会計士・税理士事務所の事業承継の流れを解説!相場や相談先も紹介【事例あり】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

近年、会計士・税理士事務所では経営者の高齢化による事業承継が行われています。親族内事業承継や親族外事業承継だけでなく、M&Aによる事業承継も選択肢の一つです。当記事では会計士・税理士事務所の事業承継の流れ、相場や相談先について解説します。

目次

  1. 会計士・税理士事務所の事業承継
  2. 会計士・税理士事務所がM&Aによる事業承継を検討する理由
  3. 会計士・税理士事務所の事業承継の流れ
  4. 会計士・税理士事務所の事業承継相場
  5. 会計士・税理士事務所を事業承継する際の相談先
  6. 会計士・税理士事務所の事業承継事例
  7. 会計士・税理士事務所を事業承継する際の注意
  8. まとめ
  9. 税理士事務所・会計事務所業界の成約事例一覧
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1. 会計士・税理士事務所の事業承継

日本税理士会連合会の調査によると、全国の税理士の数は79,243人(2020年11月現在)、日本公認会計士協会の調査によると、全国の公認会計士の数は32,463人(2020年11月現在)に上り、その数は年々増加傾向にあります。

会計士・税理士事務所とは、監査法人などとは異なり、個人事業で運営しているのがほとんどです。そのため、経営者である公認会計士や税理士が引退すれば廃業です。

しかし、廃業すれば、顧問を務めていた中小企業経営者に迷惑がかかるため、会計士・税理士事務所を簡単に廃業できません。

そのような状況を解決する方法として、会計士・税理士事務所の事業承継があります。この記事では、会計士・税理事務所の事業承継について解説しますが、まずは会計士・税理士事務所や事業承継の概要を簡単に説明します。

参考:日本税理士会連合会「税理士登録者数(令和2年11月末日現在)」
   日本公認会計士協会「2020年11月の会員数(会員数等調)」

2. 会計士・税理士事務所がM&Aによる事業承継を検討する理由

会計士・税理士事務所がM&Aによる事業承継を検討する理由を紹介します。

後継者問題の解決

個人で事業を行っている会計士・税理士事務所は、中小企業を対象とした税務業務を行っているのがほとんどです。若手の公認会計士の多くは、大手の監査法人などに入社してキャリアを形成するため、後継者を確保するのが困難になっています。

また30代〜40代の税理士や公認会計士は、首都圏など都会志向があります。また税理士や公認会計士の人材紹介会社においても、大都市の大手法人へ人材を紹介するケースが多くあります。そのため、地方都市と大都市との需給にミスマッチが起こっています。

税理士に関しても、近年では税理士試験を受験する若者が減少しており、将来的に税理士が減少すると推測されています。このような背景により、個人で事業を行っている会計士・税理士事務所は、M&Aによる事業承継を選択しています。

顧客基盤の拡大

大手法人が安定して成長し続けるためには、新規顧客の開拓が必要になりますが、そのコストをM&Aによって補えます。

2002年に税理士法が改正されてから、営業活動が自由化となり、営業活動に積極的な事務所と保守的な事務所にわかれています。以前は営業活動をしていなくても、顧問先が増える会計業界でしたが、法改正が行われてからは競争が激化しています。

昨今は顧問先が廃業や倒産で少なくなることも多く、顧客基盤が安定していなければ収益が安定して得られなくなってしまう状況です。その影響で、事務所が差別化を図るためにサービスを行うことも多様化していますが、個人事務所は市場変化などへの対応が難しくなり、M&Aによる事業承継を検討するのです。

職員雇用の継続

廃業・倒産を選択するのではなく事業承継を行うことによって、職員の雇用を維持することが可能です。製品を販売するビジネスモデルではなくサービスの主体が人的資源によるものであるため、会計士・税理士事務所の経営には雇用の維持が重要なポイントになります。

売却益の獲得

事業承継を実施すると売却益を獲得できます。売却益で生活に余裕をもたらすだけでなく、新規ビジネスへ挑戦するための資金にすることも可能です。

3. 会計士・税理士事務所の事業承継の流れ

ここからは、親族内事業承継(親族外事業承継)や、M&Aによる事業承継の流れについて解説します。

親族内事業承継(親族外事業承継)の流れ

親族内事業承継(親族外事業承継)の一般的な流れは、以下のようになります。
 

  1. 事業承継計画の策定
  2. 後継者の育成・教育
  3. 資産・株式などの承継
  4. 個人保証・負債の処理

①事業承継計画の策定

親族内事業承継(親族外事業承継)を行う場合、まずは事業承継計画を策定します。事業承継計画では、事業承継を完了させるまでの後継者育成内容や、事業業況の整理などを行います。

