2026年07月15日更新
会社売却のメリット8選・デメリット6選|手続き・税金・事例まで専門家が解説
会社売却のメリット・デメリットを一覧表でわかりやすく整理。後継者問題の解決や雇用維持、売却益の獲得といった利点から、ロックアップや喪失感などの注意点、手続きの流れ・税金・最新の成功事例まで、M&Aの専門家が網羅的に解説します。
この記事を読めば、(1)会社売却で得られる8つのメリットと注意すべき6つのデメリット、(2)売却の方法・手続きの流れ、(3)価格の算出方法と税金、(4)実際の成功事例まで、会社売却の判断に必要な情報をひととおり把握できます。
目次
1. 会社売却とは
会社売却とは、文字通り「会社(自社)を売却すること」つまり、会社の所有権を第三者に譲渡し、対価をもらうことをいいます。M&Aは日本語に置き換えると「買収と合併」という意味になりますが、この買収は買い手企業からみた言葉です。
一方で、会社売却は売り手側企業からみた言葉であり、M&Aにおける会社売却では株式譲渡によって経営権を移転するケースが多くみられます。
M&Aについては以下の記事で詳しくご説明していますので、そちらもご一読ください。
2. 会社売却によって得られる主なメリット
会社を売却するのは、非常に大きな決断で大変なことです。では、そこまでして売却をするメリットはどこにあるのでしょうか。ここでは会社を売るメリットを紹介します。
まず、会社売却の主なメリット・デメリットを一覧で整理します。詳細は各項目で解説します。
| 観点 | 主なメリット | 主なデメリット |
| 事業の存続 | 後継者問題を解決し、廃業を回避できる | 経営方針が買い手側に変わる可能性がある |
| 従業員 | 雇用と取引先関係を維持できる | 待遇変更や人材流出が起こる場合がある |
| 経営者個人 | 売却益(創業者利益)を獲得できる/個人保証から解放される | 喪失感や社会的立場の変化を感じることがある |
| 事業成長 | 買い手とのシナジーで成長を加速できる | 希望条件で売れるとは限らない |
| 手間・コスト | 廃業の費用・手間を回避できる | 成立までに数か月〜1年程度かかる |
後継者問題を解決できる
多くの中小企業にとって、後継者の不在は深刻な経営課題です。帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によると、全国企業の後継者不在率は50.1%で、7年連続の低下となり調査開始以来の最低値を更新しました。改善傾向にあるとはいえ、依然として企業の約半数が後継者不在の状態にあります。会社売却は、親族や社内に後継者が見つからない場合の有力な解決策となります。信頼できる第三者に事業を引き継ぐことで、長年培ってきた技術やブランド、従業員の雇用、取引先との関係性を守り、事業を未来へ繋ぐことが可能になります。
従業員の雇用を守れる
会社売却が選ばれる大きな理由のひとつが、従業員の雇用維持です。後継者不在で廃業を選べば、長年支えてくれた従業員は職を失い、取引先にも影響が及びます。一方、第三者に事業を引き継いでもらえれば、従業員の雇用は原則として買い手企業に継続されます。
買い手にとっても、現場のノウハウや人材は事業を運営するうえで欠かせない資産であり、継続雇用を前提とするケースが一般的です。経営者にとって「従業員の生活と働く場を守れる」ことは、売却益と並んで大きな意義を持つメリットといえます。
個人保証や連帯保証から解放される
中小企業の経営者の多くは、金融機関からの借入に際して個人保証や連帯保証を提供しており、これが精神的・経済的な重荷となっています。2024年現在も政府主導で「経営者保証改革プログラム」が進められていますが、会社売却はこれを抜本的に解決する手段です。売却が成立すれば、これらの保証は原則として買い手企業に引き継がれるか、売却代金で負債を返済することで解消されます。これにより元経営者は重圧から解放され、新たな人生を歩み出せるという大きなメリットがあります。ただし、保証解除の条件は契約時に必ず明確にすることが重要です。
買い手企業とのシナジーによる事業成長
自社単独では難しかった成長も、買い手企業とのシナジー(相乗効果)によって実現できる可能性があります。シナジーとは、複数の企業が連携することで「1+1」が2以上になる効果を指します。例えば、買い手企業の持つ広範な販売網を活用した販路拡大、共同での技術開発による新商品創出、仕入れコストの削減など、様々な形で事業の成長を加速させ、より強固で安定した経営基盤を築くことが期待できます。
創業者利益(売却益)の獲得
