2023年04月26日更新
株式交換で自己株式を消却する理由は?仕訳・会計処理などの税務も詳しく解説!
本記事では、自己株式を消却する理由、仕訳・会計処理などの税務などを解説します。株式交換とは、会社間に親子関係を成立させるM&A手法です。株式交換では自己株式を消却するケースが多くあります。株式交換を検討している方は必見です。
目次
1. 株式交換と自己株式
株式交換とは、組織再編のためのM&A手法の1つです。株式交換に伴う会計処理では、自己株式を消却する場合があります。
株式交換を行った際に生じる仕訳・会計処理や自己株式を消却する理由などを取り上げる前に、まず株式交換と自己株式とはどのようなものなのか、その概要を解説します。
株式交換とは
株式交換とは、M&A手法の1つで、子会社となる会社が親会社となる会社にすべての株式を取得させることで完全親子関係を成す組織再編行為のことです。合併とは異なり、子会社となる会社も会社として存続するため、企業一本化に伴う負担がない点に特徴があります。現金を使用しないことや、取引を行うにあたって少数株主の同意を必要としない点なども大きな特徴です。
ただし、親会社となる会社が上場している場合、株式交換により1株あたりの利益が減少することになるため、株価下落リスクは免れません。親会社の株主構成が変化する点にも注意が必要です。
自己株式とは
自己株式とは、自社で発行し、発行後にその会社自身が取得し所有している株式のことです。「金庫株」と呼ばれることもあります。
もともと商法では自己株式の取得が禁止されていましたが、2001(平成13)年の商法改正により規制緩和され、自己株式の取得が可能になりました。
株式移転と株式交換の違いについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
自己株式の消却とは
自己株式の消却とは、株主より取得し保有している自己株式を消滅させる行為のことです。「処分」と名称が類似しており比較されることが多いものの、自己株式の処分は新株発行と同様の性質を持っており、保有している自己株式を外部に放出し金銭の払込みを受ける行為をさします。その一方で、自己株式の消却は、外部に放出することなく会社の内部で消滅させる行為です。
上記のほか、自己株式の処分では、増資と同様に、処分する価額次第では1株あたりの持分希薄化が発生するリスクが伴います。これに対して、自己株式の消却にはこうした懸念は不要で、発行済株式総数を適正化する側面で既存株主の不安を払拭しやすい点にも特徴が見られます。
株式交換の際に自己株式は誰が消却するのか?
株式交換を行った際、子会社の自己株式は子会社が消滅するのが通常です。そもそも株式交換を行うのは、親会社と子会社の株主です。
子会社が自己株式を保有していた場合、当然ながら、その保有している株式も株式交換の対象に含まれます。したがって、子会社ではその保有する自己株式に関する実務処理が必要です。
自己株式を消却する場合、事前に親会社と子会社の間で、子会社が保有する株式を消却することに関して合意を結び、株式交換契約書に株式を消却する旨の条項を盛り込みます。その後、自己株式消却の当事者となるのは子会社です。
2. 株式交換で自己株式を消却する理由
前項では、株式交換を行った際に自己株式の消却を行う旨を解説しました。それでは、自己株式の消却はどのような理由により行うのでしょうか。この項では、その理由を以下の4つの観点から解説します。
- 会社法
- 会計
- 税務
- 実務
会社法による観点
子会社が自己株式を消却する場合の株式交換に関して、会社法による観点から消却の必要性を解説します。
親会社の株式保有は原則として禁止されている
会社法の定めにより、子会社となる会社が親会社の株式を所有することは原則禁止されています。
子会社は親会社に全株式を保有されることで支配関係を築いているため、取得を許可してしまうと会社財産流出などさまざまな弊害が発生するおそれがあるためです。
買取請求による自己株式が増加する
買取請求とは、株式などの投資信託の保有者が販売会社に買取をしてもらう方法です。
株主は買取請求権をいつでも行使できるわけではありませんが、合併・会社分割・事業譲渡・株式交換・株式移転など組織再編の際は反対株主株式買取請求権を行使できます。
株式交換に反対する子会社株主から買取請求を行われた場合、子会社は請求が行われた株式を取得しなければならないため、結果的に自己株式を増やします。
会社法上の自己株式消却とは
会社法の定めにより、原則として子会社が親会社株式を所有することは禁止行為です。しかし、株式交換では、子会社が所有する自己株式に対して何の対処も行わない場合、自動的に取得の対価として親会社株式が割り当てられます。
株式交換により自己株式の対価として親会社株式を交付された場合、相当期間中に処分しなければなりません。
会計による観点
