2024年07月13日公開
ITデューデリジェンス(ITDD)とは?調査項目から手順まで徹底チェック!
ITデューデリジェンス(ITDD)は、M&A実施後における売却側・買収側双方のシステム統合を想定する上で必要な調査です。当記事では、M&Aの際に実施されるITデューデリジェンス(ITDD)について、目的、調査項目、手順を交えながら解説します。
目次
1. ITデューデリジェンス(ITDD)とは
ITデューデリジェンス(ITDD)とは、どのような意味を持つ手続きなのでしょうか。専門的な用語なのでイメージが難しいかもしれませんが、実は企業にとって重要なプロセスです。ここでは、ITデューデリジェンス(ITDD)の意味を押さえた上で、企業が実施する主な目的と重要性を解説します。
ITデューデリジェンス(ITDD)の意味
ITデューデリジェンス(ITDD)とは、M&Aを実施する際に買収側が売却側のITシステムにおける潜在リスクを調査することです。M&Aを実施しても問題ないかを取引前に評価します。売却側の実態把握調査のことを一般的に「デューデリジェンス」と呼びますが、ITデューデリジェンス(ITDD)は、この中のIT関連の項目に絞ったものです。ITデューデリジェンスは、「ITDD」とも表記されます。
ITデューデリジェンス(ITDD)の目的
ITデューデリジェンス(ITDD)の主な目的は、上記の通り「相手企業が持つIT関連リスクの実態把握」です。さまざまな機能がデジタル化する昨今の社会では、ITシステムのセキュリティは重要な項目とされています。
例えば相手企業のITシステムに問題があれば、情報が流出する可能性があるでしょう。買収側においては損失となる要素です。そのため、多くの場合事前に調査を実施してリスクヘッジをします。
ITデューデリジェンス(ITDD)の重要性
情報管理におけるリスク調査以外にも、ITデューデリジェンス(ITDD)には重要な役割があります。相手企業が導入しているITシステムの状況を把握することで、M&Aを実施した後のイメージがしやすくなるということです。
ITデューデリジェンス(ITDD)を実施すれば、相手企業と自社のITシステムをうまく統合させられるのかを検討できます。
買収先企業がグループ会社の1部の場合、その会社のシステムだけを移転するには多くの時間と労力を要するでしょう。あまりにも時間がかかるとM&Aの効果が得られなくなるかもしれません。
ITデューデリジェンス(ITDD)はこうしたリスクを事前に把握できるため、M&A実施の際は極めて重要な位置付けのプロセスです。
2. ITデューデリジェンス(ITDD)の調査項目
M&A実施前に相手企業のITシステム運用状況を適切に把握するために、ITデューデリジェンス(ITDD)は欠かせません。では、ITデューデリジェンス(ITDD)は、具体的にどのような点を重点的に調査すれば良いのでしょうか。ここでは、ITデューデリジェンス(ITDD)における主な調査項目を3種類解説します。
- ITシステム・インフラの構成
- IT開発・運用の体制 ITコスト
- ITコスト
ITシステム・インフラの構成
ITデューデリジェンス(ITDD)における1つ目の調査項目は、ITシステム・インフラの構成です。企業が業務を遂行する中で導入しているITシステムの状況を把握します。どのような業務にどのようなシステムが構築されているのかを客観的に把握するための調査です。サーバー、ハードウェア、ソフトウェアなどシステムに関連する部分も併せて調査します。
IT開発・運用の体制
ITデューデリジェンス(ITDD)における2つ目の調査項目は、IT開発・運用の体制です。ITシステムには、開発や保守といった役割の人材が存在します。開発・保守を外部企業に委託している場合、別途開発・保守費を支払っている可能性があります。システム関連の部署があれば、社内で管理している可能性が高いでしょう。
ITコスト
ITデューデリジェンス(ITDD)における3つ目の調査項目は、ITコストです。システム開発や構築には費用がかかります。相手企業のシステムは、どのくらいのコストを支払って運用・保守されているのかを事前に把握することが重要です。漏れがあるとM&A後の損失が増えるので、費用面は入念に調査する必要があります。
3. ITデューデリジェンス(ITDD)の手順
ITデューデリジェンス(ITDD)を実施する際は、手続きがどのように進行するのでしょうか。ここでは、ITデューデリジェンス(ITDD)の手順を4つのステップに分けて解説します。より精度を高めるためにも、M&A仲介会社など専門家のサポート・アドバイスを受けながら進めましょう。