会社売却により、オーナー経営者は株式の対価として現金を得られます。これは「創業者利益」とも呼ばれ、リタイア後の生活資金や新規事業の元手として活用できます。売却価格は企業の収益性や成長性など多くの要因で決まりますが、大きなリターンも期待できます。ただし、株式の譲渡益には所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて20.315%の税金が課されます。そのため、売却価格だけでなく、税金を差し引いた後の手取り額がいくらになるかを事前にシミュレーションしておくことが極めて重要です。
なお、2025年(令和7年)からは「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(いわゆるミニマムタックス)」が導入され、株式譲渡所得がおおむね10億円を超えるような極めて高額なケースでは、通常の20.315%を上回る税負担が生じる可能性があります。大型の売却を想定する場合は、最新の税制を踏まえて税理士に試算を依頼しておくと安心です。
倒産を避けて会社を存続できる
会社に負債があっても、株式譲渡の手法であれば負債ごと譲り受けてもらえるでしょう。
事業譲渡であれば、現金にできる部門だけを売却すると、負債の返済にあてて財務状況を健全にしてから、主な事業や新しい事業に投資できます。
廃業のコスト・手間を回避できる
会社をたたむ「廃業」には、想像以上のコストと手間がかかります。設備の撤去・原状回復、在庫処分、登記や清算の手続き、専門家への報酬などが発生し、規模によっては数百万円単位の負担となることも少なくありません。
会社売却であれば、買い手企業が資産・負債・従業員を引き継ぐため、こうした廃業コストを大幅に圧縮できます。「どうせ畳むなら」と廃業を選ぶ前に、売却で資産価値を現金化できないかを検討する価値は十分にあります。
事業を整理できる
経営上のリソースをより効果的に使うため、利益や成長が期待できない事業部門を売ることで事業の整理をできます。
特に、新しい事業を始めたり、他の会社を買収して事業を拡大してきた企業であれば、いくつかの事業を整理することで今後の方向性を明確にできます。
会社売却のメリット・デメリットについてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
3. 会社売却で注意すべきデメリット
会社売却には以下のようなデメリットがあります。
キーマン条項による一定期間の関与が必要な場合がある
M&A契約には、売却後も元経営者などが一定期間会社に残り、事業の引継ぎを支援することを定める「キーマン条項(ロックアップ)」が含まれる場合があります。これは、買い手側が事業を円滑に継続するために設ける条項です。しかし、売り手側にとっては、売却後すぐに引退したり、新しい事業を始めたりしたい場合に制約となる可能性があります。そのため、ロックアップの期間や業務内容、報酬などの条件については、契約前の交渉段階で具体的に協議し、双方にとって納得のいく形で合意しておくことが不可欠です。
競業避止義務により新規事業が制限される可能性
会社売却の契約には、元経営者が一定期間、売却した事業と競合するビジネスを行うことを禁じる「競業避止義務」が盛り込まれるのが一般的です。これは買い手企業が営業上の利益を守るための重要な条項ですが、元経営者のその後のキャリアプランを大きく制限する可能性があります。そのため、義務が課される期間、地理的な範囲、禁止される事業内容など、制約の範囲が妥当なものか、弁護士などの専門家を交えて慎重に交渉し、契約書に明記することが重要です。
会社売却する理由については以下の記事で詳しくご説明していますので、そちらもご一読ください。
希望する条件で売却できるとは限らない
会社売却は「売りたい価格・条件で必ず成立する」ものではありません。売却価格は買い手の評価次第であり、業績や市場環境によっては希望額に届かないこともあります。特に業績が悪化してからの売却は買い手が見つかりにくく、条件面でも不利になりがちです。
希望条件を実現するためには、業績が好調なうちに準備を始め、自社の強みを整理し、複数の買い手候補と比較交渉できる状態をつくることが重要です。
売却成立までに時間がかかる
M&Aによる会社売却は、相手探しから交渉、デューデリジェンス、最終契約まで多くの工程があり、一般的に成立まで半年〜1年程度かかります。買い手候補がなかなか決まらなければ、さらに長期化することもあります。その間も経営を続けながら準備・交渉を並行するため、経営者には体力的・精神的な負担が生じます。
