2022年08月28日更新
株式交換の株価への影響を解説!株価は上がる?下がる?【事例あり】
株式交換で株価は上がるのか下がるのか、その実態を分析します。この記事では、株式交換の概要説明から始まり、株価に影響を与える理由、自社株の評価を下げる方法、事例解析、株式交換に反対する手段、個人株主の注意点などについて解説します。
目次
1. 株式交換とは
株式交換とは、対象会社の株式を全て取得して完全子会社化し、その際における対価として自社の株式を割り当てる手法のことです。1999(平成11)年の商法改正時に解禁され、企業再編の手段として用いられています。
株式交換を行うのは、対象会社の発行済み株式を全て取得して完全親会社となる会社と、完全子会社となる対象会社の株主です。株式交換の契約を結ぶ際は、株式を買い取る側(完全親会社)と、株式を買い取られる側(完全子会社)の間で、株式交換の比率を定めます。
その交換比率に応じて、完全親会社の株式を完全子会社の株主へ割り当てることで、株式交換は完了です。上図は、それを表したイメージ図になります。
株式交換の目的
株式交換の目的:買収コストを抑える
株式交換における1つ目の目的は、買収コストを抑えることです。株式交換では、自社の株式を対象会社の株主に割り当てるため、現金による取引を必要としません。多額の現金が手元になくても、対象会社を子会社とすることが可能です。
株式交換の目的:簡易な取引
2つ目の目的として、簡易な取引が挙げられます。対象会社の株式を取得する際に、一人ひとりの株主と交渉すると大変な労力です。株式交換を用いれば、株主総会の特別決議で、議決権を持つ株主の過半数が出席し、出席した議決権者における2/3以上の賛成により、株式の交換が行えます。
反対する株主が少数なら、個別に交渉を行わなくても株式を取得できるため、株式交換が選ばれるでしょう。
簡易・略式株式交換の活用
株式交換には、手続きを簡略化できる簡易株式交換と、略式株式交換が用意されています。簡易株式交換に該当すれば、完全親会社は株主総会の決議を省くことが可能です。
略式株式交換の条件を満たせば、完全子会社側が、株主総会の決議を省けます。こうした手法が用意されているため、企業は株式交換によって対象企業の完全子会社化を図っているといえるでしょう。
株式交換の目的:会社の独立性を維持する
3つ目の目的は、会社における独立性の維持です。株式交換を行っても、会社合併などと違って子会社は独立した法人のままでいられるため、企業名の変更などは行われません。従業員や取引先・顧客への影響を抑えられるので、株式交換が選ばれます。
株式交換のデメリット
ここで、株式交換の主なデメリットを見ていきましょう。
株式の現金化が難しい
対価に現金を望む場合、株式交換は不向きといえます。株式交換では、ほとんどのケースでM&Aの対価として株式を受け取ります。非上場企業の株式を対価として受け取った場合は、現金化はかなり難しいでしょう。
M&Aの契約に株式売却を制限する条項を盛り込むことがあり、その条項があれば上場企業の株式を受け取っても現金化するのは不可能です。株式交換では株式の現金化はほぼできないといえ、売却できても割安での売却となるでしょう。
部分的に買収できない
株式交換は、相手企業における全ての株式を受け取る手法なので、望む事業や資産のみ買収できません。簿外債務や訴訟案件なども引き継ぎます。株式交換の後に財務状況が急に悪くなり、株価が急落して株主が大きな損害を被るリスクもあります。
部分的に買収したい場合は、事業譲渡を活用すると良いでしょう。いろいろなM&A手法から自社に適した手法を判断するには、専門的な知識と経験が欠かせないので、専門家に相談することをおすすめします。
株価下落のリスク
株価下落のリスクも、株式交換のデメリットです。株式交換の前後では、株価が大きく変動しがちです。業績が悪くなると予想されれば株価が下がる可能性があります。株価が下がると、既存の株主が損を被ることもあるでしょう。
2. 株式交換が株価に影響を与える理由
なぜ、株式交換を行うと株価に影響が及ぶのでしょうか。株価に影響を与える理由には、以下の3つが挙げられます。
- 株式交換による上場廃止の影響
- 株式交換の際におけるプレミアム支払いの影響
- 株式交換が行われると株価は上がる?下がる?
