2022年06月06日更新
家業や親の会社を継ぐメリット・デメリット10選!タイミングや手続き方法を解説【事例あり】
家業を継ぐ・親の会社を継ぐ行為には、メリットとデメリットの双方が存在します。また、適切なタイミングも存在するため、事前に把握しておくべきです。本記事では、家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットやデメリット、適切なタイミング・手続き方法を事例とともに解説します。
目次
1. 家業や親の会社の引き継ぎとは
「家業を継ぐ・親の会社を継ぐ」とは、端的にいうと子供による事業承継のことです。ここでは、代々続く老舗の家業を子供が継ぐ場合や、創業者の親から二代目として会社を継ぐケースなども当てはまります。
家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合には、タイミング・承継する人の意思・メリットやデメリットなどを考慮しなければなりません。
本記事では、これから家業を継ぐ・親の会社を継ぐ人に向けて、引き継ぎのタイミングやメリット・デメリット10選を中心に紹介します。
2. 家業や親の会社を継ぐタイミング
家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合、いかなるタイミングで事業を承継すべきなのか悩む人は多いです。実際に先代から事業を引き継いだ人は、以下のようなタイミングで事業承継を行っています。
- 年齢を考慮した引き継ぎ
- 親の死による相続
- 周りからのプレッシャー
- 昔からの約束
それぞれのタイミングについて詳しく解説します。
承継のタイミング①年齢を考慮した引き継ぎ
1つ目に挙げる家業を継ぐ・親の会社を継ぐタイミングは、親と子供の年齢についてです。中小企業庁の『中小企業庁長官 平成31年 年頭所感』(2019年)では、2025年には経営者の6割が70歳を超えるという分析が紹介されています。
上記を踏まえると、中小企業では、親の年齢が70歳を迎えた頃が交代すべきタイミングです。
承継のタイミング②親の死による相続
2つ目に挙げる家業を継ぐ・親の会社を継ぐタイミングは、親の死による相続です。親の死期に合わせた承継では、相続の手法が広く用いられています。相続により会社の株式・資産を引き継いだ子供が、経営者として事業に携わるという仕組みです。
ただし、相続では、株式が分散したり相続に対する税金を課せられたりするため、承継後に適切な対応が求められます。そのため、親が突然亡くなってしまった場合には、事業を承継する子供の負担が大きくなるケースも多いです。
このように親が亡くなったタイミングで家業や会社の引き継ぎを迫られるケースもあるため、子供側からすると承継のために心構えを整えておく必要があります。
承継のタイミング③周りからのプレッシャー
3つ目に挙げる家業を継ぐ・親の会社を継ぐタイミングは、周囲からのプレッシャーです。経営者が歳を重ねて高齢に近づくと、後継ぎとして長男や長女などの子供に事業を引き継いでもらいたいと考えます。
特に老舗の企業や中小企業などでは親族に後を継がせる傾向が強く、本人の意向に関わらず家業・会社の引き継ぎを打診するケースも珍しくありません。
ここでは、子供に対して、家業・会社を引き継ぐ宿命について改めて示されます。そして子供は、周囲からのプレッシャーに耐えきれなくなったタイミングで、止むを得ず親の会社を継ぐのです。
承継のタイミング④昔からの約束
4つ目に挙げる家業を継ぐ・親の会社を継ぐタイミングは、昔からの約束です。このケースでは、数年間は他の会社で働く自由を許したり親が一定の年齢に達するまで引き継がなかったりと、親と子供の間で約束が設けられています。
そのため、プレッシャーと比べると、子供が家業を継ぐことや親の会社を継ぐことなどを受け入れやすいです。承継のタイミングは、取り決めた約束ごとによって異なります。
3. 家業や親の会社を継ぐことに悩む人は多い
家業を継ぐ・親の会社を継ぐことは子供からすると大きな悩みとなるケースもあり、誰もが親の事業を快く引き継ぎたいと思っているわけではありません。
経営者を親に持つ子供は、以下のような悩みを持っている場合があります。
- 後戻りができない
- 英語などの技能を習得しなければいけない
それぞれの悩みを詳しく見ていきましょう。
悩みの種①後戻りができない
後継者は、家業を継ぐ・親の会社を継ぐにあたって、後戻りができない点に不安を感じやすいです。家業や会社の事業を継いでしまえば、もちろん仕事の継続が求められます。一般企業のように、自身の事情のみで会社を辞めることはできません。
