2025年12月15日更新
就労継続支援施設のM&A・売却|メリット・注意点・成功のポイントを徹底解説
就労継続支援施設のM&A・売却をご検討中ですか?本記事では、M&Aの動向やメリット、成功させるための注意点まで詳しく解説します。後継者不足や経営課題を解決する手段として、M&Aの可能性を探ってみましょう。
目次
1. 障害者施設・就労継続支援施設とは
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡に関して述べる前に、まずは障害者施設・就労継続支援施設の概要や両施設の違いを解説します。
障害者施設とは
障害者施設とは、精神・身体・知的などに障害がある人を受け入れて、自立支援を提供する施設のことです。対象となる利用者は全年齢におよびますが、子どもは18歳未満、大人は18歳以上と年齢で分けられています。
障害者施設のサービス根拠法は、2006年に施行された「障害者自立支援法」が前身となり、現在は2013年に施行された「障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)」に基づいています。これにより、サービス提供主体が市町村に一元化されました。ただし、第2種社会福祉事業に該当する場合は、市町村以外の民間法人でも施設の運営が認められています。
事業からの撤退による影響が比較的小さいとみなされるため、社会福祉事業の第2種に当てはまれば、民間の営利法人でも障害者施設の事業を始めることが可能です。
提供するサービスには、児童福祉法に規定される障害児通所支援・障害児相談支援・障害者自立支援法に規定される障害福祉サービス・一般相談支援・特定相談支援・移動支援などの事業が挙げられます。
子ども向けの障害者施設
子ども向けの障害者施設には、未就学児・就学児を対象とした児童発達支援センター・放課後等デイサービス・日常生活を支援する施設などがあります。その他には、施設で暮らしながら日常生活を指導したり、自立に必要な知識・技能を教えたりする入所施設が存在します。
このような入所施設では、福祉のほかに看護・医療支援を行い、障害者の生活を支えています。
大人向けの障害者施設
大人向けの障害者施設は、「通所」「入所」に分けられます。通所とは、障害者施設に通う人に向けてサービスを提供する施設です。日常生活・リハビリに対する自立支援を行う入所施設や、相談・コミュニケーションを通じた交流の場を提供する地域活動支援センターなどがあります。
そのほか、日常生活における支援(食事・入浴・排せつなど)や、障害者による創作・生産活動の支援、身体的な能力の向上・生活能力の底上げなどの支援も行っています。
一方で、入所は施設に滞在する障害者を支援する施設です。一般の会社で働く・障害福祉サービスを受ける人に対して、夜間に宿泊する場・共同で生活する場を提供しています。入所施設には介護者の都合に合わせて夜間のみの入所に対応した短期入所施設などがあります。
就労継続支援施設A型・B型とは
就労継続支援施設A型・B型とは、一般の事業所で働くことが難しい障害者を対象に就労機会を提供し、生産活動を通して、知識・能力の向上を図るための訓練を行う施設のことです。就労継続支援施設は、雇用する形態によってA型とB型に分けられます。
就労継続支援施設A型とは
就労継続支援施設A型とは、一般企業での就労が困難な18歳以上65歳未満の障害者に対して雇用契約を結び、就労支援を行う施設です。障害者には最低賃金以上の給料を支払い、一般就労を支援します。
厚生労働省が2024年12月に公表した「令和5年社会福祉施設等調査」および最新の障害福祉サービス利用状況によると、就労継続支援A型の事業所数は4,534カ所、利用者数は約8.4万人(令和6年3月時点)となっています。利用者は精神障害者の割合が最も多く、年齢層では40代以上が半数以上を占めています。
参考:厚生労働省「就労継続支援A型の状況について」
就労継続支援施設B型とは
就労継続支援施設B型とは、一般企業での就労が困難な障害者に対し、雇用契約を結ばずに就労支援を行う施設をさします。なお、就労継続支援施設B型に年齢制限はありません。就労継続支援施設B型では、障害者の労働によって収益が発生した場合、工賃を支払う義務があります。
厚生労働省の「令和5年社会福祉施設等調査(2024年12月公表)」等によると、就労継続支援B型の事業所数は17,548カ所と増加傾向にあります。また、利用者数は約55.3万人(令和6年3月時点)に達しており、利用者は知的障害者が最も多く、次いで精神障害者の利用が増加しています。
就労継続支援施設A型・B型の違い
