中小企業の事業承継問題とは?現状やリスク、解決策を徹底解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

近年、中小企業の事業承継問題がクローズアップされるようになりました。本記事では、中小企業の現状、事業承継にまつわるトラブルや廃業の実態などの問題点、事業承継問題の解決策や公的支援制度、事業承継の相談先一覧、M&Aによる解決方法などを解説します。

目次

  1. 事業承継とは
  2. 中小企業の事業承継を取り巻く現状
  3. 中小企業を悩ます事業承継問題
  4. 中小企業の事業承継に伴うリスク
  5. 中小企業の事業承継問題における解決策
  6. 事業承継問題の解決を支援する公的制度・施策
  7. 事業承継問題の解決に役立つM&Aについて
  8. 事業承継問題に関する相談先
  9. 中小企業の事業承継問題まとめ

1. 事業承継とは

事業承継とは、会社・事業の経営を後継者に託すことです。具体的には、会社や事業の経営権を譲り渡すことを意味します。会社の経営権とは、会社の株式を譲渡することです。後継者は、株式を取得し経営権を握ることで、会社の持つ有形資産・無形資産を手にします。

  • 有形資産=設備、機械、工場、事務所、不動産、原材料、在庫商品、現金、許認可など
  • 無形資産=経営ビジョン、ノウハウ、人脈、取引先リスト、顧客情報、特許、商標、意匠権など

なお、個人事業の事業承継の場合は法人格がないため、株式譲渡ができません。個人事業は、事業譲渡することで事業承継を行います。

2. 中小企業の事業承継を取り巻く現状

近年の中小企業を取り巻く環境は、厳しさが続いているといえます。アベノミクスにより好景気にもかかわらず、中小企業の売上・生産性がともに伸び悩んでいるのが現状です。

好景気によって大手企業に人材が流れてしまうため、中小企業では必要な人数の従業員を確保しづらい傾向があります。特に厳しい状況といえるのが、中小企業における経営者の問題です。中小企業の経営者や事業承継の現状を紹介します。

経営者の高齢化

帝国データバンクの「全国社長年齢分析調査(2021年)」によると、2021(令和3)年における経営者の平均年齢は60.3歳でした。この平均年齢は、過去最高を更新しています。他にも明らかになったのは、年商額が小さくなるほど経営者の平均年齢が上昇することです。

たとえば、年商1億円未満の企業の経営者平均年齢は61.6歳と、すでに60歳を超えた結果でした。現在も高齢化が進行中である中小企業の経営者にとって、最大の問題はどのように事業承継を行うかです。

廃業件数の増加

事業承継がなされず経営者が引退した場合、その企業は休廃業か解散となります。東京商工リサーチによると、2021年の休廃業・解散企業数は4万4,377でした。倒産の7倍以上にもなる数の企業が、休廃業している状態です。

同調査による休廃業・解散企業の経営者年齢を見てみると、60代が23.3%、70代が42.6%、80代が20.0%でした。このデータから、企業の休廃業・解散件数増加における一番の原因は、経営者の高齢化とわかります。

親族外承継へのシフト

従来、中小企業の事業承継では、経営者の子どもなど親族への事業承継が多数を占めていました。しかし昨今は、新たな事業承継の方法として、M&Aなど親族外承継を行う選択肢も用いられています。ただし、事業規模が小さいほど親族外承継には消極的な現状もわかってきました。

中小企業庁の2020年度版「小規模企業白書」によると、2019(令和元)年に事業を承継した社長と先代経営者との関係を親族外と回答した小規模企業の割合は、8.5%にとどまっています。政府は、M&Aなど親族外承継の情報を発信し、事業承継の選択肢になるよう、さらに推進する考えです。

事業承継をM&Aで実施する場合、中小企業が自社のみでM&Aを実施するのはトラブルのもとになりかねません。M&Aの手続きを進めるうえでは専門的な知識が必要になるので、M&A仲介会社などの専門家によるサポートを受けるのがおすすめです。

M&Aによる事業承継の相談先をお探しでしたら、ぜひM&A総合研究所へご連絡ください。M&A総合研究所では、豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーが案件をフルサポートしますので、スムーズなM&A進行が可能になります。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。随時、無料相談を受け付けていますので、M&Aによる事業承継をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

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事業承継が進まない理由

中小企業では、「事業承継ガイドライン(中小企業庁発行)」などが公表されているにもかかわらず、事業承継が進んでいないのが現状です。最大の理由は、経営状況に対する将来の予測ができないためと考えられます。

