学習塾の事業承継マニュアル!相談先や成功事例を解説!

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

学習塾の事業承継を円滑に進めるには、何から始めれば良いのでしょうか。本記事では、学習塾における事業承継の流れや事業承継を成功させるポイントについて解説しています。また、学習塾の事業承継事例、事業承継の相談先についても紹介しています。

目次

  1. 学習塾業界の動向
  2. 学習塾の事業承継動向
  3. 学習塾の事業承継成功事例
  4. 学習塾の事業承継の主な流れ
  5. 学習塾の事業承継を成功させるためのポイント
  6. 学習塾を事業承継する際の相談先
  7. 学習塾の事業承継まとめ
  8. 学習塾業界の成約事例一覧
  9. 学習塾業界のM&A案件一覧
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1. 学習塾業界の動向

学習塾業界では、少子化の進行と不景気を背景に市場が縮小傾向にあります。

特に大手の学習塾では、オンライン講義やデジタル教材などのコンテンツを拡充し、生徒数の獲得に成功しているケースが見られますが、小規模の学習塾では、生徒数の減少により閉業または売却せざるをえないなど、市場内では二極化が進行しています。

以下では、学習塾業界の市場規模・動向について詳しく説明していきます。

市場規模の推移

矢野経済研究所によると、2020年度の学習塾・予備校市場規模は前年度比4.9%減の9,240億円となりました。この減少は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によるものです。

具体的には、感染拡大に伴う休塾措置や授業料の返金・割引、春先の生徒募集活動の自粛、学校の夏休み期間短縮による夏期講座の減少などが大きな要因です。特に、2020年4月から5月にかけての緊急事態宣言期間中は、通塾による学習指導が制限され、事業活動が大幅に停滞しました。

緊急事態宣言が解除され、夏以降に塾通いが再開されると、生徒数は学習の遅れや学力低下への危機感から大きく回復しましたが、年度全体では春先の減収を補うことができませんでした。

オンライン学習、デジタル教材の導入・活用状況

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の影響で、2020年4月から5月にかけて通塾が制限されたため、多くの学習塾や予備校はオンライン授業や映像授業、デジタル教材を無償で提供し、学習サービスの継続を図りました。その結果、学習塾・予備校業界におけるデジタル学習サービスの導入が大きく進展しました。

しかし、通塾が再開されると、多くの生徒が対面での学習指導を選ぶようになり、オンライン授業の効果や生徒のモチベーション維持、適切な指導方法の確立といった課題が浮上しました。

一方で、オンライン授業の普及により、首都圏の大手学習塾や予備校が地方や海外の生徒向けにオンライン授業を提供する新しいサービスを展開する動きも見られます。

デジタル教材に関しては、AI技術を活用して、生徒の学力や学習進度、理解度に応じた効果的で効率的な学習指導サービスの提供が進んでいます。

関連サービスを導入する事業者が急増しており、今後もAI搭載のデジタル教材を活用した学習指導サービスの開発と提供が拡大すると予測されます。

これは、優秀な講師の確保に伴う人件費の高騰などの課題に対し、人的リソースに依存しない学習サービスを確立する面で重要な役割を果たすと考えられます。

2. 学習塾の事業承継動向

下表に、中・小規模の学習塾が事業承継を行う主な理由をまとめました。
 

理由 補足
後継者がいないため 学習塾を引き継ぐ後継者がいない場合、廃業を選択すれば事業自体がなくなってしまいます。しかし、M&Aによる事業承継で学習塾の後継者を見つけることができれば、事業の継続が可能となります。
従業員・講師陣の雇用先を確保するため 学習塾の廃業や倒産の際に、従業員の今後を気に病んだり、再雇用先を探したりする経営者は少なくありません。M&Aによる事業承継であれば、雇用している従業員を路頭に迷わせることがないという大きなメリットがあります。
廃業・倒産を防ぐため 経営状況が悪化すれば廃業や倒産を選択しなければならないことがありますが、M&Aによる事業承継で事業を大事にしてくれる後継者に引き継ぐことができれば、学習塾は生き残ることが可能です。
事業承継時に利益を得るため 学習塾経営を廃業する場合、廃業にも費用がかかり、廃業後も何かとお金の心配をしなければなりません。しかし、M&Aによる事業承継の場合は譲渡益を得ることができ、さまざまな活動資金にあてることができます。