就労継続支援施設A型とB型の違いは、雇用契約の有無です。就労継続支援施設A型では障害者と雇用契約を結ぶ一方で、就労継続支援施設B型では雇用契約の締結は行いません。
就労継続支援施設A型では、一般企業での就労は困難と判断されるものの、雇用契約に応じた就労が可能とみなされる障害者に就労支援を提供します。一方で、就労継続支援施設B型では、一般企業での就労に加えて、雇用契約に応じた就労も困難とみなされる障害者に対して支援を行う施設です。
利用可能な年齢にも違いがあります。就労継続支援施設A型の対象年齢は18歳以上65歳未満ですが、就労継続支援施設B型には年齢の定めがありません。
障害者施設と就労継続支援施設の主な違い
障害者施設と就労継続支援施設の主な違いは、就労支援の有無です。障害者施設では、生活・学習・コミュニケーションなどの支援や宿泊場所の提供、生活維持に必要な看護・医療を提供しています。
その一方で、就労継続支援施設とは、障害者と雇用契約を結び、継続して仕事を提供したり一般就労を支援したりする施設です。このように、障害者施設は生活に限った支援を原則とするのに対して、就労継続支援施設は生活支援のほかに就労支援も提供するサービスが加えられます。
施設介護・老人ホームの課題を事業譲渡で解決する方法については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
2. 就労継続支援施設のM&A・売却の動向と市場
就労継続支援施設のM&Aは活発に行われています。厚生労働省のデータによると、障害福祉サービス関係予算は年々増加しており、令和6年度(2024年度)予算案では障害福祉サービス等予算額全体で約2.2兆円(国費ベース)が計上されています。就労継続支援(A型・B型等)の費用額も増加傾向にあり、市場規模は拡大を続けています。
参考:就労継続支援に係る報酬・基準について ≪論点等≫
M&A・売却・譲渡の流れ
就労継続支援施設のM&A・売却は、一般的に以下の流れで進められます。
- M&A仲介会社などの専門家へ相談:自社の希望条件を伝え、戦略を立てます。
- 相手先の選定(マッチング):候補となる買い手企業を探し、絞り込みます。
- 面談・交渉:トップ面談などを通じて、双方の経営方針や条件を確認・交渉します。
- 基本合意契約書の締結:現時点での合意内容を書面で確認します。
- デューデリジェンスの実施:買い手が売り手企業の財務や法務状況などを詳細に調査します。
- 最終契約書の締結:デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件で契約を締結します。
- クロージング:株式や事業の引き渡し、対価の決済を行い、M&Aが完了します。
M&Aには専門的な知識と交渉力が必要不可欠です。円滑に進めるためにも、実績豊富なM&A仲介会社に相談することをおすすめします。
3. 就労継続支援施設がM&A・売却を検討する主な理由
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の事業者が、M&A・売却・譲渡を選択する理由には、主に以下の5つが挙げられます。
- 後継者問題の解決
- 人材を確保するのが難しい
- 利用者の管理が難しくなった
- 競合が増え競争力が低下した
- 就労率が上昇しない
①後継者問題の解決
1つ目に挙げる障害者施設・就労継続支援施設A型・B型がM&A・売却・譲渡される理由は、後継者問題の解決です。中小企業で問題の後継者不足は、障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の運営事業も例外ではありません。
②深刻化する人材不足の解消
2つ目に挙げる障害者施設・就労継続支援施設A型・B型がM&A・売却・譲渡される理由は、ままならない人材の確保です。障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の職員の中には、安い賃金や夜勤などの肉体的な負担などを理由に離職を選択する人も少なくありません。
労働に見合った待遇を受けられていないと感じる人が多いため、人材の確保が難しい側面があるのです。そこで、障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の事業者は大手企業とM&A・売却・譲渡を実施し、これまでよりも待遇の良い労働環境を実現して人材確保に努めています。
③頻繁な制度改正への対応負担