今、行っている事業が黒字でも、将来的にその事業を安定して続けられるかどうかは断定できません。事業承継では、その不安を後継者に押しつけることになるため、事業承継に消極的な経営者が多いのでしょう。

事業承継を進めるためには、将来にわたり安定して経営が続けられる施策を、政府が行う必要があります。

3. 中小企業を悩ます事業承継問題

ここからは、中小企業が事業承継を行う際に発生しやすいトラブルや問題などについて掲示します。

  1. 後継者不在
  2. 後継者の教育が難しい
  3. ワンマン経営による事業承継準備の遅れ
  4. 適した相談者の不在
  5. 経営状況や将来に対する不安
  6. 取引先・従業員から反発される
  7. 経営者自身に退く意思がない
     

①後継者不在

事業承継を行う際に、後継者がいないと承継できません。帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)」によると、後継者不在企業は61.5%です。事業承継において、後継者がいかに大きな問題かがわかります。

現状の事業承継を、後継者が誰であるかによって分類すると、以下の3つです。

  • 親族内承継
  • 社内承継
  • 第三者承継(M&Aなど)

これらのうち、従来より広く行われてきたものの、昨今はトラブルや問題が生じがちである、親族内承継と社内承継について、その現状を見てみましょう。

親族承継の問題点

親族内承継を行う際に、そもそも身内に適切な後継者がいないケースが問題です。親族内承継を行うときの後継者として代表的なのは、経営者の子どもになります。しかし、子どもらは別の会社に勤務している場合がほとんどです。

その場合、会社経営の経験どころか、会社のことを何もわかっていないので、すぐに事業承継できません。会社の経営者になると大きな責務を背負うことになります。そのような大きな責務を背負ってまで、会社を承継したくないと思う親族が増えているのが現状です。

その他にも、相続か贈与で会社の株式を取得することになる親族の場合、相続税・贈与税の負担も無視できません。一般の株式なら現金化して税金に充てられますが、自社株式を売却するわけにはいかないでしょう。このことも含め、親族内承継の比率が以前よりも減少してきています。

社内承継の問題点

従来から親族内承継が行えないときは、次善の策として会社の役員や従業員へ事業承継されてきました。役員や従業員はその会社に長年勤めており、会社の内情や事業のことをよく理解しているからです。しかし、役員や従業員へ承継を行う際にも問題はあります。

1つ目は、資金の問題です。事業承継とは経営権の引き渡しであり、つまりは会社の株式を譲渡することになります。親族なら相続や贈与での株式譲渡となりますが、親族でない役員や従業員の場合、株式譲渡の方法は売買です。

したがって、役員や従業員が事業承継しようとする場合、本人に株式を買い取るだけの対価が払えないと事業承継を行えません。

2つ目は、事業承継後の問題です。役員や従業員へ事業承継を行うと、これまでの経営理念や社風を守ってくれることはメリットですが、それらを守り過ぎると、かえって会社が発展しない可能性もあります。

継がす不幸

親族や従業員に意志があっても、経営者がその人に対する事業承継をためらうケースもあります。「将来が不安で事業承継に消極的になった」という経営者も少なくありません。自分の経験を重ね合わせ、後継者へ不幸を継がす可能性を無視できないのかもしれません。

②後継者の教育が難しい

事業承継を行う際に、後継者教育に苦戦している経営者は、案外多いものです。経営者が後継者に求める能力は、会社や事業の将来性を見とおす能力の向上や、経営者としての資質を身につけることなどがあります。

しかし、これらの能力を身につけるためのマニュアルなどは存在しません。後継者を教育するためには、取締役などの重要な役職を与えて、実務を通して経営者としての能力を身につけさせる必要があります。経営の後継者教育には、5~10年程度かかるでしょう。

事業承継完了までに時間がかかる

事業承継完了までに時間がかかる問題点もあります。平均で5~10年ともいわれる事業承継完了に要する期間は、後継者を育成するために時間がかかるからです。

中小企業白書によると、後継者の育成期間は、5~10年と回答している中規模企業が47.4%、小規模事業者は39.9%といずれも最も多くなっています。中小企業の経営者は、自身が引継ぎを完了したいと考えている時期から逆算して、計画的に事業承継を行わなければなりません。

