自己株式の消去・消却・処分とは?方法と目的・メリット・制限・仕訳や会計処理も解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

自己株式の消去とは、株式会社が自社の株式を株式市場から取得して消去することです。自己株式の消去や処分の方法を把握するには、その仕組みや特徴を理解しておく必要があります。この記事では、自己株式の消去や処分の方法を、仕訳や会計処理を含めて解説します。

目次

  1. 自己株式とは
  2. 自己株式の消去・消却とは
  3. 自己株式の取得とは
  4. 自己株式の処分とは
  5. 自己株式の消去・消却の方法
  6. 自己株式の処分の方法
  7. 自己株式の消去・消却した際の仕訳や会計処理
  8. 自己株式を処分した際の仕訳や会計処理
  9. 自己株式の消去・消却・処分の相談先
  10. 自己株式の消去・消却、処分の方法まとめ
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1. 自己株式とは

自己株式とは、株式会社が発行する株式のうち、自社で取得したうえで保有している株式のことです。

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2. 自己株式の消去・消却とは

自己株式の消去・消却とは、企業が買い戻した自己株式を消滅させることで、株式消却や自社株消却と呼ばれることもあります。

自己株式は数量や期限に制限なく保有することが認められており、取締役会の決議で承認を得れば、新株発行として放出したり、消却したりすることも認められています。

自己株式の消去・消却の目的と株価への影響

自己株式の消去・消却とは、株式会社が自社の株式を株式市場から取得し、消去・消却することを意味します。つまり、自社株式の取得によって、株式発行数を取り除くことで減資につながります。

減資に至る特徴から、自己株式は実体のない株式となるため、株主との権利関係は生じません。自己株式を消去・消却する目的と、株価への影響は以下のとおりです。

  • 発行済株式総数を適切なものにする
  • 株価が上昇する要因となる

発行済株式総数を適正なものにする

新規株式を過剰に発行することは、問題が生じる原因の1つです。自己株式を消去・消却することによって発行済株式総数を減資につながり、最終的には発行済株式総数を適正なものにします。

株価が上昇する要因となる

自己株式の消去・消却によって発行済株式総数は減資となりますが、実は減資した分株価が上昇しやすい特徴があります。減資による上昇要因を利用した方法は、株式買収の対策でも多く用いられます。自己株式の消去・消却による減資の影響から、会社のPR施策に用いられることも少なくありません。

自己株式の消却による企業規模の縮小

自己株式の消却は会社や投資家にメリットがありますが、デメリットも存在します。発行済みの株式を取得して消却させることは会社の資産減につながるため、自己資本比率の縮小が生じます。1株あたりの株価は上がりますが、長期的に見て会社の発展が期待できない場合は株価の大きな上昇は難しいでしょう。

保有する株式で自己株式の消却が行われる場合は、情報収集を行うことが重要です。

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3. 自己株式の取得とは

自社が発行する株式を株主から買い戻す場合、自己株式の取得と呼びます。

現在、自己株式の取得は可能ですが、2001年に改正された旧商法では自己株式の取得は禁止されていました。なぜなら、資本維持の原則と株式平等の原則による権利が存在していたためです。

自己株式の取得禁止が解除された背景には、経済界からの権利自由化の要望が相次いで寄せられていたことが挙げられます。自己株式を取得することで、株式発行数を減少させることと同じ効果が得られます。

自己株式を取得する目的

自己株式を取得する目的は、主に以下のとおりです。

  • 持ち株比率の低下を防ぐ
  • M&Aの対価に用いる
  • 株価対策をする
  • 事業承継対策をする

とりわけ事業承継で後継者に株式を引き継ぐ場合、後継者は株式を購入したり、相続や贈与の場合は税金の納付義務が課されたりするなど、多額の資金が求められます。後継者から株式を取得し自己株式とすることで、後継者は持ち株が減るものの資金を得られるため、事業承継をスムーズに進められる可能性が高まります。

自己株式の取得の方法

自己株式を取得する際は、「不特定多数から取得する方法」と「特定株主から取得する方法」の2種類の方法に分かれます。

原則として、自己株式を取得するには株主総会の決議が求められます。前者のケースでは、株主総会の普通決議が必要です。これに対して、後者のケースでは、株主総会の特別決議が求められます。株主総会の決議後、取締役会で取得する株式数・期日などを決議する流れです。