このように、事業承継をいったん受け入れれば後に引けないため、後継者は家業を継ぐ・親の会社を継ぐことをためらいやすいです。
悩みの種②英語などの技能を習得しなければいけない
2つ目に挙げる悩みの種は、英語などの習得を求められる点です。もしも、家業や親の会社がホテルやゲストハウスなど外国人と関わる事業を行っているならば、当然のように英語の習得が求められます。そして、必ずしも現在の職を活かせるとは限りません。
例えば、英語のスキルが身に付いていなかったり英語と無関係の学校に通っていたりすると、ゼロから英語の習得に励む必要があります。もちろん、これは英語に限った話ではありません。英語をはじめ業務に関する特殊な技能の習得には、時間と労力を要するのです。
以上のことから、後継者は、英語などの技能を身に付ける長い道のりを想像すると悩みやすいです。
悩む理由には後継者の得意・不得意も関係する
家業を継ぐ後継者には、もちろん得手不得手があります。しかし、たとえ英語などの技能が苦手・不器用であっても、家業を継ぐには習得しなければなりません。もともと器用であったり才能があったりすれば、短期間での習得も可能です。
とはいえ、英語を習得するために留学したり他の会社でスキルを獲得したりと、場合によっては大いに苦労する未来が目に見えているため、事業承継をためらってしまいます。
以上の理由から、多くの後継者は承継を了承できずに悩みを抱えて過ごしているのです。
4. 家業や親の会社を継ぐメリット・デメリット10選
ここでは、事業承継に悩んでいる人に向けて、家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合のメリットとデメリットを紹介します。家業を継ぐことの利点・不都合な点を把握して、事業承継の決断に活かしてください。
家業や親の会社を継ぐメリット
家業を継ぐ・親の会社を継ぐと、さまざまなメリットを獲得可能です。会社勤めでは得られない利点を中心に、親の事業を引き継ぐ人には、以下のようなメリットが期待できます。
- 勤務時間の調整が可能
- 定年・リストラの心配がない
- 事業の方向性を決めることができる
- 自由時間が増える
- 休日を自分の裁量で決められる
- 今までにない人脈ができる
- 親族から認められる・親孝行になる
- 多くの資産を受け継ぐ
- 子供にも引き継げる
- 事業譲渡・会社売却で利益が得られる
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
①勤務時間の調整が可能
1つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、勤務時間を調整できる点にあります。経営者として家業を継ぐため、従業員のように決まった勤務時間は設けられていません。
そのため、仕事量に合わせて早めに切り上げたり遅くまで残って仕事を完了させたりと、融通を効かせられます。
②定年・リストラの心配がない
2つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、定年・リストラの心配をせずに済む点にあります。家業を継ぐ・親の会社を継ぐため、60歳や65歳で定年を迎えたり会社の都合により解雇をいい渡されたりする心配がありません。
ただし、こうしたメリットの獲得は、受け継いだ事業を順調に進めることが条件です。後継者の裁量によっては、定年を迎える年齢の前に倒産・廃業を余儀なくされるケースもあります。
③事業の方向性を決めることができる
3つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、事業の方向性を決められる点です。たとえ家業を継ぐ・親の会社を継ぐことを選んだとしても、既存の事業を継続する必要はありません。自分の意見をとおして、他の事業に切り替えることも可能です。
大幅な転換を行わない場合であっても、既存の事業を残して新しい事業を立ち上げたり先代とは異なる方針で既存の事業を運営したりと、後継者の意思を柔軟に反映させられます。
④自由時間が増える
4つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、自由な時間を増やせる点です。一般的に会社勤めでは、自宅から会社までの通勤などに多くの時間がかかります。
その一方で、家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合には、職場と自宅を兼ねていたり職場の近くに住まいを設けていたりするケースが多く、通勤時間を短縮できる可能性が高いです。
