2025年11月14日更新
株式交換の適格要件とは?税制優遇の条件一覧や最新の税制改正をわかりやすく解説
株式交換で税制優遇を受けるには、適格要件を満たす必要があります。本記事では、株式交換の適格要件について、支配関係ごとの具体的な条件や税務上のメリット、近年の税制改正まで網羅的に解説します。
目次
1. 株式交換における「適格要件」とは?
株式交換の適格要件とは、税制上の優遇措置が適用される「適格株式交換」と認められるための条件群を指します。この要件を満たすと、資産の譲渡はなかったものとみなされ、課税が将来に繰り延べられます。要件は複数あり、当事会社間の支配関係によって満たすべき内容が異なります。
適格要件を満たさなくても株式交換自体は行えますが、その場合は「非適格株式交換」となり、税制上の優遇が受けられなくなる点を覚悟せねばなりません。
株式交換とは、企業の株式を100%取得し完全子会社にするためのM&A手法の1つであり、上図はそのイメージ図です。
子会社の全株式を手に入れる対価として、親会社は自社の株式や現金などを子会社の株主に譲り渡します。株式交換での対価は基本的に株式であるため、現金を用意しなくても会社を買収できる点がメリットです。
適格要件と非適格要件とは
株式交換では、適格要件以外に非適格要件と呼ばれる用語が出てきます。それでは、適格要件と非適格要件は何が違うのでしょうか。
非適格株式交換とは、適格要件を満たさない株式交換の総称です。つまり「非適格要件」という個別の要件が存在するわけではなく、適格要件のいずれかを満たさなかった場合に、非適格株式交換として扱われます。
2. 適格・非適格でどう違う?税務処理の基本的な考え方
株式交換は適格要件を満たしているかどうかによって税務処理が異なり、適格要件を満たしている方が税制上優遇されるのは前述のとおりです。適格株式交換と非適格株式交換では、親会社や子会社だけでなく子会社の株主の税金も変動する場合があります。
株式交換を行うときは、適格要件と非適格要件の税務処理の違いを理解しておくことが重要です。
| 条件 | 適格要件 | 非適格要件 |
| 課税 | 課税は発生せず | 譲渡損益が発生すると課税 |
| 資産の移転 | 帳簿価額で実施 | 時価で実施されると見なされる |
| 譲渡損益等の課税関係 | 繰り延べ | 即時に課税 |
| 税制上の優遇措置 | 適用可 | 不可 |
株式交換による買収・M&Aのやり方、メリットについては、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
3. 【関係性別】株式交換の適格要件となる具体的な条件
株式交換の適格要件の条件を簡単に説明すると、完全支配関係・支配関係・共同事業目的のそれぞれの場合に対して、下表の丸印の要件を満たさなくてはなりません。
適格要件には「完全支配関係の継続もしくは支配関係の継続」「株式以外の不交付」など7種類があります。完全支配関係の要件の数が最も少なく、次が支配関係、最も要件の数が多いのが共同事業目的です。
この章では、3種類の支配関係と7種類の適格要件を1つずつ詳しく解説します。
| 適格要件 | 完全支配関係 | 支配関係 | 共同事業目的 |
| 完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 株式以外の不交付 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 従業員の引き継ぎ | ー | 〇 | 〇 |
| 事業の継続 | ー | 〇 | 〇 |
| 事業の関連性 | ー | ー | 〇 |
| 株式の継続保有 | ー | ー | 〇 |
| 規模もしくは経営参画 | ー | ー | 〇 |
支配関係
株式交換の適格要件を理解するには、会社の「支配関係」を正しく知っておくことが重要です。支配関係は3種類あり、どれに属するかによって適格要件が変わります。
- 完全支配関係
- 支配関係
- 共同事業目的
完全支配関係である
完全支配関係とは、子会社の全株式を親会社が保有している関係のことです。完全支配関係は、株式を直接保有している場合だけでなく、間接的に保有している場合も含まれます。
間接的に保有するとは、例えば親会社「a社」とその子会社「b社」「c社」があって、c社の全株式をa社とb社で保有しているようなケースです。a社自身はc社の株式をすべて保有しているわけではありませんが、子会社b社と合わせれば100%の株式を所有しているので、事実上c社を完全に支配しているといえます。
支配関係である
株式交換の適格要件における支配関係とは、親会社が子会社の株式を50%超保有していることです。株式を50%超保有していると取締役を選任できるので、事実上、会社を支配できます。
