2022年06月07日更新
株式交換比率とは?決め方・計算方法を解説!例も紹介!
相手企業を完全子会社化する株式交換を実施する際は、両社の株主に悪い影響が出ないよう株式交換比率を決め、株式の交付を行うのが基本です。その株主交換比率の決め方や計算方法などの解説とともに、過去に行われた株式交換事例についても掲示します。
1. 株式交換比率とは
M&Aの手法の1つである株式交換が実施される際には、必ず株式交換比率が公表されます。株式交換比率は、株主の議決権などに大きな影響を与える重要な取り決めです。
株式交換とは
株式会社間において、株式を交換することによって一方が完全親会社となり、もう一方を完全子会社化するM&A手法が株式交換になります。上図は、そのイメージ図です。
上図の例では、株式交換後、B社が完全親会社となりA社を完全子会社化しています。その実施において、B社がA社の株主からその株式を取得する対価として、B社の株式を交付します。その際の、A社株式に対し、どのような割合でB社株式を渡すかが、株式交換比率ということになります。
なお、決定される株式交換比率によっては、端数となるA社株式が発生するかもしれません。その場合は、金銭による対価支払いも併用されることになります。
株式交換比率が株主に与える影響
株式には、自益権と共益権があります。自益権とは、配当金を請求するなど経済的利益を受ける権利のことです。
一方、共益権とは、株主総会で議決権を持つなど会社の運営に参加する権利のことをいいます。
詳しくは後述しますが、株式交換比率は、一般的に株主の経済的利益に影響が出ないように考慮して決められるため、自益権への影響はありません。
しかし、株式交換によって保有する株式数の割合は変化するため、株主総会での議決権数が変化するなど共益権には大きな影響を与えます。
2. 株式交換比率の決め方・計算方法
この項では、株式交換比率の決め方・計算方法について述べますが、株主の自益権と共益権がどのように変化するかがわかるように、架空の事例を設定して解説します。
設定の事例(架空の事例)
A社が完全親会社、B社が完全子会社となる株式交換で、株式交換前のそれぞれの株価はA社は1,000円、B社は250円という設定とします。
そして、B社株式を400株保有している株主が、この株式交換に応じる場合の株式交換比率について具体的に見ていきましょう。
株式交換比率の決め方・計算方法
株式交換比率は当時会社の企業価値や株価などを参考に決められますが、原則は株主の資産に変化がないことです。
そのため、この架空事例の株式交換比率は4:1になります。B社株式400株を保有している株主の場合、株式交換によりA社株式100株の交付を受けることになるのです。
株主としての自益権について、出資額は株式交換前は10万円、株式交換後も10万円なので変化はありません。一方、共益権については、株主総会での議決権はB社の時400票あったものが、A社では100票と減少してしまいます。
つまり、この架空事例の場合のように株式交換比率が1:1でないケースでは、旧B社株主の株主総会での発言力が低下するという影響を与えうることになります。
3. 株式交換比率の主な計算方法
株式交換比率は原則的に両社の株価によって決められますが、当時会社が上場企業でない場合、一概に株価の比較ができません。また、上場企業同士であったとしても株価のみではなく、当時会社の企業価値を算定したうえで、比率を決めることもあります。
つまり、株式交換比率を決めるためには、企業価値を算出しなければならないのです。そして、M&Aの現場で用いられる企業価値の算出方法は、大きく分類すると以下の3種類が確立されています。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
コストアプローチ
コストアプローチとは、財務諸表をもとに企業価値を算出する方法です。コストアプローチの主な計算方法は、以下の2種類になります。
- 時価純資産法
- 簿価純資産法
時価純資産法
時価純資産法とは、時価での純資産額をもとに企業価値を算出する方法です。算出時は、財務諸表のうち貸借対照表を用いて計算し、対象会社の総資産額から負債の額を差し引いて求めます。
さらに、その額から現在までの減価償却費などを考慮し、時価として補正を行うのです。時価純資産法は時価で企業価値を求めるため、簿価純資産法よりも正確な企業価値を算出できるとされています。
