繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継の現状は?事例から相場まで解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、繊維・衣服・装飾品製造業界におけるM&Aでの売却・買収・事業承継について、動向や事例、相場、失敗しないコツ、M&Aの流れなどを解説します。繊維・衣服・装飾品製造業界のM&Aによる売却・買収は最盛期にあります。M&Aを検討している方は必見です。

目次

  1. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継の現状
  2. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継事例13選
  3. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継案件例
  4. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継の動向
  5. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・事業承継の流れ
  6. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・事業承継を行うメリット
  7. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収価格の相場
  8. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・事業承継で失敗しないコツ
  9. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継のまとめ
  10. アパレルメーカー・アパレル業界の成約事例一覧
  11. アパレルメーカー・アパレル業界のM&A案件一覧
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  • アパレルメーカー・アパレル会社のM&A・事業承継

1. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継の現状

当記事では、繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収の業界動向・事業承継・価格相場などを、事例を交えて詳しく解説します。まずは、繊維・衣服・装飾品製造業界の定義や、M&Aの概要やスキームを確認しましょう。

繊維・衣服・装飾品製造業界とは

繊維・衣服・装飾品製造業界とは、生糸や化学繊維などを紡いだり織ったりする繊維製造・汚れを洗い落として染色する染色整理・衣服などの繊維製品の製造および販売・貴金属宝石類の使用を除いた装身具の製造を営む業界です。

衣服や身の回りの繊維製品には、製造に加えて、百貨店・スーパーなどへの卸売業や消費者に製造品を販売する小売業も含まれます。

M&A・売却・買収とは

M&A・売却・買収とは、繊維・衣服・装飾品製造業の会社や事業を譲渡したり承継したりする取引のことです。具体的なM&A手法としては、株式譲渡事業譲渡が多く用いられています。

株式譲渡は自社の株式を売却し、会社そのもの(経営権)を譲り渡します。一方の事業譲渡は、事業の一部あるいは全てを、関連する資産や権利などとともに個別に他社へ譲り渡すものです。会社組織は、そのまま経営者の手元に残るため、会社の経営権は移転しません。

そのほかのM&A手法としては、会社を一つにまとめる合併や、会社の権利義務を承継させる分割、互いの自社株式を交換する株式交換、1社以上の株式を新設会社に移転させる株式交換などです。

それらの方法とは異なりますが、会社間の資本業務提携も、資本の移動が認められるため、広義のM&Aと解されています。

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことを指します。誰を後継者とするかによって分類され、具体的には以下のとおりです。
 

親族内事業承継 経営者の子どもや配偶者など親族を後継者とする事業承継
社内事業承継 会社の役員や従業員を後継者とする事業承継
M&Aによる事業承継 M&Aで会社・事業を売却し、その買い手が後継者となる事業承継

従来、中小企業では親族内事業承継が中心だったものの、少子化や価値観の多様化などでその割合は減っています。社内事業承継は、それに代わる有力な手段ですが、後継者側が事業承継のために必要となる株式取得用の多額な資金がネックです。

そこで、現在、脚光を浴びているのがM&Aによる第三者への事業承継であり、その割合は増加してきています。国内の全業種で中小企業での事業承継は大きなテーマです。M&A専門家が増えたことも手伝って、今後も後継者難の会社のM&Aによる事業承継が増えていくでしょう。

事業承継については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業承継とは?方法・メリット・手続きの流れ・課される税金を徹底解説!

2. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継事例13選

繊維・衣服・装飾品製造業界では、どのような企業・事業がM&A取引の対象とされているのでしょうか。ここでは、繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収事例を13件、紹介します。

  1. カルゴン・カーボンによるSeSの産業用再生炭事業買収
  2. イメリスによるクラレの珪藻土・パーライト事業買収
  3. ニッケによる東洋紡カンキョーテクノのM&A
  4. 東京ソワールによるキャナルジーンのM&A
  5. ムーンバットによるセブンシステムのM&A
  6. ダイセルによるグンゼのM&A
  7. AMIと日清紡ホールディングスの資本業務提携
  8. 小松マテーレによる吉田産業のM&A
  9. シードによるユニバーサルビューのM&A
  10. SMNによるルビー・グループのM&A
  11. ReSTARTファンドによる山喜の子会社のM&A
  12. クラボウによるセイキのM&A
  13. フジコーと日本毛織の資本業務提携