共同事業目的の株式交換である
50%以下の株式しか保有していない会社同士でも、共同事業が目的の株式交換の場合は条件を満たせば適格株式交換を行うことが可能です。ただし、満たすべき条件は、完全支配関係や支配関係に比べて厳しいです。
適格要件
株式交換の適格要件には、以下の7種類があります。この節では、これら7つの要件を1つずつ詳しく解説します。
- 完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続
- 株式以外の不交付
- 従業員の引き継ぎ
- 事業の継続
- 事業の関連性
- 株式の継続保有
- 規模、もしくは経営参画
完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続
株式交換前に存在していた完全支配関係もしくは支配関係が、株式交換後も継続することを意味します。この要件は、完全支配関係・支配関係・共同事業目的、すべての場合で満たさなくてはなりません。
株式以外の不交付
これは、完全子会社の株主へ交付する対価に関する要件で、原則として完全親会社の株式以外を交付しないことが求められます。
ただし、完全親子会社(100%グループ)間の株式交換や、全部取得条項付種類株式を活用したスクイーズアウトなど、特定のケースでは金銭の交付が認められる場合があります。
また、親会社のさらに親会社の株式を交付する「三角株式交換」も、一定の条件下で適格要件を満たすことが可能です。
従業員の引き継ぎ
従業員の引き継ぎは、支配関係・共同事業目的の株式交換での適格要件の1つです。完全支配関係ではない子会社が株式交換で完全子会社となると、それをよしとしない従業員が辞めてしまうことがあります。
しかし、適格要件を満たすためには、大部分の従業員が引き続き会社に残ってくれることが必要です。
もちろん、従業員の何割が会社に残るかは正確に把握できない部分もあります。目安として従業員の80%以上が引き続き子会社で働く見込みである場合、適格要件を満たすと定められています。
事業の継続
完全子会社となる会社の主要な事業が、株式交換後も継続されることを意味します。この要件は支配関係・共同事業目的の株式交換に課せられるもので、もともと完全支配関係にある場合は該当しません。
事業の関連性
親会社と子会社の主要な事業が、お互い関連性を持っている必要があります。事業が複数ある場合は、そのうちの1つが関連性を持っていれば十分です。
例えば、製造と販売といったように業態が異なっていても、同じ製品を扱っているなら関連性があるとみなされます。この要件は共同事業目的の株式交換にのみ課せられ、完全支配関係・支配関係の場合には課せられません。
株式の継続保有
共同事業を目的とする株式交換の場合に課される要件で、交付された完全親会社の株式を、完全子会社の株主が継続して保有することが見込まれる必要があります。
税制改正により要件は緩和されており、現在では支配株主(議決権の50%超を保有)によって交付株式のすべてが継続保有される見込みであれば、他の少数株主が株式を売却する意向でも要件を満たすとされています。
規模、もしくは経営参画
共同事業目的の場合のみ、規模や経営参画に関する適格要件が課せられます。この要件は具体的にいうと、親会社と子会社の規模が5倍を超えないこと、子会社の役員が株式交換後も退任せずに残ることです。
子会社の役員が1人でも残っていれば、その他の役員が全員退任したとしても要件を満たします。
この要件は、いずれか1つが満たされていればよく、双方を満たす必要はありません(選択要件と呼ばれています)。規模が5倍以上違う企業でも、経営参画があれば適格要件を満たすとみなされます。
M&Aの税務については、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
4. 適格株式交換における税務上の取扱い
適格要件を満たした株式交換では、親会社、子会社、そして子会社の株主のそれぞれに税務上のメリットがあります。ここでは、それぞれの立場でどのような税制優遇が受けられるのかを解説します。
完全子会社株主の税務処理
適格株式交換の場合、完全子会社の株主は、保有していた完全子会社の株式を完全親会社の株式に交換しますが、この譲渡による損益は認識されません。つまり、株式の売却益(みなし配当を含む)に対する課税が、将来その株式を売却する時点まで繰り延べられます。
完全子会社の税務処理
適格株式交換では、完全子会社が保有する資産の時価評価は行われず、簿価のまま引き継がれます。そのため、含み益のある資産を保有していても、譲渡損益が発生せず課税されることはありません。また、繰越欠損金も一定の条件下で引き継がれます。
完全親会社の税務処理