これにより、朝の時間帯をゆっくり過ごせるため、朝食を摂ったり新聞を読んだりする時間を十分に確保できます。
また、短時間で自宅に到着するため通勤による疲労を軽減でき、帰宅後に体を休めたり趣味に没頭したりと、平日でもまとまった自由時間を確保可能です。
⑤休日を自分の裁量で決められる
5つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、自分の裁量で休日を決められる点です。もしも経営者が現場に出なくても事業を行えるのであれば、好きなときに休日を設定できます。また、仕事をまとめてこなせば、長期休暇を取ることも可能です。
⑥今までにない人脈ができる
6つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、新しい人脈を獲得できる点です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐと、他の会社に勤めていたときには出会えなかった人とのつながりを持てます。
そのうえ先代から経営を引き継ぐため、ゼロから関係性を築くよりも信頼関係を構築しやすいです。
⑦親族から認められる・親孝行になる
7つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、親族に認めてもらえる・親孝行になる点です。代々続く会社であれば親族たちの思い入れが一層強く、身内の誰かが事業を継ぐことを心待ちにしているケースが少なくありません。
もしも後継ぎが現れなければ、事業・会社の運営を止めてしまうという状況であればなおさらです。こうした状況で家業を継ぐ・親の会社を継ぐことを決めれば、親族や親の希望を叶えてあげられます。
親族は事業・会社への想いを断ち切らずに済むうえに、親は後継者不足の問題から解放されるのです。
⑧多くの資産を受け継ぐ
8つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、多くの資産を承継できる点です。親から家業を継ぐと、会社が所有する資産を承継できます。
ゼロから資産を確保せずに済むため、不動産をはじめ技術・ノウハウ・特許・販売網・取引先・従業員との契約などを改めて取得する必要がありません。
⑨子供にも引き継げる
9つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、自身の子供にも承継できる点です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐことを拒否すれば、親の代で事業や会社は途絶えてしまいます。
家業が多くの資産をもたらしているケースであれば、後世に残すことも有効策です。将来的に自身の子供に承継すれば、家族に暮らしを支える手段を残してあげられます。
⑩事業譲渡・会社売却で利益が得られる
10番目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐメリットは、事業譲渡や会社売却による利益の獲得です。家業や親の会社を継いでから一定期間経営を行った後に、事業を譲渡したり会社を売却したりすれば利益が得られます。
ここでは、事業譲渡を選べば会社に利益が入り、会社売却を選択すればオーナー自身が利益を獲得可能です。
家業や親の会社を継ぐデメリット
家業や親の会社を継ぐデメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- サラリーマンほど安定していない
- すべて自分の裁量に委ねられる
- 従業員との関係性で苦労しやすい
- 新しい人脈とのしがらみに悩まされる
- 伴侶や家族の理解が必要となる
- 廃業する決断が難しい
- 人のやっかみを受ける
- 思わぬところで自由を制限される
- 債務・借金も引き継ぐ
- 経営を傾かせるリスクがある
それぞれのデメリットを順番に見ていきましょう。
①サラリーマンほど安定していない
1つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、処遇が不安定である点です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合、後継ぎの能力が承継後の業績を大きく左右します。経営を上手に引き継げなければ、得られる収益を減らしてしまいかねません。
もちろん後継ぎの収入にも影響が及ぶため、サラリーマンのように安定した給料を得られないケースもあります。
②すべて自分の裁量に委ねられる
2つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、後継者の裁量にすべてを委ねられてしまう点にあります。家業を継ぐ・親の会社を継ぐと、承継後の経営を1人で進めなければなりません。従業員の生活のために事業を継続しなければいけないという責任感から、強烈なプレッシャーが襲うケースもあります。
また、家業を継ぐことを決めたら、事業方針の転換や新製品・新商品の開発やサービス改善など、家業に見合った決定を下し続ける必要があるのです。
③従業員との関係性で苦労しやすい
3つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、従業員との関係性です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合、従業員と良好な関係を築こうとしても上手くいかないケースがあります。
例えば、会社の重要なポストを担っている従業員が事業承継に反対しているケースなどです。こうした状況では、彼らのサポートなしに会社の舵を取らなければなりません。
経営を任されて間もない時期に、会社をよく知る者に助けを求められない場合もある点は、十分に把握しておきましょう。
④新しい人脈とのしがらみに悩まされる
4つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、新しい人脈とのしがらみに悩まされる点です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐと、後継ぎ自身が取引先との交渉を行います。
たとえ親の代で良い関係を築けていたとしても、自分の代に変わると、取引の中止をいい渡されたりこちらの足元を見られたりと厳しい条件を提示してくるおそれがあるのです。
⑤伴侶や家族の理解が必要となる
5つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、伴侶・家族の理解を必要とする点です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合、基本的にこれまでの地位やステータスを捨てなければなりません。事業の業績・規模によっては、得られる収入が減ってしまう事態が想定されます。
そのため、結婚相手や家族から反発を受けるケースも少なくありません。家業を継ぐ・親の会社を継ぐときは、一緒に暮らす家族の理解を得ることが求められるのです。
⑥廃業する決断が難しい
6つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、廃業の決断に迷う点です。子供が家業を継ぐ・親の会社を継ぐ以上、承継した事業・会社を続けていくために仕事に取り組みます。しかし、業績によっては、志半ばで会社の運営を諦める必要性が生じる場合もあるのです。
廃業の危機が目の前に迫った場合、無理をしてでも事業を続けるのか、不可能だと割り切って廃業を選択するのかを慎重に決める必要があります。
⑦人のやっかみを受ける
7つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、人のやっかみを受ける点です。後継者に選ばれて家業を継ぐ・親の会社を継ぐと、社員からやっかみを受ける可能性があります。
ここでは、社長の座を奪われたことに対する嫌味など、皮肉交じりの言葉を浴びせられる場合もあるのです。
⑧思わぬところで自由を制限される
8つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、自由を制限される点です。たとえ子供が家業を継ぐ・親の会社を継ぐとしても、自由に振る舞えない事態も想定されます。
例えば、休日を定めて休んでいても急な呼び出しを受けて仕事場に出向かなければならなかったり、ベテランの従業員が幅権勢を振りかざして事業の方針を変えにくかったりする場合もあるです。
⑨債務・借金も引き継ぐ
9つ目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、債務・借金を引き継ぐ点です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐと、親が背負っていた個人保証などの借金も承継します。つまり、借金を返済する義務が後継者に移るのです。
会社が倒産したり廃業したりしても後継者が借金を返さなければならないため、事業承継を受け入れると多大なリスクを抱えてしまいます。
事業を受け継ぐ際は、債務・借金の有無を正確に把握しておきましょう。借金の負担を重荷と感じる人は、承継を見直したり承継するまでに借金を完済・減らす努力を求めたりして、借金を避ける選択肢を確保してください。
