2024年02月02日更新
廃業による従業員への解雇通知のタイミングは?退職金・年末調整・手当も解説
会社を廃業する場合、従業員を解雇します。解雇は従業員の生活に大きな影響を与える問題であり、経営者は対応をしっかりと行わなければなりません。本記事では廃業における従業員への解雇通知タイミングや退職金の支払い、年末調整や従業員への手当などを解説します。
目次
1. 廃業による従業員への影響
まずは、廃業が及ぼす従業員への影響です。主な影響は、以下の4点があります。
- 給与・賞与を得る手段がなくなる
- 失業保険をすぐに受給できる
- 国民健康保険・国民年金への切り替え
- 従業員の家族が受ける影響
給与・賞与を得る手段がなくなる
廃業を従業員に及ぼすものとして、給与・賞与を得る手段がなくなることは最も大きな影響です。当たり前のことですが、従業員は給与や賞与を得ることで生活しています。
しかし、会社が廃業すると従業員は解雇されるため、給与や賞与などの所得が一切なくなってしまうのは明白です。できるだけ早く新しい就職先を見つけなければ、日常生活を送ることが難しくなることも少なくありません。
失業保険をすぐに受給できる
会社が廃業したことにより解雇となった場合、従業員はすぐに失業保険を受給できます。失業保険の受給開始日は、自己都合による退職か会社都合による退職(解雇)かによって変わります。
自己都合の退職の場合は、失業保険申請手続き後は1週間の待機期間があり、その後に3カ月の給付制限期間が設けられており、その間は失業保険が支給されません。
一方で、廃業など会社都合の退職(解雇)の場合は、失業保険申請手続き後1週間の待機期間を過ぎれば失業状態と認定されるため、すぐに失業保険を受給できます。申請手続きから1週間の「待機期間」があることには注意が必要です。
失業保険の受給金額はおおよそ給与の6~7割程度となっており、受給日数は雇用保険の加入期間や受給時の年齢などで変わり、最短で90日、最長で330日となっています。
国民健康保険・国民年金への切り替え
廃業により解雇となれば、健康保険と年金も切り替えねばなりません。会社に雇用されている間は、会社が加盟する健康保険組合の健康保険を使用できますが、廃業で健康保険組合から会社が脱退するため、切り替え手続きが必要です。健康保険の切り替えでは、以下の2つの選択肢があります。
- 国民健康保険への切り替え
- 健康保険組合の健康保険の任意継続
いずれにしろ、保険証を持っていない状態で通院や入院をした場合は医療費が全額自己負担となるため、速やかに切り替え手続きをする必要があります。一方、年金は、会社に雇用されている間は厚生年金でしたが、廃業により国民年金に自動的に切り替わる仕組みです。
厚生年金は給与額により、各個人で納付額が異なりましたが、国民年金は一律で月額16,520円(2023(令和5)年度)になります。
従業員の家族が受ける影響
廃業による解雇は、従業員の家族にも影響が及びます。まず、収入を失うわけですから、たとえすぐに失業保険が支給されるとはいえ、以前の給与の満額ではありませんから、新たな仕事が見つかるまで生活を切り詰めなければなりません。
仕事が見つかったとしても、以前と同じ待遇のところに就職できるかどうかわからない問題もあります。扶養家族の場合は、以前の健康保険証は返却し、それぞれが国民健康保険に加入しなければなりません。
年金の場合は、厚生年金では配偶者は第3号被保険者(年収130万円未満に限る)ですが、解雇により配偶者も第1号被保険者となってしまいます。
2. 廃業時に従業員が確認すべきポイント
従業員側としては、会社の廃業が決まった際、特に以下の3点に注意を払う必要があります。
- 退職条件など正確な情報を収集する
- 賃金の未払いに備える
- 手続き内容を把握する
退職条件など正確な情報を収集する
会社が廃業すると聞けば、誰でも動揺します。ほとんどの従業員は経験したこともないでしょうから、パニックに陥ってしまうかもしれません。その際にありがちなのが、正確な情報ではないうわさ話が飛び交い、それをうのみにしてしまい間違った判断・行動をすることです。
従業員同士でうわさ話などをせず、上司・役員・経営者のいずれかに直接話を聞き、正しい情報を得ましょう。特に以下のような退職条件は、明確なアナウンスを求めるべきです。
- 解雇手当の支払時期
- 退職金の有無・支払時期
- 新たな就職先への紹介の有無
賃金の未払いに備える
後期者不在による経営者の引退に伴う廃業であれば、経営上の問題による廃業ではないため、賃金の未払いなどは起きません。しかし、それでも未払い残業代などがある場合、廃業手続きのドタバタの中で見過ごされないよう注意が必要です。
