管工事会社の事業承継の動向は?相談先や事例を解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、建設業界の1業種である管工事会社の近年における事業承継動向や、管工事会社の事業承継を成功させるポイントについて解説しています。また、管工事会社の事業承継を行う際の相談先や事業承継の事例も、併せて紹介しています。

目次

  1. 管工事会社の事業承継
  2. 管工事会社の事業承継動向
  3. 管工事会社の事業承継が行われる理由
  4. 管工事会社を事業承継する際の相談先
  5. 管工事会社の事業承継の事例
  6. 管工事会社の事業承継を成功させるポイント
  7. まとめ
  8. 電気工事・管工事業界の成約事例一覧
  9. 電気工事・管工事業界のM&A案件一覧
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1. 管工事会社の事業承継

管工事会社の事業承継動向・成功させるためのポイント・事例についてご紹介する前に、まずは管工事会社の概要や事業承継について解説していきます。

管工事会社とは

管工事会社とは、建設業界の中でも空調機器・ガス機器・冷暖房機器などの、配管設備の施工・管理を行う会社をさします。

管工事会社の業務内容は、建設業法によって細かく定められていますが、水道施設工事・消防施設工事・清掃施設工事など類似した業種もあることから、複数の建設業許可を取得して事業を行っている管工事会社が多数あります。

事業承継とは

事業承継とは、事業を後継者に引き継ぐことをいいます。事業承継は引き継ぐ対象者によって、親族内事業承継・親族外事業承継・M&Aによる事業承継の3つに分けられます。

①親族内事業承継

親族内事業承継とは、経営者の親族に事業を引き継ぐことです。

以前は日本の中小企業における事業承継では、経営者の長男が事業を継ぐことが大半でした。しかし、現在では子どもを含め親族が事業を継ぐことは少なくなっています。

②親族外事業承継

親族外事業承継とは、自社の役員や従業員といった会社や経営者と関係のある相手に事業を引き継ぐことです。

社外から経営者を招く形の親族外事業承継は、中堅企業でよく行われており、承継前に後継者の人間性や適性を把握できる利点があります。

③M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継とは、親族や関係者以外の第三者に事業を引き継ぐことをさします。

近年の動向としては、親族内事業承継が多かった小規模事業者や中小企業が、M&Aによる事業承継を選択するケースが増えています。

また、このような事業承継需要に対応するため、金融機関や公的機関などもサポート体制を強化しています。

2. 管工事会社の事業承継動向

管工事会社の事業承継動向は以下のように推移しています。

  1. 後継者不足による廃業・倒産
  2. 許認可業者数は長期的には減少傾向
  3. 大手や異業種からのM&Aによる事業承継
  4. リフォーム事業の活況による事業人気

①後継者不足による廃業・倒産

建設業界の他業種と同様に、管工事会社でも後継者不在が原因となり、休廃業するケースが増えています。

中小管工事会社のM&Aによる事業承継需要は高まっているものの、成約件数の割合はまだまだ少ないことから、廃業を選ばざるを得ない管工事会社も多数存在しているといえるでしょう。

②許認可業者数は長期的には減少傾向

近年の動向として、建設業界の大手・中堅企業が総合的なサービスを展開するようになり、管工事専門で行う中小企業は廃業や事業売却を余儀なくされています。

また、経営者の高齢化や後継者不在も要因となり、管工事の許認可保有業者数は長期的には減少傾向にあります。

③大手や異業種からのM&Aによる事業承継

近年は、大手設備工事関連会社が管工事も含めた総合的な設備サービスを行うケースや、大手建設会社が自社グループ内で管工事などの設備機器販売・施工も行うケースが増えています。

