障害者福祉のM&A・事業承継ガイド|2025年最新動向・成功のポイントを徹底解説

取締役副社長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

障害者福祉サービスの事業承継にお悩みですか?本記事では、障害者福祉分野におけるM&Aの最新動向やメリット、成功のポイントを専門家が解説します。後継者問題や経営課題を解決し、事業を未来へ繋ぐヒントが満載です。

目次

  1. 障害者福祉サービスの概要
  2. 障害者福祉サービスにおけるM&Aの現状と動向
  3. 障害者福祉のM&Aに影響する法改正・報酬改定【2024年度】
  4. 障害者福祉サービスでM&Aを行う5つのメリット
  5. 障害者福祉サービスのM&Aで用いられる主な手法
  6. 障害者福祉M&Aの具体的な進め方と費用相場
  7. 障害者福祉サービスのM&Aの流れ
  8. 障害者福祉サービスのM&Aにおける注意点
  9. 障害者福祉サービスのM&A事例
  10. 障害者福祉サービスのM&Aまとめ
  11. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界の成約インタビュー一覧
  12. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界のM&A案件一覧
  13. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界の成約事例一覧
  14. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界のM&A案件一覧
  • セミナー情報
  • セミナー情報
  • 障害者施設 ・就労継続支援施設のM&A・事業承継

1. 障害者福祉サービスの概要

障害者福祉サービス業界では、後継者不足や経営環境の変化を背景に、M&Aや事業承継が活発化しています。大手・中堅企業による規模拡大の動きや、異業種からの新規参入も増加傾向にあり、業界再編が進んでいます。このような状況下で、事業の存続と発展を目指すため、M&Aは有効な選択肢の一つとなっています。

障害者福祉サービスとは

障害福祉サービスとは、障害者総合支援法の定めに基づき、障害のある人に提供するサービスのことです。

障害福祉サービスは、介護給付と訓練等給付の大きく2つに分けられています。介護給付とは、介護が必要と認められた人を対象とする障害福祉サービスです。

訓練等給付は、身体障害や知的障害のある人を対象に、自立した社会生活を営むためのスキルや仕事を身に付けられるよう支援を行います。

障害者福祉サービスの現状

障害者福祉サービスのM&Aについて触れる前に、市場規模などの現状を確認していきましょう。

障害者福祉サービスの市場規模

厚生労働省「障害福祉分野の最近の動向 」

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001098279.pdf

厚生労働省の資料によると、障害福祉サービスの利用者数は年々増加しており、令和6年3月時点での月間利用者数は約152.1万人(対前年同月比4.7%増)となっています。この需要増加に伴い、国の障害福祉サービス関係予算額も拡大を続けており、令和6年度(2024年度)当初予算案では過去最高の2兆2,354億円が計上されるなど、市場規模は今後も拡大が見込まれます。


利用者が増える一方で障害福祉サービスの従業員不足は深刻な状況であり、国も障害福祉サービスにおける人材確保の一環として処遇改善などの対策を行っていますが追いついていないのが現状です。

参考:厚生労働省「障害福祉分野の最近の動向」

障害者福祉サービスの倒産状況

帝国データバンクの調査によれば、2023年度の「障害者福祉事業」の倒産件数は75件にのぼり、前年度(59件)を上回り過去最多を更新しました。この背景には、物価高騰によるコスト増、深刻な人手不足、事業者間の競争激化があります。特に、赤字事業者の割合が高まっており、経営の二極化が鮮明になっています。2024年度の報酬改定も、事業者によっては減収要因となり得るため、今後も厳しい経営環境が続くと予測されます。


参考:「障害者支援施設」動向調査

2. 障害者福祉サービスにおけるM&Aの現状と動向

障害者福祉サービスのM&A市場では、大手・中堅事業者による事業規模拡大を目的とした買収が活発です。また、異業種からの新規参入手段としてもM&Aが選ばれています。一方で、中小規模の事業者は、後継者不在や人材確保の困難さから事業譲渡を選択するケースが増加しています。利用者の生活を守るという社会的責任から安易な廃業が難しく、事業を存続させるためのM&Aの重要性はますます高まっています。

