2023年01月31日更新
会社分割の適格分割・非適格分割を解説!改正はされた?
当記事では、会社分割の適格分割・非適格分割を詳しく解説しています。適格分割と非適格分割の概要のほか、会社分割における適格分割の詳細や、税務・課税、会社分割の適格分割の改正点などもわかりやすく解説しているので、ご参考ください。
目次
1. 会社分割の適格分割・非適格分割とは
事業の一部やすべてを他社に承継させる会社分割では、分割の内容によって引き継ぐ資産の計算対象が異なります。対象が異なれば課税額も変わるため、適格分割に該当するかは重要なポイントです。
この章では、適格分割と非適格分割それぞれの概要と該当する条件などを解説します。
適格分割とは
適格分割とは、定められた要件に該当する会社分割のことです。金銭の交付や資産・負債・従業員の引き継ぎなど税務上の要件を満たしていると、資産を簿価で引き継げることが認められます。
承継した事業を継続的に営むことなど、一定の要件を満たすことも会社分割の適格要件に挙げられます。
非適格分割とは
非適格分割とは、定められた要件に該当しない会社分割のことです。先に挙げた税務上の要件が満たされていないため、資産は時価で引き継がなければなりません。
非適格分割とみなされると、分割会社に法人税、分割会社の株主にみなし配当の課税義務が生じます。会社分割による課税を避けたい場合は、非適格分割を回避できるよう検討しましょう。
みなし配当の課税
みなし配当で課税の対象とされるのは、非適格分割(分割型分割)に該当するケースです。承継会社から交付される株式の額が、分割会社が譲渡した資本金などの額(株主が出資した額)を超える場合とされています。
みなし配当のほかにも、株式のほかに金銭などを対価として受け取った場合は、分割会社の株式のうち移転させた資産・負債に該当する部分を譲渡したとみなされ、譲渡益による課税義務が生じます。
会社分割の税金(法人税)における適格分割・非適格分割での課税の内容は、記事後半で詳しく解説しましょう。
2. 会社分割の際の適格分割・非適格分割該当表
会社分割の適格分割には、税務上の要件が定められています。以下の表で○印の項目をすべて満たしていれば、適格分割とみなされます。
会社分割の実施を検討されている場合は、適格分割・非適格分割に該当するかをしっかり確認しておきましょう。
要件 | グループ内 | グループ外 | |
100%の支配 | 50~100%未満の支配 | 共同事業 | |
金銭・資産などの支払いがない | ○ | ○ | ○ |
移転事業の資産・負債を 引き継ぐ |
○ | ○ | |
80%以上の従業員を引き継ぐ | ○ | ○ | |
分割する事業と承継会社の 事業に関連がある |
○ | ||
事業を継続する見込みがある | ○ | ○ | |
同等の事業規模を超えない | ○ | ||
双方役員が経営参画する | ○ | ||
株式継続保有 | ○ |
3. 分社型分割と分割型分割の違い
会社分割の分類では、吸収・新設分割のほか、分社型分割と分割型分割にも分けられています。この章では、会社分割におけるスキームの違い、分社型分割・分割型分割の概要をそれぞれ詳しく解説します。
分社型分割とは
分社型分割とは、分割会社に対し、承継会社の株式を承継の対価として交付する会社分割の方法です。分社型分割は、主に会社から事業を切り離して子会社化に移行する場合に用いられます。
この理由は、事業を切り離すことで経営効率を上げるためだとされています。分社型分割は物的分割と呼ばれることもあるので、併せて覚えておきましょう。
分割型分割とは
分割型分割とは、分割会社の株主に、資産・負債の対価として承継会社の株式が交付される会社分割のことです。
会社を半分に分け、グループ内の子会社間で事業を移転させる・事業を新会社に移して兄弟会社をつくる・事業を移した新会社を後継者に任せるなどを目的として用いられます。
分割型分割は人的分割とも呼ばれていましたが、会社法上では人的分割の規定はありません。
分割会社が物的分割と獲得した承継会社の株式から余剰金の配当を同時に行えば、人的分割と同等の効果を得られるため、現在の会社法には分割型分割の規定は明記されていません。
4. 会社分割の税務解説
会社分割による組織再編では、承継会社との支配関係によって負う必要のある税務が違います。会社分割を実施する前には、以下3つの違いを確かめて、適格分割・非適格分割を把握しておきましょう。
- 支配率100%
- 支配率50%超~100%未満
- 支配率50%未満の共同事業
①支配率100%
1つ目に紹介する会社分割の税務は、100%の支配率を維持しているケースです。支配率100%とは、グループ内の会社関係で、100%の持株比率によって親子・兄弟関係が構築されている状態を表します。
