M&A業界の動向まとめ!特徴や現状・今後の予測も紹介【2024年最新】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

近年、国内のM&Aは増加傾向にあり、件数は2割減少したものの、金額ベースでは約5割増加しています。本記事では、今後のM&A業界の動向を予想すべく、現在のM&A業界の動向やその業務内容、各業界のM&A動向、世界のM&A動向などをデータも交えて解説します。

目次

  1. M&A業界の動向【2024年最新版】
  2. 業界別のM&A最新動向
  3. M&A業界の今後【2024年以降の予測】
  4. 世界のM&A件数動向
  5. M&A業界で提供される業務内容
  6. M&A業界の主要プレイヤー
  7. M&A業界の動向まとめ
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1. M&A業界の動向【2024年最新版】

中小企業の後継者不足は、日本の社会的な課題となっています。M&A市場は、経営者の高齢化に伴う後継者不在問題により、事業承継型のM&Aは年々増加傾向です。

しかし、2020(令和2)年はコロナ禍の影響によって市場が縮小しました。ここでは、M&A業界における2022(令和4)年の最新動向を解説します。

M&Aだけでなく上場も目立っている

M&A件数は、新規の上場企業件数と比較的近い相関関係にあります。帝国データバンクの調査によると、2023年の新規上場社数は前年から微増の96社で、リーマン・ショック後2番目に多い数を記録しました。

2023年の国内株式市場は、円安による企業業績の改善やデフレ脱却への期待、米国の「利上げ終了」の示唆、海外勢による日本株の再評価などが、新規上場数に影響を与えたと考えられています。

昨今、経営者の高齢化による事業承継がピークを迎えるなか、企業の内部留保が豊富であることを考慮すると、今後10年間もM&A件数は増加していくと予想できるでしょう。

DX目的のM&Aにも積極的

事業承継型のM&Aの増加に加え、IT企業を対象にした買収案件が目立っています。デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)化への取り組みとして、M&Aを選択するケースも増加傾向です。

デジタル化やDX化とは、たとえば紙の書類をデータ化することは、業務効率を上げるためのデジタル化といえます。会社内で複数のシステムを共有・活用し、担当者の業務軽減、生産性向上につなげるのがDX化です。

DXへの取り組みは、大企業を中心に進められていました。昨今は、人手不足に陥っている中小企業こそDXが必要といわれています。しかし企業では、最先端技術に対応できる優秀な人材が不足している現状です。

IT技術に詳しい人材を確保するために、IT企業を買収する企業が増加しつつあります。DXを進めるうえで、社内にIT人材を確保するのが重要であるとの認識が浸透してきており、IT事業・会社が関わるM&Aが増加しているのです。

事業再編に向けたM&Aも多い

経済産業省が2020年に発表した「事業再編や新陳代謝の促進等による生産性向上と経営者保証に関する取組について」によると、事業再編を実施した中小企業は、伸び率を見てみると、実施していない中小企業に比べて、生産性が向上しているのがわかりました。

具体的な効果は、中小企業の販路拡大や利益率の向上につながるとしています。 企業の人手不足が深刻な課題となるなか、M&Aは中小企業の生産性向上の重要な手段といえるでしょう。

M&A動向から見るPMIの手法

日本電産やSHIFTなどのようなM&Aを数多く実施している企業は、M&Aの経営統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)に対する明確なメソッドが確立しているため、経営も強固になっています。

日本電産は、日本企業として早い時期からM&Aに取り組み、国内外で60件以上のM&Aを実施し成功へと導いてきました。2021年度は環境関連事業へシフトし、営業利益が3年ぶりに過去最高を更新しています。IT企業のSHIFTも30社以上のM&Aを成功させ、事業拡大を促進させてきました。

中小企業庁の「中小PMIガイドライン」によると、実績が蓄積されているM&Aでは、PMIの取り組みが最も重要とされています。買い手と売り手が一体となって成長していくためには、経営や業務などの面で一定程度のすり合わせを行うことは必要不可欠といえるでしょう。