①カルゴン・カーボンによるSeSの産業用再生炭事業買収

クラレは、米国子会社であるCalgon Carbon Corporation(カルゴン・カーボン社)を通じて、Sprint Environmental Service, LLC(SeS社)から産業用再生炭事業を買収することを決定しました。この買収により、クラレは活性炭ビジネスを強化し、米国の産業用再生炭市場でのシェアを維持・拡大することを目指します。

クラレは、日本初の合成繊維ビニロンを始め、新しい合成繊維(クラロンK-II)、PVA樹脂(クラレポバール)、ガスバリア性の高いEVOH樹脂(エバール)、人工皮革(クラリーノ)などを製造・販売しています。

カルゴン・カーボン社は、活性炭および水処理機器の製造・販売を行う世界最大の活性炭メーカーであり、2018年からクラレの完全子会社です。SeS社は、産業用再生炭の製造販売および産業用機器レンタル事業を行っています。

クラレは、2018年にカルゴン・カーボン社を買収し、幅広い種類の活性炭や再生サービスを提供しています。これにより、水や大気の浄化に貢献するトータルソリューションプロバイダーとしての地位を確立しています。

米国の産業用再生炭市場は今後大きな成長が見込まれ、クラレはそのシェアを維持・拡大するために生産能力の増強が必要です。カルゴン・カーボン社の生産拠点は米国東部に集中しているため、中西部をカバーするメキシコ湾岸地域は重要な戦略拠点となります。

この地域では、産業用再生炭だけでなく、飲料水用再生炭の生産設備の増強も計画しています。米国でのPFAS規制の強化により需要が急増する見込みであり、カルゴン・カーボン社は生産能力の大幅な増強と重要顧客との契約締結を進めています。

カルゴン・カーボン社における産業用再生炭事業買収について

②イメリスによるクラレの珪藻土・パーライト事業買収

クラレは、米国子会社のCalgon Carbon Corporation(カルゴン・カーボン社、)が手掛ける欧州子会社の珪藻土およびパーライト事業を譲渡することを決定し、フランスのImerys S.A.(イメリス社)と独占交渉に関する基本契約を締結しました。

この譲渡に関する基本契約は、現地時間の4月26日にイメリス社との間で締結されました。イメリス社はろ過助剤業界で世界最大手の企業です。

クラレグループは、中期経営計画「PASSION 2026」の中で、事業ポートフォリオの高度化を重要な施策として位置づけています。これには、コア事業への集中投資と、縮小・撤退する事業の見極めが含まれています。

③ニッケによる東洋紡カンキョーテクノのM&A

日本毛織(「ニッケ」)は、2024年4月17日に東洋紡カンキョーテクノの全発行済株式を東洋紡エムシーから取得し、グループ会社とすることを決定しました。

ニッケは、衣料繊維事業、産業機材事業、人とみらい開発事業、生活流通事業を展開しています。

東洋紡カンキョーテクノは、集塵機器やエアフィルターの加工・販売を行っています。

ニッケは中長期ビジョン「ニッケグループ RN(リニューアル・ニッケ)130 ビジョン」において、自動車・環境関連事業を産業機材事業の成長ドライバーと位置づけ、独自性のある製品やサービスを提供することで成長市場での収益拡大を図っています。

一方、東洋紡カンキョーテクノは、「21世紀の地球環境への貢献」を理念とし、「食料」「エネルギー」「環境」の3つの課題に対し、技術を活用して機能性と利便性を備えたフィルターを提供し、快適な地球環境の創造に貢献しています。

今回のグループ会社化により、両社の製造技術を共有し、相互に活用することで、より優れた製品とサービスを提供し、ニッケグループの企業価値を一層向上させることを目指します。