支配率が100%で移転した資産・負債の対価に株式のみを交付している場合は、持株比率が100%未満にならないことを前提に適格分割と認定され税務の義務を負いません。
一方、移転した資産の対価として金銭などが交付された場合は非適格分割とみなされ、税務の義務が生じます。
②支配率50%超~100%未満
2つ目に紹介する会社分割の税務は、50%超~100%未満の支配率を維持しているケースです。このケースは、グループ内の会社関係で、50%超~100%未満の持株比率により親子・兄弟関係が構築されている状態をさします。
上記のような関係で、以下の要件を満たす場合は、適格分割とみなされ会社分割の税務を回避できます。
- 株式のみを対価として交付する
- 移転事業の資産や負債を引き継ぐ
- 80%以上の従業員を引き継ぐ
- 事業を継続する見込みがある場合
- 50%超~100%未満の持株比率を維持する
1つでも適格分割の要件を満たさない場合は非適格分割とみなされ、会社分割の税務を負うことになるので注意をしてください。
③支配率50%未満の共同事業
3つ目に紹介する会社分割の税務は、支配率50%未満の会社と共同事業を営む場合です。このケースの会社関係は、対象会社の株式の支配権を持たない割合で保有している状態をさします。
会社分割の適格分割に該当するのは、以下の要件を満たしている場合です。
- 株式のみを対価として交付する
- 移転事業の資産や負債を引き継ぐ
- 80%以上の従業員を引き継ぐ
- 事業を継続する見込みがある場合
- 同等の事業規模を超えない
- 双方役員が経営参画する
- 50%未満の持株比率を維持する
上記の要件に該当しない場合は、非適格分割とみなされ、会社分割の税務を負わなければなりません。持株比率の維持について分割会社の株主が50人を超える場合は、適格分割の要件から除外されます(分割型分割)。
5. 会社分割の適格分割の要件解説
ここでは、「会社分割の際の適格分割・非適格分割該当表」で解説した会社分割の適格分割の要件を詳しく解説します。
- 金銭・資産などの支払い
- 移転事業の資産・負債の引き継ぎ
- 80%以上の従業員の引き継ぎ
- 事業の継続見込み
- 事業の関連性
- 株式継続保有の見込み
- 同等規模の制限(選択要件①)
- 双方役員の経営参画制限(選択要件②)
①金銭・資産などの支払い
1つ目に挙げる会社分割の適格要件は、金銭・資産などの支払いです。資産・負債を承継した対価に、金銭や資産などの支払いが用いられると非適格分割とみなされます。適格分割として認められるには、株式を分割の対価に利用しましょう。
対価として交付する株式が1株に満たない端数の場合も、分割会社の株式を他社へ売却し、得られた金銭を株主へ交付したとみなされます。ただし、分割型分割では、交付する株式数について分割会社の株主の株式数に応じるとされているので、注意が必要です。
②移転事業の資産・負債の引き継ぎ
2つ目に挙げる会社分割の適格要件は、移転事業に関する資産と負債の引き継ぎです。分割会社から移転される資産・負債には、移転する事業の主要な資産・負債が含まれていなければなりません。
移転事業の資産・負債の引き継ぎは、支配率50%超~100%未満でのグループ内再編・支配率50%未満での共同事業の場合に、会社分割の適格要件に定められています。
③80%以上の従業員の引き継ぎ
3つ目に挙げる会社分割の適格要件は、80%以上の従業員の引き継ぎです。従業員の引き継ぎ要件には、分割事業に関わる従業員について、80%以上の割合を引き継ぐと定められています。
適格分割の要件に該当する会社分割は、支配率50%超~100%未満でのグループ内再編または支配率50%未満での共同事業いずれかのケースです。上記の場合には、従業員の引き継ぎ要件を満たしておきましょう。
④事業の継続見込み
4つ目に挙げる会社分割の適格要件は、事業の継続見込みです。承継会社によって分割した事業が引き継がれた後も、継続して行われる見込みを適格分割の条件に挙げています。
適格分割でこの要件を満たさなければならない会社分割は、支配率50%超~100%未満でのグループ内再編または支配率50%未満での共同事業の2つです。
⑤事業の関連性
5つ目に挙げる会社分割の適格要件は、事業の関連性です。分割する事業と承継会社が会社分割前に営んでいる事業とに関連性がなければなりません。
支配率50%未満での共同事業の場合、会社分割の適格要件を満たすことが必要です。
⑥株式継続保有の見込み
6つ目に挙げる会社分割の適格要件は、株式継続保有の見込みです。この要件に該当するのは支配率50%未満での共同事業のみで、スキームの種類も分割型分割に限られています。
適格要件として認められるには、分割側の株主(グループ企業内の株主)に対する保有の割合が、50%を超える値でなければなりません。この株主たちが継続して、交付された株式を継続して保有する見込みも適格分割の要件に挙げています。