- 手順①:調査方針の検討
- 手順②:開示資料を元に分析
- 手順③:ヒアリングの実施
- 手順④:調査結果の報告と取引内容に反映
調査方針の検討
まずは、ITデューデリジェンス(ITDD)を実施する調査チームを立ち上げ、調査方針を検討します。会社に在籍するITの知識が豊富な人材に依頼すると良いでしょう。ただ、社内完結できれば費用を抑えられる反面、中途半端な調査ではリスク発覚により損失を被るおそれがあります。よりリスク調査を徹底するためには、M&A仲介会社をはじめとする専門家に依頼するのが理想です。
開示資料を元に分析
次に、相手企業から開示された資料をもとにリスクの分析を実施します。ただし情報開示の前に、秘密保持契約書(Non Disclosure Agreement)を締結するのが一般的です。情報漏洩による当事者間のトラブルを未然に防ぐためにも必ず取り交わしましょう。
その後相手企業からITシステム関連の資料を開示してもらうわけですが、魅力的な情報に偏る可能性があるので、リスクやマイナスとなる部分もしっかり開示してもらうことが大切です。魅力的なデータばかりではなく、不利な部分もバランス良く把握してください。
ヒアリングの実施
相手企業からの開示資料だけでは、調査が十分に進められない場合が多くあります。その際は、ヒアリングを実施するのが一般的です。相手企業の経営者との面談を開催し、ITデューデリジェンス(ITDD)を進める上で知りたいシステム情報の追加提供を求めます。
ヒアリングは必要に応じて複数回実施される可能性もあるでしょう。より円滑に情報収集を進めるためには、面談を実施する前に資料に質問事項をまとめておくのが良いでしょう。あらかじめヒアリング項目を明確にすれば、聞きそびれを防止できます。
調査結果の報告と取引内容に反映
ヒアリングで得た情報をもとに、専門家が分析を進めます。相手企業のITシステムの運用状況や潜在リスク、コストなどからM&Aを実施しても問題ないかを判断します。一定のリスクが見込まれる場合は取引価格を再調整し、多くのリスクが考えられる場合は、M&Aを中止するのが一般的です。
また、ITデューデリジェンス(ITDD)以外にもさまざまな調査が実施されます。全ての調査が完了してからM&Aの最終契約書を締結します。M&Aを実施したいからといって無理に進めるのはおすすめできません。必ず、リスク調査を実施してから検討しましょう。
4. ITデューデリジェンス(ITDD)の注意点
ここでは、ITデューデリジェンス(ITDD)を実施する際の注意点を紹介します。円滑に進めるためには、相手企業におけるITシステムの運用体制の把握や、情報管理に配慮しなければなりません。トラブルを最小限に抑えるためにも以下2点に留意しながら調査を進めましょう。
- 対象企業の性質を見極める
- 情報管理の徹底
対象企業の性質を見極める
1つ目の注意点は、対象企業の性質を見極めることです。相手企業のITシステムがどのように構築されているのかを正しく把握する必要があります。大規模企業の傘下をM&Aによって買収する場合、売却側は親会社のITシステムの中で業務が遂行されている場合が多くあるでしょう。
この場合、親会社からのシステムの切り離しを含め、システム統合にかなりの労力とコストを費やす可能性があります。相手企業の状態によってはITデューデリジェンス(ITDD)を実施せずに済むケースもありますが、リスク回避のためには事前に調査しておくことが理想です。
情報管理の徹底
2つ目の注意点は、情報管理を徹底することです。先ほど手順の説明部分で秘密保持契約書について触れましたが、締結後に情報を流出させてしまった場合、相手企業は損害賠償請求権を行使できます。こうなると当事者間トラブルに発展し、賠償金を支払う必要があるなどM&Aどころではなくなってしまいますので、情報漏洩が無いようにしましょう。
5. ITデューデリジェンス(ITDD)以外のデューデリジェンス
当記事では、ITデューデリジェンス(ITDD)に関する解説を進めてきましたが、M&Aの際に実施されるデューデリジェンスはITに関するものだけではありません。ここでは、ITデューデリジェンス(ITDD)以外に実施されることが多いデューデリジェンスを8種類紹介します。
- ビジネスデューデリジェンス
- 人事デューデリジェンス
- 財務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- 税務デューデリジェンス
