成約インタビューM&A事例

養鶏場のM&A事例【大分県】

若い従業員の想いが導いた
地域再生への道

  • 譲渡企業

    株式会社平野産業・株式会社にわとり家

    業種
    養鶏業
    地域
    大分県
    売上
    約6億円
    社長の年齢
    63歳
    譲渡理由
    後継者不在
  • 譲受企業

    株式会社Fahne

    業種
    コンサルティング業
    地域
    大分県
    売上
    非公開
    上場有無
    未上場
    譲受目的
    事業承継、日本の食産業を守るため

年間150万羽のブロイラーを産出する株式会社平野産業・株式会社にわとり家(大分県)が、地域再生を掲げる株式会社Fahne(大分県)に譲渡を決断された。長年築き上げてきた元代表取締役・北原元良氏が廃業を検討していた中、若い従業員の熱い想いがM&Aという新たな道を切り開いた。一方、7社のM&Aを手掛け地域活性化を目指す代表取締役・清家巧貴氏が、なぜ第一次産業に注目したのか。それぞれの想いと決断の背景を伺った。

【譲渡企業】株式会社平野産業・株式会社にわとり家
本社:大分県
事業内容:養鶏場運営

【譲受企業】株式会社Fahne
本社:大分県
事業内容:九州地方の後継者不在企業に対する事業承継支援

譲渡企業
株式会社平野産業・株式会社にわとり家
元代表取締役・北原 元良氏インタビュー

父の事業を引き継ぎ4つの農場を経営

―まず、御社の創業の経緯について教えてください。

「30代で父の事業を手伝い始め、40代で会社を引き継ぎました。現在は4つの農場を運営しています。父が立ち上げた朝日農場を、私の代で法人化したました。」

北原氏が引き継いだのは、父が築いた基盤だった。そこから段階的に規模を拡大し、現在では平野産業で3つの農場、にわとり家で1つの農場の計4つの農場を運営する体制を構築した。

―御社の事業内容と強みについて教えてください。

「年間およそ150万羽弱の食用鶏を出荷しています。1つの農場が3ヶ月のサイクルで回っており、年間で12〜15回の収入機会があります。繁忙期と閑散期を見極めたうえで人員配置を最適化し、4農場を効率的に運営できている点が当社の強みです。」

ブロイラー事業の特徴を活かした効率的な運営システムが、平野産業・にわとり家の競争力の源泉となっている。複数農場によるリスク分散と安定収入の確保を実現していた。

困窮する農場を引き継ぎながら成長

―どのように事業を展開・拡大されてきたのでしょうか。

「これまで農場の取得は、近隣事業者が資金繰り悪化などで事業継続が困難になったタイミングで引き継いでまいりました。直近の農場取得は60歳手前でしたが、その際の譲渡元の経営者も年上の方々でした。」

北原氏の事業拡大は、地域の困窮する農場を救済する形で進められた。業界の高齢化が進む中、比較的若い経営者として地域の農業を支える役割を担ってきた。

―事業方針に変化はありましたか?

「無我夢中で4つ目の農場まで拡大していったものの、当初は最終的には規模を縮小して、細々とやっていき、老後はゆっくりしていこうかなと予定しておりました。
しかし、規模も大きくなり、若い従業員も増えたことによって、事業方針の選択肢が増えていきました。」

若い従業員の熱意が心を動かした

―譲渡をお考えになったきっかけを教えてください。

「自分にできる範囲で無理のない経営を心がけていた中、若い従業員から『将来を見据えたとき、10年後・20年後も働ける環境を整えてほしい』と強く要望がありました。」

北原氏は当初、現状維持での経営を考えていた。しかし、若い従業員からの強い要望が、その方針を見直すきっかけとなった。

―その時のお気持ちはいかがでしたか?

「若い従業員の将来を考えると、彼らの活躍の場を残すことは私の責任だと感じました。この仕事を誇りを持って続けてもらえるようにしたいと考えています。」

北原氏の決断の根底には、従業員への深い愛情がある。自分のことより、若い世代の未来を考えた結果の選択だった。

長年の信頼関係を守り抜く

―検討を進められる上で、大事にされた条件はありましたか?