3つ目に挙げる障害者施設・就労継続支援施設A型・B型がM&A・売却・譲渡される理由は、難しくなった利用者の管理です。2018(平成30)年度の障害福祉サービス等報酬改定では、制度の改正に伴う対応が必要となります。
具体的には、重度・高齢化した障害者への対応や医療ケアを必要とする子どもへの対応、精神障害者をはじめとした長期入院者の地域移行への対応、就労継続支援で支払う賃金・工賃の引き上げなどに対応しなければなりません。
このように、障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の事業者は、制度が改定されるごとに利用者の管理体制について変更を迫られるため、M&A・売却・譲渡により施設を譲り渡し、目まぐるしく変わる管理からの解放を選択している面があります。
④事業者増加による競争激化
4つ目に挙げる障害者施設・就労継続支援施設A型・B型がM&A・売却・譲渡される理由は、競合の増加による競争力の低下です。障害者施設の数は少しずつ減少しているものの、就労継続支援施設A型・B型の数は年々増加しています。
就労継続支援施設A型・B型の事業者にとってはライバルが増えてしまい、競争力を持たない企業は事業の継続が困難となり、他社へのM&A・売却・譲渡を選択せざるを得ない状況です。
⑤就労率が上昇しない
5つ目に挙げる理由は、一般就労への移行率が伸び悩んでいることです。就労継続支援施設の重要な役割の一つは、利用者を一般企業への就労へつなげることです。
厚生労働省の調査によると、2022年度に一般就労へ移行した人の割合(移行率)は、就労継続支援A型で5.6%、B型では2.3%に留まっています。この就労移行実績は、事業者が受け取る報酬単価にも影響するため、経営上の重要な課題となります。実績が伸び悩む施設では、経営改善やノウハウ獲得を目的に、実績のある大手グループの傘下に入るM&Aを選択することがあります。
参考:厚生労働省 説明資料(障害福祉サービスにおける就労支援)平成31年2月12日
障害者施設・就労継続支援施設の廃業件数
下表は、東京商工リサーチの発表資料「2020年『障害者福祉事業』倒産と休廃業・解散調査」から、過去5年間の障害者福祉事業者の倒産および休廃業・解散数を抜粋した数値です。
| 年 | 倒産 | 休廃業・解散 | 合計 |
| 2016 | 11 | 57 | 68 |
| 2017 | 23 | 67 | 90 |
| 2018 | 23 | 70 | 93 |
| 2019 | 30 | 106 | 136 |
| 2020 | 20 | 107 | 127 |
出典:東京商工リサーチ「2020年「障害者福祉事業」倒産と休廃業・解散調査」
障害者施設・就労継続支援施設の倒産・廃業件数は、基本的に増加傾向にあります。上表では2020(令和2)年の数値が下がっていますが、これはコロナ禍という特殊環境下によるものです。
具体的には、コロナ禍に対する国・自治体からの支援措置が功を奏し、倒産件数を抑制する結果になったと見られています。その反面、新型コロナに対する感染防止策などの負担増に対応しきれず、休廃業は微増となりました。
参考:東京商工リサーチ「2020年「障害者福祉事業」倒産と休廃業・解散調査」
4. 就労継続支援施設をM&A・売却するメリット・デメリット
就労継続支援施設のM&Aは、売り手・買い手の双方にメリットをもたらす可能性があります。一方で、デメリットや注意すべき点も存在します。
【売り手側】M&A・売却のメリット
売り手側(譲渡側)の主なメリットは以下の通りです。
- 後継者問題の解決:親族や従業員に後継者がいない場合でも、第三者への事業承継によって事業を存続させられます。
- 創業者利益の確保:事業を売却することで、オーナーはこれまで築き上げてきた事業の対価としてまとまった資金を得られます。
- 従業員と利用者の雇用の維持:廃業ではなく事業譲渡を選択することで、従業員の雇用を守り、利用者が継続してサービスを受けられる環境を維持できます。
- 経営の安定化:大手企業の傘下に入ることで経営基盤が安定し、従業員の待遇改善やサービスの質向上につながる可能性があります。
【買い手側】M&A・買収のメリット
買い手側(譲受側)には、以下のようなメリットがあります。
- 迅速な事業開始・拡大:ゼロから施設を立ち上げるよりも、許認可や人材、利用者をまとめて引き継げるため、スピーディーに事業を開始・拡大できます。
- 人材・ノウハウの獲得:福祉分野で経験豊富な専門スタッフや、施設運営のノウハウを一括で獲得できます。
- シナジー効果の創出:既存事業(介護、医療など)と連携させることで、利用者へのサービス拡充や新たな価値創造といった相乗効果が期待できます。