上場企業、スタートアップ、クロスボーダーM&Aは苦戦

上場企業、スタートアップ、クロスボーダーM&A(海外企業とのM&A)は苦戦する結果となりました。通常、中堅・中小企業のM&Aは、年間の営業キャッシュフローに値するEBITDAのおおよそ5倍から6倍で取引されているのが現状です。

一方、上場企業のM&AはPERに30%上乗せしてM&Aが実施されているため、買収価額が高額となり早期の投資回収が難しくなります。スタートアップM&Aは、サービス自体を買収するケースが多く、投資としてM&Aを実施し、その後に事業継続が難しくなったケースも見られました。

クロスボーダーM&Aは、日本では苦戦を強いられています。いわゆる欧米の売れ残り案件が多かった可能性もあるかもしれません。

2. 業界別のM&A最新動向

M&Aはさまざまな業界で盛んに行われていますが、それぞれの業界によって現状や動向などは大きく異なるものです。この章では、M&Aが盛んに行われている業界と動向を解説します。

調剤薬局

M&Aで最も注目を浴びているのは調剤薬局業界です。

調剤薬局は1990(平成2)年代からチェーン化が進行してきました。厚生労働省の資料「令和元年度衛生行政報告例の概況」によれば、2019(令和元)年時点の調剤薬局数は60,171施設と、コンビニエンスストアをしのぐほどの数に増えています。

業界では積極的なM&Aが行われていることから、今も店舗数は増え続けている現状です。しかし、医薬分業の増加も落ち着き、昨今の調剤薬局業界は成熟市場化へと変化しています。市場の成長に伸び悩む時代に突入し、業界では大きな再編が望まれているところです。

人気職業ランキングでは上位の薬剤師ですが、薬剤師不足も課題に挙げられます。薬剤師が不足しているのは、薬学部の在籍年数が変動したことにあります。2006(平成18)年に学校教育法と薬剤師法の改正が行われ、在籍の期間が延びたことから、調剤薬局は人材を確保しにくくなりました。

特に規模の小さな薬局では難しい状態にあります。薬剤師が働く場は、調剤薬局以外にも製薬会社・病院・大手ドラックストアなどがあるからです。それらは、企業体力が高く、採用費や教育費に大きくコストをかけられるため、中小規模の調剤薬局ではさらに人材確保が困難になっています。

これらを解消する手段として、M&Aが有効です。昨今は、異業種が調剤薬局の分野に進出するケースも増え、参入するにあたって調剤薬局を買収し、ハードルを下げています。新しい付加価値をつけるためには異業種とのコラボも必要でしょう。

M&Aでチェーン化すれば人材を確保しやすく、さらに後継者探しや育成の手間を省ける点もメリットです。熟成している市場であるため、業界再編の手段としてM&Aは盛んに行われると想定されます。

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IT

人気職業ランキングや成長業界ランキングで上位のITは、システムやアプリ・ソフトウェア・情報処理・通信インフラなど、情報技術を専門とした業界です。発展を続けるIT業界は多様化が続き、市場もさらに拡大すると予想されています。しかし、課題は人材不足です。

新しい技術の登場と需要が増えている背景から、全体で約20万人足りないともいわれています。求人倍率も7倍以上になるとのデータ予測です。効率的に人材を確保する手段としてM&Aが採用されています。最先端技術を持っている企業であれば、人材と同時に新技術を取得するのも可能です。

そのほか、中小やベンチャー企業の場合は、経営基盤を堅くする目的で売却したり、海外進出を狙って買収を行ったりするM&Aも多く見られます。M&Aを活用するケースが増えているものの、IT業界に特化したM&Aの専門家が少ない点が課題といえるでしょう。

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不動産・建設・ビルメンテナンス

建設業界は、東京オリンピック・パラリンピックの関連で大型の再開発がピークの頂点に到達しました。一時期は赤字受注の時期もありましたが、景気の回復や震災の復興などの需要で工事量が増え、好業績を維持しています。

