2023年01月27日更新
株式交換で資本金や資本準備金は増加する?減少する?純資産の会計処理も解説!
株式交換の目的は会社間での完全親子関係構築であり、実行後は資本金・資本準備金が増加するか増加しないのか明確にしておかなければなりません。この記事では、株式交換で資本金・資本準備金が増加するか増加しないのか、純資産の会計処理なども解説します。
目次
1. 株式交換とは
株式交換とは、会社法に基づいたM&A手法の1つです。具体的には、完全な親子会社関係(100%子会社化)を形成する手法で、買収する親会社の株式と売却する子会社の株式を交換することで取引を行います。
株式交換では買収される会社の独立性が保たれるため、従業員の抵抗が少ないことが特徴です。株式交換の買収側企業としては、手続きが比較的簡便であるとともに買収資金を用意しなくてもよい点は大きなメリットといえます。
ただし、株式交換に伴う新株発行によって、親会社側の株主構成に変化が生じてしまうのはデメリットになり得ます。親会社が上場企業の場合、株式発行数の増加により1株あたりの利益が減少することになり、それが株価を下落させる要因の1つです。
2. 資本金・資本準備金とは
資本金・資本準備金とは、株式会社の設立および株式の発行をした場合に株主が支払った金額のことです。
資本金額は会社法に定められていますが、株主が支払った金額の2分の1までは資本金とせずに資本準備金にできます。例えば、株主の出資額が100である場合、50までは資本金にしないで資本準備金にすることが可能です。
資本金と資本準備金は貸借対照表上では明確に区分されますが、資本準備金は「資本剰余金」と呼ばれるカテゴリーに入っています。この資本剰余金に含まれている資本準備金以外の項目が、「その他資本剰余金」です。
「その他資本剰余金」とは、資本取引と呼ばれるもので発生した剰余金を表しています。資本取引を具体的にいうと、資本金の減資・増資、自社株式の処分や取得などのことです。
3. 株式交換後の資本金・資本準備金は増加する?減少する?
株式交換では、親会社となる企業が子会社となる企業の株主に対して新株を発行し、子会社株式を100%取得します。つまり、株式交換では株式を新規で発行しますから、資本金・資本準備金は増加することになり、増加しないことは理論上あり得ません。
株式交換における資本金・資本準備金の決定時期
株式交換後の資本金・資本準備金の増額は、株式交換契約書の中で資本金・資本準備金のいずれかの増加を決定することが可能です。
株式交換では株式交換契約書の締結が必須ですが、以下のような最低限の事項を定める必要があります。
- 完全親会社・完全子会社の住所・商号
- 株式交換の対価と割当に関する事項
- 株式交換の効力発生日
4. 会計と税務から見た株式交換の資本金・資本準備金の扱い
株式交換における資本金・資本準備金は増加すると解説しましたが、税金の観点では資本金・資本準備金の金額は別の扱いであるため、同額は「増加しない」と考える必要もあります。
会計から見た場合
まずは、会計から見た株式交換の資本金・資本準備金の扱いを解説します。
株式交換の会計処理のポイント
株式交換の会計処理は、企業結合に関する会計基準で定められています。会計基準に株式交換を当てはめたとき、「共通支配下の取引」と判断された場合と「取得」と判断された場合とでは会計処理が異なる決まりです。
株式交換の取得とは、新たな会社が経営支配権を獲得したと捉えます。一方、共通支配下の取引とは、株式交換を行ううえでの支配関係は変わりません。つまり、単に内部取引が行われたものとします。
個別財務諸表
100%グループ会社内で行う株式交換あるいは50%超100%未満の支配関係間での株式交換のケースを解説します。このような場合は「共通支配下の取引」と判断され、子会社の株式である簿価純資産額を親会社の株式で取得原価とします。
資本準備金は「簿価純資産額」から「株式交換契約書で決定した増加資本金額」を差し引いた金額で計上し、決算上は株式交換による当期損益への影響はありません。最終的には、株式等変動計算書と貸借対照表にのみ増加の発生額を記載します。
連結財務諸表
