2022年06月06日更新
会社分割における純資産や資本金の引継ぎ方法を解説!
会社分割を行うと純資産や資本金は増加しますが、会社分割のスキームによって純資産や資本金の引継ぎ方法は異なるものです。本記事では、会社分割における純資産や資本金の引継ぎ方法について、資本金額の決め方や注意点などを解説します。
1. 会社分割とは
M&Aは、買収や合併以外にもいろいろな形態があります。その1つが会社分割であり、会社分割はM&Aの中でも組織再編行為と呼ばれるものです。
そもそも会社分割とは、対象となる事業を切り出し、その事業と対価を交換することで成立します。
この記事では、会社分割のスキームにおいて、特に純資産や資本金がどのようにして引き継がれるか解説しますが、その前に、会社分割そのものについて内容を確認しましょう。
会社分割には、大きく分類して吸収分割と新設分割の2種類があります。
吸収分割とは
会社分割の分類の1つである吸収分割とは、事業を分割する側(これを分割会社といいます)が、その事業を承継する側(これを承継会社といいます)から対価を得て、該当事業を承継会社に包括的に承継させるものです。上図の右側が、そのイメージ図になります。
分割会社のメリットとしては、不採算事業や本業とはシナジー効果があまりない事業を売却することにより、経営のスリム化を図れる点です。
一方で、承継会社のメリットは、事業規模の拡大や新規事業への参入により経営の多角化を行える点が挙げられます。
また、吸収分割はさらに2種類に分類され、それは以下のとおりです。
- 分社型吸収分割
- 分割型吸収分割
分社型吸収分割
分社型吸収分割とは、事業を切り離し引き渡した対価について分割会社自身が受け取ることです。後述する分割型吸収分割では、この対価について分割会社ではなく、その株主が受け取ることになるため、両者はそこに大きな違いがあります。
そして、分社型吸収分割においては、対価として金銭ではなく承継会社の株式を受け取ると、分割会社は承継会社に対して株主になるのです。
なお、分割型は税務会計用語であり、法律用語では物的分割といいます。承継会社が支払う対価は現金でも問題はありませんが、ほとんどの場合は株式で支払われることが多いのが現状です。
分割型吸収分割
前述したとおり、分割型吸収分割では、事業を切り離し引き渡したその対価を分割会社ではなく、その株主が受け取ります。この場合、分割会社と承継会社の株主は同じです。つまり、結果的に分割型吸収分割によって、分割会社と承継会社は同一グループ企業ということになります。
なお、分割型とは税務会計の用語であり、法律用語での呼び方は人的分割です。分割型吸収分割についても、ほとんどの場合において支払われる対価は株式となっています。
新設分割とは
会社分割のもう1つの分類である新設分割は、社内の事業を切り出すという部分については吸収分割と同じですが、その切り出した事業を新たに設立した別会社として運営していくスキームのことをいいます。上図左側が、そのイメージ図です。
経営のスリム化を目的として行われることが多いですが、組織運営を円滑に行うために事業を独立させるなど、ポジティブな理由で新設分割を行うこともあります。
新設分割の場合の分類は、以下の3種類です。
- 分社型新設分割
- 分割型新設分割
- 共同新設分割
分社型新設分割
3種類の新設分割の1つである分社型新設分割は、新設会社から対価を得るのは分割会社になります。この場合の対価も、ほとんどが株式で行われることがもっぱらです。したがって、分割会社は新設会社の完全親会社となります。
分社型新設分割の目的となるのは、事業の整理を行い親会社の経営のスリム化を図るため、あるいは持株会社制に移行する場合などです。
また、それ以外にも、好調な事業を独立採算性にして組織運営を円滑にしたり、次期社長候補を育成したりするためといった理由で分社型新設分割を行う例も、多く行われています。
分割型新設分割
3種類ある新設分割の2つ目として分割型新設分割の場合、新設会社から対価を得るのは分割会社の株主になります。分割型新設分割においても対価は株式であることがほとんどですから、この場合、分割会社と新設会社は、同一株主のもと、グループ会社を形成することになるのです。