不動産・ビルメンテナンス業界では、新築分譲マンションの供給で市場は好調です。しかし、人口や世帯数が減っている背景から、新築分譲マンションの需要は減る可能性が高くなっています。将来的に、市場は伸びが不調になる可能性が懸念点です。

それでも、直近は不動産市場の好景気が続いているので、市場は伸び続けると考えられるでしょう。不動産・建築・ビルメンテナンス業界は、平均年収ランキングで上位となっています。需要の続く業界ですが、人材不足が大きな課題です。

労働力に依存している業界であるため、人材不足は経営に直接ダメージを与える要因になるといえます。工事量や管理戸数の拡大に対応できるよう、人材の確保や後継者不足の解消、競合との優位性を保持するなどの目的でM&Aを行う管理会社やゼネコンは増加傾向です。

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食品

食品業界は製造業、卸業、小売業、外食業と多岐に渡ります。所得水準の低下やデフレの長期化、消費増税、年金不安などの影響で消費者は節約意識が強く、競合も多いため企業側では価格競争が激しくなっているのが現状です。

製造業では原料費の高騰が続き、コストが増加しています。業界によってM&Aの目的は異なりますが、製造業では後継者問題の解消や海外投資などを目的にM&A件数が増加しているようです。

卸業は、国内市場の縮小背景と流通コストの上昇に伴い、規模拡大を狙った同業者間でのM&Aが盛んに行われてきました。小売業界は、コンビニ業界で再編を目的にM&Aが行われ、スーパー業は上位ランカーによるM&A攻勢が続くでしょう。

外食業では人手不足やコストの高騰、オーナーの高齢化など、さまざまな課題を抱えています。課題解決や成長を加速化させる狙いからM&Aが行われており、その傾向は続くでしょう。

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物流

経済活動を支える物流業界は、大きく分けると輸送・運送を行う運送業と、保管を行う倉庫業で成り立っています。物流市場の6割はトラックによる運送事業が占めている状況です。なかでも通販の利用が増えたことで、宅配便貨物が大きく伸びています。

厚生労働省が公開している「職業別一般職業紹介状況[実数](常用/含パート) 」によると、「自動車運転の職業」における有効求人倍率は、2021年3月時点で2.21倍でした。全職種平均の有効求人倍率である1.02倍と比べ、人材確保が難しい職種であるのを示しています。

人材の高齢化も根深い問題です。ほかにも、業界全体で赤字営業の傾向が続き、競走の激化から運送単価の低下、燃料費のコスト上昇による収益の低下なども課題に挙げられています。

この現状により、事業承継に厳しさを感じる企業は多く見られますが、物流の需要は加速するとの予想です。販売拡大やドライバーの確保を目的に業界でもM&Aが浸透してきました。

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医療・介護

平均年収ランキングでは長年上位をキープしている医療業界は、患者へ医業を行う医師や関連のサービスの提供を行う事業があります。病院形態は複数に分類され、病院・診療所数と病床数は医療法に基づき運営されるものです。

企業とは異なるため、M&Aの方法は合併や出資持分の譲渡、事業譲渡となっています。なかでも、出資持分の譲渡が選ばれるケースが多いです。激務な業界ランキングで上位に入ることが多い介護業界は、超高齢社会により医療業界と合わせて需要の拡大が見込めます

厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和3年3月分及び令和2年度分)について」によると、2021年3月時点で介護サービス業の有効求人倍率は3.44倍でした。人材が求められている職種であることはいうまでもありません。医療と介護はどちらも医師や介護職員が不足しています。

介護にいたっては、非正規職員に頼っている傾向が顕著です。また、経営の赤字や施設の老朽化・設備導入に資金を回せないなどの理由により、既存事業の強化を狙ったM&Aが増加しています。介護業界では、事業拡大を目的に異業種からの買収も増加傾向です。