①株式交換による上場廃止の影響
1つ目に挙げられる株式交換による株価への影響は、上場の廃止です。完全子会社となる企業が上場企業なら、株式交換により上場廃止に至ります。
上場維持基準を満たせなくなるものの、株主には完全親会社の株式が交付されるため、株主の利益は守られるといえるでしょう。
しかし、株式市場への影響を考慮せずに株式の交換比率を定めて公表してしまうと、株式交換が実施される前に完全親会社・完全子会社の株価が上下します。
上場廃止が株価に影響を及ぼしたケース
株価への影響をわかりやすくするために、完全親会社となる企業が、交換比率を高めてしまったケースを例に挙げてみましょう。
完全親会社となる企業は、高い交換比率により、交付する株式を増やしたことで、株式市場では自社の株価が下がる動きに反映されます。一方、完全子会社となる企業の株主は、株式交換が実施されれば、交付される株式が増えて所有する資産価値が高まります。
その恩恵を受けようとして株が買われ、株価の上がる動きが市場に現れるでしょう。
②株式交換の際におけるプレミアム支払いの影響
2つ目に挙げられる株式交換による株価への影響は、プレミアムをつけた支払いです。株式交換では、市場価格よりも高い値をつけて、株式の交換を行います。これは、完全子会社となる企業の株主に向けてメリットをアピールし、株式の譲渡を促すためです。
株式交換の発表により、プレミアムの付与が認識されれば、株価の高まりに合わせて市場での買いが増えます。すると株式の売買停止までに、市場での売り買いが盛んになるため、プレミアムの支払いによって完全子会社の株価には、上がる動きが促されるといえるでしょう。
③株式交換が行われると株価は上がる?下がる?
3つ目に挙げられる株式交換による株価への影響は、当事会社に見られる株価の上昇と下落です。株式交換にかかわる親会社と子会社は、取引の発表・株取引の中止・効力の発生などに合わせて、株価に変化が生じます。
親会社の株価は上がる?下がる?
親会社が上場企業なら、株式交換によって株価への影響は避けられません。一般的な株価変動を調べると、株式交換の発表後に下がる動きを見せています。その後、株式交換の効力発生日が近づくにつれて、上がる動きへと変わっていく傾向です。
株式交換が発表されて確定的になると、株価は交渉によって決定された交換比率に収まるでしょう。ただし、場合によっては、株式交換の発表後に株価が上がるケースも見られます。したがって、親会社の株価変動は当事会社によって異なると覚えておきましょう。
子会社の株価は上がる?下がる?
子会社の株価変動を調べてみると、一般的には、株式交換の発表後に上がる動きを見せています。これは親会社とのグループ化によって、シナジーが期待されるためです。しかし、その後は株価を下げる動きに変わり、売買の最終日が迫るにつれて、株価の上昇が見て取れるでしょう。
一部の子会社では株式交換の発表後に、株価を下げる動きを見せていたため、発表後の株価変動は、それぞれのケースによると考えると良いです。
株価の変動は、株式の時価総額(株価×発行済株式数)の大きさによって左右されるといえるでしょう。一般的に、株式交換では親会社の方は時価総額が大きいため、親会社の株価に連動して子会社の株価が上がる傾向にあります。
株式交換の株価変動に関する相談はM&A総合研究所へ
株式交換で株価の上昇・下落を懸念される場合は、M&A仲介会社などの専門家に相談しながら進めると良いでしょう。中小企業のM&Aに携わるM&A総合研究所では、株式交換に精通したM&Aアドバイザーが案件をフルサポートします。豊富な知識と経験によるサポートにより、株式交換後の影響を考えた対応が可能です。
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3. 株式交換を利用して自社株の評価を下げるには
オーナーが2つの会社(非上場)を所有している場合、株式交換の利用によって、自社株の評価を下げられます。所有するA・Bの会社があり、会社の規模はAが大きくBが小さいケースで考えてみましょう。
この場合、規模の小さいB社を親会社、規模の大きいA社を子会社として株式交換を行えば、株価の発行や株価の評価方法によって、自社株の評価を下げられます。
株式の発行で自己株の評価を下げる
B社は株式交換のため、A社の株主へ自社の株式を新たに発行します。すると、B社の株式が増えるため、1株当たりの配当金・利益・純資産が下がり、株式の評価も低下するでしょう。
規模の大きい会社ほど自社株の評価を下げられる
非上場会社の株式は、主に会社の規模(従業員・総資産・売上高)を基準にして、評価額を算出します。大会社の評価額は、類似業種比準価額によって算出され、中・小会社は類似業種比準価額と純資産価額を合わせた算出法を採用されることが多い現状です。
