2024年06月24日更新
M&Aの資金調達方法を徹底紹介|スキーム・銀行融資のポイント・返済期間・LBOやMBOも解説
M&Aでの資金調達方法・スキームは、直接金融と間接金融の2種類に大別されます。M&Aで資金調達を行う理由まで明確にしておくことが大切です。一般的に間接金融として銀行融資を受ける場合が多いので、銀行融資のポイントや返済期間などを交えて解説します。
目次
1. M&Aにおける資金調達とは
M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称です。具体的なM&Aスキーム(手法)には、買収と合併以外にも事業譲渡や会社分割、株式譲渡などがあります。M&Aとは、事業・会社の売買取引および企業間の組織再編行為の総称のことです。
M&Aを実施する場合には、買収資金や税金、M&Aの仲介業者への手数料を支払う必要があり、多額の資金が必要となるため、資金調達について詳しく知っておく必要があります。
2. M&Aにおいて資金調達を行う目的
M&Aの際に資金調達が必要な理由としては、主に以下の4つが挙げられます。
- 買収資金を調達するため
- 納税するため
- M&Aの仲介業者に手数料を支払うため
- 諸経費を支払うため
買収資金を調達するため
会社を買収する理由は、主に事業拡大による企業価値の向上と、新規市場への参入のリスク軽減の2つです。これらを目的としたM&Aでは、スキームとして株式譲渡や事業譲渡がよく用いられ、譲渡対価は現金で支払われることが一般的です。
金額については、対象企業が中小企業であれば数百万~数億円、大企業同士であれば数千億~数兆円であることもあり、手元資金で工面できない場合には、不足する分を資金調達する必要があります。
納税資金の確保のため
先代経営者の親族である後継者が、相続や贈与によって会社の株式を取得した場合、相続税や贈与税が課される場合があります。法人が売り手から事業譲渡された場合、その中に消費税課税資産が含まれていれば、消費税を支払わねばなりません。
株式譲渡した当事者が個人であれば所得税、法人であれば法人税が課され、事業譲渡では譲渡した法人に法人税が課されます(法人の場合、他の損益と通算して赤字であれば法人税は免除されます)。これらの納税の際、現金が足りなければ資金調達せざるを得ません。
M&Aの仲介業者に手数料を支払うため
M&Aの各プロセスでは専門的な知識や経験が必要であり、自社単独で実施するのは困難であるため、一般的にM&A仲介会社などの専門家に業務を依頼します。もちろん専門家を起用した際には、手数料が発生します。
M&Aの売り手側であれば、得られた売却対価で専門家に支払う手数料が賄えるでしょう。一方、買い手の場合は、買収対価に加えて専門家への手数料も用意しなければなりません。
専門家の手数料(成功報酬)額は、M&Aの規模に応じて高額となることがあります。手持ち資金では足りない可能性もあり、その場合には資金調達が必要となります。
料金体系については各社で異なるため、業務を依頼する前にしっかりと手数料額を確認しましょう。
諸経費を支払うため
M&Aを実行する際に必要となるのが、担当従業員の人件費やM&Aの実行にかかる交通費、宿泊費などの各種経費です。株主総会の開催のためには、会場の使用料なども発生します。
M&Aは中長期にわたって取り組む取引なので、諸経費の合計額が高ければそのための資金調達をしなければなりません。
3. M&Aにおける資金調達方法
M&Aの資金調達には、大別して「直接金融」と「間接金融」の2種類があり、この2種類の資金調達方法が主流となっています。そのほか資産の現金化や補助金・助成金の活用がありますが、以下では一般的な方法を中心に資金調達について詳しく解説します。
4. 直接融資(増資)による資金調達方法
直接金融とは、新株式を株主(出資者)へ割り当てる、増資を目的とした資金調達スキームです。会社としては出資を受けるので、融資のように返済義務を負いません。
この直接金融の場合、「既存株主」「少数の第三者株主」「不特定多数」の誰に新株を割当てるかで、資金調達の名称が異なります。
直接金融のメリットとしては、「返済の必要がない」「資金調達コストの削減」「信用力の向上」「高額な資金を調達できる」などが挙げられます。一方、デメリットとしては「出資者に経営への発言権が生まれる」「出資を停止される恐れがある」「調達コストがかさむ」などです。
株主割当増資
会社が新株発行によって、資金調達を行うスキームとして「株主割当」があります。株主割当は、増資を目的に新株式の割当を受ける権利を、既存株主に与えることによって行う方法のことです。株主割当は、株主の持ち株数に応じて新株式が割り当てられます。
