広告代理店業界のM&A・会社売却まとめ!最新動向、売却・譲渡案件一覧あり

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

近年、広告代理店業界では、中小企業の承継問題を解決するための事業承継や、インターネット広告の強化を目的としたM&A・会社売却の件数が増加しています。この記事では、広告代理店業界のM&A・会社売却について詳しく解説していきます。

目次

  1. 広告代理店業界とは?
  2. 広告代理店のM&A・会社売却の動向
  3. 広告代理店のM&A・会社売却のメリット
  4. 広告代理店のM&A・会社売却の案件一覧
  5. 広告代理店のM&A・会社売却の成功事例7選
  6. 広告代理店業務のM&A・会社売却まとめ
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1. 広告代理店業界とは?

広告代理店業界のM&Aや会社売却を述べる前に、まずは広告代理店業界について理解を深めておきましょう。この章では、広告代理店の定義、業界の特徴などを解説します。

広告代理店の定義

広告代理店とは、宣伝をしたい広告主と広告を実施するメディアを取り持つ会社です。web上で広告をしたい広告主とwebメディアを取り持つことや、テレビCMの枠を広告主に販売することなどが主な仕事内容です。

このような仕事の他に、広告を出したいという依頼に対して企画から制作までを行っています。それ以外には、広告主の要望を聞き取りしたうえでCM制作会社に発注するケースもあります。

つまり、計画から発注までや、広告枠の販売など広告に関する全てに携わっている業界が、広告代理店業界です。広告代理店業界は取り扱う事業内容により分類されます。主に以下の3形態です。

  • 全てのメディアの広告に携わっている総合広告代理店
  • 特定のメディアにだけを取り扱う一点特化の専門広告代理店
  • 企業専属の広告代理店であるハウスエージェンシー

広告代理店業界の分析

スマートフォンの普及によりインターネットの広告市場は成長しています。一方で、雑誌や新聞といった紙のメディアの広告市場は縮小傾向です。

スマートフォンがあれば、いつでもどこでもwebを見られるようになり、web上での広告が重要視されるようになったのが大きな理由といえます。その結果、webメディアを専門とするインターネット広告代理店が登場して業績を伸ばしているのです。

一方、新聞や雑誌を専門としてきた広告代理店は厳しい経営状況となっています。

市場規模

電通が1947年より調査を始めた「日本の広告費」によると、2021年の総広告費は、前年比110.4%の6兆,998億円となりました。新型コロナウイルス感染症の自粛や規制が緩和したことと、インターネット広告の好調が大きく影響を及ぼしたものといえるでしょう。

媒体別広告費を見ると、マスコミ四媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビメディア)の広告費は2兆4,538億円(前年比108.9%)、インターネット広告費は2兆7,052億円(前年比121.4%)、プロモーションメディア広告費は1兆6,408億円(前年比97.9%)となっています。

市場規模

電通「2021年 日本の広告費」日本の総広告費の推移

出典:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html

市場規模

電通「2021年 日本の広告費」媒体別広告費<2019年~2021年>

出典:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html

動画広告・デジタルサイネージ市場の拡大

日本社会全体の急速なデジタル化を背景に、インターネット広告費は前年比121.4%と大きく飛躍し、初めてマスコミ四媒体の数字を上回りました。なかでも、動画広告やデジタルサイネージなどの市場が拡大傾向です。

デジタルサイネージとは、屋外・店頭・公共・交通機関などのあらゆる場所で、平面ディスプレイや電子的な表示機器(プロジェクターなど)を使って情報を発信するメディアを指します。簡単にいうと、映像による電子看板です。

プロモーションメディア広告費は、新型コロナの影響で通年では減少しました。しかし、巣ごもり需要などを取り込む折込やDM、デジタルサイネージなどインパクトのある屋外広告は増加しています。

東京オリンピック・パラリンピックの開催などにより動画配信サービスの利用者が増加したことや、コロナ禍における動画サブスクリプションサービスの利用者数の大幅な増加が、動画広告費を大きく伸ばす要因となりました。

将来性・課題

広告業界はいま大きな転換期にあるといえます。従来の広告代理店の主な活躍の場であったマスメディア、紙媒体やテレビCMなどは衰退傾向です。前述のとおり、総広告費のなかでも、インターネット広告費は飛躍的に伸び続けています。

