地元愛がつないだ事業承継
創業家が なごやHDを選んだ理由とは
■インタビュー
譲渡企業:東菱電子株式会社 取締役会長 篭橋 美久 氏
譲受企業:なごやホールディングス株式会社 代表取締役社長 林 秀和 氏
約50年にわたり名古屋エリアで某大手メーカーのシステム製品のメンテナンスを担ってきた東菱電子株式会社。後継者不在の中、同社を譲り受けたのは、地元中小企業の事業承継支援を手がける、なごやホールディングス株式会社だった。東海地方のインフラを陰で支えてきた東菱電子が、なぜこのタイミングで譲渡を選んだのか。そして、なごやホールディングス林氏はなぜそのバトンを受け取ったのか。両者が描く未来について語っていただいた。
地域に根ざした50年
東菱電子は、某大手メーカーの協力会社として、昭和48年に設立されたメンテナンス特化型企業だ。
「製品の販売はメーカー系列の代理店が行い、私たちはアフターサービスに特化しました。当時は、製品のメンテナンスまで手が回らない状況が多く、”エリア限定でも良いからメンテナンスをしてくれる会社が欲しい”という要望もあったことから、そこにビジネスチャンスがあると考えました」と篭橋会長は振り返る。
メーカーの営業会議にも参加し、販売に関する意見交換も行いながら、裏方としての役割を徹底。結果的に地域におけるメーカーのトップシェアを支える存在となった。
「“黒子”として活動してきましたが、いつしかその存在が評価され、提携の打診も受けるようになりました。ただ、私たちはあくまで独立したスタンスを守ってきました」。
譲渡を決意した背景にあった“次の世代”への想い
社内承継や世襲も視野に入れていた篭橋会長。しかし、最終的には外部への譲渡という決断に至った背景には、「次の世代にどうバトンを渡すか」という長年の葛藤があった。
「本来であれば、息子に継がせるのが理想だったのかもしれませんが、彼はまったく別の道に進みました。私自身、現場にも深く関わるタイプの経営者だったため、社内で次の社長を育てる余裕も正直なかったんです」と語る。
また、ロータリークラブの役職者という重責との両立も一因だった。「経営者でないとロータリークラブの役職者は務まらない。役職をお引き受けをした以上、ロータリークラブの活動にも責任があるため、役職を続けながら、M&Aを進めることに難しさを感じていました。実際、一度はM&Aの話も断っていたんです」。
しかし、役職の任期が終わるタイミングでM&A総合研究所と出会い、流れが大きく変わった。
「創業から半世紀、私の役割はもう十分に果たしました。ここからは新しい世代に東菱電子を託し、次の価値を生み出してほしいと考えたんです」と、未来を見据えた静かな決意をにじませた。
東海エリアにおける“中小企業の事業承継問題”に挑む
一方、譲り受け側のなごやホールディングスは、「東海エリアの事業承継問題」という大きな課題に挑むために設立された。
「高齢化が進み、地域のインフラを支える企業が後継者不在で消えていく危機感がありました。私たちは、『家業から企業へ そして老舗へ』を経営理念に掲げ、ご縁を持たせていただいた会社様を、後世へと紡いでいくことをミッションにしています」と林代表は語る。
経営人材の育成にも力を入れ、公認会計士や弁護士など多様な専門性を持つメンバーが集結していることも特徴だ。
「東菱電子の事業は、東海地方の鉄道、駐車場、自動車学校の運転シミュレーターの設計・施工・保守など多岐に渡っており、まさに地域のインフラを支えている素晴らしい会社だと思いました。私も知りませんでしたが、実はとても身近な存在であり、無くしてはならない会社だと強く感じました」。
“次代に託す”という選択

東菱電子を長年牽引してきた篭橋会長が、なごやホールディングスへの譲渡を決断した背景には、譲れない条件をすべて受け入れてくれたという確かな信頼があった。
