2025年10月21日更新
株式取得価額の計算・確認方法|不明な場合の5つの対処法も解説
株式取得価額は譲渡所得税の計算に不可欠です。しかし、算出方法は複雑で、不明なケースも少なくありません。本記事では、株式取得価額の計算・確認方法から、不明な場合の対処法まで専門家がわかりやすく解説します。
目次
1. 株式取得価額とは?時価との違いを解説
株式取得価額とは、株式の購入代金に加えて、購入手数料や消費税、名義書換料など、その株式を取得するために要したすべての費用を合計した金額を指します。株式を売却して得た利益(譲渡所得)にかかる税金を計算する際、売却金額からこの取得価額と売却手数料などを差し引くため、非常に重要な項目です。
同時に購入した上場株式1銘柄を、一度に全て売却する場合の株式の取得価額は、取引報告書で容易に確認可能です。しかし、同一銘柄の株式を複数回にわたって購入したり、株式の併合・分割が行われたりした場合には、株式の取得価額を調整しなければなりません。
税金を計算する際には必ず取得価額を用いるため、修正申告や追徴課税とならないよう、株式を取得する際は取得価額を正しく知っておくことが重要です。
株式の時価との違い
株式には、取得価額以外に時価がありますが、これらは一見、似ているようで意味が異なります。時価とは通常の株式取引で形成されている株価のことで、上場株式なら株式市場での取引価格が時価です。
一方、非上場株式には市場価格が存在しないため、税法上のルール(財産評価基本通達など)に基づいて時価を算定します。非上場株式の取引は相対取引が中心であり、当事者間の合意で価額が決まるため、必ずしも客観的な時価と一致しないケースがある点に注意が必要です。
そこで、所得税法上の時価の計算方法は、そういった主観をできるだけ排除して、非上場株式の適正な価格を算定するために定められました。
2. 購入・払い込み以外で株式を取得した場合の取得価額
前章での株式の取得価額の説明は、購入や払い込みで株式を取得した場合に適用されるものです。ここでは、相続や新株予約権など購入や払い込み以外の方法で株式を取得した場合の取得価額を解説します。
相続などにより取得した場合
相続や贈与によって株式を取得した場合、被相続人や贈与者など、元の所有者がその株式を取得した際の価額がそのまま引き継がれます。これを「取得費の引継ぎ」と呼びます。そのため、ご自身が直接購入していなくても、元の所有者の取得価額を正確に把握しておく必要があります。
発行法人の権利により取得した場合
2001(平成13)年に商法が大幅に改正され、株式譲渡請求権や新株予約権など、発行法人の権利により取得した株式に関して制度の変更がありました。
商法改正前に取得したこれらの権利には以下の3つがあり、これらの権利を行使して株式を取得した場合、権利行使日における価額が取得価額となります。
- 2001年法律第79号による改正前の商法に規定する株式譲渡請求権
- 2001年法律第128号による改正前の商法に規定する新株の引受権
- 2005(平成17)年法律第87号による改正前の商法に規定する新株予約権
なお、現在主流であるストックオプション(新株予約権)を行使して株式を取得した場合、税制適格要件を満たせば権利行使時の課税は繰り延べられ、株式売却時まで課税されません。この場合の株式取得価額は、権利行使価額(払込金額)となります。税制改正は頻繁に行われるため、2025年以降の最新動向については国税庁のウェブサイトなどで確認することをおすすめします。
新株予約権などで取得した場合
新株予約権を行使して株式を取得した場合、その権利を行使したときに税金が課せられるため、新株予約権を取得した時点では課税されません。課税対象となるのは、「権利を行使した時点での株式時価と権利行使価額との差額」です。
権利行使価額とは、新株予約権を発行する際にあらかじめ定められた価額のことで、時価に関係なく権利行使価額で株式を取得できることを意味します。法人の場合は、権利行使時でも課税はされず、株式譲渡時に課税されるので注意しましょう。
その他
上述した方法以外で株式を取得した場合は、「その取得の時におけるその株式等の取得のために通常要する価額」を取得価額とすると定められています。
「通常要する価額」がいくらになるかは専門家でないとわからない部分があるので、株式を取得した際は、会計士や税理士に相談するのがおすすめです。
