2025年10月24日公開
インドネシアのM&A事情とは?企業買収のメリットや注意点と成功ポイントを解説!
世界第4位の人口を誇るインドネシアは、今後市場縮小が続く日本の企業にとっては魅力的な国のひとつで、M&Aでの進出を検討する企業も増えてきました。この記事では、インドネシアでのM&Aを考えている人へ、M&Aのメリットや注意点を解説します。
目次
1. インドネシア・国の特徴
インドネシアは今後の経済成長が期待できる人口が多い国であり、今後、少子高齢化による市場縮小が続く日本の企業にとってはとても魅力的な市場といえるでしょう。
インドネシアへの進出を考えるときに、いきなり現地で新規事業を立ち上げるよりも、M&Aでの進出を図るほうがメリットも大きいのですが、インドネシアでのM&Aには日本のM&Aとは違う特徴があります。
この記事では、インドネシアでのM&Aを検討している企業の方に向けて、インドネシアM&Aについてみていきましょう。
まずは、インドネシアの国の特徴です。インドネシアは正式名称は「インドネシア共和国」であり、東南アジアの南部にある共和制国家です。東西に5110kmと横に長く連なる島嶼国家であり、赤道をまたがる地域に1万7,000を超える島嶼があります。
首都はジャワ島にあるジャカルタです。人口は2億7,000万人と世界第4位の規模で、300以上の民族からなる多民族国家です。人口の9割近くがイスラム教徒ですが、国教として保護はしていません。
インドネシア経済の現状
インドネシアは近年経済成長が続いており、中産階級が拡大して、個人の収入と消費が増加傾向にあるという点が特徴的です。
また、国内の都市化が進み、デジタル関連サービスに大きな成長がみられ、テクノロジー関連のビジネスが急速に発達しています。
インドネシア政府では、2020年頃から海外企業の進出を促すための政策を実行しており、インフラ整備を進めていて、海外からの投資を呼び込んでいます。
経済成長のピークを迎えた他の国と比較すると、今後の経済が大いに期待できる国の一つであり、M&Aでの日本企業の進出にも期待が持てるでしょう。
M&Aに関連する法規制
インドネシアでのM&Aを検討する上で頭に入れておくべき法規制は次のとおりです。
| 投資規制 | 外国投資の禁止業務・規制業務、資本金、外国企業の土地利用に関する規定 |
| 公開会社買付規制 | 任意公開買付、義務的公開買付に関する規定 |
| 会社法 | 株式取得での買収、株主総会、株主の権利について規定 |
| 市場資本法 | 市場操作やインサイダー取引に関する規制 |
| 競争法 | 独占や不平等競争を防止するための、役員の兼任、株式保有、合併などの規制 |
2. インドネシア市場の特徴
インドネシアへのM&Aでの進出を検討する上で気になる、インドネシア市場の特徴についてみていきましょう。
経済の成長トレンド
インドネシア経済は、2010年から2021年まで、実質GDPの成長率が平均4.7%と高い水準で成長を続けています。
2020年には新型コロナ禍でマイナス成長になりましたが、2021年にはプラス成長へと戻り、その後は5%前後の成長率となっています。
インドネシアは東南アジアで最大の人口と経済規模を誇る国で、特に、消費と生産を牽引する若年層が多いのが特徴です。インフラ整備とデジタル経済への投資が盛んに行われており、ビジネスチャンスが生まれるチャンスも大いにありそうです。
消費者行動の特徴
インドネシアでは、若年層を中心として、スマートフォンの利用者が多く、スマホからSNSやオンラインプラットフォームを活用する人が多く、Eコマースの利用率が高い背景となっています。
しかし、広大な国土に300もの少数民族がいることから、民族や宗教による価値観や地域性の違いから、地域や宗教などによって購入する商品やサービスに違いがみられます。
そのために、インドネシアでEコマースなどを展開したい場合には、地域ごとのマーケティング戦略を練るなどの、きめ細かい対応が必要となります。
インドネシアの消費者は、近年、質の高いモノに対する需要が高まっており、健康、教育、エコロジー分野の商品に高い関心があるようです。日本ブランドは質の高さから信頼性が高く、日本企業の強みとなっています。
主要産業・ビジネス環境
インドネシアの主要産業は、鉱業、製造業、農業、サービス業などです。
鉱業は、金、スズ、石油、石炭、天然ガス、銅、ニッケルを採掘します。製造業は、食品工業や織物、石油精製などが盛んで、化学繊維、パルプ、窒素肥料などの工場が多いのが特徴です。また、自動車や電子部品関連の工場もあり、日本企業の進出もみられます。