株式会社東洋紡カンキョーテクノの株式取得に関するお知らせ

④東京ソワールによるキャナルジーンのM&A

東京ソワールは、2024年4月15日に開催された取締役会において、キャナルジーンの全発行済株式を取得し、子会社化することを決議し、同日付で株式譲渡契約を締結しました。

東京ソワールは、婦人フォーマルウェアの製造・販売およびアクセサリー類の販売を手掛けています。キャナルジーンは、婦人服飾雑貨の販売を行っています。

今回の子会社化により、両社の強みを補完し合い、ライフスタイル事業の拡大と収益力の強化を図ることが期待されています。

⑤ムーンバットによるセブンシステムのM&A

ムーンバットは、2024年3月15日に開催された取締役会で、セブンシステムの第三者割当増資を引き受け、同社を連結子会社化することを決議しました。

ムーンバットは、洋傘、洋品、毛皮、レザー、宝飾品、帽子などのアクセントファッション商品の企画、輸入、製造、仕入、販売を行っています。

セブンシステムは、コンピュータソフトウェアの設計、開発、製作、販売および賃貸業務、さらにコンピュータ利用に関するコンサルティング業務を提供しています。

ムーンバットグループは、中期経営計画の一環として、Eコマース事業や直営店「+moonbat」(プラスムーンバット)などの小売事業の強化に取り組んでおり、物流部門の見直しを含む業務構造の抜本的改革を進めています。

この業務構造改革の一環として、IT化およびデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が喫緊の課題となっていました。

セブンシステムの事業は、グループの業務展開やサービスの高度化・高付加価値化に寄与し、システム投資を含む販売管理費の削減と業務の効率化に相乗効果が期待できます。このため、第三者割当増資を引き受けることで、グループ事業の強化と企業価値の向上を図ることを決定しました。

⑥ダイセルによるグンゼのM&A

2022年4月、グンゼは亀岡工場を主体とする電子部品用フィルムの開発・製造・販売部門を、大阪に拠点を置くダイセルに譲渡すると発表しました。譲渡実行日は、10月1日の予定です。

グンゼは、インナーウェアなどのアパレル事業やスポーツクラブの運営などのライフクリエイト事業などを手掛けています。ダイセルは、大手化学品メーカーです。

本M&Aは、グンゼの事業構造最適化を目的としています。

⑦AMIと日清紡ホールディングスの資本業務提携

2022年2月、鹿児島に拠点を置くAMIは日清紡ホールディングスと資本業務提携を締結しました。これにより、1.5億円の資金調達が実現します。AMIは、遠隔医療対応超聴診器の開発や、遠隔医療サービスの社会実装により、医療革新の実現を目指す医療スタートアップ企業です。本M&Aは、両社が持つ技術やノウハウを掛け合わせシナジー効果を創出し、質の高い医療を受けられる世界の実現を目指すものです。

⑧小松マテーレによる吉田産業のM&A

2022年2月、染色大手の小松マテーレは福井県鯖江市に拠点を置く吉田産業の株式80%を取得し、子会社化しました。吉田産業は、経編みラッセルメーカーの一つです。

本M&Aは、新商品開発・顧客基盤の拡大を図り、吉田産業が持つ経編み製造技術と染色加工技術を融合し、製品ビジネスの拡大を目的としています。

⑨シードによるユニバーサルビューのM&A

2021年4月、コンタクトレンズ事業、メガネ事業などを展開するシードは、オルソケラトロジーレンズ「ブレスオーコレクト®︎」の製造・販売のユニバーサルビューの株式を取得し、子会社化しました。

INCJを含むユニバーサルビューの株主との間で株式譲受を行い、シードの持株比率は94.2%となっています。本M&Aの目的は、「ブレスオーコレクト®︎」の国内外での販路拡大を目指すことです。

⑩SMNによるルビー・グループのM&A

2021年3月、インターネット広告配信サービス事業を手掛けるSMNは、宝飾品ブランドなどのECシステムの構築・運用事業のルビー・グループをM&Aにより取得しました。SMNは、ルビー・グループの全株式を16億300万円で取得し、完全子会社化しています。

