2024年02月01日更新
クロスボーダーM&Aとは?メリットや成功ポイントとリスクを解説!
クロースボーダーM&Aとは、国内企業と海外企業によるM&Aをさします。クロスボーダーM&Aは難しいといわれていますが、しっかりと検討し、リスクへの対処を怠らなければ成功へと導けます。この記事では、クロスボーダーM&Aの件数と成功要因、メリットを解説します。
目次
1. クロスボーダーM&Aとは
クロスボーダーM&Aとは、国境を越えて行う合併や買収のことで、海外企業が関わるM&Aを意味します。これは、売る企業か買う企業のどちらかが外国の会社である場合に該当します。
多くの企業が、日本国内の成長率が低迷している状況を脱するために海外市場への進出を考えています。海外市場は成長の機会が多く、企業が成長を目指して海外に進出する際には、M&Aが一つの効果的な手段として利用されています。
2. クロスボーダーM&Aの種類
クロスボーダーM&Aは、大きく以下の4つ種類があり、それぞれM&Aを行う対象企業が異なります。
- In-Out型:日本企業が海外企業を取得するM&A
- Out-In型:海外企業が日本企業を取得するM&A
- Out-Out型:海外企業が海外企業を取得するM&A
- JV(ジョイントベンチャー)型:日本企業と海外企業がジョイントベンチャーを共同設立するM&A
In-Out型は、日本企業が海外進出を図る際に現地企業を買収するケースなどが該当します。Out-In型の例は、将来性に期待できる日本企業(ベンチャーなど)を海外企業が取得するM&Aや、日本市場進出を図るために日本企業を海外企業が取得するM&Aなどです。
Out-Out型は、クロスボーダーM&AのなかでOUT=海外企業同士が行うM&Aを指し、日本企業の海外子会社が事業の一部を売買するM&Aなどが該当します。
JV型は、海外企業と日本企業とジョイントベンチャーを共同設立し、協働体制を構築するM&Aのことです。たとえば事業シナジー創出を目指してジョイントベンチャーを共同設立するケースはその典型であり、クロスボーダーM&Aでも割合多くみられます。
3. クロスボーダーM&Aの現状
クロースボーダーM&Aとは、海外企業の買収や合併によるM&Aをさします。
海外企業とのM&Aは大手ばかりが目に付きますが、クロスボーダーM&Aが行われているのは、大手企業に限りません。最近では、中小企業によるクロスボーダーM&Aも増加しています。
国内企業(IN)が海外企業(OUT)を買収するM&AのことをIN-OUTといい、海外企業(OUT)が国内企業(IN)を買収するM&AをOUT-INといいます。まずは、クロスボーダーM&Aの現状について解説します。
クロスボーダーM&A 3つの波
日本のクロスボーダーM&Aのトレンドは、これまで3つの波がありました。まず1つ目の波は1990年前後のバブル時期です。当時はオフィスビルやゴルフ場へなど、不動産投資を主な目的とするM&Aが多く見られ増加しました。
しかし、その後バブル崩壊により日本企業の海外投資への余力を奪い、減少しました。2つ目の波は、1990年代後半から2000年のITバブル時期です。IT関連企業による海外投資が拡大し、クロスボーダーM&A件数が増加しました。
3つ目の波は、2006年以降続く大きな波です。バブルの後遺症を克服して体力を持った日本企業が海外事業への強化に向けて、戦略的なクロスボーダーM&Aを展開しはじめました。買収金額も大型化し、2006年は8兆6,092億円と過去最高金額を達成しました。
その後リーマン・ショックの影響で一時的に停滞したものの、経済成長の続くアジアなどの新興市場獲得の動きが活発化しました。海外強化によるクロスボーダーM&Aの1兆円規模の案件が登場し、1,000億円を超える案件が増え、2015年には最多の23件を記録しています。
参照:経済産業省「我が国企業による海外M&A研究会」(平成30年)
市場動向
近年のクロスボーダーM&Aの成約件数推移を種類別にみると、2023年のIN-OUTは661件(前年比5.8%増)であり、成約総額は8.1兆円で前年から134.0%の大幅増となりました。
また、OUT-INは283件(前年比15.3%減)であり、成約総額は2.0兆円で前年の50.0%減と大きく減少しています。2020年に新型コロナが世界的に拡大して国内外の多くの企業が影響を受け、同年はM&A実施件数も大きく落ち込みました。
しかし、コロナ禍による活動制限が全面解除されたことで、IN-OUTは活況だったコロナ禍前の水準まで回復しつつあります。また、これまでクロスボーダーM&Aといえば大手企業が実施するケースが多くを占めていましたが、最近は日本国内市場の縮小などの影響もあり、中堅企業でもクロスボーダーM&Aも行うケースが増えてきました。