事業承継を行う際はこの計画に基づいて実施するため、事業承継計画は入念に策定する必要があります。

事業承継計画は経営者自身で策定してもよいですが、計画に抜けがあると予定どおりに事業承継を行えない可能性もあるため、M&A仲介会社など事業承継の専門家と相談しながら策定するのをおすすめします。

また、親族外事業承継を行う場合は、事前に親族の了承を得る必要があります。経営者名義の会計士・税理士事務所は、通常であれば親族に相続されるため、了承なしに行えばトラブルの原因ともなりかねないためです。

②後継者の育成・教育

次に、事業承継計画に沿って後継者の育成・教育を行います。教育する内容は、各会計士・税理士事務所によって異なりますが、基本的にはマネジメントの方法や経営上におけるノウハウなどを伝えます。

後継者の育成・教育は、親族内事業承継(親族外事業承継)の中で一番時間がかかる作業であり、平均して3~5年程度はかかるため、経営者は早い段階から事業承継を意識しておくのが大切です。

③資産・株式などの承継

事業承継計画に従って、資産や株式などの承継を行いますが、これらは完全に事業を承継するタイミングで行います。

ここで重要になるのは、引き継いだときにかかる税金を後継者が支払えるかどうかの問題です。

株式の場合は一定の要件を満たせば、事業承継税制の適用を受けられ、税金を猶予してもらえます。

資産や株式の承継を行う段階では、税の猶予制度を活用したり、金融機関などから資金調達を行ったりして、対策をするようにしましょう。

④個人保証・負債の処理

事業承継を行えば、資産だけでなく、個人保証や負債についても当然引き継ぐ必要があります。

特に個人保証は後継者個人が引き継ぐ負債であるため、金額によっては大きな負担です。その負担を解消するため、政府は経営者保証ガイドラインを策定しています。

経営者保証ガイドラインでは、個人保証を引き継がせないことを推奨しており、事業が安定していることや、個人と事業の資産が明確に分離されていることなどの要件を満たせば、個人保証を引き継がなくても済む場合があります。

M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継の一般的な流れは、以下のようになります。
 

  1. 仲介会社などへの相談
  2. 承継先の選定
  3. 基本合意書の締結
  4. デューデリジェンスの実施
  5. 最終契約書の締結
  6. クロージング

①仲介会社などへの相談

M&Aによる事業承継を検討したら、まずはじめにM&A仲介会社などの専門家に相談します。

M&A仲介会社は多くの案件を取り扱っているため、目的に近い承継先を紹介してもらえる可能性が高くなり、交渉や手続きのサポートを受けることもできます。

なお、仲介会社に依頼して事業承継を行う場合は、秘密保持契約書を締結する必要があります。秘密保持契約書は、M&Aに関する自社の情報を漏えいしない旨を約束する書類です。

M&Aを行えば、会計士・税理士事務所の利害関係者(取引先や従業員など)少なからず影響を与えるので、情報漏えい・混乱防止といった目的により、秘密保持契約を締結します。

②承継先の選定

次に、承継先の選定を行います。仲介会社に希望する承継先の条件を伝えておけば、条件に合った法人や事務所をリストアップしてもらえるので、その中から候補先を選びます。

承継先を決めたら、承継先とも秘密保持契約書を締結したうえで両社に関する資料を開示し、経営者同士によるトップ会談を行います。

さらに、トップ会談を行ってM&Aを行う意思がある場合は、意向表明書を提示します。

③基本合意書の締結

両社から意向表明書が提示されたら、基本合意書を締結します。基本合意書には、独占交渉権や独占交渉ができる期間、他の会社とM&Aに関する交渉を行わない事項などが記載されています。

④デューデリジェンスの実施

基本合意書が締結されると、買い手によるデューデリジェンス(企業監査)が実施されます。このとき、承継元の会計士・税理士事務所は、承継先のデューデリジェンスに協力しなければなりません。