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製造

原材料の加工や組み立てにより製品を作る製造業には、機械や電子機器、衣料品など幅広い分野が存在します。その分野によって市場規模や需要、M&Aの動向は変わってきますが、大手企業のM&Aが増加傾向です。

昨今は、グループでワンストップの製造を行う考え方が強まり、大手企業が中小規模の部品メーカーを買収するのが盛んになってきています。業界変革に合わせて異業種とのM&Aも多いです。

特に、AIやIoTといったIT技術の導入に伴い、M&AでIT業界を傘下に入れる製造会社も増えています。事業を多角化させる製造業も増えており、ノンコア事業を売却しM&Aでコア事業に力を入れる企業も見られるようになりました。

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小売・卸売

小売業と卸売業は、どちらも商品の販売を行う業界です。製造業と同じく商社や食品など幅広い分野があります。小売業は、主に個人や家庭消費を目的に商品を販売、もしくは事業者に対して産業用商品を少数か少額で販売する事業です。

一方、卸売業は、業務で使われる商品の販売や売買の代行を担う事業となります。消費増税や人口減少などの背景を受け、市場の動向は縮小傾向です。その縮小に対応しようと、M&Aが活発な傾向にあると考えられます。

大手企業は異業種への参入や事業拡大のために、中小企業を積極的に買収する傾向にあります。市場でのシェア拡大や事業発展のため、大手企業間でのM&Aも目立つようになっています。

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サービス

サービス業は顧客に無形の価値をもたらす業種で、その分野は情報やモノ、快適性など多様です。具体的には外食や宿泊施設、広告、人材派遣、教育、放送などが当てはまります。サービス業自体のニーズは増加の動向を見せています。市場規模の成長も期待できるでしょう。

分野によって課題は変わりますが、共通する問題は接客や営業を行う人材の不足です。企業体力の低い中小企業はスムーズな人材確保が難しいので、M&Aでカバーする動きが見られます。また、供給力の強化やサービスの品質向上のためにM&Aを行う企業も多いです。

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ゲーム

ゲームソフトやハード、アプリの開発と販売に携わるゲーム業界は、産業のなかでも成長が期待できる業界です。ゲーム情報誌「ファミ通」を発行するKADOKAWA Game Linkageによると、2023年の国内家庭用ゲーム市場規模が前年比7.8%増の4039億円だったと発表しました。

オンラインゲームやアプリゲームのシェアは、今後も伸び続けるでしょう。ゲームプログラマーは人気職業ランキング上位にランクインしており、人材不足の心配は少ないはずです。

ゲーム業界では、オンラインプラットフォームの参入を目的に大手企業のM&Aが盛んです。なかでもゲームアプリは世界中で配信されているので、海外展開を視野に入れたM&Aの動向が目立ちます。

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美容

厚生労働省の「令和元年度 衛生行政報告例」によると、美容所は25万4,422軒で過去最高を更新しました。その一方で、理容所は11万7,266軒と減少しています。美容業界では、事業所数は年々増加傾向です。

近年では、以前から存在する付加価値型サロンと、施術メニューやサービスを一点特化した低価格サロンへの二極化が進行しています。ネイル・エステ・まつげエクステ、男性専用脱毛サロンなど、ほかの美容サービスと協業し、相互集客を促進して売上を確保する理容室・美容室も急速に拡大中です。

美容業界の競争率は、今後も激化していくでしょう。人口が減少に転じているにもかかわらず、年々増加している現実は、過当競争であるのが一目瞭然です。一方で、理容市場は経営者の高齢化が進んでおり、理髪店は淘汰される傾向にあります。

美容業界は個人の経営者が多く、深刻な後継者不足に悩む経営者も多いため、解決策として挙げられているのがM&Aです。昨今は美容業界以外からの参入も活発化しているため、事業拡大を目的としたM&Aが行われるとの予想もあります。