そして、分割型新設分割は、グループ企業の再編で用いられることが多くなっています。また、事業承継において2人以上の後継者がいるとき、それぞれの後継者に個別の事業を承継させることは、分割型新設分割によって実現可能です。
共同新設分割
共同新設分割とは、2社以上の会社が事業を分割し、それらの事業を承継して統合する新たな会社を設立することです。
異業種との連携の際に、必要な事業を切り出して、共同新設分割を行う例が多くあります。また、グループ企業内では、事業強化や経営効率化を目的とした組織再編の際に用いられるのが、共同新設分割です。
以下に、共同新設分割の事例を1件、提示します。
共同新設分割の事例
2008(平成20)年4月、東洋紡の子会社として東洋紡スペシャルティズトレーディングが、共同新設分割により設立されました。分割する会社は、親会社である東洋紡とその子会社の新興産業です。
親会社の東洋紡からは、衣料繊維事業の開発販売部門が分割されました。また、新興産業からはフィルム・事業樹脂など含めた計4事業が分割されています。これらの事業を統合するために、共同新設分割によって東洋紡スペシャルティズトレーディングが設立されたのです。
このケースにおける共同新設分割の目的は組織再編で、これにより各事業の強化や、資産効率の高い事業の構築を図ろうとしています。なお、東洋紡スペシャルティズトレーディングは、2013(平成25)年10月より社名を東洋紡STCに変更しました。
2. 会社分割の際に引き継ぐ純資産
純資産とは、貸借対照表に記載されている勘定項目であり、資金調達方法を表しています。貸借対照表とは、その会社の一時点の資産状況を表すものです。純資産のほかに資産と負債という勘定項目があります。
ここでいう資産とは、経営を行っていくうえで資金をどのように使ったかを表している項目のことです。
一方、負債と純資産は資産を得るための資金調達方法を表しています。負債は、金融機関などからの借入金を示しており、純資産は株主からの資金調達のことです。
この項では貸借対照表の純資産について解説しますが、純資産には以下の5種類があります。
- 資本金
- 資本準備金
- その他資本剰余金
- 利益準備金
- その他利益準備金
資本金とは
資本金とは、出資者が会社に払い込んだ金額をもとに設定される額のことをいいます。株式会社の場合、出資者が株主となり、出資の証明書となるのが株式です。資本金は一定額が維持する必要があります(資本の維持原則)。
その理由として、もし資本金が減少されると出資額が担保できなくなり、出資者が不利益を被ることになるからです。したがって、株式会社が資本金を減少させる場合、株主総会で特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)を得る必要があります。
また、資本金は出資者が会社に出資してくれるという面があることから、一般的には借入金よりも資金調達しにくいものです。
このことから、資本金の額は会社の規模の大きさや信用度合いを表しているといえます。資本金による会社の規模の定義については、後述するのでそちらをご覧ください。
資本準備金とは
準備金とは、将来に見込まれる多額の支出や損失に備えて積み立てておく金額のことで、会社法により、ある程度の金額を積み立てておくことが、義務付けられています。資本準備金とは、資本金に対する準備金のことです。
株式発行時の払込金額に対して、半分以上は資本金として計上する必要がありますが、残りの金額は資本準備金として積み立てておけます。
資本準備金についても、原則として金額を維持させなければなりませんが、資本準備金を減少させる必要があるときは、株主総会の普通決議(議決権の過半数以上の賛成)を得なければなりません。
その他資本剰余金とは
その他資本剰余金とは、株式発行などで出資者から集めた金額のうち資本金や資本準備金に該当しない金額のことをいいます。その他資本剰余金を原資として株主に配当することが可能です。
貸借対照表には、その他資本剰余金の内訳として、自己株式処分差益・資本金および資本準備金減少差益・資本準備金の剰余金組入れなどがあります。
利益準備金とは
利益準備金とは、後述する利益剰余金に対する積立金のことで、会社法により一定額を積み立てておくことが義務付けられています。
株式会社は、利益剰余金の一部を原資とし、配当金として株主に還元しますが、その時の財務基盤強化のために、利益準備金を積み立てておくのです。