算出方法は、類似業種比準方式(類似業種比準価額と純資産価額の併用)と純資産価額方式から選びます。両者を比較すると、類似業種比準方式の方が評価額は低くなるのが一般的な見方です。
つまり、株式交換では、類似業種比準方式を採用し、類似業種比準価額の割合が高い大規模会社を親会社に据えることで、自社株の評価を下げられるといえるでしょう。
4. 株式交換の株価変動リスクを抑える方法
株式交換契約は締結された後、一連の手続きを経て株式交換の効力が発生するまでに1カ月~数カ月程度の期間を要します。
株式交換比率は、契約の際に決議された値で固定するのが一般的です。クロージングまで長期間かかってしまう場合や大きな株価変動が予想される場合は、あえて株価に応じて株式交換比率を変動させるケースもあります。
株式交換比率には、固定比率方式、変動比率方式があり、株式交換を行う会社の事情にあわせて使い分けられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
固定比率方式を採用するケース
固定比率方式では、買い手側(完全親会社)を1とした場合、それを基準に売り手側(完全子会社)の比率を、完全親会社の株価に完全子会社の株価を割った数値で設定されます。
株価が変動してもこの方式であれば、完全子会社の株主が受け取る株式数は変動しません。株式交換によって完全親会社の株価が上がった場合、完全子会社の株主は得をしますが、株価が下落すれば損をしてしまいます。一方、完全親会社にとっては、その逆となるでしょう。
固定比率方式であれば発行数が固定されているため、希薄化を一定の範囲に抑え込めるメリットが得られます。
変動比率方式を採用するケース
変動比率方式は、最初に売り手側(完全子会社)の株価を決めて、株式交換が実行される直前に買い手側(完全親会社)の株価を決定するものです。完全親会社の株価が上がると1株当たりの価値が上がるため、完全子会社の相対的な価値は下がってしまいます。
株価変動により、株主が取得する株式数は影響を受けますが、対価の額は同じです。完全子会社の株主にとっては、対価として受け取る額が保証されるメリットがあるでしょう。
新株を交付する場合、株価が上がれば株式における希薄化の恐れも低くなります。どちらの方式にすれば良いのか、専門知識のある第三者機関に依頼し株式価値を算出してもらい、親会社と子会社の両企業が交渉をして、株式交換比率を決定するのが一般的です。
5. 株式交換の株価の影響を事例から見る
株式交換を行った企業は、株価にどのような動きが見られたのでしょうか。株式交換が株価に与えた事例を取り上げて、株価の動きを紹介します。
- EduLabと教育デジタルソリューションズ
- パナソニックと三洋電機
- 出光興産と昭和シェル石油
- メルカリとマイケル
- トヨタ自動車とダイハツ工業
- ウエルシアHDとCFSコーポレーション
- 日清紡HDと新日本無線
- セブン&アイHDとニッセン
- 味の素とカルピス
- 太平洋セメントとデイ・シイ
①EduLabと教育デジタルソリューションズ
1つ目に紹介する株式交換の事例は、2020(令和2)年4月、教育関連事業を行うEduLabと教育デジタルソリューションズの間で実施された株式交換です。
EduLabが完全親会社となり、教育デジタルソリューションズが完全子会社となる株式交換でしたが、EduLabは、従前より教育デジタルソリューションズの株式12.99%を所持しており、簡易株式交換にて実施されました。
公表された株式交換比率は、EduLab株211に対して、教育デジタルソリューションズ株1の割合です。
なお、教育デジタルソリューションズが従前より所有していたEduLab株式15,600株は、株式交換実施後の2020年5月、EduLabが現金取引による売買で引き取っています。
EduLabの株価変動
EduLabにおける株式交換発表日(2020年2月20日)の株価は3,995円(終値)、その後、徐々に下降し、株式交換実施日(2020年4月1日)の株価は2,797円(終値)でした。
この時期はコロナ禍にあり、その影響で株式市場は全般的に大きく下落していた時期です。したがって、EduLabの株価の動向も、株式交換がどこまで影響していたのかは断点が難しくなっています。
教育デジタルソリューションズの株価変動
教育デジタルソリューションズは非上場企業であったため、株価の動向はありません。
②パナソニックと三洋電機
2つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2011(平成23)年に行われたパナソニックと三洋電機の株式交換です。
この事例では、パナソニックを親会社、三洋電機を子会社として、簡易株式交換の手法を用いた株式交換を行っています。三洋電機は株式交換に先立って、上場を廃止し、パナソニックの完全子会社になりました。