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エネルギー

エネルギー業界は近年、事業縮小が加速している傾向です。特にLPガス業界は、都市ガスやオール電化の需要が高まったことで市場が縮小しました。

日本LPガス協会の資料「最近のLPガスの動向について」によると、LPガスの国内需要は1996(平成8)年度の1,970万トンがピークで、2015(平成27)年度以降は1,400万トン程度で推移しています。

スマートエネルギーや再生可能エネルギーが世界的に普及するなか、今後も減少が見込まれます。エネルギー業者間で消費者の奪い合いが起きているのが現状です。

事業縮小に伴い施策が必要となり、解決策としてM&Aが注目されています。近年、大手企業は海外市場でのシェア拡大を目的として、海外企業の買収を行っています。

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広告

これまでの広告はテレビや雑誌などのメディアが主流でしたが、それらは減少傾向です。一方で、スマートフォンの普及に伴って、インターネット広告の需要が高まってきています。電通の「2023年 日本の広告費」によると、2023年のインターネット広告費は3兆3,330億円(前年比107.8%)と過去最高を更新し、前年より2,418億円増加しました。

コネクテッドTVの利用拡大に伴う動画広告需要の高まりや、デジタルプロモーション市場の拡大などが成長に寄与しました。

広告のデジタル化により、インターネット広告を得意とする企業の譲渡が増加していくでしょう。大手広告企業の中には、M&Aによって世界進出に成功している企業も出てきました。今後、広告業界でのM&Aも加速していくものと想定されます。

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3. M&A業界の今後【2024年以降の予測】

ここまで、M&A業界内の分類やM&Aが盛んな業界の動向を紹介してきました。将来的にM&A業界はどうなっていくのでしょうか。この章では、M&A業界の今後も解説します。

事業承継M&A件数がより増加

今後、M&A市場はますます拡大していくと考えられます。なぜなら、後継者不足・人材不足に悩む企業が多くの業種で増加すると予想できるためです。

特に後継者不足は深刻であり、帝国データバンク発表による「全国・後継者不在企業動向調査(2023年)」によると、企業の後継者不在率は53.9%と、多くの企業が後継者不在問題を抱えていることがわかります。

後継者にふさわしい人材が見つかっても、経営者として育成するまでに5~10年要するのが実状です。その間に市場環境に変化が生じれば、企業価値が低下してしまうかもしれません。

こういった理由から、事業承継のためのM&A件数は増加し、全体的な市場規模の拡大につながると考えられます。

後継者不足問題の深刻化

中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、経営者のうち、2025(令和7)年までに70歳以上の経営者は245万人に達する見込みです。その内、約半数の経営者が後継者のいない状態になると予想されています。

帝国データバンクが発表した「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」の資料でも、国内のM&A市場は後継者不足の問題を抱える中小企業が増加しているなかで、脱ファミリー化が加速していることがわかります。

柔軟な発想や実行力のある若い世代を後任にして将来を任せたいなど、後継者問題に対する経営者の心境も変化しているのが現状です。第三者へのM&Aや事業譲渡、経営再建併用の事業承継など、さまざまな支援メニューが全国的に整いつつあります。

支援機関の増加

昨今、公的機関やM&A仲介会社による支援が充実してきており、国内のM&A市場拡大の要因となっています。中小企業など案件数が増え、公的機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」の成約実績も増加中です。

中小企業基盤整備機構の「事業引継ぎ支援事業に係る実績について」によると、2020年度の事業引継ぎ成約件数は1,379件(前年度比 117%)と過去最高となりました。年間を通じた成約件数および相談者数もともに過去最高です。

事業承継は中小企業の重要課題であることが改めて示されたといえるでしょう。中小企業や個人の取引が増加していることに伴い、支援機関も増加し、誰でもM&Aを相談しやすい形に変化してきています。