連結財務諸表上、株式交換の資金・資本準備金は「のれん」として計上します。この場合、「株式の取得原価」から「企業結合日の純資産の時価」を差し引く計算方法です。
連結決算上の収益または費用として「のれん償却」が発生するので、のれん相当額が当期決算の損益に影響します。
税務から見た場合
株式交換を財務から見た場合、「適格株式交換」の要件に該当するか否かで課税対象の関係性が異なります。まずは、株式交換の税務処理のポイントを解説します。
株式交換の税務処理のポイント
株式交換の税務処理では、株式交換差損が生じます。差損が生じるのは、親会社が子会社株主に交付する対価が純資産額を超える場合です。
株式交換差損がある場合は、原則として簡易株式交換を利用できません。税制適格の判定では、以下2つの類型に該当するかで判定されます。
- 100%グループ内における適格株式交換
- 50%超100%未満のグループ会社の適格株式交換
適格株式交換要件
適格株式交換で求められる要件は、以下のとおりです。それぞれのケースごとに「〇」の要件をすべて満たしている必要があります。
100%グループ会社 | 50%超え100%未満 | |
金銭等不交付要件 | 〇 | 〇 |
従業者引継要件 | 〇 | 〇 |
継続保有要件 | - | 〇 |
事業継続要件 | - | 〇 |
金銭等不交付要件とは、子会社株主への対価が金銭ではなく株式交付で実施されることです。
従業者引継要件に該当するのは、完全子会社となる会社で、株式交換前の従業者が株式交換後に完全子会社への業務に従事する見込みがある場合です。従業者は、その約80%以上の人数でなければなりません。
継続保有要件は、株式交換後で親子会社との間で100%の支配関係が継続する見込みがある場合を意味します。事業継続要件とは、株式交換後・完全子会社となった企業の事業が以前同様に継続される見込みであることです。
非適格株式交換要件
適格株式要件を満たしていない場合、「非適格株式交換」に分類されます。適格株式交換の場合は、親会社が取得した子会社株式は簿価ともなされるため、実質的に課税が免除されます。
しかし、非適格株式交換の場合は、取得価額が時価となり所得とみなされるため課税が発生する仕組みです。
5. 株式交換後の純資産の会計処理
株式交換後の純資産の会計処理では、発行済株式の扱い方によって親会社と子会社で方法が異なります。
親会社の会計処理
親会社の会計処理では、企業の組織再編における「取得」「持分の結合」「共通支配下による取引」「共同支配企業の形成」と、それぞれの分類で適用される会計処理が決まります。
組織再編で「取得」と判断された場合の会計処理は、「パーチェス法」です。「持分の結合」と判定された場合は「持分プーリング法」で会計処理を行い、当事会社の資産・負債・資本の帳簿価額を引き継ぎます。
親子会社などの企業グループにおける企業再編では、「少数株主との取引」と「共通支配下の取引」の2つで分別して会計処理を行わなければなりません。
最後に「共同支配企業の形成」と判定された場合(複数の会社が株式交換契約に基づいて、共同で支配する会社を形成)は、「持分プーリング法」によって会計処理を行います。
子会社の会計処理
子会社の株式交換では、子会社が完全親会社となる会社に発行済株式をすべて取得させ、完全親会社の株式やその他資産を完全子会社になる企業の株主に対価として交付します。
株式交換の対価による交付は完全子会社の株主が「取得」したことになるので、完全子会社が資本金・資本準備金の会計処理を行う必要はありません。
完全子会社で会計処理を要する場合は、以下のとおりです。
- 発行していた新株予約権の消滅
- 新株予約権付社債の消滅
- 自己株式に交換対価を割り当てられた場合
6. 株式交換後の純資産の税務処理
株式交換後、純資産の税務処理では、株式の「譲受」あるいは「譲渡」で方法が異なります。この項では、親会社が子会社の株式を「譲受」するのみということに焦点を当てて解説します。
親会社の税務処理
親会社の株式交換では、子会社の株式を譲受するのみであり、課税が生じるわけではありません。ただし、適格株式交換か否かで「取得価額」は異なることから、子会社の株主数が税務処理に影響します。
子会社の株主が50人未満の場合