③ワンマン経営による事業承継準備の遅れ

中小企業では、会社の所有権を持つオーナーと実際の経営を行う経営者が同一人物であるケースがほとんどです。会社で最も強い権限を持つのが社長という会社構造でしょう。会社構造そのものが社長に権力が集中しやすくなっているので、ワンマン経営をする経営者が多くなりがちです。

ワンマン経営の会社では、役員や従業員がイエスマンだらけになってしまう可能性があります。経営者が優秀であればあるほど、そういった傾向は強まるでしょう。しかし、経営者も人間ですから、誤った意思決定を行うケースも当然あります。

事業承継は経営者個人の問題ではなく、会社経営全体の問題です。したがって、ワンマン経営の会社では、事業承継が遅れる傾向にあります。経営者が事業承継に積極的な場合はよいものの、経営者が事業承継に関心がなければ、事業承継はいつまでたっても進まない可能性があるでしょう。

④適した相談者の不在

事業承継を行う際は、さまざまな専門知識が必要です。会社の事業承継問題は何度も起こらないため、会社内に事業承継について詳しい人はほとんどいないでしょう。したがって、事業承継をするために何から始めたらよいのかわからないケースがほとんどです。

実際には、税理士や弁護士などに相談できますが、そもそも相談できることを知らないケースもあります。このように、誰に相談したらよいかわからない経営者が多く、相談者の不在が事業承継を遅らせてしまう一因です。

⑤経営状況や将来に対する不安

会社の社長が変わると、会社経営は大きな影響を受けます。上述したとおり、ワンマン経営の会社であればあるほど、その傾向は強まるでしょう。現経営者としては、できるだけ経営状況が良い状態で後継者に引き継ぎたいと考えます。

将来の見通しをきちんと立ててから、会社を承継したいと考えているケースも多いでしょう。しかし、それほど簡単に会社の経営状況や将来の見通しは変わりません。いつまでも改善を待っていると、事業承継のタイミングが遅れ、適切な準備ができなくなります

⑥取引先・従業員から反発される

親族に事業を引継ぐ際、取引先・従業員から反発されて、経営者が勇退を決められないこともあるでしょう。経営者としての資質や経験が備わっていても、取引先・従業員と後継者にあつれきが生じると、事業の存続が懸念されます。

従業員との連係が円滑に進まず生産性が下がったり、取引先との関係に影響が出て売上に悪影響を及ぼしたりすることもあるでしょう。

⑦経営者自身に退く意思がない

経営者自身に退く意思がないケースもあります。「自分は健康だからまだ事業承継は必要ない」と思う経営者は少なくありません。しかし、健康上のトラブルは突然降りかかり、交通事故などに遭う可能性もあります。現在は健康でも、早めに準備をすることが肝要です。

4. 中小企業の事業承継に伴うリスク

中小企業の事業承継を行うにあたっては、そのリスクをきちんと認識しなければなりません。ここでは、中小企業の事業承継に伴うリスクを見ていきましょう。

  1. 負債・個人保証を承継するリスク
  2. 後継者と古参社員が対立するリスク
  3. 相続時に遺留分を求められるリスク

①負債・個人保証を承継するリスク

事業承継によって引き継ぐのは会社そのものですが、厳密には、会社の事業で使っている資産・負債を引き継ぎます。資金調達を借入に頼っている会社であれば、会社を引き継ぐと借入も引き継ぎます。会社の資金繰りが苦しい場合は、後継者にとって死活問題になるでしょう。

会社経営が苦しいケースでは、前社長の個人借入によって会社の資産を賄っているケースも少なくありません。この場合、個人借入によって調達した資産の引継ぎができないこともあります。その資産を会社の事業で利用している場合、会社の事業が回らなくなるリスクがあるでしょう。

②後継者と古参社員が対立するリスク

後継者と古参社員の対立トラブルも起こり得る問題です。古参社員は、先代経営者とともに会社を支えてきた自負があります。後継者は先代経営者よりも若いので、経営戦略など世代間の認識における違いによる対立が発生するかもしれません。

先代経営者が行ってきた従来方針を変えずに継続することが、会社の維持にベストと考える保守的な古参社員らも間違ってはいません。一方、事業承継した会社をより発展させるべく、改革的な行動を取ろうとする若い後継者も、間違っているとはいえないでしょう。

ただし、そのままではトラブルが収まらず、事業に支障をきたすかもしれません。どのようにうまく折り合いをつけるか、後継者の手腕が問われるところです。

③相続時に遺留分を求められるリスク

相続による事業承継において特に問題となりやすいのが、後継者以外に相続人がいる場合の遺留分です。前経営者の資産である会社の株式について、複数の相続人がいると、後継者以外の相続人は相続の権利を主張できます。