譲渡側の悩み・ニーズ

障害福祉サービスのM&Aで、譲渡側は下記の悩みやニーズを抱えています。

  • 利用者がなかなか集まらず、赤字経営が継続している
  • 児童発達支援管理責任者などの離職が増え、採用コストがかかる
  • どこの譲受先を信頼したらよいのかわからない
  • 小規模案件のためM&A専門会社が取り扱っていない
  • M&A専門会社や銀行の障害福祉事業に対する理解が不足している

譲受側の悩み・ニーズ

次に、障害福祉サービスのM&Aにおける譲受側の悩みやニーズを見ていきましょう。

  • 現在存在する障害福祉事業を広げて、効率的に運営したい
  • 現在存在する障害福祉事業の多角化を図りたい
  • 実質的な総量規制が生じる障害福祉事業の権利を得たい
  • 障害福祉事業に参入したいが、知識がないため譲受が不安
  • M&A専門会社は障害福祉分野の知識が欠けていて、時間がかかってしまう

3. 障害者福祉のM&Aに影響する法改正・報酬改定【2024年度】

障害者福祉分野のM&Aを検討する上で、近年の法制度や報酬の改定動向を理解することは極めて重要です。これらは事業者の経営に直接的な影響を与え、M&Aの戦略や評価にも関わってきます。

障害者総合支援法と関連制度の改正動向

障害者総合支援法は、障害者福祉サービスの根幹をなす法律であり、定期的な改正が行われます。制度が改定されるたびに、事業者は人員配置基準や利用者へのサービス提供体制の見直しを迫られることがあります。これにより、対応できない事業者がM&Aによる事業譲渡を選択する一因となることもあります。

また、2024年度の介護保険法改正では介護事業者に対する「財務諸表の公表の義務化」が盛り込まれました。障害福祉サービス分野においても、社会福祉法に基づく財務諸表の開示義務がある法人も多く、経営の透明性を高める動きは同様に進んでいます。

報酬改定の影響

障害福祉サービスの事業収益の大部分は公定価格であるサービス報酬に依存しているため、原則3年ごとに行われる報酬改定は経営の根幹を揺るがす可能性があります。

2024年度の障害福祉サービス等報酬改定では、全体の改定率が+1.12%となり、賃上げや物価高騰への対応が図られました。特に、福祉・介護職員の処遇改善加算が一本化され、新たなキャリアパス要件が設定されるなど、人材確保に向けた取り組みが強化されています。しかし、生活介護や就労継続支援B型などでは基本報酬の見直しが行われ、事業者によっては収益構造に大きな影響が出ています。


このような改定は、質の高いサービスを提供し、効率的な運営ができている事業者にとっては追い風となる一方、そうでない事業者にとっては淘汰圧力を強めることになります。結果として、M&Aを検討せざるを得ない事業者が増加する可能性があります。

法改正・報酬改定を踏まえたM&A戦略

これらの法制度や報酬の動向は、M&Aのタイミングや対象企業の評価に大きく影響します。法改正の直前直後は、将来の収益予測の不確実性が高まるため、交渉が難航するケースも考えられます。

買い手にとっては、法改正や報酬改定への適応力があるか、将来的な制度変更リスクをどの程度織り込むかが評価のポイントとなります。売り手にとっては、自社の事業が改定後も持続可能か、適切なタイミングでM&A交渉を進めることが重要です。

いずれにしても、最新の制度動向を正確に把握し、専門家のアドバイスを受けながらM&A戦略を策定することが成功の鍵となります。

  • 障害者施設 ・就労継続支援施設のM&A・事業承継

4. 障害者福祉サービスでM&Aを行う5つのメリット

障害者福祉サービスをM&Aする5つのメリットについて見ていきましょう。

後継者問題の解決

少子高齢化や事業の先行き不安などの理由から、廃業を選択する障害者福祉サービス事業者は少なくありません。国内の後継者不在率は近年改善傾向にありますが、まだまだ後継者問題を抱える中小企業は多いのが現状です。

M&Aは事業承継手段としても活用できる方法であり、経営者の親族や社内(役員など)に後継者がいなくても、第三者へ事業を引き継ぐことができます。

従業員の雇用確保

事業承継ができないなど何らかの理由で廃業する場合、自社の従業員を解雇しなければならないため、経営者にとっての心理的ストレスも大きくなるものです。また、従業員にとっても新しく勤務先を探さなければなりません。

