会計事務所のM&A動向!事務所売却のメリットや成功のポイント・事例3選を徹底解説【2024年最新】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、会計事務所のM&A・事業承継のメリットや注意点から売却の相場、流れなどを紹介します。その他、会計事務所のM&A・事業承継の売却事例についても具体的に解説します。会計事務所の売却・買収を検討している方は必見の内容です。

目次

  1. 会計事務所とは
  2. 会計事務所を取り巻く現状
  3. 会計事務所のM&A動向
  4. 会計事務所のM&Aメリット
  5. 会計事務所のM&Aスキーム
  6. 会計事務所のM&Aでの成功ポイント
  7. 会計事務所のM&Aでの売却相場
  8. 会計事務所のM&A事例
  9. 会計事務所のM&Aまとめ
  10. 税理士事務所・会計事務所業界の成約事例一覧
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1. 会計事務所とは

まずは、会計事務所の定義や税理士事務所・税理士法人との相違点などを説明します。

会計事務所の定義

会計事務所とは、税務や会計のサービスを提供する事務所のことを指します。個人や法人の税務申告・税務相談・申告業務・決算や経理の支援・経営分析・コンサルティングなどの幅広い業務を行っています。

会計事務所は、独占業務や会計・税務の専門知識を要している公認会計士・税理士の資格を保有している人が独立・開業するケースが多いです。

昨今の会計事務所は、中小企業への会計代行・経営分析・株式公開支援・企業再編支援など、コンサルティング業務をメインに行う事務所が増加しています。

税理士事務所・税理士法人との相違点

税理士事務所・税理士法人はいずれも税理士に関連する組織ですが、実際どのような違いがあるのでしょうか。
税理士事務所・税理士法人の相違点を詳しく説明します。

税理士事務所との相違点

会計事務所と税理士事務所の主な業務内容は、ほとんど同じです。両者の違いは、法律で定義されている名称にあります。

税理士業務を行う事務所は、税理士事務所です。その一方、会計事務所は法律に明記されておらず、会計や税務のサービスを提供する事業所の総称として使用されています。

一般的に、税理士業務をメインとして業務を行う場合は税理士事務所です。
税理士業務に加えて会計やコンサルティングサービスを提供している場合は、会計事務所が使用されているケースが多いでしょう。

税理士法人との相違点

税理士法人の相違点は組織形態です。会計事務所や税理士事務所では、主に個人事業主として公認会計士や税理士が事業を行っています。

一方で、税理士法人は、その名のとおり法人として税理士業務を行っている点が最も大きな違いです。また、税理士法人の場合は2名以上の税理士の在籍が必要であり、たとえスタッフが数名いても税理士法人にはなれません。

2. 会計事務所を取り巻く現状

次は、会計事務所を取り巻く現状についてみていきましょう。

会計事務所の市場規模

総務省「経済センサス」によれば、会計事務所の売上(収入)額は2012年から増加傾向がみられます。会計事務所の売上(収入)額は2012年が約1兆2830億円、2016年が約1兆5328億円だったものが、2021年には約1兆9024億円に増加しました。

数字だけみると市場が大きく拡大しているようにも感じますが、国内企業の9割以上を占める中小企業の数は、ピーク時の1989年以降は減少が続いています。

その背景として考えられるのは、バブル経済の崩壊やオーナー経営者の高齢化などです。中小企業庁によれば、2016年6月は約380.9万社だった中小企業は2021年には約336.5万社となっており、1年あたり約4.3万社が減少しています。

そのため、中小会計事務所のなかには顧問先企業が減少してしまい売上(収入)に影響しているところも少なくありません。

参考:総務省「経済センサス」
参考:中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果を公表します」

税理士の登録者数

国税庁「税理士登録者数」を基に作成

出典:https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/zeirishiseido/seido2.htm

会計事務所を取り巻く現状として、税理士に関するデータを紹介します。国税庁によると、日本税理士会連合会に登録されている税理士登録者は1990年度で57,073人、2020年度では79,404人と増加傾向です。

昨今は若手の経営者が増加しているため、若い税理士に対するニーズが増える予想です。しかし、税理士の高齢化および受験・登録者数の減少によって、将来、会計事務所の人手不足が生じる可能性があります

参照:国税庁「税理士制度」

税理士の高齢化

日本税理士会連合会「データで見る税理士のリアル。」

出典:https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/prospects/whats_zeirishi/book02/origin/page-0017.pdf