引退や次の事業の時期から逆算し、早めに専門家へ相談して計画的に進めることが、負担を抑えるポイントです。
従業員・取引先への影響と経営方針の変化
売却によって経営権が買い手に移ると、経営方針や人事・労働条件が変わる可能性があります。これまでの社風と異なる方針が打ち出されれば、従業員が戸惑い、キーパーソンの離職や取引先との関係変化につながることもあります。
こうしたリスクを抑えるには、買い手とのトップ面談で経営理念や企業文化のすり合わせを丁寧に行い、従業員や主要取引先への説明・配慮を計画的に進めることが欠かせません。
経営者としての喪失感・社会的立場の変化
数字には表れにくいものの、見落とせないのが経営者自身の心理的な変化です。長年「社長」として築いてきた立場や日々の役割を手放すことで、喪失感や寂しさを覚える経営者は少なくありません。
売却後の生活設計(新規事業、顧問としての関与、アーリーリタイア後の過ごし方など)をあらかじめ描いておくことで、こうした変化を前向きなセカンドキャリアへの転換点に変えることができます。
4. 会社売却の方法(スキーム)
会社売却の方法は複数の種類があり、状況に応じて適切なものを選択することが大切です。どの方法が最適なのか判断するには専門的な知見が必要となるため、M&A仲介会社など専門家のアドバイスを受けながら決めることをおすすめします。
株式譲渡
株式譲渡とは、会社の株式を保有する株主が他の企業や個人に株式を譲り渡すことです。M&Aでは、株式を第三者に売却することによって会社の経営権を譲渡します。
事業譲渡
事業譲渡は、会社における事業の一部(あるいは全部)を切り出し、他の企業に売却する方法です。事業の売買であり株式の移動は伴わないため、売り手会社はM&A後もそのまま経営することができます。
不採算事業の切り離しなど、売り手会社が運営する事業の一部のみを切り出したい場合に用いられる方法です。
合併
合併は、2つ以上の異なる会社が一つになることです。一方の会社が吸収するものと、全く異なる第3の会社を設立するものがあります。
会社分割
会社分割は、事業を切り離して別の会社に引き渡すことです。会社分割には、会社の一部の事業、または全部の事業を既存の他企業に引き渡す「吸収分割」と、会社の一部の事業、または全部の事業を、新しく設立した会社に引き継ぐ「新設分割」の2つがあります。
会社売却の方法は下記の記事で詳しく説明しています。ぜひご一読ください。
5. 会社売却の一般的な手続き・流れ
実際の会社売却は、以下の流れで行われます。会社売却の流れと手続きを、詳しくみていきましょう。
①会社を売る準備
後継者不在による事業承継など、売り手企業のなかで売却の意思が固まったらM&Aを行う準備を始めます。売却の理由は企業によってさまざまですが、まず「なぜ自社を売却するのか」という理由を明確にしておくことが重要です。
また、M&Aで必要になる資料の準備もしておきましょう。過去三期分の決算書や自社の強みをアピールできる資料などを揃えておくと、基本合意までの交渉をスムーズに進めることができます。
M&Aによる会社売却の準備については以下の記事で詳しくご説明していますので、そちらもご一読ください。
②M&A仲介会社と契約
次に、M&A仲介会社と契約します。M&A仲介会社は多く、それぞれに得意分野があります。自社の状況や希望に合ったM&A仲介会社を選ぶことが重要です。
M&A仲介会社によって、手数料やM&A成立までのスピードも異なります。自社に適したM&A仲介会社を選ぶためには、複数のM&A仲介会社を比較することが大切です。
③買い手企業候補の選定と打診
M&A仲介会社と契約した後、自社の分析を行ってもらいます。自社の強みや弱みを自分で分析するのは難しいので、専門家であるM&A仲介会社と一緒に行うのがおすすめです。
そして、買い手企業候補を探します。買い手企業候補を見つける際は、M&A仲介会社のネットワークも活用しながら探しましょう。M&A仲介会社に依頼すれば、複数の買い手企業候補をピックアップしてくれます。
気に入った買い手企業候補を見つけたら打診し、買い手企業候補が関心を示せば面談です。
トップ面談
買い手企業候補に打診したら、トップ面談を行います。トップ面談とは、売り手企業と買い手企業の経営者が直接話し合うことです。主に以下のことを話し合います。
- 経営方針
- 経営理念
- 企業文化
- M&Aへの考え方
- 今後のビジョン
互いの会社を理解するために、相手の会社や工場に出向くこともあります。トップ面談で買い手企業に会社を売却して良いと思えれば、本格的な交渉を行いましょう。