公的機関やM&A仲介会社などの支援・サービスの充実により、国内のM&A市場はさらに拡大する見込みです。

M&Aの認知度向上

以前は、M&A仲介会社や金融機関でなければ、M&Aの案件を取り扱っていませんでした。しかし、M&Aの認知度向上により、さまざまなM&Aマッチングサイトが登場しています。M&Aマッチングサイトは、仲介会社を利用するよりも安価に利用可能です。

自社の希望する条件を入力することで手軽に案件を探せます。個人でもM&Aが利用できるのが認知されるようになったことで、買い手からの需要が高まってきているのが現状です。このような背景から、将来的にもM&A市場は拡大するでしょう。

小規模M&A件数の増加

中小企業を中心とした小規模M&A件数が増えています。海外では、最初からM&Aでの売却を目的に経営するケースも少なくありません。日本ではまだそれほど一般的ではないものの、今後は日本でも小規模M&Aがさらに活用される可能性が非常に高いとの予測です。

起業家が会社設立の手間を省くために、小規模会社を買収する場合もあります。起業家はコストを削減しつつ自分の会社を持てるようになるため、スタートアップとして有効な手段といえるでしょう。

ネット活用による利便性向上

インターネットの普及によって、さまざまな産業・サービスの利便性が向上しています。M&A業界でも同様に、多くの企業が積極的にネットを活用中です。

M&Aの問い合わせはホームページから簡単に行えるようになり、マッチングプラットフォームによって、M&Aの相手先企業を探したり、直接交渉ができたりするサイトも増加してきました。

今後、ネット活用による利便性はさらに向上し、M&Aはより身近になって件数が増加していくと考えられます。

スタートアップ、クロスボーダーM&A、スモールM&Aがトレンド

日本ベンチャーキャピタル協会の発表によると、スタートアップによる資金調達金額は、2013(平成25)年に800億円程度でしたが、2021年には約8,000億と10倍へと拡大しました。今後、投資を受けた企業は出口戦略としてM&Aを選択するケースが増加するでしょう。

アメリカでは、スタートアップの9割程度がM&Aによる出口戦略を行っています。国内でもスタートアップ企業のさらなる成長のために、M&Aの実行が増加する予想です。

国内を主たる事業基盤としてきた企業も含め、クロスボーダーM&Aの裾野が一層拡大しています。アジアにおける世界のGDP比率が高まっていくなか、東南アジアのM&Aは、国内市場が縮小している日本企業にとっても、早期から挑戦すべきものとの認識です。

スモールM&Aは、年商1億円以下、数百万円程度で売買が可能な小規模M&Aを意味します。M&Aマッチングサイトの活用などにより、多くの小規模M&Aが成約しているのが現状です。

コスト面で制約のあるスモールM&Aでも、専門家のスポット支援と利便性向上、地域金融機関における経営支援事業の促進など、さまざまな取り組みが政府によって計画されています。

業界再編M&Aの活発化

業界再編M&Aは、M&Aや経営統合、業務提携などによって各業界の勢力図が再編される動きをいいます。業界再編を促すために、大企業同士が大型のM&Aを行うケースもあります。

業界の市場規模が縮小傾向であったり、業界が成熟期であったりする場合、経営資源の有効活用や経営の効率化のために業界再編が加速していくと予想されています。

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4. 世界のM&A件数動向

ここでは、アメリカ、アジア・環太平洋、世界全体のM&Aの推移を紹介します。

アメリカの動向

米国のM&Aマーケットは2021年で3兆4,742億ドルとなり、規模・件数ともに過去最大に達しました。この値を1985年と比較すると、規模としては約5倍までに成長しています。アメリカの経済は堅調で、金融緩和による金利水準の低さもあり、M&Aが活発化しました。

CFIUS(Committee on Foreign Investment in the United States:対米外国投資委員会)による審査の強化や、米中貿易戦争の影響もあり、中国企業による買収が2017年以降減少しています。2019年上期では、欧州企業による米国企業へのインバウンド投資が目立っていました。

参考:imaa「United States – M&A Statistics」Announced M&A in the United States by Numbers and Value by Years