大型M&A
直近10年間には大型クロスボーダーM&Aも何件か成立しています。成立価額の大きかった3件を紹介すると、1位は2018年に武田薬品工業がアイルランドのShire plc社を買収した事例です。
この案件の買収価額は約6兆7900億円であり、武田薬品は希少疾患の製品とパイプラインを獲得を目的として巨額買収に踏み切っています。また、このM&Aは、日本企業が行ったクロスボーダーM&A案件では過去最高額となりました。
2位は2016年7月にソフトバンクグループがイギリスのARM Holdings plc社を買収した事例で、取得額は約3兆3000億円です。3位は2020年8月にセブン&アイ・ホールディングスがアメリカSpeedway社を買収した事例で約2兆3232億円となっています。
新興国M&A
インド・ベトナムなど新興国とのM&Aも近年増加傾向にあります。新興国におけるM&Aを行うための情報収集はとても難しく、いきなり巨額投資を行うのはリスクが非常に高くなるため、最初は小規模のM&Aを行うケースが多いです。
そして、徐々に情報を集め、大規模なクロスボーダーM&Aを行う日本企業が増加しています。新興国では市場が成長段階にあるため、現段階で参入し、大きな利益を得るのを目的としています。
4. クロスボーダーM&Aのメリット
クロスボーダーM&Aの成功率はそこまで高いものではなく、成功させるためには、何が大切であるのか、そして失敗要因となるものは何かについて説明しました。クロスボーダーM&Aにはメリットも多くあり、具体的なメリットには以下が挙げられます。
新市場開拓
日本企業のグローバル化で、新市場の開拓ができます。日本国内では、経済市場は縮小傾向にありますが、新興国では今後の市場拡大を見込むことが可能です。
クロスボーダーM&Aを行うことで、海外市場にのみ存在するものを日本国内へ持ち込めるだけでなく、海外にはまだ存在しない、日本の市場を持ち込める可能性もあります。新市場の開拓は、他に競合となる企業がまだ存在しないため、大きな利益を得ることも可能です。
新製品開発
新市場の開拓とともにクロスボーダーM&Aによって得られるメリットは、新製品の開発が挙げられます。積極的に海外企業の技術やノウハウを取り入れることで、日本にない新製品を開発できる可能性があります。
また、新製品開発も新市場開拓と同じように、海外にない新製品を日本から輸出できる可能性もあります。クロスボーダーM&Aによって、複雑な工程から得られた新製品は希少性も高く、より多くの利益が期待できます。
海外の人材・拠点確保
海外進出を目指す際に、人材や現地事務所をどう確保するかは課題となるケースが多いです。特に人材マネジメントは国による違いが大きく、思うように進まなければ事業計画が滞ってしまうこともあります。
海外進出時の人材確保では、労働意識の違いや文化の利害を考慮したうえで条件を設定しなければならず、自社が一から進めていくには困難を極める可能性が高いです。
クロスボーダーM&Aは海外での事業展開を効率的に行える手段であり、海外拠点や人材の確保にかかる時間やリスクを大きく下げることができます。
シナジー効果
クロスボーダーM&Aだけでなく、日本国内のM&Aでもシナジー発揮は大きなメリットです。シナジー発揮はM&Aを行う最大の目的ともいえるものですが、クロスボーダーM&Aでもシナジー発揮を見込んで実施されるケースが多くみられます。
クロスボーダーM&Aの場合、日本国内企業同士が行うM&Aとは違う視点から事業拡大やサービス拡充を目指せる点が大きなメリットです。
また、クロスボーダーM&Aを機に新しい事業が生まれたり、シナジーが最大限に発揮されれば、日本国内での競争優位性が得られるというメリットもあります。
ブランディング力のアップ
クロスボーダーM&Aが成功した場合、日本でも大きな話題となることが多いです。テレビや新聞などメディアで会社名や新しいサービス・商品が取り上げられれば、認知度向上だけでなく売上拡大につながる可能性もあります。
また、新規人材採用時に有利となる場合も多く、若い世代への関心が高まればそれだけ優秀な人材を獲得できるチャンスが増えるということにもつながるでしょう。
税金の削減
クロスボーダーM&Aを行う相手国によっては、日本より給与水準や税率が低いところもあります。特に製造業などのように海外に工場を置いても作業的に問題ない場合は、コスト・人件費の削減を図ることも可能です。