自社内・自社グループ内で総合サービスを行うために、管工事会社を事業承継により取得するケースが見られます。

④リフォーム事業の活況による事業人気

近年、新築住宅の需要が減少する中、リフォーム・リノベーションの需要が高まっています。

リフォーム・リノベーションの需要に伴って、建設業界では更なる収益確保のため、マンションやホテルなどの受注額の大きいリフォーム案件の獲得も図っています。

そのような背景から、建設業界の他業種が管工事事業を獲得し、サービスの充実を図る動向も見られます。

3. 管工事会社の事業承継が行われる理由

管工事会社の事業承継は、主に以下のような理由で行われます。

  1. 後継者問題の解決
  2. 従業員の雇用確保
  3. 事業承継税制の影響

①後継者問題の解決

管工事会社に限らず、近年では後継者問題解決のため、廃業ではなく事業承継を選ぶ企業が増えています。

地方自治体・商工会議所・地方銀行などの機関が事業承継の周知を進めていることが、一定の効果を上げ始めていると考えられます。

事業承継では、廃業の場合とは異なり事業を残せるうえ売却益を得られる点がメリットです。

②従業員の雇用確保

廃業の場合、従業員を整理解雇したり次の就職先を個別に探したりするなど、経営者の精神的負担は非常に大きくなります。

しかし、事業承継であれば、経営者の信頼できる相手企業に従業員の雇用を引き継いでもらうことが可能です。

③事業承継税制の影響

事業承継の際には、事業承継税制を活用することによって、税の負担を軽減できます。

旧事業承継税制では、十分なメリットが得られず結局負担が大きいという実情がありました。

しかし、平成30年度の事業承継税制改正によって要件が緩和され、活用しやすくなったことによって、事業承継に踏み切る中小企業が増えています。

税制改正による具体的措置には、以下のようなものがあります。

  • 株式数上限の撤廃
  • 雇用要件の見直し
  • 対象者の拡充
  • 経営環境の変化に合わせて減免
  • 相続時精算課税制度の適用範囲拡大

  • 電気工事・管工事会社のM&A・事業承継

4. 管工事会社を事業承継する際の相談先

事業承継を行う際、どこに相談しながら進めていけばよいのか悩む経営者もいます。相談先には主に以下の5つがあります。それぞれの相談先について特徴を見ていきましょう。

  1. 地元の金融機関
  2. 地元の公的機関
  3. 地元の弁護士・税理士・会計士など
  4. マッチングサイト
  5. M&A仲介会社

①地元の金融機関

地元中小企業の廃業危機を防ぎ、高まる事業承継需要に対応するため、地方銀行・信用金庫などの金融機関は、事業承継支援の体制を強化しています。

主要取引銀行であれば、相談者の内情もある程度把握しているので、スムーズな相談が可能といえるでしょう。

②地元の公的機関

各都道府県に設置された事業引継ぎ支援センターでは、事業承継支援経験のある専門家に相談できます。

また、センター内の後継者人材バンクでは、後継者候補を探すことも可能です。認知度が向上してきたことから、相談対応件数も年々増加しており、公的機関なので安心して利用できます。

③地元の弁護士・税理士・会計士など

近年では、弁護士・税理士・会計士などの士業専門家が、事業承継支援を行うケースも増えています。

士業事務所の中には、支援体制を強化するためにM&A仲介会社など他専門機関との連携を積極的に進めているところもあります。

④マッチングサイト

マッチングサイトは、大手企業の参入や金融機関・公的機関との連携などにより、信用度が年々向上しています。

近年の動向として、AIシステムの導入や対面での相談サービスなど、独自のサポートサービスを提供するマッチングサイト運営会社も増えており、マッチングの機会は以前よりも高くなっています。

⑤M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&A・事業承継を専業としているため、知識や実績の多さ、サポート力の高さが強みです。

近年の動向として、仲介手数料の低価格化や事業承継手続きの短期化などが進んでいることから、中小企業が非常に利用しやすくなっています。

無料相談を行っているM&A仲介会社も多いので、事業承継を検討したらまず相談してみるのもよいでしょう。

5. 管工事会社の事業承継の事例

ここからは、管工事会社の事業承継事例を10選ご紹介します。

  1. メタウォーターグループによるドイツ水処理工事会社の事業承継
  2. 四電工による菱栄設備工業の事業承継
  3. OCHIホールディングスによる太陽産業の事業承継
  4. 協和日成による静岡ガスリビングへの事業承継
  5. 大盛工業による山栄テクノの事業承継
  6. エア・ウォーターによるシンガポールの病院内装・管工事会社2社の事業承継
  7. ラックランドによる静清装備の事業承継
  8. ラックランドによる環境装備エヌ・エス・イーの事業承継
  9. 新日本空調による日宝工業の事業承継
  10. オーテックによるフルノ電気工業の事業承継