アジア・環太平洋の動向

EYストラテジー・アンド・コンサルティングが2020年12月に発表した資料によると、新型コロナウイルス感染症の流行下で、欧米やそのほかのM&A市場が軒並み前年比2ケタ減となりました。

対して、アジア・パシフィック地域は同8%減と、回復力の強さを示したのです。アジア・パシフィック地域のM&Aは、国内の業界再編やテクノロジー案件にけん引される形で、2020年第3四半期に過去最高の業績を上げました。

アジア・パシフィック地域内のM&A活動が、より急速に回復しつつあり、欧米に比べて、アジア・太平洋地域がコロナのダメージからいち早く回復しているのが伺えます。

世界全体の動向

PwCの発表によると、世界全体の2023年におけるM&A件数は前年比6%減、金額は同25%減となりました。その主な要因は金利上昇と資金調達難で、ディール件数は上半期と下半期で20%減少しました。

世界のM&Aディール金額は、ピークだった2021年の5兆米ドル超から、わずか2年で半減し、2023年には2.5兆米ドルとなっています。

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5. M&A業界で提供される業務内容

M&Aを実施するには、法務・税務・財務・ビジネスなど、あらゆる専門知識が必要です。一般的なM&Aの業務内容には次のようなものが挙げられます。それぞれの業務内容を1つずつ解説しましょう。

  • 案件開拓・マッチング
  • 交渉・契約の支援
  • 手法の検討
  • バリュエーション
  • デューデリジェンス
  • 各種契約書の作成
  • PMIなどの業務サポート

案件開拓・マッチング

M&Aの業務を担う専門家が最初に取り掛かる業務は、案件開拓・マッチングです。この業務は、売り手と買い手を引き合わせ、仲介・サポートする役割をさします。M&A仲介会社やM&Aアドバイザーは、それぞれのネットワークを活用して案件開拓を行うものです。

M&Aの検討に入っても、自社にとって最適な相手先を見つけることは容易ではありません。そこで、経験豊富なM&Aの専門家に、自社の条件や希望を伝え、相手先を探してもらいます。

M&Aを成功させるには、企業同士の相性が重要です。相手先選びがM&Aの成功のカギを握っているといっても過言ではないでしょう。

交渉・契約の支援

M&Aを進めるうえで、重要な役割を担うのは何より交渉力といえるでしょう。経験豊富なM&Aの専門家であれば、この交渉力を武器に、さまざまな手続きや契約をサポートしてくれます。

条件交渉やさまざまな契約の締結には、M&Aの交渉に必要なポイントを熟知した専門家のサポートが欠かせない業務です。

手法の検討

M&Aの手法には多くの種類があります。M&Aを成功させるには、自社にあったM&Aの手法を選択することが重要です。この手法選びがうまくいかないと、M&A自体失敗することにつながりかねません。どの手法を選択するかによって、得られるメリットや必要な手続きが異なります。

M&A手法は、初期段階でほぼ決まりますが、この後に触れるデューデリジェンスの内容次第で最終的に判断されるため、専門家の力が必要です。目的に合わせた最適な手法を、専門家と相談しながら検討するとよいでしょう。

バリュエーション

M&Aにおけるバリュエーションとは、対象となる企業の価値をさまざまな観点から計算し評価することで、企業価値評価といいます。このバリュエーションを行うことで、企業全体の価値を把握するものです。

企業価値とは、企業が保有する有形資産だけではなく、将来的にその企業が生み出すであろう収益や、無形資産などを含めたものになります。無形資産とは、その企業が持つ特許や商標権・著作権や、従業員が持つ技術や能力などです。

M&A全般にいえることですが、このバリュエーションにもかなり専門的な知識を要します。M&A仲介会社や証券会社、ファイナンシャルアドバイザリーなど、M&Aの専門業務を担う会社に依頼するとよいでしょう。