株式の交換比率は、パナソニック1:三洋電機0.115の割合です。パナソニックは三洋電機の株式を全て取得し、交換比率に基づいて、三洋電機の株主へ自社の株式を割り当てています。
単元未満の株式は買取・買増を行い、1株以下の端数も、金銭を支払いました。
パナソニックの株価変動
パナソニックの株価は、株式交換の発表当日に1,169円(終値)をつけ、その後少しずつ株価を下げる動きに変わっています。一時は1,000円台を割りましたが、株式交換の完了日には、1,058円(終値)まで回復しました。
三洋電機の株価変動
三洋電機の株価は、株式交換の発表日に137円(終値)をつけ、発表翌日の株価は130円(終値)と下がる値動きでした。株式交換の完了日までは、徐々に下がる傾向が見られ、最低価格は98円(終値)となり、売買の最終日は116円(終値)に落ち着いています。
③出光興産と昭和シェル石油
3つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2019(令和元)年の出光興産と昭和シェル石油による株式交換です。
出光興産を完全親会社、昭和シェル石油を完全子会社とし、株式交換の比率を1:0.41と設定して取引を行っています。出光興産の株式を昭和シェル石油の株主へ交付し、出光興産は昭和シェル石油の発行株式を全て取得しました。
出光興産の株価変動
株式交換を発表した日の株価は、5,740円(終値)で、それから株式交換の効力発生日までは、下落の動きを見せています。4,000円台から、3,000円台まで下がり、効力発生日の株価は3,795円(終値)でした。
昭和シェル石油の株価変動
株式交換を発表した当日の株価は2,378円(終値)で、翌日の株価は2,390円(終値)と上がるものの、その後は株価が下がる値動きが顕著でした。最低価格が1,413円(終値)で、取引の最終日は1,682円(終値)に落ち着いています。
④メルカリとマイケル
4つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2018(平成30)年のメルカリとマイケルによる株式交換です。メルカリを完全親会社、マイケルを完全子会社とし、簡易株式交換によるスキームで、株式交換を行っています。
株式の交換比率は、メルカリ:マイケル株式会社=1:194.83の値です。メルカリはマイケルの発行株式を全て取得し、マイケルの株主には、1株につき194.83株のメルカリ株を交付しました。
メルカリの株価変動
マイケルとの株式交換を発表した当日は、3,150円(終値)をつけましたが、翌日は3,115円(終値)まで下落しています。株価はその後、下がる動きを見せ、一時期には2,685円(終値)まで下落し、取引の効力発生日には、3,000円を下回る2,996円(終値)の値でした。
マイケルの株価変動
マイケルは非上場企業であったため、株価の動向はありません。
⑤トヨタ自動車とダイハツ工業
5つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2016(平成28)年のトヨタ自動車とダイハツ工業です。トヨタ自動車を完全親会社、ダイハツ工業を完全子会社とし、簡易株式交換によって、両社の株式が交換されています。
株式の交換比率は、トヨタ自動車:ダイハツ工業=1:0.26の値です。この取引により、トヨタ自動車はダイハツ工業の普通株式を全て取得し、ダイハツ工業の株主へ自社の株式・54,035,654株を割り当てています。ダイハツ工業は株式交換により、上場を廃止しました。
トヨタ自動車の株価変動
株式交換を発表した日の株価は、7,200円(終値)をつけ、翌日には7,339円(終値)に上昇し、上がる動きを見せています。
発表の前後では株価が上げる動きが見られたものの、その後は5,000円台の前半にまで下落し、株式交換の実施日が近づくと、5,000円台の後半まで回復しました。
ダイハツ工業の株価変動
株式交換の発表当時の株価は、1,860円(終値)で、翌日には1,977円(終値)と値を上げる動きを見せています。その後は徐々に株価を下げる動きが見られ、1,300円台まで下落したこともありました。売買の最終取引日が迫ると、1,500円前後まで株価が回復しています。
⑥ウエルシアホールディングスとCFSコーポレーション
6つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2015(平成27)年のウエルシアホールディングスとCFSコーポレーションによる株式交換です。ウエルシアホールディングスを完全親会社、CFSコーポレーションを完全子会社とし、簡易株式交換の手続きにより、株式の交換を終えています。
両社の株式交換比率は、ウエルシアホールディングス:CFSコーポレーション=1:0.20です。ウエルシアホールディングスはCFSコーポレーションの発行済み株式を全て取得し、CFSコーポレーションの株主へ、1株につき0.20株のウエルシアホールディングス株を交付しています。
