2024年08月20日更新
CRO・SMO業界のM&A・買収・売却の動向|事業承継の事例も解説
CRO・SMO業界のM&Aによる買収や売却・事業承継を解説します。CRO・SMO業界では、M&Aによる買収や売却が数多く存在します。CRO・SMO業界におけるM&Aの事例は、規模が大きな場合が多いのも特徴です。M&Aを検討中の方は必見です。
目次
1. CRO・SMO業界について
CROとは
CROとは、どういった業種なのでしょうか。CROは「Contract Research Organization」の略称で、日本語でいう「医薬品開発業務受託機関」を表しています。
CROの歴史はそれほど古くありません。CROが企業として見られるようになったのは1990年代頃です。その後は、製薬会社などの売り上げ拡大に引っ張られる形で業務の増加や企業間競争が激しくなっています。
CROにはCRAと呼ばれる臨床開発モニターが在籍するのも特徴です。CROの主な業務内容は、臨床試験などを行いながらの医療品開発で、発注元は主に製薬会社などになります。
SMOとは
一方、SMOとはどういった業種なのでしょうか。SMOは「Site Management Organization」の略称で、日本語で「治験施設支援機関」です。
CROにはCRCと呼ばれる治験コーディネーターが在籍します。CROの主な業務内容は、医師や看護師など医療にかかわる業務の支援です。支援の範囲は事務にまでおよび、発注元は主に医療機関となります。
CRO・SMO業界の現状
医療品のスペシャリストといわれているCRO・SMO業界ですが、業界の動向はどのような傾向があるのでしょうか。以下の一覧を解説します。
- 製薬会社からの業務委託
- 売上は増加傾向
- 今後は発展・競争の激化が予想される
製薬会社からの業務委託
CRO・SMO業界、特にCRO業界では、製薬会社からの業務委託が主な事業です。製薬会社は新薬の開発に力を入れるところも多く、新薬開発には大きな投資が行われています。そうした多くの資金がCRO・SMO業界に流入している状況です。
政府などの働きかけによりジェネリック医薬品の需要が拡大しています。ジェネリック医薬品の拡大は、CRO・SMO業界にも恩恵をもたらしています。
売上は増加傾向
医療分野は現在も日進月歩で成長を続けています。少子高齢化により医療にかかわる消費が増加している状況です。医療分野の成長は著しく需要の増加が大きく見込まれ、CRO・SMO業界でも売り上げは増加するといえるでしょう。
今後は発展・競争の激化が予想される
メディサーチの「業界情報 CRO・SMOとは?」によると、日本国内にCROは30社程度、SMOは40社程度存在します。他産業から見るとこの社数は非常に少ない企業数です。
この企業数で国内の医療機関による仕事を全てまかない、また、他産業が参入する可能性もあるので、CRO・SMO業界の今後は発展とともに競争の激化が予想される状況です。
2. CRO・SMO業界のM&A・事業承継の動向
この章では、CRO・SMO業界のM&Aにおける動向を一覧にして紹介します。CRO・SMO業界のM&Aは大型で、買収価格が高いものも少なくありません。
エムスリーによる買収
CRO・SMO業界のM&Aにおいて忘れてはいけないのがエムスリー社です。エムスリーは2000年に創業してわずか4年間でマザーズに上場を果たしています。創業から7年後の2007年に東証一部に上場するなど目覚ましい成長を遂げている企業です。
インターネットなどで医療事業に変革をもたらし経営基盤を盤石にしたエムスリーは、M&Aによる事業買収を繰り返して売り上げが増大し、CRO・SMO業界で上位クラスの企業へと成長を遂げました。
エムスリーのM&Aは海外を中心とした動きが多く、大型事業の買収が行われるなどの動向が見られ、買収価格も大型化しています。
買収や合併により業界再編は進む傾向
エムスリーだけではなく、CRO・SMO業界などを取り巻く医療業界では、買収による合併などが活発に行われている傾向があります。中には世界的に有名な製薬会社同士のM&Aが行われるなど、その動向は活発となる一方です。
こうした動向から、業界の再編は今後も進むと見られます。事業価格が伸びている今だからこそ、今後のCRO・SMO業界におけるM&Aも活発になるといえるでしょう。
大手は海外へのM&Aを進める
大手のCRO・SMO業界は国内での需要を確保しながら、さらなるマーケットの拡大を目指し海外に進出し始めています。海外でのシェア拡大は企業価値を上げると同時に、売り上げの価格を一気に伸ばす可能性を秘めているからです。
今後もCRO・SMO業界における海外へのM&Aであるin-outの動向は多くなると予想され、国内のみならず海外も巻き込んだ大型なM&Aや大きな価格が動くM&Aが数多く見られるでしょう。