これに対して、大手学習塾では、顧客層や事業領域を拡大するために、提携や再編が相次いでいます。これには、少子化による顧客減少への懸念が背景にあります。

従来は、補習や受験対策、対象年齢層、個別指導や集団指導、通信教育の有無など、それぞれの学習塾が異なるターゲットや業態を持っていました。

しかし、近年の提携や再編により、他社のターゲットやノウハウを取り入れ、顧客層や事業領域を広げる企業が増えています。また、デジタル教育の急速な普及に伴い、eラーニング市場の拡大とともに、さらなる再編が進む可能性もあります。

3. 学習塾の事業承継成功事例

学習塾の事業承継における代表的な成功事例をご紹介します。

①ヒューリックによるリソー教育へのTOB

ヒューリックは2024年5月28日、リソー教育に対するTOB(株式公開買い付け)と第三者割当増資の引き受けにより、出資比率を20.57%から51%に引き上げ、連結子会社化したと発表しました。これにより、幼児教室や個別指導教室を運営するリソー教育を傘下に収め、教育事業の拡大を図ります。

ヒューリックはTOBに約126億円、増資に約34億円を投じました。リソー教育の創業者であり、約10%の株式を保有する第2位株主の岩佐実次名誉会長もTOBに応じました。

ヒューリック株式会社による当社株式に対する公開買付けの結果 及び親会社の異動に関するお知らせ

②早稲田アカデミーによる幼児未来教育の買収

早稲田アカデミーは、2024年1月25日に開催された取締役会で、幼児未来教育の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。

早稲田アカデミーは、小学生から高校生を対象とした進学塾事業を展開しています。

一方、幼児未来教育は「ベンチャースクール サン・キッズ」のブランド名で、1歳から6歳までの未就学児を対象とする幼児教室を運営しており、東京都心部に3教室を持ち、独自のプログラムで教育を提供しています。さらに、幼稚園受験や小学校受験の対策プログラムも充実しています。

早稲田アカデミーは、幼児未来教育をグループに迎えることで、新たな事業領域への進出が可能になるとともに、未就学児向けの教育ノウハウを共有し、これまで接点の少なかった顧客層との関係強化を図ります。

これにより、顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)を高め、業容拡大を推進することができると考えています。また、両社の理念や事業の親和性が高いため、今回の子会社化により、女性の活躍の場を広げる取り組みも含め、早期にシナジー効果を創出できると見込んでいます。

株式会社幼児未来教育の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

③スプリックスによる森塾事業の承継

スプリックスは、連結子会社である湘南ゼミナールから、森塾事業を会社分割(吸収分割)によって引き継ぐことを決定しました。

この会社分割では、スプリックスが承継会社となり、湘南ゼミナールが分割会社となります。

スプリックスと湘南ゼミナールは、いずれも学習塾および教育関連事業を展開しています。

今回の分割により、森塾事業をスプリックスに集約することで、グループ全体の資産効率を高め、変化の激しい学習塾業界において戦略的な営業体制を構築し、さらなる競争力の強化を目指します。

④昴によるタケジヒューマンマインドの買収

九州四県で学習塾事業を行っている昴は、2020年3月に、沖縄県で高校生への学習塾を展開しているタケジヒューマンマインドの発行済全株式を取得し、連結子会社化しました。

この子会社化によって昴は、経営基盤を拡げて、中長期に渡る安定的な経営環境を築くことを見込んでいます。

  • 学習塾のM&A・事業承継

4. 学習塾の事業承継の主な流れ

ここでは、学習塾が事業承継を行う際の主な流れについて、親族内・親族外事業承継と、M&Aによる事業承継に分けて解説します。

親族内事業承継(親族外事業承継)の流れ

親族間・親族外事業承継は、以下のような流れで進められます。

  1. 事業承継計画の策定
  2. 後継者の育成・教育
  3. 資産・株式などの承継
  4. 個人保証・負債の処理

①事業承継計画の策定

事業承継は思い立ったらすぐできるわけではなく、後継者の育成・経営権の集約・税金や負債の処理など、時間と手間のかかる過程を踏まなければなりません。

そのため、事業承継を成功させるには、事業承継計画を立てることが重要です。経営者は、事業承継計画を後継者や関係者と共有することで意思の疎通を図り、それぞれの行動を最適化します。