株主は、株主割当を行った会社に対して申し込みや払い込みの義務はありません。申し込みがない場合は、権利が失権し資金調達が失敗に終わるので注意しましょう。
株主割当増資のメリットは、「自己資本の比率の拡大」「株主構成の比率が変わらない」「時価と比べて低価格で行える」などです。一方、デメリットは、「すべての株主が同じ割合で増資できるわけではない」などが挙げられます。
第三者割当増資
会社が特定の第三者に対して資金調達を行うスキームの2つ目は、「第三者割当」です。第三者割当も株主割当と同様のスキームですが、業務提携先や取引先・自社の役員・取引金融機関など、発行会社の縁故者に新株式を割り当てます。
敵対的M&Aに対する防衛策の一環として行われる場合や、取引先や提携先との財務健全化、関係強化などの方法としても有効です。第三者割当増資は、M&Aスキームとしてもカテゴライズされています。
第三者割当増資のメリットとして、資本業務提携による「シナジー効果」や会計上ののれん代を抑えられる「会計の効果」などが挙げられます。
一方、デメリットは、第三者割当増資は株式数が増加する性質から、「必要買収資金の増加」「完全子会社化ができない」などのデメリットが生じます。
公募増資
既存株主や少数の第三者に対してではなく、不特定かつ多数の投資家から出資を受けることを「公募増資」といいます。上場企業が行うのが一般的です。法律上は非上場企業でもできますが、事務処理作業が膨大になるため割に合いません。なお、公募増資時の株価は、その際の市場株価や投資家の需要を参考にして決定されます。
公募増資のメリットは、「株主層の拡大」「株式の流動性向上」「既存株主の株式の希薄化を低減」などが挙げられます。一方、デメリットとしては「配当金の支払い負担増加」「税負担の増加」などが挙げられるでしょう。
社債発行
社債を発行して投資家に売却することで資金を調達する方法を「社債発行」といいます。
株式とは違い、投資家から借入を行う形であるため、投資家に対し定期的に利息を支払い、満期時には元金を償還する仕組みとなっています。
社債発行のメリットは、発行時からコストが確定しており「資金計画が立てやすい」「調達コストは必要経費にできる」「株式発行と比較するとコストが安い」「経営権への影響がない」といったメリットが挙げられます。
一方、社債発行のデメリットは借入の「返済義務がある」「発行手数料がかかる」などが挙げられるでしょう。
5. ②間接金融(融資)による資金調達方法
間接金融とは、銀行融資など金融機関からの借入を行う資金調達スキームです。間接金融は、デットファイナンスとも呼ばれています。銀行からの借入だけでなく、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」の融資制度も活用できます。
間接金融は主に、プロパー融資・公的融資・ビジネスローン・コマーシャルペーパーなどがあります。
プロパー融資 | 金融機関から融資を受ける方法です。信用力がないと融資は受けられません。 |
公的融資 | 政府が100%出資する日本政策金融公庫から借入をする方法です。日本政策金融公庫の特徴として、中小企業の支援を目的とする融資制度が充実しており、低金利での融資が可能です。 |
ビジネスローン | 金融機関やノンバンクの事業資金専用のローン商品をいいます。 |
コマーシャルペーパー(CP) | 企業が短期資金調達の目的で、公開市場で割引形式で発行する無担保の約束手形です。 |
間接金融のメリットは、「審査基準を満たせば事業資金を借りられる」「複雑な手続きが必要ない」「経営についてのアドバイスを銀行から受けられる」などが挙げられます。
一方、デメリットは、「利息を支払う必要がある」「資金調達コストが高くなる」などが挙げられるでしょう。金融機関などからの借入では、返済期間や金利に注意しておく必要があります。
公的融資
公的融資とは、政府や公的機関が提供する融資であり、企業が成長し、経済に貢献するための資金調達手段として重要な役割を果たします。
公的融資の最大の特徴は、一般的な銀行融資に比べて低金利であることです。政府や公的機関は、企業の成長を支援する目的で融資を行うため、金利が低く設定されています。
また、公的融資は、返済期間が長期にわたることが多いです。これにより、企業は安定した資金計画を立てやすくなり、M&A後の事業運営に集中できます。
公的融資を受けることで、企業の信用力が向上する場合もあります。公的機関からの融資を受けることは、企業が一定の信頼性を持っていることの証明となります。
ビジネスローン