売り手企業の経営者一人では、自社の希望を伝えられないこともあります。交渉は、M&A仲介会社などM&Aに詳しい専門家に同席してもらいましょう。
⑤基本合意契約の締結
買い手企業と売却の条件を決めたら、基本合意契約を締結します。基本合意契約とは、買い手企業と話し合った条件でM&Aを進めることを約束する契約のことです。
基本合意契約は非常に重要な契約で、大きな問題が生じない限りは、基本合意契約の内容が最終契約書になることもあります。しっかりと確認しましょう。
基本合意書には、取引の基本的条件、価格、売買までのスケジュール、契約予定日、デューデリジェンスに関して、独占交渉権、当該基本合意文書の有効期限と法的拘束力の範囲などを記載します。
独占的交渉権が付与されると、基本合意契約を締結した後に、売り手企業は買い手企業以外の相手と売買交渉ができないことも多いため注意が必要です。
⑥デューデリジェンスの対応
基本合意書を締結したら、デューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスよって自社の価値やリスクが判断され、その結果は最終交渉の参考にされるものです。
準備した資料をもとに審査されます。デューデリジェンスはたくさんの観点がありますが、案件によって特に重要とされる切り口が異なるため、優先順位をつけて行われることが多いです。
デューデリジェンスは膨大な資料を求められることもあるため、M&A仲介会社など専門家に協力してもらうとスムーズに進められるでしょう。
⑦最終契約の締結とクロージング
デューデリジェンスが滞りなく終われば、いよいよ最終契約書の締結です。デューデリジェンスに問題がなければ、基本合意書の内容がほぼそのまま反映されます。その後、譲渡が実行・入金が行われクロージングとなります。
⑧経営統合(PMI)
買い手側にとって経営統合(PMI)はM&Aが成功したかを決める重要なものになります。M&Aの後、想定していたシナジー発揮などの効果を最大化するために行います。
PMIに関する検討は、M&Aの準備段階からスタートさせており、デューデリジェンスを行いながら並行して計画策定を始めます。
会社売却の戦略について詳しく知りたい方は、以下の記事もご一読ください。
会社売却を成功させるため注意点を知りたい方は下記の記事で詳しく説明しています。ぜひご一読ください。
6. 会社売却を成功に導くためのポイント
会社売却は経営者にとって一大決心です。その決断を成功に結びつけるためには、いくつか重要なポイントがあります。
自社の強みと企業価値を正しく把握する
会社を高く、そして良い条件で売却するためには、自社の強みや魅力を客観的に分析し、企業価値を正しく把握することが第一歩です。財務状況だけでなく、技術力、ブランド、顧客基盤、従業員のスキルといった無形の資産も価値の源泉となります。専門家の助けを借りて自社を評価し、買い手候補にアピールできる点を整理しておきましょう。
適切なタイミングで売却を決断する
会社の業績が良い時期ほど、高く評価されやすくなります。業績が悪化してから売却を考えると、買い手が見つかりにくくなったり、不利な条件を提示されたりする可能性が高まります。将来を見据え、事業が好調なうちに検討を始めることが、有利な条件での売却に繋がります。経営者の年齢や健康状態、業界の動向なども考慮し、最適なタイミングを見極めることが重要です。
信頼できるM&A専門家をパートナーに選ぶ
会社売却の手続きは複雑で、法務、税務、会計など多岐にわたる専門知識が必要です。M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)など、経験豊富で信頼できる専門家をパートナーに選ぶことが成功の鍵となります。自社の業界に精通し、親身に相談に乗ってくれる専門家を見つけ、二人三脚でプロセスを進めていくことをおすすめします。
7. 会社の売却価格を算出する方法
会社売却手続きの流れでは、「準備段階」において、自社の企業価値評価(バリュエーション=valuation)を行います。
この企業価値評価の方法には、M&Aの現場において確立された専門的な算出方法が複数あります。
さまざまな企業価値評価の方法を大別すると、それは以下の3種類です。それぞれの概要を説明します。
①コストアプローチ
売却企業の純資産に着目し、それをベースに企業価値評価を行うのがコストアプローチの手法です。端的には、主として貸借対照表の各数値から計算を行います。客観的かつ比較的簡易に算定できるのが特徴です。
具体的なコストアプローチの代表例としては、「時価純資産法」や「簿価純資産法」などがあります。