自己株式の取得には、財源規制が課されている点に注意しましょう。具体的には、買い取り時点の分配可能額の範囲内でのみ、自社株を買い取ることが可能です。手続きをスムーズに進めるためには専門的に高度な知識が求められるため、不明点があれば企業法務に精通する専門家に相談することをおすすめします。

4. 自己株式の処分とは

自己株式の消去・消却では発行済株式総数の減資につながることが株式市場へ影響を与えますが、自己株式の処分では発行済株式総数に影響を与えるか否かに左右されます。

自己株式の処分の目的と株価への影響

自己株式の処分は、消去・消却とは違い、株式発行総数は減資に至りません。自己株式の処分とは、株式を売却することを意味します。

自己株式を処分する場合は、会社法上の新規発行手続きが必要です。会社法上の手続きが必要とされる理由は、以下のような自己株式の処分目的と株価への影響があるためです。

  • 資金調達のために使われる
  • 企業編成をスムーズに行う
  • 株価が下落する要因となる

資金調達のために使われる

自己株式の処分によって自己株式の買い戻しと売却を行うと、資金調達できます。資金調達に使用できる点は、会社法上の手続きが必要となる大きな理由の1つです。

企業再編をスムーズに行う

企業再編の方法には、主に分割・合併株式交換の3つがあります。企業再編を行う場合に必要となるのが自己株式であり、自己株式を代用することによって企業再編をスムーズに行うことが可能です。

株価が下落する要因となる

自己株式の取得後に処分を行った場合は、株価が上昇と下落を引き起こします。下落の要因の1つは、自己株式の処分によるものです。

株価変動要因にはPER(株価収益率)が関係しており「株価÷1株あたりの利益(EPS)あるいは時価総額÷純利益」で算出できます。つまり、株価と企業の収益力を比較することで投資価値を判断します。

自己株式の処分を行うと、計算式の母数である純利益が減少し、それに伴いPERも上昇する仕組みです。PERが上昇してしまうと、株式が割安ではなくなると判断されるため、株価下落の可能性が高まります。

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自己株式の消去・消却と処分の違い

自己株式の消去・消却は、会社が株主から買い戻した株式を消滅させることで、発行済株式総数が減資(資本金の額を減らすこと)につながります。

一方で自己株式の処分は会社が株主から買い戻した株式を売却しますが、発行済株式総数は手続きから減資につながりません。

  • 自己株式の消去・消却⇒減資につながる
  • 自己株式の処分⇒減資につながらない

5. 自己株式の消去・消却の方法

自己株式の消去・消却の方法を知る際は、まず会社法の存在を意識しておく必要があります。会社法では、消却できる株式は自己株式に限られています

会社が株主の保有している株式を消去・消却する際は、株主名簿に登録されている株式を自己株式として会社が保有しなければなりません。

①決議機関による株式の消却決議

株式の消却決議は決議機関によって行いますが、決議機関は会社の仕組みで異なり、自己株式の消去・消却の決議は取締役会設置の有無にも左右されます。

取締役会設置会社であれば、取締役会による消却決議で問題ありません。しかし、取締非設置会社の場合は既存株に対して不利益が生じるおそれがあるため、株主総会の普通決議を必要とする場合と取締役の過半数の決議が必要な場合があります。

②株式失効の手続き

株式の消去・消却が行われた場合は、株式失効の手続きを行います。この手続きでは株主名簿を修正しますが、株券発行会社の場合は株券を破棄する手続きが必要です。

③発行済株式総数の減少による変更登記

自己株式を消却した数のみ、会社の発行済株式総数が減資します。会社法第915条第1項、第911条第3項第9号で、減少による変更登記を行うことが定められています。

発行済株式総数の減少による変更登記を行う期間は、効力発生日から2週間以内です。定款所定の発行可能株式総数は減少しません。

登記変更の事由は自己株式の消却、登記事項にはその年月日および変更後の発行済株式総数を記載します。

④効力発生日

会社は自己株式を消却する場合、特定する意思を表示する必要があります。例えば、消却した自己株式に関する事項内容の消去などが該当します。

会社が何らかの行為で消却する自己株式を特定しない限りは、消却の効力は発生しません。自己株式消却の効力発生日は、株券発行会社・株券不発行会社で、以下のような違いがあります。