間接金融の一環として、ビジネスローンは中小企業や大企業問わず、多くの企業が利用する資金調達方法です。
ビジネスローンは、資金使途が比較的自由であることが特徴です。M&Aに必要な資金だけでなく、運転資金や設備投資など、様々な用途に利用できます。
また、ビジネスローンの返済期間は、短期から長期まで幅広く設定可能です。企業の資金計画に応じて、適切な返済期間を選ぶことができます。
ビジネスローンには、担保付きのローンと無担保ローンがあります。無担保ローンは、特に中小企業やスタートアップ企業にとって利用しやすい選択肢です。
プロパー融資
プロパー融資とは、金融機関が担保なしで行う融資のことで、信用力に基づいて提供されます。
プロパー融資は、企業の信用力に基づいて行われるため、担保が不要です。これは特に資産を持たない新興企業や中小企業にとって大きな利点です。
また、無担保であるため、金融機関は企業の信用力を重視します。過去の実績、財務状況、将来のビジネスプランなどが審査の対象となります。
プロパー融資の資金使途は比較的自由です。M&A資金だけでなく、運転資金や設備投資など様々な用途に利用できます。
6. ③その他の資金調達方法
資金調達の方法は、直接金融と間接金融の2種類に限ったものではありません。ここでは、2つを紹介します。
資産の現金化(アセットファイナンス)
アセットファイナンスは、企業が保有する資産(有形および無形)を売却し、資金調達する方法をいいます。不動産の売却・商標権の売却・ファクタリングなどがあります。
不動産の売却 | 活用されていない土地や建物などの有形資産を売却して資金調達する方法です。 |
商標権の売却 | 商標権などの無形資産を売却し、資金調達する方法をいいます。 |
ファクタリング | 売掛債権を活用 売掛債権を売却し、売掛金の回収予定日よりも前に現金化する方法です。 |
アセットファイナンスのメリットには、「迅速に資金調達ができる」「保有資産を貸借対照表から切り離せる」が挙げられます。買い手が見つかれば、保有資産の信用力をもとに、すぐに相応の資金が調達可能です。一方、デメリットとしては「企業イメージ低下につながる恐れ」もあるので注意が必要でしょう。
補助金・助成金を活用する
公的に行われている事業者向けの補助金・助成金の資金調達方法があります。
補助金・助成金を活用して資金調達すれば、会社の負担が軽減できますが、補助金・助成金は、出費後にその一部を補填する流れになっているため、事前に自社で必要な経費を用意しておく必要があるでしょう。
補助金・助成金のメリットは、規模や事業内容、資金の利用目的など細かな条件があるものの、「原則的に返済の必要がない」といったメリットがあります。
一方、デメリットとしては、「募集が不定期」「自社の必要なタイミングで利用できるかは不明」「種類によっては審査基準が厳しい」などが挙げられます。
7. M&Aの資金調達におけるLBOとMBO
増資や通常の融資以外の資金調達スキームに、LBO(Leveredged Buy Out)・MBO(Management Buy Out)があります。いずれも、銀行から借入する点は同じです。相違点は、自社ではなく被買収会社の資産や将来キャッシュフローを担保にする点です。
LBOとは
LBOは、投資ファンドに多く用いられる手法で、リスクは高いものの利益効率はよい投資スキームです。その性質上、敵対的買収を仕掛ける際に多く用いられています。複雑なスキームであるため、金融のプロが行うことが多いですが、そのメリットは非常に大きいでしょう。
LBOのスキーム
LBOは、売り手企業の資産や将来キャッシュフローを担保に、買い手が融資を受けるスキームです。通常の融資では、買い手会社の資産や信用力によって融資を受けます。しかし、LBOでは売り手会社が担保になるため、買い手会社が誰でも融資を受けられる仕組みです。
LBOのメリット
M&Aを行う際に、買い手会社は自社の資金を拠出する必要がありません。そのうえ、自社の信用力がなくても、資金調達が可能です。LBOを行う際にはSPC(特定目的会社)を使うことが多く、通常の借入と比較して、利益効率が高まるレバレッジ効果が期待できます。
LBOのデメリット
自社の信用力を使わない分、銀行が負うリスクが高いため、金利が高いなど諸条件が悪いことが多いでしょう。実際、当初の売り手企業の事業計画が達成できなかった場合には、金利支払いや返済が非常に難しくなります。
LBOの代表的な事例
2003(平成15)年に米国の投資ファンド「リップルウッド」が日本テレコムを買収した事例では、LBOの手法で米系銀行・日系銀行から2,090億円を集めたといわれています。
