オカムラとイーダブルジーが描く、
宿泊業の次なる形
■インタビュー
譲渡企業:有限会社オカムラ 代表取締役 岡村 雅夫 氏
譲受企業:株式会社イーダブルジー 宿泊事業部 事業部長 松尾 政彦 氏
富山駅前に佇む、和の趣あふれるホテル「和休」。
畳敷きの部屋に、靴を脱いで上がるスタイル。この独自の宿泊体験を提供してきた有限会社オカムラが、今回、株式会社イーダブルジーへと経営を譲渡する決断をした。
“家業”として守り続けた想いと、イーダブルジーが見出した新たな可能性。その両者に、取引の背景と未来への展望を聞いた。
“贅沢感”と“家らしさ”で差別化してきた和休の魅力
岡村代表の父が1982年に創業し、喫茶店から始まった同社の歴史。
ホテル運営に乗り出し、2010年の大規模リニューアルを経て、和テイストのビジネスホテル「和休」へと生まれ変わる。
「玄関で靴を脱ぐ形式は、最後まで悩みましたが“家のような宿泊体験”を提供したかった」。
畳の部屋、温泉、和朝食という構成は、“贅沢感”と“安心感”の両立を叶えてきた。
コロナ禍を経て、後継者問題と向き合う決断
後継者不在は、コロナ前から意識していた。
「息子は県外で独立しており、内部にも継ぐ人材がいなかった。後継者がいないなら、M&Aしか選択肢がないと考えるようになりました」。
県が運営する事業承継の支援機関に登録して間もなく、M&A総合研究所のアドバイザー・岡本から声がかかる。
「営業黒字に戻ったタイミングで話が来て、半年ほどで成約に至りました。内部的にも、人手が足りず妻も仕事を手伝っており疲弊していた。現場が限界に近かったんです」。
人的リソースの補完が決め手に
譲渡の決め手となったのは「人的補完力」だった。
「地元の会社が良いと思っていた時期もありましたが、スタッフを大切にする姿勢や、即座に人材を補完してくれる体制に惹かれました」。
実際、契約前から新しいスタッフが入り、現場の負担が軽減されたという。
「同業であれば、スタッフの扱い方もわかっている。その安心感が大きかったです」。
セカンドライフと“ホテルのその先”へ

譲渡後、経営の手を離れた岡村代表。
「孫に会いに行く時間もできました。妻とも旅行に行きたいですし、趣味を見つけて庭や畑の管理もゆっくり楽しみたいと思っています」。
長年、現場に立ち続けたからこそ、今は「引退」ではなく「次の人生への出発」と語る。
(写真:有限会社オカムラ岡村社長/株式会社イーダブルジー田中社長)
“実直な運営”に惹かれて──イーダブルジーの視点
松尾氏が今回のM&Aを決めた理由は、ホテルの立地と事業内容、そして「誠実に続けられてきた姿勢」だった。
「長く富山で宿を続けてこられたことに、経済的な合理性以上の価値を感じました。ご夫婦で365日働かれていたと聞き、“奥様を早く楽にさせてあげたい”という岡村代表の想いに寄り添い、当社も迅速に対応しました」。
宿泊業の新たな展開へ、そしてM&Aの積極活用
今回のような都市部での宿泊施設取得は、イーダブルジーにとっては新たな試み。
「これまで自然豊かな地方物件が多かった中、富山という中核都市での事例は非常に貴重でした」。
今後は「収益性」と「不動産の事業価値」の2軸を見据えながら、地域や業種にこだわらず、全国でM&Aを進めていくという。
「ご縁があれば、どこでも取り組みたい。入口と出口が明確な事業であれば、積極的に検討していきたいです」。
M&Aは「余力のあるうちに」
譲渡を検討している経営者様へのアドバイスとして、岡村代表は次のように語る。
「親から継ぐのが当たり前だった時代とは違います。若い世代が継がない選択もある中で、“元気なうちに備える”ことが大切。プロに相談しながら準備すれば、安心して次へと引き継げます」。
負債の扱いも含めて、M&Aでは“引き継いでもらえる相手”を見極めることが重要だという。
アドバイザーの“人間力”が背中を押した
最後に、M&A総合研究所のアドバイザー・岡本について聞くと、両者とも「信頼感」を口にした。
「富山まで20回近く足を運び、スタッフに気づかれないよう外部会議室で面談を設定してくれた。その細やかさがありがたかったです」(岡村代表)
「土日も含めレスポンスが早く、安心感がありました。ビジネスだけでなく人として信頼できる方でした」(松尾氏)

“温もりある宿を、次の世代へ”─
地域に根差した宿泊施設が、
志ある後継者によって未来へと繋がっていく。
担当者からのコメント
今回のご成約は、私にとっても非常に印象深いご縁となりました。
岡村代表は当初から「スタッフを大切にしてくれる会社に託したい」という強い想いをお持ちで、単なる事業売却ではなく、築き上げてこられた「和休」の理念と従業員の皆様の未来を真剣に考えておられました。一方で、ご夫婦での365日の運営による疲弊も深刻で、「余力のあるうちに」という決断の重要性を改めて実感いたしました。
松尾様には岡村代表の想いを深くご理解いただき、契約前から人材補完に動いていただくなど、真摯で迅速なご対応をいただきました。「誠実に続けられてきた姿勢」を評価し、単なる収益性だけでなく事業の本質的価値を見出していただけたことが、今回の成約につながったと確信しております。
富山という地で愛され続けてきた「和休」が、新たな経営体制のもとでさらなる発展を遂げ、地域の宿泊業界に新しい価値を提供し続けることを心より願っております。そして岡村代表ご夫妻には、長年のご苦労から解放され、充実したセカンドライフを送っていただきたいと思います。
今回のご縁をいただけたことに深く感謝するとともに、両社の明るい未来に向けて、微力ながらお役に立てたことを担当として誇りに思います。
(企業情報第六本部第一部 シニアマネージャー 岡本 勝也)
