2025年07月16日更新
株式交換とは?資本金・純資産の変動を会計・税務の視点からわかりやすく解説
株式交換を行う際、資本金や純資産の扱いに迷う方は多いでしょう。本記事では、株式交換の基本から、資本金・資本準備金が増加する仕組み、会計・税務上の具体的な処理方法までを専門家がわかりやすく解説します。
目次
1. 株式交換の基本と仕組み
株式交換とは、会社を完全子会社化するための組織再編行為の一つです。完全親会社となる会社が、完全子会社となる会社の全株式を、自社の株式などを対価として取得します。
買収対象会社の法人格は維持されるため、独立性を保ちながらグループ化できる点が特徴です。また、買収対価として自社株式を用いるため、多額の買収資金を準備する必要がない点は大きなメリットといえます。
一方で、親会社が新株を発行するため、既存株主の持株比率が低下し、1株あたりの利益が希薄化する可能性があります。これにより株価に影響を与える場合がある点はデメリットです。
2. 資本金と資本準備金の基礎知識
資本金とは、株主が会社に出資した金額のうち、会社法に基づき資本金として計上された金額を指します。会社の財産的な基礎となるものです。
資本準備金は、株主からの出資額のうち資本金に組み入れなかった額を指し、会社法第445条により、出資額の2分の1を超えない額を計上できます。
貸借対照表の純資産の部では、資本準備金は「資本剰余金」に分類されます。資本剰余金は、この資本準備金と、資本取引(自己株式の処分や減資など)で生じた「その他資本剰余金」から構成されています。
3. 株式交換で資本金・資本準備金は増加するのか?
株式交換では、完全親会社が完全子会社の株主に対価として新株を発行し、子会社株式を100%取得するのが一般的です。この場合、新たな出資を受ける形となるため、原則として親会社の資本金または資本準備金は増加します。
株式交換における資本金・資本準備金の決定時期
株式交換後の資本金・資本準備金の増額は、株式交換契約書の中で資本金・資本準備金のいずれかの増加を決定することが可能です。
株式交換では株式交換契約書の締結が必須ですが、以下のような最低限の事項を定める必要があります。
- 完全親会社・完全子会社の住所・商号
- 株式交換の対価と割当に関する事項
- 株式交換の効力発生日
4. 株式交換における資本金・資本準備金の会計・税務上の取り扱い
株式交換における資本金・資本準備金は増加すると解説しましたが、税金の観点では資本金・資本準備金の金額は別の扱いであるため、同額は「増加しない」と考える必要もあります。
会計から見た場合
まずは、会計から見た株式交換の資本金・資本準備金の扱いを解説します。
株式交換における会計処理の基本原則
株式交換の会計処理は、企業結合に関する会計基準で定められています。会計基準に株式交換を当てはめたとき、「共通支配下の取引」と判断された場合と「取得」と判断された場合とでは会計処理が異なる決まりです。
株式交換の取得とは、新たな会社が経営支配権を獲得したと捉えます。一方、共通支配下の取引とは、株式交換を行ううえでの支配関係は変わりません。つまり、単に内部取引が行われたものとします。
個別財務諸表
グループ内の株式交換など「共通支配下の取引」に該当する場合、親会社は子会社の簿価純資産額を基に、子会社株式の取得原価を算定します。会計上は内部取引とみなされるため、のれんは発生しません。
増加する資本剰余金の額は、子会社の簿価純資産額から、株式交換契約で定めた増加資本金額を差し引いて計算します。この取引は資本取引であるため、当期の損益計算書には影響を与えず、貸借対照表と株主資本等変動計算書に変動額が記載されます。
連結財務諸表
連結財務諸表上、株式交換の資金・資本準備金は「のれん」として計上します。この場合、「株式の取得原価」から「企業結合日の純資産の時価」を差し引く計算方法です。
連結決算上の収益または費用として「のれん償却」が発生するので、のれん相当額が当期決算の損益に影響します。
税務から見た場合
株式交換を財務から見た場合、「適格株式交換」の要件に該当するか否かで課税対象の関係性が異なります。まずは、株式交換の税務処理のポイントを解説します。
株式交換における税務処理の重要ポイント
株式交換の税務処理では、株式交換差損が生じます。差損が生じるのは、親会社が子会社株主に交付する対価が純資産額を超える場合です。
株式交換差損がある場合は、原則として簡易株式交換を利用できません。税制適格の判定では、以下2つの類型に該当するかで判定されます。
- 100%グループ内における適格株式交換
- 50%超100%未満のグループ会社の適格株式交換
適格株式交換要件
適格株式交換で求められる要件は、以下のとおりです。それぞれのケースごとに「〇」の要件をすべて満たしている必要があります。
