時価純資産法とは?M&Aにおける活用法から計算方法まで徹底解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

時価純資産法(Net asset method)は、非上場企業の価値を算出する際に活用される手法の1つです。当記事では、M&Aの企業価値評価算出方法の種類や活用方法、計算式を紹介しながら、時価純資産法について詳しく解説します。

目次

  1. 時価純資産法とは?
  2. M&Aにおける時価純資産法の活用法
  3. M&Aにおける時価純資産法の算出・計算方法
  4. M&Aにおける時価純資産法のメリット・デメリット
  5. M&Aにおける時価純資産法を用いるには専門家に相談するのがおすすめ
  6. M&Aにおける時価純資産法の相談をするためのM&A仲介会社の選び方
  7. M&Aにおける時価純資産法は専門実績豊富なM&A仲介会社に相談しよう
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1. 時価純資産法とは?

時価純資産法(Net asset method)は、非上場企業の株価(企業価値)を評価する手法の1つです。ここでは、企業価値評価で用いられる一般的な手法を取り上げながら、時価純資産法の特徴を解説します。

時価純資産法(Net asset method)とは

時価純資産法(Net asset method)は、会社資産の時価総額から負債をマイナスすることで、株式の資本価値を算出する方法です。非上場企業は株式が市場取引されていないため、株価がありません。非上場企業がM&Aを実施する際は、別の要素から価格を算定する必要があります。時価純資産法は、そのような場合に用いられる算出手法の1つです。

企業価値算出方法の種類

ここでは、用いられることが多い3つの企業価値算出方法の概要と特徴を解説します。

コストアプローチ

コストアプローチとは、会社における純資産をベースに企業価値を算出する方法であり、時価純資産法はこれに含まれます。ほかにも、帳簿価格の資産額から負債を差し引く「簿価純資産法」が存在するため、状況に合わせて適切な手法を使い分ける必要があります。時価純資産法と簿価純資産法の違いは、後程改めて説明します。

インカムアプローチ

会社で将来期待できる収益をベースに企業価値を算出する方法です。具体的には、将来価値を現在の価格に換算するDCF法や、株式の年間配当を一定の利率で還元し、元本価額を算出する配当還元法といった手法が存在します。

マーケットアプローチ

会社の時価総額や市場で取引された過去の類似事例を基準に企業価値を算出する方法です。市場株価法やマルチプル法、類似取引比準法といった手法が含まれます。

簿価純資産法との違い

上記の通り、コストアプローチには時価純資産法と簿価純資産法の2つが存在します。時価純資産法は、資産の時価総額から負債を差し引くのに対し、簿価純資産法は、帳簿における資産を企業価値とする点が大きな違いです。

簿価純資産法は他の手法に比べ、非常にシンプルな点が特徴です。しかし、未回収の売上債権など帳簿に記載されていない資産がある場合、適切な評価ができないという留意点もあります。

【関連】M&Aの企業価値評価とは?算出方法を詳しく解説!

2. M&Aにおける時価純資産法の活用法

ここでは、M&Aでの主な時価純資産法(Net asset method)の活用方法2つを解説します。

インカムアプローチ・マーケットアプローチと併用

多くの場合、時価純資産法は、インカムアプローチやマーケットアプローチと併用されます。他の手法を活用すれば、時価純資産法よりも高い企業価値になり得るためです。例えば、将来性の高い事業を抱える企業の場合、インカムアプローチを用いることで、本来の価値を反映させられます。より現実的な数値を見出せるため、各手法の併用は有益と言えるでしょう。

企業価値評価に活用される

時価純資産法は、企業価値評価で活用されるケースが殆どです。先ほど触れました通り、株式が非上場の企業は、取引価格が存在しません。しかし、その場合でも専門的な算出手法を用いれば、企業状況に合った株価を算出できます。上場企業に比べて手数が多くなりますが、企業価値を評価できれば、M&Aも実施可能です。

3. M&Aにおける時価純資産法の算出・計算方法

時価純資産法(Net asset method)による企業価値評価は、非上場企業のM&Aに欠かせません。ここでは、時価純資産法の計算式を確認した上で、資産に含まれる項目と、負債に該当する項目をそれぞれ紹介します。算出の際は、時価に評価し直す作業が必要なので、専門家からのサポートが必要です。

時価純資産法の計算式

時価純資産法の計算式は、以下の通りです。時価ベースの資産総額から負債をマイナスすることで求められるため、非常にシンプルな計算式になることがわかります。ただし、資産や負債を時価評価し直す必要があるという点には留意が必要です。