⑦同等規模の制限(選択要件①)
7つ目に挙げる会社分割の適格要件は、選択要件の1つに挙げられている同等規模の制限です。分割する事業とそれに関連する承継会社の事業を比べて、売上高・従業員・これらに準ずるものの規模が5倍を超えないこととされています。
会社分割の適格要件で同等規模の制限を満たす必要があるのは、支配率50%未満での共同事業における会社分割です。この組織再編を行う場合、税金の支払いを避けるには定められた規模を把握しておくことが重要です
⑧双方役員の経営参画制限(選択要件②)
8つ目に挙げる会社分割の適格要件は、双方役員の経営参画制限です。この要件も、選択要件の1つです。事業の規模だけでは要件を満たしていない場合、分割・承継会社の役員を共同事業の経営に参与させる必要があります。
分割会社から役員などの地位に就く者が選ばれ、承継会社からは特定役員に就く者を経営に参画させるとしています。特定役員とは、社長・副社長・代表取締役・代表執行役・専務取締役・常務取締役や、これに準ずる者のことです。
この要件適格を満たす会社分割は、支配率50%未満での共同事業における会社分割とされています。ただし、スピンオフの場合は分割会社の役員に重要な使用人も加えられているので注意が必要です。
最後に取り上げた2つの選択要件は、どちらかを満たしていれば問題ないとされています。両方の要件を満たす必要はないので、利用しやすい方を選びましょう。
会社分割の相談は、M&A総合研究所へ
会社分割の適格要件は、持株比率により異なります。会社分割の適格要件は、平成29・30年に改正されているため、改正点を見逃してしまい非適格となれば、課税の義務を負う決まりです。
適格要件を満たして会社分割を行いたいと考える場合は、M&A仲介会社など専門家のサポートを受けながら進めることをおすすめします。M&A総合研究所では、会社分割に実績・経験豊富なM&Aアドバイザーが一括サポート、迅速で丁寧に対応します。
M&Aの料金体系は完全成功報酬制(譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)です。着手金は譲渡企業様・譲受企業様ともに無料ですので、安心してご相談できます。会社分割をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
6. 会社分割の適格分割・非適格分割は改正された
平成29年の税制改正により、会社分割の適格要件に変更点が見られます。今回の改正により、会社分割の種類にスピンオフと呼ばれる項目が追加されました。
会社分割のスキームに100%の支配・50%超から100%未満の支配・50%未満の共同事業のほかに、特定事業の切り離しによって独立会社を設けるスピンオフの会社分割が加えられています。
この章では、スピンオフの特徴とともに、会社分割の適格要件を解説します。
スピンオフ分割とは
税制の改正によって定められたスピンオフ分割とは、自社の事業を切り離して独立した会社に移行させる手法です。会社分割では新設分割のスキームに該当し、事業の承継時に対価として独立した会社の株式を自社の株主に交付し、事業の移行を完了させます。
完全支配の関係は適格株式分配の手前で判断されるため、非適格分割とはみなされません。スピンオフ分割は、企業の組織再編を後押ししてくれる制度といえます。
スピンオフ分割の効果
改正によって適用されたスピンオフ分割を選ぶ場合は、以下のような効果を目的としてスキームが選択されています。
- 経営の独立
- 資本の独立
- 上場による独立
経営の独立
1つ目の効果は、経営の独立です。分割会社は特定の事業を切り離すことで、資源や資本を中核事業に割り振れます。独立した会社は意思決定から実行までの速度を上げられるため、迅速な対応も可能です。責任も明確になることから、経営陣や従業員のモチベーションも高められるといえます。
資本の独立
2つ目の効果は、資本の独立です。スピンオフ分割を行うことで、それぞれの会社のみ、第三者からの出資を受けられます。特定の事業を切り離すことで、独占禁止法に抵触しない企業結合の実現や競合相手との取引も可能です。
新設された会社では、分割会社の意思によらず資金調達が可能となり、必要な投資を行えます。
上場による独立
3つ目の効果は、上場による独立です。株式を上場させれば、引き継いだ事業に関心を示す投資家のみを集められます。分割会社の事業に左右されることなく株主を集めることが可能です。
単一事業のみを取り扱うことで、事業価値の低下を防ぐ効果もあります。
スピンオフ分割の適格要件
改正によるスピンオフの会社分割を選び分割適格と認められるには、どのような要件を満たせばよいのでしょうか。税制の改正によって定められたスピンオフ分割には、以下のような適格要件が定められています。
