シンガポールのM&A事情とは?企業買収のメリットや注意点と成功ポイントを解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

シンガポールへのM&Aによる進出を考えている企業も多いようですが、外貨規制の対象業種の把握などのシンガポールならではの専門的な知識が必要です。この記事では、シンガポールのM&Aの特徴やメリット、成功するための注意点などについて解説します。

目次

  1. シンガポールのM&Aの特徴
  2. シンガポールでの主要なM&Aスキーム
  3. シンガポールでのM&Aメリット
  4. シンガポールでのM&A注意点
  5. シンガポールでのM&A・業種別成功対策
  6. シンガポールのM&A事例
  7. シンガポールのM&Aまとめ
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1. シンガポールのM&Aの特徴

シンガポールは東南アジアでは政治状況も社会状況も安定しており、M&Aによる進出を検討する企業が増加しています。

シンガポールで実施されるM&Aには、日系企業が行うものも多くあり、日本企業にとってもシンガポールでのM&A事情の理解は重要なものとなっています。この記事では、シンガポールでのM&Aの特徴やメリットなどについて詳しくみていきましょう。

シンガポールのM&A市場

シンガポールにおけるM&Aの件数は、2013年には675件だったのが、2015年には778件、2017年には965件、2019年には988件と年々増加しています。

そのうち、日系企業によるM&Aは1割程度とみられており、日本企業がシンガポールで積極的にM&Aを実施していることがわかります。

シンガポールのM&A増加の背景

近年、シンガポールでのM&Aが増加している背景には、シンガポールならではの特徴があります。どのような特徴によって、多くの日本企業がシンガポールでのM&Aを進めているのかみていきましょう。

シンガポールは東南アジア経済のハブ

シンガポールは、東南アジアにおける経済のハブ拠点であることが知られています。

地理的な特徴として、東南アジア各国の首都への飛行機でのアクセスが3時間半以内であり、また空港や港湾もとても良く整備されていて、税関の機能も非常に高いことで知られています。そのために、アジアの物流拠点としての地位を確立しています。

また、物流拠点としてだけでなく、金融ハブとしてもシンガポールは重要な地位を確立しています。政府が積極的な税制や法律の整備を進めた結果、シンガポールは香港と並ぶ国際的な金融拠点の一つとなりました。

このように、経済ハブとしてのシンガポールには経済的なメリットがとても多いことから、M&Aによって進出を図りたいと考える日本企業が増えているのです。

外資規制の特例

シンガポールの特徴として、外資規制が他国よりもとても緩い点も挙げられます。外資規制がまったくないわけではありませんが、シンガポールでは国の安全などにかかわる分野ごとに個別に規制が設定されている点が大きな特徴です。

すべての業種を対象としての外資規制はないために、外資規制がない分野であれば、100%外国資本の会社でも設立可能となります。そのために、東南アジアや英語圏への進出を図りたい企業が、とりあえずシンガポールへ進出する、という例も見られます。

節税効果

シンガポールでは日本を含めた他国よりもかなり低い法人税率が設定されています。また、優遇税制によって更に低い税率が適用される可能性もあります。

多くの企業にとって、利益を増やすための節税対策は大きな課題であり、節税効果を狙ってのシンガポール進出をM&Aによって果たそうという企業もみられます。

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2. シンガポールでの主要なM&Aスキーム

日本国内でM&Aを実施する場合には、株式譲渡や事業譲渡、合併などが主なスキーム(手法)となります。しかし、法規制や税制が異なるシンガポールでは、日本でのM&Aのスキームとは異なる点もあるので、その点について詳しくみておきましょう。

SOA

日本のM&Aとは最も大きく異なるスキームがSOA(Scheme of Arrangement)です。日本の会社法では定められていない手法で、一部の債権者や株主の反対があったとしても、裁判所の承認を得ることで組織再編などを実施できるというものです。

SOAでは、まず会社が債権者や株主に、資本再編、組織再編などを提案します。その後、議決権総数の4分の3の承認を得た上で、裁判所の承認が得られれば、法的拘束力を持った決定とすることができるのです。

議決権の4分の1までなら反対があっても組織再編を実施することができるので、当事者全員の合意を得ることが難しい場合や、交渉が複雑な場合、利害関係の調整が必要な場合に実施されることが多いスキームです。

また、M&Aで使われるときには、日本での会社分割や株式移転のような形で利用されるスキームとなります。

株式取得

シンガポールでのM&Aでは、買収側が売却側の株式を取得したり、新株を引き受けることで経営権を移行させるM&Aのスキームも日本と同じように利用できます。

株式取得では、上場企業を買収する場合には公開買付で、非上場企業を買収する場合には株式譲渡で、売却側企業の株主から買収側が直接株式を取得します。

新株発行では、対象企業の新規発行された株式を引き受ける第三者割当のスキームとなります。

事業譲渡

シンガポールのM&Aでは、事業譲渡のスキームも利用できます。事業譲渡では、事業や資産など譲渡される対象を個別に選び、一つずつ移転手続きが必要になる点など、日本での方法とほぼ変わりません。