事業にかかるコストを抑えられ税金の削減が可能となるうえ、業務効率と生産性が向上されれば、自社全体の利益増大を見込むこともできます。
5. クロスボーダーM&Aのリスク
クロスボーダーM&Aを行うときに、注意したいリスクとして「カントリーリスク」「訴訟リスク」「環境リスク」「人的問題」が挙げられます。ここでは、これらのリスクと、その対応策を詳細に解説します。
カントリーリスク
クロスボーダーM&Aにおけるカントリーリスクとは、日本国内の企業が、海外の企業と取引をする場合、相手国の政治面や社会面、経済面などで大きな変化が起き、それに伴い、日本国内の企業が損害を被り、取引ができなくなってしまうリスクです。
政治リスク
クロスボーダーM&Aの取引で起こりうるカントリーリスクにおける、政治リスクとは、日本と取引を行う予定の相手企業の国との間で、政治的なんらかの問題が起き、日本国内の企業が資金の回収ができなくなったり、M&Aの取引そのものがなくなったりするリスクの可能性があります。
外資規制
外資規制とは、外国為替及び外国貿易法などにより、外国人または外国企業による、国内の企業への投資に対する規制のことです。
外国企業や外国人による日本国内の株式の取引は、原則として、日本銀行を経由して行わなければならず、取引後は報告を行う必要があります。その他の法律でも、外国企業による日本国内の企業への出資には、規制が設けられています。
訴訟リスク
アメリカが訴訟大国といわれているように、日本と比較して海外では訴訟問題が多く起こります。大きな訴訟問題になりそうなことであれば、その内容も含めた契約を結ぶ必要があります。
小さな訴訟問題でも、今後大きな問題へと発展してしまうリスクがあるので、デューデリジェンスをしっかり行い、小さなリスクも見落とさないように注意します。
環境リスク
環境に関する法律や認識は、国によって大きく異なります。日本よりも環境汚染に厳しい国は多く、大きな問題が起これば、訴訟になる場合もあります。
クロスボーダーM&Aの場合は、環境デューデリジェンスを行うことで、事前に環境リスクについて把握できます。環境デューデリジェンスは、他の分野のデューデリジェンスに比べて時間がかかるため、早めに行うとよいでしょう。
人的問題
クロスボーダーM&Aの失敗原因として多いのが、M&A契約締結後のPMIの実施がうまくいかず、労働組合の反対が起きるリスクがあります。
また、日本のようにリストラが容易にできる国は少なく、多くの国では厳しい条件を満たさなければ、人員の整理を行えないのも人的問題のひとつです。
6. クロスボーダーM&Aの手法
クロスボーダーM&Aでは日本国内M&Aと同じように株式譲渡や事業譲渡が用いられるケースも多いです。ですが、三角合併やLBOといった日本国内企業同士のM&Aではあまり見かけない特殊なスキームも比較的多く使用されます。
株式譲渡
株式譲渡は売り手企業の発行済株式を買い手企業が取得し、経営権を掌握する手法です。日本国内のM&Aでは株式譲渡が活用されるケースが多く、中小企業が事業承継目的でM&Aを実施する場合は背反が株式譲渡によって行われます。
日本国内のM&Aで株式譲渡を活用する場合、買い手企業は売り手企業の発行済株式の過半数取得すれば子会社、すべて取得すれば完全子会社となり、取得割合はケースによってさまざまです。
しかし、ケースクロスボーダーM&Aでは、買い手企業は売り手企業の全発行済株式を取得するのが一般的である点が異なります。また、実施時は外貨規制に注意が必要です。
事業譲渡
事業譲渡は、売り手側企業の事業の全部あるいは一部を買い手側企業へ売却する手法です。対象となる事業および権利・義務の範囲を細かく決められる点が最大の特長であり、買い手企業にとっては自社に不要な負債・資産をM&Aによって引き継がなくて済むメリットがあります。
売り手側企業は事業が取引対象となるため、法人格をそのまま残すことができる点が大きなメリットです。そのため、事業の選択と集中を目的に一部事業を売却するケースや、不採算事業の切り出しを目的として行うケースなどが多くみられます。
事業譲渡はほかのM&A手法より自由度が高いですが、その分手続きは煩雑になりやすい点がデメリットです。従業員の雇用や許認可などはM&Aで引き継ぐことができないため、買い手側企業は同異を得たうえでの契約まき直し、許認可の取得申請が必要となります。
三角合併
三角合併は、2007年の5月に解禁となった新しい手法です。三角合併では、海外企業が日本に子会社を設立し、親会社である海外企業の株式を取得します。
その後、その株式を対象企業である日本国内の企業の株主に交付し、合併を行います。これまで、日本国内の企業と海外の企業が直接取引をして、株式を交換したり、合併をしたりするのはとても難しい状況でしたが、三角合併により以前に比べて容易に行えるようになりました。