農業では稲作が盛んです。その他に、カカオ、キャッサバ、キャベツ、ココナツ、コーヒー豆などを栽培しています。サービス業では、観光業の他に近年ではIT関連企業も増加しています。
M&Aでビジネスを展開する環境としては、近年は外国からの投資を促進するための政策や規制緩和が取られており、進出しやすい環境が整いつつあるようです。しかし、労働法の制約が厳しく、また行政手続きが煩雑です。
また、地域ごとに法規制が異なる点が多く、M&Aを行う上では、インドネシアでも進出したい地域の事情に詳しいパートナーが必要になるでしょう。
3. インドネシアのM&Aの特徴
インドネシアで実際にM&Aを行う場合には、シンガポールなどと比較すると、法整備などの整備が追いついていない点が多くあります。
法律が整っていないために、同じことでの公的機関とのやり取りが、その日によって全く話が違ってしまうということもよくあるようです。
外国人ではうまく進められなかった手続きなどが、現地のパートナーを間に挟んだら一気に進む、ということも頻繁にあるので、現地事情に詳しいアドバイザーやパートナーは必ず必要でしょう。
インドネシアのM&A市場
インドネシアでのM&Aは、1990年代前半までは年間数十件程度しかありませんでしたが、2000年頃から年間100件を超える様になっていき、2010年頃から年間数百件実施される様になってきました。
日本企業のインドネシアにおけるM&Aでの買収案件は、年間20件前後で推移しています。日本からインドネシアへ進出する企業の数は年々増加傾向にあります。
日本企業のインドネシアへの進出は、2000年代には農林水産業やゴム、窯業が多かったのですが、2010年代にはIT関連での進出が増加しています。
2020年代に入ってからは、IT関連に加えて、建設、電気・ガスなどのエネルギー関連、不動産業界からの進出も増加しているようです。
4. インドネシアでのM&A手法
インドネシアでM&Aを行うときには、利用する手法に注意が必要です。日本のM&Aでは9つの手法が利用できますが、インドネシアで利用できる手法は限定されています。
日本で使える株式交換や株式移転のような、一定の手続きを経れば強制的に株式を譲渡させることができる手法は、インドネシアでは利用できない点に注意が必要です。
また、どの手法を用いる場合でも、インドネシアでM&Aを実施するときには、M&Aを理由に退職する従業員がいる場合には、労働法の規定により、通常の退職よりも高額な退職金を支払う必要がある点に注意しましょう。
インドネシアで利用できるM&Aの手法は主に、株式取得、事業譲渡、合併の3つです。それぞれの内容について詳しく解説します。
株式取得
インドネシアでは、会社の支配権を移行させるための株式譲渡は「買収」として扱われます。ただし、株式譲渡による買収がどのような場合に成立するのかは、法的に明確化されていません。また、会社法に支配権の定義もされていません。
そのために、50%以下の株式しか持っていない株主でも、株主間契約で取締役の指名権などを持っている場合には、支配権を持っているとみなされる場合もあります。
しかし、株式譲渡での会社買収では、会社法が定める手続きを正式に取らなかった場合には、株式の取得は無効とみなされてしまうので注意が必要です。
株式譲渡での買収手続きは次のとおりです。
- 株式譲渡契約締結
- 株主総会30日以上前に新聞上で債権者に対して公告
- 株主総会30日以上前に会社買収を従業員に通知
- 株主総会決議
- 公正証書の作成
- 法務人権省への株主変更の通知
- OSSシステムで会社の株主情報などを更新
- 買収の効力発生日から30日以内に新聞上で買収結果の公告
OSSシステムとは、インドネシアの投資調整委員会が運営する、ビジネスライセンスなどの申請をオンライン上で行うことができるシステムです。
事業譲渡
インドネシアでのM&Aでは、事業譲渡の手法も利用できます。事業譲渡に関しては、インドネシアの会社法で規定されていないので、株式取得と比較すると比較的スケジュールを自由に設定できるというメリットがあります。
事業譲渡でのM&Aを実施するときには、日本での事業譲渡と同じように、資産、負債、契約、従業員などを個別に承継する手続きを取ります。
インドネシアで事業譲渡の手法を利用するときには、不動産の承継に時間と費用がかかる点に注意が必要です。また、許認可が必要な場合には、売却側の許認可を引き継ぐことはできずに、買収側が新規取得する必要があります。
合併