簿価純資産法
簿価純資産法とは、帳簿上の資産合計から負債合計を差し引いて純資産を算出しそれを株式価値とする方法です。
会計上の帳簿価格に基づいた企業価値の算出方法のため客観性を保つことができる点がメリットです。また、計算が簡単であるため作業がほとんどないです。
一方、デメリットとしては、資産や負債の帳簿価格と時価に差がある場合は帳簿の価格に基づき計算するため、簿価純資産は実態と乖離している可能性があります。
時価純資産価額法
時価純資産価額法とは、帳簿上の全ての資産と負債を時価で再評価し、純資産の金額を計算して企業価値を求める方法です。無形資産も含めて計算します。無形資産に該当するものには、従業員・スキル・ノウハウ・技術・ブランド力・特許・商標権などがあります。
従業員の技術や特許などは企業によって企業ごとに違うため、算出に含めることで低いと感じていた企業価値が実は高かったというケースもあり得ます。
計算が簡単で、客観的な評価ができる点がメリットです。帳簿上の資産や負債の時価も反映されているため、実際の企業価値に近いです。
一方デメリットには、収益性が考慮されない点や評価の前提である帳簿金額が間違っていた場合は適切に評価できない点が挙げられます。
②マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株式市場やM&A市場での他社の取引価額をベースとして企業価値評価を行うことです。
具体的には、上場企業や公表されているM&A実施企業のなかから、売却企業と同業種・同規模の会社を探し、その会社の株価やM&A実施時の売却価額を参照するものです。客観性に優れる方法ですが、同業種・同規模の会社が見つからないと実施できません。
具体的なマーケットアプローチの代表例としては、「類似企業比較法」や「類似取引比準法」などがあります。
類似会社比準法(マルチプル法)
類似会社比準法(マルチプル法)では、同じような事業を行っている上場企業の株価をベースとして算出する方法です。
メリットは、類似の複数の上場会社を選び、数値から倍率をベースに株式価値を算定するため客観性の高い結果が得られることです。
一方デメリットは、対象会社に近い事業規模の企業が存在しないケースがある点や主観的な判断が入る可能性や、個別の事象を反映できない点が挙げられます。
③インカムアプローチ
売却企業が、今後に生み出すであろうキャッシュフローや利益を算出し、そこにリスクも勘案して企業価値評価を行うのがインカムアプローチです。具体的には、売却企業の中期計画をベースとして企業価値を導き出します。
売却企業の現在の価値だけではなく、将来の収益力も勘案している点で優れた企業価値評価方法です。しかし、そのベースとなる中期計画において、計画作成者の恣意性が加わる可能性は否定できず、その点で信頼性が揺らぎます。
具体的なインカムアプローチの代表例としては、「DCF(Discounted Cash Flow=割引キャッシュフロー)法」や「配当還元法」などがあります。
DCF法
DCF法は、将来期待できるキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を求める方法です。
メリットは、対象会社の事業計画を基に株式価値を算定するため、現在の収益率が芳しくなくても将来の利益計画が明確であれば、買収の妥当性などが検討しやすい点です。
一方でデメリットは、対象会社の作成した事業計画であるため、作成側の主観や恣意性が入りやすいことです。事業計画の損益の妥当性やシナジー効果など、自社の評価を高く見積もってしまう可能性もあるため、結果として事業価値が変わってしまうケースもあります。
複雑な企業価値の算出はM&A専門のアドバイザーにお任せ
会社売却の際は、数多くの複雑な手続きが待っています。企業価値価額の算出は最たる例でしょう。「どういった算出方法で企業価値を導き出せばいいのかわからない」ときは、M&A専門のアドバイザーによるサポートがおすすめです。
M&A総合研究所には、会社売却に関する知識・経験豊富なM&Aアドバイザーが在籍しています。難しい企業価値価額の算出はもちろん、案件を親身になってフルサポートします。
M&A総合研究所の料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)
無料相談を随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお電話・Webよりどうぞお気軽にお問い合わせください。
会社売却の相場や高く売る方法について、下記の記事で詳しく説明しています。ぜひご一読ください。