  • 株券発行会社 : 株式名簿の記録・記載を消去した日(当該株券の破棄)
  • 株券不発行会社 : 株式名簿の記録・記載を消去した日(当該株券の破棄は不要)

株券発行会社

株券発行会社の自己株式の消去にかかる効力発生日とは、必要な手順を踏むことで効力が発生するでしょう。具体的な手順は、まず自己株式の消却決議を行います。当該株券を破棄した後は、株式名簿の記録・記載を消去した日が効力発生日と定められています。

株券不発行会社

株券不発行会社の場合は株券発行会社の場合と違い、当該株券を破棄する手順は必要ありません。自己株式の消却決議の次は、株主名簿の記録・記載を消去した日が効力発生日と定められています。

6. 自己株式の処分の方法

自己株式の処分は、会社が発行した株式の減資や、自己株式を取得した後に第三者へ譲渡することで株主に影響を与えます。自己株式の処分の方法は、会社法による制限があります。

新株の発行

株式処分を行う場合は、新株発行による手続きが必要です。新株発行の手続きでは、「募集形式」の規定により、会社が自己株式を引き受ける者を決定します。

株式を引き受けようとする者は、募集に対して「応募」をし、株式申込証による申し込みを行うことが可能です。申し込みに対して、会社は「割当」を行うことで、自己株式の引受人を確定します。この割当を行う方法には、以下の2つがあります。

  • 株式割当による処分
  • 第三者割当による処分

株主割当による処分

株式割当による処分の場合は、原則として株式総会の特別決議が必要です。ただし、公開会社ではこの限りではありません。

株式割当による処分を行う際は、株式割当による権利を喪失してしまわないように手続きを行う必要があるので、株主が申込可能な状態にしておかなければなりません。

株主割当の申込日から起算して2週間前までに、募集事項・申込の期日・割当を受ける募集株式数を株主へ通知します。ここでいう割当による株主の権利とは「持ち株数に応じた割当」のことで、1株未満の端数は切り捨てられます。

第三者割当による処分

第三者割当による処分では、株主であるか否かは問いません。特定の第三者に対して株式を募集し、株式を割り当てる方法を意味します。

募集事項の決定方法は、「非公開会社」と「公開会社」によって異なります。非公開会社では株式の譲渡制限があるため、株主総会の特別決議が必要です。

次に公開会社の場合は、原則として取締役会会議で決議を行います。しかし、発行可能株式総数範囲以上の募集事項であれば、株式総会の特別決議が必要です。発行可能株式総数を定款変更によって、発行数に応じて引き上げる必要があります。

第三者割当による処分の場合も通知を行う必要があり、実施期間は株主割当による処分と同様に「2週間前」です。

登記変更の有無

自己株式の処分の場合は、通常の新規発行と同様の手続き内容です。しかし、登記の変更は必要ありません。自己株式の処分は資本金を増加させずに済むため、発行済株式総数の変更や登記免許税の負担は新規発行と異なり必要ありません。

7. 自己株式の消去・消却した際の仕訳や会計処理

自己株式の消去・消却における仕訳や会計処理の必要事項は、以下のとおりです。

  • 自己株式の消去・消却した際の会計処理
  • 自己株式の消去・消却した際の税務処理
  • 消去・消却時の会計処理と税務処理の違い
  • 消去・消却時の申告書への記載方法

自己株式の消去・消却した際の会計処理

自己株式の消去・消却した際の会計処理としては、消却手続きが完了した際に消去・消却の対象である自己株式の帳簿価額を用いて、その他資本剰余金から帳簿価額を差し引きます。

自己株式の消去・消却の手続きが完了した場合の仕訳としては、借方が「自己株式処分差益」となり、貸方が「自己株式」で仕訳します。

自己株式の消去・消却した際の税務処理

自己株式の消去・消却した際の税務処理としては、自己株式の取得時に仕訳が済んでいるイメージです。なぜなら、自己株式の取得時では、税務処理上の仕訳において帳簿価額がゼロの状態であるためです。

