2025年12月17日公開
プロキシーファイトとは?委任状争奪戦のメリットデメリットや事例を解説!
プロキシーファイトとは、株主と経営陣または対立する株主間で行われる株主総会の議決権委任状争奪戦のことです。プロキシーファイトの概要やメリット・デメリット、株価に与える影響などを解説するとともに、日本で行われた実際のプロキシーファイト事例の紹介もします。
1. プロキシーファイトとは
プロキシーファイト(Proxy Fight)とは、株主総会における決議にあたって、ある株主が他の株主の議決権の委任状を、経営陣や対立する株主と奪い合う争奪戦のことを指します。Proxyとは「委任状、代理権、代理投票」といった意味です。
株主には、株主総会において株主提案を行える権利があります。プロキシーファイト(委任状争奪)を言い換えれば、株主総会での多数派工作と言えるでしょう。
議決権とは
プロキシーファイトに関連する議決権とは、株主総会における議決事項に対し賛否を投票できる権利のことです。株式会社の経営方針・事業内容などの重大事項は、全て株主総会で決められます。
一般に、株式会社の発行する株式には議決権が付与されており、株主の所有する株式数が多いほど議決権はそれに比例した力を持つものです。なお、例外的に種類株式のなかには、議決権を持たない議決権制限株式もあります。
委任状とは
プロキシーファイトに関連する委任状とは、議決権を持つ株主が自身の議決権の行使を代理人に委ねることを証する書面です。当然ながら、代理人の氏名も明記されていなければなりません。
全体の半数未満の議決権しか所有していない株主が、確実に自身の提案を株主総会で可決しようとすれば、委任状を含めて過半数あるいは3分の2以上の議決権を集めることが必要です。
また、プロキシーファイトでは委任状と類似する書類として、議決権行使書があります。議決権行使書とは、株主総会に出席できない株主が、事前に書面で議決事項に対する自身の賛否を表明するものです。選挙で実施されている期日前投票のようなものが議決権行使書であり、経営側が株主に対して発行します。
株主総会における決議の種類
取締役設置会社が株主総会で決議を行う場合、可決となる条件が会社法で定められています。決議には以下の3種類があり、その条件はそれぞれ異なるものです。
- 普通決議
- 特別決議
- 特殊決議
株主総会における各決議の違いを説明します。内容説明における「定足数」とは、該当する議決の実施を成立させるために必要な株主(議決権を持つ株主)の出席数のことです。なお、株主総会における定足数は、定款による変更が認められています。
普通決議
株主総会の普通決議は、出席議決権数の過半数の賛成で可決できる議決事項です。多くの該当事項がありますが、主なものを以下に記します。
- 株主総会議長、総会検査役、業務財産検査役の選任
- 株主総会の議事運営、延期・続行の決定
- 取締役の選任・解任
- 資本金の増加
- 資本準備金の減少・増加
- 剰余金の処分・配当
- 自己株式の取得
- 計算書類の承認
- 会計監査人の出席要求
- 会社と取締役が訴訟で争う場合の会社側代表者の選定
株主総会における普通決議の定足数は、「出席株主の合計議決権が過半数であること」です。
特別決議
株主総会の特別決議は、出席議決権数の3分の2以上の賛成で可決できます。特別決議が必要とされている主な議決事項は以下のとおりです。
- 定款変更
- 各種M&A(事業譲渡、吸収合併、吸収分割、株式交換、新設合併、新設分割、株式移転、株式交付)の承認
- 会社の解散および解散した株式会社の継続
- 現物配当
- 資本金額の減少
- 取締役・監査役の一部責任免除
- 累積投票取締役・監査役の解任
- 新株予約権の発行
- 募集株式の募集事項
- 譲渡制限株式の買取
- 譲渡制限株主の相続人への売渡請求
- 特定株主からの自己株式取得
- 株式併合
- 全部取得条項付種類株式の取得
株主総会における特別決議の定足数は、普通決議と同様に「出席株主の合計議決権が過半数であること」です。
特殊決議