M&A・売却のデメリットと注意点
一方で、M&Aには以下のようなデメリットや注意点もあります。
- 希望条件での売却が困難な場合がある:施設の経営状況や立地によっては、希望する価格や条件で買い手が見つからない可能性があります。
- 情報漏洩のリスク:M&Aの交渉過程で、従業員や取引先に情報が漏れ、組織の混乱や風評被害につながるリスクがあります。
- 従業員や利用者の離反:経営方針の変更などにより、従業員のモチベーションが低下したり、利用者が他の施設へ移ってしまったりする可能性があります。事前の丁寧な説明と円滑な引き継ぎが重要です。
5. 障害者施設・就労継続支援施設A型/B型のM&A・売却・譲渡の案件例
弊社M&A総合研究所が取り扱っている障害者施設・就労継続支援施設A型/B型のM&A・売却・譲渡の案件例として、「西日本の就労継続支援業(図面チェック)、製作図業」をご紹介します。
建築資材の製作図、図面チェックの事業です。図面チェックの仕事を就労継続支援A型事業として対応しています。
| エリア | 中国・四国 |
| 売上高 | 10億円〜25億円 |
| 譲渡希望額 | 5億円〜7.5億円 |
| 譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
6. 障害者施設・就労継続支援施設A型/B型のM&A・売却・譲渡の事例
ここでは、障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡の事例を紹介します。
エルアイイーエイチによるMAGパートナーズの子会社化
エルアイイーエイチは2024年10月15日に、障害者就労支援施設を運営するMAGパートナーズを株式交換で子会社化することを発表しました。目的は障害者就労支援事業の強化と新規事業領域の拡大です。
MAGパートナーズの株式1株に対しエルアイイーエイチ株8万1000株を割り当て、総株式数は1296万株。2024年10月24日時点の終値29円で計算すると、約3億7600万円相当となります。
MAGパートナーズは2017年設立で、千葉県と神奈川県に3つの就労支援事業所と1つの自立訓練事業所を運営しています。
参考:簡易株式交換によるMAGパートナーズ株式会社の完全子会社化及び新たな事業の開始に関するお知らせ
パレットによるフロンティアリンクの就労移行支援事業の譲受
2024年7月2日、CRGホールディングスの完全子会社である株式会社パレットは、フロンティアリンクが運営する就労移行支援事業を譲り受けることを決定しました。
CRGグループは人材派遣やアウトソーシングを主力とする総合人材サービス企業で、パレットは精神・発達障がい者を支援する「Canvas」や「Colors」を運営しています。フロンティアリンクは全国で就労移行支援事業を展開しています。
今回の事業譲受により、両社のノウハウと人材を活用し、サービス品質の向上や中長期的な企業価値の向上を目指します。
参考:子会社における事業の一部譲受に関するお知らせ
障害者福祉サービスのM&A・事業譲渡については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
7. 障害者施設・就労継続支援施設A型/B型をM&A・売却・譲渡する際の注意点
ここでは、障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡を行う際、注意すべき8つの点を解説します。
- バリアフリーの確認
- サービス管理責任者と児童発達管理責任者の在任
- 人員配置体制の確認と減算
- 加算の確認
- M&Aを行うタイミングと理由
- M&A・売却・譲渡先の選定を行う
- M&A手法(事業譲渡・法人譲渡)の選定
- 福祉デューデリジェンスの実施
①バリアフリーの確認
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型をM&A・売却・譲渡する場合、その建物には、障害者の利用を考えて、誘導用のブロック・出入り口のスロープ・階段や廊下の手すり・エレベーター・車いす用のトイレや浴室などの完備が求められます。
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡を進める前に、バリアフリーの機能に問題がないことを確認しておきましょう。
②サービス管理責任者と児童発達管理責任者の在任