LBO
LBOとはレバレッジバイアウトの略で、海外企業のM&Aにおいては、よく用いられる手法です。買い手側が、売り手側の財産を担保として、銀行などの金融機関から借入を行い、資金を調達する買収方法です。
対象会社の事業などの財産が担保となり、LBOを行った後、業績が落ちた場合は、巨額の借金が残るリスクもありますが、少ない自己資金で大型のM&Aを行える手法です。
7. クロスボーダーM&Aの注意点
クロスボーダーM&Aでは、日本国内でM&Aを実施する場合とは違った注意点もあります。これらをよく理解しておかなければ、リスクが大きくなり、失敗する可能性が高くなるため注意が必要です。ここでは、クロスボーダーM&Aの主な注意点を説明します。
エクスロー
エクスローは、M&Aや物品などの売買取引の代金決済時に「信頼できる中立的な第三者」が当事者間に入り、決済取引の安全性確保を目的とするサービスをいいます。
日本国内のM&Aでは、クロージング時に譲渡側の経営権を移転させると同時に、対価の決済手続きを行うケースがほとんどです。ですが、クロスボーダーM&Aではリスク回避を目的として一定期間は対価の支払いを留保することも多くみられます。
特にアメリカやヨーロッパで行われるM&Aではエクスローが利用されており、中立な第三者の「エスクロー・エージェント」を入れる場合が多いです。
エクスローを活用するメリットは、買い手側は表明保証違反などがあった場合に支払い済み対価を回収できないリスクが低減すること、売り手側にとっては支払資金不足になるリスクを低減できる点などがあります。
なお、エクスローをはM&A代金は一旦エージェントへ預ける仕組みです。そして、半年から1年程度が経過した時点で問題がなければ売り手側へエージェントを通じて対価が支払われます。
M&Aに関する法規制
M&Aでは実施する国(売り手側)企業の法律に準拠する決まりとなっており、クロスボーダーM&Aでは特に注意が必要です。M&Aに関する法律は国によって大きく異なり、たとえば日本では問題ない取引であっても禁止となっている国もあります。
M&Aで取引可能な業種が国によって違っており、さらに競争法や独占機司法や競争法などの規制があり、M&Aの申請及び許可を当局へ求められならない国もあるなど、どの国の企業とM&Aを行うかによって必要手続きも大きく変わる点に注意が必要です。
また、M&AではTOBによって対象企業の子会社化を目指すケースも多いですが、このTOBも日本とアメリカやヨーロッパでは必要となる株式の取得比率が変わります。
そのほかにも、日本では行える合併や分割などの組織再編行為が存在しない国もあるなど、M&Aの扱いは国によって大きく違うため、クロスボーダーM&Aを検討している場合は、想定しているM&A手法は対象国で使用できるのかといった基本部分を含めて専門家に相談することが重要です。
従業員の反対に注意
日本国内でのM&Aでも起こりうるのが、従業員の反対です。しかし、日本国内での従業員の反対と比べて、海外企業の反対では、従業員のストライキが容易に起こりえます。これは、その国特有の国民性や、親日性にも関連してきます。
大企業のクロスボーダーM&Aの場合、労働組合などがしっかりと設けられているため、対処法が検討できますが、中小企業のクロスボーダーM&Aは、最悪の場合、売り手側の企業そのものがなくなってしまうリスクさえ考えられます。
M&A最終契約書締結後の、PMI実施を想定してM&Aのプロセスを進めていくようにします。
インサイダー取引に注意
インサイダー取引とは、会社の内部情報に精通する者が、その情報から株式の上下を事前に予測し、株式の売買を行う行為で、証券取引法により禁止されています。
クロスボーダーM&Aを行う場合、買い手側は、今後成長が見込まれる企業を売り手企業の候補とします。今後の成長が見込まれると予想する場合は、今後の株式価格も上がると予想されます。
この情報を元に、海外企業や国内企業の株式の売買を行なった場合、インサイダー取引とされ、証券取引法により、厳しく罰せられます。
8. クロスボーダーM&Aの成功ポイント
クロスボーダーM&Aの失敗確率が高いといわれていますが、なかには成功をおさめている企業も少なくありません。クロスボーダーM&Aを成功させるための鍵はどこにあるのか、成功要因を詳細に解説します。
現地の情報収集
クロスボーダーM&Aが成功すれば非常に大きなメリット・効果を見込むことができますが、その分だけM&Aを行うリスクも大きいものです。クロスボーダーM&Aで考えられるリスクは日本国内のM&Aと異なるものも多いため、事前調査をしっかり行ったうえでM&A実施を判断しなければなりません。