このインターネット広告費の増加に伴い、インターネット広告代理店が台頭しつつある現状です。今後もこの流れは続いていくと見られます。

それだけでなく、コンサルティングファームが広告代理店業界へ参入しつつある点も注目しなければなりません。企業の経営戦略を提案するコンサルティングファームは、そのノウハウをインターネット広告に活用できると考えているのです。

将来的にも、デジタル化のさらなる加速とインターネット上の広告活動が活発に行われることが予想されます。

広告代理店主要4社

日本国内には多くの広告代理店が存在しますが、ここでは広告代理店の主要4社を紹介します。

  1. 電通グループ
  2. 博報堂DYホールディングス
  3. ADKホールディングス
  4. JR東日本メディア

①電通グループ

2020(令和2)年1月、電通は電通グループと社名を変え、完全持株会社体制へと移行しました。電通グループは日本の広告代理店業界のトップ企業です。売上規模は国内全体の4分の1を占める断トツの地位だけあって、その規模は世界5位にも数えられています。
 
取り扱うメディアは、テレビからラジオのみならずスポーツ系までと幅広くあります。2021(令和3)年に延期となった東京オリンピックなどのイベント広告まで取り扱う大手広告代理店です。

②博報堂DYホールディングス

博報堂DYホールディングスは業界2位の企業グループです。2003(平成15)年10月、博報堂、大広(だいこう)、読売広告社が経営統合されることとなり、共同持株会社として博報堂DYホールディングスが設立されました。

博報堂DYのDは大広、Yは読売広告の頭文字です。全部で345社もの子会社があります。最近はインターネット広告に力を入れており、それ以外にはM&Aも積極的に活用している企業です。

③ADKホールディングス

ADKホールディングスは、2019(令和元)年1月にアサツーDKが持ち株会社として商号変更したものです。前身のアサツーDKは、1999(平成11)年1月に旭通信社と第一企画の合併で発足しました。

業界第3位であるADKホールディングスは、特にアニメと特撮に強い企業です。2016(平成28)年7月には、アニメ制作会社ゴンゾを買収してさらにシェアを拡大しています。

もちろんテレビ広告や制作でも利益を出していますが、webメディアにはあまり強くない印象です。日本国内だけではなくアジアにも進出しています。

④JR東日本メディア

2018(平成30)年3月、東京メディアサービスから社名を変えたJR東日本メディアは、その名のとおりJR東日本専属の広告代理店、つまりハウスエージェンシーです。

売上規模では国内3大代理店グループの後塵を拝していますが、JR東日本の駅構内や車体広告は膨大な露出量を誇っています。JR東日本の電車の宣伝を行う関係で、その制作にも携わっています。

2. 広告代理店のM&A・会社売却の動向

近年、広告代理店業界では、M&Aによる事業譲渡株式譲渡、事業承継が活発です。その大半は大手広告代理店による高額M&Aで、なかには数百億~数千億円におよぶ取引事例もあります。

広告代理店のM&A・会社売却の動向に見られるのは、以下のような特徴です。
 

  1. 時代はインターネット広告へ
  2. 大規模な海外展開

①時代はインターネット広告へ

以前は、広告といえばテレビ・ラジオ・雑誌・新聞でした。しかし、スマートフォンの登場とテレビ離れにより、広告市場は一気に変貌を遂げています。

インターネット広告市場が急成長し、企業はより多くの人の目に留まりやすいwebメディアへ力を入れるようになったのです。その結果、インターネット広告を専門とする広告代理店が増えました。

既存の広告代理店は、インターネット広告のサービス強化を目的としたM&Aを活発に行い、自社にないインターネットサービスや機能を取り入れようしています。例えば、電通とインターネット広告代理店オプトの資本・業務提携が有名な事例です。

日本最大手の電通が、当時M&Aによる資本・業務提携を行ったことから、いかにインターネット広告が重要視されているかがわかります。ちなみに、現在は両社の資本・業務提携は解消されています。

インターネット広告が活発になったため従来のやり方では収益を上げられず、人手不足や後継者不足に悩む中小企業も出てきました。この問題を解決する手段として、M&Aを利用して事業承継をする広告代理店も増加中です。

それ以外に、広告代理店事業だけを事業譲渡で売却する企業も出てきています。

②大規模な海外展開

近年、広告代理店業界は、日本国内の市場だけでなく海外市場にも進出し始めています。その足がかりとして、海外の広告代理店にM&Aを仕掛ける動きが活発化しています。

各広告代理店が海外に目を向けている理由は、将来的に日本市場での売り上げが頭打ちになると予想されているからです。長引く不景気や人口減少により徐々に市場は小さくなるため、今のうちに海外での地盤を固めておきたいというのが主な狙いになります。

