技術を未来へつなぐ “設計開発の魂”と共創
■インタビュー
譲渡企業:製造業K社 代表取締役 T.K.氏
名古屋で精密機器の設計・販売を手がけてきたK社。
創業から約30年、ものづくりにこだわり続けてきた同社が、事業のバトンを渡した相手は、和歌山に本社を置く産業用インクジェットプリンターメーカーだった。
設計開発を軸に歩んできた技術者としての哲学、そしてM&Aを通じて見据える未来とは──。創業者であるK社代表に話を聞いた。
「好きなことを一生やりたい」エンジニアとしての独立
「元々は大手メーカーでエンジニアとして働いていました」。
K社代表が独立を決めたのは38歳のとき。開発や営業で国内外を飛び回る中で、やりがいを感じられなくなったことがきっかけだった。
「給料よりも、自分が好きなことをずっと現場でやっていたかったんです。だったら自分でやろうと、起業を決意しました」。
当時、企業の開発部門に部分委託で仕事を出すという考えは珍しかった。そんな中、図面を引くだけでなく、試作や製造にまで踏み込む提案で信頼を獲得し、地道に顧客との関係を築いていった。
“泥臭く、誠実に”培った信頼
「飛び込み営業もたくさんしました。『設計やらせてください』と言っても、最初は製造やライン設計の依頼が来たりして、試行錯誤の連続でしたね」。
メーカー時代の繋がりを活かして受注を広げながら、一件一件の仕事に真摯に取り組んできた代表。口コミで広がる依頼の中で、“図面だけでなく、実装までやる”というスタンスが評価されていった。
「担当者が代わると関係が途切れるリスクもある。だからこそ、企業全体と信頼関係を築く必要があると思っています」。
“80歳まで現役”のつもりだったが…

M&Aを意識したのは、70代を迎えてからだった。
「80歳までは現役でやるつもりでした。ただ、息子が継がないことがわかり、このままでは社員も仕事も行き場を失う。それは避けたかったんです」。
創業者として、会社を潰すという選択肢は最後までなかった。「起業したからには継続していきたい。だからこそ、同じ業種で、技術を伸ばしてくれる会社に託したいと思っていました」。
決め手は“違うけれど近い”存在
譲受企業は、産業用インクジェットプリンターの開発・製造を行うメーカー。まったくの異分野ではなく、しかし完全に重なるわけでもない。そこが魅力だった。
「全く同じ業種だと、想定内の展開しか起きないと思ったんです。でも譲受企業さんは、今の自社の強みを生かしながら新たな枝葉を伸ばしていく発想を持っていた。だからこそ、技術者としてもワクワクしました」。
会社全体を見てくれるか──この一点でも、同社は理想的な相手だったと語る。
“今ある技術”をさらに育ててほしい
今回のM&Aで最も期待しているのは、「今やっていることをそのまま伸ばしてもらうこと」。
「譲受企業さんのリソースと弊社の技術が掛け合わされば、今よりももっと太く、強くなれると思っています。そして、今とは違う分野で新しい価値を生み出していけるのではないかと」。
M&Aは、ただの取引ではなく、共創の始まりだという想いが強く伝わってくる。
“売れればいい”では終わらせない
譲渡を検討する経営者様に向けて、代表はこう語る。
「起業した会社を手放すというのは、本当に大きな決断です。でも、なんでもいいから売ってしまえばいいというわけではない。誰に、何を託すのか。それをしっかり見極めてほしいと思います」。
アドバイザーの誠意がすべてを動かした
M&A総合研究所を選んだ理由について聞くと、「アドバイザー沼田さんの人間性です」と即答する代表。
「実は、他にも多くの仲介会社から話がありました。でも、沼田さんはビジネスライクじゃなかった。それが逆に信頼できた。直感でした」。
手続きの進行も非常に丁寧で、確認を怠らず、スケジューリングも的確。譲受企業との関係構築にも気を配ってくれたという。
「M&Aは、人生で何度も経験するものではありません。そんな中で、安心して任せられたのは大きかったですね」。
“信頼”と“技術”が未来をつくる──。
代表の覚悟と挑戦が重なり、新たな設計開発の
ステージが今、動き出そうとしている。
担当者からのコメント

オーナー様は70代というご年齢を感じさせない、非常にエネルギッシュでバイタリティ溢れるお人柄でした。ご子息も同業種に従事されておりましたが、単なる親族承継ではなく、M&Aで外部企業の血を入れる方が、会社としてさらに前進していけるのではないか、と熱く語ってくださったことが印象的です。譲受企業様は、これまでオーナー様が大切にされてきた想い、技術、会社の歴史など、全てを温かく包み込んでくれるような存在でした。オーナー様のお言葉に真摯に耳を傾けていただき、「一緒に成長していきましょう」という、まさに理想的なM&Aが実現したことは、担当者として誇りに思います。両社のますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。
(企業情報第一本部第二部 マネージャー 沼田 俊介)