特に、以下4つの要素は必ず事前に情報収集しておくべきものです。政府が公表している統計資料やデータでも基本的な情報を知ることができるので、必ず行っておきましょう。
- 対象国の国土・人口・言語・インフラなど
- 国民性・国の文化・宗教、およびそれらに関連するリスク
- 政治情勢・社会情勢・経済政策・経済成長率
- 法律・税率(税務)・地価・給与水準
もし、自社の力だけでクロスボーダーM&Aの情報収集が難しいようであれば、M&A仲介会社などの専門家へ依頼するとよいでしょう。
バリュエーションの算定を間違えない
クロスボーダーM&Aにおいて、難しいのではないかと感じるのが、買収金額の算定です。今現在、売り手となる企業が市場において、ある程度のポジションを築けているのであれば、その数字から、バリュエーションの算定を行えます。
しかし、新興国とのクロスボーダーM&Aとなると、これからどれくらい経済市場において価値をもたらしてくれるのか、予想してバリュエーションの算定を行わなければいけません。
クロスボーダーM&Aにおいて、平均買収額は存在しますが、相場というものは、なかなか分かりづらく、買収しようとしている海外企業を、その相場に当てはめるのも難しいでしょう。
相場だからとバリュエーションを決めてしまうのではなく、買収候補先をしっかり調査し、バリュエーションの算定を間違えないようにしましょう。
シナジー効果の最大化
シナジー効果を最大に引き出すことは、クロスボーダーM&Aに限らず、すべてのM&Aにおいて重要です。
M&Aにおけるシナジー効果とは、M&Aを行うお互いの企業が、それぞれの価値や、良い点を引き出し合い、より多くの経済的価値を生み出すもので、相乗効果ともいいます。
シナジー効果を最大化するためには、候補先企業に関する情報を徹底的に集め、M&A最終契約書締結後のPMI実施を想定、スキーム策定などが大切です。
PMI実施を想定し、目的を明確にするのが、シナジー効果を最大化するためのポイントです。
ブレークアップフィー条項を事前に決定
M&Aにおけるブレークアップフィーとは、M&Aをしようと思っていたが、何らかの事情により、M&Aを行わないと決定したときの違約金に関する決まりです。
ブレークアップフィー条項を事前に決定しておくことで、企業の買収案件がなくなってしまった際に、買い手側の企業は、ブレークアップフィー条項で決めておいた違約金を受け取れます。
買収によるM&Aの場合、違約金の金額は、買収金額の1〜5%以内に設定されるのがほとんどです。
ブレークアップフィー条項を、しっかり事前に締結しておくと、さまざまな要因から契約ができなくなった場合でも、違約金を受け取れば損害を最小限に抑えられます。
デューデリジェンスに力を入れる
M&Aにおけるデューデリジェンスとは、買収審査のことで、一般的には買い手側が売り手側を対象として行われます。
デューデリジェンスは、基本合意書締結後、最終契約書の締結前に行われるもので、人事・財務・法務など、さまざまな視点から、M&Aを行う際にリスクが生じないか、これまでの調査との相違点はないか、買収価格は適正なものかなどの検討が行われます。
クロスボーダーM&Aでは、対象企業についての情報が入手しづらいため、よりデューデリジェンスに力を入れるようにしましょう。
知的財産権についての事前把握
相手企業が持っている財産について、しっかりと把握するのが大切です。M&Aにおいては、対象企業の知的財産が目的で行われることも多くあります。
対象企業が保有しているといっても、その財産が第三者の知的財産を借りている場合では、M&Aを行い、その財産を活用しようとしたときに、第三者の知的財産権を侵害してしまうリスクがあります。
そのため、対象企業がどのような知的財産を、どのような契約で保持しているのか、しっかりと事前把握するのが重要です。
対価の支払い時期を把握
クロスボーダーM&Aにおいて、買収の対価の支払い時期の把握は、支払う額にも関わってくるため、非常に重要です。
日本国内におけるM&Aでは、現金によるやりとりの場合、最終契約書締結後の金額の変更はほとんどありませんが、海外企業とやりとりを行うクロスボーダーM&Aでは、為替レートの変動により、金額が変わります。
大規模なクロスボーダーM&Aであるほど、為替レートの変動により、大きな損害を被るリスクもあるのです。そのため、事前に対価の支払い時期を把握しておくのが重要です。
計画的なPMI