完全親会社は、完全子会社の株式を簿価で取得したものとして扱います。子会社の純資産を簿価で引き継ぐため、時価評価による課税は発生しません。これにより、M&Aの実行コストを税務面で抑えることができます。
5. 近年の税制改正による株式交換の適格要件の変更点
株式交換の適格要件は、これまで複数回の税制改正を経て、より実態に即した柔軟な制度へと見直されてきました。特に2017年度(平成29年度)や2019年度(令和元年度)の改正は、実務に大きな影響を与えています。
本章では、近年の主要な改正内容を解説します。なお、2024年現在、これらの要件を直接覆すような大きな改正はありませんが、組織再編税制は常に最新の情報を確認することが重要です。
平成28年度の税制改正
平成28年度の税制改正で、特定役員の継続要件と子会社の株式の所得価額に関するルールが変更されました。
共同事業目的の適格要件が満たしやすくなり、事務処理も簡略化されました。以下では、この2つの改正点を解説します。
- 特定役員の継続要件に関する改正
- 株主が50人を超える完全子会社の株式取得価額に関する改正
特定役員の継続要件に関する改正
特定役員の継続要件に関して、改正前は子会社の役員が全員残らなければならなかったのが、改正後は1人でも残っていればよいことになり、共同事業目的の適格要件の内容が大幅に緩和されました。
改正前は子会社の役員が1人でも辞めてしまうと適格要件を満たさなくなるため、共同事業目的の適格株式交換を実施するには慎重を期す必要がありましたが、この改正により共同事業目的の株式交換の実施性が向上しました。
株主が50人を超える完全子会社の株式取得価額に関する改正
適格株式交換では、株主が50人以上いる子会社の株式の所得価額を算定する場合、簿価純資産価額を基準にします。改正前は株式交換直前の簿価純資産価額を使用しなければなりませんでしたが、改正後は前期末期の簿価純資産価額を使用できるようになりました。
株式交換直前の簿価純資産価額を改めて算出する手間が省け、事務手続きが簡略化されました。ただし、この改正は子会社の株主が50人以上いる場合にのみ適用される限定的な規定である点に注意しましょう。
平成29年度の税制改正
平成29年度の税制改正では、いわゆる「スクイーズアウト」に関する税制の整備が行われています。スクイーズアウトとは、少数株主の保有株式を強制的に買い取って排除するM&A手法です。
- 少数株主の株式取得に関する改正
少数株主の株式取得に関する改正
改正前は、親会社が子会社に交付するのは親会社の株式でなければなりませんでした。しかし、平成29年の税制改正では株式だけでなく金銭の交付も認められています。ただし、親会社が子会社の株式を3分の2以上保有している場合に限られます。
この改正で、スクイーズアウトの手法である株式交換・全部取得条項付種類株式・株式併合・株式等売渡請求の税制が統一されました。
改正前は株式交換によるスクイーズアウトは税制面で損を被るために、全部取得条項付種類株式や株式併合が主に使われていましたが、今後は株式交換によるスクイーズアウトも増える可能性があります。
スクイーズアウトにおける税制改正や課税関係については、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
2019年度(平成31年/令和元年)の税制改正
2019年度の税制改正では、適格要件の一つである「支配関係の継続」の判定が柔軟化されました。これは、株式交換の後に、規模の小さい子会社を存続会社とする「逆さ合併」が予定されているケースに関する改正です。
改正により、このようなケースでも合併の直前まで支配関係が継続していれば、関係継続要件を満たすと判断されることになりました。これにより、従来は非適格と判断されるリスクがあった柔軟な組織再編スキームが、税制上有利な形で実行しやすくなりました。
6. 株式交換の適格要件税務処理
株式交換で課税対象となり得るのは、親会社・子会社・子会社の株主です。株式交換では親会社の株主は何も変化がないので、課税されることはありません。
この章では、適格要件・非適格要件それぞれの場合での親会社・子会社・子会社の株主の税務処理を解説します。
株式交換の適格要件における税務処理
まずは、株式交換の適格要件における税務処理を解説します。
完全親会社
株式交換の適格要件で、完全親会社に税金はかかりません。しかし、完全子会社の株主数が50人以上か50人未満かによって、取得した株式の取得価額が変わります。
取得価額によって資本金の増加額が変動するため、額を正しく算定しておくことが必要です。以下、完全子会社の株主数が50人未満の場合と50人以上の場合について、それぞれ取得価額の算定方法を解説します。