8. 会社売却で発生する税金
会社売却を行った場合、その利益は課税対象となるため、あらかじめ把握しておくことが必要です。ここでは、会社売却で発生する主な税金を紹介します。
株式譲渡の税金
株式譲渡を行った際は、経営者(株主)が得た株式譲渡所得に対して20.315%が課税されます。分離課税方式がとられており、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%(2037年まで)という内訳です。
株式譲渡所得は「譲渡価額-(株式取得費用+譲渡手数料)」で算出しますが、株式売却価額が所得税法上の評価額とが大きく違う場合は追徴課税の対象となる可能性もあります。
事業譲渡の税金
事業譲渡の場合、譲渡対価を受け取るには企業となるため、経営者個人への課税はありません。企業が得た譲渡益に対して法人税と消費税がかかります。
法人にかかる法人実効税率は、現行でおおむね約30〜34%です(会社の規模や所在地により異なります)。また、事業譲渡益は「譲渡価額-(譲渡対象資産-譲渡対象負債)」 で算出されます。
合併の税金
合併の際に発生する税金は、適格合併と非適格合併とで変わります。適格合併に該当している場合は、株主・存続会社・消滅会社ともに原則として税金はかかりません。
適格合併として認められるためには要件を満たす必要があり、同一グループ内での統合であることなどが細かく決められています。
非適格合併の場合は、消滅会社に法人税(含み損益に対して計算)がかかり、消滅会社の株主には所得税が課されますが最大で49.44%となるため注意が必要です。
会社売却の利益についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
9. 会社売却の成功事例10選
ここでは、実際に行われた会社売却の成功事例を10件紹介します。いずれも各社の公式リリースに基づく事例です。買い手の狙いや統合後のシナジーに注目すると、自社が「どんな相手に・何を評価されて売れるか」のイメージが掴めます。
コネクシオによるノジマへの会社売却
2023年2月、ノジマは携帯電話の販売・卸売りを行うコネクシオのプライム市場上場の株式を公開買付けにより取得することを発表しました。
ノジマは本M&Aにより店舗運営の効率化、接客サービスの高品質化、ノジマ、ノジマの グループ会社及び対象者において展開している法人事業の成長加速化及び経営基盤の共通化や 事業のデジタル化に伴う投資の効率化等の領域において連携及び協力を進めていくとしています。
テスパックによる中央倉庫への会社売却
2023年1月、テスパックは中央倉庫へ全株式を売却し、中央倉庫の子会社化を発表しました。
テスパックは、梱包〜通関手続きの代行までを一貫して受注できる体制と梱包の専門業者として高い技術力を有する企業です。
中央倉庫はテスパックが保有する優秀な人材や営業基盤と中央倉庫の経営資源を融合し、梱包事業の一層の態勢強化を図るとしています。
sweeepによるfreeeへの会社売却
2023年1月、sweeepはfreeeへ会社売却を行い、freeeの完全子会社化を発表しました。
sweeepは請求書の受取・仕訳・振込・保管を自動化するサービスやビジネス文書に特化した電子帳簿保存法対応のクラウドキャビネットとして「sweeep」シリーズを展開している企業です。
freeeはインボイス制度への対応を見据え、意思決定の迅速化やグループ内の一層の連携強化を通じて企業価値の向上を図るとしているとしています。
エイベックス通信放送によるNTTドコモへの会社売却
2022年11月、エイベックス通信放送はNTTドコモへ会社売却をし、ドコモの子会社になることが決定しました。
エイベックス通信放送を子会社化することで、より迅速な意思決定を可能とし映像事業の更なる強化をめざすとしています。
日水製薬による島津製作所への会社売却
2022年5月、日本水産傘下の日水製薬は島津製作所への会社売却を発表しました。島津製作所は完全子会社化を目的にTOBを実施すると発表しました。
日水製薬と島津製作所はが従来の事業領域や、新たに遺伝子検査薬への注力により、対象者からの要請により公開買付者製ノロウイルス検出試薬キットでの販売提携を開始した 2015年以降現在に至るまで、臨床検査市場での業務提携を通じて関係を築いてきました。
島津製作所は試薬の開発製造能力や販売サービス網と、強みであるハードウェアなどを組み合わせ、臨床検査市場での新たな価値創出を図り、新たな協業の機会の創出に積極的に取り組んでいきたいとしています。