⑩経営を傾かせるリスクがある
10番目の家業を継ぐ・親の会社を継ぐデメリットは、業績を悪化させるリスクがある点です。家業を継ぐ・親の会社を継ぐ行為は、世代交代の始まりに過ぎません。つまり、経営の指揮を取り始めてようやく現実を知れるのです。
ここでは、会社の運営が思い描いていたように進まないケースも十分に想定されます。親の代ではしっかりと収益を出していたのにも関わらず、自分の代になって経営不振に陥ってしまう可能性は大いにあるのです。
5. 家業や親の会社を継ぐリスクと注意点
ここでは、家業や親の会社を継ぐリスクや注意点について解説します。
家業や親の会社を継ぐリスク
家業や親の会社を継ぐにあたって、後継者からすると「連帯保証」を引き継いでしまうリスクがあります。連帯保証とは、会社が資金調達する際に経営者が保証人になることです。
もしも、先代の経営者が連帯保証人であれば、会社を継ぐと自身も連帯保証を背負います。連帯保証人となると、会社が破産した際に自身に借金返済の義務が生じるのです。会社が破産したときの借金は、多額になるため大きなリスクといえます。
家業や親の会社を継ぐ前には、必ず連帯保証の有無を確認しておいてください。
家業や親の会社を継ぐときの注意点
一般的に、事業が十分な収益を得られる期限は30年程度とされています。その一方で、先代の経営者が事業の創業から事業承継するまでの期間は20~30年程度です。つまり、単一の事業内容を抱える会社を継ぐ場合、後継者は残り寿命わずかの会社を引き継ぐ可能性があります。
寿命間近な会社を継いだ後に、十分な収益を得ることは非常に難しいです。事業内容が単一の会社である場合、商品改良やターゲット変更など事業に手を加える必要があります。状況によっては、新たな事業の立ち上げを検討しなければなりません。
したがって、家業や親の会社を継ぐ際は、現状維持だけでは今後の事業継続は難しい可能性がある点に注意してください。
6. 家業や親の会社を継ぐ際のポイント
ここでは、家業や親の会社を継ぐ際のポイントを紹介します。
- 会社を継ぐタイミングをすり合わせる
- 経営者として必要な能力を把握しておく
- 事業承継の専門家に相談する
それぞれのポイントを順番に見ていきましょう。
①会社を継ぐタイミングをすり合わせる
会社を継ぐタイミングについて、先代経営者と後継者の間ですり合わせておきましょう。円滑に会社の引き継ぎを行うためには、両者のタイミングに関する認識を合わせておくことが大切です。
子供側からすると、会社を継ぐと決めた段階で入社して仕事を覚え始めることも有効策です。後継者の教育には5年〜10年ほどの時間が必要であるため、早く入社するほど会社を継いだ後の成功率が高まります。
なお、後継者教育では、技術や財務のみならず経営ノウハウについても伝えなければなりません。また、後継者に対して教育する過程では、会社を継いだ後の方向性についても話し合っておく必要があります。
②経営者として必要な能力を把握しておく
家業や親の会社を継ぐ前に、経営者として必要な能力を把握しておきましょう。一般的に、経営者には以下のような能力が必要とされています。
- 自社事業の技術・ノウハウ
- 覚悟
- 経営に関する知識・経験
- 斬新な発想・センス
- 努力できる精神力
まず、自社事業の技術・ノウハウについては、現経営者など自社の人間から綿密に教育を受ける必要があります。現経営者からは、経営に関する知識・経験についても教えを請うと良いでしょう。
その一方で、覚悟や斬新な発想・センス、そして努力できる精神力などは、教育だけではなく後継者自身が主体性を持って身に付けていかなければなりません。これらの能力・素質を身に付けるには、ビジネス関連の書籍を読み込むほか、経営者が多く集まるセミナーへの参加も有効策です。
以上の能力・素質をなるべく身に付けておいて、スムーズに引き継ぎを済ませましょう。
③事業承継の専門家に相談する
家業や親の会社を継ぐことを検討しているならば、事業承継の専門家に相談するとスキームを提案してくれたり手続きに関するアドバイスをしてくれたりと、心強いサポートが期待できます。
M&Aによる事業承継を検討している場合は、一貫支援が受けられるM&A仲介会社がおすすめです。M&A総合研究所では、経験豊富なM&Aアドバイザーによるフルサポートを行っています。
当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。
7. 家業や親の会社を継ぐのに適した年齢とは
2019年版『中小企業白書』によると、事業承継後の新たな経営者の年齢が若いほど業績拡大への意欲は強く、実際に業績を拡大するケースも増えると見込まれています。そのため、会社を継ぐ年齢にはなるべく早い時期を設定すべきです。