一方、事実上の倒産(事業が停止し再開見込みがなく賃金支払能力がない状態)による廃業であれば、賃金が未払いとなることが大いにあり得ます。その場合、国の未払賃金立替制度が利用できるかどうか労働基準監督署に相談しましょう。
未払賃金立替制度とは、破産した企業の従業員に対する未払い賃金がある場合、国が立替払いをする制度です。ただし、金額は未払い額の80%となっています。
手続き内容を把握する
最低限、解雇後に必要な手続きとその内容を把握し、準備しておきましょう。会社から新たな就職先のあっせんなどがないのであれば、まずは収入を確保するために失業保険の給付手続きが必須です。
失業保険の給付手続きはハローワークで行いますが、その際、自分の住民票の所在地を管轄しているハローワークに赴きます。会社の所在地ではないので注意しましょう。
国民健康保険の加入手続き、または健康保険の任意継続手続きも並行して実施しなければなりません。国民健康保険の加入手続きは住民票所在地の役所、健康保険の任意継続手続きは最寄りの年金事務所で行います。ここまでの手続きが済んだら、求職活動の準備に入りましょう。
3. 廃業による従業員の解雇
企業の廃業では従業員を解雇しますが、その際は解雇通知のタイミングや退職金の支払いなど、注意しなければならない点があります。
解雇通知のタイミング
廃業する場合は、従業員に対して解雇通知を行う必要があり、原則として少なくとも30日前までに解雇する旨の通知を行わなければなりません。これは労働基準法で定められているもので、従業員が次の勤め先を探すなどの時間的猶予が必要である点がその理由です。
もしも30日以上前に解雇予告通知をせずに解雇する場合、不足する日数分を解雇予告手当として支払うことが義務づけられています。
退職金の支払い
自社を廃業する場合でも、退職金について労働条件通知書や就業規則に記載しているのであれば、従業員に退職金を支払わなければなりません。ただし、労働条件通知書や就業員規則に退職金の記載がない場合は支払いの義務がないため、支給されないのが一般的です。
廃業時に経営者が従業員にできること
経営者が従業員に対してできることとしては、まず解雇告知の説明会を実施することと、ハローワークに再就職援助計画を提出することです。
廃業せざるを得ない理由について、従業員が納得いくまで真摯に説明しましょう。そのうえで、退職金の上乗せや未消化の有給の買取り、慰労金の支給などを行うことが大切です。
また、ハローワークに対して再就職援助計画を提出することも望ましいです。廃業にあたって一つの事業所で1カ月以内に30人以上の離職者が出る場合に作成・提出する必要がありますが、離職者が30人未満の場合でも任意で作成できます。
4. 廃業による従業員の年末調整
年末調整とは、従業員が納める必要がある1年間の所得税と、毎月の給与や賞与などから控除された所得税額を比較して、所得税額の過不足を調整する作業です。
年末調整は会社側が行う作業であり、具体的には毎年末に1年間の所得が確定した段階で所得税を算出し、1~11月までで控除された源泉徴収額との差額を12月の給与で調整します。
12月の段階で従業員が会社に勤務していない場合、会社は年末調整を行う必要はありませんが、廃業する場合は、廃業するまでの期間分の源泉徴収票を発行しなければなりません。
廃業では会社が年末調整を行わないため、従業員は会社から発行された源泉徴収票に記載された金額に基づき、退職した翌年、自身で確定申告を行う必要があります。
5. 廃業による従業員への手当
廃業による従業員への手当には、解雇予告手当と退職金があります。前述したように、退職金は労働条件通知書や就業規則に記載がない場合、支払い義務は発生しません。
しかし、解雇予告手当は、廃業する30日以上前までに解雇する旨を通知しなかった場合、支払わなければならないことが労働基準法で定められています。
具体的には、解雇を通知した翌日から解雇するまでの期間が30日未満だった場合、30日に不足する日数分の平均賃貸を支払うと定められており、計算方法は以下のとおりです。
- 平均賃金×(30日-解雇予告から解雇までの日数)
退職金に関して労働条件通知書または就業規則に記載がある場合に会社が支払わないとき、従業員は会社に対して退職金支払いを請求できます。
6. 廃業により従業員を失うデメリット
廃業する際は解雇により従業員を失うことになりますが、それによりデメリットを被る可能性もあります。主に想定されるデメリットは以下の2つです。
- 訴訟リスクが発生する
- 技術やノウハウが流出する可能性