デューデリジェンス

M&Aにおけるデューデリジェンスとは、買い手による対象企業の調査をさします。財務・税務・法務・人事面など、さまざまな観点から相手企業を調査し、リスクがないかを事前に把握するために行うものです。

デューデリジェンスの調査内容は多岐に渡り、それぞれの専門家を起用して行われます。専門家がそろっているM&A仲介会社のほか、税理士や公認会計士、弁護士などが依頼先です。

各種契約書の作成

M&Aを進めるにあたって、必要な書類や契約書は多岐に渡ります。一般的なM&Aの必要書類や契約書は次のようなものです。

  • 秘密保持契約書
  • アドバイザリー契約書
  • ショートリスト・ロングリスト
  • ノンネームシート
  • 企業概要書
  • 意向表明書
  • 基本合意書
  • 最終契約書

いずれにしても、かなり専門的な内容なため、日常の業務を行いながら、自社だけで作成することはとても困難でしょう。これらの資料や契約書の作成は、M&A仲介会社や弁護士などに依頼するのが一般的です。

PMIなどの業務サポート

M&Aは、契約成立をもって全て完了となるわけではありません。買収側は、M&A後にPMIと呼ばれる経営統合作業を行うのが必須です。PMIとは、M&A成立後の経営統合プロセスのことで、経営統合・業務統合には、従業員の意識統合なども含まれます。

M&Aのプロセスのなかでも最も困難であるともいわれ、綿密に計画を立て慎重かつ迅速に行わなければなりません。これをスムーズに進めることで、シナジー効果などが最大限に得られるのです。M&A仲介会社などにアドバイスを受けながら進めるとよいでしょう。

【関連】M&Aアドバイザリーとは?業務内容、求められる素養を徹底解説!

6. M&A業界の主要プレイヤー

続いては、業界で活躍するM&A企業が、先ほど紹介したどのカテゴリーに分類されるのか、見ていきましょう。

M&A仲介会社・アドバイザー(マッチング)

業界機能のマッチングに分類されるのは、M&A仲介会社・アドバイザーです。ここには、実際に企業間のM&Aをサポートしているわけではありませんが、M&Aの普及やアドバイザー教育を目的とした日本M&Aアドバイザー協会も含まれるでしょう。

金融会社である野村證券や三菱UFJモルガンスタンレー証券などの証券会社系企業も、M&Aのマッチングサービスを提供する会社です。このように、ファイナンスとマッチングの両方に分類される場合もあります。

証券会社・銀行(ファイナンス)

業界機能のファイナンスに分類されるのは、主として銀行です。証券会社もその役割を担うこともありますが、代表的なのは、三井住友フィナンシャルグループや、みずほフィナンシャルグループなどがファイナンスに分類されます。

法律事務所(契約スキーム)

契約スキームに多く分類されるのは、法律事務所です。大手弁護士法人でいえば、西村あさひ法律事務所やアンダーソン・毛利・友常法律事務所、森・濱田松本法律事務所などが挙げられます。

ただし、このような大手弁護士法人では大規模案件や複雑な案件を扱っており、中小企業のM&Aには関与しないケースが多いです。中小企業のM&Aでは、主に税理士法人が契約やスキームのチェックを行っているため、業界機能では契約スキームに分類されます。

監査法人(DD・バリュエーション)

DD・バリュエーションには、監査法人や会計事務所が分類されます。たとえば、財務などの企業調査を行っているKPMGジャパンやデロイトトーマツ、PwC(プライスウォーターハウスクーパース)などです。

そのなかには監査業務だけではなく、マッチングサービスを付随して提供する企業・事務所もあります。

7. M&A業界の動向まとめ

M&A業界は時代の動向で変化が見られますが、将来的にはM&A件数の増加によって市場規模は拡大する予想です。市場規模が拡大していけば多くの企業・専門家が参入してくるでしょう。

M&Aに特化した企業であれば、各業界におけるサポートも可能です。どの企業にするか、サポート内容などをよく把握して見極めましょう。

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