たとえこれまで経営が上手くいっていたとしても、会社を継いだ後も継続できるとは限りません。十分な体力や熱量を持つ若い後継者が家業や親の会社を継げば、事業承継後に成功する可能性が高まるのです。また、年齢が若いと、小さな失敗をしても許してもらえたり有事の際に多くの人がサポートしてくれたりと、さまざまな点で有利に働きやすくなります。
8. 家業や親の会社を継ぐ際の手続き方法
家業を継ぐ・親の会社を継ぐ場合、事業の形態(個人・法人)によって手続き方法が異なります。
ここでは、承継する事業体を個人事業と法人に分けて、必要な手続きについてまとめました。
個人の場合
個人事業を継ぐ場合には、後継者と現経営者が承継を完了させるために手続き・届出を行わなければなりません。個人事業を継ぐ場合には、以下の手続き・届出が必要です。
- 現経営者の廃業届
- 後継者の開業届
- 従業員や取引先への挨拶
- 資産の確認と引き継ぎ
それぞれの手続きを詳しく見ていきましょう。
①現経営者の廃業届
1つ目に挙げる個人事業を承継するための手続きは、現経営者による廃業届の提出です。親が個人事業を行っている場合、課税対象は個人となります。つまり、法人のように、事業承継によって課税の義務が後継者に移行することはありません。
そのため、子供に事業を譲るケースでは、現経営者である親が個人事業の廃業届を提出します。ちなみに、廃業届のほかにも、以下に挙げる書類の提出が必要となるため注意が必要です。
- 個人事業の開業・廃業等届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書
- 事業廃止届出(消費税を支払っていた場合)
- 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請(予定納税に該当する場合)
②後継者の開業届
2つ目に挙げる個人事業を承継するための手続きは、後継者による開業届の提出です。家業(個人事業)を継ぐ場合には、後継者が新たな個人事業主となるため、開業届を提出する必要があります。
家業を継ぐ後継者にも、開業届のほかに提出が義務付けられている届出があります。以下に必要な届出をまとめましたので、参考にしながら引き継ぎに必要な書類・手続きを把握しておきましょう。
- 個人事業の開業・廃業等届出書
- 青色申告承認申請書
- 青色事業専従者給与に関する届出書(生計をともにする家族に給料を支払う場合)
- 給与支払事務所等の開設の届出(従業員を雇う場合)
③従業員や取引先への挨拶
3つ目に挙げる個人事業を承継するための手続きは、従業員や取引先への挨拶です。個人で行う家業を継ぐ場合であっても、事業承継により経営を引き継いだら、親しい従業員や取引先などへ経営交代の旨を伝えましょう。
特に取引先への挨拶を怠ってしまえば、今後の取引に悪影響が及びます。経営者の変更を知らされなかったことを理由に、取引中止の申出をされるケースも想定しておかなければなりません。ここでは、直接出向いたり挨拶状を送ったりして、経営者が交代した事実を周知させてください。
なお、取引先には、事業口座の名義変更や新しく開設した口座も伝えましょう。なぜなら、既存の事業口座は、先代経営者の名前で作られているケースが多いためです。挨拶に加えて事業口座の変更点についても知らせるようにしてください。
④資産の確認と引き継ぎ
4つ目に挙げる個人事業を承継するための手続きは、資産の確認と引き継ぎです。親から家業を継ぐ場合、事業に必要な資産(不動産・商品・設備・売掛金・預貯金など)を確かめたうえで承継します。
資産の引き継ぎでは、以下の2つの方法から選んで用いてください。1つ目の方法は、売買による引き継ぎです。ここでは、後継者が譲渡代金を親に支払って資産を引き継ぎます。売買を選ぶと、譲渡代金と取得したときの資産の差から所得税が課せられる仕組みです。
2つ目の方法は、贈与です。贈与では無償で資産を承継できますが、譲渡された資産(時価で計算)が110万円を超えると贈与税が課せられます。なお、課税対象は、資産から債務を差し引いた金額です。
資産には債務・借金も含まれる
承継する資産には、債務や借金も含まれます。そのため、資産を引き継ぐ場合には、事業の運営に必要かどうかを確かめたうえで承継に対応しましょう。個人保証などの借金を先代から引き継げば、承継後の負担を増やしてしまいかねません。
経営者としての負担を軽減したい人は、個人保証などの借金を前経営者に支払ってもらったり、承継までに借金の額を減らしたりといった対応を提案しましょう。
法人の場合