3. ケース別|株式取得価額の計算方法と計算例
ここでは、計算式を掲示しながら、調整計算が必要な場合の株式の取得価額を説明します。
株式の取得価額を計算する際の1単位当たりの調整
通常、株式の取得価額は、以下のように計算します。
- 1株当たりの取得費=(単価×数+委託手数料+消費税)÷株数
- 譲渡株式の取得価額=1株当たりの取得費×株式数
以下のケースでは、1株当たりの取得費が調整されることになっています。
- 同一種類の株式を株主割り当てによって取得したケース
- 株式の分割や併合が行われたケース
- 株式分配により100%子会社の株式を取得したケース
- 合併により存続会社の株式を取得したケース(課税の繰り延べ対象の場合に限る)
- 分割型の会社分割により承継側企業の株式を取得したケース(課税の繰り延べ対象の場合に限る)
- 株式交換により100%親会社の株式を取得したケース(課税の繰り延べ対象の場合に限る)
- 株式移転により持株会社(100%親会社)の株式を取得したケース(課税の繰り延べ対象の場合に限る)
- 株式交付により100%親会社の株式を取得したケース(課税の繰り延べ対象の場合に限る)
計算例
【設例】
- 1株あたり5,000円で10株購入
- 委託手数料が1,000円
- 消費税が10%(委託手数料にのみ消費税がかかると仮定)
- 取得費の調整はなし
上記の場合は、次のように計算されます。
【計算】
1株当たりの取得費
= (単価×数+委託手数料+委託手数料の消費税)÷株数
= (5,000円×10株+1,000円+1,000円×0.1)÷10株
= (50,000円+1,000円+100円)÷10株
= 51,100円÷10株
= 5,110円
譲渡株式の取得価額
= 1株当たりの取得費×株式数
= 5,110円×10株
= 51,100円
よって、譲渡株式の取得価額は51,100円です。
同じ銘柄を2回以上購入している場合の取得価額
同じ銘柄の株式を2回以上購入し、一部の株式を譲り渡した場合の取得価額は、総平均法に準じた計算方法で1単位当たりの金額を算出してから計算します。総平均法に準じた方法は、株式などをその種類および銘柄ごとに区分して、その種類が同じものは以下のとおりです。
- (A+B)÷(C+D)=1単位当たりの金額
A=株式などを最初に購入した際の購入価額総額
B=株式などを最初に購入した後から譲渡時までの購入価額総額
C=Aに関する株式などの総数
D=Bに関する株式などの総数
過去の取引事実に基づいて算定されることから、客観性が求められるために、取引に関する書類を整理し、保管しておくのが重要です。
もし実際の取得価額が不明な場合は、概算取得費(譲渡代金の5%)を用いて申告することも認められています。しかし、この方法では譲渡所得が過大に計算され、納税額が高くなる可能性が高いです。取得価額の計算は複雑なため、税理士などの専門家に相談し、正確な価額を算出することをおすすめします。
計算例
【設例】
X社の株を2回購入し、その後一部を譲渡する場面を想定します。
- 最初にX社の株を1株あたり4,000円で10株購入。このときの購入価額総額は40,000円。
- その後、X社の株を1株あたり5,000円で20株購入。このときの購入価額総額は100,000円。
- この後15株を譲渡する際の取得価額を計算したい。
上記の場合は、次のように計算されます。
【計算】
まずは情報を整理します。
- A=株式などを最初に購入した際の購入価額総額=40,000円
- B=株式などを最初に購入した後から譲渡時までの購入価額総額=100,000円
- C=Aに関する株式などの総数=10株
- D=Bに関する株式などの総数=20株
あとは上記の情報を用いて、計算するのみ。
1単位当たりの金額
= (A+B)÷(C+D)
= (40,000円+100,000円)÷(10株+20株)
= 140,000円÷30株
= 4,666.67円(小数点第三位を四捨五入)
譲渡株式の取得価額
= 1株当たりの取得費×株式数
= 4,666.67円×15株
= 70,000円(小数点以下切り捨て)
よって、譲渡株式の取得価額は、およそ70,000円です。
4. 株式取得価額がわかる3つの確認方法
この章では、株式の取得価額の確認方法を解説します。株式の取得価額の確認方法は、以下の3つです。