廃業となれば経営者・従業員ともに負担が大きくなりますが、M&Aを活用すれば売り手側の従業員(雇用)を買い手側へ引き継ぐことができます。

使用するM&A手法によって雇用の継続に必要な手続きは変わりますが、障害福祉サービス業は慢性的な人材不足が課題となっているため、買い手側にとってもメリットのある方法です。

創業者利益の拡大

M&Aを行った場合、売り手側は譲渡益を得ることができ、株式譲渡の場合はオーナー株主、事業譲渡の場合は法人が利益を得ます。

事業譲渡の場合は退職金などのかたちで受け取る必要はありますが、オーナー経営者はまとまった利益を得ることができるのもM&Aの大きなメリットです。

廃業手続きの手間を削減

廃業を選択した場合、従業員や取引先への通知、廃業の届け出、税金や保険関係の届出など、さまざまな手続きが必要です。また、手間だけでなく費用も当然かかり、経営者が個人保証を負っている場合はそのまま残ります。

廃業手続きにかかる手間や費用、個人保証などの存在は経営者にとって大きな負担となりますが、M&Aを活用すればこれらの手間を削減することができ、前述した創業者利益も得ることが可能です。

利用者の継続利用

障害者福祉サービス事業者が廃業を選択する場合、考えなければならないのはサービス利用者の存在です。障害者福祉サービスの利用者は新たに利用先を探さなければならず、不安や混乱を招く場合もあるでしょう。

一方でM&Aを活用した場合、利用者にとっては運営元が変わるものの、サービスを継続して利用することができます。

5. 障害者福祉サービスのM&Aで用いられる主な手法

障害福祉サービスのM&Aでは、主に2つの手法が用いられます。この章では、それぞれの手法を見ていきましょう。

①事業・事務所譲渡

事業・事務所譲渡は、障害福祉サービスの事業もしくは事務所だけを譲渡できます。買い手のメリットは、対象の資産のみ譲り受けるので負債を背負う必要がないこと、価格を低く抑えられることなどです。

しかし、事業・事務所譲渡の場合は基本的に従業員を引き継げず、引き継げたとしても離職の可能性が高まる点はデメリットになります。

障害福祉サービスの事業・事務所譲渡を行う場合は、旧事業所の廃止と新事業所の指定申請手続きを同時に行わなければなりません。

②株式譲渡

株式会社がM&Aを行う際に最も一般的な手法です。会社の経営権を移転させるため、事業に関する許認可や従業員の雇用契約、取引先との契約などを個別に引き継ぐ必要がなく、手続きが比較的簡便な点がメリットです。一方で、売り手企業の負債や不要な資産もすべて引き継ぐことになるため、事前のデューデリジェンス(企業調査)が極めて重要になります。

③社員・持分の譲渡(合同会社・NPO法人など)

株式会社以外の法人形態、例えば合同会社や特定非営利活動法人(NPO法人)、社会福祉法人などのM&Aでは、株式譲渡とは異なる手法が用いられます。合同会社の場合は「持分の譲渡」、NPO法人や社会福祉法人では理事の交代などを通じて実質的な経営権を移転させる手法が考えられます。これらの手続きは会社法とは異なる法律に基づいており、専門的な知識が必要です。
 

合併

合併は、2つ以上の複数法人を1つの法人各に統合する手法で、新設合併と吸収合併の2方式があります。合併の大きな特徴は存続会社となる側のみが権利・義務をすべて承継して存続し、消滅側となる側の法人格が消滅することです。

新設合併と吸収合併の違いは存続会社となる側が新設会社なのか既存会社なのかという点であり、新設合併の場合は存続会社となる会社を新設し、残りの消滅会社はすべて法人格を消滅させます。

一方、吸収合併の場合は存続会社となるのは既存会社です。合併後は既存会社が権利・義務を承継したあと消滅します。

6. 障害者福祉M&Aの具体的な進め方と費用相場

障害者福祉サービスのM&Aを成功させるためには、適切なプロセスを理解し、費用感を把握しておくことが重要です。ここでは、M&Aの一般的な流れと費用について解説します。
 