デューデリジェンスの結果により売却額が決まりますが、虚偽報告を行って信用を失った場合、M&Aの交渉が白紙になるケースもあります。

税務・会計の専門家として、デューデリジェンス前にはきちんと準備・確認をしておく必要があります。

⑤最終契約書の締結

デューデリジェンス実施後、最終契約書を締結します。この段階では、取引金額や従業員の待遇などの最終的な条件を決め、両社が合意した場合は最終契約書を締結します。

⑥クロージング

最終契約書を締結した後は、クロージングを行います。クロージングとはM&Aが実行されることをさし、ヒト・モノ・カネなどが移動します。クロージングが終わると、M&Aによる事業承継が完了です。

【関連】M&Aのスケジュールを解説!【買収までの流れ・手順】
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4. 会計士・税理士事務所の事業承継相場

会計士・税理士事務所の事業承継の相場は、事務所の規模や顧客数などによって変わるため、一概に事業承継の相場価格について述べることはできません。

しかし、対象の事務所の事業承継価格を計算すれば、ある程度の相場を推測するのは可能です。ここでは、事業承継価格の算出方法について解説します。

事業承継価格の算出方法

会計士・税理士事務所の事業承継価格は、他の業種のM&Aの取引価格を算出するときと同じ方法で計算されます。

M&Aの取引価格を決める際は、企業価値を参考にしますが、計算方法には、インカムアプローチ・マーケットアプローチ・コストアプローチの3種類があります。

どの方法を用いるのが最適なのかを判断するには、M&A仲介会社などの専門家と相談しながら決めるようにしましょう。

企業価値の各算出方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、そちらも併せてご覧ください。

【関連】M&Aの企業価値評価とは?算出方法を詳しく解説!

5. 会計士・税理士事務所を事業承継する際の相談先

会計士・税理士事務所を事業承継する際、どこに相談すればよいのでしょうか。ここでは、主な相談先を5つ紹介し、それぞれの特徴について解説します。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aに関する業務を専業としているため、最も一般的な相談先といえるでしょう。多くの案件を取り扱っており、ノウハウや専門知識も持っているため、事業承継をスムーズに行えます。

地元の金融機関

事業承継に関する相談は、地元の金融機関でも行えます。会計士・税理士事務所は、事業を行うために地元の金融機関から融資を受けている場合が多く、事業に関する相談も行っている場合があります。

そのため、地元の金融機関は事業承継に関する情報を持っているので、相談の対応だけでなく仲介を行う場合があります。

普段から取引している金融機関であれば、状況も把握しているので相談しやすい点もメリットといえるでしょう。

地元の公的機関

地元の公的機関でも、事業承継についての相談を行えます。ここでいう公的機関には、事業引継ぎ支援センターなどが当てはまります。

民間の仲介会社よりも料金が安く、公的機関の安心感もあるので、相談しやすい点もメリットであるといえるでしょう。

しかし、認知度はまだそれほど高くないため実績数が少ないこと、実際の業務は他の専門機関と提携して行う点などはデメリットともいえます。

地元の会計士・税理士・弁護士など

地元の会計士・税理士など、士業のネットワークから後継者を紹介してもらうなど、事業承継の相談を行うこともできます。

昨今では、会計士・税理士・弁護士事務所でもM&A支援を行っているケースが多く、それぞれが各分野のネットワークを生かしてサポートを行っています。

マッチングサイト

マッチングサイトでは、インターネットを通じて登録や検索を行うシステムです。

気軽に利用できること、料金がかなり安く済むことなどがメリットですが、基本的には交渉などの手続きは自身で行うため、予期せぬトラブルが起こる可能性もある点はデメリットであるといえるでしょう。

マッチングサイトの中には、M&A総合研究所が運営しているマッチングプラットフォームのように、仲介を依頼できるところもあるので、そのようなサイトであれば安心して利用できます。

【関連】M&Aの相談先9種類!メリットデメリットや選び方と相談時の注意点も解説!