適格株式交換の要件に該当し、子会社の株主が50人未満の場合は、子会社の受入価格が簿価純資産になります。
ここでいう簿価純資産とは、「子会社の申告前における資本金・資本準備金から申告後における資本金・資本準備金の増減額を算出した額の見込み」のことです。
子会社の株主が50人以上の場合
適格株式交換で、子会社の株主が50人以上の場合は、子会社と当該株主の帳簿価額の合計となります。一方、非適格株式交換では、子会社の受入価格が取得価額として交付される財産の時価で会計処理です。
子会社の税務処理
子会社による株式交換は、基本的に「株式譲渡」として扱われます。ただし、株式交換の対価の種類によっては、みなし額と譲渡価格の取り扱いが異なる点に注意が必要です。
株式交換の対価が株式である場合、子会社の株式を帳簿価額によって譲渡したとみなされることから譲渡による損益は生じません。
一方、対価として株式ではなく現金などの資産が交付される場合、子会社が時価で譲渡したものだとみなされるため、譲渡による損益を計上します。
7. 株式交換後の減資と実施方法
通常は株式交換のように株式の発行によって、「増資」により会社の資本金を多くする手続きが頻繁に行われています。
しかし、株式交換では増資分に相対する「減資」を行い、会社の資本金を減少させる方法が取られることも少なくありません。例えば、会社の資本金1,000万円だった会社が資本金500万円となった場合は、500万円を減資したことになります。
減資には2種類があります。資本余剰金とすることによって配当が行える「有償減資」、株主を対象にして損失補填や会社再生などを目的に行う「無償減資」です。
減資手続きによりその他資本剰余金への振替
株式交換で資本金・資本準備金の額が低い状態でありながら、決算上では「資本金+資本準備金」だけが高くなる場合があります。その場合に行うのが有償減資であり、その他資本余剰金へ資本準備金の額を振替える決まりです。
しかし、資本余剰金の振替は会社財産の払い戻しになるので、会社債権者にとっては重大な損失を伴う可能性があることに注意しなければなりません。減資と同時に資本余剰金を配当しない無償減資では、将来、資本余剰金の配当可能額が増加します。
減資を行う目的によって、会社法が要求する決議は別のものです。減資した金額は将来の資本余剰金に充てられますが、資本余剰金の配当には最低でも純資産が300万円必要とされます。
減資の目的における決議要件は以下のとおりです。
減資の目的 | 決議要件 |
減資と同時に資本余剰金の配当 | 株主総会の特別決議が必要 |
欠損目的 | 株主総会の普通決議が必要 |
新株発行と同時に減資を行う | 取締役、取締役会決議 |
減資の実施方法
減資の実施では、株主総会で会社法で規定する事項をもとに決定します。会社法で規定している事項は以下のとおりです。
- 減資する資本金の額
- 減資によって資本金・資本準備金を資本余剰金に振替する額
- 減資の効力日
株主総会の決議は、「特別決議」を行うことが必要です。しかし、一定の場合には「普通決議」でよいこともあり、詳細は会社法に定めがあります。一般的な減資の流れは以下のとおりです。
- 取締役・取締役会による減資の決定
- 株主総会の招集通知(株主全員の同意の場合は省略)
- 株主総会の特別決議または普通決議
- 債権者保護の手続き
- 減資の効力発生日
- 変更登記
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8. 株式交換における資本金・資本準備金の増減まとめ
本記事では、株式交換における資本金・資本準備金は会計、税務処理によっては増加しないと解説しました。会計と税務処理は考え方が異なるため、理解しておく必要があります。
株式交換は資本金・資本準備金が増加することから、会計処理と税務処理が異なります。正確な処理を心がけるためには会計・税務の理解が必要不可欠です。
「資本金+資本準備金」のみが高い場合は資本余剰金へ資本準備金の額を振替できますが、資本余剰金の振替によって債権者への重大な損失が伴う可能性に気を付けておく必要があります。
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