M&Aの一般的な流れ

障害者福祉サービスのM&Aは、一般的に以下のステップで進められます。

  1. M&Aの専門家への相談: M&A仲介会社やアドバイザーに相談し、戦略を立案します。
  2. 相手企業の探索(マッチング): 譲渡側・譲受側の希望条件に基づき、候補となる企業を探します。
  3. トップ面談・条件交渉: 経営者同士が面談し、理念やビジョンを共有した上で、譲渡価格やスケジュールなどの基本条件を交渉します。
  4. 基本合意契約の締結: 大筋で合意した内容を書面にまとめ、基本合意書を締結します。
  5. デューデリジェンス(買収監査): 買い手側が、売り手企業の財務や法務、労務状況などを詳細に調査します。
  6. 最終契約の締結: デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件を確定し、株式譲渡契約や事業譲渡契約を締結します。
  7. クロージング・PMI: 譲渡代金の決済を行い、経営権を移転します。その後、円滑な事業統合を進めるPMI(Post Merger Integration)の段階に入ります。

企業価値評価(バリュエーション)の方法

M&Aにおける譲渡価格の算定には、企業価値評価(バリュエーション)が用いられます。主な評価方法には、企業の純資産を基準にする「コストアプローチ」、類似する上場企業の株価などを参考にする「マーケットアプローチ」、将来の収益性を予測して価値を算出する「インカムアプローチ」などがあります。障害者福祉事業では、事業所の収益性や専門人材の有無、行政との関係性なども加味して総合的に評価されます。
 

M&Aにかかる費用・手数料の目安

M&Aには、仲介会社に支払う手数料のほか、弁護士や会計士などの専門家に支払う費用も発生します。仲介手数料は、成功報酬型が一般的で、譲渡価格に応じて算出される「レーマン方式」が広く採用されています。着手金や中間金が必要な場合もありますので、契約前に料金体系をしっかりと確認することが大切です。

7. 障害者福祉サービスのM&Aの流れ

障害福祉サービスのM&Aを行う際は、全体の流れを把握すると、準備や手続きをスムーズに進められます。ここでは、生涯福祉サービスにおけるM&Aの大まかな流れを見ていきましょう。

①M&A仲介会社・M&Aの専門家に相談

障害福祉サービスのM&Aを行うためには、相手先を探し、そのうえで適切な手法を選択しなければなりません。

障害福祉サービス特有の注意すべきポイントも把握したうえで進めなければならないため、まずはM&A仲介会社・M&Aの専門家に相談してサポートを依頼するのが一般的です。

サポートの依頼先を決める際は、自社の規模と同じ程度の案件を扱うところ、障害福祉サービス業界のM&A支援実績があるところを選ぶとよいでしょう。

②M&A先の選定・交渉

サポートを依頼するM&A仲介会社・アドバイザーが決まった後に行うのが、M&A相手先の選定です。自社の希望条件をM&Aアドバイザーへ伝えると、見合った候補先をリストアップしてもらえるので、その中から交渉したい相手を決めます。

交渉したい相手先を選定したら、M&Aアドバイザーを通して具体的な交渉を行います。

③トップ同士の面談

トップ同士の面談は、双方の経営理念を確認したり互いの為人を見極めたりするなど、書面ではわからない情報を直接知る機会です。特に買い手側企業は買収後の統合プロセスを見据えたうえ、買収しても問題がないかを判断できる場でもあります。

④基本合意書の締結

トップ面談後、売り手・買い手双方がM&A成立に前向きである場合は、基本合意書の締結へと進みます。基本合意書は、ここまでの交渉で互いに取り決めた内容をまとめたものですが、この時点ではまだM&Aが成立していません。

基本合意書には、M&A手法や価格、今後のスケジュール、デューデリジェンスへの協力義務、独占交渉権付与などが盛り込まれています。一般的に、一部内容を除いて法的拘束力はありません

⑤買収側によるデューデリジェンスの実施

基本合意締結後は、買収側によるデューデリジェンスが実施されます。デューデリジェンスとは、企業監査のことで、財務や法務などの面から売り手側の企業あるいは事業を調査することです。

一般的に、デューデリジェンスは、各分野の専門家が調査を行います。所要期間は譲渡対象の規模により1カ月から2カ月程度です。デューデリジェンスの結果によっては、M&Aの条件や取引価格が変更されます。大きな問題がある場合は、M&A自体が白紙になることもあるでしょう。