1年後の2004(平成16)年には、ソフトバンクグループが日本テレコムを買収し、リップルウッドの投資利益は約800億円でした。リップルウッドは、自己資金の数百億円から、1年間で800億円稼いだ計算になります。
MBOとは
MBOはLBOとよく似ていますが、実施主体が会社経営陣である点が大きく異なります。投資目的ではなく、投資家と経営陣の事業方針が対立した場合や上場のメリットがなくなった場合など、「所有と経営の一致」を目的に行われる手法です。
MBOのスキーム
MBOは、売り手企業の資産や将来キャッシュフローを担保に、売り手企業の経営陣が融資を受けるスキームです。通常の融資では、買い手会社の資産や信用力によって融資を受けます。
しかし、MBOではLBOと同様に売り手会社が担保なので、経営陣に金銭面での信用力が少ない場合でも融資を受けられます。
MBOのメリット
MBOは、株主と経営者を一致させるために行われます。これにより、経営の機動力の確保や大胆な事業投資が可能となるでしょう。MBOを行えば、上場会社でも非上場会社になるため、上場維持コストを減らす効果も期待できます。
MBOのデメリット
事業計画どおりに業績を伸ばせなかった場合に問題となります。通常、MBOの後には再上場を行うなどのゴールが設定されていますが、それができなくなるためです。
株式を保有している経営陣にとっては、株式の引き取り先がいなくなるので、その会社の経営に関与し続けなければならないこととなります。
MBOの代表的な事例
2006年、「すかいらーく」が、MBOにより上場廃止になりました。当時のすかいらーく代表取締役だった谷真氏がMBOの旗振り役となり、みずほ銀行などから2,200億円の融資を受けて買収資金を用意しています。
8年後の2014(平成26)年に再上場を達成しましたが、期待どおりの企業価値向上は達成できず、投資利益もほとんど得られなかったようです。
8. M&Aで資金調達を行う前の検討事項
M&Aの資金を金融機関からの融資で調達する際には、返済期間が適切かどうかを検討する必要があります。利息は借入額、適用金利、返済期間に基づいて計算されるため、返済期間が長くなると利息も増えてしまいます。
さらに、金融機関は返済期間が長い融資に対して高めの金利を設定することがあるので注意が必要です。低金利で融資を利用したい場合は、返済期間を短くする方法を検討しましょう。
ただし、返済期間が短くなると毎月の返済額が増えるため、返済負担が大きくなります。毎月無理なく返済できる金額を計算し、金融機関に相談することで、適切な返済期間を設定しやすくなります。
また、借入額が増えると返済負担も増加しますが、融資を減らすと自己資金が不足し、経営に影響を及ぼすことがあります。調達額が妥当かどうか、慎重に検討することが重要です。
9. M&Aの資金調達に関する相談先
資金調達は規模を問わず、さまざまな会社の経営者が考える課題でしょう。特に中小企業は、より安定的な資金調達を実現するために日々努力しています。
昨今は、中小企業を支援する公的な制度やクラウドファンディングなど、新しい資金調達方法などの選択肢も増えています。自社にあった資金調達方法を活用しましょう。
M&Aを行う場合は、専門家への依頼費用も必要です。M&Aは、M&A仲介会社に依頼をして進めていくのが一般的でしょう。M&A仲介会社に相談し、マッチングから手続きなどのサポートを受けながら進めるほうが、自社のみで行うよりもM&Aの成功率を高められます。
仲介会社などの専門家に依頼する場合、まとまった金額を準備しておく必要があります。M&Aが成立した後の成功報酬なども必要です。
成功報酬は、一般的に買取金額の5〜10%程度となるため、買収金額に上乗せした金額を用意する必要があるでしょう。専門家の依頼にかかる費用は、それぞれ料金体系が異なるため、事前によく確認しましょう。
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10. M&Aの資金調達の方法・スキームまとめ
M&Aの資金調達は、合併や買収に必要な資金だけではなく、「諸経費、税金、専門家への相談料」までを考慮しておくのが肝要です。しかし、資金調達に成功したとしても、買収のスキームを誤ってしまうと大きな損失を生み出してしまいます。
M&Aの資金調達を成功させるためには、自社の財務状況やキャッシュフローなどさまざまな視点を考慮する必要があります。M&A仲介会社などの専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。
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