ノウハウ×人材で拓く未来―
旭東HDのM&A構想とは
■インタビュー
譲受企業:旭東ホールディングス株式会社 代表取締役 田口 貴之 氏
1955年創業の旭東化学産業株式会社の親会社である、旭東ホールディングス株式会社が、2024年に北海道・函館の老舗製造メーカー、ポリホス化学を譲り受けた。 これまで拠点を関東に集中させていた旭東ホールディングスが、地縁もない遠隔地の企業を選んだ理由とは。そして、真摯に製造に向き合ってきたポリホス化学の想いは、どのようにして旭東ホールディングスと重なったのか──。
旭東ホールディングス田口代表に、本件の背景とこれからの展望を聞いた。
創業70年、技術力と柔軟性を武器に成長

「祖父がアイスクリーム用の増粘剤を扱う卸売業として会社を始めました。今年で70周年になります」と田口代表は語る。
創業以来、乳化剤や安定剤などの食品添加物・副原料を提供しており、加工食品・外食業界の“美味しさ作り”を支えてきた。
強みは、顧客の課題にスピーディーに対応できる小回りの良さ。
「開発・製造・納入までの一連を迅速に行えることで、お客様からの信頼を得てきました」。
“全くのゼロ”から始まった遠隔地M&A
今回のM&Aは、既存取引のある親会社との関係を起点に始まったが、ポリホス化学とは直接の接点がなかった。
「函館という地理的ハードルもあり、当初は正直、譲り受けるイメージは持てていませんでした」と田口代表は振り返る。
「ですが、資料を拝見し、現場を視察し、ポリホス化学代表をはじめとする皆様と面談するなかで、真摯な姿勢に強く惹かれました」。
「“この会社を私たちが引き継がなくてはいけない”という想いが、自然と湧いてきたんです」。
決め手は“人の誠実さ”がにじむ現場の空気
譲り受けを決定づけたのは、現場で働く社員たちの姿勢だった。
「初めてポリホス化学を訪れたとき、設備や建物ではなく、社員の皆さんの所作や雰囲気に強く心を動かされました。作業の一つひとつに誠実さがにじみ出ていて、“この会社となら間違いない”と直感的に思えたんです」と田口代表は語る。
“人を見て決めた”という言葉通り、相手の真摯なものづくりの姿勢こそが、旭東ホールディングスにとって最大の決め手となった。
“共創”で実現する内製化と拠点強化
譲り受け後、すでに一部製品の製造委託は始まっており、今後は本格的な内製化を目指す。
「70年かけて培ってきた製造ノウハウや衛生管理の知見を、ポリホス化学に共有していきます」と田口代表は語る。
函館という新しい地理的拠点が加わることで、将来的には販路拡大や設備投資、人材配置なども視野に入っている。
「単なる拠点拡大ではなく、共創によってグループ全体の厚みを増していきたい」。
つながりと専門性を重ねる、次なる一手
旭東ホールディングスでは、今後もM&Aを成長戦略の一環として積極的に活用していく方針だ。
「ただし、食品添加物・副原料という当社の専門領域に絞って検討します。目的は規模の拡大ではなく、提供価値の最大化です」。
“現場を見る”ことで変わる意識
田口代表は、M&Aを検討している経営者様に向けて、こう助言する。
「数字や資料だけでは分からないことがたくさんあります。ぜひ、実際に現場に足を運び、働いている人と対話してみてください。私自身も現場を見て、大きく意識が変わりました」。
“スピードと的確さ”が生んだ信頼関係
本件を担当したのは、M&A総合研究所のアドバイザー・佐藤廉。
「とにかくレスポンスが早い。基本的にその日のうちに進捗がありました。若いながらも非常に優秀で、私自身刺激をたくさん受けました」と田口代表は語る。
成約後には佐藤と二人で食事に行き、労をねぎらいながら語り合ったという。
「誰と組むか」が未来を決める──
旭東ホールディングスの田口代表が語る
M&Aの本質は、「人と人との信頼関係」だった。
担当者からのコメント

財務諸表等の表面上には見えない、従業員様の事業に対する思いやその会社の強みをしっかりと評価し、地域にとっても、譲渡企業様にとっても、ベストな形で成約できた事例だったと改めて感じております。
定型的なM&Aのディールに拘らず、時には譲渡/譲受双方の企業が現場に足を運び、従業員様とコミュニケーションを取り、今この事業に何が一番必要かを熱心にディスカッションされる姿は、事業承継という観点でのM&Aの本来あるべき姿そのものでした。
M&A後、既に業績も向上しており、担当者としても今後のPMIが非常に楽しみなディールとなりました。
(企業情報第六本部第二部 部長 佐藤 廉)