日本税理士連合会が行った「第6回税理士実態調査(平成26年1月)」を見ると、全国にいる税理士のうち過半数が60代以上を占めていることがわかります。60代が30.1%、70代が13.3%、80代が10.4%であり、会計士事務所の高齢化が進んでいる状況です。

昨今は取引先となる会社の経営者が若返っていることから、若い税理士に対するニーズが増える予想です。しかし、税理士の高齢化および少子高齢化の流れから受験・登録者数の減少や会計事務所の人手不足が生じる可能性があります。

参考:日本税理士連合会「第6回税理士実態調査報告書」

競争の激化

平成14年の税理士法の改正を受けて、営業活動が自由化されたことで、営業活動に積極的な事務所とそうでない事務所に二分されました。

従来の会計事務所は、たとえ営業活動を行わなくとも顧問先が増える傾向にありました。しかし、法改正を契機に競争が激化しています。現在は顧問先が廃業や倒産で減少してしまうケースも多く、現状維持では安心できない時代に突入しています。

差別化を図るために事務所サービスも多様化している状況です。ワンストップサービスを打ち出す事務所も増加しています。こうした事情から、市場での対応が難しくなっているのでしょう。

3. 会計事務所のM&A動向

会計事務所では、代表者の高齢化による後継者問題を解決できることから、M&Aニーズが高まっています。有資格者などを獲得し、事業を拡大させたいと希望する買い手ニーズも多いです。ここでは、実際にどのようなM&A・事業承継が会計事務所で行われているのか解説します。

売上高1,000万円〜1億円程度の案件成立件数が多い

会計事務所には個人事業主が多いため、M&A売却相場はほとんど公開されていません。前述にもあるように、一般的に1,000万円〜1億円程度の売上高がある会計事務所であれば、M&Aが成立しやすいでしょう。

ある程度の売上高を確保している会計事務所であれば、事業拡大を目指す買い手企業からのニーズが高まります。顧客獲得の競争が激化する会計事務所では、一定数の顧客をもち、知名度のあることも強みとなるでしょう。

人材不足解消のためのM&A

税理士の登録者数は増加傾向のものの、職員などの人材数は伸び悩んでいます。また、どの事務所も業務内容は同じであり転職も容易なことから辞めやすいという点から人材不足を抱えている事務所が少なくありません。

そのためM&Aを行うことで、人材不足を解消する動きが見られます。

経営者の高齢化

先述した通り、税理士のうち過半数が60代以上であり高齢化が進んでいます。経営者が引退し後継者がいない場合、廃業しか選択肢がありません。そのため、後継者問題は深刻な問題です。

しかし、少子高齢化や会計事務所が資格業であることから後継者が見つかりにくい状況にあります。そこで、高齢化や後継者問題の解決策としてM&Aを選択する動きがあります。

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4. 会計事務所のM&Aメリット

本章では、会計事務所のM&A事業承継で考えられる「メリット」を解説します。会計事務所のM&Aには「譲渡側(会計事務所を渡す側)」と「譲受側(会計事務所を受け取る側)」が存在します。譲渡側・譲受側それぞれのメリットを説明しましょう。

譲渡側のメリット

譲渡側(会計事務所を渡す側)のメリットとしては、主に以下の4つが挙げられます。

後継者問題を解決できる

昨今は会計事務所の「高齢化」と「後継者不足」が問題となっています。日本税理士会連合会が行った「第6回税理士実態調査」によると、50代以上の税理士が全体の71.6%を占めているのが現状です。

税理士は高齢化が進行しているため、後継者を探すことは簡単ではありません。M&Aアドバイザーを介して、会計事務所のM&A・事業承継を行うことで、この「後継者問題」を解決できます。

大手会計事務所とグループを形成できる

会計事務所のM&Aを行うことで、大手会計事務所とグループを形成できる可能性が高まります。大手会計事務所とグループを形成できると、ワンストップサービスを提供できるようになるでしょう。

弁護士・司法書士・税理士といった仕業は、それぞれの業務が分かれているため、何か問題が発生しても、「どの士業に相談すればよいのかわからない」といった問題が生じます。ワンストップサービスが提供できれば、複数の士業が一つの事務所にまとめられるでしょう。

また、地方の中小事務所が全国展開している大手会計事務所のグループに入ることで、新たな顧問先が開拓できます。そして若手の税理士・公認会計士の採用可能性も高くなります。

職員の雇用が守られる

小さな会計事務所などでは経営自体が不安定であり、職員の雇用を維持するのが難しくなってしまうケースもあります。しかし、会計事務所をM&Aによって事業譲渡すれば、職員の雇用を維持できるでしょう。