親族の了承(親族外事業承継の場合)

中小企業の親族外事業承継では、親族の了承が得られずに計画が進まないケースも少なくありません。

特に、親族が役員になっている場合は経営者の判断だけでは進められないため、経営者は親族に納得してもらえるような準備が必要になります。

専門家への相談

親族内・親族外事業承継では、関係が近いからこそのトラブルも起こります。そのようなトラブルを防ぐためには、第三者による客観的な仲介が必要です。

M&A仲介会社などの専門家に相談し任せることにより、円滑な事業承継が可能となります。

②後継者の育成・教育

経営者の急病や急逝などにより事業継続に支障が出ないよう、後継者の育成は早い段階から時間をかけて進めておく必要があります。

特に、中小企業の場合、現経営者と後継者間での経営理念の共有や、従業員との関係構築は重要になります。

③資産・株式などの承継

経営者が亡くなってから事業を引き継ぐと、相続税の問題や株式・事業用資産の分散問題などが生じる可能性があり、事業承継に大きな支障ともなります。

税金や株式・事業用資産に関する準備は、経営者が元気なうちに各専門家をつうじて早めに行っておくことが重要です。

④個人保証・負債の処理

個人保証の存在は、経営者に事業承継を躊躇させる要因の1つとなっており、国でも金融機関に対して個人保証に関するガイドラインを作成するなど、対策が進められています。

また、事業承継では多額の資金が必要となるケースも少なくないため、中小企業が資金調達をしやすいよう、制度の整備が進められています。

M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継は主に以下のような流れで進められます。

  1. 仲介会社などへの相談
  2. 承継先の選定
  3. 基本合意書の締結
  4. デューデリジェンスの実施
  5. 最終契約書の締結
  6. クロージング

①仲介会社などへの相談

個人経営の小規模な学習塾の場合は、専門家に最低限の手続きだけをサポートしてもらいながら自力で事業承継を行うケースもありますが、規模が大きくなると煩雑な手続きや交渉が必要となるため、仲介会社などのサポートが必要です。

仲介会社に相談することで、手続き面だけでなくさまざまなアドバイスをもらうことができます。

秘密保持契約書の締結

M&Aによる事業承継では、仲介先や事業承継先に自社の情報を公開するので、情報漏えいや事業承継以外での情報利用を防ぐため、秘密保持契約を締結します。

②承継先の選定

続いて、仲介会社などのネットワークをつうじて事業承継先を選定します。事業承継先の選定段階では、お互い最低限の情報しか参照できません。

さらに詳しく相手先の情報を知りたい場合は、事業承継候補として次の交渉段階に進む必要があります。

意向表明書の提示

事業承継の譲受候補側は、譲渡側に対して意向表明書を提示することがあります。意向表明書とは、事業の譲受希望を伝える書面です。

意向表明書に法的拘束力はありませんが、意向表明書を提示することで優先的に交渉を行うことができます。

③基本合意書の締結

譲受候補と譲渡側で交渉がまとまったら、基本合意書を締結します。基本合意書は、事業承継手続きにおける中間的位置付けといえるものです。

基本合意書には価格や事業承継のスケジュールなどを記載し、その後は合意内容をさらに精査したうえで、最終契約に進んでいきます。

④デューデリジェンスの実施

デューデリジェンスとは企業内調査をさし、事業承継を行ううえで重要な過程の1つです。

デューデリジェンスには、財務デューデリジェンスや法務デューデリジェンスなど、調査内容によってさまざまな種類があります。

⑤最終契約書の締結

基本合意書の内容とデューデリジェンスの結果を踏まえ、問題がなければ最終契約書を締結します。

最終契約書は、株式譲渡によって事業承継を行った場合は株式譲渡契約書、事業譲渡の場合は事業譲渡契約書というように名称が変わります。

⑥クロージング

M&Aのクロージングを迎えた後、譲受側はPMI(譲受後の事業統合プロセス)を進めていきます。

PMIは事業承継の成功に欠かせない過程なので、案件によっては事業承継後数ヶ月から1年以上PMIに費やすケースもあります。

【関連】M&Aのフロー・流れを徹底解説!検討〜クロージングまで【図解あり】

5. 学習塾の事業承継を成功させるためのポイント

学習塾の事業承継を成功させるには、以下のポイントを意識して行うことが大切です。

  1. 事業承継は計画的に準備をする
  2. 後継者を決めたら育成を行う
  3. 事業承継先を入念に選定する
  4. 生徒・講師・従業員への報告は承継後にする
  5. 事業承継・M&Aの専門家に相談する