【株式交換前の完全子会社の株主数が50人未満の場合の取得価額算定】
株主数が50人未満の場合は、株式交換をする直前での各株主が持っている株式の帳簿価額を合計し、それに必要経費を加えたものを取得価額とします。
株式の帳簿価額は多くの場合、直近の決算時の株価です。決算から時間がたって株価が変わっても、帳簿に記載されている帳簿価額を使用します。
【株式交換前の完全子会社の株主数が50人以上の場合の取得価額算定】
株主数が50人以上の場合、前期末の簿価純資産価額に必要経費を加えたものが取得価額です。以前は株式交換直前の簿価純資産価額を使用していましたが、平成28年度の税制改正で前期末期の簿価純資産価額を使用するようになりました。
簿価純資産価額とは、貸借対照表に記載されている資産から負債を引いた額です。時価を使わないため正確さに欠けますが、手続きが簡単でわかりやすいメリットがあります。
完全子会社
完全子会社は株式交換をしても株主が変わるだけなので、それに対する税金は課されません。
完全子会社の株主
適格要件を満たす株式交換では、完全子会社の株主に税金は課されません。
株式交換の非適格要件における税務処理
続いて、株式交換の非適格要件の税務処理を解説します。
完全親会社
非適格要件の場合も適格要件の場合と同じく、完全親会社に税金はかかりません。ただし、取得した完全子会社の株式取得価額の算定方法は、適格要件の場合とは異なり時価を使用します。
| 算定方法 | |
| 適格要件 | 帳簿価額・簿価純資産価額 |
| 非適格要件 | 時価 |
適格要件の場合と違って、非適格要件では完全子会社の株主数による取得価額の変化はありません。株主数が50人未満でも、50人以上の時と同じく時価で取得価額を算定します。
完全子会社
非適格要件の株式交換では、完全子会社は時価評価損益に対して課税されます。時価評価の対象となる資産には、以下の5つがあります。
- 固定資産
- 土地(土地の上に存する権利を含む)
- 有価証券
- 金銭債権
- 繰延資産
時価評価資産の対象とならない資産は以下の3つです。そのほかにも、条件によっては含み損のある子会社株式が除外されることもあります。
- 売買目的の有価証券
- 含み損益が1,000万円以下の資産
- 帳簿価額が1,000万円以下の資産
完全子会社の株主
非適格要件の株式交換で、交付されるものが完全親会社の株式のみの場合は、完全子会社の株主に税金はかかりません。金銭を含む場合は、親会社から交付される対価と親会社に渡した子会社株式の時価との差額が利益とみなされます。
その利益に対して、株主が個人の場合は所得税、法人の場合は法人税が課される仕組みです。個人の場合、株式に課される所得税は総合課税にもできますが、基本的には分離課税となり、税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて20.315%です。復興特別所得税(所得税額の2.1%)は、2037(令和19)年までの時限措置とされています。
法人の場合は株式交換で得た譲渡益を他の事業所得と損益通算し、トータルの所得に対して法人税が課されます。株式交換で譲渡益が出ても、他の事業が赤字で相殺される場合は、法人税がかかりません。
法人税の税率は、法人税・地方法人税・住民税・事業税・復興特別所得税を合わせて約37%です。非適格株式交換で完全子会社の株主にかかる税金を下表にまとめました。
| 親会社から交付される対価 | かかる税金 |
| 株式のみ | なし |
| 金銭を含む | 所得税・法人税 |
株式交換の仕訳・会計処理については、下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
7. 株式交換の適格要件に関する相談先
株式交換の税務は非常に複雑なので、実施するときは専門家のサポートが必要です。株式交換の実施をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。中小企業のM&Aを数多く手がけているM&A総合研究所では、株式交換の経験豊富なM&Aアドバイザーが専任につき丁寧にサポートします。
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8. 株式交換の適格要件のまとめ
株式交換の税務は非常に複雑で税制も頻繁に改正されているので、会計士や税理士など専門家のサポートを受けつつ慎重に実施する必要があります。
税制の整備により、今後は株式交換によるM&Aが増加する見込みです。企業再編を考えている経営者の方は、株式交換を有力なM&A手法の1つとして認識し、内容を熟知しておきましょう。
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