6. 会計士・税理士事務所の事業承継事例

ここでは、実際に会計士・税理士事務所を事業承継した事例を2つご紹介します。

事例①:親族外事業承継

1つ目の事例は、親族外事業承継です。譲渡側は70代の税理士事務所を経営している税理士で、譲受側は税理士事務所開業の夢を持っていた30代の税理士です。

経営者が高齢になったことにより事業承継を希望し、譲受側の税理士が勤めていた会社の会長の紹介により、事業承継を行っています。

譲渡金額は公表されていませんが、トラブルもなく親族外事業承継を行えました。

事例②:会計事務所のM&Aによる事業承継

2つ目の事例は、会計事務所のM&Aによる事業承継です。譲渡側である会計事務所の経営者が高齢により引退するため、事業承継を行っています。

もともとは後継者がおり育成を行っていましたが、後継者が急に独立し、事業承継計画が崩れてしまいました。

そのため、従業員の雇用確保と顧客に対するサービス維持のため、M&Aによる事業承継に切り替え、最終的には中堅規模の会計事務所に事業承継しています。
 

7. 会計士・税理士事務所を事業承継する際の注意

最後に、会計士・税理士事務所を事業承継する際の注意点について解説します。注意すべき点はいくつかありますが、ここでは特に意識しておくべき5点を見てみましょう。
 

  • 会計処理に気をつける
  • 計画の準備を行う
  • 事業承継を行う目的を明確にする
  • 後継者を育てる
  • 第三者の相談先を見つける

会計処理に気をつける

親族内事業承継・親族外事業承継・M&Aによる事業承継のいずれを行うかにより、会計処理の方法は異なります。以下では、会計処理を行ううえでの注意点について解説します。

事業承継相手による内容や範囲の違い

親族内事業承継の場合は、資産や負債をそのまま後継者に引き継ぐ会計処理を行えば問題ありません。

一方、親族外事業承継やM&Aによる事業承継を行う場合は、引き継ぐ内容や範囲を双方で協議して決められます。

たとえば、資産だけを引き継いで負債を引き継がない選択肢もあるので、会計処理を行う際は承継する範囲にも注意が必要です。

税金による違い

親族内事業承継を行うと、譲受側には引き継いだ際の事業所得に対して税金が課せられます。さらに、贈与税や相続税がかかる場合は、申告をしなければなりません。

一方、親族外事業承継やM&Aによる事業承継を行った場合は、売却益に対して税金が課せられます。

親族内事業承継に比べ、親族外事業承継やM&Aによる事業承継の方が多額の売却益が得られるため、税金対策はしっかりしておきましょう。

計画の準備を行う

2つ目の注意点は計画の準備を行うことです。親族内事業承継(親族外事業承継)を行おうとする際には漏れがないように事業承継計画を策定する必要があります。また、M&Aによる事業承継でも承継先の選定やデューデリジェンスされるための準備をしておく必要があります。

事業承継を行う目的を明確にする

3つ目は事業承継を行う目的を明確にしましょう。これはM&Aによる事業承継を行う際の注意点です。目的を明確にしておかなければ、M&Aの条件交渉の際、承継先に主導権を握られる可能性があります。

従業員の雇用や売却益の確保など、何を優先したいか明確にしておきましょう。

後継者を育てる

4つ目は後継者を育てることです。これは親族内事業承継・親族外事業承継を行う際の注意点です。公認会計士や税理士は有資格の専門家であるため、会計士・税理士事務所のプレーヤーとしては有能です。

しかし、マネジメントや経営に関しては素質が左右するため、後継者を育成する必要があります。

会計士・税理士事務所によって育成期間は変わりますが、平均して3~5年かかります。ゆとりをもって計画的に行うようにしましょう。

第三者の相談先を見つける

最後のポイントは第三者の相談先を見つけることです。相談先も人であるため、合うか合わないのかの問題が発生します。そのため、経営者自身に合う相談先を見つけるようにしましょう。

また会計士・税理士事務所の事業承継は特殊であるため、専門的にサポート業務を行っている相談先への依頼によって、事業承継の成功確率を高められます。

8. まとめ

会計士・税理士事務所の事業承継について紹介してきました。この記事をまとめると以下になります。

・会計士・税理士事務所の事業承継について
→一般的に親族内事業承継・親族外事業承継・M&Aによる事業承継が行われている

・会計士・税理士事務所の事業承継に関する相談先について
→仲介会社に依頼する場合も多いが、人を介して紹介されるケースもある

会計士・税理士事務所の事業承継は、後継者が対象の資格を持っていないと引き継げない特殊な事業承継の一つです。

そのため、後継者探しが難しい業界であると考えられます。事業承継で困っている場合、M&Aによる事業承継の選択肢もあります。

9. 税理士事務所・会計事務所業界の成約事例一覧

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