子会社が自己株式を消却する場合の株式交換に関して、会計による観点から概要と親会社・子会社それぞれの仕訳・会計処理などを解説します。
親会社による会計処理
親会社は、取得した子会社株式を仕訳・計上します。基本的に子会社が株式を消却する場合としない場合で、行う仕訳・会計処理に違いはありません。
しかし、最終的に親会社が取得する株式は、取引前に子会社が保有していた全株式から消却された株式を除いた数の株式となるため、その点に留意が必要です。
子会社による会計処理
子会社が自己株式を消却した場合は、消却手続きが終わった時点で仕訳・会計処理を行います。その際、子会社は消却分の資本剰余金を減額するのは必定です。
なお、子会社は親会社株式を取得した際、自己株式の簿価を親会社株式の簿価にはできないため、親会社株式は時価で計上します。つまり、会計処理上は通常のように簿価の引継ぎができない点は注意しておきましょう。
会計上の自己株式消却とは
企業売買に際して、子会社側が自己株式を消却する場合、基本的に仕訳・会計処理を行うのは子会社のみですが、株式取得の仕訳・会計処理は、個別財務諸表と連結財務諸表のそれぞれに必要です。
子会社が自己株式消却の処理を行ったことは連結財務諸表上に現れるため、親会社側もその認識が求められます。
税務による観点
子会社が自己株式を消却する場合の株式交換に関して、税務による観点から消却の必要性を解説します。
自己株式の簿価はゼロである
会計上は自己株式の簿価は純資産に計上されますが、税務上、自己株式は取得した時点で資本金などと相殺消去されます。会計の貸借対照表に記載されている自己株式の金額とは関係なく、税務上の簿価はゼロです。
税務上の自己株式消却とは
株式交換に際して、税務上、子会社は簿価ゼロの自己株式に対価として親会社株式を交付されると、簿価ゼロの親会社株式を取得する決まりです。子会社は親会社株式を保持し続けられないため、処分(第三者へ売却など)するとその全額は益金算入する仕組みです。
益金はすべて課税対象となるため、親会社株式を売却して得た金額すべてに課税がなされることになります。そのような状況にならないよう、子会社は事前に自己株式を消却する必要があるのです。
実務による観点
子会社が自己株式を消却する場合の株式交換に関して、実務による観点から解説します。
自己株式は一般的に消却される
株式交換で子会社は保有する自己株式を消却することが一般的です。
この主な理由は、親会社株式を割り当てられた場合、処分する実務上の手間がかかることや、最終的に処分しなければならない親会社株式をわざわざ発生させる必要性は薄いことなどです。
M&Aの株式交換の慣行を踏まえても、子会社が保有する自己株式は事前に消却する場合が多くなっています。
株式交換の法務手続きについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
3. 株式交換で仕訳・会計処理が必要な場合
株式交換は親会社と子会社の株主の取引のため、基本的に子会社では仕訳・会計処理の必要がありません。しかし、仕訳・会計処理が必要なケースもあります。
自己株式を消却する場合
自己株式を消却する場合、子会社は自己株式分を資本剰余金から減資します。親会社は子会社のすべての株式から子会社が所有する自己株式を差し引いた株式を取得し、資本金として計上する仕組みです。
非適格株式交換だった場合
株式交換が非適格株式交換であった場合、子会社側が株式を譲渡することで得た利益は課税対象となり、その資産は時価評価されます。子会社側にも税務処理と仕訳・会計処理が発生します。
株式交換の仕訳・会計処理については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
適格株式交換と非適格株式交換について
株式交換は一定の要件を満たすと適格とされ、その場合は子会社に課税は行われません。要件を満たさない場合は非適格です。この項では、適格株式交換と非適格株式交換の要件を解説します。
適格株式交換の要件
株式交換が適格とされる要件は、株式交換を行う会社間に支配関係があるかどうかで変わります。具体的には、以下の3パターンの分類です。
- 同一企業グループ内の企業間での株式交換(100%完全支配関係)
- 同一企業グループ内の企業間での株式交換(支配関係50%超~100%未満)
- 共同事業を行うための株式交換など
それぞれのパターンに応じて満たすべき要件は、以下の8つです。
- 金銭等不交付要件:対価として承継法人株式など以外の金銭などが交付されない
- 完全支配継続要件:株式交換後、完全親会社と完全子会社の支配関係が継続される
- 事業関連性要件:完全子会社と完全親会社の事業が関連するものである
- 事業規模要件:完全親会社と完全子会社の売上金額、従業員数などの事業規模が5倍を超えない
- 経営参画要件:完全子会社の特定役員が株式交換により退任することがない
