譲渡企業
株式会社電話放送局
代表取締役社長 森 正行様 インタビュー
創業から一貫した音声ビジネスの経験と知見
―まず、御社の創業の経緯と事業内容、強みについて教えてください。
創業者は別におりますが、26年前に入社した時から音声自動応答のビジネスを続けています。創業から一貫してこのサービスを提供してきた経験と知見の深さが、他社にはない当社独自の強みだと考えています。

―どのように事業を展開・拡大されてきたのでしょうか。
元々は企業にシステムを導入するオンプレミス型の事業が中心でした。しかし、収益性の確保が難しいという課題を感じ、20年ほど前に月額のクラウドサービスへとビジネスモデルを大きく転換しました。当時はまだサービス活用が世の中に知られていなかったため、地道に営業活動を続け、ホームページやリード獲得の改善にも注力しました。この決断が、現在の事業拡大の大きなきっかけになっています。
現状維持への危機感がM&Aを検討するきっかけに
―譲渡をお考えになったきっかけや背景を教えてください。
社内的な課題と、AIをはじめとする技術的な課題が大きな要因です。この数年の間に事業の停滞を感じていました。利益は出ていたものの、新しい挑戦や成長機会が見出せない状況が続いていたのです。2025年、26年を迎え、技術的なゲームチェンジが間違いなく起こると感じていたため、このままでは会社が終わってしまうという強い危機感を持ち、M&Aを検討し始めました。
―ご検討を進められる上で、ご希望や大事にされた条件を教えてください。
当社の価値がどのように評価されるのかを知りたかったという点が一つ。また、当社の文化や風土を大事にしながらも、プラスの変化を与えてくれる相手を求めていました。特に、同業他社や掛け算で新たなシナジーを生み出せない企業は最初から検討から外し、電話放送局の強みに、異なる強みを加えることで、互いのビジネスを成長させられるような関係性を重視し検討していました。
決め手は、AI技術とベンチャー気質
―最終的にGROWTH VERSE様への譲渡をご決断されましたが、印象や決め手を教えてください。
今後の事業継続にはAI技術が不可欠だと考えており、その技術を既にSaaS事業として展開しているGROWTH VERSEさんには魅力を感じました。また、南野会長の「すぐできる」という言葉からもスピード感を感じ、停滞していた当社に新しい風を吹き込んでくれると確信しました。それに、大企業よりもベンチャー気質の社風が、創業から常に挑戦し続けてきた当社の風土と合っていると感じたことも大きな決め手でした。

停滞からの脱却と新しい価値創造への期待
―今回のM&Aで期待することや今後のビジョンを教えてください。
お客さまに「本物」を届けたいという想いが強くあります。GROWTH VERSEさんのAI技術とビジョンに大きな期待を寄せており、今までにない新しいサービスを一緒に創造できることが楽しみです。この3年間、やりたいことが進められずに抱えていたストレスが一気に解放されるような気がしています。今後は、両社の強みを掛け合わせ、短期間で新しい価値をお客さまに提供していきたいです。
M&Aは「攻めの意思決定」である
―M&Aを検討されている経営者様へメッセージをお願いします。
まだまだ頑張れる年齢でキャッシュもあるので、「なぜ売るのか」と思われたこともありますが、何かを築くには時間がかかります。世の中のスピードが加速する中で、どうすれば最も効率的にパワーを手に入れられるかと考えた結果がM&Aでした。事業の伸ばし方は買収だけではありません。M&Aはネガティブな要素ではなく、自分たちのポジションをさらに高めるための「攻めの意思決定」だと考えています。
譲受企業
株式会社GROWTH VERSE
インタビュー:
代表取締役会長 兼 CTO 南野 充則 様
取締役CFO 諸冨 圭輔 様
株式会社ミダスキャピタル ディレクター 田中 菖平 様
AIを軸に連続的なM&Aで事業を拡大
―まず、御社についてご紹介いただけますでしょうか。
南野氏: 弊社は2021年にミダスキャピタルがスプリームシステムを買収したことが創業のきっかけです。ミダスキャピタルがAIを軸に事業を拡大する企業を創出したいという想いがあり、その基盤としてスプリームシステムを買収しました。現在は連続的なM&AとAI技術を掛け合わせ、カスタマーサポートやマーケティング領域のAI SaaS事業を展開しています。
―御社の強みについて教えてください。
南野氏: 強みは2つあります。1つ目は、マーケットのニーズに合わせたAIやシステム開発を最速で行えること。そして2つ目は、ミダスキャピタルを通じた強力なネットワークと営業力です。これらの強みを活かし、業界の課題解決の「センターピン」を狙っていくことに優れていると考えています。
歴史と知識に裏打ちされた事業への確信
ー今回譲り受けされた業界には、以前から関心があったのでしょうか?
南野氏: 以前から「電話」や「音声」といったツールに魅力を感じており、M&A戦略の中でも重要な位置付けでした。田中から電話放送局様の話を聞いた際、当社のビジョンに合致すると確信し、すぐに「やります」と回答しました。
―最終的に電話放送局様を譲り受けされた理由を教えてください。
田中氏: 電話放送局様は、ほぼ全てがリカーリング収入で顧客も偏りがなく、非常に安定した優良企業だと感じました。また、顧客のLTV向上に資するツールの獲得をM&Aで検討する中で、「電話」というチャネルは非常に魅力的でした。既存のサービスとの親和性も高く、ぜひ進めたいとすぐに感じました。