①事業承継は計画的に準備をする

学習塾の事業承継では、最適な後継者探しから、運営理念や指導ノウハウの承継など、時間をかけて準備をすることが重要です。なお、計画を立てる際は、学習塾の生徒への影響も考慮しましょう。

②後継者を決めたら育成を行う

学習塾は、指導ノウハウと経営者や講師の人柄・熱意が人気を左右します。たとえ、経験豊富な後継者が見つかったとしても、引き継いだ学習塾のカラーに合っていない場合もあります。

学習塾の後継者を決めたら、時間をかけてしっかりと育成することも重要なポイントです。

③事業承継先を入念に選定する

学習塾の事業承継が成功するかどうかは、大手学習塾や人気学習塾であるかどうかよりも、学習塾の教育理念や教育方針が合うかどうかが重要です。

したがって、トップ面談や相手学習塾の現場視察を入念に行いながら、事業承継先を探す必要があります。

④生徒・講師・従業員への報告は承継後にする

学習塾の事業承継などに関する噂は、生徒や親をとおしてすぐに広まってしまい、大きな不安と混乱を招きかねません。

生徒・講師・従業員など関係者への報告は承継後に行い、事業承継完了まで情報を漏らさない配慮が必要です。

⑤事業承継・M&Aの専門家に相談する

M&Aを行う際は、ここまで説明した学習塾の事業承継ポイントを押さえながら、自社に合った戦略を立てていきます。

学習塾の事業承継に取り組むにあたって何をしたら良いかわからない場合は、まず専門家に相談することで行動が具体的に見えてきます。

6. 学習塾を事業承継する際の相談先

ここでは、学習塾の事業承継を行う際に利用できる相談先をご紹介します。専門家や機関に相談することにより、学習塾の事業承継を円滑に進めることができます。

  • M&A仲介会社
  • 地元の金融機関
  • 地元の公的機関
  • 地元の会計士・税理士・弁護士など
  • マッチングサイト

①M&A仲介会社

M&A仲介会社に相談することで、事業承継に必要な流れをトータルでサポートしてもらうことが可能です。

②地元の金融機関

地方銀行や信用金庫でも、職員の資格取得や地元関連機関との連携などにより、事業承継の相談対応を強化しています。

実務面に関しては、提携仲介会社などの専門家と連携して行っているケースがほとんどです。

③地元の公的機関

各都道府県に置かれている事業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継支援の経験を持つコーディネーターが相談などを受け付けています。

事業引継ぎ支援センター単体で事業承継のサポートをするわけではなく、地元の専門機関などと連携して手続きを進めます。

④地元の会計士・税理士・弁護士など

専門分野の経験とネットワークを活かして事業承継支援を行っている事務所もあります。

多くの事務所では、大手仲介会社などとの提携によって、事業承継支援を行っています。

⑤マッチングサイト

マッチングサイトによっては、運営元仲介会社に相談したり、提携機関に相談したりできるサイトもあります。近年のマッチングサイトはサービスクオリティの向上と利用料の低価格化が特徴です。

M&A総合研究所のマッチングサイトは、AIシステムを採用した質の高いマッチングサイトになっています。

【関連】M&Aの相談先9種類!メリットデメリットや選び方と相談時の注意点も解説!

7. 学習塾の事業承継まとめ

本記事では、学習塾の事業承継について解説してきました。学習塾の事業承継を行う際は、事前にしっかりとした計画を立て、M&A仲介会社など専門家のサポートを受けながら自社に合った手法・戦略のもと進めることが成功のカギともいえるでしょう。

8. 学習塾業界の成約事例一覧

9. 学習塾業界のM&A案件一覧

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