株主総会の特殊決議は2種類あり、その1つの可決要件は、議決権を持つ出席株主の過半数の賛成、かつ出席議決権数の3分の2以上の賛成です。この特殊決議が必要とされている議決事項は以下のものが規定されています。
- 全株式の譲渡制限株式への変更
- 合併時の消滅会社側への対価、および株式交換、株式移転時の子会社側への対価に譲渡制限株式を用いる
もう1つの特殊決議の可決要件は、総株主の過半数の賛成、かつ総株主の議決権数の4分の3以上の賛成です。この特殊決議が必要とされる議決事項は以下のようになっています。
- 人的属性に基づいて株主ごとに異なる権利とする定款の変更
特殊決議の可決要件は普通決議や特別決議よりも厳しくなっており、普通決議や特別決議のような定足数の規定はありません。いずれにしても、特別決議や特殊決議では、普通決議よりもプロキシーファイトによって、より多くの委任状を争奪する必要があります。
ただし、これを逆説的に捉えると、反対勢力として3分の1以上の委任状を争奪できれば、相手側の特別決議や特殊決議の可決を妨げることが可能です。これにより、両勢力による交渉の余地が生まれるのです。
委任状争奪がもたらす株価への影響
プロキシーファイトの動向が確認されると、当該企業の株価は上がる傾向にあります。これは、プロキシーファイトの渦中にある勢力が、単に委任状争奪を行うだけでなく、市場で株式も取得し議決権数を上乗せしようとするだろうという投資家の推測に基づくものです。
市場で株式の買い集めが行われれば株価は上昇しますが、キャピタルゲインを狙った一般投資家も株式を買うため、さらに株価は上昇します。ただし、プロキシーファイト終了後は、一般投資家による利益確定売りが行われる可能性が高く、そうなると株価は下落するでしょう。
2. プロキシーファイトのメリット
ここでは、プロキシーファイトのメリットを確認しましょう。プロキシーファイトの主なメリットには、以下のようなものがあります。
- 株主主導による経営の実現
- 株主利益の確保
- 力量不足な経営陣の退陣
- 企業価値の上昇
- 敵対的買収の防止
プロキシーファイトの各メリットについて説明します。
株主主導による経営の実現
プロキシーファイトによる株主側のメリットの1つは、株主の意向に配慮した経営に転換されることです。プロキシーファイトの結果いかんに関わらず、プロキシーファイトが行われるということは、現経営陣に対して反発や不満を持つ株主がいることを意味します。
経営陣としては、近年、そのような状況への配慮が求められる風潮があることを無視できないのです。また、プロキシーファイトに応じる労力を考えれば、プロキシーファイトに力を尽くすよりも経営そのものに注力すべきともいえます。
株主利益の確保
プロキシーファイトによる株主のメリットには、「利益の獲得が見込める」こともあります。プロキシーファイトによって株主の意向に配慮した経営が行われるということは、経営陣が自社株買いや増配などの対応を行う可能性が増すということです。
一般的に会社が自社株買いを行うと株価は上がる傾向にあり、株式の資産価値は上昇します。増配が行われれば配当収入が増えるのは、言うまでもありません。
力量不足な経営陣の退陣
プロキシーファイトの成功によって、力量が足りていない経営陣を刷新できるというメリットがあります。創業者によるワンマン経営や同族による経営陣の独占化、あるいは力量に疑問符が付く取締役など、経営陣の顔ぶれに問題を抱える企業は少なくありません。
取締役の選任・解任は株主総会の普通決議で可決できるため、過半数の委任状を争奪できれば実現できます。
企業価値の上昇
プロキシーファイトによって経営陣が入れ替わったり、経営方針が軌道修正されたりすると、低迷していた業績が回復したり、市場から評価を受けて株価が上昇したりなど、企業価値向上効果が得られるメリットも十分あり得ます。
ただし、プロキシーファイトの内容が各陣営のエゴのぶつかり合いのようなケースでは、評価を下げる恐れがあり注意が必要です。
敵対的買収の防止
プロキシーファイトは、敵対的買収を仕掛けられた際における防衛策としての活用メリットもあります。敵対的買収は必ずしも悪いことではありません。