- 従業員継続要件:完全子会社の従業員の約80%が株式交換後も業務に従事すること
- 事業継続要件:完全子会社の事業が株式交換後も完全子会社により継続される
- 継続保有要件:完全子会社の支配株主に交付される親会社株式がその後も継続して保有される
①同一企業グループ内の企業間での株式交換(100%完全支配関係)、②同一企業グループ内の企業間での株式交換(支配関係50%超~100%未満)、③共同事業を行うための株式交換などそれぞれの場合によって、必要とされる要件が変動します。
それぞれの場合、どの要件が必要になるかは下表のとおりです。
同一企業グループ内株式交換 (100%完全支配関係) |
同一企業グループ内株式交換 (支配関係50%超~100%未満) |
共同事業を行う ための株式交換など |
|
金銭等不交付要件 | ● | ● | ● |
完全支配継続要件 | ● | ● | ● |
事業関連性要件 | ● | ||
事業規模要件 | ● | ||
経営参画要件 | ● | ||
従業員継続要件 | ● | ● | |
事業継続要件 | ● | ● | |
継続保有要件 | ● |
非適格株式交換の要件
非適格株式交換の要件は、適格要件を満たさないことです。非適格株式交換の場合は子会社の資産が課税対象となるため、要件を満たし適格株式交換を目指す場合がほとんどです。
株式交換比率については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
4. 株式交換で子会社が自己株式を消却するための実務
株式交換で事前に子会社が自己株式を消却する場合、どのような手続きを踏めば良いのでしょうか。必要となるのは、主に以下の手続きです。
- 株式交換の契約書に、その効力が発生する直前に完全子会社となる会社の自己株式を消却する旨の条項を盛り込む
- 契約書の効力が発生するまでに子会社となる会社が取締役会を行い、契約書の効力が発生する直前に子会社が保有している自己株式を消却する決議を行う
- 自己株式消却の登記をする
消却する自己株式を「契約書の効力が発生する直前に子会社が保有している自己株式」としている理由は、株式交換に反対する株主から株式の買取請求があった場合を想定しているためです。
買取請求があった場合、子会社はその株式を取得せねばならず、自己株式が増加します。仮に契約書の作成時に所有していた自己株式の数を記載していた場合、買取請求によって増加した株式を消却できません。したがって、契約書で株式の数を定めることはしません。
株式交換契約書については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
5. 株式交換で自己株式を消却した際の仕訳・会計処理
株式交換で自己株式を消却した際、子会社は自己株式分を資本剰余金から減資するのが規定です。親会社は子会社のすべての株式から子会社が所有する自己株式を差し引いた株式を取得し、資本金として計上します。
株式交換の会計処理は非常に煩雑であるため、専門家のアドバイスを受けながら進めていくことをおすすめします。M&A総合研究所では、株式交換に精通したM&Aアドバイザーが手続き全般を一括サポートしています。
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6. 株式交換で自己株式を消却した際の税務処理
自己株式消却は対価を伴う取引ではないため、自己株式消却自体に税務処理は発生しません。しかし、株式交換における税務処理には、子会社が自己株式を消却したことを考慮する必要があります。
適格株式交換の場合
適格株式交換の場合、株式は簿価で評価されます。完全親会社が行う税務処理は株主数によって異なり、それぞれの株式の取得価額は以下のとおりです。
- 完全子会社の株主が50人以上の場合:株主が所有していた完全子会社株式の取引直前の簿価純資産価額に相当する額
- 完全子会社の株主が50人未満の場合:株主が所有していた完全子会社の株式の取引直前の帳簿価額に相当する額
なお、完全子会社には、特に税務処理は発生しません。
非適格株式交換の場合
非適格株式交換の場合、親会社が子会社の株式を取得する行為は株式の譲渡と考えられるため、株式は時価で評価されます。完全親会社は、時価評価した株式を資本金などに増額する仕組みです。
非適格株式交換の場合、完全子会社には損益への課税が行われるため、税務処理が必要です。完全子会社は、株式交換取引前に有していた時価評価資産の損益を取引を行った事業年度へ算入しなければなりません。
7. 株式交換で自己株式を消却する理由のまとめ
本記事では、株式交換で自己株式を消却する理由を中心にまとめました。株式交換における自己株式消却は細かいポイントですが、把握しているとM&Aをスムーズに進める助けになります。
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