- 独立新設法人
- 支配の非継続
- 中枢機能の継続
- 金銭・資産などの支払いがない
- 株式の按分交付
- 移転事業の資産・負債を引き継ぐ
- 80%以上の従業員を引き継ぐ
独立新設法人
1つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、独立法人の新設です。会社分割のスキームでは新設分割を選択し、新設した会社に分割会社の事業を承継させ、独立して事業を行うことと定めています。
支配の非継続
2つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、支配の非継続です。会社分割の適格要件には、分割会社と承継会社が特定の者によって支配を受けていないことを定めています。
分割会社は分割前の特定の者に支配を受けていないこととし、承継会社は分割後に特定の者に継続して支配されない見込みがあることを条件に挙げています。
中枢機能の継続
3つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、中枢機能の継続です。分割会社の役員か分割事業の重要な使用人いずれかが承継会社の特定役員に就任することが見込まれなければなりません。
特定役員になる者の人数は1名以上とされているため、1名のみ就任した場合もこの適格要件を満たします。
金銭・資産などの支払いがない
4つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、金銭・資産などの支払いがないことです。分割の対価には、新設する承継会社の株式を交付することとしています。
株式の按分交付
5つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、株式の按分交付です。新設する承継会社の対価は、分割側の株主が保有する株式数に応じて、承継会社の株式が交付されることと定めています。
事業を継続する見込みがある
6つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、事業の継続見込みです。分割する事業が承継会社で継続的に運営される見込みを、適格要件に挙げています。
移転事業の資産・負債を引き継ぐ
7つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、移転事業の資産・負債の引き継ぎです。スピンオフの会社分割で分割する事業のうち、主要な資産・負債の移転を適格要件に挙げています。
80%以上の従業員を引き継ぐ
8つ目に取り上げるスピンオフ分割の適格要件は、80%以上の従業員を引き継ぐ点です。分割事業に関わる80%以上の従業員が承継会社に引き継がれ、事業に従事する見込みがあることを要件に定めています。
共同事業との違い
改正により導入されたスピンオフ分割の適格要件は支配率50%未満の共同事業と似ているものの、以下の点が異なっています。2つの適格要件を混同しないよう、しっかりと確認しておきましょう。
- 新設分割のスキームが選ばれること
- 支配の非継続
- 経営参画者は、分割会社の中枢にいた者
新設分割のスキームが選ばれること
1つ目の違いは、新設分割のスキームが選ばれる点です。平成29年のスピンオフ税制では、新たに設立する会社に分割会社の事業を移転させる手法とされています。分割型分割により分割する事業を新しい会社に移し単独で事業を行うことを、適格分割の条件に挙げています。
これに対し、共同事業のケースでは、新設分割のほかにも既存の会社に事業を移す吸収分割のスキームが利用されています。税制改正で認められたスピンオフは新設分割、共同事業では吸収分割が用いられていると覚えておきましょう。ただし、平成30年度の税制改正により、株式分配型の吸収分割でも適格分割と認められるようになっています。
親会社が事前に完全子会社を設立し、事業に関する許認可などを取得させた後に事業を移転させる場合も、スピンオフの税制適格に該当する決まりです。これは吸収分割のスキームに当てはまるため、税制が改正されたことで株式分配型では吸収分割でも適格要件を満たすとされています。
支配の非継続
2つ目の違いは、支配の非継続です。スピンオフ分割では、特定の株主による支配が分割後に続かないことを適格要件に挙げています。その点、共同事業が挙げている適格要件は株式の継続保有です。
分割会社の企業内グールプの株主(発行株式のうち、50%を超える株式を保有)が、会社分割の後も承継会社から交付された株式を継続して保有する見込みがあることを要件に挙げています。
このように、スピンオフ分割では支配が継続せず、共同事業の場合は企業グループ内の支配を受けることを把握しておきましょう。
経営参画者