⑥最終契約書の締結

デューデリジェンスを実施し、買い手側が買収して問題ないと判断した場合は、最終契約書の締結へ進みます。

最終契約書には、譲渡価格や譲渡対象、表明保証、クロージングの前提条件などが記載され、基本合意書とは異なり、すべての項目に法的拘束力が生じます

最終契約書の締結後、一方的に破棄した場合は損害賠償を請求されることもあるので、最終契約書の内容確認・理解が必要です。

⑦クロージング

クロージングとは、最終契約書の内容に沿ってヒト・モノ・カネなどが移動することです。例えば、株式譲渡によるM&Aの場合は、売り手の株式が買い手へ譲渡され、買い手はその対価を支払います。

通常は、クロージングの前提条件が最終契約で定められ、条件を満たせない場合はM&A自体が中止です。

⑧統合プロセスを実施する(買い手側)

クロージング後、買い手側は統合プロセスを実施します。統合プロセスをしっかり実施しなければ、従業員の離職率が高まるでしょう。

統合プロセスにはハード面とソフト面の2つがあり、ハード面は業務や情報システムなどを統一あるいは調整して事業運営をスムーズに進めるプロセスです。

ソフト面はいわゆる意識の融合で、新たな組織や企業理念に対して売り手・買い手双方の従業員が理解を深めるプロセスです。

統合プロセスではソフト面が難しくかつ時間がかかります。焦って進めると離職やモチベーションの低下につながりかねないため、時間をかけて慎重に進めてください。

8. 障害者福祉サービスのM&Aにおける注意点

この章では、障害福祉サービスのM&Aで、買い手側が注意すべき点を見ていきます。障害福祉サービス特有のポイントもあるので、しっかり理解しましょう。

①同地域に存在する同サービスの数

障害福祉サービスのM&Aを行う際は、同地域に存在する同サービスの数を確認しておくことが大切です。

国内における障害福祉サービスの利用者数は年々増加しており、それに伴い施設数も増えています。M&Aを行う地域の障害福祉サービス数が多すぎると、競争は当然厳しく利用者を確保できない可能性もあります。

特にM&Aによって新規参入を図る場合は、事前の調査をしっかり行うことがポイントです。売り手の希望譲渡価格が相場よりもかなり安い場合は、譲渡理由も確認しましょう。

②施設の広さ・賃料を確認しておく

障害福祉サービスのM&Aを行う際は、施設の広さ・賃料を確認することがポイントです。障害福祉サービスの事業を取得する場合、営業を行うには行政への申請が必要になります。

しかし、M&A時点で売り手の施設が営業をしていても、売り手側が行政に許可を得ずに区画を変更している可能性もあるでしょう。こういったケースでは認可が下りないこともあるので、リスクを回避するためにも施設の広さ・賃料を再確認してください。

③利用者・受け入れ者数を確認する

障害福祉サービスのM&Aを実施するときは、収益性を見計らうために利用者・受け入れ者数を確認することも大切です。

買収後すぐに得られる売上や、買収後に利用者が増加したときの最大売上が予測できるので、中長期的な経営計画を立てやすくなります。可能であれば、周辺地域における見込み顧客のリサーチも行うとよいでしょう。

④有資格者の人数を確認する

障害福祉サービスの事業運営には、支援事業によってサービス管理責任者や児童発達支援管理責任者などの人員配置基準が設けられています。

M&Aで障害福祉サービス事業に参入する場合は、人員配置基準を満たせなければ新規申請の認可が下りず、事業開始が大幅に遅れてしまいます

M&Aに際しては、有資格者の人数を確認し契約条件を精査しましょう。

⑤許認可の有無を確認する

障害福祉サービスのM&Aにおいては、許認可に関する事項に特に注意を払う必要があります。これらのサービスは、許認可業種であるとともに、補助金や助成金と深く関係しているため、基準が守られているか、不正受給が行われていないかを厳重に確認することが重要です。

⑥従業員の流出が起こらないようにする

障害福祉サービスのM&Aでは、前述の人員配置基準を満たすためにも、買収後の従業員流出に対する配慮が必要です。

有資格者が離職すると、事業運営に大きな影響をおよぼしかねないので留意しましょう。M&A後の待遇などを従業員へ丁寧に説明し、職場環境にも目を配るなどの配慮も大切です。