日本企業がインドネシアへ進出するためにM&Aを行う場合には、あまり合併の手法は利用されません。すでに現地に現地法人や子会社があり、現地法人や子会社がM&Aを行う場合には、合併を利用することもあります。
インドネシアで合併でM&Aを実施する場合には、偶発的な債務を引き継ぐことになるので、合併は慎重に検討したほうがいいでしょう。
また、合併のときには株式取得の手続きと同じように、債権者保護手続や従業員通知などの手続きが必要になる点にも注意が必要です。
5. インドネシアでのM&Aのメリット
インドネシアでM&Aを実施するメリットとはどのような点にあるのでしょうか。特に大きな3つのメリットについて解説します。
シナジー効果
インドネシアへM&Aによって日本企業が進出すれば、既存事業とのシナジー効果を大いに期待できます。
インドネシアは世界第4位の人口を誇る国であり、さらに平均年齢は29歳と、日本の48.4歳と比較すると、若くて体力のある労働力に期待できる国です。
さらに、インドネシア人の平均月収は、近年上昇傾向にあるといわれますが、日本円に換算すると2万5,000円程度と、日本と比べると格安です。
また、石油、天然ガス、石炭、金、鉄鉱石などの天然資源の輸出国でもあり、多くの資源の現地調達もできます。
インドネシアの若くて賃金の安い豊富な労働力と天然資源を活用できる企業であれば、M&Aによる進出によるシナジー効果を発揮できるでしょう。
リスク分散
インドネシアでの新規事業を考えている企業でも、全く基盤がないところにゼロから事業を立ち上げるのは大きなリスクが伴います。
ゼロからの新規参入は、市場リサーチや新規顧客獲得に時間と労力がとてもかかり、事業を軌道に乗せるまでの初期リスクがどうしても発生してしまうでしょう。
インドネシアですでに似たような事業で成果を上げている企業をM&Aで買収できれば、顧客や調達先がすでに確保されているので、すぐに事業を軌道に乗せることが可能です。
ゼロからの新規進出よりも、インドネシア企業を買収するM&Aでの進出の方が、リスクを分散させてインドネシアへ進出できます。
インドネシア市場への即時進出
企業が他国へ進出する場合には、現地の税務や法務の理解や、言語の壁や文化の違い、商習慣の違いなどを克服しなければいけません。
さらに、9割近くをイスラム教徒が占めるインドネシアでは、市場における消費者の嗜好やビジネス環境は日本のものとは全く異なるので、日本企業が進出する場合には、独特な商環境への適応が難しいことがよくあります。
しかし、M&Aで現地企業を買収することで進出できれば、現地の人材をそのまま継続雇用できるので、現地のノウハウやネットワークをそのまま活用して、自社の事業を始めることができます。
また、すでに買収した企業の軌道に乗っている事業からの発展で自社の事業を開始できるので、迅速な事業展開も可能です。
魅力的なインドネシア市場
さらに、インドネシア市場は日本企業にとってとても魅力あふれる市場の一つです。
少子高齢化が急速に進む日本では、今後、人口減少による市場縮小が確実なものとなっています。一方、インドネシアは2.7億人と世界第4位の人口を抱える国で、平均年齢も若く、購買意欲にあふれる若年層の消費者が大量にいる国です。
人口比に対する労働人口が高く経済成長が続きやすい状態を人口ボーナスといいますが、タイや中国、韓国、シンガポールでは人口ボーナス期が終わっているのに対して、インドネシアは2025年以降も続くとみられています。
今後も経済発展が続く可能性が高いインドネシアは、日本企業にとっては大いに魅力的な市場の一つといっていいでしょう。
6. インドネシアでのM&Aを成功させるための注意点
インドネシアでのM&Aを成功させるためには、どのような点に注意したらいいのでしょうか。M&Aを行うために必要な注意点をみていきましょう。
インドネシア税務の把握
海外でのM&Aを成功させるためには、M&Aを行う国の税務についての詳細な理解が欠かせません。インドネシアでのM&Aを実施する上で、注意するべき税務事項は次のとおりです。
| 税の種類 | 税率 | その他 |
| 法人所得税 (キャピタルゲイン含む) |
25% | 中小企業や公開企業の一部に軽減税率が適用されることも |
| 付加価値税 | 商品価格の10% | インドネシア国内で販売される商品、インドネシア企業に提供される商品、インドネシア企業が提供する商品に対して適用される 国外へ輸出する商品には適用されない |
| 源泉所得税 | 20% | 投資調整庁から承認を受けた企業からの配当を受け取る場合に課税される |