M&A取引は、M&A最終契約書締結後のPMI実施を想定し、目標を明確にし、M&Aのプロセスを進めていく必要があります。M&Aにおいて、最終契約書の締結は、企業が成長するためのスタートラインといっても過言ではありません。
PMIの実施により、どのような企業にしていくのか、整合性を取りながら経営戦略を進める必要があります。クロスボーダーM&Aでは、海外企業と綿密な連携を取りながら、PMIを実施するのが重要です。
M&A仲介会社の利用
クロスボーダーM&Aを行う際は、日本国内でのM&A以上に慎重に進めなければなりません。安全かつ円滑にM&Aを進め、成功率を上げるためにも早期段階からM&A仲介会社に相談しておくことをおすすめします。
クロスボーダーM&Aをご検討の際はぜひM&A総合研究所へご相談ください。経験豊富なM&Aアドバイザーが専任担当につき、クロスボーダーM&Aをフルサポートいたします。
当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。
9. クロスボーダーM&Aの流れ
ここでは、クロスボーダーM&A全体の流れについて解説します。クロスボーダーM&Aの流れは、国内の企業同士のM&Aと同じように、プロセスに沿って進めるのが大切です。
検討
はじめに、クロスボーダーM&Aに詳しい専門家の元、対象となる企業を検討します。自社の描く経営戦略から、どのような企業とM&Aを行うのが良いのか、専門家と相談しながら、対象となる企業を決めます。
対象となる企業が決まったら、その企業について、詳しく調べます。日本国内の企業同士のM&Aを行う場合と同じように、デューデリジェンスを実施し、対象企業についてしっかり把握します。
把握したうえで、どのようにM&Aを進めていくのか、どのような手法でM&Aを行うのかなどを検討します。M&Aの内容が決定したら、対象企業と直接面談を行い、M&Aの内容について、相違がないか確認を行います。
契約
対象企業との面談を終え、M&Aの内容について合意が得られたら、契約書を作成します。基本的には、対象企業の法律に合わせて、契約書を作成するのが一般的です。
また、契約書は英文で作成されるのがほとんどです。アメリカでは、国で制定している法律の他にも、州ごとに制定されている法律もあるので注意しましょう。
TOBの扱い
株式譲渡や事業譲渡などの契約によるM&Aは、海外でも日本でも、考え方は類似しており、契約書も似ています。しかし、上場している会社の公開買付けによりM&Aを行う、TOBに対する考え方は、海外と日本では大きく異なるので注意しましょう。
EUの場合法律を事前に確認
EUに加盟している国とのM&Aを行う場合は、国の法律に加えて、EUの規制があることに注意しましょう。EUには、競争法という法律があるため、特に大企業での大きなM&Aを締結する場合は、法律をしっかり確認するようにしましょう。
実行
クロスボーダーM&Aの契約が締結したら、いよいよ実行にうつります。M&Aにおける実行とは、PMIの実施です。クロスボーダーM&Aで、一番難しいといわれているのが、企業の文化の統合です。
国と国の間には、文化の違いがあるように、日本国内の企業と海外企業の間には、事業の進め方をはじめ、さまざまな場面で文化の違いが現れます。お互いの文化を尊重しつつ、統合を進めていくのが重要です。
10. クロスボーダーM&Aの失敗要因
クロスボーダーM&Aの失敗する原因はどこにあるのか、詳細に解説します。成功要因を元にM&Aのプロセスを進めるとともに、失敗要因の知識を入れておくことで、クロスボーダーM&Aの成功率を上げましょう。
検討不足
クロスボーダーM&Aの大きな失敗要因の1つとして挙げられるのが、検討不足によるものです。M&A取引は、必要以上に情報が漏れてしまわないために迅速に行いたいと思う企業も多くあります。
また、流行に乗り取引を早く行なった方が、利益が得られると考える企業も多くあります。しかし、十分にスキーム策定や買収価格の検討を行わずに、勢いだけでM&Aを締結してしまうことは、M&Aが失敗する大きな要因になります。
デューデリジェンスを含め、対象企業についてしっかりと調査を重ね、M&Aを行ったらどんなメリットがあるのかだけでなく、リスクについても検討が必要です。
高額での買収
クロスボーダーM&Aの場合、売り手企業の今後の成長を見込んで、買収価格を決定する場合が多くあります。しかし、今後の経済的価値に期待しすぎて、高額での買収は、M&Aを失敗に導く大きな原因となります。
デューデリジェンスにより、相手企業についての情報をしっかりと集めたうえで、売買価格の検討を行い、必要以上に高額での買収は避けるようにしましょう。
