2025年10月24日公開
フィリピンのM&A事情とは?企業買収のメリットや注意点と成功ポイントを解説!
今後の国内市場の縮小を見越して、海外進出を考える企業も増加しています。M&Aでの進出先としてフィリピンを検討する企業も多くありますが、フィリピンでのM&Aは法規制や外資規制など理解しておくべきポイントが多いので、この記事で詳しく開設します。
1. フィリピン・国の特徴
フィリピンでのM&Aを検討する企業が増加していますが、フィリピンとはどのような国なのでしょうか。まずは、フィリピンの特徴からみていきましょう。
フィリピンは、東南アジアにある、7641の島からなる島国です。首都はルソン島にあるマニラ市です。日本の約8割の面積に、約1億1,000万人弱が住んでいます。
民族はマレー系が多く、他に中国系、スペイン系、少数民族もいます。宗教は東南アジアでは珍しいキリスト教国で、国民の83%がカトリック、その他のキリスト教派が約10%です。
気候は熱帯海洋性気候で、1年中気温と湿度が高いのが特徴です。
フィリピン経済の特徴・動向
フィリピン経済の特徴は、2007年からの世界的な金融危機からの回復以降、2012年から高い成長率を達成している点にあります。2012年から2019年までは毎年6%以上の成長率で、2024年には上位中所得入りを目指しています。
フィリピン経済は長い間、農業が主要な産業でしたが、近年はBPO産業が発展しており、サービス業に従事する人が増加しており、サービス業で働く人の割合は労働人口の5割を超える状況です。
法制度の特徴
フィリピンの法制度は大陸系とコモン・ロー系で構成されている点に特徴があります。フィリピンでM&Aを行うときに注意しなければいけない法律は、フィリピン法人法典、フィリピン民法、証券規制法、フィリピン競争法です。
フィリピン法人法典は会社の設立、ガバナンスなどや株主の権利などについて規定した法律です。フィリピン民法は固定資産や債務、契約について規定しています。証券取引法はM&Aの相手が上場企業である場合に適用されます。
フィリピン競争法はカルテルや入札談合など、公正な競争を阻害することを禁止するための法律です。
外貨規制の特徴
フィリピンでは、フィリピン憲法、外国投資法、小売自由化法などの法律によって、一定の業界に対して外資比率および経済活動の条件が設けられています。この法律は一般的にフィリピンにおける「国籍要件」と呼ばれます。
外国投資が制限される規制対象とされる業界の許容外資比率や、外国人の投資を一切認めない業界が記載されているのがネガティブリストです。ネガティブリストに記載される業界の種類はその時によって変わります。
ネガティブリストで許容外資比率が設定されている業界での最大外資比率は40%、業界によっては30%です。ネガティブリストに掲載されていない業界では、海外企業が100%株式を所有することも可能です。
2. フィリピンのM&Aの特徴・動向
フィリピンにおける外国資本の投資のうち、日本からの投資は全体の30%とかなり多くを占めており、フィリピンにおける日本企業の活動は以前からとても活発です。
フィリピンは、東南アジア諸国の中でも比較的賃金が安い上に、英語が公用語で英語が堪能で優秀な人材が多いことから、他の国と比べるとコミュニケーションが取りやすく、日本企業がM&Aで進出しやすい国だといえます。
しかし、フィリピンでは外資規制が今まで厳しかったことから、2015年までのフィリピンにおける日本企業のM&A件数は年間1桁しかないという状況が続いていました。
今後は、フィリピン政府も外資規制の緩和を進めることから、日本企業のM&Aによるフィリピン進出の機会が増えることが期待できます。
フィリピン競争法
日本企業がフィリピンでM&Aを実施するときに注意しなければいけないのが、フィリピン競争法です。
フィリピン競争法とは、日本の独占禁止法に当たる法律となり、価格カルテルや入札談合などの競争阻害行為、拘束条件付き取引などの支配的地位の濫用、競争の阻害を招く企業結合が禁止されています。
M&Aでは、合併と買収です。買収には支配権取得を目的とする有価証券や資産の購入や譲渡も含まれるので、株式譲渡、新株発行、資産譲渡のいずれもM&Aの手法が対象となります。
通知基準の変更
フィリピン競争法の成立によって、フィリピン競争委員会が設立されて、フィリピン経済に影響を及ぼすM&Aを実施するときには、フィリピン競争委員会への通知が義務付けられるようになりました。
通知義務付けの基準が2023年3月に変更されているので注意しましょう。
通知が義務付けられる取引は、吸収合併当事者のどちらか一方の最終親会社の資産価値もしくは収益が700億ペソ超(今までは61億ペソ超)、被買収企業の資産価値もしくは収益が29億ペソ超(今までは25億ペソ超)の場合です。
通知されたM&A案件は、フィリピン競争委員会が審査を実施します。
3. フィリピンでのM&A手法
フィリピンでM&Aを実施するときには、M&Aの手法として選択できるものが日本とは若干違う点があります。フィリピンでのM&Aで利用できる5つの手法についてみていきましょう。
株式譲渡(相対取引)
フィリピンでも会社の株式を取得することで買収する手法があります。譲渡側の企業が非上場企業である場合に選択する手法が、相対取引による株式譲渡です。手法としては、日本におけるM&Aの株式譲渡とほぼ同じ流れで行うことができます。