譲渡前に流出してしまった場合のリスク

障害者総合福祉法で設置が義務付けられている、サービス管理責任者または児童発達支援管理責任者が離職した場合に問題となります。

離職後に株式取得で社会福祉サービスを法人ごと取得すると、人員欠如減算が生じます。この場合、リスクは翌々月からの基本報酬30%カットです。

離職後、事業譲渡により事業所を取得した場合は、新事業所の指定申請ができなくなるため開業できないリスクがあります。

⑦人員配置と減算を確認する

障害福祉サービスでは、法律で適正な人員配置や人員数が定められ、それが満たされない場合は基本報酬の減算により売上が減少するリスクがあります。適正な人員配置がなされているか、相手方の言葉をうのみにせず自社できちんと確認しましょう。

⑧立地状況を確認する

障害福祉サービスのM&Aを行う際は、障害福祉サービス事業所の立地状況も確認しておきましょう。立地状況によっては、障害を持つ方がより安全に利用するためにバスなどによる送迎サービスが必要なこともあります。

あらかじめ立地状況を確認しておけば、車両や人員確保などの準備を進められるため、M&A後のスムーズな事業展開が可能です。

⑨フランチャイズ契約の有無を確認する

障害福祉サービスの事業所をフランチャイズ契約によって運営している場合もあるので、M&Aを行う前に売り手のフランチャイズ契約の有無を確認しましょう。

フランチャイズ契約がある場合、M&A後も契約が維持できるかは契約時の内容によって変わります。

新規参入の場合は、フランチャイズ契約が維持できればノウハウなども得られるためメリットもありますが、ロイヤルティの支払いや経営の自由度といった面ではデメリットもあります。

売り手の障害福祉サービス事業所がフランチャイズ契約をしている場合は、内容をよく確認してメリットが大きいか検討することが大切です。

⑩ローン・リースの残債を確認する

売り手側にローン・リースの残債があると、希望譲渡価格が低く設定されることも多いため、相場より安価で取得することも可能です。しかし、M&A手法によっては負債も引き継ぐため、どの程度残債があるのかを事前によく確認しなければなりません。

特に事業譲渡の場合は、リース契約の名義変更が問題となりやすく、契約内容によっては名義変更できないこともあるでしょう。そういった場合、買い手は一括で残債を支払うことになり、金額によってはキャッシュフローにも影響をおよぼします。

⑪機材や施設の老朽化を確認する

障害福祉サービス事業のM&Aでは、取得する機材や施設の老朽化における事前確認が大切です。障害福祉サービス事業の認可を得るためには、利用者に対して安全なサービス提供ができるよう機材や設備の要件が定められています

要件は改定されることもあるので、買収先の機材や設備が現在の基準を満たしていない可能性もあるでしょう。特に創業歴の長い障害福祉サービス事業を買収する場合などは、機材や施設が老朽化していないかチェックしましょう。

⑫福祉的なデューデリジェンスの徹底

一般的な業界のM&Aと同様、株式譲渡を用いる際はM&Aによって簿外債務などを引き継いでしまうリスクがあるため、デューデリジェンスを行うことが重要です。

財務面だけでなく法務面でのトラブルを抱えていないかなどのチェックを行うため、各専門家に依頼してデューデリジェンスを徹底して行う必要があります。

障害福祉サービスのM&Aでは、有資格者の確保や法定の人員配置に対する配慮が必要です。一般的な財務、法務だけでなく、福祉的なデューデリジェンスを行うことをおすすめします。

⑬M&Aの専門家に相談する

障害福祉サービスのM&Aは注意するべき事項が多いため、安全・確実に進めるためにはM&Aの専門家によるサポートが不可欠といえます。M&Aを扱う専門家や相談先はいろいろありますが、障害福祉サービスあるいは介護事業の支援実績を有する専門家がおすすめです。

実績だけでなくM&Aアドバイザーとの相性なども重要になるので、無料相談などを活用して自社に合うところを探しましょう。

9. 障害者福祉サービスのM&A事例

この章では、過去に実施された障害福祉サービスのM&A事例を紹介します。

QLSホールディングスによるふれあいタウンとクオリスの合併

2024年1月、QLSホールディングスは、子会社であるクオリス(連結子会社)とふれあいタウン(非連結子会社)を合併すると発表しました。クオリスは介護・障害福祉サービス事業と保育事業、ふれあいタウンは介護・障害福祉サービス事業を手掛けています。