簿価純資産法
簿価純資産法とは、年度末など財務諸表を作成したときの純資産の額で企業価値を算出する方法です。
簿価純資産法での計算においても、財務諸表のうち貸借対照表を用いて算出しますが、時価純資産法と違って、簿価での計算は企業の表面上の評価しかしていないことになります。
つまり、現実的な評価とは言い難いため、M&Aの現場においてはあまり使われることはありません。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来得られるであろう利益の額を考慮して企業価値を求める計算方法です。インカムアプローチには、以下の2種類の計算方法があります。
- DCF(Discounted Cash Flow=ディスカウントキャッシュフロー)法
- 配当還元法
DCF法
会社の利益から必要経費を差し引いた金額、つまりは企業が投資など自由に使える資金のことをフリーキャッシュフローといいます。
DCF法は、この先に得られると予想されるフリーキャッシュフローを現在価値に割り引き、合計して企業価値を算出するものです。M&Aでは、よく用いられています。
配当還元法
配当還元法は、株式の配当金をもとに企業価値を算出する計算方法です。基本的に業績と株式の配当金は連動しているため、配当金をもとに企業価値を算出できます。しかし、この計算方法は現在あまり使われていません。
特に、M&Aでの企業価値の算出の際には不向きとされています。株式の配当金額は取締役会で自由に決められるため、会社売却時を見越して配当金を増額し、一時的に企業価値を上げておくことが可能だからです。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、市場の取引価格をもとに企業価値を算出する方法です。特に、上場していない中小企業の企業価値算出方法としてよく使われています。
マーケットアプローチの主なものとしては、以下の2種類です。
- 類似企業比較法
- 類似取引比較法
類似企業比較法
類似企業比較法とは、会社の規模が似ており、かつ同業種である上場企業の株価などの企業価値を参考にして計算する方法です。
他企業数社の企業価値を参考にできれば、より客観的な企業価値を算出できます。ただし、条件が合致する企業が見つかるかどうかわからず、見つからない場合は算定不能ということが欠点です。
類似取引比較法
類似取引比較法は、会社の規模が似ており、かつ同業種である企業の取引の際の情報を参考に計算する方法です。ここでいう取引とは、会社売却などのM&Aの際の金額のことをいいます。
この方法では企業価値そのものを求めることはできませんが、株式交換比率を求めるために必要な数値情報をすぐに求めることが可能です。
ただし、類似取引比較法の場合も類似企業比較法と同じ欠点があります。
プレミアムの支払いについて
プレミアムの支払いとは、株式交換をする際に比率などの影響で不利になるときに支払われる対価(現金)のことをいいます。株式交換比率は、原則として両社の株価をもとに決めるものです。
しかし、株式交換後の株主構成の調整など完全親会社側の戦略により、株式交換比率を低下させるケースもあり得ます。その場合、完全子会社側の株主の出資額(株式の資産)は減少することになるでしょう。
これに対してプレミアムなど何の補填もないと、完全親会社と完全子会社の旧株主間でトラブルになるかもしれません。それを避けるため、株主が不利になると考えられる場合は、プレミアム支払いが行われます。
4. 株式交換比率の具体例をご紹介
この項では、実際に行われた株式交換比率の具体事例を10件紹介します。
フォーバルとカエルネットワークス
1つ目の事例は、情報通信コンサルティング事業などを行う東京のフォーバルが発表した、株式交換による連結子会社の完全子会社化です。
2020(令和2)年6月、フォーバルは、連結子会社で情報通信システムのネットワーク設計事業などを行う東京のカエルネットワークスに対して、簡易株式交換による完全子会社化実施を発表しました。
フォーバルは、すでにカエルネットワークスの株式60%を所有していましたが、2020年7月1日に株式交換を実施し完全子会社化を終えています。株式交換比率は、フォーバル株900に対してカエルネットワークス株1という内容でした。
フォーバルとしては、より強いシナジー効果を発揮させるための選択としています。