しかし、既存株主の意向を無視していたり、既存株主の利益に配慮していなかったりなどの態度が敵対的買収側にある場合、プロキシーファイトで過半数や3分の2以上の委任状を争奪できれば、買収を阻止できます。
3. プロキシーファイトのデメリット
プロキシーファイトのメリットだけでなく、プロキシーファイトのデメリットにも着目しておきましょう。以下のような点が、プロキシーファイトの主なデメリットとされています。
- 労力や出費の負担
- 事業停滞
- 株価が乱高下する可能性
プロキシーファイトの各デメリットについて説明します。
労力や出費の負担
プロキシーファイトのデメリットの1つは、時間、労力、出費などの負担が発生することです。プロキシーファイトでの出費とは、委任状争奪のために各種メディアで意見広告を行って発生します。
この出費は回収できる類いのものではありません。費やした時間や労力も同様です。そのうえ、仮にプロキシーファイトに敗れた場合は、何の報いも得られません。
事業停滞
プロキシーファイトの結果によって株主利益を最優先化するような経営方針に転換した場合、短期的には株主利益は向上するでしょう。しかし、中長期的視点に立った経営方針、経営戦略を敷いていないと、事業の先行きが悪くなる恐れがあります。
また、プロキシーファイトにより、役員全員が入れ替えとなるような場合、経営上の十分な引継ぎが損なわれ事業が一時的に停滞してしまうかもしれません。
株価が乱高下する可能性
プロキシーファイトのデメリットとして、株価の乱高下も指摘されています。株価が上がるだけなら株主にとって歓迎すべきところですが、株式の買い集めによる株価上昇後、投資家によって利益確定売りが大量に行われれば、株価が下がるのは必定です。
また、プロキシーファイトの内容によっては企業イメージが悪化することも考えられ、その場合も株価は下がってしまうでしょう。
4. プロキシーファイトの進め方
ここでは、プロキシーファイトの具体的な進め方を確認しましょう。一般に、プロキシーファイトは、以下のようなプロセスで進められます。
- 株主による株主名簿の閲覧
- 株主による委任状用紙の送付
- 会社側による議決権行使書の送付
- 委任状・議決権行使書の回収
- 株主総会の開催・決議
プロキシーファイトの各プロセスについて説明します。
株主による株主名簿の閲覧
プロキシーファイトの最初のプロセスは、株主側による株主名簿の閲覧です。株主には、株主名簿の閲覧権と謄写権があるため、閲覧した株主名簿の書き写しもできます。議決権の委任状を送付するため、それらの権利を行使して他の株主の所有者名、連絡先、株式所有数などを調べてリストを作成するのです。
株主による委任状用紙の送付
株主側のプロキシーファイトの次のプロセスは、株主への委任状の送付です。委任状に決まったフォーマットはありませんが、代理人は誰か(誰に委任するか)を明記してある必要があります。
ただし、面識のない相手に委任状だけを送りつけても委任してくれるかどうかはわかりません。そこで事前に、大株主には直接会って自分の考えを説明したり、一般株主に向けては新聞広告やその他の方法を使って意見表明したりといったことを行います。
会社側による議決権行使書の送付
プロキシーファイトが展開されている場合、株主側の委任状送付と並行して、会社側も株主からの委任状集めを行います。ただし、会社側が用いる書面は「議決権行使書」です。
議決権行使書の本来の目的は、株主総会に出席できない株主が、用意されている議案に対して賛成、または反対を事前に書面で表明して議決権を行使することにあります。会社側としては、経営陣の議案に賛成する株主の議決権行使書を集めることが事実上の委任状争奪です。
委任状・議決権行使書の回収
株主側による委任状の送付、会社側による議決権行使書の送付後のプロキシーファイトのプロセスは、それぞれ委任状、議決権送付書の返送を待つことです。
株主総会開催までに回収した委任状、議決権行使書の結果が、そのまま株主総会の決議を左右します。なお、議決権行使書の場合、必ずしも全てが会社側に賛同した内容ではない可能性があり注意が必要です。