公開買付(TOB)
売却側のフィリピン企業が上場企業である場合には、買収側による公開買付(TOB)によって株式を取得してM&Aを実行します。
フィリピンでは公開買付に関して、証券規制法(Securities Regulation Code略してSRC)などで規制されています。
買収側の上場企業の発行済株式の35%以上を取得する意図を持っているときと、取得した株式が50%を超える場合には、原則として公開買付けの実施が強制されます。
フィリピンで公開買付けを実施する場合には、次の手順を踏むことが必要です。
- 公開買付けの公表
- 公開買付け開始2営業日前までに証券取引いいかいなどへの提出
- 公開買付開始・1回目の新聞公告
- 公開買付開始から1日後に2回目の新聞公告
- 公開買付開始から2日後に3回目の新聞公告
- 公開買付開始から最短で20営業日後に公開買付終了(最長で60営業日)
- 公開買付終了から3営業日以内に応募株式の決済
- 公開買付終了から10営業日以内に証券取引委員会への報告
新株発行(第三者割当増資)
フィリピンでのM&Aでは、買収側企業が発行する新株を売却側企業が引き受ける第三者割当増資の手法も利用することができます。新株発行によるM&Aについては、フィリピンの会社法(Securities Regulation code)で定められているので注意しましょう。
発行する新株が、買収側企業の資本の範囲内での追加発行であれば、フィリピンでは取締役会決議だけでM&Aを実行することが可能です。
新株発行が、買収側企業への売却側からの資本の増加を伴うものである場合には、取締役会決議の他に、株主総会での特別決議が必要となります。
さらに、どちらの場合でも、フィリピン証券取引委員会の事前承認が必要です。フィリピン証券取引委員会への申請は、取締役会決議及び株主総会特別決議から6か月以内に行わなければいけません。
合併
フィリピンのM&Aでは、合併の手法も利用することができます。合併でのM&Aについては、フィリピンの会社法では、吸収合併と新設合併の2つの手法が定められています。
吸収合併は、吸収会社が、非吸収会社の資産と負債を承継して、非吸収会社は消滅します。新設合併は、新しく設立する会社が合併する2つ以上の会社の資産と負債を承継して、合併する会社は消滅します。
フィリピンで合併の手法を使うときには、最初に取締役会決議と株主総会決議での合併計画の承認が必要です。合併に反対する株主は、正当な価格での株式の買い取りを要求できます(株式買取請求権)。
しかし、株主総会で合併計画が承認されたあとで、取締役会が合併計画を廃止することを決めた場合には、株式買取請求権は消滅します。
その後、当事者である会社同士が合併契約書を締結後、各当事者会社の秘書役の証明を取得した上で、証券取引委員会に合併契約書を提出します。
証券取引委員会では、合併に法令違反がないかを確認し、問題がなければ承認証書の発行です。もしも違反があると考える場合には、審問の機会を設けるので、提出から承認証書の発行まで2ヶ月以上かかることもあります。
資産譲渡
フィリピンでのM&Aでは、資産譲渡の手法も利用することができます。資産譲渡とは、会社の資産を売却、賃貸、交換、担保権設定、その他の処分を行うことです。資産譲渡を行うためには取締役会決議を行います。
また、会社ののれんを含む資産の全部、もしくは実質的にすべてを譲渡する場合には、取締役会決議に加えて株主総会での特別決議も必要です。資産譲渡に反対する株主は、合併での反対と同じように株式買取請求権を行使できます。
資産譲渡の手法を使ってのM&Aでは、フィリピンでは会社法だけでなく、バルクセール法の適用を受ける点に注意する必要があります。
会社資産目録と債権者表を作成して、すべての債権者に譲渡するすべての資産の条件と価格を通知して、決済前にフィリピン商務局に債権者表を提出することが必要です。バルクセール法の手続きを行わない資産譲渡は無効とされてしまうので注意しましょう。
4. フィリピンでのM&Aのメリット
日本企業がフィリピンにM&Aで進出するメリットとはどのような点にあるのでしょうか。2つのメリットについてみていきましょう。
フィリピン国内企業が売却に積極的
フィリピンを含む東南アジアの新興国では、2000年代に入ってから急激な勢いで経済が成長して、多くの企業が誕生しました。この時期は、新興国の成長が著しかったことから、「新興国ブーム」などとも呼ばれたものです。
しかし、2007年の夏以降に顕在化したアメリカのサブプライム住宅ローン危機をきっかけとした世界的な経済危機によって、新興国ブームは終りを迎えて、東南アジア諸国の景気も大幅に交代してしまいました。
その後、フィリピンでは外資への売却を希望する企業が増加しており、その傾向が現在まで続いているので、日本企業がM&Aを持ちかければ前向きに検討してもらえる状況があります。
フィリピンは親日国で経営がしやすい
フィリピンは東南アジア諸国の中でも特に親日の国として知られています。
1974年から、日本はフィリピンに対して国際協力機構JICAを通じたインフラ整備の援助を積極的に行っており、道路、空港、鉄道などの建設事業を進めてきました。また、政府開発援助ODAでフィリピン国内での人材育成や医療の技術供与、資金提供も行っています。