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の運営は、障害者総合支援法に定められている障害福祉サービスに含まれている事業です。障害者総合支援法および児童福祉法では、事業者に対して市町村から障害福祉サービス等報酬が支給されることも定められています。
障害福祉サービス等報酬の具体額は、毎年見直しされますが、注意すべき規則はサービス管理責任者・児童発達支援管理責任者の在任問題です。仮に障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の譲渡の前に退職していると、買い手には以下のような影響が生じます。
- 会社譲渡(株式譲渡)の場合:2カ月後から障害福祉サービス等報酬額が3割減
- 事業所譲渡(事業譲渡)の場合:行政から新規指定の許可が得られず事業を行えない
こうなると買い手との間でトラブルになるか、あるいは契約前に責任者の退職を知った買い手は、M&Aを中止するおそれがあります。したがって、責任者がM&A・売却・譲渡の前に退職してしまうような事態は避けることが必須です。
③人員配置体制の確認と減算
障害福祉サービス等報酬には、その金額の算定基準があります。障害者施設・就労継続支援施設A型・B型に対しても、算定基準が細かく定められていますが、その基本的基準の1つが、人員配置体制です。
仮に基準となる人員配置体制を満たしていなければ、障害福祉サービス等報酬額は減算されます。これは、障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の買い手にとって見過ごせない問題です。
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡を円滑に進めるためにも、自社の人員配置体制が万全であるかよく確認してください。
④加算の確認
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型に限らず、福祉事業に従事する労働者に対して、国は処遇改善加算制度を設けました。これは、福祉事業で介護職を行う人の報酬が他の産業よりも低いため、その賃金をアップさせるための制度です。
具体的には、従業員のキャリア向上のための環境改善を行った事業者に対し、従業員の報酬に加算させるための資金を支給します。支給を受けるためには複数の要件をクリアし、なおかつ、その状態を維持していなければなりません。
一度、要件をクリアし加算を受けても、後日のチェックで要件を満たしていないと、加算額の返金を命じられることもあります。障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の買い手としては気になるポイントであるため、確認を怠らず行いましょう。
⑤M&Aを行うタイミングと理由
就労継続支援施設A型・B型では、法制度の改正に伴い、今後得られる収益に変化が生じます。仮に改正の前にM&Aを進めてしまうと、収益の変化がネックとなり交渉先が見つからない事態が起きるおそれがあります。
人材不足を理由にM&Aを進める場合も、注意が必要です。障害者施設・就労継続支援施設A型・B型は、労働環境や待遇の悪さから従業員が定着しにくい事業といわれています。
買い手の立場を考慮すると、事業を承継してすぐに事業を始められることが魅力といえるため、障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&Aに着手する前に、法制度改正と従業員確保に注意をして買い手を探すことが重要です。
⑥M&A・売却・譲渡先の選定を行う
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型は、障害者の生活や就労を支えているため、譲渡先には施設の運営を任せられ、承継後の事業継続を約束してくれる相手を選ぶことが重要です。
自社のみで譲渡先を探すことは難しいため、M&A仲介会社などの専門家へ相談して候補先を探すのが良いでしょう。
⑦M&A手法(事業譲渡・法人譲渡)の選定
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型を対象とするM&Aでは、手法(事業譲渡・法人譲渡)の選定も重要です。
まず、法人譲渡では、障がい福祉事業所を持つ会社自体がM&Aの取引対象となります。このとき、株式会社の場合は、株式自体が取引対象です。
次に、事業譲渡では、事業所がM&Aの取引対象となります。この手法では、旧事業所の廃止と新事業所の指定申請手続き(新規申請)を同時に行わなければなりません。
⑧福祉デューデリジェンスの実施