積み立てておく金額は、配当金額の10分の1が必要とされており、また、積立の限度額は、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1未満の額とされています。
その他利益剰余金とは
その他利益剰余金とは、会社の利益を積み立てて内部留保している金額のことをいいます。配当金は、会社の業績によって変動するものですが、その理由は、その他利益剰余金を原資として株主に配当しているためです。
貸借対照表には、その他利益剰余金の内訳として、任意積立金(別途積立金・配当平均積立金・欠損填補積立金など)と、繰越利益剰余金(その年度における会社の利益額)があります。
3. 会社分割における純資産や資本金の引継ぎ方法
純資産や資本金は、会社分割の際にどのように引き継がれるのでしょうか。引継ぎは会社分割の種類によって異なり、適格要件を満たすか否かによっても変わります。
ここでは、会社分割時の純資産や資本金について、以下のケース別に見ていきましょう。
- 分社型吸収分割の純資産や資本金の引継ぎ
- 分割型吸収分割の純資産や資本金の引継ぎ
- 分社型新設分割の純資産や資本金の引継ぎ
- 分割型新設分割の純資産や資本金の引継ぎ
分社型吸収分割の純資産や資本金の引継ぎ
分社型吸収分割における純資産や資本金の引継ぎは、その会社分割が適格要件を満たすか否かで扱いが変わってきます。まずは適格要件について、理解しておくことが大切です。
適格要件について
まず、適格要件の前提として、会社分割を行う企業間に完全支配関係があることがポイントです。
そのうえで適格要件としては以下の2つがあり、いずれも満たす必要があります。
- 金銭等不交付要件
- 継続不要要件
1つ目の金銭等不交付要件とは、分割対価として承継会社の株式以外の資産が交付されないというものです。
2つ目の継続不要要件とは、分割前からすでに完全支配関係があり、かつ分割後も完全支配関係が継続する見込みがあることを意味します。これらの2つを満たすことで、適格要件に認定されます。
適格要件を満たしているときの純資産や資本金の引継ぎ方法
次に、適格要件の有無により、純資産や資本金がどのように引き継がれるかの解説です。適格要件を満たしている会社分割の場合、分割会社の資産や負債が簿価価格で承継会社に移転されます。
分割会社はその対価として承継会社の株式を受け取るため、結果として純資産の額に変動はありません。
一方、承継会社は資産と負債が移転されると、簿価上において純資産の額が増加することになります。その分は資本金として計上するか、もしくは資本金以外の勘定項目で計上するのです。
適格要件を満たしていないときの純資産や資本金の引継ぎ方法
適格要件を満たしていない会社分割の場合、先ほどと同様に、分割会社の資産や負債を承継会社に移転させますが、その資産や負債は時価で移転させなければなりません。
この時、譲渡損益額が発生しますが、その金額は純資産の利益積立金額に反映させます。また、承継会社に資産と負債が時価で移転されると、増減するのが時価純資産額です。その増減額は資本金として計上するか、もしくは資本金以外の勘定項目で計上します。
分割型吸収分割の純資産や資本金の引継ぎ
分割型吸収分割の純資産や資本金の引継ぎ方法も、その企業間で適格要件を満たしているかどうかで変わってきます。
適格要件を満たしているときの純資産や資本金の引継ぎ方法
適格要件を満たしている分割型吸収分割の場合、簿価価格で資産や負債、利益積立金額を移転します。したがって、分割会社側が決定した金額により資本金・利益積立金額相当額などが変動するので、その分の純資産額も変動することになります。
承継会社の資本金の増加分は、分割会社から引き継ぐ全てを資本金として計上はできず、会社法の規定により定められた金額を上限として、資本金を計上することが認められています。残りは、資本金以外の勘定項目として計上する決まりです。
適格要件を満たしていないときの純資産や資本金の引継ぎ方法
適格要件を満たしていない分割型吸収分割では、時価価格で資産や負債を移転します。なお、適格要件を満たしていない場合は、利益積立金額を移転させることはできません。