「30年以上にわたりお取引いただいているお客様との関係を今後も維持していくことが何より重要だと考えていました。先方の仕入れの3割が当社経由だったため、突然の供給停止でご迷惑をおかけしないよう配慮しました。」

30年という長期にわたる信頼関係を重視する北原氏。取引先への責任感が、譲渡条件の最重要項目となった。

人柄への信頼が決め手


―最終的にFahne様への譲渡をご決断された理由を教えてください。

「清家代表のM&Aに対する考え方は以前から聞いており、信頼を寄せていました。また、地域の小学生とボランティアで野球をされていると聞き、その姿勢からも誠実なお人柄が伝わってきました。」

清家氏の第一印象が、北原氏の信頼を得た。M&Aという複雑な取引においても、最終的には人と人との信頼関係が決め手となった。
また、北原氏が最も重視していた既存取引先との関係継続を、清家氏が理解してくれたことも決定的だったという。

会社の永続的な発展を願って

―今回のM&Aで期待することを教えてください。

「30歳から事業に打ち込んできた私にとって、会社はまるで我が子のような存在です。だからこそ、いつまでも続いてほしいと願っています。」

北原氏にとって会社は、人生をかけて育ててきた「我が子」のような存在。その想いが、適切な承継先選びへの真剣さにつながった。

M&Aを考えている経営者様へのメッセージ

―譲渡を検討されている経営者様へ

「将来的に誰が承継するかが明確でなくても、会社の価値を客観的に評価しておくことは非常に有意義です。強み・弱みを見直し、対策するための第一歩になると思います。」

北原氏は、早期の企業価値評価の重要性を強調する。準備期間を設けることで、より良い条件での譲渡が可能になると実感している。

―具体的にはどのような準備をお勧めしますか?

「承継は、子どもであれ第三者であれ、いずれ必要になるプロセスです。AD(アドバイザリー契約)締結の前に複数の企業と話をし、企業価値評価を受けておくことも有効だと思います。」

譲受企業
株式会社Fahne
代表取締役 清家 巧貴氏インタビュー

地元の力で、地域を動かす

―まず、御社についてご紹介いただけますでしょうか。

「地元で税理士として勤務した後、大手コンサルティング会社へ転職しました。その経験を活かし、地元・佐伯市で独立。現在は中小企業向けのコンサルティングおよび税務業務に加え、後継者不在に悩む九州地域の企業をM&Aで譲り受ける取り組みも行っています。」

清家氏の原点は、地域への貢献意識にある。大手コンサルティング会社での経験を活かし、地元での事業承継支援に取り組んでいる。

地域グループ化による活性化戦略

―M&Aを検討されたきっかけを教えてください。

「これまでに7社のM&Aを手がけてまいりました。大分県佐伯市では小中学校がいずれも廃校になるなど、地域の過疎化が深刻です。こうした地域課題に対応するには、エリア内の企業連携やグループ化を進めることが重要だと考えています。」

清家氏のM&A戦略は、単なる事業承継支援を超えた地域再生プロジェクトとしての側面を持つ。学校の廃校という深刻な状況が、その使命感を強めている。

従業員の熱意と第一次産業への注目

―最終的に、平野産業様・にわとり家様を譲り受けされた理由を教えてください。

「譲渡の経緯については以前から伺っていましたが、廃業を検討されていた中で、社員の方からM&Aの可能性をご提案されたと聞いています。その熱意に心を打たれ、第一次産業を支える一助になりたいと考えるようになりました。」

従業員発案のM&Aという珍しいケースに、清家氏は強い関心を持った。第一次産業への参入も、地域活性化戦略の一環として位置づけている。

―北原氏の印象はいかがでしたか?

「長年、第一次産業を支えてこられた姿勢に強く共感しました。言葉数は多くない方かもしれませんが、誠実さが言葉の端々から伝わってきて、“一緒に歩んでいきたい”という思いが自然と湧いてきました。」

北原氏の人柄への評価が、清家氏の判断に大きく影響した。M&Aにおいて、経営者同士の相性は重要な要素となる。

―事業的な魅力はいかがでしたか?