時価純資産法の計算式
(企業価値)
時価資産の総額 - 時価負債の総額

資産に含まれる項目

時価純資産法は、時価資産総額から時価負債総額をマイナスすることで求められますが、具体的にどのような項目が「資産」となり、一方でどのような項目が「負債」になるのでしょうか。ここでは、時価純資産法で資産に含まれる項目を解説します。

  • 有形固定資産
  • 有価証券
  • 棚卸資産

有形固定資産

有形固定資産は、会社が保有する土地と事業で長期的に使われる建物といった不動産のことで、資産に該当します。有形固定資産の時価評価は、不動産鑑定士に依頼するのが一般的です。ただし、場合によっては時価がつかないケースもあります。

有価証券

財産価値を有する株式や小切手、債権である有価証券も資産に該当します。上場企業の有価証券の場合、証券取引所の公表価格で評価し、非上場企業の場合は、財政状況や回収可能性などから評価するのが特徴です。

棚卸資産

企業が販売目的で保管している商品の在庫である棚卸資産も含まれます。ただし、将来的に販売する可能性がきわめて低い商品在庫に関しては、評価額から差し引く必要があります。

負債に含まれる項目

次に、時価純資産法で負債に該当する項目を解説します。

  • 買掛金
  • 未払税金
  • 退職給与引当金
  • 税効果会計

買掛金

買掛金は、商品やサービス利用への対価として、将来的に支払うべき債務のことです。一般的に、貸借対照表に負債として計上する必要があります。このとき、計上漏れがないかを慎重に確認する必要があります。

未払税金

会社が将来的に納めるべき税金で、現時点で支払っていないものがある場合、負債に含めます。また、従業員に対する未払い給与(残業代)も同様です。

退職給与引当金

従業員の退職金の支払いに備えて計上される退職給与引当金も、負債に該当します。この場合、確定金額を時価評価しなければなりません。買収側を前提とする際は自己都合要支給額とし、売却側を前提とする際は、会社都合要支給額として評価します。

税効果会計

企業会計と税務会計に差異がある場合に、税金を期間配分するなどで損益を調整する税効果会計も負債に含まれます。上場企業では税効果会計が義務付けられていますが、税効果会計を適用していない企業もあるので、会社状況に合わせて考える必要があります。

【関連】企業価値とは?計算方法やメリットから時価総額との違いも詳しく解説!

4. M&Aにおける時価純資産法のメリット・デメリット

ここでは、M&Aで時価純資産法(Net asset method)を活用するメリットとデメリットを解説します。

メリット

時価純資産法で評価するメリットは、以下の通りです。

  • 計算結果に客観性がある
  • 計算が比較的簡単

計算結果に客観性がある

時価純資産法は、貸借対照表に記載された数字を基準に価値を評価します。そのため、計算結果に客観性があるという点が魅力です。算出者の主観的な要素が排除されるため、今の企業価値をより正確に算出できるでしょう。

計算が比較的簡単

また、先ほど紹介しました通り、計算式も非常にシンプルな点も魅力です。時価ベースで換算し直す必要はあるものの、他の手法に比べて少ない手数で企業価値を算出できます

デメリット

​​​​​​一方で時価純資産法には、次のようなデメリットもあります。

  • 無形資産を企業価値に反映できない
  • 将来性を反映できない

無形資産を企業価値に反映できない

会社で独自ブランドや技術を保有する場合、これらの無形資産を企業価値に反映させられないという点には留意しなければなりません。貸借対照表に計上された情報のみで計算できるという点は確かに魅力ですが、他の企業にはない無形資産が豊富な会社では、正確性に欠ける可能性があるでしょう。

将来性を反映できない

現時点で会社の収益性が乏しくても、事業内容によっては将来的に大飛躍する可能性があります。しかし、時価純資産法ではこのような将来性を排除して考えなければなりません。これからの成長が期待される企業は、別の手法を検討する必要があります。

【関連】コストアプローチとは?メリットとデメリットから計算方法までを解説

5. M&Aにおける時価純資産法を用いるには専門家に相談するのがおすすめ

時価純資産法(Net asset method)で非上場企業の価値を評価する際は、多くの専門知識が必要なので、専門家からのサポートやアドバイスは欠かせません。ここでは、企業価値評価を含めM&Aの相談ができる専門機関や窓口を紹介します。

  • M&A仲介会社
  • 金融機関
  • 公的支援機関

M&Aと企業価値評価に詳しいM&A仲介会社に相談する

M&Aに関する全般的な相談は、M&A仲介会社がおすすめです。文字の通りM&Aに特化した専門機関なので、企業価値評価だけでなく、手法の策定やマッチング、手続き仲介まで包括的にサポートが受けられます。