CFSコーポレーションは株式交換の完了に先立ち、上場廃止を実施しました。
ウエルシアホールディングスの株価変動
株式交換を発表した日の株価は、4,545円(終値)で、翌日には5,020円(終値)に上がっています。株価は、株式交換の効力発生日が近づくにつれて上がり、一時は6,630円(終値)をつけたほどです。
その後は、下がる傾向を見せ、効力発生日には5,520円(終値)まで値を下げました。
CFSコーポレーションの株価変動
株式交換の発表日やその翌日では、ほとんど株価に変化は見られませんでした。しかし、翌月の中頃から徐々に株価が上がり、最高で1,319円(終値)がつけられています。
株価は売買の最終日が近づくにつれて下がり、1,008円(終値)をつけて上場廃止を迎えました。
⑦日清紡ホールディングスと新日本無線
7つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2018年の日清紡ホールディングスと新日本無線による株式交換です。
日清紡ホールディングスを完全親会社、新日本無線を完全子会社とし、簡易株式交換によって、株式交換の取引を行っています。
株式の交換比率は、日清紡ホールディングス:新日本無線=1:0.65の割合です。日清紡ホールディングスは新日本無線の発行済み株式を全て取得し、新日本無線の株主に対して、交換比率に合わせた株式を交付しました。新日本無線は、株式交換を前に上場廃止に至っています。
この事例では、株式交換によって、単元未満株式を保有するのが予想できました。新日本無線の株主に対して、単元未満における買取・1単元までの買増権を与えています。
日清紡ホールディングスの株価変動
株式交換を発表する前の日では、株価が1,595円(終値)をつけていましたが、発表当日は1,478円(終値)にまで下落しています。その後は、1,100円台まで下がるものの、株式交換の効力発生日が近づくにつれて、1,200円台にまで回復する動きを見せました。
新日本無線の株価変動
株式交換を発表する前の日には、株価が904円(終値)だったものの、発表当日には950円(終値)をつけ、株価の上昇が見られます。その後は徐々に株価を下げる動きに移り、売買の最終日には765円(終値)まで下落しました。
⑧セブン&アイ・ホールディングスとニッセン
8つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2016年のセブン&アイ・ホールディングスとニッセンによる株式交換です。セブン&アイ・ホールディングスを完全親会社、ニッセンを完全子会社として株式交換を行っています。
ただし、株式の交換では、セブン&アイ・ホールディングス子会社のセブン&アイ・ネットメディアを通じて、親会社のセブン&アイ・ホールディングスの株式をニッセンに割り当てる、いわゆる三角交換によって株式交換が行われました。
セブン&アイ・ネットメディアが、ニッセンの発行株式を全て取得し、ニッセンの株主に対しセブン&アイ・ホールディングスの普通株式が付されました。
単元未満の株式は、買取・買増を認めているため、ニッセン側における株主への配慮がなされたといえるでしょう。ニッセンは株式交換の実行日を前に、上場廃止の手続きを踏んでいます。
セブン&アイ・ホールディングスの株価変動
株式交換を発表した前後では4,200円台(終値)をつけ、大きな変化は見られません。その後は上がる動きを見せ、4,300円台、4,400円台を行ききし、一時は4,840円(終値)に達しています。
ところが、株式交換の効力発生日が近づくにつれて、株価は下がるようになり、効力発生日には4,441円(終値)に落ち着きました。
ニッセンの株価変動
株式交換の発表前には、株価97円(終値)をつけていたものの、発表後は76円(終値)に下がる動きが見られます。その後も、60円台後半から70円台前半を行ききし、売買の最終日も67円(終値)で取引を終えました。
⑨味の素とカルピス
9つ目に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2007(平成19)年の味の素とカルピスによる株式交換です。味の素を完全親会社、カルピスを完全子会社として、株式交換を行っています。
株式の交換比率は、味の素:カルピス=1:0.95の割合です。味の素は、比率に従って、自社の株式をカルピスの株主へ交付しました。割り当てられた味の素の株式が、1株に満たない場合は、端数に応じて金銭の交付を行っています。
カルピスは株式交換の効力発生日を前に、上場廃止の手続きを踏んでいます。なお、2012(平成24)年、カルピスはアサヒグループホールディングスに売却されました。
味の素の株価変動