出光興産と昭和シェル石油
2つ目の事例は、出光興産による昭和シェル石油の子会社化です。2018(平成30)年に両社の経営統合が発表され2019(令和元)年に株式交換が行われました。
この事例の株式交換比率は、昭和シェル石油の株式1株に対して、出光興産の株式0.41株の割り当てです。
また、この株式交換によるプレミアム支払いは行われていません。出光興産はもともと昭和シェル石油の株式を約31%保有していましたが、約6,000億円かけてさらに株式を買い増しています。
両社は石油エネルギー事業の企業ですが、この経営統合で環境問題を配慮した再生可能エネルギー事業に力を入れていく方針です。
ユニーとファミリーマート
3つ目の事例は、ファミリーマートによるユニーの子会社化です。2016(平成28)年に両社の経営統合が発表され、そのあと株式交換が行われました。
この事例の株式交換比率は、ユニーの株式1株に対してファミリーマートの株式0.138株を割り当てています。
この株式交換により、ユニー株保有者の議決権は大きく減少しましたが、プレミアム支払いは行われていません。
ユニーは小売り事業、ファミリーマートはコンビニ事業がメインですが、この経営統合は両社の強みから来るシナジー効果に期待して行われました。
ユニーとUCS
4つ目の事例は、ユニーによるクレジットカード会社のUCSの子会社化です。2018年に完全子会社化が発表され、そのあと株式交換が行われました。この事例は特殊なケースで、UCS株式を金銭対価として株式交換を行っています。
この株式交換では、UCSの株式1株に対して、1,830円の金銭が交付されました。ユニーはUCSを子会社化することで、クレジットカードを通した顧客の利便性を向上させようとしています。
パナソニックとパナホーム
5つ目の事例は、パナソニックによるパナホームの子会社化です。2016年に子会社化が発表され、2017(平成29)年に株式交換が行われました。この事例の株式交換比率は、パナホームの株式1株に対して、パナソニックの株式0.8株を割り当てています。
この株式交換によるプレミアム支払いは行われていません。なお、この事例で、パナソニックは完全子会社化を目指していましたが、パナホームの株式を約80%しか取得できず、完全子会社化とはなりませんでした。
両社はもともとパナソニックグループでしたが、この子会社化で経営のコスト削減、効率化、販路拡大などを目指しています。
KADOKAWAとドワンゴ
6つ目の事例は、2014(平成26)年のKADOKAWAとドワンゴの経営統合です。この事例では、統合持株会社が新設され、その会社と株式交換を行いました。
株式交換比率は、KADOKAWAの株式1.168株とドワンゴの株式1株に対して、統合持株会社の株式1株が割り当てられています。
この株式交換によるプレミアム支払いは行われていません。両社事業のシナジー効果や統合持株会社体制による経営の機動化・効率化を目的に経営統合が行われました。
セブン&アイ・ホールディングスとニッセン
7つ目の事例は、2016年のセブン&アイ・ホールディングスの完全子会社であるセブン&アイ・ネットメディアによるニッセンの子会社化です。
この事例では、セブン&アイ・ネットメディアの親会社であるセブン&アイ・ホールディングスの株式と株式交換を行いました。
株式交換比率は、ニッセンの株式1株に対してセブン&アイ・ホールディングスの株式0.015株を割り当てています。この株式交換によるプレミアム支払いは行われていません。
ニッセンは赤字経営が続いていたのですが、セブン&アイ・ホールディングスとしては子会社化によって抜本的な経営改革を行ってテコ入れすることで、有力なグループ企業になるとしています。
アルプス電気とアルパイン
8つ目の事例は、2019年のアルプス電気とアルパインの経営統合です。この事例での株式交換比率は、アルパインの株式1株に対してアルプス電気の株式0.68株を割り当てます。この株式交換によるプレミアム支払いは行われていません。
両社は電気機器系を製造するメーカーですが、車機器系の商品開発に注力するうえでのシナジー効果を得るための経営統合としています。
太陽誘電とエルナー
9つ目の事例は、2019年の太陽誘電による連結子会社エルナーの完全子会社化です。この事例での株式交換比率は、エルナーの株式1株に対して太陽誘電の株式0.025株を割り当てています。この株式交換によるプレミアム支払いは行われていません。