クロスボーダーM&Aの成功要因・メリットについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
3. CRO・SMO業界のM&A・事業承継を行うメリット
ここまでCRO・SMO業界の動向や現状を簡単に解説しました。CRO・SMO業界はM&A・事業承継が多く見られます。それでは、M&A・事業承継にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、売却側と買収側それぞれのメリットを紹介します。
売却側のメリット
CRO・SMO業界でM&Aにより事業譲渡を行うと、売却側にどういったメリットをもたらす可能性があるのでしょうか。一般的に考えられるメリットの中で、以下を見ていきます。
- 会社・研究所の存続
- 大手による売却で海外が視野に
- 後継者問題の解決
- 研究者・従業員の雇用維持
- 負債や保証などからの解放
- M&Aによる売却益を得る
会社・研究所の存続
会社を継続させることは、経営者の大きな課題です。CRO・SMO業界でも、会社や研究所を存続させる意味があります。経営が困難な場合は、事業譲渡により会社再建の舵取り(かじとり)が可能です。
大手による売却で海外が視野に
CRO・SMO業界のM&Aにおける売却側のメリットに、大手とM&Aで事業譲渡を行えた場合、事業提携などが行われ販路が拡大する可能性があります。
国内シェアのみであった状況を海外までシェアを広げられる可能性もあるなど、自社だけではたどり着けなかった地域へ、販路を拡大できるでしょう。
後継者問題の解決
昨今の担い手不足は深刻な状況です。少子高齢化の時代的動向や人材不足など、後継者問題に対して会社が抱える問題はいろいろあり、後継者問題における対応の一つにM&Aによる事業譲渡で事業承継を行う事例も数多く見られます。
他の業界と同様に、CRO・SMO業界も後継者問題の解決方法としてM&Aを取り入れる事例があるのです。買収側の経営陣が売却側の事業に参画し、後継者問題に対応しているケースも見られます。
研究者・従業員の雇用維持
M&Aの事業譲渡による売却側のメリットに、研究者や従業員の雇用維持があります。経営が不安定であれば雇用の継続が難しくなるでしょう。そこでM&Aを活用し、事業譲渡を行うことで事業を継続させ、雇用を維持するでしょう。
負債や保証などからの解放
M&Aによる事業譲渡が行われると、売却側の売却対象となった事業や資産は全て買収側の企業に引き継がれるのが一般的です。それは負債や保障などの分野まで及ぶので、経営者は事業を譲渡し、負債や保証から解放されるメリットが考えられます。
M&Aによる売却益を得る
M&Aにより事業を譲渡し、対価として現金などの売却益を売却側は得られます。売却益はそのまま法人の収入となるため、新たな事業への投資や得意分野への資産増額など、さらなる経営基盤強化の資金にも活用できるでしょう。
買収側のメリット
CRO・SMO業界のM&Aで、買収側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。一般的なメリットの中から、以下に焦点をあてて解説します。
- 有能な研究者の確保
- 新規顧客・新規取引先の獲得
- 低コストでの設備投資
- 新規事業への参入
- 経営基盤の充実による事業拡大
- 外注コストの削減
- 買収先のブランド力を活用
有能な研究者の確保
買収側の目的に、有能な研究者の確保があります。研究者の育成はCRO・SMO業界で重要な課題です。しかし、有能な研究者を育て上げるには多くのコストと時間がかかります。
M&Aにより事業を買収すれば、人材を育てるコストと時間を大幅に節約できる可能性があり、自社では保有していなかったノウハウを持つ研究者を確保できる可能性もメリットです。
新規顧客・新規取引先の獲得
M&Aによる事業譲渡は販路拡大のメリットをもたらします。特に自社が得意としないエリアの企業を買収すると、新規の顧客や新規取引先を一気に獲得できるでしょう。
低コストでの設備投資
CRO・SMO業界の設備は非常に高額なものが多いです。中には機材として希少価値があるものもあります。M&Aを行えば、購入やリースでまかなうよりも低コストで獲得できるでしょう。
新規事業への参入
増益を目指している場合、事業の拡大は重要な要素です。M&Aにより事業を買収し、新規事業への進出をスムーズに行える可能性があります。自社にはないノウハウを買収した企業が保有していた場合は、新分野で非常に大きな財産になります。
経営基盤の充実による事業拡大
事業を買収すると、経営基盤が充実する可能性があります。経営基盤が充実すれば事業拡大のチャンスです。大きな事業展開を図る前にM&Aを行い、経営基盤の構築を図る方法もあります。
外注コストの削減
