれて、技術開発力のある大手とそれ以外の企業でさらに売上の差が開く予想です。

産業廃棄物排出量は減少傾向

環境省「令和4年度環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」

出典:https://www.env.go.jp/content/900517693.pdf

政府は2018年「第4次循環型社会形成基本計画」のなかで、国内の産業廃棄物排出量を2025年には390百万トンに抑えるとの目標を掲げました。

現状では国内の産業廃棄物排出量は減少傾向にあり、2005年~2008年頃は400百万トンを超えていましたが、2017年以降は400百万トンを下回っており、政府が目標とする390百万トンに向けて推移しています。

環境省は2025年以降も減少傾向が続くとみており、「GDPあたり産業廃棄物排出量」予測値に近い割合で減少するとの推察しています。

参考:環境省「令和5年度環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書」

新技術・設備の開発にも力を入れている

前述した産業廃棄物処理業界の課題を解決するため、産業廃棄物処理設備や処理技術の開発企業は、積極的に技術開発を進めています。世界的に産業廃棄物問題が深刻であることから、産業廃棄物処理設備や処理技術の輸出も、その目的です。

このように、産業廃棄物自体の量が増え、需要は増えています。これをどのように処理するかが課題でもあり、業界内では活発に新しい技術や設備の開発が行われている状況です。一方、市場のほとんどを上場企業が占めている状態で、中小企業は生き残りが難しいともいえます。

産業廃棄物処理業界が抱える課題

産業廃棄物処理業界が抱える課題として、産業廃棄物処理場の不足があります。環境省の資料より中間処理施設の数を見ると、平成16年度には20,613個であったのに対して、令和4年度には19,413個となっています。最終処分場の数を見ると、平成16年度には2,478個であったのに対して、令和4年度には1,568個です。

国による環境ビジネスの推進や国民・企業の環境に対する意識の高まりから、産業廃棄物処理の需要は増している状況です。

その一方、産業廃棄物処理場を設置しようとしても、地域住民の反対により計画が進まない事態が相次いでいます。産業廃棄物処理場が周辺地域に与える悪影響を減らすため、国や業界にとってクリーンな産業廃棄物処理設備や処理技術を開発するのが差し迫った課題です。

参考:環境省「産業廃棄物処理施設の設置、産業廃棄物処理業の許可等に関する状況(令和3年度実績等)について」

3. 産業廃棄物処理業界のM&A動向

産業廃棄物処理業界のM&A・売却・買収動向には、主に以下3つの特徴がみられます。

①大手を中心にM&Aが行われている

日本の産業廃棄物処理技術は非常に高く、世界でもトップレベルといわれていますが、近年はその技術がさらに進歩して生産性が向上してきました。加えて、国内人口は減少し続けていることもあり、産業廃棄物処理を行う事業者数は将来的に減少すると考えられています。

また、産業廃棄物処理業は許認可制となっていますが、要件を満たしていても管轄自治体から新規事業者の必要性がないと判断されれば認可はおりません。

このような背景により、産業廃棄物業界のM&Aでは大手事業者が業績が下降している中小規模の事業者を取得して事業拡大を目指すケースや、新規参入目的で許認可を持っている事業者を取得するケースが多くみられます。

②新技術目当てのM&A増加が予測される

産業廃棄物処理業界の今後の動向は、産業廃棄物処理設備を積極的に海外へ売り込む流れが進む見込みです。大手企業では、いち早く産業廃棄物処理技術を完成させるため、M&Aによって新たな産業廃棄物処理技術の取得を増やすことが予想されます。

③許認可制のため新規参入は難しい

産業廃棄物業は許認可制であり、都道府県知事の許可がなければ事業を行うことはできません。ですが、産業廃棄物関連の許認可取得は非常に厳しく、地方自治体が新規事業者は必要ないと判断すれば許認可申請は通らないため、新規参入は難しいのが現状です。

また、産業廃棄物業は廃棄物処理法・水質汚濁防止法・大気汚染防止法などの法律による制限も多いことも、新規参入が難しい理由のひとつとなっています。

許認可の取得や法律による制限に加え、産業廃棄物業を行うためには周辺環境への配慮や地域住民の理解も必要です。このような理由からゼロからの新規参入は非常にハードルが高いため、産業廃棄物業界でM&Aを行うメリットは非常に大きいといえます。