また前述したように、M&A取引が流れてしまったときに受け取る違約金についても、しっかりと取り決めておくのが大切です。
買収後放置
M&Aを成功させるためには、最終契約書締結後のPMIの実施が大きく影響します。せっかくM&Aを締結させても買収後に放置してれば、経済的価値を得られないばかりか、従業員の反対によって事業が成り立たず、損害を被ってしまうリスクも考えられます。
買収後、どのように経営戦略を実現させていくのか、しっかりと検討したうえでM&Aを締結し、PMIを実施していくのが大切です。
11. クロスボーダーM&Aの失敗確率
クロスボーダーM&Aが増加傾向にあるのなら成功した事例が多いようにみえますが、失敗確率は50%を上回り、成功率は10〜30%程度といわれています。
日本企業が今後の成長機会の獲得をするための海外展開は、重要性は増しています。しかし、クロスボーダーM&Aを経験した企業のうち、買収した企業の業績が「計画を上回って推移」していると回答した企業は12%に留まっています。
クロスボーダーM&Aの実行の難しさや実行後の想定どおりの結果が実行できずに、企業が軒並み失敗している可能性があります。
このことからも日本企業がクロスボーダーM&Aを成功させるためには、最大限のシナジーの効果の実現に向けて実行していき、M&Aにおいてはデューデリジェンスを含む、対象企業の綿密な調査が重要です。
参照:PwC アドバイザリー合同会社「M&A実態調査2019 クロスボーダーM&Aにおけるシナジーの発言に向けて」
12. クロスボーダーM&Aの事例
クロスボーダーM&Aの中でも、大型の取引のもの、そして近年話題になったものから、6つの事例を紹介します。
ヤマハ発動機によるドイツTorqeedo社の譲受
2024年1月、ヤマハ発動機は独Torqeedo社の全発行済み株式を取得することを発表しました。Torqeedo社は独Deutz社の子会社であり、マリン電動推進機を製造販売する企業です。
Torqeedo社はマリン電動領域のパイオニアブランドとして、ヨーロッパ市場を中心として成長を続けており、研究開発能力に強みをもつほか、電源系統の特許を数多く取得しています。
ヤマハ発動機はバイク事業が主力ですが、そのほかに産業用ロボット事業やマリン製品事業なども展開しており、本M&Aの目的は自社が手掛けている「Electric分野」における開発力の強化です。
ヤマハ発動機は、Torqeedo社のリソースや研究開発能力に、自社の保有するマリンエンジンや艇体設計の技術・ノウハウをかけ合わせ事業拡大を目指すとしています。
参考:ヤマハ発動機株式会社「マリン電動推進機メーカー「Torqeedo社」を買収~マリンCASE戦略電動領域の競争力強化、カーボンニュートラル達成を加速~」
伊藤忠商事によるイギリスFettle Bike Repair社の譲受
2024年1月、伊藤忠商事は子会社の英KF社を通じて、英Fettle Bike Repair社の全発行済み株式を取得したことを発表しました。KF社はタイヤ・ブレーキ・車検など自動車関連サービスを提供しており、イギリス全土にサービスセンター720拠点を有する企業です。
Fettle Bike Repair社は2019年に設立されたイギリスの企業で、伊藤忠商事子会社のKF社とは2023年3月から協業関係にあり、現在、イギリス南西部ブリストルのKF社1店舗、ロンドンのKF社2店舗に、Fettle社に併設しています。
イギリスの都市部では近年シェアバイクの普及率が高くなっており、また、e-Bikeやe-カーゴバイクによって配送サービスを行う企業が急増している状況です。
こうした背景により、伊藤忠商事はFettle社とのM&Aを決断しており、同社が保有するマーケティング力や自転車メンテナンス事業のノウハウを活用し、KF社とのシナジー創出を図るとしています。
参考:伊藤忠商事株式会社「英国自転車メンテナンス会社Fettle Bike Repair社の買収について」
KPPグループHDによるポルトガル100Metros社の譲受
KPPグループホールディングスは2024年1月、フランスにある子会社を通じ、ポルトガル100Metros社の全発行済み株式を取得したことを発表しました。
本M&Aで取得した100Metros社は包装用紙・段ボール製品・ストレッチフィルムなどの仕入・販売をポルトガル国内で手掛けており、パッケージのリーディングカンパニーとしても有名です。
KPPグループホールディングスは、ポルトガルのイベリア地域におけるパッケージング事業の拡大・強化を進めており、今回のM&Aもその一環として行われました。