自社ではまかなえない技術や人員的な問題で外注に発注していた業務を、自社で行える可能性があります。自社で開発などを行えれば大きなコスト削減です。
買収先のブランド力を活用
買収先が業界でメジャーなブランドを抱えていた場合、ブランド力を獲得できます。M&A事例の中には、ブランドの獲得を目指して買収を行う事例が数多く存在するでしょう。ブランドを手に入れれば、その後における事業展開の大きなメリットになります。
4. CRO・SMO業界のM&A・事業承継の4つの手法
CRO・SMO業界におけるM&A・事業承継の手法は、どのような内容が多いのでしょうか。以下について簡単に解説します。
①株式譲渡による完全子会社化
まず、CRO・SMO業界におけるM&Aの手法として見られるのは、株式譲渡による完全子会社化です。完全子会社化を行うと、事業の全てを把握できます。株式譲渡では、買収企業は現金を準備する必要があります。
②株式交換による完全子会社化
完全子会社化における他の手段に、株式交換による手続きが存在します。株式交換により買収する側が売却側の株式を100%保有し、子会社化する手法です。この場合、買収側の企業は現金を調達する必要がありません。
株式譲渡と株式交換の違い
株式譲渡と株式交換の違いは資金を調達する方法です。株式譲渡は現金が必要になるため、買収価格が増大すると困難な場合があります。一方、株式交換であれば現金を調達する必要性がなく、買収価格が増大しても株式で補える場合がほとんどです。
③会社分割による組織再編
売却側の一部事業を分社化して、その事業を買収して引き渡す方法があります。この手法であれば、買収側も売却側も組織の再編を行えるメリットがあるでしょう。
特に売却側はM&Aの対価として多くの現金を手にしている場合もあり、そうした場合は事業の再編に資金を充当できます。
④合併や業務提携
CRO・SMO業界がM&Aを行う手法に、合併や業務提携があります。合併や業務提携によるメリットは、それぞれの会社における独自性を生かしながらシナジー効果が期待できる点です。
吸収合併の場合は、吸収された企業は消滅しますが、それに伴う資産は引き継がれます。業務提携の場合は、ノウハウや技術者の交流が盛んになると企業の価格も上がり、大きなメリットをもたらす可能性を秘めています。
買収後に統合するケースも
エムスリーが行ったM&Aのように、買収により一度子会社化を行った後に、吸収合併などで統合を行うケースもあります。どの手法でも、シェアの拡大やノウハウの吸収が可能です。
5. CRO・SMO業界のM&Aの相場
CRO・SMO業界におけるM&Aの相場ですが、結論からいうと決まった相場はありません。ただし、CRO・SMO業界におけるM&Aの動向を見ると、他業界より売却価格が高値に設定される場合が多く、相場価格が高く設定されている状況です。
業界内で動く資金額の大きさや、今後の業界の発展が期待されることから、相場価格が高騰していると見られます。
6. CRO・SMO業界のM&A・事業承継を成功させる5つのポイント
この章では、CRO・SMO業界のM&A・事業承継を成功させるポイントを見ていきましょう。
IoT技術などを十分に活用している
近年の製薬業界は、IoTで得たデータを活用した臨床研究が行われ、新薬開発にAIを用いる研究も進んでいます。これからは、量子コンピューターによる医薬品の開発速度が加速するでしょう。
CRO・SMO企業に最先端のIT対応が求められるのは必然です。ITを上手に活用しているCRO・SMO企業は、M&Aが円滑に進むといえます。
優秀な研究員を抱えている
CRO・SMO業界では、人材が重要な資産です。優秀な人材の所属人数が注目されます。人材不足は慢性的なので、優秀な人材を有すると他社との差別化になり、M&Aを成功させる確率が高まるでしょう。
海外とのネットワークを持っている
世界中のCRO・SMO企業は、治験環境が国際化したため、治験体制の強化を促進している状況です。それに伴い、日本の大手CRO・SMO企業は、急いで海外企業との協力体制を強めています。すでに海外ルートを有する企業は、M&Aにおいて優位となるでしょう。
M&Aを行う目的・計画を明確に持っている
CRO・SMO業界では、さまざまな目的や計画によりM&Aが行われています。大手CRO・SMO企業による中小CRO・SMO企業の集約化、CRO・SMO企業とIT企業の提携など、M&Aが活発化している状況です。
M&Aを行う目的を明確にし計画的に準備を行えば、M&Aのメリットを最大化できM&Aの成功へとつながります。
CRO・SMO業界に強いM&A仲介会社に依頼する
CRO・SMO業界や医療業界、ITに詳しいM&A専門家のサポートを受けることも、CRO・SMO業界のM&Aを成功させるポイントです。CRO・SMO業界に精通したM&A仲介会社に依頼すれば、独自の情報やネットワークを活用できます。