相続人が1人であれば問題ないものの、複数の相続人がいる場合、前経営者が1人の相続人を後継者に指名していても、法的には他の相続人も相続する権利を持っています。主張どおりに株式が各相続人に分けられた場合、株式が分散することにより、後継者の経営権も脅かされるでしょう

【参考】中小企業が事業承継しない場合のデメリット

ここで、中小企業が事業承継しない場合のデメリットを確認しましょう。主なデメリットは3つあります。まずは、多額の廃業コストがかかる点です。廃業すると、不動産の売却、機械設備の廃棄、従業員への退職金支払いなどが発生します。

廃業コストは、数百万~1千万円超となることもあるでしょう。廃業後に手元に残る金額が想定よりも少なくなって、勇退後の生活が苦しくなるかもしれません。負債があれば、個人資産の売却もあり得ますし、負債が残れば勇退後も働いて返済する必要が生じます。

2つ目は、従業員が雇用を失うデメリットです。廃業すれば従業員は解雇されますが、年齢などにより、希望に沿った転職先が見つからないこともあるでしょう。働き口を失った従業員の家族にまで影響が及ぶ大きな問題といえます。

3つ目は、商品やサービスがなくなる点です。廃業すれば、培ってきた事業がなくなるので、自社で開発した商品やサービスもなくなります。取引先などにも迷惑をかけ、さらには地域経済にも悪影響を及ぼすといえるでしょう。

5. 中小企業の事業承継問題における解決策

ここからは、中小企業における事業承継問題の解説策を見ていきましょう。解決策は大きく2つに分けられ、後継者がいる場合と後継者がいない場合です。後継者がいる場合は、経営レポートや事業承継計画の作成、後継者教育を行います。

後継者がいない場合はM&Aを行うので、その準備を行ったり、売却相手の探索を開始したりするなど、日常業務以上に忙しくなるでしょう。どちらの準備作業も、各自治体における事業承継・引継ぎ支援センターやその連携支援機関に相談すると、サポートを得られます

士業事務所への実務依頼およびM&A仲介会社への業務依頼以外は、基本的に無料でサポートが受けられるので、積極的に活用しましょう。

①事業承継の手法は複数の選択肢を検討する

事業承継にはさまざまな手法があります。経営者は事前にどの承継手法を取るべきか考えなければなりません。どの手法が適切であるかは、会社が置かれた状況によって異なります。後継者候補が親族にいる場合は、親族内事業承継の手法が適切でしょう。

親族や社内に事業承継の後継者がいないケースでは、社外に株式を譲渡する可能性を含めて検討する必要があります。自社の状況を鑑みつつ、事前に時間をかけてそれぞれの手法を検討し、事業承継の方法を適切に選択しなければなりません。

②早い段階で準備に着手する

事業承継は、後継者による事業承継で5~10年、M&Aによる事業承継でも短い場合で約半年かかります。いずれにしても、事業承継を考えている中小企業の経営者は、早いうちから準備をするに越したことはありません。

③客観的な判断、従業員・相続人への配慮を意識する

事業承継を行った場合、その影響は従業員にも及びます。事業承継は従業員も納得できるように行うのがベストです。ときには第三者の意見も取り入れながら、できるだけ客観的に事業承継を考える必要があります。そうしなければ、会社内で断絶が起こってしまいかねません。

各相続人にも配慮しましょう。複数の相続人がいるケースでは事業承継が問題となりやすい傾向にあります。後継者となる相続人だけに配慮すればよいわけではない点を認識しましょう。

④経営状況・財務状態を明確化しておく

経営状況や財務状態は明確化しなければなりません。前経営者しか知らない簿外負債がある状態で事業承継が行われれば、当然、会社は大混乱に陥るでしょう。会社の業績が悪かろうがよかろうが、後継者に会社の置かれた状況を説明しなければなりません。

現状を認識できずにいれば、適切に対応できなくなります。経営者は後継者に現状を適切に説明し、一緒に対応を考える必要があります。

経営レポートの作成

経営レポートとは、自社の基本情報や経営環境、将来ビジョンをまとめたものです。後継者教育を行う際に、経営者から見た自社の情報を共有しておくために記しておきましょう。具体内容として、基本情報には経営理念や沿革などを、自社の再確認として記載します。