| 株式譲渡税 | 5% | 非上場のインドネシア企業の株式を売却した場合に適用される |
インドネシア文化や言語への対応
日本企業が他国へ進出する場合には、現地の文化や言語への対応が大きな課題となるので注意が必要です。
インドネシアは9割近くがイスラム教徒であることから、食の提供にはハラル認証が欠かせません。食品製造会社だけでなく、社員向けの食堂やカフェなどを整備する際にもハラル認証についての理解が必要であり、インドネシアへ進出する企業を悩ませる点になっています。
また、頭を触ってはいけない、左手で握手やものを渡してはいけないなど、イスラム教ならではの文化の違いも理解しておくことが大切です。
この他に、宗教の違いに限らず、インドネシアの人々は大らかで優しい人が多く家族を大切にする傾向が強い半面、人前で叱られることに強い抵抗感を覚えるので、指導や注意をするときには周囲の状況に配慮する必要があります。
このような、宗教や文化の違いについては、インドネシアの現地に派遣する社員に対して、事前の研修などが必要です。
言語については、インドネシアの公用語はインドネシア語で、契約や法律文書などの公的文書の作成もインドネシア語で作成する必要があります。外国企業との取引のときには、全く同じ内容の英語とインドネシア語の文書を用意することが一般的です。
英語とインドネシア語、または日本語とインドネシア語で契約書を作成するときには、インドネシア語の翻訳の正確性が重要なポイントとなるので注意しましょう。
法的紛争への対応
インドネシアでの取引などで、法的紛争が起きた場合には、仲裁によって解決されることが多いようです。
インドネシアの裁判所では、外国の裁判所の判決は執行しません。しかし、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)の締結国による仲裁判断の執行は行います。
インドネシアでの紛争の仲裁には、国際商工会議所(ICC)、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)がよく利用されます。
仲裁判断をインドネシアで執行する場合には、ジャカルタ中央地方裁判所への申請が必要です。
現地事情に長けたM&Aアドバイザーを選ぶ
ここまでみてきたように、インドネシアでM&Aを行うときには、日本国内だけでM&Aを行うときとは全く異なる対応が求められます。海外でのM&A経験がない企業や、インドネシアに初めて進出する企業には大きなハードルになるポイントがいくつもあるでしょう。
インドネシアでのM&Aを成功させるためには、現地の事情に詳しいM&Aの専門家のサポートが必要です。インドネシアでのM&Aを検討しているのであれば、まずはインドネシアのビジネス事情に詳しいM&Aの専門家に相談してみましょう。
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7. インドネシアでのM&A事例
日本企業がインドネシアで実施したM&Aの事例を紹介します。
タキロンシーアイとインドネシア企業とのM&A事例
2023年5月19日に、タキロンシーアイ株式会社が、連結子会社であるPT. Takiron Indonesiaが保有する全株式を、PT. CAKRA BHAKTI PARA PUTRAへ譲渡することを発表しました。
タキロンシーアイは大阪府大阪市に本社のある合成樹脂製品の大手総合メーカーで、建築資材や農業用資材、食品などに使われる機能フィルムなどの開発、製造を行っています。
PT. Takiron Indonesiaは、タキロンシーアイの前身のタキロン株式会社が2002年にインドネシアに設立した合成樹脂被覆金属製品製造会社で、主に農園芸用カラー鋼管の製造、加工、販売を行ってきました。
タキロンシーアイとしては、事業ポートフォリオの最適化を進める中で、PT. Takiron Indonesiaは現地パートナーのPT. CAKRA BHAKTI PARA PUTRAの全面的な支援での運営が最適であると判断しての株式譲渡です。
参考:連結子会社の株式譲渡に関するお知らせ
8. インドネシアのM&Aまとめ
インドネシアは労働市場としても消費市場としてもとても魅力的な国ですが、法規制や税務、言語や文化などの違いが大きく、M&Aでの進出には十分な準備が必要です。
インドネシアでのM&Aを検討しているのなら、まずはインドネシア事情に精通したM&Aの専門家への相談から始めましょう。
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