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型を対象とするM&Aでは、事業所に関して福祉的な観点からの分析も加味したうえでリスクを検討しなければなりません。
とりわけ福祉的な情報や書面を出し渋る場合や、加算・減算状況に関する理解・知識が乏しい場合は要注意です。
放課後等デイサービス・児童発達支援のM&A・売却・譲渡については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
8. 障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&Aにおすすめの相談先
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&Aにおすすめの相談先をご紹介します。
金融機関
近年、金融機関が企業の合併や買収(M&A)を支援する専門部署を設置する動きが活発化しています。大手の投資銀行やメガバンクは、資金調達のサポートや取引戦略の策定など、多岐にわたるサービスを提供し、M&Aをスムーズに進める支援を行っています。
これらのサービスを活用することで、企業は事業承継や資金調達などの課題を効率的に解決でき、専門家の助言を受けながら取引成功の可能性を高めることが可能です。
一方で、大規模案件が優先される傾向があり、中小企業が十分な支援を受けられない場合もあります。そのため、支援機関を選ぶ際には、自社の規模や目的に合ったものを慎重に選ぶ必要があります。
また、これらのサービスは費用が高額になる場合があるため、料金体系を事前に確認し、費用対効果をしっかり検討することが重要です。
公的機関
近年、事業承継やM&Aを支援する公的サービスが大幅に充実しています。全国に展開されている「事業承継・引継ぎ支援センター」では、後継者不足に悩む中小企業を対象に、無料で情報提供やアドバイスを行い、支援を強化しています。
さらに、企業間のマッチングをサポートする体制も整備され、地方企業でも専門的な支援を受けやすい環境が整っています。また、個人事業主向けのサポートも拡大され、必要に応じてM&A仲介会社や専門家を紹介してもらうことが可能です。
一方、公的サービスは民間の仲介会社と比べて対応のスピードや柔軟性が劣る場合があります。そのため、利用を検討する際には、これらの特性を理解したうえで、自社のニーズや状況に合ったサービスを選ぶことが重要です。
これらの公的支援は、リスクを最小限に抑えながら事業承継やM&Aを進めるための、信頼できる選択肢といえます。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業の買収や売却を円滑に進めるための専門的な支援を行います。売り手と買い手をつなぐだけでなく、交渉の進行管理や企業価値の評価、契約書の作成など、多岐にわたるサポートを提供します。これにより、M&Aの経験が少ない企業でも、安心して取引を進められる体制が整っています。
特筆すべきは、仲介会社が持つ広範なネットワークです。このネットワークを活用することで、最適な取引相手を迅速に見つけられ、M&A成功の鍵となっています。また、初心者にもわかりやすく説明し、取引への不安を軽減する丁寧な対応も好評です。
ただし、仲介会社を利用する際には、着手金や中間報酬といった費用が発生する場合があるため、事前に料金体系を確認することが大切です。コストを抑えたい場合は、成功報酬型のサービスを選ぶことで、経済的かつ効率的にサポートを受けられます。
9. 障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡のまとめ
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型は、事業の特性から自社の意向だけで廃業や撤退を選ぶことは困難です。障害者施設・就労継続支援施設A型・B型の事業者の多くは、M&A・売却・譲渡による事業承継を選択しています。
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡を進める際には、M&Aに関する幅広い知識や高い交渉力が不可欠です。専門的な知識やM&Aの経験がなければ、望んだ時期までにM&Aを終えられないことや譲渡先すら探せないといった状況に陥ることも考えられます。
障害者施設・就労継続支援施設A型・B型のM&A・売却・譲渡を成功させるためには、M&A仲介会社などの専門家にサポートを依頼して進めていくと良いでしょう。
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