法人(親の会社)から引き継を行う場合、個人事業とは異なる手続きが見られるため、以下に紹介する方法を十分に確かめておいてください。
- 贈与・相続による引き継ぎ
- 株式の確保を行う
- 税金などの対策を行う
それぞれの手続きを順番に見ていきましょう。
①贈与・相続による引き継ぎ
1つ目に挙げる法人を承継するための手続きは、贈与・相続による引き継ぎです。親の会社を継ぐには、一定数の株式を獲得する必要があります。親が生きている場合には、贈与(生前贈与)を利用して株式を承継しましょう。
その一方で、親の死去によって株式を受け取る場合には、相続を用います。ここでは、遺言の内容に従って後継者に充てられた株式を譲り受けてください。
ただし、贈与や相続により株式を承継する場合、親族の遺留分を侵害するおそれがあります。そのため、生前・死後の承継を問わず、親族の権利に抵触しないよう相続分を決定してください。
②株式の確保を行う
2つ目に挙げる法人を承継するための手続きは、株式の確保です。親の会社を継ぐ場合には、経営権を握るために株式を取得する必要があります。
経営権の掌握を目的とする場合、取得する株式の割合は議決権の2/3以上が目安です。これにより、拒否権の発動を抑えながら、特別決議を行使できます。
③税金などの対策を行う
3つ目に挙げる法人を承継するための手続きは、税金などの対策です。親の会社を継ぐ場合、取得した株式に対して税金が課せられます。承継後の負担を軽減するには、以下に挙げる方法を利用しましょう。
- 承継前に株価を下げる(先代経営者に退職金を支払う・土地や建物を買う)
- 暦年贈与の利用(110万円までは非課税)
- 相続時精算課税制度の利用(2,500万円までは非課税)
ただし、暦年贈与と相続時精算課税制度の併用は不可能です。また、相続時精算課税制度は、60歳を超える両親・祖父母から20歳を超える子供・孫に対する生前贈与を対象としています。
9. 家業や親の会社を継いだ事例を紹介
国内外の企業には、実際に家業を継ぐ・親の会社を継ぐ事例が多く見られます。ここでは、主な事業承継の事例をまとめました。取り上げる事例から、事業承継のパターンを把握しておきましょう。
①ファーストリテイリング
1つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、ファーストリテイリングです。現在は会長・社長を務める柳井正氏は、1984年に父親の柳井等氏から事業を受け継いで社長に就任しています。
就任以降、フリースなどのヒットによりユニクロ店舗を全国的に拡大しており、2019年8月末段階で国内では817店舗、海外では1,379店舗にまで達しています。
②星野リゾート
2つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、星野リゾートです。現在では社長を務める星野佳路氏は、1991年に父・星野嘉助氏と対立しましたが、親族からの要請により再び入社しています。
同年、改革のために株主の賛同を集め、経営権を獲得して社長に就任しました。就任後はさまざまなリゾートホテルの再建を手掛けたり高級志向のホテルを展開したりと、精力的に事業の転換を図っています。
近年では、旅館・ホテルに投資するREIT(不動産投資信託)の会社を設立するなど、運営に特化した事業転換が見られます。
③山崎製パン
3つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、山崎製パンです。現在では社長の職に就く飯島延浩氏は、1979年に叔父の飯島一郎氏から会社を引き継いでいます。
④ウォルマート
4つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、ウォルマートです。社長職には外部の人間を登用していますが、会社の株式は創業者の家族が所有して経営権の承継を継続しています。
現在では、ウォルマート株式の半数近くが創業者サム・ウォルトンの長男ロブ・ウォルトンをはじめ、三男のジム・ウォルトン・娘のアリス・ウォルトンなどに集中している状況です。
⑤フォルクスワーゲン
5つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、フォルクスワーゲンです。フォルクスワーゲンの経営は、ピエヒ家とポルシェ家によって支配されています。
持ち株会社のポルシェSEはフォルクスワーゲンの議決権の50%以上を所有しており、ポルシェSEの株式はピエヒ家とポルシェ家が100%の議決権を所有しているという状況です。
フォルクスワーゲンは前述のウォルマートと同様に、一族が株式の大半を所有して経営に対する発言権を持ちながら、実質的な経営を社内・外部の者に任せています。