本合併は、クオリスが存続会社となる吸収合併方式です。QLSホールディングスは、クオリスとふれあいタウンの2社を合併することでグループ全体のリソースを有効活用でき、事業の合理化と効率化・合理化を図ることで経営基盤の強化につなげるとしています。

参考:子会社同士の合併のお知らせ

エルサーブによるAKの障がい者グループホーム事業譲受

2023年11月、QLSホールディングス傘下のエルサーブは、沖縄県のAKが手掛ける障がい者グループホーム事業を譲受すると発表しました。

AKは農園事業と障がい者グループホーム事業を手掛ける企業で、今回のM&Aで譲渡対象となったのは、グループホーム事業「g-port」です。

買い手のエルサーブはQLSホールディングスの完全子会社であり、保育事業と障がい福祉サービス事業を手掛けています。今回QLSホールディングスが当該事業を譲受したのは、沖縄県でのサービス提供エリアの拡大が主な目的です。

今回の事業譲受により、QLSホールディングス全体の九州・沖縄エリアにおける運営施設数は業界トップクラスとなりました。QLSホールディングスは人的リソースやノウハウを相互活用して、サービス品質や優位の向上を図り、QLSグループの持続的な成長を目指すとしています。

参考:当社連結子会社における一部事業譲受に関するお知らせ

メディカル一光グループによるライフケアの子会社化

2020年10月に実施されたメディカル一光グループによるライフケアの子会社化です。買い手側のメディカル一光は、三重県に本社を置き、調剤薬局事業を主軸としています。ライフケアは、愛知県で住宅型有料老人ホームを14施設運営している企業です。

メディカル一光グループは、ヘルスケア事業における規模拡大の一環としてライフケアの子会社化を行っています。

参考:当社連結子会社による「株式会社ライフケア」の株式取得 (当社の孫会社化)に関するお知らせ

ソラストによるファイブシーズヘルスケアの子会社化

2020年9月に行われたソラストによるファイブシーズヘルスケアの子会社化です。買い手側のソラストは、障害福祉サービス事業を全国展開しています。

売り手のファイブシーズヘルスケアは、2003年に設立された介護サービス事業を行っており、関西エリアで19事業所を運営する会社です。ソラストは株式譲渡によってファイブシーズヘルスケアを傘下に加え、関西エリアでの経営基盤強化を図ります。

参考:株式会社ファイブシーズヘルスケアの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

ケアサービスによる広域社会福祉会の訪問介護事業取得

2020年9月に実施されたケアサービスによる広域社会福祉会の訪問介護事業取得です。ケアサービスは東京都大田区内を中心に、訪問介護やデイサービスなど障害福祉サービスを行っており、売り手側の広域社会福祉会は、東京23区内を中心に障害福祉サービス事業を展開しています。

ケアサービスは、同じ都内で障害福祉サービスを展開している広域社会福祉会の介護訪問事業を取得することで、事業基盤の強化と既存事業とのシナジーを見込みます。

参考:事業譲受に関するお知らせ

10. 障害者福祉サービスのM&Aまとめ

障害福祉サービス業界は、M&Aによる大手・中堅事業者の事業規模拡大、異業種からの新規参入などが増え、競争がさらに厳しくなると予想されます。

この状況下、中小規模の事業者はどのように生き残るかが重要です。M&Aを活用するのも非常に有効な手段といえるでしょう。

11. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界の成約事例一覧

12. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界のM&A案件一覧

13. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界の成約事例一覧

14. 障害者施設 ・就労継続支援施設業界のM&A案件一覧

M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所

M&A・事業承継のご相談なら経験豊富なM&AアドバイザーのいるM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。

M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴

  1. 譲渡企業様完全成功報酬の料金体系
  2. 最短43日、平均7.2ヶ月のスピード成約(2025年9月期)
  3. 専門部署による、高いマッチング力
  4. 強固なコンプライアンス体制
>>M&A総合研究所の強みの詳細はこちら

M&A総合研究所は、成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。

>>完全成功報酬制のM&A仲介サービスはこちら(※譲渡企業様のみ)

関連する記事

新着一覧

最近公開された記事
障害者施設 ・就労継続支援施設のM&A・事業承継