100%グループ会社 | 50%超え100%未満 | |
金銭等不交付要件 | 〇 | 〇 |
従業者引継要件 | 〇 | 〇 |
継続保有要件 | - | 〇 |
事業継続要件 | - | 〇 |
金銭等不交付要件とは、子会社株主への対価が金銭ではなく株式交付で実施されることです。
従業者引継要件に該当するのは、完全子会社となる会社で、株式交換前の従業者が株式交換後に完全子会社への業務に従事する見込みがある場合です。従業者は、その約80%以上の人数でなければなりません。
継続保有要件は、株式交換後で親子会社との間で100%の支配関係が継続する見込みがある場合を意味します。事業継続要件とは、株式交換後・完全子会社となった企業の事業が以前同様に継続される見込みであることです。
非適格株式交換要件
適格要件を満たさない株式交換は、「非適格株式交換」に分類されます。適格株式交換の場合、子会社株主は株式を簿価で譲渡したとみなされ、譲渡損益が繰り延べられるため、実質的に課税は発生しません。
一方、非適格株式交換では、子会社の株主において、保有株式を時価で譲渡したとみなされ譲渡損益が認識されるため、含み益に対して課税が発生します。
5. 株式交換における純資産の会計処理
株式交換後の純資産の会計処理では、発行済株式の扱い方によって親会社と子会社で方法が異なります。
親会社の会計処理
親会社の会計処理では、企業の組織再編における「取得」「持分の結合」「共通支配下による取引」「共同支配企業の形成」と、それぞれの分類で適用される会計処理が決まります。
組織再編で「取得」と判断された場合の会計処理は、「パーチェス法」です。「持分の結合」と判定された場合は「持分プーリング法」で会計処理を行い、当事会社の資産・負債・資本の帳簿価額を引き継ぎます。
親子会社などの企業グループにおける企業再編では、「少数株主との取引」と「共通支配下の取引」の2つで分別して会計処理を行わなければなりません。
最後に「共同支配企業の形成」と判定された場合(複数の会社が株式交換契約に基づいて、共同で支配する会社を形成)は、「持分プーリング法」によって会計処理を行います。
子会社の会計処理
子会社の株式交換では、子会社が完全親会社となる会社に発行済株式をすべて取得させ、完全親会社の株式やその他資産を完全子会社になる企業の株主に対価として交付します。
株式交換の対価による交付は完全子会社の株主が「取得」したことになるので、完全子会社が資本金・資本準備金の会計処理を行う必要はありません。
完全子会社で会計処理を要する場合は、以下のとおりです。
- 発行していた新株予約権の消滅
- 新株予約権付社債の消滅
- 自己株式に交換対価を割り当てられた場合
6. 株式交換における純資産の税務処理
株式交換後、純資産の税務処理では、株式の「譲受」あるいは「譲渡」で方法が異なります。この項では、親会社が子会社の株式を「譲受」するのみということに焦点を当てて解説します。
親会社の税務処理
親会社の株式交換では、子会社の株式を譲受するのみであり、課税が生じるわけではありません。ただし、適格株式交換か否かで「取得価額」は異なることから、子会社の株主数が税務処理に影響します。
子会社の株主が50人未満の場合
適格株式交換の要件に該当し、子会社の株主が50人未満の場合は、子会社の受入価格が簿価純資産になります。
ここでいう簿価純資産とは、「子会社の申告前における資本金・資本準備金から申告後における資本金・資本準備金の増減額を算出した額の見込み」のことです。
子会社の株主が50人以上の場合
適格株式交換で、子会社の株主が50人以上の場合は、子会社と当該株主の帳簿価額の合計となります。一方、非適格株式交換では、子会社の受入価格が取得価額として交付される財産の時価で会計処理です。
子会社の税務処理
子会社による株式交換は、基本的に「株式譲渡」として扱われます。ただし、株式交換の対価の種類によっては、みなし額と譲渡価格の取り扱いが異なる点に注意が必要です。
株式交換の対価が株式である場合、子会社の株式を帳簿価額によって譲渡したとみなされることから譲渡による損益は生じません。
一方、対価として株式ではなく現金などの資産が交付される場合、子会社が時価で譲渡したものだとみなされるため、譲渡による損益を計上します。
7. 株式交換を成功させるための注意点
株式交換を円滑に進めるためには、法務・会計・税務の各側面でいくつかの重要な点に注意を払う必要があります。
株式交換比率の算定を慎重に行う
株式交換比率とは、完全子会社の株主に対して、完全親会社の株式をどのくらいの割合で交付するかを示す比率です。この比率が不公正であると、一方の株主が不利益を被るため、株主代表訴訟などのトラブルに発展するリスクがあります。そのため、第三者機関による株価算定(バリュエーション)などを基に、客観的で公正な比率を算定することが極めて重要です。