経営環境とは、経営者から見たSWOT分析の内容です。SWOT分析とは、自社の内部環境における強みと弱み、外部環境における機会と脅威を把握するための分析手法をさします(Strength=強み、Weakness=弱み、Opportunity=機会、Threat=脅威)。

将来ビジョンとは、現在行っている経営戦略の内容や、SWOT分析から考えられる今後の経営戦略を示すものです。

6. 事業承継問題の解決を支援する公的制度・施策

経営者の高齢化による企業の休廃業・解散リスクは、今後も増加していくと予測されています。この傾向は日本にとって、大きなデメリットです。

経済産業省と中小企業庁の試算によると、現状を放置したままの場合、2025(令和7)年までに約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると示しています。そこで、この傾向を止めるために、政府はいくつかの施策を実行に移しました。

施策の代表的なものである、事業承継税制、事業承継ガイドライン制定、事業承継・引継ぎ支援センターの3つを紹介します。

①事業承継税制

事業承継税制とは、中小企業で事業承継がなされた際に一定の条件を満たせば、相続税・贈与税が100%猶予され、さらに免除も可能になる制度です。2008(平成20)年に創設された制度でしたが、運用面の難易度が高かったため、2018(平成30)年に改正されました。

事業承継税制への対応

前述したとおり、国は事業承継を支援するために事業承継税制を改正しました。この改正により、従来は納税猶予だけであった相続税や贈与税が、手続きを踏むことにより免除を受けることも可能になりました。手続き自体も、いくつか見直しが行われています。

ただし、手続き面の見直しが行われたとはいえ、多くの中小企業は、税理士など士業の専門家などに相談しないと準備が整えられないでしょう。猶予・免除となるには、一定の条件も満たさなければなりません。

この改正制度は、2027(令和9)年12月31日までの時限措置です。中小企業における株式譲渡の際に発生する相続税・贈与税が次世代から次々世代にわたって猶予・免除されるといっても、期限付きではどこまで効力を発揮できるのか、疑問視されています。

②事業承継ガイドライン

事業承継ガイドラインは、中小企業庁が中小企業の経営者に向けて公表した事業承継への指針です。事業承継ガイドラインの内容は、円滑な事業承継を実現するために以下5つのステップを経ることが重要であると明記されています。

  • 事業承継に向けた準備の必要性の認識
  • 経営状況・経営課題などの把握(見える化)
  • 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
  • 社内へ引継ぎの場合は事業承継計画の策定を、社外へ引継ぎの場合はM&A仲介会社などに依頼してマッチングを実施
  • 事業承継もしくはM&Aの実施

政府は事業承継ガイドラインを示すことで、廃業せずに事業承継を行う中小企業の経営者が増えることを期待しています。

③事業承継・引継ぎ支援センター

中小企業庁は、各自治体への委託事業として事業承継・引継ぎ支援センターを設置しています。これは従来からあった事業引継ぎ支援センターと事業承継ネットワークが2021(令和3)年に統合されたものです。

事業承継・引継ぎ支援センターは、各都道府県における中小企業の事業承継の総合的な公的支援機関として事業を行っています。主な支援内容は以下のとおりです。

  • 親族内承継:事業承継計画策定・後継者教育・事業承継の各種手続きなどの各サポート
  • 社内承継:同上
  • 後継者人材バンク:後継者不在企業と事業承継を希望する起業家とのマッチングサービスおよび事業承継手続きのサポート
  • M&Aによる事業承継:M&A仲介会社の紹介、必要に応じて各種サポート

④公的な相談窓口

事業承継の際に役立つ相談窓口として、国や自治体の機関も重要です。事業承継・引継ぎ支援センター以外の公的な相談窓口は以下のようなものがあります。

  • 各自治体内の中小企業対応相談窓口
  • 独立行政法人中小企業基盤整備機構
  • よろず支援拠点(各都道府県にあり)
  • 信用保証協会

7. 事業承継問題の解決に役立つM&Aについて

親族にも社内にも会社の後継者がいない場合は、M&Aによる事業承継を目指すことになります。M&Aによる事業承継とは、会社を売却し、その買い手が後継者(新たな経営者)となることです。会社の売却とは、中小企業の場合、オーナー経営者が所有する自社株式の売却を意味します。

個人事業の場合は、株式が存在しないため、事業とそれに関連する資産や権利義務を売却する事業譲渡が、事業承継の手段です。M&Aによる事業承継が実現すれば、会社は存続し廃業する必要はなくなります。