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4. 産業廃棄物処理業界のM&Aメリット

産業廃棄物処理業界のM&Aで売却側・買収側が得られる主なメリットには、以下が挙げられます。この章では、産業廃棄物処理業界のM&Aにおけるメリットを、売却側・買収側それぞれの立場から解説します。
 

売却側のメリット 買収側のメリット
  • 従業員の雇用確保
  • 後継者問題の解決
  • 売却・譲渡益の獲得
  • 大資本による経営基盤の安定
  • 個人保証・債務・担保・廃業費用などの解消
  • 人材の確保
  • グループ内の事業を強化
  • 設備・施設などを低コストで獲得
  • 顧客・取引先・ノウハウなどの獲得
  • 周辺・関連事業への参入

売却側のメリット

産業廃棄物処理業界でM&Aを行う際、売却・譲渡側には以下のメリットが挙げられます。

従業員の雇用確保

産業廃棄物処理業界の専門技能を持つ人材は貴重です。会社を売却・譲渡する際に従業員も引き継がせれば、従業員の雇用を確保でき、人的資産を守れます。

後継者問題の解決

産業廃棄物処理業界も他業界と同じく、中小企業の後継者不足が課題です。M&Aによる売却・譲渡で事業承継が実現します。

売却・譲渡益の獲得

産業廃棄物処理業を行う会社が解散する場合、事業内容によっては清算に多額の費用がかかります。一方、M&Aで売却・譲渡する場合、清算費用は必要ありません。そのうえ、売却・譲渡益を得られ、リタイア資金や新事業の資金に充てられます。

大資本による経営基盤の安定

今後、産業廃棄物処理業界では、技術の進歩が加速する見込みです。M&Aによる会社売却で大手資本の傘下に入れれば、技術開発資金が得られたり大手の技術力を活用できたりするメリットがあります。

個人保証・債務・担保・廃業費用などの解消

廃業する場合や親族に事業を引き継ぐ場合、経営者や後継者にとって個人保証・債務・廃業費用などが大きな負担です。しかし、他企業に会社を売却すれば、これらの資金的負担を解消できます。

買収側のメリット

産業廃棄物処理業界でM&Aを行う際、買収側は主に以下のメリットが獲得できます。

人材の確保

今後、技術が発展していく産業廃棄物処理業界では、技術者の確保が重要です。買収側はM&Aによって、技術者をはじめとした人材を確保できます。

グループ内の事業を強化

産業廃棄物処理業界では、大手によるM&A増加でグループ企業の連携が進んでいます。M&Aによる買収であれば、短期間でグループ内事業の強化が可能です。

設備・施設などを低コストで獲得

産業廃棄物処理業界で事業を拡大するには、多くの費用と時間が必要です。しかし、M&Aによって関連施設や設備を取得できれば、コストを抑えられます。

顧客・取引先・ノウハウなどの獲得

産業廃棄物処理業界は地方自治体や周辺住民など、地域関係者の理解と協力がなければ事業を行えません。M&Aによって、関係者のコネクションや事業ノウハウ・許認可などを獲得できれば、スムーズに事業を進めることが可能です。

周辺・関連事業への参入

産業廃棄物処理業界は、関連する事業範囲が広いです。他分野へ事業ノウハウを応用しやすい分野でもあります。M&Aによる買収で関連事業を取得できれば、事業領域の拡大だけでなく、事業シナジー効果も得られます。

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5. 産業廃棄物処理業界のM&Aにおける注意点

本章では、産業廃棄物処理業界でのM&Aで買収側・売却側がそれぞれ気をつけるべき点を解説します。

買収側の注意点

買収側の注意点は主に以下の2つがあります。買収後の事業運営にかかわる要素なので、しっかり確認することが重要です。

決算書の確認

産業廃棄物処理業の作業工程は、収集運搬業・中間処理業・最終処分業に分かれます。1社で全工程を行う会社もあれば、そのいずれかを事業としている会社も多いです。仮に、3種の事業それぞれで買収先候補がいる場合、1つの目安として利益率があります。

収集運搬業に比べて、中間処理業や最終処分業は、設備や廃棄物埋め立て用の土地などを所有していなければ事業ができません。

したがって、参入障壁も中間処理業や最終処分業の方が高いため、それだけ会社の売上規模や利益率が大きい傾向にあります。買収先候補の決算書をよく確認し、比較してM&A相手を選びましょう。