南野氏: 譲り受けの決め手は、マーケットが伸びるか、そして当社のAI技術を介在させることで、その企業の価値をさらに高められるか、という2つの観点でした。電話放送局様はこの両方を満たしていました。
森社長とお話する中で、長年の歴史に裏打ちされたドメイン知識の深さに感銘を受け、当社のAI開発力と掛け合わせれば、この領域でマーケットシェアを確実に獲得できると確信しました。
クロスセルによる相乗効果と海外展開への期待
―今回のM&Aで期待することや今後のビジョンを教えてください。
南野氏: まず、電話領域のセクターをしっかり伸ばしていきたいと考えています。電話放送局様と弊社のお客様は似ている部分も多いので、クロスセルによる事業拡大も期待しています。また、将来的には日本国内で築き上げたAI技術やサービスを、アジアやヨーロッパといった海外市場へ展開していきたいと考えています。
M&Aは継続的な事業成長の軸
―今後、事業展開の一つとしてM&Aを活用されることはありますか?
諸冨氏: 弊社はロールアップによる事業成長が金融機関にも高く評価されており、低金利での資金調達も実現できています。森社長にも弊社の株主になっていただき、グループ全体の企業価値向上に寄与いただけるような仕組みも構築しました。
M&Aを成功させるために
ーM&Aを検討されている経営者様へメッセージをお願いいたします。
■譲渡企業様へ
南野氏:M&A後のキャリアプランを明確にすることが最も重要です。引退したいのか、事業をさらに成長させたいのか。ご自身の望む未来をしっかりと考えた上で、最適な選択肢を選んでいただくのが良いと思います。
■譲受企業様へ
諸冨氏:財務やビジネス面だけでなく、ビジョンやカルチャーの適合性も非常に重要です。デューデリジェンスの過程で、相手の経営姿勢や価値観をしっかり見極めることが、M&A成功の鍵となります。
田中氏:M&Aは1件で終わっては意味がありません。ノウハウを蓄積し、連続的にM&Aを実行することで、初めて経営戦略としての価値が生まれるのだと思います。
最後に、M&A総合研究所にご依頼いただいた理由を教えてください。
森氏: 税理士の先生からのご紹介で守屋さんとお会いしたのがきっかけです。仕事が非常に早く、面談から交渉までスムーズに進みました。私の考えやビジネスをよく理解し、交渉を進めてくれたので安心して任せることができました。
田中氏:守屋さんは非常にプロフェッショナルで、細かいリクエストにも的確かつ丁寧に、常に1歩先を見据えたご提案をしていただきました。また、森社長の立場に立って物事を考えてくれていた点が印象的で、両者の橋渡し役として素晴らしい仕事をしていただけたのかなという風に感じてます。

長年の歴史を持つ電話放送局と、AI技術で急成長を続けるGROWTH VERSE。一見異なる両社の出会いは、お互いの強みを活かし合う理想的なM&Aとなった。電話放送局の新たな成長エンジンを求める想いと、GROWTH VERSEの戦略的なビジョンが見事に合致し、今回の成約に至った。日本の未来を担う両社の融合により、音声ビジネスとAI技術のシナジーが生まれ、さらなる革新的なサービスが創造されることが期待される。
担当者からのコメント
本件は、伝統と革新が見事に融合した、理想的なM&A事例となりました。
電話放送局様の26年にわたる音声ビジネスの深い知見と、GROWTH VERSE様のAI技術・スピード感ある経営という、互いの課題を補完し合う構図が早期に見えたことが成約に導く決め手となりました。
特に印象的だったのは、電話放送局・森社長の「攻めの意思決定」という言葉に象徴される前向きな姿勢と、GROWTH VERS・南野会長の「すぐできる」という即断力でした。単なる事業承継ではなく、両社の強みを掛け合わせた新たな価値創造への強い意欲が、交渉をスムーズに進行させたと考えております。
今後、音声×AI領域での革新的サービス展開と、海外市場への展開により、両社の企業価値がさらに向上することを期待しております。このような志の高い経営者同士の出会いをサポートできたことを、担当者として非常に光栄に思います。
(執行役員 兼 企業情報本部 本部長 守屋 俊毅)