本件M&Aを通じて、SMNはマーケティングのトータルサービスが提供可能となり、付加価値を上げられるとしています。

⑪ReSTARTファンドによる山喜の子会社のM&A

2021年3月、アパレル事業を対象とした投資ファンド事業、コンサルティング事業のReSTARTファンドは、山喜の子会社を事業承継により取得しました。ReSTARTファンドは、山喜の子会社であるFactory Express Japanの全株式を取得し、完全子会社化しています。

本件M&Aにより、Factory Express Japanが行う工芸品のものづくり事業を、より一層強化する予定です。

⑫クラボウによるセイキのM&A

2021年2月、繊維製品の製造販売事業で国内大手のクラボウがファクトリーオートメーション設備の製造業であるセイキをM&Aにより取得しました。クラボウはセイキの全株式を取得して、完全子会社化しています。取引価格は非公表です。

本件M&Aでは、クラボウの環境メカトロニクス事業の拡大の観点から、シナジー効果が見込まれています

⑬フジコーと日本毛織の資本業務提携

2020年5月、フジコーと日本毛織が資本業務提携を行いました。この資本業務提携には、日本毛織の100%子会社であるアンビックも含まれています。

資本業務提携の内容は、フジコーの大株主3社が保有していた全株式(全体の30.7%、議決権ベースでは32.99%)を日本毛織が取得するものです。取得価額は公表されていません。

フジコーは、ソーラーパネル部材などの先端技術分野からカーペットなどの繊維製品まで幅広い分野の商品を製造しています。日本毛織は、衣料繊維事業・産業機材事業・人とみらい開発事業・生活流通事業の4事業を柱とし、アンビックは工業用フェルト・不織布の製造を行う会社です。

フジコーは、この資本業務提携によって、人材交流、技術交換、インフラ相互利用、販売その他の協業を推進し、厳しい業界情勢の中で業績拡大を図る方針としています。

【関連】M&A成功事例30選!【2023年最新】買収・合併の失敗事例も併せて紹介!

3. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継案件例

繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継案件例をご紹介します。

【製造を担う完全子会社有】関西・化学繊維専門商社

関西にてあらゆる繊維製品の輸出入・製造販売を手掛ける企業です。逐次の新規事業立ち上げに加え、積極的なМ&A(譲受)により業容を拡大しています。
 

エリア 近畿
売上高 25億円〜50億円
譲渡希望額 1億円〜2.5億円
譲渡理由 資金調達

【関連】【製造を担う完全子会社有】関西・化学繊維専門商社(ものづくり・メーカー) | M&A総合研究所

【関西/純資産以下の株価】繊維資材と繊維製品の製造

繊維資材の製造を一気通貫で対応できることに加え、OEM/ODM製品にも対応可能です。自社ブランド開発も積極的に行っています。
 

エリア 近畿
売上高 5億円〜10億円
譲渡希望額 1億円〜2.5億円
譲渡理由 後継者不在(事業承継)

【関連】【関西/純資産以下の株価】繊維資材と繊維製品の製造(ものづくり・メーカー) | M&A総合研究所
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4. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継の動向

繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収を行う際は、業界の動向を把握しておくことが大切です。繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収動向には、主に以下の特徴が見られます。

  1. 業界再編にもなるM&Aが行われ始めている
  2. 大手企業は海外企業のM&Aも積極的
  3. 製造工場の確保を目的としたM&Aも見られる
  4. 衣服・服飾メーカーが製造工場を買収するケースもある

①業界再編にもなるM&Aが行われ始めている

1つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収動向は、業界再編につながるM&Aの開始です。経済産業省が発表した「2019(令和元)年工業統計表」によれば、繊維工業における国内事業所数は、2016年から減少に転じ、2017年、2018年と続けて前年度割れとなっています。

一方、2016年と2017年は同じく前年度割れだった繊維工業の製造品出荷額は、2018年には200億円ほど前年度より上昇しています。しかし、全体額からすると、ほぼ横ばいといわざるを得ません。