許認可・設備・人材の確認

産業廃棄物処理業は許認可制であるため、売却側企業が基準・規定を満たしているかをしっかり確認しておくことが重要です。

そのほか、人材獲得を目的としている場合は、売却側の従業員構成を確認しておく必要があります。その際は従業員が継続して勤務してくれるかという点だけでなく、従業員の年齢も経験なども確認しておきましょう。

また、売却側の設備についての確認も不可欠です。中間処理業や最終処分業の場合は施設・設備の耐久年数や規格、収集運搬業の場合は車両の耐久年数を確認しておき、維持・メンテナンスにかかる費用を見越しておく必要があります。

売却側の注意点

売却側の注意点としては、主に以下の3つが挙げられます。

法令遵守の姿勢

昨今、企業のコンプライアンス(法令順守)の姿勢に対して、社会から厳しい目が向けられるようになりました。産業廃棄物処理業の場合、これまでも不法投棄の問題が指摘されています。

仮に、不法投棄で近隣住民とトラブルになった過去があれば、M&Aは破談となりかねないため、相手先企業に対して法令遵守の姿勢をしっかりみせることが重要です。

社内の管理体制整備

企業のコンプライアンス(法令順守)を徹底するためには、法規制にのっとった業務を行うよう、従業員一人ひとりに十分な指導・教育が必要です。

そのような社内管理体制の整備とともに、産業廃棄物管理表の適切な処理がされているか確認しましょう。それらができていないと、M&Aに支障が出る可能性があります。

地域住民の理解

産業廃棄物処理業は、その特性上、地域住民の理解がなければ安定した経営は難しくなります。特に処理段階で生じる匂い・騒音・振動などはトラブルの原因となりやすいため、環境と住民への配慮が不可欠です。

M&Aを行う前に売却側は自社の状況をあらためて確認し、もし問題点やトラブルとなる要素がある場合は対応しておく必要があります。

6. 産業廃棄物処理業界のM&Aを成功させるポイント

産業廃棄物処理業界でM&Aによる売却・譲渡を成功させるには、以下の5つのポイントを把握しておくことが重要です。

①アピールポイントを持つ

産業廃棄物処理業界は範囲が広く、買収側は自社にはない技術などを求めて買収するケースが多いです。売却・譲渡側は、特定の分野で強みを持つことで買い手が見つかりやすくなります。

②売却・譲渡までに準備を行う

産業廃棄物処理業界は比較的売却側が優位な業界ですが、好条件で売却・譲渡を行うにはM&A前に綿密な準備が必要です。

具体的には、自社分析・市場分析・M&A戦略の策定など、売却・譲渡の準備をしっかりと行うことで良い結果が得られる可能性が高まります。

③新技術・特許などを有している

産業廃棄物処理業界は、日々技術が進歩しています。技術競争は国内だけでなく、世界で行われているため、買収側は新技術や特許を強く求めている状況です。売却側が新技術の開発途中でも、将来性のある技術には買い手が見つかる傾向があります。

④施設・設備が充実している

産業廃棄物処理業界の施設や設備は他業界と比べて寿命が短く、20年から30年ほどで刷新しなければなりません。したがって、買収側では、施設・設備の性能や寿命も重視します。

⑤M&Aの専門家に相談する

M&Aによって事業の売却を行うには、産業廃棄物処理業界における知識のほか、法令や会計・税務の知識など広範囲の知識が必須です。交渉能力や柔軟な判断力も求められます。

M&A仲介会社は、これらの煩雑な実務を一貫してサポートしています。M&Aによる売却・譲渡を検討する際は、まずM&Aの専門家に相談するのがおすすめです。

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7. 産業廃棄物処理会社をM&Aで売却する流れ

産業廃棄物処理業界のM&A・売却を行う場合、大まかな流れを把握しておくとスムーズに交渉や異手続きを進めていくことができます。ここでは、産業廃棄物処理業界のM&Aの一般的な流れをみてきましょう。

M&A・売却の目的を明確にする

具体的なM&A・売却の手続きを進める前に、自社(事業)を売却する目的を明確にし、そのうえで希望条件を決めておきましょう。目的を明確化しておくことで、交渉相手先の選定時や条件譲歩が必要な場面での判断がしやすくなります。

また、目的が定まっていなければ効果的なM&A戦略を策定することはできないため、何を目的として自社(事業)を売却するのかを初期段階で明確にしておくことが重要です。

M&Aの専門家へ相談する

M&A・売却の意思が固まり目的や希望条件が明確になったら、次はM&A仲介会社などの専門家へ相談して支援業務を依頼します。

支援を依頼する専門家を選ぶ際は必要なサポートが受けられるか、料金体系は明確であるか、アドバイザーとの相性はよいかなどを総合的に判断するとよいでしょう。依頼する専門家が決まったら業務委託契約を締結して、具体的にM&Aを進めていく流れとなります。 