他にも従業員の待遇改善や新規顧客の獲得、大手傘下に入ることは従業員のモチベーションアップにも繋がります。

税理士として会計事務所に残れる可能性がある

会計事務所の業務には税理士のみが行える業務が多く含まれています。そのため、譲渡後に税理士として会計事務所に残れる可能性が高いでしょう。税理士として事務所に残れば、その後の生活資金を心配せずに済みます。

顧問先の引き継ぎ

事業承継が難しいなどの理由で廃業する場合、これまで顧問を引き受けてきた企業は新しく会計事務所を探さなければなりません。顧問先だった企業にとっての負担も大きいうえ、会計事務所もこれまで付き合ってきた顧問先に迷惑をかけるのは心苦しいかと思います。

廃業ではなくM&Aによる売却を選択すれば、譲受側へ顧問先を引き継ぐことができます。顧問先の引継ぎは、譲渡側はもちろん譲受側にとっても大きなメリットです。

売却益の獲得

売却益を獲得できるのも、譲渡側にとってM&Aを行う大きなメリットです。会計事務所の売却価額は「年間顧問報酬額」を交渉ベースとするケースが多いため、顧問報酬額が高いほど高額の売却益が見込めます。

売却益はリタイア後の生活費に充てたり、新事業を行う場合の資金にしたりすることができるので、M&Aのほうが廃業よりメリットが大きいことが多いです。

譲受側のメリット

会計事務所M&Aにおける「譲受側(会計事務所を受け渡す側)」のメリットには、主に以下の3つが挙げられます。

資格者やコンサルティング技能者を獲得できる

会計事務所のM&Aによって、会計事務所を譲受するため、士業の資格を持った人材やコンサルティング技能者などを獲得できます。専門的な知識や経験・実績を持つ人材を獲得できれば、「さらなる顧客の獲得」や「利益の増加」が見込めるでしょう。

幅広い範囲のサービスを提供できる

譲渡側のメリットでも解説したように、会計事務所を引き継ぐことで、ワンストップサービスを提供できるようになります。新たなノウハウ・顧客・人材を獲得できるため、通常の業務展開では困難な領域に進出することも可能です。

顧問先の確保・他地域への事業展開・業務効率化などを目指せる

会計事務所同士でM&Aを行えば、顧問先の確保・他地域への事業展開・業務効率化など、さまざまなメリットを享受できます。

優良な顧問先を獲得できる可能性も高まるうえ、他地域の会計事務所とM&Aを行えば新たな事業の拡大が目指せるでしょう。業務の効率化が可能となり、利益の出やすい体制を構築できます。

5. 会計事務所のM&Aスキーム

会計事務所のM&A・事業承継をスムーズに進めていくためには、M&Aの適正なスキームを選択する必要があります。スキームとはM&Aにおける「手法」のことで、主に以下の3つに分類できます。

会計事務所のM&Aスキーム
売り手 対象 買い手 スキーム
法人 事業 個人 事業譲渡
個人 事業 法人 事業譲渡
法人 事業 法人 事業譲渡
法人 出資持分 個人 持分譲渡
法人 法人格 法人 合併

事業譲渡

事業譲渡とは、企業が保有する事業の全部あるいは一部を売買するM&A手法です。個人事業主の税理士(または公認会計士)は株式譲渡を行うことができないため、事業譲渡を行うのが一般的です。

事業譲渡では、経営権の譲渡は行われません。そのため、事業譲渡後も売却側はそのまま存続することができます。事業譲渡では事業資産を資産を選択する事ができるメリットがある一方で、手続きが煩雑になりやすいというデメリットがあります。

事業譲渡の詳しい内容は下記の記事で解説しています。

【関連】事業譲渡とは?メリットや手続きの流れと注意点を徹底解説!その他スキームとの違いは?

合併

M&Aのスキームの一つである合併とは、複数の会社が一つにまとまることです。「合併」はさらに以下の2つに分けられます。

  • 新設合併(合併に参加した全企業が消滅して、新しい一つの企業に生まれ変わる手法)
  • 吸収合併(合併に参加した企業の一つを残し、残りの企業を消滅させる手法)

【関連】合併とは?意味や種類、メリット、手続き、会計処理など徹底解説【代表事例あり】

出資持分譲渡

税理士法人の場合、出資持分を持つ社員が経営者となります。出資持分譲渡とはこの持分を譲渡することで譲渡することができるスキームです。株式会社の場合の株式譲渡にあたるスキームです。
 