- 取引報告書で確認する
- 証券会社に確認する
- 手元にある預金通帳などで確認する
①取引報告書で確認する
株式の取得価額を知りたいとき、まず確認すべきなのが、証券会社が発行する取引報告書です。取引報告書には取得費が記載されているので、それを見ればすぐに取得価額がわかります。
取引報告書は、各証券会社が郵送や電子交付で発行しているので、なくさずに保管するようにしましょう。取引報告書以外に、取引残高報告書・月次報告書・受渡計算書などでも、取得金額を確認できます。
②証券会社に確認する
証券会社などの金融商品取引業者は、「法定帳簿」といった帳簿を作成して保管しておかなければならない旨が、金融商品取引法で定められています。証券会社は「顧客勘定元帳」の法定帳簿を必ず保管しているので、これを請求すれば取得金額がわかる算段です。
顧客勘定元帳は、各証券会社に電話などで請求すれば有料で入手できます。顧客勘定元帳の法律上の保存義務期間は10年なので、10年以上前の取引は請求しても入手できないかもしれません。
ただし、証券会社によっては、10年以上前の顧客勘定元帳を保管している場合もあるため、確認するのがよいでしょう。顧客勘定元帳を請求する際は、必ず取得日を含む期間を指定します。
顧客勘定元帳には損益が記載されていないため、取得日を含む期間でないと取得金額がわからなくなるからです。
③手元にある預金通帳などで確認する
取引報告書がなく顧客勘定元帳もない場合でも、取得価額を確認する方法はあります。たとえば、預金通帳から取得費がわかれば、その額を取得価額としてよいでしょう。預金通帳のような公式な記録でなくても、個人的な日記やメモなども、取得価額の確認に使用できる場合があります。
5. 株式取得価額が不明な場合の5つの対処法
株式の取得価額が不明なままでは、正確な譲渡所得税を計算できません。ここでは、取得価額がどうしてもわからない場合の具体的な対処法を5つ紹介します。
対処法1:概算取得費(譲渡価額の5%)を用いる
最も一般的な対処法が、売却代金の5%を「概算取得費」として申告する方法です。例えば、1,000万円で株式を売却した場合、50万円を取得費とみなして税額を計算します。
ただし、実際の取得価額が5%より高かった場合でもこの方法を用いると、譲渡所得が多く計算され、結果的に納税額が増えてしまう点に注意が必要です。
対処法2:過去の資料を徹底的に調査する
概算取得費の利用は最終手段とし、まずは手元にある過去の資料を徹底的に探すことが重要です。古い預金通帳の出金記録、日記、手帳、メールの履歴など、購入時期や金額を推測できる情報がないか確認しましょう。わずかな手がかりでも、取得価額を証明する一助となる可能性があります。
対処法3:発行会社に問い合わせる
非上場株式の場合、株式を発行した会社に株主名簿の閲覧を請求したり、過去の増資や株式分割の記録について問い合わせたりすることで、取得経緯が判明する場合があります。特に同族会社などで長期間保有しているケースでは有効な手段となり得ます。
対処法4:過去の株価情報から推定する
上場株式であれば、取得したと推測される時期の新聞の株式欄や、証券会社のウェブサイトで公開されている過去の株価データなどから、当時の株価を調べて取得価額を合理的に推定する方法もあります。ただし、この方法が税務署に認められるかはケースバイケースであるため、税理士への相談が賢明です。
対処法5:税理士などの専門家に相談する
上記の方法を試しても取得価額が判明しない場合は、税務の専門家である税理士に相談することをおすすめします。専門家は、入手可能な情報から合理的な取得価額を算定する方法や、税務署との交渉について適切なアドバイスを提供してくれます。安易に概算取得費で申告する前に、一度相談してみましょう。
6. 株式の取得価額を知るフローチャート
国税庁のホームページには「上場株式等の取得価額の確認方法」というページがあり、株式の取得価額を知るための手続きをフローチャートで確認できます。取得方法がわからなくなったときは、このフローチャートを参考にするとよいでしょう。フローチャートの内容は以下のとおりです。
- 取引報告書を確認する
- 顧客勘定元帳を確認する
- 自身の控え(通帳や日記など)を確認する
- 名義書換日から取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定する