アニメと特撮に強いADKホールディングスは、中国と東南アジアへのM&Aを積極的に検討していると発表しています。海外でも人気がある日本のアニメをうまく活かしたい考えです。

電通グループは、どこよりも海外の広告代理店のM&Aに力を入れています。2012(平成24)年には3社のみだったM&Aが、2013(平成25)年以降は毎年10社以上を買収しています。

なかでも、イギリスの大手広告代理店であるイージス・グループを買収した件は、大きな話題となりました。博報堂DYホールディングスは、世界中でM&Aを行っている電通とは違い、中国をはじめとしたアジアで展開をしています。

アメリカやイギリス、南米や中東にアジアと、世界中でM&Aを繰り返している日本の広告代理店は、現在のところ電通だけです。

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3. 広告代理店のM&A・会社売却のメリット

広告代理店のM&A・会社売却を行うメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。この章では、広告代理店のM&A・会社売却のメリットについて、買収側・売却側それぞれの立場から解説していきます。

会社売却する側のメリット

会社売却する側のメリットには、主に以下の3つが挙げられます。
 

  1. 後継者問題の解決
  2. 大手企業の傘下入りすることで経営再建を図れる
  3. 売却益を得られる

1つ目のメリットは、後継者問題の解決です。後継者がいないために廃業する場合、従業員は再就職先を探さなくてはなりません。廃業せずM&Aにより会社売却を行えば、事業承継により自社を存続させ、従業員の雇用も守れます。

2つ目のメリットは、会社売却により大手企業の傘下入りで経営の立ち直りを図れることです。会社売却により大手企業の傘下企業となれば、資金を投入してもらうことにより経営の立ち直りが図れるでしょう。

3つ目のメリットは、売却益を得られることです。高齢による引退を考える場合、負債がある場合は支払う義務が残るうえ、老後の生活資金も考えておかねばなりません。

会社売却を行えば、今まで築いてきた技術やサービスなど自社を存続できるだけでなく、まとまった資金を得られるのです。一般的に会社売却では、売却側の負債は買収側へそのまま引き継がれるため、経営者は自社の負債を回避できます。

買収する側のメリット

会社売却する側のメリットには、主に以下の3つが挙げられます。

  1. 新たな技術・ノウハウを獲得できる
  2. 顧客や取引先をそのまま獲得できる
  3. 新規参入しやすくなる

1つ目のメリットは、買収により売却側のもつ技術・ノウハウを獲得できることです。自社にない技術・ノウハウを獲得できれば、事業の拡大や自社のサービス強化を図れます。

2つ目のメリットは、売却側の持っている顧客や取引先をそのまま引き継げることです。これにより、さらなる収益アップが期待できます。

3つ目のメリットは、新たな分野に新規参入しやすくなることです。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌といった分野から、インターネット広告を扱う分野に新規参入し、すぐに業績を上げることは困難です。

M&Aによりその分野の企業を獲得できれば、迅速に業績を上げることも可能でしょう。

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4. 広告代理店のM&A・会社売却の案件一覧

ここでは、広告代理店のM&A・会社売却の案件例を2つ紹介します。広告代理店のM&A・会社売却を検討されている方は、相場などの参考にしてください。

①東京都内にある広告代理業の譲渡

東京都内にある広告代理業を営む会社です。従来は主に直接取引を行っていました。今後はシナジーを得られる企業との協業により、より大きな案件を実施することを目的として譲渡を検討しています。
 

譲渡対象資産 法人(株式)
事業内容 コンテンツ開発からプロモーション、AD、販売サポート・
集客までをカバーするマーケティングエージェンシー
譲渡理由 戦略見直しのため
売上高 1億円〜2億5,000万円
営業利益 2,500万円〜5,000万円
売却希望価格 2億5,000万円〜5億円

②東京都内にある大手新聞社傘下の広告代理店の売却

東京都内にある大手新聞社傘下の広告代理店です。親会社は、戦略見直しおよび自社事業の選択と集中の理由により、売却を希望しています。

親会社から5,300万円の借り入れがあり、売却に伴って返済の必要があります。希望する株式自体の譲渡価格は額面の2,000万円です。
 

譲渡対象資産 法人(株式)
事業内容 紙媒体の既存媒体やWebなどの
インターネット広告媒体の代理販売
譲渡理由 自社事業の選択と集中
売上高 5億円〜7億5,000万円
営業利益 2,500万円〜5,000万円
売却希望価格 1,000万円〜3,000万円