6. 会計事務所のM&Aでの成功ポイント

この章では、会計事務所のM&Aで意識しておくべきポイントを解説します。M&A・事業承継は以下のポイントを意識して進めなければ、M&Aが失敗に終わってしまう可能性があります。

①相場を把握する

まず大切なことは、会計事務所を合併したり、後継者に譲渡したりする際のM&A相場を把握しておくことです。会計事務所のM&A・事業承継の相場は、事務所が位置する地域やM&A実施の時期によって異なります。

およそ1年分の顧問収入をベースに決定されることが多いです。ただし、これはあくまでも個人事業で記帳代行やコンサルティングを別会社としているケースなので、それ以外の場合は、通常のM&Aと同様時価純資産方式やDCF方式といった計算方法で相場が算出されます。

②適正なM&Aアドバイザーを選ぶ

M&A・事業承継を行う際に非常に重要なポイントは、適正なM&Aアドバイザーを選ぶことです。M&Aアドバイザーは、M&Aの「売買相手探し」「交渉の仲介」「契約書の作成」などの仲介業務を行います。

M&Aアドバイザーには、主に以下の主体があります。

  • 銀行
  • 証券会社
  • 税務・会計事務所
  • 法律事務所
  • M&Aアドバイザリー(FA)
  • M&A仲介会社

【関連】M&Aのスペシャリストとは?資格の特徴や強みから相談先の違いを紹介!

③株式会社でないと株式譲渡は採用できない

会計事務所の場合、主に個人事業主として税理士(公認会計士)が運営する事業所をさします。個人事業主が運営する事務所は、法人には該当しないため、株式譲渡によるM&Aは実施できません。

したがって、個人事業主である会計事務所のM&Aでは、事業譲渡の手法が用いられます。事業譲渡と株式譲渡では、手続き・税金・リスクなどが異なるため注意が必要です。

④早期のタイミングからM&A・事業承継の準備に取り掛かる

M&Aを行う際は、早期のタイミングからM&A・事業承継の準備を行う必要があります。全ての手続きが完了するまでには、多くの費用・時間を要します。早期からM&Aの準備を整えておかなければ、M&Aの目的達成のタイミングを逃す可能性があるでしょう。

業界構造の変化や法改正などにより、会計事務所におけるM&Aニーズが減少するリスクも想定されます。M&Aの需要が減少傾向になってしまうと、買い手が見つからずM&Aを実施できなくなる可能性があります。そのほか、M&Aでは専門知識が必要となるため、必要に応じてM&Aの専門家に相談するのがベストです。

⑤顧客との契約を打ち切られる恐れがある

会計事務所には、税理士(公認会計士)本人に信頼を寄せ、仕事を依頼する顧客も多いです。そのため、M&Aによって税理士や公認会計士が引退してしまった場合、契約を打ち切られる可能性が高まります。

複数の顧客から契約を打ち切られてしまうと、当初想定されていた売上を達成できないでしょう。事業継続が困難となる可能性もあります。

代表の税理士や公認会計士には、「そのまま残ってもらう」「M&Aの際に顧客を説得してもらう」「契約の打ち切りの場合は、買収断念や買収価格の変更を行う」などの対策を講じておく必要があります。

⑥税金対策

M&Aを進めていく上では、税金対策も考えていく必要があります。例えば、会計事務所を事業譲渡した場合、売却代金を受け取る会計事務所の売り手には、法人税がかかります。

課税対象となるのは売却益です。売却益は、譲渡する事業資産と負債の差額を超過した売却金額にあたり、法人税率はおよそ30%になります。

事業譲渡の場合、消費税もかかります。消費税額は、売却代金から「消費税対象外の資産(土地など)」を差し引いた額に「消費税率」を掛けた金額です。

会計事務所のM&Aで支払う必要が出てくる税金に関しては、M&Aアドバイザーに相談し、できるだけ支払う税金を抑えられるよう対策を講じることが大切です。

M&A・会社売却にかかる税金については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

⑦競業避止義務

M&Aにおける競業避止義務とは、譲受側が不利益・損失を被らないよう、譲渡側がM&A対象事業と同業種の事業を行うことを一定期間にわたり禁止する取り決めです。

M&Aでは最終契約に競業避止義務についての条項を盛り込むケースがほとんどですが、事業譲渡の場合は会社法に規定があり譲渡側・譲受側で競業避止義務の期間・条件を取り決めていなければ譲渡側に20年の義務が生じます。

会計事務所のM&Aは事業譲渡によるケースが大半であり、その場合はM&A後に個人事務所を開設して税務業務を行えないため注意が必要です。もしM&Aによって特定の顧問先だけを引き継ぎたいなどの希望がある場合は、交渉段階で取り決めておく必要があります。