「地域の小規模農場の譲受を継続してきたご経歴もあり、年間100万羽超の生産体制を維持できたことは非常に意義深いと感じています。今後はヨーロッパへの輸出など、国の支援策も追い風に、さらなる事業拡大を図っていきたいと考えています。」

スマートアグリカルチャーを目指して

―今回のM&Aで期待することや今後のビジョンを教えてください。

「先代社長が築いてこられた基盤を活かしつつ、DXやAIを活用した効率的な生産体制の強化を推進してまいります。人口減少が進む中、“スマートアグリカルチャー”の実現は、持続可能な経営の鍵になると考えています。」

清家氏の構想は、伝統的な養鶏業にデジタル技術を融合させた次世代養鶏業の実現。人口減少という地域課題への実践的な解決策を提示している。

地域を超えた展開も視野に

―今後も事業展開の一つとしてM&Aを活用されますか?

「生産性向上に資する取り組みは、佐伯市に限らず他地域でも展開していく構想です。佐伯市は地盤が不安定なエリアでもあり、災害リスクへの備えとしても、複数拠点での事業展開を視野に入れています。」

リスク分散の観点からも、地域を超えた事業展開を検討している清家氏。地域再生というミッションを軸に、より広域での戦略を描いている。

M&Aを考えている経営者様へのメッセージ

ー譲渡企業様に向けて

「譲渡というのは、経営者様にとって何度も経験することではありません。だからこそ、まずは外部の視点を取り入れてみることをおすすめします。」

ー譲受企業様に向けて

「M&Aはかつてよりも広く認知されるようになりました。生産性を高める選択肢のひとつとして、積極的に検討していただけると良いと思います。」

清家氏は、M&Aを特別な取引ではなく、経営戦略の選択肢の一つとして捉えることの重要性を強調した。

最後に、M&A総合研究所にお任せいただいた理由を教えてください。

【北原氏】「多くの仲介業者からお話をいただいていましたが、アドバイザーの川本さんが『神に導かれないと進まない』とおっしゃっていたのが印象的でした。ご縁のある方だったからこそ、このお話が自然に進んだのだと感じています。」

【清家氏】「川本さんとは今回で2度目の仲介を行っていただきました。譲渡企業・譲受企業の双方に気を配りながら対応される中、非常に誠実かつ丁寧にサポートいただいたと感じています。」

―サポート面ではいかがでしたか?

【北原氏】「専門的な用語や契約内容を、すべて明文化してご共有いただいたので、税理士や関係者への連携も非常にスムーズに行えました。似通った書類が多い中で、内容を整理して書き起こしてくださったおかげで、ミスなく準備を進められたのは本当に助かりました。」

アドバイザー・川本の丁寧なサポートが、複雑なM&Aプロセスを円滑に進める原動力となった。

若い従業員の想いから始まったM&Aが、地域再生という大きなビジョンと出会った。長年ブロイラー事業を築き上げてきた北原氏の愛情と、地域活性化に情熱を注ぐ清家氏の使命感が見事に融合した結果と言える。廃業の危機に直面していた150万羽の生産体制が、スマートアグリカルチャーという新たなステージで再出発を切る。従業員の熱意が導いた「進むべくしてのM&A」は、地域の未来に新たな希望をもたらすものとなった。

担当者からのコメント

この度、大分県の養鶏業を営む企業様のM&Aをご支援させていただきました。 売主様は心の底から会社・従業員様・取引先様を大事になさっており、その想いを真摯に受け止め、承継してくだるお相手探しが本件のポイントであり、望んでも最適な譲受企業が円滑に見つかるとは限らない世の中ではございますが、まさにその条件に合致する素晴らしい買主様とのご縁をお繋ぎすることができました。 本件により、黒字廃業問題及び日本の食を支える生産者を守る一助を担うことができ、担当者として大変嬉しく思っております。 今後ともご両社様の更なる発展を願っております。
(企業情報第五本部第一部 シニアマネージャー 川本 泰史朗)
川本 泰史朗

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※ 本ページには、成約時期に関わらず、過去に弊社がお手伝いさせていただいたお会社様の一部を掲載しております。

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