①メタウォーターグループによるドイツ水処理工事会社の事業承継

管工事会社の事業承継の事例1件目は、メタウォーターグループによるドイツ水処理工事会社の事業承継です。

メタウォーターは、2019年に米国の子会社である水処理技術開発・工事会社を通じて、FUCHS Enprotec GmbHを株式譲渡により子会社化しました。

FUCHS Enprotec GmbHは、工場などの排水・排ガス処理技術や機械の管工事を行っており、メタウォーターは本事業承継により、これまで以上に高品質の製品開発が可能になるとしています。

②四電工による菱栄設備工業の事業承継

管工事会社の事業承継の事例2件目は、四電工による菱栄設備工業の事業承継です。

2018年に四電工は、空調・管工事施工会社の菱栄設備工業を、株式譲渡により子会社化しました。

電気設備工事業を主事業としている四電工は、菱栄設備工業の空調・管工事を合わせることで総合的なサービスが提供できるようになり、収益力の向上が期待できるとしています。

③OCHIホールディングスによる太陽産業の事業承継

管工事会社の事業承継の事例3件目は、OCHIホールディングスによる太陽産業の事業承継です。

OCHIホールディングスは、2018年に空調機器や冷凍・冷蔵機器などの販売・管工事などを行う太陽産業を、株式譲渡により連結子会社化しました。

OCHIホールディングスは、建材卸売や住宅設備卸売といった事業を主事業としていますが、太陽産業の事業承継によって、非住宅建築分野の強化を図っています。

④協和日成による静岡ガスリビングへの事業承継

管工事会社の事業承継の事例4件目は、協和日成による静岡ガスリビングへの事業承継です。

ガス機器の管工事などを行う協和日成は、2018年にグループ会社であるエネリア静岡東のガス機器販売事業を、会社分割により静岡ガスリビングへ事業承継しました。

協和日成は、静岡ガスリビングの親会社である静岡ガスの理念に賛同し、事業承継を行うことが使命の実現と安定収益につながると判断し、事業を譲渡しています。

⑤大盛工業による山栄テクノの事業承継

管工事会社の事業承継の事例5件目は、大盛工業による山栄テクノの事業承継です。

下水道工事会社の大盛工業は、2017年に土木工事や大規模施設向け給湯設備管工事などを行う山栄テクノを、株式譲渡により子会社化しました。

大盛工業は、山栄テクノの土木技術を獲得することにより、グループの信用力と収益力向上を図っています。

⑥エア・ウォーターによるシンガポールの病院内装・管工事会社2社の事業承継

管工事会社の事業承継の事例6件目は、エア・ウォーターによるシンガポールの病院内装・管工事会社2社の事業承継です。

医療用設備の管工事などを行うエア・ウォーターは、2017年にシンガポールで病院の内装や設備工事などを行うGLOBALWIDE INTERNATIONAL PTE. LTDと、GLOBALWIDE M&E PTE. LTDの株式を取得しました。

この事業承継により、エア・ウォーターは、東南アジアにおける医療事業の拠点を獲得しています。

⑦ラックランドによる静清装備の事業承継

管工事会社の事業承継の事例7件目は、ラックランドによる静清装備の事業承継です。

店舗向けに企画から施工・メンテナンスまで総合サービスを提供しているラックランドは、2017年に静清装備を新設会社として設立し、旧静清装備から全事業を事業承継しました。

ラックランドは業容拡大に力を入れていることから、静清装備の内装仕上げ工事や建具工事を譲受することで、事業分野拡大と静岡エリアの営業力強化を果たしています。

⑧ラックランドによる環境装備エヌ・エス・イーの事業承継

管工事会社の事業承継の事例8件目は、ラックランドによる環境装備エヌ・エス・イーの事業承継です。

ラックランドは2019年に、店舗ビルなどの空調・給排水衛生工事を展開する環境装備エヌ・エス・イーの全株式を取得し、完全子会社化を決定しています。

建築設備・内装分野の設計・施工からビルメンテナンスサービスを行うラックランドは、今回の子会社化により、技術力やコスト競争力の向上、シナジー創出による新しい利益創出を図っています。