【関連】M&A・会社売却にかかる税金は?節税対策や注意点を徹底解説【2022年最新】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

7. 会計事務所のM&Aでの売却相場

会計事務所のM&A・事業承継で経営者が特に気になるのは、相場だといえます。事前に相場を知っておくことで、安値で売却されたり、相場より高額な価格を提示して交渉が決裂したりするリスクを軽減できるでしょう。

その一方、買い手側も、高額な買収価格によってM&Aを行う事態を回避できる可能性が高まります。通常、1,000万円〜1億円程度の売上高がある会計事務所であれば、M&Aが成立しやすいでしょう。

ある程度の売上高を確保している会計事務所であれば、事業拡大を目指す買い手企業からのニーズが高い傾向があります。

大まかな相場は「1年間の顧問報酬」もしくは「2〜3年分の営業利益」

個人で運営する会計事務所の場合は、「1年間の顧問報酬」もしくは「2〜3年分の営業利益」の金額をベースに、M&Aの金額を提示するケースが多くあります。

例えば、年間顧問報酬が1,000万円のケースであれば、M&Aの金額も1,000万円前後となります。あるいは、3年分の平均営業利益として、M&Aの金額を1,000万円×3= 3,000万円前後とするケースもあるでしょう。

DCF法などで計算した企業価値をもとに価格を決めるケースもある

税理士業務のほかに、コンサルティングや経営分析といった業務を行っている会計事務所の場合は、DCF法や時価純資産法などで計算した企業価値をもとに価格を決めるケースもあります

時価純資産法とは、時価換算した純資産をベースに企業価値を算出する方法のことです。この場合、貸借対照表を用いるため、客観性の高い金額を提示でき、簡単に計算ができるといったメリットがあります。しかし、将来的な収益性を計算に含むことが出来ない点や帳簿が誤っている可能性がある点には注意が必要です。

その一方、DCF法とは、将来的に獲得すると予想されるキャッシュフローを基準として、割引率を用いて現在価値に直し企業価値を算出する方法のことです。将来性や収益性が加味できるメリットがある一方で、事業計画の達成の不透明性が加味されるリスクがあります。

8. 会計事務所のM&A事例

この章では、会計事務所の売却事例をご紹介します。

会計事務所のM&A・事業承継事例①

2024年6月、エスネットワークスは税理士法人 エスネットワークスに対して、事業の一部を譲渡することを発表しました。

エスネットワークスは変革期にある企業に対し、常駐型のCFO機能をワンストップで提供しており、需要が高まっています。より注力するため、事業承継顧問事業を譲渡することを決めました。事業承継フェーズのお客様に対する親族内承継支援や経営改善支援を中心に提供しておりましたが、税務領域との関連性が強いため、従来協働していた税理士法人エスネットワークスに譲渡することとしています。

参考:https://www.esnet.co.jp/15.pdf当社事業の一部譲渡及び特別利益の計上に関するお知らせ

会計事務所のM&A・事業承継事例②

東京都で「従業員8名」で活動していた会計事務所では、「従業員の雇用の確保」と「顧客へのサービス提供の継続」に不安を抱いていました。そこで、東京都と千葉県に計4カ所の事業所を持つ「中堅の会計事務所」への譲渡を検討しました。

結果的にM&Aが成立し、「全従業員の継続雇用」と「顧客へのサービス継続」という目的を実現しています。

会計事務所のM&A・事業承継事例③

「事業歴およそ30年・従業員5人・年間売上およそ6,000万円」の会計事務所では、後継者候補とされていた方が独立してしまったことで、事業承継プランが崩れてしまいました。事務所の代表はすでに60代後半で、後継者を探して育てることが難しい状況です。

そこで、「職員の雇用確保」と「顧客へのサービス継続」を目的に、第三者への事業譲渡で会計事務所のM&Aを行いました。結果として、「事業年数15年・従業員50名」の中堅事務所への事業譲渡に成功しています。「従業員の雇用確保」と「顧客へのサービス継続」は実現しました。

9. 会計事務所のM&Aまとめ

今後の会計事務所では、税理士の高齢化や人材不足が問題となる可能性があります。このような状況で、会計事務所のM&A・事業承継の事例は近年増加傾向にあるのです。

売り手側にとって、後継者不足や経営の安定化を実現できるM&Aは有用な手段といえます。会計事務所のM&A・事業承継を成功させるには、ポイントを意識して進めることが重要となるでしょう。

10. 税理士事務所・会計事務所業界の成約事例一覧

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