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広告代理店の会社売却・買収に限らず、インターネットで公開されているM&A案件には限りがあります。非公開の案件なども多数あるため、会社売却・買収などM&Aを検討する場合は、M&A仲介会社など専門家に相談しながら進めていくことがおすすめです。

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5. 広告代理店のM&A・会社売却の成功事例7選

この章では、広告代理店のM&A・会社売却の成功事例を7つ紹介します。実際の事例から、売却を選んだ理由やM&Aでの会社売却が成功した理由を見ていきましょう。

博報堂がインドのAdGlobal360 India Pvt. Ltd.株式を取得

2020(令和2)年3月、博報堂はインドのAdGlobal360 India Pvt. Ltd.(アドグローバル360)の株式取得を発表しました。アドグローバル360は、約460名のスタッフを抱えるフルサービスのデジタルエージェンシーです。

博報堂は、この子会社化により、博報堂全体としてのデジタル運用力の向上を図るとともに、インドにおける業務対応力をアップさせることを目的としています。

フィードフォースのアナグラム買収

2020(令和2)年1月、デジタル広告関連事業やソーシャルメディアマーケティング関連事業などを行うフィードフォースは、インターネット広告運用代行事業を行うアナグラムの株式50.1%を取得し、連結子会社化することを発表しました。

フィードフォースはアナグラムをグループ化することによって、より高度なマーケティング支援体制を共同で開発・構築できるとしています。

リアルワールドがLife Techをオープンスマイルに株式譲渡

2018(平成30)年8月、リアルワールドは子会社でディスプレイ広告やメディアのマネタイズ支援を事業としているLife Techを、オープンスマイルに1億8,000万円で株式譲渡しています。

リアルワールドは、他の事業に資金を回すため、今回の株式譲渡を行いました。

相鉄エージェンシーの株式90%を港北出版印刷に譲渡

2013(平成25)年、相鉄ホールディングスの子会社である広告代理店相鉄エージェンシーは、株式90%を港北出版印刷に株式譲渡しました。

この株式譲渡が行われた理由は、相鉄ホールディングスの編成見直しにより、収益のあまりよくない事業が除外された結果とされています。

ガーラが子会社ガーラバズをホットリンクに譲渡

2012(平成24)年、オンラインゲームとスマートフォンゲーム事業を展開しているガーラは、子会社でネット監視事業を手掛けているガーラバズをホットリンクに3億円で譲渡しました。ホットリンクは、大手ネット広告代理店オプトの傘下会社で、ソーシャルメディア分析が主な事業です。

ガーラバズの技術を活かせると踏み、譲渡に応じた模様です。ガーラは、オンラインゲーム事業とスマートフォンゲーム事業に力を入れるため、また資金獲得のためにこの売却に至っています。

松竹が広告事業をサンライズに譲渡

2011(平成23)年、松竹は子会社であるトライメディアの広告代理店事業を、サンライズ社に5億円で売却しました。トライメディアは、松竹グループの子会社として映画や劇場の広告事業を行っていました。

経営資金の分配を検討した結果、サンライズ社に売却することに至っています。このM&Aは非常に高額案件だったため、会社売却による特別利益は4,500万円にのぼります。

サイバードがGMOアドパートナーズにモバイル広告代理事業を譲渡

2011(平成23)年、サイバードはGMOの傘下であるGMOアドパートナーズに、モバイル広告代理事業を7,000万円で譲渡しました。GMOアドパートナーズがサイバードのモバイル広告代理事業を買収した理由は、インターネット広告のサービス強化を図るためです。

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6. 広告代理店業務のM&A・会社売却まとめ

テレビやラジオ、新聞や雑誌の広告を中心に扱っていた広告代理店業界は、スマートフォンとパソコンの普及によりインターネット広告メインへと変わってきています。従来どおりのサービスだけではうまく立ち行かなくなりました。

大手広告代理店は次々とインターネット広告代理店にM&Aを仕掛けています。その結果として、広告代理店業界は再編の時期となっているのでしょう。

広告代理店に限らず、業界内の動向は常に把握しておくようにしましょう。M&Aを行う際は、適切なタイミングを図り、自社の目的にあった手法を選ぶことが重要となります。

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