M&Aによる事業承継を行うメリット

ここでは、M&Aによる事業承継を実施することで得られる主要なメリットを、4つ紹介します。

後継者問題を解決できる

親族や社内に後継者がいないまま経営者が引退時期を迎えると、会社は廃業するしかありません。そこで、M&Aを実施すれば事業承継が実現し、後継者問題は解決です。会社の存続が決まることにより、さらに得られる別のメリットもありますが、それは後述します。

雇用問題を解決できる

会社が廃業となれば、従業員は解雇されます。経営者としては、何としても避けたい事態でしょう。M&Aによる事業承継によって、会社が存続すれば、従業員が職を失うことはありません。M&Aの買い手にとって、買収した会社・事業を継続して運営していくためには、人材が必要です。

現在は多くの産業・会社が人手不足状態でもあり、従業員にとっては、今までより待遇が上がる可能性すらあります。

創業者利益を確保できる

仮に廃業した場合、さまざまな廃業コストが発生し、出費がかさみます。一方、M&Aによる事業承継では、株式、または事業を売却しますから、経営者や個人事業主は、必ず対価を得られます。会社や事業の売却対価ですから、相応の金額となるでしょう。

新たな事業資金でも、老後の生活資金でも、自由使途のまとまった金額の資金を獲得できるのは大きなメリットです。

個人保証問題を解決できる

会社を株式譲渡で売却した場合、基本的に債務は買い手に引き継がれます。それに伴って、債務のために経営者が行っていた個人保証は、解消手続きが可能となります。金融機関も交えた話し合いや手続きは必要ですが、特殊な事情でもない限り、個人保証から解放されるでしょう。

8. 事業承継問題に関する相談先

事業承継を行うにあたっては、1人で悩まずに相談することが重要です。気軽に相談できる商工会・商工会議所はもちろん、高度で専門的な事柄は士業事務所に相談するとよいでしょう。無料で相談に乗ってくれる機関もあるので積極的に利用してください。

①商工会・商工会議所

商業・工業を営む事業者によって構成されている地域の商工会・商工会議所は、中小事業者に向けてさまざまなサポートを提供している機関です。事業承継支援の相談にも乗ってくれます。

地域に密着したネットワークがあるので、他社との事例共有や交流などもでき、自社の事業承継に参考となる情報を得られるでしょう。

②士業専門家(弁護士・会計士・税理士)

専門的な相談が必要な場合に力強い味方となってくれるのが士業専門家(弁護士・会計士・税理士など)です。事業承継とかかわる法律事項は弁護士に、財務は会計士に、税務は税理士にと、内容によって相談先を変えましょう。

事業承継全般の相談に乗ってもらうよりは、特定の事項において高度な知識が必要な場合に頼りになるのが士業専門家といえます。相談料が必要になるケースもあるので、その点は注意しましょう。

③公的機関

事業承継・引継ぎ支援センターに代表される公的機関は、基本的に無料で相談したりサポートを受けたりできるのが特徴です。特に、初期段階の事業承継の相談に向いています。事業承継・引継ぎ支援センター以外の公的機関は、よろず支援拠点や中小企業基盤整備機構などです。

④金融機関

地方銀行など、地域密着型の金融機関でも、近年は事業承継サービスを展開しています。大手のメガバンクも事業承継の支援サービスを展開していますが、最終的には、事業承継の専門家を紹介されるケースがほとんどです。

金融機関は、あくまでも中小事業者と専門家を仲介する位置づけとなります。金融機関は中小企業にとって身近な存在なので、相談しやすいでしょう。しかし、専門的なサービスを提供していない点に注意してください。

⑤M&A仲介会社

事業承継の手法として、M&Aを選択するときに欠かせない存在がM&A仲介会社です。M&Aにはさまざまな専門知識が必要となるので、多くの専門家がかかわらなければなりません。そのパッケージサービスを提供しているのが、M&A仲介会社となります。

M&Aに特化したサービス内容なので、自社の事業承継手法としてM&Aを選択する場合はまず相談したい相手ですが、事業承継のコストは割高となるのでその点は留意が必要です。相談料は無料のところが多いので、一度、話をしてみるとよいでしょう。

9. 中小企業の事業承継問題まとめ

中小企業の事業承継を行うためには、基本的にかなり時間がかかります。年齢が60代や70代になってからでは、廃業の選択肢しかなくなるかもしれません。会社を存続させ従業員の雇用を守るためにも、事業承継の準備は、なるべく早いタイミングから始めましょう。

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