「音楽と心の教育」を未来へ―
学校法人と不動産業が描く、
幼児教育をつなぐM&Aの裏側
■インタビュー
譲渡企業:学校法人U 評議員O.D.様、S.D.様
埼玉県で長年、幼児教育に力を注いできた学校法人U。
その中心にあった幼稚園は、情操教育としての音楽に強みを持ち、地域に根ざした教育活動を続けてきた。
しかし、時代の変化とともに園の運営は難しさを増し、M&Aという決断に至った。
今回、その意思を受け継いだのは、神奈川を拠点とする不動産業F社。
伝統を守りながら新たな価値を加えるパートナーシップの背景を、両者に聞いた。
「教育を受けられなかった世代が、幼児教育を守った」
学校法人Uの始まりは、創業者が幼い頃に教育を受けられなかった実体験にある。
「だからこそ、子どもには音楽に触れてほしいという思いが強く、“音感教育”を柱に据えました」。
3~4歳から楽器に触れることで、感性や創造力を伸ばす。「どの子にも才能がある。その芽を卒園までに見つけてあげたい」―それが園の方針だった。
親御さんの思いに寄り添い、送迎無料・価格据え置きなど、教育だけでなく家庭への配慮も徹底してきた。
補助金ゼロでも守った教育方針、そして突然の喪失
運営は一貫して自立を貫き、行政からの補助金も利用せずにやりくりしてきた。
だが、理事長の突然の逝去が、園を大きく揺るがした。
「何をどうすればいいか、手探りの毎日でした。財務の不安、後継者の不在。運営の継続が難しくなる中で、M&Aという選択肢に出会いました」。
当初はM&Aという言葉すら知らなかったというが、「知り合いの園が譲渡した話を聞いて、“0円でもいいから譲渡したい”と思った」と振り返る。
「名前の由来を気にしてくれた」──出会いの印象で変わった

最終的に譲り受けを決めたのが譲受企業の不動産業F社だったが、実は候補には複数社があったという。
「私たちは、理事長の思いを尊重し、園の名前や方針を守ってくれる会社を探していました。その中で唯一、名前の由来まで聞いてくれたのがF社さんでした」。
候補の中でも最後に加わったF社だったが、「一番熱意が伝わってきた」と振り返る。
古き良き文化を残しながら、より多くの子どもたちに
今後のビジョンとしては、伝統を継承しつつ、より多くの家庭に選ばれる園を目指す。
「事故がなく、安全に楽しく過ごしてもらえたらそれでいい。園児にとって良い時間になることを一番に願っています」。
「財務の確認」そして「相談できる関係」の大切さ
譲渡を検討している経営者様に向けたメッセージとして、次のように語る。
「もっと早く財務をしっかり確認していればよかった。狭い業界で、M&Aという選択肢があることすら知りませんでした。でも、選択肢に出会えたことで救われたと思います」。
そして、M&Aアドバイザーには「遠慮せず、わがままを言うことも大事。疑問や不安は、どんなに小さくても相談するべきです」とアドバイスを添えた。
アドバイザーがいたから、乗り越えられた
M&A総合研究所のアドバイザー・辻本について、「正直、しんどい場面もたくさんありました。でも、辻本さんの目力と誠実さに支えられました」と語る。
「DD(デューデリジェンス)の書類作成など、本来ならもっと大変なはず。でも、私たちにわかりやすく導いてくれて、何とかやり切ることができた。全くの異業種で、言葉もよくわからなかったけれど、根気強く寄り添ってくれました」。
そして何より印象的だったのは、「結婚記念日にバラの花束を持って来てくれたこと。あれは本当に驚きました」と笑う。

“教育とは、想いを継ぐこと”──
M&Aは子どもたちの未来を守り育てる
「志のバトンパス」だった。
担当者からのコメント
幼稚園の運営を主として行ってきた理事長の突然の逝去により、園児募集を停止し、閉園を検討しているとのご相談を当初頂戴しました。 一方で、理事長の想いや長年の歴史がある幼稚園を存続させたい、との素晴らしいお気持ちも強く持たれていました。 譲受企業様には状況を初期段階からよくご理解頂き、ご決断もスピーディーに行って頂いた為、譲渡企業様のM&Aのストレスも最小限に進めることが出来ました。 今後は園舎の修繕や園児募集を再開される予定で、更に地域に必要とされる幼稚園になられると思います。 今回のご成約により、地域の幼児教育を守ることができたこと、担当者として心から嬉しく思います。
(企業情報第七本部第二部 次長 辻本 晃希)