合併

シンガポールでのM&Aでは、日本での合併のスキームと同じように、新設合併と吸収合併のスキームも利用できます。

新設合併では、新しく設立した会社が、合併で消滅する2社以上の会社の権利と義務をすべて承継します。

合併する一方の会社が存続会社となり、もう一方の会社が消滅会社となり、存続会社が消滅会社の権利と義務をすべて承継する合併のスキームが吸収合併です。

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3. シンガポールでのM&Aメリット

近年、日本企業がシンガポールでM&Aを実施する事例が増加していますが、シンガポールでのM&Aが増える理由は大きなメリットがあるためです。シンガポールにおけるM&Aの2つの大きなメリットについてみていきましょう。

法人税率が低いメリット

シンガポールにM&Aで日本企業が進出する大きなメリットの一つが低い法人税率です。日本での法人税率は29.74%ですが、シンガポールでは17%と、日本よりも13%近くも低くなっています。

他の国とも比較してみると、欧米では最も高いドイツが29.3%、アメリカは27.98%、アジアでは中国が25%、韓国が22%です。

シンガポールの法人税率は、日本だけでなく他国と比較しても極めて低く、さらに、優遇税率の適用などを受けると更に低減されることもあるために、シンガポールへの進出を考える企業が増加しています。

外資規制がないメリット

外資規制とは、国内企業を外国資本から守るために、外国人による投資に制限を設けるものです。日本では、国の安全や主権維持に関わる分野において、外為法や個別業法によって、外国人の投資が制限されている産業分野が多くあります。

シンガポールでも、国家の安全などにかかわる一部の分野において外資規制がありますが、日本や他の国と比べると、制限されている範囲がとても狭く、ほとんどの分野で規制されていません。

また、外国人による出資比率が定められていない分野もあります。日本では、外国資本の100%出資での進出は不可能ですが、シンガポールでは外国人が100%出資でも進出可能な分野があります。

そのために、とてもスピーディな事業展開が可能で、東南アジアに短期間で拠点構築を図りたい場合などに、シンガポールへ進出する例が多いようです。

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4. シンガポールでのM&A注意点

シンガポールでM&Aを実施するときの注意点についてみておきましょう。

会社法の違い

シンガポールの会社法は日本の会社法とは違う点に注意しましょう。

シンガポールの会社法では、会社は無限責任会社と有限責任会社の2つに分けられます。有限責任会社は、非公開会社と公開会社があり、非公開会社の場合には株主が50名以下に制限されているので、株式譲渡の際には注意が必要です。

公開会社は非公開会社以外の有限責任会社がすべてあてはまります。日本企業がシンガポールに進出する際には、非公開会社を選ぶことが多いようです。

会社組織は、株主総会、取締役会、会計監査人、セクレタリーを設置します。会計監査人には公認会計士の資格が必要です。

セクレタリーは会社の会議運営や株主名簿の管理などを行います。公開会社のセクレタリーはシンガポールの公認会計士協会所属であることが求められます。また、会社の種類を問わず、セクレタリーはシンガポール国内居住の人であることも必要です。

株主総会では、普通決議は株主の過半数以上、特別決議は75%以上の賛成を必要としてます。取締役には必ず1名のシンガポール通常居住者(シンガポール国籍保持者、永住権保持者、就労ビザ保持者のいずれか)が必要です。

外資規制の違い

シンガポールでは、海外からの投資を積極的に受け入れていることから、外資規制は他の国よりも緩いのですが、全く規制されていないというわけではありません。国防や国家的な利益に関わる分野では、資本規制されていたり、事前のライセンス申請が必要な分野もあります。

進出したい分野が、外資規制される分野なのか、ライセンスが必要な分野なのか、事前によく調べておきましょう。

その他の注意点

シンガポールでM&Aを行うときには、言語、労働者との関係、土地の取得などについて注意が必要です。

まず言語ですが、シンガポールの公用語は、英語、中国語、マレー語、タミール語の4つです。全員が4つの言語を使えるわけではなく、多くの人が英語ともう一つの母語を使っています。

シンガポールは多民族国家なので、それぞれの民族ごとに英語以外の3つの言語が母語として使われているようです。

公的な書類などは英語で間に合うでしょうが、事業を展開する地域によってはその他の言語も、顧客や従業員とのコミュニケーションで必要になる可能性もあるでしょう。

シンガポールでの労働者との関係は、原則として当事者間での労働契約がすべてです。雇用法が適用される従業員であれば雇用法での保護がありますが、法律の適用外の従業員もいます。

雇用法適用外の従業員であれば、契約で定めた通知期間を守れば理由なしに解雇することも可能です。

シンガポールでは外国企業であっても非居住用の土地の取得が可能です。しかし、シンガポールでは土地の多くが国有地なので、事業用の不動産はリースでの契約になることが多いようです。