⑨新日本空調による日宝工業の事業承継

管工事会社の事業承継の事例9件目は、新日本空調による日宝工業の事業承継です。

空調設備の管工事などを行う新日本空調は、2016年に電気設備・空調設備工事などを行う日宝工業を、株式譲渡により子会社化しました。

この事業承継により、新日本空調は新たなサービス提供が可能となり、技術力の融合によるシナジー効果も期待できるとしています。

⑩オーテックによるフルノ電気工業の事業承継

管工事会社の事業承継の事例10件目は、オーテックによるフルノ電気工業の事業承継です。

空調機器の販売や管工事などを行うオーテックは、2016年に電気工事会社のフルノ電気工業を、株式譲渡により子会社化しました。

この事業承継により、オーテックはフルノ電気工業の技術者と、北海道エリアの営業力を獲得しています。

6. 管工事会社の事業承継を成功させるポイント

管工事会社の事業承継を成功させるには、以下のポイントをおさえることが大切です。

  1. 建設業許可の人的要件を踏まえて計画的に準備を行う
  2. 後継者が決まったら教育を行う
  3. 事業承継が完了してから従業員・取引先などに報告する
  4. 事業承継の専門家に相談する

①建設業許可の人的要件を踏まえて計画的に準備を行う

後継者の育成期間を含めると、事業承継に必要な期間は5~10年といわれているため、管工事会社の事業承継でも、期間に余裕を持って計画的に準備を行う必要があります。

特に、建設業許可を継続するには、建設業許可の人的要件を充足する必要があり、場合によっては人的要件を満たす人物を外部から招へいすることも検討しなければいけません。

②後継者が決まったら教育を行う

後継者の教育・育成には時間を要するため、後継者が決まり次第時間をかけて育成を進めることが重要です。

役員・従業員に承継を行う場合、自社事業の知識が十分にある後継者でも、経営者としての教育は不可欠であるため、行うようにしましょう。

また、外部から経営経験のある後継者を招へいする場合も、会社の価値観や社内風土を伝える期間が必要です。

③事業承継が完了してから従業員・取引先などに報告する

従業員や取引先へ説明するタイミングを見誤ると、事業承継による不安や不満を持った従業員が離職したり、取引先が契約を解除したりするケースがあります。

このような事態を避けるには、説明するタイミングを慎重に見計らうことが必要であるため、従業員・取引先への報告は事業承継が完了してから行うようにしましょう。

④事業承継の専門家に相談する

中小企業の事業承継は、経営者と後継者の意思疎通や従業員とのコミュニケーションが難しく、交渉・説明の仕方を間違えると、事業承継後の経営に失敗するケースもあります。

また、事業承継後の業務継続のため、建設業許可の人的要件の確認なども必要となります。

スムーズに事業承継を進めるためには、専門的な知識・見解が不可欠となるため、経験豊富な事業承継の専門家に相談しながら行うようにしましょう。

7. まとめ

本記事では、管工事会社の事業承継動向や事例について、ご紹介してきました。管工事会社の事業承継を成功させるためには、業界内の動向を把握し計画的に進めていくことが重要です。

【管工事会社の事業承継動向】

  1. 後継者不足による廃業・倒産
  2. 許認可業者数は長期的には減少傾向
  3. 大手や異業種からのM&Aによる事業承継
  4. リフォーム事業の活況による事業人気

【事業承継相談の選択肢】
  1. 地元の金融機関
  2. 地元の公的機関
  3. 地元の弁護士・税理士・会計士など
  4. マッチングサイト
  5. M&A仲介会社

【管工事会社の事業承継を成功させるポイント】
  1. 建設業許可の人的要件も踏まえて計画的に準備を行う
  2. 後継者が決まったら教育を行う
  3. 事業承継が完了してから従業員・取引先などに報告する
  4. 事業承継の専門家に相談する

8. 電気工事・管工事業界の成約事例一覧

9. 電気工事・管工事業界のM&A案件一覧

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