金融機関に相談する

銀行など金融機関でも、M&Aに関する相談を受け付けます。会社と金融取引がある銀行なら、自社の経営状況に合った提案やサポートが受けられるという点が魅力です。ただし、金融機関は大型案件を中心に扱うことが多く、中小規模案件に対応できないケースがあります。

公的支援機関に相談する

国がM&Aの支援のために設置した、公的支援機関を利用するのもおすすめです。公的機関なので、さまざまなサポートを無料で受けられるという点が魅力です。M&Aの相談ができる公的支援機関には、以下のような場所があります。全国に設置されているため、地方企業でも気軽に相談できます。

  • 事業承継・引継ぎ支援センター
  • よろず支援拠点

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業のM&Aや事業承継の支援を目的に、全国各地に設置された公的機関です。経営者と後継者のマッチング支援サービス「後継者人材バンク」を提供しています。

よろず支援拠点

よろず支援拠点は、中小企業の経営相談を受け付ける公的機関です。M&A・事業承継のみならず経営に関するあらゆる相談を受け付けます。案件の大小にかかわらず無料で応じてくれる点が魅力です。

【関連】事業承継は銀行に相談すべき?銀行の役割やメリット・デメリットから解説

6. M&Aにおける時価純資産法の相談をするためのM&A仲介会社の選び方

専門家に相談するなら、時価純資産法(Net asset method)を含めM&Aの包括的なサポートが受けられる「M&A仲介会社」がおすすめです。ただ、会社によって得意分野や特性が異なるので、自社に合った仲介会社を見つけなければなりません。ここでは、M&A仲介会社を選ぶポイントを5つ解説します。

  • 仲介会社とアドバイザリー会社の違いを確認する
  • M&Aと企業価値評価の経験と知識が豊富か
  • 自分の会社の業種に精通しているか
  • 担当者との相性
  • 成功報酬や手数料が明確か

仲介会社とアドバイザリー会社の違いを確認する

M&A専門機関には、仲介会社とアドバイザリー会社の2つが存在します。仲介会社は売却側・買収側の間に入り、双方が利益を受けられるよう仲介を行いますが、アドバイザリー会社は、売却側・買収側のいずれかと契約し、その企業の利益が最大になるようサポートを提供するのが特徴です。これらの違いを把握した上で、自社が求めるサポートを提供する会社を選ぶ必要があります。

M&Aと企業価値評価の経験と知識が豊富か

M&A仲介会社の実績と経験の量も重要な要素です。時価純資産法を含め、これまで多くの企業価値評価に携わった仲介会社なら、安心してサポートを任せられます。一部のサポートに偏った実績であったり、経験が乏しかったりするケースもあるので、まずは初回相談や問い合わせ、ウェブサイトなどで実績を確認すると良いでしょう。

自分の会社の業種に精通しているか

自社と同じ業種に強い仲介会社を選ぶことも重要なポイントです。M&A仲介会社によっては、特定業種・業界を専門的に扱うケースがあるので、事前に対応業種を確認することをおすすめします。過去実績も併せて確認し、成功事例の中に自社と似た案件があるか調べておくと良いでしょう。

担当者との相性

仲介業務は、専門知識を持った人間によるコミュニケーションを前提に進みます。そのため、担当者との相性は重要なポイントです。担当者からの連絡の速さや頻度、レスポンスの速さなどに問題がないかを確認することをおすすめします。もし問題がある場合は、別の担当者に変えてもらうなど、対応を依頼してください。

成功報酬や手数料が明確か

仲介会社とアドバイザリー契約を締結した場合、着手金や中間金、成功報酬といった仲介手数料が発生します。費用があやふやなまま依頼すると、予期せぬ出費が増える可能性があるでしょう。契約前に、サポート範囲と料金体系を確認し、料金がわかりやすい仲介会社に依頼することをおすすめします。

【関連】M&Aアドバイザーとは?仕事内容や手数料・選ぶポイントを徹底解説

7. M&Aにおける時価純資産法は専門実績豊富なM&A仲介会社に相談しよう

時価純資産方法(Net asset method)は、非上場企業が自社の企業価値を算出する際に活用される手法の1つです。貸借対照表に記載されたデータを基準とするため、客観性の高い計算結果になるという点が魅力ですが、無形資産や会社の将来性を反映できないという留意点もあります。

また、時価純資産法を含め、企業価値評価には多くの専門知識が必要です。M&Aで企業価値の算出が必要な場合は、仲介会社など知識豊富な専門家に相談することを強くおすすめします。

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