M&A候補先の選定

M&A仲介会社などの専門家に支援業務を正式に依頼したら、次は交渉先となる相手企業を探します。希望条件にあった複数社をアドバイザーがピックアップしてくれるので、そのなかから条件・目的・想定されるシナジーなどから絞り込む流れが一般的です。

この時点では「ノンネームシート」と呼ばれる資料を基に選定を進めていきます。ノンネームシートとは、企業名や詳細情報は伏せて大まかな事業内容や所在地などを記した資料です。

そして、具体的な交渉に進みたい企業が決まり、相手企業もM&Aに前向きであれば、秘密保持契約を締結してから互いの社名や具体的な事業内容など詳細情報を開示します。

トップ面談

ここから具体的なM&A交渉へと進みますが、次は売却側・買収側のトップ同士が顔合わせを行う場が設けられます。トップ面談と呼ばれ、双方のトップ同士が直接会って経営理念・企業風土・M&A後のビジョン・互いの人間性などを確認する場です。

信頼関係の構築が大きな目的なので、トップ面談では条件・価額など具体的な交渉は行わなず、売却側は自社を任せるのにふさわしいか、買収側はM&A後のビジョンが描けるかなどを主に確認します。

基本合意書の締結

トップ面談が終わり、M&A価額や諸条件などに互いが大筋合意した段階で、基本合意書を作成して締結します。

基本合意書には、M&Aの価額や条件・使用スキーム・スケジュールなど、締結時点までで取り決めて内容を記載しますが、この時点ではM&A成立が確定しているわけではないため、基本合意書自体に法的な拘束力はありません。

ただし、独占交渉権やデューディリジェンスに関する事項など、一部の内容は法的拘束力を持たせることが一般的です。

買収側によるデューデリジェンスの実施

基本合意締結後は、買収側が売却側に対してデューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスとは、対象企業の実態を法務・人事・財務などの各方面から行う調査のことです。

デューデリジェンスによって、買収側はM&Aによるリスクの有無や程度、事前開示された情報の正確性を調査し、条件や価額の妥当性やM&A実行可否を判断します。

最終交渉・最終契約の締結

デューデリジェンス実施後、買収側がM&A実行を決断したら最終交渉へと進みます。最終交渉にはデューデリジェンスの結果が反映されるため、場合によっては条件や価額が基本合意締結時と変わる可能性もあります。

そして、交渉内容のすべてに双方が合意したら、最終契約書を作成して締結してM&Aが成立します。最終契約書は記載されたすべての事項に法的拘束力があるため、締結前に内容をしっかり確認することが重要です。

また、最終契約締結以降は、原則としてM&Aの撤回や条件変更は認められません。万一、認められる理由なくM&Aを撤回したり、一方的に条件を変更したりした場合、相手側から損害賠償請求を受けることもあります。

クロージング

クロージングとは、M&Aの対象企業(あるいは事業)の経営権を買収側へ移転させる手続きのことです。必要な手続きは使用したM&A手法によって変わりますが、株式譲渡であれば株式の引き渡し・対価の決済・株主名簿の書き換え・役員の改選などを行います。

クロージングは最終契約の内容に基づいて行われますが、実施するためにはクロージング条件と呼ばれる前提事項を満たしていなければなりません。

そのため、最終契約の締結後、一定期間を空けてからクロージングを行うケースが一般的です。このクロージング完了をもって、M&Aの手続きは完了となります。

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8. 産業廃棄物処理業のM&A事例

ここでは、産業廃棄物業界のM&A事例を紹介します。

タケエイによる泉山林業の子会社化

2024年1月、タケエイは泉山林業の全ての株式を取得し、子会社化しました。

タケエイのTREホールディングスグループは、廃棄物処理・再資源化事業、資源リサイクル事業、再生可能エネルギー事業を行う企業です。対象会社の泉山林業は、立木(りゅうぼく)を伐採して素材に加工、用材やチップの販売を行う素材生産業者です。また、林業分野における専門的な知見に特化しています。

今回のM&Aにより、タケエイは林業分野における熟練した人材を獲得、木質バイオマス発電事業における安定的な燃料材調達を目指します。また、再生可能エネルギー事業のさらなる拡大を目指します。
 

