技術と責任をつなぐ──
環境課題に挑むM&Aの軌跡
■インタビュー
譲渡企業:株式会社ノアテック 会長 有田 益二郎氏、代表取締役 佐藤 淳一氏
譲受企業:株式会社福一興業 代表 福山 俊大氏
排水処理技術の開発・調査を強みに、長年業界をけん引してきた株式会社ノアテック。その技術と事業の未来を託されたのは、建設資材の販売や水道工事を手がける株式会社福一興業だった。両社が、なぜパートナーとなったのか。その背景と今後の展望を両代表に伺った。
環境事業のパイオニアとして歩んだ軌跡
ノアテックは、会長・有田 益二郎氏が創業した環境関連商材の販売会社を母体としてスタートした。長年の研究開発により、六価クロムをはじめとする有害物質の処理に強みを持ち、排水処理の高度化に貢献してきた。
「六価クロム処理を1段で完結できる製品は、当社独自の技術です。さらに東京電力と共同開発した油排水の処理装置もあり、その技術を基盤に展開していきました」。
“限界”が迫る中で見えた道
譲渡の決断の裏には、火力発電所の減少に伴い、油系排水処理装置の需要が激減した業界全体の厳しい背景があった。
「業界の変化により売上が大幅に落ち込み、私自身の個人資金も底をつき、銀行からの新たな借り入れもできない状況でした」と有田会長は率直に語る。
事業の継続が困難になっていたなかで、M&Aという選択肢に目を向けた有田会長は、当社の森との出会いが、大きな転機になったという。
「正直なところ、他に選べる道は残っていませんでした。そんなときに森さんとお会いし、非常に丁寧なご対応と好条件のご提示をいただいたことで、前向きに踏み切る覚悟ができたんです」。
“変えずに広げる”未来戦略

佐藤代表が最も重視したのは、"体制を変えずに事業を継続すること”。
「スーパーナミットなど、当社の主力製品をこれまで通り継続しながら、その販路をより広げてほしい。そして、研究中だった新製品についても、ぜひ形にしていただきたいという願いがありました」と振り返る。
そして有田会長が譲渡先として福一興業を選んだ決め手は、"思いをしっかりと受け止めてくれた誠実な姿勢”にあった。
「福一興業さんは非常に優良な会社であり、福山代表は若くして経営者としての資質を備えた方。お人柄も人格も円満で、会社を安心してお任せできると確信しました」。
さらに、「会社の借入金や、私や家族がこれまで投じてきた資金についてもご負担いただけるというお話をいただけたことも、譲渡を決断する大きな理由になりました」と語る。
次の成長に向けた「環境」へのまなざし
譲受企業の福一興業は、もともと親族が経営していた建設会社を母体に、建材部門を分離・独立するかたちで設立された。現在は、改良土のリサイクルや土木建設資材の販売に加え、自社内に工事部門も構え、水道管の耐震化工事などのインフラ整備にも対応している。
「資材の供給にとどまらず、自社で施工まで手がけられる点が私たちの強みです。公共性の高い分野に携わる責任を持ちながら、地域社会の安全に貢献できる体制を整えてきました」と福山代表は話す。
次なる成長に向け、同社では以前から事業の多角化を視野に入れていた。その中でノアテックとの出会いが、大きな一歩となった。
“技術力”と“環境適応力”に可能性を見出して
ノアテックを譲り受ける決め手となったのは、その確かな技術力と、社会環境の変化に応える柔軟性だった。
「六価クロムなどの有害物質に対する規制が今後ますます厳しくなる中で、ノアテック様が持つ排水処理の技術は大きな武器になると感じました。法令対応が求められるこれからの時代において、その存在意義はますます高まっていくはずです」と福山代表は語る。
加えて、ノアテックが持つ製品やノウハウの価値を、もっと広く世の中に届けたいという思いもあったという。
譲り受け後の現在は、すでに研究活動がスタート。年内に新しい排水処理装置をリリースする予定で動き始めている。
“学びを次に活かす”M&Aのスタンス
今回が初めてのM&Aとなった福一興業だが、今後について福山代表は前向きな姿勢を見せる。
「今回の経験を通じて、M&Aは自社の強みを広げる手段になり得ると実感しました。特に今後は、循環型資源や環境インフラといった社会的に意義のある分野に注目していきたいと考えています」。
その背景には、国全体のインフラ投資が“持続可能性”を重視した方向にシフトしているという実感があるという。
M&Aを検討する経営者様へ
「私は顧問先にもM&Aの意義を説明しましたが、理解を得るにはまだ時間がかかると感じました。だからこそ、経営者様自身が視野を広げ、会社の未来に責任を持った判断をしてほしいです」と有田会長は、振り返る。
一方、福山代表は「M&Aでは、なぜ取り組むのかを明確にし、自分たちが理解できる事業か見極めるべき」と語る。
魅力ある会社ほど投資額も大きくなるため、リスクの許容範囲を事前に定めることが重要だ。
「わからないままでは譲り受けるべきでない。しっかり調べて納得した上で進めるべき」と助言する。
アドバイザーへの信頼
最後に、M&A総合研究所の森について有田会長に伺うと、「誠実だった」と語る。
「森さんのご説明は丁寧で非常にわかりやすく、最初の面談時から“この方なら信頼できる”と感じていました。交渉や事務処理も手際よく、スピード感を持って進めてくださったことがとても頼もしかったです」。

さらに、「成約の日にいただいた花束を家に持ち帰ったところ、妻がとても喜んでくれて、長く食卓を明るく彩ってくれました」と、感謝の気持ちを噛みしめる。
目には見えない想いにまで配慮を尽くしてくれたアドバイザーの存在が、今回のM&Aを安心して進められた大きな要因だった。
担当者からのコメント
譲渡企業様は汚水処理における他社が持っていないような高い技術力やノウハウをお持ちの企業様でした。昨今の汚水処理問題における同社の技術や製品への期待が高まるものの、資金力、営業力等に大きな課題があり直近は厳しい経営状況が続いておりました。しかし、創業者である有田会長、佐藤社長含め皆様大変お人柄がよく、自社の製品や技術力には大変強い想いをお持ちで、何とか自社のノウハウを生かしていただけるお相手様を探してほしいとご要望いただいておりました。
譲渡企業様の事業や技術というのは高度なものであり、私自身も理解には時間を要した中で、譲受企業の福山社長は初期段階から大変細かいところまで譲渡企業様のことをお調べいただき、トップ面談を通して譲渡企業様の思い含めてご理解いただきました。有田会長、佐藤社長は初めてのM&Aの検討ということもあり、ご不安な点もあったかと思いますが、トップ面談後の福山社長の誠実なお人柄面に大変強い信頼を寄せておられたことが印象的でした。
今後もより環境規制が厳しくなる中で、譲渡企業様の製品、技術力が譲受企業様とのシナジーでどのような成長を遂げられるか大変楽しみであり、本件ご成約までご支援させていただいたことを担当者として大変嬉しく思います。
(企業情報第九本部 第二部 次長 森 春樹)