参考:税務署「上場株式等の取得価額の確認方法」
①取引報告書を確認する
取引報告書以外に、取引残高報告書・月次報告書・受渡計算書なども、取得価額の確認に使用可能です。
②顧客勘定元帳を確認する
顧客勘定元帳とは、顧客の株式取引の売買および入出金の履歴が記載されている証券会社などの金融商品取引業者等が扱う法定帳簿です。顧客勘定元帳の法律によって最低でも過去10年分の取引記録を保存することが義務付けられています。
株式の取得価額を取引報告書で確認できなかった場合には、この顧客勘定元帳を取引を行った証券会社に請求して確認します。
なお、顧客勘定元帳を請求する際には、1年分の取引が記載された顧客勘定元帳を発行するのに1,000〜2,000円程度の手数料がかかります。
③自身の控え(通帳や日記など)を確認する
預金通帳などの正式な記録以外に、自分がつけた日記なども取得価額の確認に使用できます。
④名義書換日から取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定する
上場株式の場合、取得日の新聞に載っている株価なども、取得価額の確認に使用できるでしょう。
詳しい方法については以下の株式の取得価額が不明な際の対処法という項目で説明しています。
7. 株式の取得価額が不明な際の対処法
取引報告書も顧客勘定元帳もなく、通帳や日記を見ても取得価額が不明なケースもあるかもしれません。このような場合の対処法としては、以下の2つが考えられます。この章では、株式の取得価額が不明の際の2つの対処法を見てみましょう。
- 名義書簡の日の株価を見る
- 売却額の5%で計算する
①名義書換の日の株価を見る
株式の取得価額が不明の場合、何らかの方法で名義書換日を調べて、その日の株価を基に取得価額を算出する方法が可能です。
たとえば、名義書換業務をしている株式の発行会社に問い合わせて、株主名簿や株式異動証明書から取得時期を調べます。取得日がわかれば、上場株式の場合はヤフーファイナンスや新聞の株式欄などで、当時の株価を確認できるでしょう。
②売却額の5%で計算する
どうしても株式の取得価額が不明な場合は、売却額の5%を取得価額とする「概算取得費」といった計算方法もあります。概算取得費とは、土地・建物・株式などの売却額がどうしても不明なとき、一律で売却額の5%を取得価額とみなしてよいものです。
概算取得費は、本来、先祖代々受け継がれている土地建物など、取得価額を調べようがないものに対して適用されるものですが、株式の取得価額が不明な場合にも適用されることがあります。
これに従うと、10万円で売却した株式の概算取得費は5,000円となり、残りの9万5,000円分が課税対象です。ただし、株式の取得価額が売却額の5%以下であることはまれなので、概算取得費を株式に適用すると、ほとんどの場合、損をしてしまいます。
取得価額を調べるのが面倒だから概算取得費でよいとはせず、やはりきちんと取得価額を調べることが重要です。なお、実際の株式取得価額が5%未満だった場合、5%相当額を取得価額としてよいことになっています。
8. 株式を取得した際の手数料などの扱い
株式を取得するとき、株式の時価や権利行使価額に加えて、証券会社に支払う手数料や消費税がかかります。手数料や消費税は、時価とともに取得価額に含まれ、購入価格と手数料の合計が取得価額です。
ただし、名義書換料など一部の費用は、取得価額に含まれないことがあります。これらは専門家でないと判断が難しいので、会計士などの専門家に相談したほうがよいでしょう。
9. 株式の取得価額まとめ
本記事では株式の取得価額の確認方法を解説しました。特殊な事例を除いて、以下の基本的な確認方法を行えば、ほとんどの場合、取得価額がわかります。新株予約権など特殊な事例は、税務が複雑になるので、会計士など専門家のサポートを受けることをおすすめします。
・株式の取得価額の確認方法
→取引報告書を確認する
→顧客勘定元帳を確認する
→自身の控え(通帳や日記など)を確認する
→名義書換日から取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定する
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