株式会社泉山林業の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

日東化工による湘南エヌテイケーの吸収合併

2023年11月、日東化工は湘南エヌテイケーの吸収合併を行いました。

日東化工は、主にゴム製品、樹脂製品の製造・販売を行っており、エンビプロ・ホールディングスの連結子会社です。エンビプロ・ホールディングスは、総合リサイクル、トレーディング、障がい福祉、環境コンサルティングなどを行っています。

対象会社の湘南エヌテイケーは、ゴム製品、樹脂製品の販売・施工を行っています。

今回のM&Aにより、事業のさらなる収益基盤の強化や業務効率化を図ります。

日東化工株式会社「吸収合併に関するお知らせ」

TREホールディングスによるタッグの子会社化

2023年10月、TREホールディングスは子会社のタケエイを通じ、宮城県のタッグを子会社化したと発表しました。TREグループは廃棄物処理業・資源リサイクル事業・再生可能エネルギー事業などを手掛けています。

子会社となったタケエイも廃棄物処理事業・資源リサイクル事業などを手掛ける企業です。東北6県と北海道エリアを中心に事業を展開しており、プラスチック廃材の再商品化事業を行っています。

今回のM&Aは、一般廃棄物を含む市場拡大を図ることが目的です。TREホールディングスは、タケエイをグループに加えることで互いのノウハウ・技術を生かしてリサイクル技術を深化を進めるとしています。

参考:TREホールディングス株式会社「株式会社タッグの株式取得(連結子会社化)に関するお知らせ」

環境のミカタによるシーピーセンターの子会社化

2023年5月、産業廃棄物・一般廃棄物の運搬処理事業を手掛ける環境のミカタは、愛知県のシーピーセンターを子会社化すると発表しました。

子会社となるシーピーセンターは、パソコンやOA機器などのリサイクル・リユース事業を手掛ける企業で、機器の引取り・データ消去から再販業務までを行っています。

本M&Aは、成長分野のシーピーセンターを子会社化することで業容拡大とシナジー創出を図ることが目的です。また、環境のミカタが手掛ける環境コーディネート事業では、関東エリアへの本格参入時にシーピーセンターの事務所を活用するほか、愛知県への事業拡大も進めていくとしています。

参考:環境のミカタ株式会社「株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」

ダイセキ環境ソリューションによる杉本商事の子会社化

2023年3月、土壌汚染対策事業を手掛けているダイセキ環境ソリューションは、滋賀県の杉本商事を子会社化すると発表しました。子会社となる杉本商事は、一般廃棄物や廃プラスチックなど産業廃棄物の運搬処理事業を滋賀県中心に展開しています。

ダイセキ環境ソリューションは今回のM&Aによって、産業廃棄物および一般廃棄物の運搬処理事業などを新たに加え、顧客に対する解決策・提案策の幅を広げることが狙いです。また、互いのノウハウを共有することで、再生エネルギーなど新事業を立ち上げることも視野に入れているとしています。

参考:株式会社ダイセキ環境ソリューション「株式会社杉本商事との戦略的な資本業務提携及び連結子会社化に関するお知らせ」

富士興産による環境開発工業の子会社化

2022年9月、富士興産は環境開発工業の発行済みの全株式(自己株式を除く)を取得し、同社を子会社化しました。子会社となった環境開発工業は、産業廃棄物収集運搬・処理業や再生資源製造・販売業などを手掛ける北海道の企業で、道内の優良産廃処理業者に認定されています。

富士興産は、アスファルト・燃料油・グリーン商品などの仕入販売を手掛ける企業です。CSR(企業の社会的責任)を軸に地球環境保全へも積極的に取り組んでいます。

富士興産は、グループ内でのシナジー創出および新規事業の推進による中長期的な成長を目指すとし、本M&Aに至りました。

参考:富士興産株式会社「環境開発工業株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ 」

リファインバースグループによるコネクションの子会社化

2022年6月、リファインバースグループはコネクションの全発行済み株式を取得し、同社を子会社化すると発表しました。子会社となるコネクションは産業廃棄物収集運搬・処分業を手掛ける足立区の企業で、都内に廃棄物中間処理施設を保有しています。

リファインバースグループは、廃棄物を原材料として素材や新資源や素材を製造する再生素材メーカーです。リファインバースグループは、現在、プラスチックケミカルリサイクルの原材料調達および供給の事業化に取り組んでいます。