「雇用や事業の方針などを重視していましたが、それらをしっかりと受け止めてくださったのが、なごやホールディングスさんでした。柔軟かつ前向きな姿勢が印象的で、新たな可能性を感じさせてくれるお相手だと感じました」と、譲渡の決め手を語る。
篭橋会長は、単に企業としての存続を望んだわけではない。自身が半世紀かけて築いてきた東菱電子という「核」を活かしながら、次の時代に価値を繋いでいける承継先を探していたのだ。
また、通信業界そのものが転換点を迎えていたことも、譲渡を後押しした理由の一つだった。
「従業員5~6人規模の小規模な会社が多く、当社のような従業員20人以上の会社は希少です。東菱電子のような存在が業界の救済にもつながるのではないかと考えていました」。
心を開く“対話”から始める
M&A後、なごやホールディングスは個別に面談を実施して、従業員一人ひとりと向き合いながら、時代や社会の変化に合わせた経営の近代化を進めていく。
「M&A直後の従業員さんは皆さん不安でいっぱいだと思います。これから会社がどうなっていくのか、自分の働き方がどのように変わっていくか、など。だから、まずは従業員さんの立場に立って向き合い、私たちについて知ってもらう、そして会社について、事業について、皆さんについて教えてもらうことから始めています」と林代表。
東菱電子との新たな歩み
今後について林代表は、
「当社にとっても新たな分野への取り組みですが、東菱電子のこれまでの歴史や体制を尊重しながら、互いの強みを活かせる形で協力関係を築いていきたいと考えています。無理に変えるのではなく、まずは理解を深め、更なる成長に寄与できるよう、経営の近代化を進めていきたいと思っています」。
“人と人”の相性がM&A成功のカギ
最後に、M&Aを考える経営者様に向けて、お二人からのアドバイスをいただいた。
篭橋会長は、「自分のポジションや業績だけでなく、業界や社会全体の中で何が最適なのかを考えるべきです。経営は自由な発想であるべきですが、自分本位な判断でM&Aを避けるのはむしろ傲慢だと思うんです」と語る。
「悩むなら、譲ったあとに“次に何をやるか”で悩んだほうがいい。新しい一歩を踏み出すきっかけとして、M&Aを前向きに捉えてほしいですね」とメッセージを送った。

一方で林代表は、「事業承継は、譲渡・譲受することがゴールではなく、スタートだと思っています。お互いの共通の目的は、大切な会社を将来にわたって長く存続させること。だからこそ、譲渡後もサポート、アドバイスがいただける良好な関係性を築くことができるお相手かどうかが重要です。人と人との相性が大事だと思います」と強調する。
さらに、「一度引き受けたからには、愛情を持ってその企業を育てていく覚悟が必要です。その覚悟がなければ、そもそも引き受けるべきではないと考えています」と真摯な想いを述べた。
“ひたむきさ”と“誠実さ”が信頼につながった
今回のM&Aでは、両社ともにアドバイザーの対応に対して高い評価を口にした。
篭橋会長は、もともと仲介に対して「ブローカー的な印象」を持っていたという。しかし、実際にやりとりを重ねる中で、その印象は大きく変わった。
「レスポンスがとにかく早く、誠実に対応してくれた印象です。少し抜けている部分も感じましたが、それをカバーしようと懸命に動いてくれていたことから、ひたむきさが伝わってきました」。
林代表も、「篭橋会長との信頼関係を丁寧に築いてくれていたことが、スムーズな対話につながりました」と評価する。
また、「わからないことを“わからない”と正直に言える姿勢に信頼を感じました」とも語る。
さらに、「今回成約に至れたのは、まさにM&A総合研究所さんの的確な伴走があったからこそ」と振り返る。
両者の間に立ち、橋渡しを担ったアドバイザーの誠実な姿勢と行動力が、信頼関係の構築とスムーズな成約を支えた。