参考:KPPグループホールディングス株式会社「当社連結子会社による株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」
ブリヂストンによるアメリカCline Hose & Hydraulics, LLC社の譲受
2024年1月、ブリヂストンは子会社を通じ、アメリカのCline Hose & Hydraulics, LLC.を譲受したことを発表しました。
Cline Hose & Hydraulics, LLC.は、モバイルサービス事業と油圧ホース事業を手掛けるアメリカの企業で、サウスカロライナ州とジョージア州と小売店舗を2箇所持ち、30台の移動式サービストラックを南東部18エリアで展開しています。
今回のM&Aは、ブリヂストンが手掛けている油圧・産業用ホース事業の強化およびアメリカでのモバイルバン事業の拡充を主な目的として実施されました。
参考:株式会社ブリヂストン「ブリヂストン米国グループ会社、油圧ホース・モバイルサービスプロバイダーCline Hose & Hydraulicsを買収」
マネックスによるカナダ3iQ Digital Holdings Incの子会社化
2023年12月、マネックスグループは買収用に設立したカナダの子会社を通じ、3iQ Digital Holdings Inc.を子会社化することを発表しました。
3iQ Digital Holdings Inc.は暗号資産運用会社のカナダライセンスを有している企業です。暗号資産運用分野ではパイオニア的存在であり、2023年11月末時点で7憶9500万カナダドルの運用残高を保有しています。
マネックスグループは現在アセットマネジメント分野の強化を図っており、本M&Aは将来拡大が見込まれる暗号資産分野において3iQ社の運用ニーズを取り込むことが狙いです。
参考:マネックスグループ株式会社「【連名プレスリリース】 マネックスグループ、カナダの大手暗号資産運用会社 3iQ の株式の過半数を取得 」
今回のクロスボーダーM&Aにより、マネックスグループは3iQ社の強みである商品組成力を活用し、グループ内でのシナジー最大化を目指すとしています。
ワタミによるシンガポールLEADER FOODの譲受
2023年12月、外食産業を手掛けるワタミはシンガポールのLEADER FOOD社・ LEADER FOOD INDUSTRIES社を含むLEADER FOODグループ3社の発行済株式の80%(発行済株式総数における割合)を取得ことを発表しました。
ワタミが本M&Aで株式取得を行うLEADER FOODグループの3社は、肉やシーフードの仕入れから加工・供給までを3社一貫によって手掛けています。ワタミが今回のクロスボーダーM&Aに踏み切ったのはサプライチェーン強化が狙いです。また、ワタミは、LEADER FOODグループ3社の取得を機に海外販路の拡大を進めていくとしています。
参考:ワタミ株式会社「LEADER FOOD PTE.LTD.及び PREMIUM SEAFOOD SUPPLIES PTE.LTD.、LEADER FOOD INDUSTRIES PTE.LTD.3社の株式取得に関するお知らせ」
13. M&A総合研究所ならクロスボーダーM&Aにも強い!
クロスボーダーM&Aをご検討中の経営者様はぜひM&A総合研究所へご相談ください。案件ごとにM&Aアドバイザーが担当につき、クロスボーダーM&Aをフルサポートいたします。
当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。
14. クロスボーダーM&Aまとめ
クロスボーダーM&Aは総合的に見て、件数だけでなく買収金額に関しても近年増加傾向にあります。
クロスボーダーM&Aは失敗しているとよくいわれていますが、そのほとんどは、対象企業についての調査不足による、M&Aスキームの検討不足や、相場に流されて決めてしまった高額買収による多額の損害などが原因といわれています。
また、クロスボーダーM&Aの失敗要因として多いのが、M&A締結後にしっかりとPMIの実施を行わず放置してしまうことです。クロスボーダーM&Aは難しいといわれていますが、しっかりと検討し、プロセスを一つ一つ進めていくことで、クロスボーダーM&Aを成功に導けます。
クロスボーダーM&Aには、新市場の開拓や新製品の開発をはじめ、さまざまなメリットがあります。相手企業のメリットを十分に引き出し、自社事業のメリットを活かすことで、シナジー効果を引き出せます。
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