最後の注意点として、このように、日本の法規制や商習慣、言語や文化などが大きく異なるシンガポールでのM&Aは、経験がない会社にはとても難しいものです。

シンガポールでのM&Aを考えているのなら、シンガポールでのM&Aに精通している専門家のサポートを受けることをおすすめします。

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M&A総合研究所の料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ)随時、無料相談をお受けしていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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5. シンガポールでのM&A・業種別成功対策

シンガポールで外資規制されている業種でM&Aを実施したい場合には、どのようなポイントに気をつければ成功に近づけるのでしょうか。特に注意が必要な業種の成功対策について解説します。

電気事業、ガス事業

シンガポールでの電気事業、ガス事業については、法律上は外国資本の参入に対する制限は設けられていません。電気小売は以前は1社独占状態でしたが、徐々に自由化されて、2019年に完全自由化されています。

しかし、全く規制がないわけではなく、シンガポールで電気事業もしくはガスに参入する場合には、ライセンスの取得、一定以上の株式保有者の監督官庁への届出もしくは大臣やEMAによる事前承認が必要です。

放送事業、新聞社

シンガポールでは、放送事業や新聞事業などのメディア事業には、外資による出資割合や外国人取締役就任などに関して外資規制が行われています。

シンガポールでM&Aによって放送や新聞などのメディア事業に進出したい場合には、取締役に関して外国人CEOと取締役の過半数を占めることが禁止されています。

また、ライセンスの取得には、一定以上の株式保有者の事前承認や届出が必要です。必要なライセンスは、放送事業と新聞事業では異なるので注意しましょう。

法律事務所

シンガポールで法律事務所を開設して弁護士業務を行う場合には、シンガポールの弁護士資格を持つ弁護士が必要です。

また、外国の法律事務所をシンガポール国内に開設する場合には、外国法律事務所ライセンスを取得した上で、地元の法律事務所と連携する必要があります。

シンガポールの法律事務所との連携によって、金融、国際仲裁、会社法、知的財産、海事などに業務を拡大できますが、外国の法律事務所の持分には一定の制限が設けられます。

金融業

シンガポールでの金融業は、銀行法によって規制されています。まず、金融業にはライセンスが必要です。また、現地法人設立の再tの最低資本要件は15億Sドルで、シンガポール通過金融庁による自己資本比率を満たす必要があります。

シンガポールの地場金融機関に対して5%以上の議決権の保有もしくは処分の場合は、事前の届け出が必要です。また、出店規制もあり、MASの承認がなければ支店やATMを増加させることができません。

製造業

シンガポールでは製造する品目によって、事前に経済開発庁へ書面で申請をして許可の取得が必要になります。事前許可が必要な品目は次のとおりです。

  • ビール・スタウトビール
  • 葉巻、たばこ
  • 延伸鋼製品
  • ガム
  • マッチ

シンガポールでは、街をきれいに保つためにゴミのポイ捨てなどに罰金が課されていて、チューインガムの製造、販売、持ち込みが禁止されているために、製造業でも規制対象となっています。

ただし、医療用、健康製品法で口腔歯科用、治療用に使われる健康食品としてのガムはこの限りではありません。

光ディスク商品の販売業

シンガポールでは、CD、DVDなどの光ディスク製品を販売目的で製造する場合には、事前届出によるライセンスを取得する必要があります。

その他のライセンス取得必要業種一覧

シンガポールでは、上記の規制対象分野の他に、事前のライセンス取得が必要な分野があります。ライセンスが必要な分野は次のとおりです。

  • 小売業
  • 飲食業
  • 不動産業
  • 建設業
  • 運輸・物流業
  • 製造業
  • 電気通信業
  • 教育産業
  • 医療・介護サービス
  • その他サービス(旅行業など)

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6. シンガポールのM&A事例

日本企業がシンガポールの企業と行ったM&Aの事例を紹介します。

日本企業triplaによるシンガポール企業のM&A事例

2023年11月8日に、tripla株式会社から、BookandLink社の発行済株式53.4%を取得して子会社化したこと、第三者割当による新株発行が完了したことが発表されました。

triplaは、東京都中央区に本社のある宿泊施設向けの予約エンジンやAIチャットボットを提供している会社です。

BookandLinkはシンガポールに本社があり、主にインドネシアのバリ島を拠点として宿泊施設向けの予約システムや、空室在庫や料金を一元管理できるシステムなどを提供しています。

このM&Aにより、現在は主に日本、台湾、韓国で展開しているtriplaとしては、インドネシアでも展開可能となり、さらにBookandLinkが持つ技術などを取り込むことでの競争力強化を図ることができるとのことです。

参考:BookandLink社の株式取得及び第三者割当による新株式発行(現物出資)完了に関するお知らせ

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7. シンガポールのM&Aまとめ

シンガポールへの進出は、多くの企業にとってとても魅力的なものです。そのために、M&Aの実施を検討する企業も増えています。しかし、法規制や文化、言語が全く異なる国への進出には大きなリスクも伴います。

シンガポールでのM&Aを検討している企業は、まずはシンガポール事情に詳しいM&Aの専門家に相談してみることをおすすめします。

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