2020年1月に経済産業省が発表した「繊維産業の課題と経済産業省の取組」によれば、国内のアパレル市場における衣類の輸入浸透率は、2003年から90%を超え、2018年には97.7%まで増加している現状です。

このような状況の下、繊維・衣服・装飾品製造業界は国内での生き残りをかけて、技術・ノウハウを持つ企業へのM&Aを行っています

②大手企業は海外企業のM&Aも積極的

2つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収動向は、大手企業による海外企業への積極的なM&A(クロスボーダーM&A)です。

化学繊維事業を展開する大手企業は、海外で原料調達から生産・流通・販売までの一貫した管理体制を敷き、生産能力を高めるために、海外企業に対するM&Aを実施しています。

対象となる分野は人工皮革・エアバッグ・不織布などです。帝人・東レ・旭化成・東洋紡などの大手企業が、海外企業の積極的な買収を毎年のように行っています。

③製造工場の確保を目的としたM&Aも見られる

3つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収動向は、製造工場の確保を目的としたM&Aです。

提供するサービスの質を高める、あるいは目的の場所に拠点を構えるなどの理由により、製造工場の買収が行われています。オーダースーツの製造事業者による縫製工場買収や、繊維事業者による拠点地域の製造工場買収などの事例があります。

結果として、製造工場を確保すれば質の高いフルオーダーへの対応や安定した供給などが可能です。

④衣服・服飾メーカーが製造工場を買収するケースもある

4つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収動向は、衣服・服飾メーカーが製造工場を買収するケースです。衣服・服飾業界ではファストファッションが台頭しており、トレンドを取り入れた低価格の商品提供が人気を集めています。

そういったメーカーでは、M&Aで製造工場を獲得して縫製・デザイン工程を強化し、一貫した生産・供給体制の下で質の高い製品を生産・供給する経営方針をとっています。

国内M&A市場の展望・トレンドについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】国内M&A市場の展望・トレンドまとめ【2022年最新版】

5. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・事業承継の流れ

繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却の流れは以下の通りです。

  1. M&Aの専門家に相談
  2. M&A先の選定・交渉
  3. 基本合意書の締結
  4. 買収側のデューデリジェンス
  5. 最終合意書の締結
  6. クロージング

①M&Aの専門家に相談

まずは、M&Aの専門家に相談しましょう。

M&Aは様々な専門知識を必要とするため、個人同士で進めることはおすすめできません。そのため、M&Aを検討した段階でM&A専門家である仲介会社などに相談する必要があります。

②M&A先の選定・交渉

実際にM&Aを行う際には、M&Aを行う相手企業を選定する必要があります。

相手企業の事業特徴や方針、財務状況などを考えた上で選定を進めます。そして、M&A先が決まれば交渉をしていく流れになります。

③基本合意書の締結

M&Aにおいて全ての基本となる、基本合意書を締結します。

基本合意書は意向表明書のようなもので、お互いの企業がM&Aに取り組むことを約束するための契約書です。ただ、基本合意書には法的拘束力を持っていませんので交渉次第では内容が大きく変わることがあります。

④買収側のデューデリジェンス

デューデリジェンスは売り手企業の財務・法務面で問題がないかを確認するためのプロセスです。

譲渡金額やM&Aの結果を大きく左右するプロセスになりますので専門家の協力が欠かせません。ここで無視ができないリスクなどが発覚すればM&A自体が破談になるケースも少なくありません。

⑤最終合意書の締結

交渉が全てまとまれば最終合意書を締結します。

最終合意書は法的拘束力があり、一方的な取り止めなど違反があれば損害賠償が生じます。合意書には最終的な条件や譲渡価格などが記載されており、この合意書を持ってM&Aは完了です。

⑥クロージング

最終合意書を持ってM&Aが完了ですが、この後にクロージングを行う必要があります。

クロージングでは、M&A対価の支払いや役員の選任などが行われます。このクロージングがないとM&Aの後の事業継続が難しくなるため、必須のプロセスだといえます。

6. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・事業承継を行うメリット

繊維・衣服・装飾品製造業界では、どのような理由でM&A・売却を行っているのでしょうか。会社売却を行う側のメリット、会社買収を行う側のメリットに分けて見ていきましょう。