⑥ヤンマーホールディングス
6つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、ヤンマーホールディングスです。歴代の社長を見ると創業者の山岡孫吉氏にはじまり長男の山岡康人氏・次男の山岡淳男氏が続き、1998年より山岡敦男氏の長男である健人氏が社長を務めています。
⑦サントリーホールディングス
7つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、サントリーホールディングスです。歴代の社長を見ると、創業者の鳥井信治郎氏・次男の佐治敬三氏・長男の息子である鳥井信一郎氏・佐治敬三氏の息子である佐治信忠氏に脈々と経営が引き継がれています。
ただし、現在は親族外から登用されており、2014年以降はかつてローソンの取締役社長・会長を努めていた新浪剛史氏が社長を務めています。
⑧竹中工務店
8つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、竹中工務店です。歴代の社長を見ると初代の竹中藤兵衛正高氏から17代目の竹中統一氏までを一族から選んでいましたが、18代目以降は親族外から社長を登用しています。
⑨大塚製薬
9つ目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、大塚製薬です。歴代の社長は大塚製薬の起源とされる大塚製薬工場を含めると、初代の大塚武三郎氏から三代目の大塚明彦氏まで一族が務めています。
しかし、4代目以降は、外部の人材を登用している状況です。
⑩読売新聞社
10番目に紹介する家業や親の会社を継いだ事例は、読売新聞社です。歴代の社長を見ると、創業して間もない時期には創業者およびその親族が務めていましたが、以降は親族の有無を問わずに社長を選出しています。
10. 家業や親の会社を継ぐ場合に有効な税制や補助金
ここでは、中小企業の後継者不足を受けて国が行っている事業承継への支援について紹介します。たとえ家業や親の会社であっても、事業を引き継ぐときの費用負担は大きいです。少しでも資金面での負担を減らすためにも、事業承継を支援する税制や補助金について把握しておきましょう。
事業承継補助金
家業や親の会社を継ぐ際に事業の多角化・業態の変更・事業所の集約化などを行う場合、事業承継補助金の申請が行える可能性があります。
家業や親の会社を継ぐ場合は最大200万円の補助金を受け取れるうえに、事業所の集約・廃合を伴う場合には300万円が追加されます。
家業や親の会社を継ぐ場合における最大のネックは、贈与税・相続税などの課税額です。業績が好調である企業は自社株の評価額が高いため、株式の相続で発生する課税が大きな負担になる可能性があります。
こうした悩みを抱える場合、事業承継補助金の利用を検討してみましょう。
事業承継税制
事業承継税制とは、後継者が非上場企業の株式を相続した場合に、一定条件をクリアすると納税の猶予・免除が受けられる制度です。
2018年度の税制改正により優遇の範囲は拡大しており、入口要件の緩和だけでなく、承継後に業績が悪化して破産した場合には再計算が行われて緩やかな税負担に変更されるなど、後継者にとって優しい制度に改正されています。
補助金や税制をスムーズに活用するには、専門家によるサポートも必要不可欠です。後継者になる予定がある場合には、専門家とも関係を築いておくと良いでしょう。
11. 家業や親の会社を継ぐ際の相談先
家業や親の会社を継ぐ場合には、金融機関・各種士業・M&Aアドバイザリー・M&A仲介会社などの専門家に相談しましょう。
自身の状況にふさわしい事業譲渡スキームを提案してくれたり手続きに関するアドバイスをもらえたりと、承継に関して手厚いサポートが受けられます。
事業承継の相談はM&A総合研究所へ
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12. まとめ
本記事では、家業を継ぐ・親の会社を継ぐ行為(事業承継)について、メリットやデメリット・必要な手続きなどを紹介しました。
後継者として親の事業を継ぐ人は、引き継ぐタイミングの見極めが大切です。また、承継の意思が固まっていなければ、前の仕事を引きずったり引き継いだ事業に身が入らなかったりするトラブルも懸念されます。
後継者となるかどうかを決める際は、事業承継の良い点・悪い点を理解したうえで、納得してから引き継ぎましょう。
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