訴訟リスクが発生する
1つ目のデメリットは、訴訟リスクが発生することです。廃業する際は従業員を解雇するため、それまでの信頼関係が続くとは限りません。
日常的に就業規則を守っていない雇用状態であったり、残業代の未払いなどが日常的に行われていたりする場合は、廃業後に訴訟を起こされてしまうリスクがあります。
廃業による訴訟リスクを避けるためには、従業員に対して廃業の説明を丁寧に行うとともに、日頃から法令順守で経営することが重要です。
技術やノウハウが流出する可能性
2つ目のデメリットは、技術やノウハウが流出する可能性があることです。廃業によって従業員は解雇となるため、自社で積み重ねてきた技術やノウハウが就職などにより他社へ流出してしまう可能性があります。
技術やノウハウを構築するためには多くの時間と費用が必要であり、また優秀な従業員を育成するのも時間がかかることです。
廃業により技術やノウハウが流出してしまえば、もう一度、同じ事業を始めようと考えた際は、新たにノウハウや技術を構築しなければならないことを念頭に置く必要があります。
7. 廃業をする前にM&Aを検討すべき理由
廃業する選択には、従業員の解雇やノウハウや技術が流出する可能性などのデメリットもあるため、廃業を決断する前にまずM&Aを検討することをおすすめします。
M&Aを行うことによりさまざまなメリットを得られますが、ここでは廃業する前にM&Aを検討すべき3つの理由を解説します。
- 従業員の雇用を守れる
- 廃業をまぬがれる
- 売却・譲渡益を獲得できる
従業員の雇用を守れる
1つ目の理由は、従業員の雇用を守れることです。廃業を選択してしまうと従業員を解雇しなければなりません。解雇された従業員は就職先を探す必要がありますが、全ての従業員がうまく仕事を探せるとは限りません。
なかには就職先が見つからず、生計を立てるのが難しくなる従業員も出てくる可能性があります。しかし、M&Aを行い、自社を売却すれば、従業員の雇用も引き継がれるでしょう。
廃業をまぬがれる
2つ目の理由は、廃業をまぬがれられることです。廃業することは会社自体が終わるため、当然ですが何も残りません。
しかし、M&Aを行えば、築き上げた技術やノウハウは他社へ引き継がれ、さらなる事業の発展も見込めるうえ、廃業するための出費や手続きも必要なくなります。
売却・譲渡益を獲得できる
3つ目の理由は、売却・譲渡益を獲得できることです。廃業する際は在庫の処分などの費用が必要になります。しかし、M&Aを行えば、売却・譲渡益を獲得可能です。自社の技術やノウハウなどが買い手側に高く評価されれば、より多くの売却・譲渡益を得られます。
獲得した売却・譲渡益は、リタイア後の生活費に充てるなど自由使途の資金です。
8. 廃業・M&Aを検討する際の相談先
廃業の決断の前にM&Aの可能性も検討したい場合には、M&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所では、M&Aの経験豊富なM&Aアドバイザーが丁寧にサポートします。
廃業すべきかM&Aを行うべきなのかを悩まれている場合も、最良の結果となるようにアドバイスをします。料金体系は、料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
無料相談は、電話またはWebより24時間受け付けていますので、M&Aをご検討の際には、お気軽にお問い合わせください。
9. 廃業による従業員への解雇通知のタイミングまとめ
廃業の選択は従業員にも大きな影響を与えるものであり、従業員を解雇することにより生じるデメリットもあります。廃業する以外の選択肢として検討したいのが、M&Aです。
M&Aには、事業の継続・従業員の雇用確保・売却益の獲得など多くのメリットがあるので、まずM&Aの実施を検討することをおすすめします。本記事の概要は以下のとおりです。
・廃業による従業員への影響
→給与・賞与を得る手段がなくなる
→失業保険をすぐに受給できる
→国民健康保険・国民年金への切り替え
→従業員の家族が受ける影響
・廃業による従業員の年末調整
→会社は廃業までの期間分の源泉徴収票を発行しなければならない
→従業員は廃業するまでの源泉徴収票を基に、退職した次の年に個人で確定申告を行う
・従業員を失うデメリット
→訴訟リスクが発生する、技術やノウハウが流出する可能性がある
・廃業をする前にM&Aを検討すべき理由
→従業員の雇用を守れる、廃業をまぬがれる、売却・譲渡益を獲得できる
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