7. CRO・SMO業界のM&A・事業承継の成功事例
この章では、CRO・SMO業界におけるM&Aの事例を見ていきましょう。
CROのM&A・事業承継の事例
まずは、CROのM&A・事業承継の事例です。
エムスリーによるミナケアの連結子会社化
2024年6月、エムスリーはミナケアを子会社化しました。エムスリーは、医療従事者専門サイトである「m3.com」を運営しており、製薬会社に向けてのマーケティング支援や治験支援サービスを行っています。対象会社のミナケアは、保健事業戦略コンサルティングのサービスを中心とした保健事業支援サービスを展開しています。
今回のM&Aにより、両社の強みを生かして健康づくりや予防の新たなサービスの開発や提供など事業拡大を目指します。
トランスジェニックによるMASCの子会社化
2023年3月、トランスジェニックはMASCの全ての株式を取得し、子会社化しました。
トランスジェニックは、創薬支援、投資・コンサルティング事業などを展開しています。対象会社のMASCは、治験コーディネータ、治験審査委員会、臨床薬理試験などの業務を行っています。
今回のM&Aにより臨床試験事業との相乗効果の獲得とともに、さらなる充実したサービス提供を目指します。
新日本科学によるイナリサーチ株式の公開買付け
2022年6月、新日本科学は、イナリサーチの普通株式を公開買付けにより取得し、完全子会社化することを決定しました。買付代金は約26億9892万円で、全株式を取得する予定です。
新日本科学は、医薬品開発受託(CRO)事業やトランスレーショナルリサーチ(TR)事業を行っており、イナリサーチは医薬品や医療機器の安全性試験などを受託しています。
新日本科学は、バイオ医薬品など新たな創薬モダリティへの対応や受託体制のグローバル化を進めるため、イナリサーチとの協業により事業のさらなる強化を目指しています。
SMOのM&A・事業承継の事例
次に、SMOのM&A・事業承継の事例を見ていきましょう。
シミックHDによるノックオンザドアの子会社化
2022年10月、シミックホールディングスは、ノックオンザドアと資本業務提携契約を締結し、第三者割当増資による株式の引受と既存株式の譲受を通じて、ノックオンザドアを子会社化することを決定しました。これにより、シミックHDの議決権所有割合は51.7%となります。
シミックHDは医薬品開発支援を行う企業グループで、ノックオンザドアはてんかん支援プラットフォーム「nanacara®」を展開しています。
このM&Aにより、シミックグループはデジタルプラットフォーム「harmo®」を強化し、希少疾患領域での患者支援や臨床試験の活用など、さまざまなシナジーを創出することを目指しています。
アイロムNAによるデルマラボからのSMO事業承継
2021年4月、アイロムグループの完全子会社であるアイロムNAは、デルマラボのSMO事業を承継し、同社が支援していた治験実施医療機関の支援を開始することを決定しました。
アイロムグループは、先端医療、SMO、CRO、メディカルサポートの4つの事業を展開しており、アイロムNAは臨床試験業務支援を担当しています。
この承継により、アイロムグループは北海道エリアでの治験実施医療機関との提携を拡大し、皮膚科領域の臨床試験受託を強化し、売上の増加を目指します。
8. CRO・SMO業界と関連する製薬業界のM&A
CRO・SMO業界と関連がある業界に製薬業界があります。実は製薬業界もCRO・SMO業界と同様に成長を見せている分野です。その理由はCRO・SMO業界と同様で、少子高齢化などの時代背景やジェネリック医薬品の需要などが挙げられます。
製薬会社は他業種に比べるとM&Aが盛んに行われている業界です。新薬開発などで大きな売り上げを見込める分野だけに、今後も市場は安定的に伸びるでしょう。
製薬会社・医薬品製造業界の買収・M&A動向については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
9. CRO・SMO業界M&A・事業承継のまとめ
CRO・SMO業界のM&A・事業承継を解説しました。CRO・SMO業界のM&Aは、価格相場が他業界より高騰しており、これは医療業界が少子高齢化により発展を遂げているからです。今後もM&Aの相場は変動すると見られます。
CRO・SMO業界は今後もさらなる成長が見込まれる分野です。他の医療分野とあわせて発展を遂げると見られます。今後はCRO・SMO業界のあり方や業務の見直しなど、業界再編の動きも活発化するでしょう。
CRO・SMO業界のM&Aにおけるメリットも紹介しましたが、一覧からは見て取れないデメリットも数多く存在します。M&Aの手法や相場など不明な点が多い場合は専門家に相談すると良いでしょう。
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