自己株式の消去・消却の際には、追加で処理を行う必要がないと認識しておく必要があります。

消去・消却時の会計処理と税務処理の違い

消去・消却時の会計処理と税務処理の共通点は、仕訳で資本取引であることです。

しかし、消去・消却の際は仕訳内容に変更が加えられます。会計処理の場合は、自己株式の取得金額と仕訳されていた内容が「消却損」となります。

一方、税務処理の仕訳でもともと取得価額がゼロであったため、消去・消却をしても追加仕訳は必要ありません。

消去・消却時の申告書への記載方法

消去・消却の申告書への記載方法は、以下です。

  • 会計処理
  • 税務処理
  • 申告調整

会計処理

会計処理の仕訳科目では、借方が「自己株式消去損(その他資本または利益剰余金)」となり、貸方は「自己株式、自己株式消却損(その他資本剰余金)」です。

税務処理

税務処理の場合は、自己株式の取得価額はゼロです。消去・消却をした場合も資本金の増減はありません。

申告調整

会計処理の場合と税務処理の記載方法が異なるため、申告調整が求められることがあります。申告調整の記載にはさまざまな方法がありますが、会計上ではその他利益余剰金を差し引いているので、税務と一致させるためには申告調整を行えば調整が可能です。

8. 自己株式を処分した際の仕訳や会計処理

自己株式の処分にあたって、仕訳や会計処理の必要事項は以下のとおりです。

  • 自己株式を処分した際の会計処理
  • 自己株式を処分した際の税務処理
  • 処分時の会計処理と税務処理の違い
  • 処分時の申告書への記載方法

自己株式を処分した際の会計処理

自己株式を処分した際は、会計処理の内容が自己株式の帳簿価額と処分対価を処理します。その場合の勘定は、「自己株式処分差損」または「自己株式処分差益」です。

自己株式を処分した際の税務処理

自己株式を処分した際の税務処理の場合は、会計処理と同様に資本取引です。しかし、「資本金の額の増減」と処理します。

処分時の会計処理と税務処理の違い

自己株式の消去・消却の場合と同様に、共通点は資本取引です。それぞれの違いは、取得価額の増減に影響されます。会計処理の場合は、自己株式の取得時に取得価額があるため「処分差損益」とし、取得価額と売却価額の差額を算出します。

一方、税務処理でもともと自己株式の取得時に取得金額がゼロのため、譲渡価額全額は「資本金などの額」へ計上される仕組みです。

処分時の申告書への記載方法

処分時の申告書への記載方法は以下のとおりです。

  • 会計処理
  • 税務処理
  • 申告調整

会計処理

会計処理の記載方法としては、仕訳科目が借方「現金、自己株式処分差損(その他資本または利益剰余金)」、貸方が「自己株式、自己株式処分差損(その他資本剰余金)」と記載します。

税務処理

税務処理の仕訳科目では、借方は「現金」、貸方が「資本金等の額」として記載されます。自己株式の取得額がもともとゼロであるため、売却額全額は資本金などの増加となります。

申告調整

自己株式の場合も「会計処理」と「税務処理」が異なるため、申告調整が必要です。会計と税務を一致させるために、「別表5の申告調整」への記載を行います。

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9. 自己株式の消去・消却・処分の相談先

自己株式の消去・消却・処分はM&A手法の1つです。自己株式の消去・消却・処分を行う際は、専門家のアドバイスを受けることも必要です。

M&A総合研究所には、M&Aの知識や経験が豊富なM&Aアドバイザーが在籍しており、案件をフルサポートします。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談は電話・Webより随時受け付けていますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。

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10. 自己株式の消去・消却、処分の方法まとめ

自己株式の消去・消却や処分は、仕訳から会計処理、税務処理と異なります。手続き方法も異なることから、体系的な理解が欠かせません。

それぞれの違いを見極めるポイントは、「発行済株式総数」です。発行済株式総数は株主へ影響を与える内容なので、手続きの方法に違いが生じます。

会計処理・税務処理を正確に理解したうえで手続きを行うと、M&Aがスムーズに進みます。しかし、自己株式の消去・消却・処分では専門的な要素が多いので、手続きを行う際はM&A仲介会社など専門家のサポートを受けながら進めることが効率的です。

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