3つ目の違いは、経営参画者です。スピンオフ分割と共同事業では、承継会社の経営参画者の定義が異なっています。
適格要件・経営参画 | ||
分割会社側 | 承継会社側 | |
スピンオフ分割 | 特定役員(重要な使用人を含む) | - |
共同事業 | 特定役員 | 特定役員 |
その他の改正点
平成29年度の税制改正では、スピンオフのほかにも会社分割に関わる税制適格要件が変更されています。改正前は、組織再編を行った後にグループ内の会社に承継した従業員・事業を移転させると、非適格分割とみなされていました。
しかし、事業再編の制度を利用しやすいように制度の改正が実施され、これによって完全支配関係の会社に従業員・事業を移転しても非適格分割とはみなされなくなりました。適格分割に関する改正は、社会の状況に合わせて変更が少しずつ加えられることを知っておき、実施する際は必ず事前に確認しましょう。
7. 会社分割の適格分割・非適格分割の課税
会社分割では、適格分割・非適格分割によって税金の支払い義務が異なります。ここでは、税金の支払い義務の違いを取り上げるので、会社分割を行う前は課税の有無を把握しておきましょう。
分割会社と分割承継会社による違い
会社分割では、適格分割・非適格分割によって税金の負担が異なります。分割会社と分割承継会社や会社分割の手法(分社型・分割型)によっても、税金の支払い義務に違いが見られるでしょう。
以下、非適格分割の税金と適格分割の税金をわかりやすく表にまとめています。会社分割を行う際は、発生する課税の有無も理解しておきましょう。
適格分割の税金
会社分割で適格分割に該当する場合は、会社分割の立場と会社分割のスキームによって税金の支払い義務が異なります。
適格分割の税金 | 分割の種類 | 課税関係 |
分割会社 | 分社型分割 | 資産・負債が簿価によって引き継がれるため、譲渡損益が発生しない |
分割型分割 | 資産・負債が簿価によって引き継がれるため、譲渡損益が発生しない ※資本金などの額・利益積立金額に減算が生じる |
|
分割承継会社 | 分社型分割 | 資産・負債が簿価によって引き継がれるため、譲渡損益が発生しない |
分割型分割 | 資産・負債が簿価によって引き継がれるため、譲渡損益が発生しない ※資本金などの額・利益積立金額に加算が生じる |
非適格分割の税金
非適格分割では、以下のように税金の支払い義務が分けられています。適格分割との違いをしっかりと把握し、税金の支払い義務があるのかを認識しましょう。
非適格分割の税金 | 分割の種類 | 課税関係 |
分割会社 | 分社型分割 | 分割する資産・負債が時価で譲り渡すため、譲渡損益が発生する ※完全支配関係の場合は、譲渡損益資産のみ繰り延べが可能 |
分割型分割 | 分割する資産・負債を譲渡したとして、譲渡損益が発生する | |
分割承継会社 | 分社型分割 | 分割された資産・負債を時価で引き継ぐため、譲渡益は発生しない ※資本金などの額に加算が生じる |
分割型分割 | 資産・負債が移転されるものの、譲渡損益は発生しない ※資本金などの額に加算が生じる |
繰越欠損金の引き継ぎ
会社分割では、原則として今年度の赤字を次年以降の黒字と相殺できる「繰越欠損金」を引き継げません。その理由は、移転させる事業の繰越欠損金を計算によって正確に表すことが難しいためです。
とはいえ、合併類似適格分割型分割の場合には、繰越欠損金の引き継ぎは認められています。合併類似適格分割型分割とは、以下のような条件に当てはまる会社分割のことです。
- 分割前の主要な事業が、承継会社で事業の継続が見込まれる
- 分割直前のすべての資産・負債が、承継会社に移転する
- 分割する日までに、分割の直後に行う分割会社の解散が、株主総会か社員総会で決議されている
繰越欠損金の引き継ぎ制限
合併類似適格分割型分割に該当しても、以下の要件に該当すれば繰越欠損金の引き継ぎに制限がかかります。これは、会社分割によって租税回避が行われないためです。繰越欠損金の引き継ぎには、以下のような制限が加えられています。
- 分割会社と承継会社に特定資本関係があること
- 特定資本関係が生じた日は、分割事業年度の開始日の5年前より後である
- みなし共同事業を満たしていない
8. 会社分割の適格分割・非適格分割まとめ
会社分割を行う際、適格分割・非適格分割の要件は、持株比率の違いによって満たす必要がある条件が異なります。会社分割の適格要件は平成29・30年に改正されているため、自社のみで適格要件を満たそうとすると改正点を見逃してしまい非適格による課税の義務を負いかねません。
会社分割を行う場合には、M&Aの専門家のサポートを受けながら、適格要件を満たすように進めましょう。
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