太陽誘電とエルナーは完全子会社化以前から連結子会社として、シナジー効果を得ていました。しかし、エルナーはプリント回路事業の経営不振、債務超過など苦しい経営状態でした。
そこで太陽誘電は、引き続きシナジー効果を得るためにエルナーを救済する形で完全子会社化したのです。
日本無線株式会社と長野日本無線株式会社
最後に紹介する事例は、2016年の日本無線による長野日本無線の完全子会社化です。この事例での株式交換比率は、長野日本無線の株式1株に対して日本無線の株式0.698株を割り当てています。この株式交換によるプレミアム支払いは行われていません。
両社はともに通信機器関連の製造メーカーです。この完全子会社化で強いシナジー効果を得ることが目的とされています。
5. 株式交換比率公開後の注意点
株式交換比率が公開された後、株主が注意するべき点について掲示します。
経営者自身が、自社の大株主であることが多い中小企業で株式交換を行う場合は、以下のことに十分注意しましょう。
- 株価が変動する可能性
- 単元未満株式になる可能性
株価が変動する可能性
株式交換比率が公表された後、株価が変動する可能性は十分にあります。そのような株価変動により損をする可能性があるので注意が必要です。
基本的には、株式交換比率は直近の株価を参考にして決められます。しかし、株式交換比率公開後、多くの短期投資家のマネーゲームの影響で、株価が大きく変動することがあります。
それが実際に起こった例が、2011(平成23)年のアドバネクスによるストロベリーコーポレーションの完全子会社化でした。この事例では、株式交換比率公開後、アドバネクスの株価は一気に高騰しています。
この株価のままで株式交換が実行されると、ストロベリーコーポレーションの株主は大損することになり、場合によっては株式交換比率の見直しが必要なのではという意見も出たほどでした。
しかし、最終的には株価は元の水準に戻り、問題なく株式交換が行われています。株式交換比率公開後の株価変動で大損する例は稀ですが、注意をしておくほうがいいでしょう。
単元未満株式になる可能性
もう1つ注意しておくべきことは株式交換後、単元未満株式になる可能性があることです。単元株式とは株式を100株単位や1,000株単位で取引することで、取引時の効率化を目的として導入されています。
しかし、株式交換を行う場合、単位に満たない株式が発生する場合があり、このような株式が単位未満株式です。そして、単位未満株式には、株主総会での議決権を与えられません。
また、単元未満株式になると株式として保有できないため、株式交換実行時に株式の買い取りを請求するか、単元株式になるまで株式を買い増す必要があります。
6. 株式交換によるM&Aの相談先
株式交換を行う際には、そのメリットを考慮して検討しますが、それ以外にも、企業価値からの株価の算出や、株式交換後の株価変動の可能性なども考えておかねばなりません。
なかでも、企業価値から株価を算出する際の計算には専門知識が必要となるため、M&A仲介会社などのサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。
M&A総合研究所では、株式交換によるM&Aの実績・経験が豊富なM&Aアドバイザーが、一括サポートをいたします。
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7. まとめ
完全子会社化する際の株式交換は、手続きが簡便であるなど企業にとってメリットがあるため、よく用いられます。しかし、株式交換は当時株主にも大きな影響を与えるものです。
自身が経営者として、もしくは株主として株式交換に関わるときには、その交換比率に十分注意しましょう。
株式交換で注意すべき要点は、以下のとおりです。
- 株式交換比率の決め方や計算方法:株式交換比率は原則的に直近の株価をもとに決める
- 株式交換比率を求めるための企業価値の計算方法:企業価値を計算する方法には大きく3種類あるが、それぞれの方法を用いて複合的に最適な比率を決定する
そして、株式交換比率を決めるための企業価値算出には専門知識が必要となるので、専門家のアドバイスのもと進めていくのがいいでしょう。
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