売却側のメリット

繊維・衣服・装飾品製造業界で会社売却が行われる代表的な理由は、以下5つです。

  • 経営者の高齢化・後継者問題の解決
  • 従業員の賃金問題
  • 大手への傘下入りによる安定した経営
  • 倒産・廃業を回避
  • 売却益の獲得

経営者の高齢化・後継者問題の解決

1つ目に紹介する繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却理由は、経営者の高齢化・後継者問題の解決です。経済産業省の「2019年工業統計表」によると、繊維工業を営む事業者は中小企業が多くなっています。2018年時点で従業員が4〜29人までの企業は9,228社、30人以上の企業は1,859社でした。

中小企業では、経営者の高齢化と後継者不足が問題視されていますが、繊維・衣服・装飾品製造業も同様です。繊維・衣服・装飾品製造業界でも、経営者の高齢化と後継者問題の解決を図るために、第三者へのM&A・売却によって、会社・事業の継続や引き継ぎなどが行われています。

従業員の賃金問題

2つ目に紹介する繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却理由は、従業員の賃金問題です。中小規模の繊維・衣服・装飾品製造会社の中には、販路を広げられず、既存の取引に終始し、満足のいく給料を支払えない企業も見られます。

そこで、他社へのM&A・売却の道を選び、従業員の待遇改善を図るケースがあるでしょう。大手企業や営業力を備える企業に会社・事業を売り渡せば、技術力や年齢に見合った賃金を従業員に支払えます

大手への傘下入りによる安定した経営

3つ目に紹介する繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却理由は、大手への傘下入りによる安定した経営です。炭素繊維・アラミド繊維などの産業繊維事業は、日本企業が高いシェアを誇っているものの、衣料繊維事業では海外企業にリードされている状態となっています。

海外企業との価格競争に打ち勝つため、大手企業へのM&A・売却を選択し、経営資源を共有できれば、低価格製品から高品質・高価格帯への路線変更も可能になることが、その理由です。

倒産・廃業を回避

4つ目に紹介する繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却理由は、倒産・廃業の回避です。経済産業省が公表した「2019年工業統計表」を見ると、繊維工業の事業所数が減少しているのがわかります。

2015年には14,745所だったのが、2016年には12,171所、2017年で11,582所、2018年では11,087所にまで減っています。事業所の統廃合に加えて、倒産・廃業による事業所の減少は明らかです。

帝国データバンクによる「アパレル関連企業の倒産動向調査(2019年)」では、2018年の小売業の倒産は143件でした。前年度から1.4%増加しています。負債額10億円以上50億円未満の倒産も前年の7件から9件に増え、50億円以上の負債額での倒産は前年の0件から3件に増えていました。

このようなデータから、繊維・衣服・装飾品製造業界では、倒産・廃業の危機にある企業が多いため、倒産・廃業の回避を理由としたM&A・売却が選択されているといえるでしょう。

売却益の獲得

5つ目に紹介する繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却理由は、売却益の獲得です。事業からの撤退・倒産・廃業では、手続きだけでなく多額の費用が必要になります。

M&A・売却を選択すれば、会社、オーナー、株主が譲渡の対価として売却益を得られ、並行して行う事業や新事業に資金を回したり、老後の生活に充てたりできます。売却益の獲得を目的としてM&A・売却が選択されることは、繊維・衣服・装飾品製造業界に限らず、全業種で比較的多い理由の一つです。

買収側のメリット

繊維・衣服・装飾品製造業界の会社買収を行う代表的な理由は、主に迅速な事業規模の拡大です。会社買収を通じてブランドや製品を取得可能であるため、新ブランドの立ち上げや新製品開発と比べて、低コスト・短期間で事業分野を拡大できます

同時に被買収会社が他地域に進出していれば、その地域での販路拡大のメリットも生じます。

経営者がM&A・会社売却・事業譲渡する理由については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】経営者がM&A・会社売却・事業譲渡する理由18選!売却側、買収側それぞれの理由を紹介

7. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収価格の相場

繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収では、相場となる価格を断言することは難しいため、おおむね数百万~数十億円の間で取引が行われていると捉えておくとよいでしょう。

取引が多い価格帯には、数千万~1億円以下と数億~数十億円が挙げられます。これはM&A・売却・買収する事業規模や資産・負債・営業権・事業エリアなどにより大きく異なります。

繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収相場を把握したい場合は、対象会社・事業に合わせた企業価値評価の算定が必要です。

企業価値評価の算定方法

企業価値評価の算定には主として3種類の手法があります。その中から自社に合った企業価値評価の方法を選ばなければなりません。ここでは、各算出方法の特徴を解説します。

  • 時価純資産法
  • DCF(Discounted Cash Flow)法
  • 類似企業比較法

時価純資産法

時価純資産法は、貸借対照表の純資産を基準にして企業価値を算出する方法です。コストアプローチの一つとされ、時価に置き換えた資産と負債が計算に用いられます。

時価純資産法は、純資産を基にして算出するため計算は容易です。しかし、単独で用いられることは少なく、他の算出方法と併せて利用されることが一般的です。

【時価純資産法の計算】

企業価値=時価に置き換えた資産ー時価に置き換えた負債

DCF法

DCF法は、将来のキャッシュ・フローを基準として企業価値を算出する方法です。インカムアプローチ(収益還元法)の一つです。将来に得られるキャッシュ・フローを時間経過による増減分で割り引き、企業価値を算出します。

将来の利益を反映できるものの、作成した事業計画によって企業価値に差が生じるため、事業計画の高い精度と信頼性が求められるといえるでしょう。

【DCF法の計算】

  • フリーキャッシュ・フロー÷(1+割引率)+フリーキャッシュ・フロー÷(1+割引率)²+フリーキャッシュ・フロー÷(1+割引率)³……

類似企業比較法

類似企業比較法は、事業規模・業種などが類似する上場企業を基準に、企業価値を算出する方法です。マーケットアプローチの一つで、類似する上場企業を選び出し、対象企業の株式時価総額と任意の指標を用いて、自社の企業価値を算出します。

類似企業比較法の特徴には、株式市場の動きを反映できる・簡易に計算できる点が挙げられます。非上場企業が企業価値を算出する際によく利用される手法の一つです。

ただし、類似する会社が見つからない場合や、起業して間もない会社・競合が少ない業種は、今後の動向が予測しにくいことから、類似企業比較法による算出ができないとされています。

【類似企業比較法の計算】

  • 類似会社の株式時価総額÷類似会社の指標(売上高・営業利益など)=係数
    評価対象企業の指標(類似会社で用いた指標)×係数=企業価値

企業価値評価の算出は個人でもできる

繊維・衣服・装飾品製造業の企業価値評価は、個人による算出も可能です。しかし、正確な企業価値を算出するためには、専門家に依頼する方が無難といえるでしょう。

その理由は、算出法によって企業価値評価が異なるだけでなく、必要なデータをそろえたり算出方法の組み合わせを検討したりするには、M&Aや会計に関する専門知識が必要になるためです。

繊維・衣服・装飾品製造業のM&A・売却・買収を検討されている方は、M&A仲介会社などの専門家に企業価値評価算出を依頼することをおすすめします。

M&Aの企業価値評価については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】M&Aの企業価値評価とは?算出方法を詳しく解説!

8. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・事業承継で失敗しないコツ

繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で、失敗を避けるには、どのような点に注意をすればよいのでしょうか。ここでは、繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で失敗しないコツを5つ紹介します。

  1. M&Aの理由を明確にする
  2. 自社で開発した製品や強みをまとめる
  3. 従業員の雇用や賃金など譲れない条件を決める
  4. M&Aの情報は漏えいさせない
  5. M&Aの専門家に相談する

①M&Aの理由を明確にする

1つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で失敗しないコツは、M&Aの理由を明確にすることです。M&Aの理由によって、優先する条件・売却のスキーム・手続きの仕方・準備は異なります。

理由が曖昧なまま進めてしまうと、不利な条件を押し付けられたり、完了に長い時間を要したりするかもしれません。繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却を行う際は、会社や事業の継続・事業の成長や拡大など、自社の目的を明確にしておくことが大切です。

目的を明確にしておけば、M&Aの計画が立てやすくなるため、十分な準備ができ、交渉もスムーズに進めることが可能になります。

②自社で開発した製品や強みをまとめる

2つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で失敗しないコツは、自社開発の製品・自社の強みをまとめておくことです。繊維・衣服・装飾品製造業の買収を検討している企業は、事業領域拡大や製造工場の確保、成長が望める分野への進出などを目的としています。

買い手の目に留まるためには、自社の強みをアピールする必要があります。自社開発製品・特許技術・事業エリアなどをあらかじめ資料にまとめておくようにしましょう。

必要なデータを資料にまとめておけば、客観的に強みを伝えられるため、交渉もスムーズに進められ、成功する確率も高まります。

③従業員の雇用や賃金など譲れない条件を決める

3つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で失敗しないコツは、雇用・賃金など優先する条件を決めることです。M&A・売却では買い手が全ての条件を受け入れてくれるとは限りません。自社の条件ばかりを通そうとすれば、買い手が見つからない可能性もあります。

M&A・売却を失敗しないためには、従業員の雇用継続・給与水準の維持と向上・売却益の獲得など、譲れない条件を決めておくことが大切です。

④M&Aの情報は漏えいさせない

4つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で失敗しないコツは、M&Aの情報を漏えいさせないことです。M&Aを進めている段階で、M&Aへの着手が外部に漏れてしまうと、業績の悪化や取引先・従業員の離職などを招きかねません。

M&Aを進めていることは、限られた人物のみに伝えましょう。従業員や取引先などへの報告はタイミングを見極めて行うことが大切です。

報告する目安は、財務の担当者・役員・各部門のキーパーソンには基本合意書の締結後です。そのほかの関係者(取引先・従業員)には最終契約書の締結後がよいでしょう。

ただし、取引先との契約にチェンジ・オブ・コントロール条項を定めている場合には、最終契約書の締結前に通知と承諾を済ませなければならないため注意が必要です。

⑤M&Aの専門家に相談する

5つ目に挙げる繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で失敗しないコツは、M&Aの専門家に相談することです。M&A・売却を進める場合、スキーム・売却価格の決定、交渉・成約の手続き、デューデリジェンスへの対応など、専門的な知識と経験を必要とします。

自社のみで行わず、M&A仲介会社・地元の士業・金融機関・公的機関などの専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。M&A仲介会社などの専門家に依頼すれば、M&Aに関する知識・経験による適切なサポートを受けられるので、M&A・売却が成功する確率が高くなります

M&Aを失敗する理由・事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】M&Aの失敗理由・事例25選!失敗の確率・対策方法も解説【海外・日本企業】

9. 繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収・事業承継のまとめ

繊維・衣服・装飾品製造業界では、業界での生き残りをかけて、事業領域の拡大・新事業への展開・供給体制の強化などを目的としたM&A・買収が増えています

本記事の概要は以下のとおりです。

【繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却・買収動向】

  • 業界再編にもなるM&Aが行われ始めている
  • 大手企業は海外企業のM&Aも積極的
  • 製造工場の確保を目的としたM&Aも見られる
  • 衣服・服飾メーカーが製造工場を買収するケースもある

【繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却理由】
  • 経営者の高齢化・後継者問題の解決
  • 従業員の賃金問題
  • 大手への傘下入りによる安定した経営
  • 倒産・廃業を回避
  • 売却益の獲得

【繊維・衣服・装飾品製造業界のM&A・売却で失敗しないコツ】
  • M&Aの理由を明確にする
  • 自社で開発した製品や強みをまとめる
  • 従業員の雇用や賃金など譲れない条件を決める
  • M&Aの情報は漏えいさせない
  • M&Aの専門家に相談する

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