承継会社は、時価価格で資産や負債を受け入れるため、時価での増加分が純資産や資本金として計上されます。また、会社法の規定に従って、増加分の資本金を資本金以外の勘定項目に計上することが可能です。
分社型新設分割の純資産や資本金の引継ぎ
分社型新設分割の場合、分割会社の株主資本相当額の範囲内で、資本金や資本準備金などに振り分けて計上します。したがって、その変動額に応じて純資産の額も変動しますが、利益剰余金には振り分けられません。
なお、会社分割の対価として承継会社の株式を受け取り、その会社を完全子会社化する場合、純資産額の変動はないことになります。
分割型新設分割の純資産や資本金の引継ぎ
分割型新設分割では、会社分割の対価として承継会社の株式を受け取るのですが、その株式を株主に分配する必要があることが特徴です。純資産や資本金の引継ぎ方法は分割型吸収分割の場合とほとんど変わりません。
交付された株式を資本金・資本準備金・その他資本剰余金に振り分けるか、分割会社によって決められたそれぞれの株主資本を承継会社に引き継がせるかの2つの方法があります。
共同新設分割の純資産や資本金の引継ぎ
共同新設分割の場合は、2社以上の企業が会社分割を行って、新たな会社の設立を行います。
そのため、会社分割の方法が分社型なのか分割型なのかによって引継ぎ方法は違うものです。それぞれの引継ぎ方法については先述の内容をご覧ください。
このように、会社分割を行う際の純資産や資本金の引継ぎ方法は、どのような会社分割を行うかによって異なるうえ、適格要件を満たしているか否かによっても変わります。
その判断基準は非常に複雑なため、M&A仲介会社などの専門家に相談しながら進めていくことがおすすめです。
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4. 資本金額の決め方
最後に、資本金額の決め方について考えてみましょう。資本金額で中小企業か大会社かに分類され、それにより適用される法律も変わる場合もあるため、重要なポイントです。
この項では、資本金額の決め方や、それによる影響について解説します。
資本金の基本的な決め方
資本金額の具体的な額によって、会社法や税法などそれぞれの法律によって、各会社は区分がされます。どの区分に該当するかによって、会社の立場や納税額にも違いが生じますから、先々のことを踏まえて、資本金額を決めなければなりません。
資本金額が1億円を超えた場合
資本金が1億円を超えた場合、その会社は税法上、大会社になります。大会社の場合、法人税の税率は23.2%なのですが、中小企業の場合、租税特別措置が適用されており、800万円以下の所得については15%、それ以上の所得については23.2%の課税です(2020年6月現在)。
会社分割により法人税の適用が変わることがあるので、注意が必要になります。
下請法による資本金額の影響
下請法とは、親事業者の不公平な取引行為を禁止している法律のことで、親事業者と下請事業者は資本金によって決められています。
会社分割により資本金が増加した場合、親事業者の適用を受けて下請法に抵触してしまうかもしれません。
会社分割を行う際には、増加する資本金額を確認するとともに、日頃からの取引状況を確認しておく必要があります。
中小企業基本法による資本金額の影響
中小企業基本法では、中小企業に該当する企業を資本金額と従業員数から定義しています。中小企業と認定された企業は、国からの支援や無利子貸与などの優遇を受けることが可能です。大会社と規定された場合は、それらの支援を受けられません。
会社分割により資本金を増額させるときには、それぞれのメリットとデメリットを秤にかけたうえで決定しましょう。
5. まとめ
会社分割を行う際、純資産や資本金の引継ぎ方法は、どのような会社分割を行うかによって変わり、そのルールは非常に複雑です。本記事の概要は以下のようになります。
・会社分割の種類について
→会社分割には3種類あり、分割の方法によって引継ぎ方法が変わる
・会社分割の際に引き継ぐ純資産について
→引き継ぐ純資産は5種類だが、利益剰余金は会社分割方法によっては引き継げない
・資本金額の決め方について
→資本金が1億円を超えると大会社として扱われ、優遇措置を受けられなくなる
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