motoによるログリーへの会社売却
2021年4月、転職メディアを運営するmotoは全株式をログリーへ売却しました。譲受側のログリーは、ネイティブ広告配信プラットフォ運営する企業です。
売却側のmotoが運営する「転職アンテナ」では、代表取締役CEO戸塚氏の実体験に基づくコンテンツが人気を得ています。
本M&Aの目的は広告配信ジャンルの拡大であり、両社のノウハウ・データを組み合わせることで新しい事業が生み出せるとし、取得に至りました。
取得価額は約7億円であり、そのほかアーンアウトによる成功報酬(最大3億円)も設定されています。
武田薬品工業によるブラックストーン・グループへの子会社売却
2021年3月、武田薬品工業は連結子会社の武田コンシューマーヘルスケアの全株式を、アメリカのブラックストーン・グループと関係会社運用のPEファンドが管理するOscar A-Coへ売却しました。譲渡価額は約2420億円です。
武田薬品工業は医薬品の研究開発および製造販売を中心に事業展開しており、売却した武田コンシューマーヘルスケアは医薬品および医薬部外品・食飲料品などの研究開発と製造販売を手掛けています。本M&Aの目的は、事業ポートフォリオの最適化です。
オリンパスによるロート製薬への子会社売却
2021年3月、大手電子機器メーカーのオリンパスは子会社であるオリンパスRMSの全株式をロート製薬へ売却しました。
オリンパスRMSは再生医療技術を専門としており、軟骨細胞を使用した関節治療の研究開発を手掛けています。本M&Aの目的は、ロート製薬における再生医療事業の領域拡大と成長促進です。
ロート製薬は、オリンパスRMSのノウハウを取り込むことで、注力事業である再生医療分野の成長を図るとしています。
三井E&Sホールディングスによるベインキャピタルへの子会社売却
2020年1月、三井E&Sホールディングスは子会社の昭和飛行機工業の全保有株式を、アメリカの投資ファンドであるベインキャピタルへ売却すると発表しました。なお、本株式譲渡後、ベインキャピタルはTOBにより同社を完全子会社化しています。
本売却は三井E&Sホールディングスによるリストラ策の一環であり、造船事業などの不振で近年は業績が悪化が続いていました。非中核事業である昭和飛行機工業を売却し、主軸である舶用エンジンや海洋開発などにリソースを集中することが目的です。
コインチェックによるマネックスグループへの会社売却
2018年4月、コインチェックは全発行済み株式をマネックスグループへ売却しました。金融サービス業を手掛けるマネックスグループは、仮想通貨事業を「第二創業」と位置付けており、業界有数のコインチェック買収を決定しています。本買収額は36億円です。
売却側のコインチェックは、NEM(ネム)の不正流出問題で経営体制の立直しが迫られる状態だったため、両社の思惑が一致したかたちでのM&A成立となりました。
10. 会社売却のよくある質問
会社売却を検討する経営者から特に多い質問にお答えします。
赤字でも会社は売却できますか?
赤字でも売却できる可能性は十分にあります。買い手は現在の利益だけでなく、技術・顧客基盤・人材・将来性といった無形資産も総合的に評価するためです。ただし黒字企業に比べて条件は厳しくなりやすいため、自社の強みを明確に整理して交渉に臨むことが重要です。
会社売却にはどのくらいの期間がかかりますか?
一般的に半年〜1年程度が目安です。相手探しや交渉の状況によっては長期化することもあります。引退や次の計画の時期から逆算し、早めに準備を始めることをおすすめします。
売却後も会社に残って働く必要はありますか?
契約にロックアップ(キーマン条項)が設定されている場合、一定期間は引き継ぎのために残るのが一般的です。期間や役割は交渉で決まるため、すぐに引退したい場合は契約前に条件を明確にしておきましょう。
従業員に売却を伝えるタイミングはいつが良いですか?
情報漏えいによる動揺を避けるため、原則として最終契約が固まった段階で、買い手と相談のうえ丁寧に説明するのが一般的です。キーパーソンへの個別配慮も成功のポイントになります。
11. 会社売却のまとめ
今回は、会社売却のメリットとデメリット、そして売却に関する知識をさまざまな角度から紹介しました。会社を売却するメリットとデメリットをよく理解したうえで、より良い結果が出るよう努めましょう。
会社売却をしたくてもM&Aを自力で進めることは困難です。自社に合ったM&A仲介会社の利用をおすすめします。
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