株主総会の開催・決議
プロキシーファイトの最終プロセスは株主総会における決議です。ただし、決議の可決要件を満たす勢力がいなかった場合、どの議案も否決扱いになる可能性があります。その場合、その場で修正議案が検討されたり、後日の各勢力の交渉後、臨時株主総会で修正議案の決議が行われたりするでしょう。
5. プロキシーファイトの事例
ここでは、日本で実際に行われたプロキシーファイトの事例を紹介します。取り上げる事例は以下の4事例です。
- 大塚家具における大株主間のプロキシーファイト事例
- サッポロホールディングスとスティール・パートナーズによるプロキシーファイト事例
- 東京放送ホールディングス(TBS)と楽天によるプロキシーファイト事例
- 東京スタイルと村上ファンドによるプロキシーファイト事例
各プロキシーファイト事例の具体的な内容を説明します。
大塚家具における大株主間のプロキシーファイト事例
2015(平成27)年に起こった大塚家具におけるプロキシーファイトは、創業者で前社長である大株主の父と、その娘であり大株主の現社長との間で行われました。業績が低迷中の大塚家具でしたが、社長に復帰したい父と、今のまま自分が社長を続けることがベストと考える娘との間のプロキシーファイトです。
結果は娘が勝ったものの業績回復は実現せず、その後、ヤマダホールディングスの傘下となり、さらにヤマダデンキと合併して消滅会社となりました。
サッポロホールディングスとスティール・パートナーズによるプロキシーファイト事例
2007(平成19)年、サッポロホールディングスと外資系ファンドのスティール・パートナーズとの間でプロキシーファイトが起こりました。サッポロホールディングスは、敵対的買収を仕掛けてきたスティール・パートナーズへの防衛策導入を発表します。
それに対してスティール・パートナーズは、買収防衛策導入に反対する株主提案を起こしプロキシーファイトが行われました。結果は、サッポロホールディングスの勝利となっています。
東京放送ホールディングス(TBS)と楽天によるプロキシーファイト事例
2007年、東京放送ホールディングス(現TBSホールディングス、以下TBS)と楽天(現楽天グループ)によるプロキシーファイトが行われました。前段として、2005(平成17)年にTBSの筆頭大株主になった楽天が、経営統合を提案して破談になっています。
楽天はTBSへの敵対的買収を視野に、TBSにおける敵対的買収への防衛策発動の条件を引き上げる株主提案をしました。その結果、TBS経営陣との間でプロキシーファイトになり、結果はTBS側の勝利となっています。
東京スタイルと村上ファンドによるプロキシーファイト事例
2002(平成14)年、東京スタイルと村上ファンドの間で日本初のプロキシーファイトが行われました。
東京スタイルの経営陣が行おうとした現金による不動産の大量購入に対し、大株主の村上ファンドはその現金を自社株買いと増配に回すよう要求し、意見が対立してプロキシーファイトに至っています。結果は、東京スタイル経営陣側の勝利でした。
6. プロキシーファイトまとめ
プロキシーファイトにおける議決権委任状の争奪は、経営陣と株主の意見対立を示すものです。プロキシーファイトにメリットはあるものの、株価への影響をはじめとしたデメリットもあり、よく検討してから実施を決めるべきでしょう。また、委任状を求められる立場の場合、どの意見に賛同するか熟慮して決めることが肝要です。
M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談なら経験豊富なM&AアドバイザーのいるM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬の料金体系
- 最短43日、平均7.2ヶ月のスピード成約(2025年9月期)
- 専門部署による、高いマッチング力
- 強固なコンプライアンス体制
M&A総合研究所は、成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。