本M&Aはその一環として行われたものです。リファインバースグループはコネクション取得することで廃プラスチックの回収や資源化・品質基準の確立等の課題に対応できる体制を構築するとしています。

参考:株式会社リファインバースグループ「[開示事項の経過]株式取得(子会社化)関する株式譲渡契約締結のお知らせ 」

TOKAIによるウッドリサイクルの子会社化

2022年5月、TOKAIホールディングス傘下のTOKAIは、ウッドリサイクルの全株式を取得して子会社化すると発表しました。子会社となるウッドリサイクルは、木材チップ製造、産業廃棄物および一般廃棄物の木くずや廃材中間処理を手掛ける静岡県の企業です。

TOKAIは、LPガス・宅配水事業を主軸として、建築業・設備工事業・不動産売買業などを行っています。TOKAIはグループが掲げる「カーボンニュートラルビジョン」実現を目指した取り組みを進めており、本M&Aもその一環として行われたものです。

TOKAIはウッドリサイクルの木材チップを利用した発電事業の展開も視野に入れ、取り組みを進めていくとしています。

参考:株式会社TOKAI「 株式会社ウッドリサイクルの株式取得 に係る契約締結のお知らせ 」

北日本紡績による金井産業の子会社化

2021年10月、北日本紡績は山口県の金井産業を子会社化すると発表しました。子会社となる金井産業は、合成樹脂の製造販売・合成樹脂製造関連の機械器具の販売リース・産業廃棄物の収集運搬および処理を手掛ける企業です。

北日本紡績は、紡績糸や合繊の製造販売やカラム蘇生材の販売を手掛けています。本M&Aはリサイクル事業への本格進出が目的であり、金子産業の保有する産業廃棄物収集運搬業の許認可や中間処理設備を獲得し、新規事業への進出を図るとしています。

参考:北日本紡績株式会社「金井産業株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」

エンビプロ・ホールディングスによる富士見BMSのM&A

エンビプロ・ホールディングスは、2021年10月、子会社のエコネコルを通して、富士見BMSの全て株式を取得し子会社化しました。

エンビプロ・ホールディングスは、水回りの住宅関連商材・浄化槽・産業排水処理などを手掛ける会社です。対象会社の富士見BMSは、産業廃棄物である木くずをバイオマス資源として活用する、木質チップの製造販売を行う会社です。

今回のM&Aにより、子会社エコネコルの主要事業拠点である静岡県のドミナント戦略を推し進めるとしています。

参考:株式会社エンビプロ・ホールディングス「連結子会社における株式取得(子会社化)に関するお知らせ」

ミダックホールディングスによる柳産業の子会社化

2021年9月、ミダックホールディングスは柳産業の発行済み全株式を取得し、同社を子会社化すると発表しました。子会社となる柳産業は、建設廃棄物の産業廃棄物中間処理事業および産業廃棄物収集運搬事業を手掛けつ静岡県の企業です。

ミダックホールディングスはグループで廃棄物処理・管理などのソリューション事業を手掛けており、本M&Aは東海地区における営業基盤の強化とグループの業容拡大を目的に実施されました。

また、ミダックホールディングスは柳産業の子会社化によって、既存施設で行っている廃棄物処理を同社運営の中間処理施設へ徐々にシフトし、事業基盤の強化も図るとしています。

参考:株式会社ミダックホールディングス「株式取得(子会社化)に向けた基本合意書締結のお知らせ 」

ヤマダホールディングスによる三久のM&A

2021年3月、ヤマダ電機などを傘下に持つヤマダホールディングスは、一般・産業廃棄物の運搬および中間処理業を行う三久の全株式を取得し完全子会社化しました。

ヤマダホールディングスの傘下にはヤマダ環境資源開発ホールディングスがあり、三久を新たに傘下に加えることでグループとして環境関連事業の強化を図るとしています。

参考:株式会社ヤマダホールディングス「株式会社三久の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」

9. 産業廃棄物処理業界のM&Aまとめ

産業廃棄物処理業界は、現在も徐々に伸び続けている業界です。しかし、参入障壁が高いことから、M&Aが活発に行われています。M&Aを検討する際は、売却側・買収側それぞれのメリットを把握しておくのが良いでしょう。

ただし、産業廃棄物処理業界におけるM&A・売却・買収には、専門知識が必要です。したがって、M&A仲介会社のサポートを受けながら進めることをおすすめします。

10. 産業廃棄物・環境業界の成約事例一覧

11. 産業廃棄物・環境業界のM&A案件一覧

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