反対株主の株式買取請求権への対応
株式交換に反対する株主には、会社法で定められた「株式買取請求権」が認められています。これは、株主が自己の保有する株式を公正な価格で会社に買い取るよう請求できる権利です。会社は、この権利を行使した株主への対応を事前に準備し、買取価格の協議や、場合によっては裁判所への価格決定申立てなどの手続きを想定しておく必要があります。
株主総会の特別決議と債権者保護手続き
株式交換契約を承認するためには、原則として、効力発生日の前日までに両社の株主総会で特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)を得る必要があります。また、株式交換の対価が株式以外の場合や、親会社が子会社の負債を承継する場合など、特定のケースでは債権者の利益を保護するための手続き(債権者異議申述手続き)が必要となる点にも注意が必要です。
8. 株式交換後に行う減資の手続きと方法
通常は株式交換のように株式の発行によって、「増資」により会社の資本金を多くする手続きが頻繁に行われています。
しかし、株式交換では増資分に相対する「減資」を行い、会社の資本金を減少させる方法が取られることも少なくありません。例えば、会社の資本金1,000万円だった会社が資本金500万円となった場合は、500万円を減資したことになります。
減資には2種類があります。資本余剰金とすることによって配当が行える「有償減資」、株主を対象にして損失補填や会社再生などを目的に行う「無償減資」です。
減資手続きによりその他資本剰余金への振替
株式交換により資本金や資本準備金が過大になると、税務上の負担が増えたり、機動的な資本政策が取りにくくなったりする場合があります。このような場合に、財務体質の改善や欠損填補、株主への配当などを目的として減資が行われることがあります。
減資には、株主に財産を払い戻す「有償減資」と、払い戻しを伴わず欠損填補などに充てる「無償減資」の2種類があります。特に無償減資は、会社の財産を流出させることなく、将来の配当可能額を増やす効果が期待できます。
減資を行う目的によって、会社法が要求する決議は別のものです。減資した金額は将来の資本余剰金に充てられますが、資本余剰金の配当には最低でも純資産が300万円必要とされます。
減資の目的における決議要件は以下のとおりです。
減資の目的 | 決議要件 |
減資と同時に資本余剰金の配当 | 株主総会の特別決議が必要 |
欠損目的 | 株主総会の普通決議が必要 |
新株発行と同時に減資を行う | 取締役、取締役会決議 |
減資の実施方法
減資の実施では、株主総会で会社法で規定する事項をもとに決定します。会社法で規定している事項は以下のとおりです。
- 減資する資本金の額
- 減資によって資本金・資本準備金を資本余剰金に振替する額
- 減資の効力日
株主総会の決議は、「特別決議」を行うことが必要です。しかし、一定の場合には「普通決議」でよいこともあり、詳細は会社法に定めがあります。一般的な減資の流れは以下のとおりです。
- 取締役・取締役会による減資の決定
- 株主総会の招集通知(株主全員の同意の場合は省略)
- 株主総会の特別決議または普通決議
- 債権者保護の手続き
- 減資の効力発生日
- 変更登記
株式交換後の減資と実施の相談はM&A総合研究所へ
株式交換やそれに伴う減資は、法務・会計・税務の専門知識が不可欠な複雑な手続きです。自社のみで対応が難しい場合は、M&Aの専門家へ相談することをおすすめします。
M&Aの専門家は、株式交換の実務経験が豊富なアドバイザーが、手続き全体を丁寧にサポートします。料金体系やサービス内容は各社で異なるため、まずは無料相談などを活用し、自社の状況に合った専門家を見つけることが重要です。
9. 株式交換における資本金・資本準備金の増減まとめ
本記事では、株式交換における資本金・資本準備金は会計、税務処理によっては増加しないと解説しました。会計と税務処理は考え方が異なるため、理解しておく必要があります。
株式交換は資本金・資本準備金が増加することから、会計処理と税務処理が異なります。正確な処理を心がけるためには会計・税務の理解が必要不可欠です。
「資本金+資本準備金」のみが高い場合は資本余剰金へ資本準備金の額を振替できますが、資本余剰金の振替によって債権者への重大な損失が伴う可能性に気を付けておく必要があります。
株式交換の会計・税務処理に限らず、減資による資本余剰金の振替方法まで相談しましょう。
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