株式交換の発表前後では、1,432円(終値)から1,470円(終値)へと株価が上昇しています。その後は、1,300円台後半から1,400円台前半まで低下し、株式交換の効力発生日には1,452円(終値)に落ち着きました。
カルピスの株価変動
株式交換の前後では、1,106円(終値)から1,306円(終値)へと、株価の上昇が見られます。その後も、1,200円台の後半から1,300円台後半の間を行ききし、売買の最終日には1,304円(終値)をつけて、取引を終えました。
⑩太平洋セメントとデイ・シイ
最後に紹介する株式交換によって株価に影響が見られた事例は、2016年の太平洋セメントとデイ・シイによる株式交換です。太平洋セメントを完全親会社、デイ・シイを完全子会社とし、簡易株式交換による取引を実行しています。
株式交換の比率は、太平洋セメント:デイ・シイ=1:1.375の割合です。太平洋セメントは、デイ・シイの株式を全て取得し、交換比率に基づいて自社の株式をデイ・シイの株主へ交付しました。
単元未満の株式は、買取・買増に応じ、1株未満の株も金銭での支払いに応じています。デイ・シイはこの株式交換により、上場廃止しました。
太平洋セメントの株価変動
株式交換の発表前後では、279円(終値)から299円(終値)に上昇しています。その後は、200円台後半から200円台中盤へと下がる傾向が見られ、株式交換の効力発生日が近づくと、また200円台後半に上昇する動きでした。
デイ・シイの株価変動
株式交換の発表前後には、352円(終値)から401円(終値)に上がっています。その後は、300円台後半から300円台前半に下がるものの、最終の取引日が迫るにつれて、再度400円近くまで上昇する動きでした。
6. 株式交換に反対して株価を守る手段
株式交換によって株価を下げることが予想される場合、株主はいくつかの手段を講じて、株式交換を食い止めることが可能です。株式交換の反対には、以下の手段が用意されています。
- 株主総会の特別決議で議決権を持つ出席者の半数が出席し、1/3以上が反対する
- 無効確認訴訟を起こす
- 完全親会社の株主における6分の1以上が、反対を表明する(簡易株式交換の場合のみ)
- 差止請求を行う(略式株式交換で、完全親会社が特別支配会社の場合のみ)
7. 株式交換発表後に個人株主が注意すること
企業が株式交換を発表した場合、株主はどのような点に注意すればよいのでしょうか。株式交換が発表されると、以下の事態が想定されます。個人株主の方は、以下に紹介する3つの事態を把握して、株式交換に備えましょう。
- 単元未満株式となる可能性
- 株価の変動が大きい可能性
- 新しい株式に交換されるタイミング
①単元未満株式となる可能性
1つ目に挙げる株式交換発表後に個人株主が注意する点は、単元未満株式への移行です。株式には、単位(100株を1単位)が定められています。そして、株式交換では、株価の高い企業を親会社、株価の低い企業を子会社とするのが一般的です。
こうしたケースで、株価の高い完全親会社から株式が交付されれば、株価の違いにより、子会社の株主には交換比率に基づき、少ない数の株式が割り当てられます。その場合、1単位に満たない単元未満株式に変わる事態が想定されるでしょう。
しかし、単元未満株式に移行しても、株主の権利は保証されています。会社法により、単元未満となる場合は、株式の買取・買増のほか、1株に満たない端数に対する金銭での支払いを受けられます。
②株価の変動が大きい可能性
2つ目に挙げる株式交換発表後に個人株主が注意する点は、株価の大きな動きです。株式交換では、親会社の純資産や、株式の時価総額、子会社とのシナジー効果などが考慮され、株価が大きく変動します。
特に株式交換を発表した日や、売買最終日(上場廃止となる子会社の株式)などの前後は、株価の変動が起きやすいので注意しましょう。
③新しい株式に交換されるタイミング
3つ目に挙げる株式交換発表後に個人株主が注意する点は、株式交換が行われる時機です。株式交換の効力日を迎えると、自動で親会社の株式に交換されてしまいます。株式交換によって株の価値が下がると捉える方は、市場での最終売買日を前に、株式の売却を行うべきでしょう。
株式交換の効力発生日と、売買の最終日は異なります。株式の売却を考えている方は、効力発生日と合わせて、売買の最終日も確認しましょう。
8. 株式交換の株価への影響まとめ
株式交換による株価への影響について、事例や注意点、影響が及ぶ理由などを紹介しました。株式交換を行うと、公表日・売買の最終日・効力の発生日などの前後で、株価の変動が見られます。
自社が株式交換で親会社・子会社となる株式を保有する会社が株式交換を行う場合は、株価が変動することを知っておきましょう。
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