- 環境デューデリジェンス
- 不動産デューデリジェンス
- 知的財産デューデリジェンス
ビジネスデューデリジェンス
1つ目が、ビジネスデューデリジェンスです。これは、売却側企業が展開する事業に焦点を当てたデューデリジェンスを指します。事業内容やビジネスモデル、マーケットにおける位置付け、事業の将来性や想定されるリスクが主な調査対象です。売却側が持つ特許や独自の技術も考慮されます。
売却側における事業状況を分析した上で、自社の業務とうまく融合させられるのかを判断します。調査の結果、自社とシナジー効果が期待できない場合は、M&Aを踏みとどまった方が良いでしょう。
人事デューデリジェンス
2つ目が、人事デューデリジェンスです。これは、売却側企業の人事・組織・労務に焦点を当てた調査を指します。どのような部署にどのような人材が在籍するのかを把握したり、統合の際のリスクを想定したりすることが目的です。待遇格差を縮小できるため、従業員の業務に対するモチベーションの低下防止にも繋がります。
財務デューデリジェンス
3つ目が、財務デューデリジェンスです。これは、売却側企業の財務に焦点を当てた調査を指します。企業の財務状況から将来的な収益性を分析したり、簿外債務リスクの有無をチェックしたりするのが特徴です。財務デューデリジェンスは、主に税理士や公認会計士に依頼します。
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない負債のことです。M&A後に発覚すると買収側の損失が増えることを意味するため、買収資金を回収できなくなるなどの問題に繋がります。デューデリジェンスによる事前調査を実施すれば、このリスクを最小限に抑えられるでしょう。
法務デューデリジェンス
4つ目が、法務デューデリジェンスです。これは、売却側企業の法務・コンプライアンスに焦点を当てた調査を指します。企業が保有する許認可や取引先との契約など、法的な項目に関する実態把握とリスクヘッジが目的です。
例えば、相手企業に訴訟問題が存在したり、契約トラブルがあったりすると買収後の業務に支障をきたすおそれがあります。法務デューデリジェンスは高度な専門知識が求められるため、弁護士や司法書士といったプロフェッショナルに依頼して実施するのが一般的です。
税務デューデリジェンス
5つ目が、税務デューデリジェンスです。売却側の税務に焦点を当てた調査のことで、売却側企業がこれまで適切な税務申告・納税をしてきたかをチェックするために実施されます。税務状況を知ることで健全な経営ができているかを判断できます。
申告漏れがあれば追徴課税で買収側企業の損失が増加することになるので、入念な調査が必要です。専門知識が求められるため、主に税理士に依頼して実施されます。
環境デューデリジェンス
6つ目が、環境デューデリジェンスです。環境問題への配慮は各企業に求められているため、大気汚染や土壌汚染など環境に悪影響を与えていないかを把握する目的で実施されます。
M&A後に環境汚染が発覚すると、買収側が損害賠償を支払わなければなりません。製造業の企業とM&Aを実施する際は、この調査が特に必要です。
不動産デューデリジェンス
7つ目が、不動産デューデリジェンスです。これは、売却側企業が保有する不動産に焦点を当てた調査を指します。不動産鑑定士などの専門家によって調査が進められ、不動産の立地や価格、設備老朽化、賃貸借の契約状況、土壌調査までさまざまな角度でリスクを把握するのが特徴です。
知的財産デューデリジェンス
8つ目が、知的財産デューデリジェンスです。これは、売却側における著作権や特許など知的財産にフォーカスした調査のことを指します。法務的な側面があるため弁護士によって実施され、売却側が展開する事業が、別会社の特許を侵害していないかなどを調査するのが特徴です。
6. ITデューデリジェンス(ITDD)は専門家に依頼しよう
業務効率化などの観点から、ITシステムを導入する企業は多く存在するため、M&Aを実施する上ではITデューデリジェンス(ITDD)が欠かせません。特に、大手の子会社を買収する際は、M&A後のシステム統合に多大な労力がかかる可能性があるため事前調査は極めて重要です。
また、M&Aの実施可否を判断するためにはITデューデリジェンスだけでなく、財務や税務、法務といったさまざまな側面から調査する必要があります。多岐にわたる専門知識が求められるので、ぜひ専門家のサポートを受けながら手続きを進めましょう。
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