こうした積み重ねから、フィリピン人の日本に対する印象はとても良く、日本企業が進出しても好意的に受け止められやすい歴史的な背景があります。
また、フィリピン人は時間にルーズで忘れっぽいという気質はありますが、基本的に真面目で働き者の人が多く、英語が公用語の一つでほとんどの人に通じるので、日本企業が進出しても経営しやすい環境が整っているのです。
5. フィリピンでのM&Aを成功させるための注意点
フィリピン企業のM&Aによる買収で、フィリピンへの進出を考えるときに、M&Aを成功させるためにはどのようなポイントに注意するべきなのでしょうか。特に注意したい4つの成功ポイントについて解説します。
フィリピンの税務内容を把握する
フィリピンにM&Aで進出する場合には、フィリピンでの税務内容をしっかりと把握しておくことが重要です。海外からフィリピンへ進出するときに特に注意するべき税務内容は次のとおりです。
| 税の種類 | 税率 | 詳細 |
| 法人所得税 | 30% | 企業の課税所得収益に対して課税される 不当留保金課税として10%の追徴課税が発生することもある |
| キャピタルゲイン税 | キャピタルゲイン額の15% 上場企業売却の場合は売却された株式総額の1%の10分の6 |
優遇租税条約に基づいて免税となる場合を除いて課税される 取引のクロージングから30日以内に売主が納付する |
| 印紙税 | 売却した株式の額面価格の3.75% | 株式売買にも適用される 株式売買証書発行の翌月5日までに納付 |
| 贈与税 | 6% | 株式が公正な市場価格よりも安い価格で取引された場合に、正当な価格との差額が贈与とみなされる場合があり、差額のうち25万PhPを超える分に課税される |
| 源泉所得税 | 外国企業に支払われる配当には30% | 外国人、法人に支払われる配当金、利息、ロイヤルティ、サービス料に対して課税 |
法的紛争の解決手段の特徴
フィリピンでは法的な紛争が持ち上がったときの解決手段も日本とは違います。法的な紛争が起きた場合、フィリピンではいきなり裁判に持ち込まれることはありません。まずは仲裁での解決が図られます。
ビジネスでは契約に関する争いが起こることがよくありますが、フィリピンでは仲裁での解決で合意に至ることができます。
ビジネス上の紛争解決に利用されるのは、一般的な商取引の仲裁を行うフィリピン紛争解決センター、建設関連の仲裁を行う建設業仲裁委員会などがあります。
契約書の表記言語
フィリピンの公用語は、現地語のタガログ語をベースとしたフィリピン語と英語の2つです。しかし、法律などがフィリピン語で書かれることはほとんどありません。役所やビジネスで使われる言語はほとんど英語です。
フィリピンでの契約書などは英語で作成されることが多い点に注意しておきましょう。
現地事情に長けたM&Aアドバイザーを起用する
フィリピンでは、M&Aに必要な税務や法務、商習慣が日本とは大きく異なります。そのために、M&Aでの進出を図る際には、フィリピンのビジネス全般について詳しい専門家のサポートが必須です。
社内の人員だけでM&Aを行おうとしても、税務や法務の違いに対応できなかったり、商習慣の違いから思わぬ誤解を生じさせてしまう可能性があります。フィリピンでのM&Aを行うのなら、フィリピン事情に詳しいM&Aのアドバイザーのサポートを受けましょう。
M&Aのご相談はお気軽にM&A総合研究所までお問い合わせください
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6. フィリピンのM&A事例
フィリピンで実施された国内企業とフィリピン企業とのM&A事例にはどのようなものがあるのでしょう。代表的な事例を紹介します。
日本企業freeeによるフィリピン企業の完全子会社化事例
2021年7月30日に、freee株式会社が、Likha-iT Incの全株式を取得して子会社化したことを発表しました。
freeeは東京都品川区に本社のあるフィンテック企業で、freee会計やfreee人事労務などの業務用Saas型クラウドサービスの開発、運用を行っています。
Likha-iT Incはフィリピンのマカティ市にあるシステム開発会社で、フロントエンド、バックエンド、インフラなどの幅広い開発を行う態勢を整備しています。日本などの顧客からの開発を多く受託している実績のある会社です。
freeeとしては、このM&Aによってグローバルの開発拠点を確保し、開発力の基盤となる人材を確保することを狙っているとのことです。
参考:フィリピンのシステム会社がfreeeグループにジョイン 海外拠点の獲得で開発力を支え、さらなる成長へ
7. フィリピンのM&Aまとめ
フィリピンは英語が使える親日国で人件費も安いということで、M&Aの相手として魅力を感じている企業はとても多いようです。しかし、法規制や税務、商習慣や現地の人の気質など、フィリピン事情に精通していないとM&Aはうまくいかないでしょう。
フィリピンでのM&Aを検討しているのなら、まずはフィリピンでのM&A事情に詳しい専門家への問い合わせから始めることをおすすめします。
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