2023年07月22日更新
買収・M&A後のPMIとは?重要性や手法、流れ、ポイント、事例を徹底解説!
この記事では買収・M&A後のPMIについて、PMIの特徴、手法や流れ、ポイント、買収後におけるPMIの重要性やメリットなどを解説します。自社のPMIに生かすために買収後のPMIに失敗した事例なども取り上げますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 買収・M&A後のPMIとは
PMIの概要
PMI(ポスト・マネジメント・インテグレーション)は、Post Merger Integrationの略で、買収や合併の後に行われる統合プロセスです。
M&Aの成功はPMIの成功次第といえるほど、重要なプロセスになります。期待する経営効果が実現できるかどうかは、PMIがうまくいくかどうかによって効果の発現範囲が異なるでしょう。
M&Aで統合するものは各案件で違いますが、方針の統一、企業文化の融合、コスト削減、取引先の共有などが主で、これらを経営統合によるシナジーと呼びます。
PMIのセクション
PMIを実行に移す場合、5つのセクションに分けて統合が進められます。
- 経営面
- 制度面
- 業務面
- 事業面
- 意識面
経営面
1つ目に挙げるセクションは、経営面です。両社の企業理念や経営理念、経営戦略などをすり合わせて、新しい会社への移行を進めます。
PMIは統合の度合いに応じて、亀裂や認識の違いなどが生じやすいです。例えば、吸収合併では、他社を傘下に収める買収と異なり、消滅会社が存続会社の体制に合わせる割合を強めます。
買収・M&A交渉の時点から、トップ同士の会談を通じて対象企業の経営面を把握しなければ、すり合わせがうまく進まない事態になるため、買収後はもちろん買収の前にも準備が必要です。
制度面
2つ目に挙げるセクションは、制度面です。制度面では大きく2つの制度を統合します。1つは人事制度で、就業規則や評価制度、退職制度などの統合が必要です。
もう一つは会計制度で、外部に向けた財務会計・企業内の経営状況を把握する管理会計を統合します。これは財務・管理会計の統合によって、グループ内の取引を把握し、取引の見直しや財務の改善を進めるためです。
業務面
3つ目に挙げるセクションは、業務面です。オペレーションや経理・経営管理・人事のほか、情報システムの統合を行います。業務への影響を想定し、発生するコストと得られる効果を比べて、統合する時期や範囲が決定されるでしょう。
特に人事では、適切な人材の配置が重要で、自社の社員のみを優遇すると両社の関係に亀裂が入ってしまい、PMI後の業務に支障が及ぶでしょう。経営陣や主要な役職および従業員の配置は、両社の人材を公平に扱うことが求められます。
事業面
4つ目に挙げるセクションは、事業面です。現状の業務を維持する計画や、両社の仕入先や資材などの分析、得たデータに基づく事業展開の立案、担当する仕事の割り当て、新部門の創設などを行います。
事業面の統合は、シナジーの大小による資本の選択と集中や、共通するサービス・製品の統廃合、取引相手の変更などを行うため、シナジーの獲得に直結するPMIといえるでしょう。
意識面
5つ目に挙げるセクションは、意識面です。互いの企業文化に関して経営者たちが話し合い、従業員にも相手企業の文化を受け入れるよう求めます。意思決定の過程や今後の事業方針、各従業員に求める内容、PMI後の報酬などを伝えて、買収・M&A後の状況を明確にすることも必要でしょう。
特にクロスボーダー案件では、国内企業同士のM&Aに比べ企業文化などに差が見られるので、対象国の文化を把握することが重要です。
買収後のPMIの重要性
企業の買収後に行うPMIは、どのような点で重要と判断されるのでしょうか。買収後のPMIは、以下の点が重要です。
- シナジー効果を最大限発揮する
- M&A・企業買収増加による必要性の自覚
シナジー効果を最大限発揮する
1つ目に挙げる買収後のPMIにおける重要性は、シナジー効果を最大限発揮させる点です。買収や合併を行う目的は、企業価値の向上やシェアの拡大、コストの削減、サービス・製品の質を高めることなどが挙げられます。
これらのシナジー効果を得るには、先述したPMIに取り組まなければならず、PMIを怠ってしまうとシナジー効果を得るまでに時間がかかったり、シナジーそのものが得られなかったりするでしょう。シナジー効果を最大限に高めるには、徹底したPMIの策定に加えて統合プロセスに優先順位をつけたり、買収・M&A後に現れるリスクや問題に対応したりすることが重要です。
M&A・企業買収増加による必要性の自覚
2つ目に挙げる買収後におけるPMIの重要性は、M&A・企業買収増加による必要性の自覚です。企業は自社の成長や存続のために、M&A・企業買収を選びます。
M&A・企業買収は、大手企業のみの手段でしたが、近年は中小企業も会社・事業の存続を図ったり、取引や従業員との契約を維持したりするために、M&A・企業買収を用いている状況です。
つまり、買収後のPMIは、多くの企業にとって自社の将来を左右するといえます。買収後のPMIは、M&A・企業買収を通じて企業の成長を図ったり、自社の希望をかなえたりする企業にとって、重要な過程です。
2. 買収・M&A前後のPMIの流れ・プロセス
買収全後のPMIはどのような流れ・プロセスで進められるのでしょうか。上記で紹介したPMIの手法・やり方は、以下の流れ・プロセスによって実行されます。
【買収・M&A前後のPMIの流れ・プロセス】
- 買収・M&A前の検討
- デューデリジェンスの情報をもとにPMIを策定して統合方針を決定する
- ランディング・プランを策定する
- 100日プランを決める
①買収・M&A前の検討
買収前後のPMIにおける流れ・プロセスの1つ目は、買収・M&A前の検討です。基本合意を結ぶ前に、トップ同士の会談を通じて、最終契約後のPMIに関する計画を検討します。
PMIの実行は、買収後に行いますが、PMIの計画を練るのはクロージング前の段階です。ここで大まかな計画を立てれば、PMIの策定や実行を早められます。
②デューデリジェンスの情報をもとにPMIを策定して統合方針を決定する
買収前後のPMIにおける流れ・プロセスの2つ目は、デューデリジェンスの情報をもとにした、PMIの策定と統合方針の決定です。
デューデリジェンスで発覚した会社の状況やリスク、シナジー効果の度合いなどを、PMIの計画に反映させます。そして、統合を進める順番や手法、統合の速度などを両社で話し合い、PMIの総合方針を決める流れへと進みます。
③ランディング・プランを策定する
買収前後のPMIにおける流れ・プロセスの3つ目は、ランディング・プランの策定です。ランディング・プランとは、クロージングから数カ月の間に行われる、短期の統合計画をさします。
ランディング・プランの対象は、はじめに紹介した5つのセクション(経営・制度・業務・事業・意識面)です。ランディング・プランを策定する目的は、見落としたリスクや把握するのが難しかった問題を反映させるためです。
両社が協働して事前の計画を見直したら、ライディング・プランを実行する流れに移行します。
④100日プランを決める
買収前後のPMIにおける流れ・プロセスの4つ目は、100日プランの決定です。100日プランは、クロージングから100日までの間に策定する計画をさします。
買い手側が短期の計画を打ち出せば、売り手側の従業員に不安を抱かせずに済むでしょう。統合した会社にも期待を寄せるようになり、離職を止める効果も期待できます。
3. 買収・M&A後のPMIの手法・やり方
買収後のPMIは、どのような手法・やり方で行われるのでしょうか。買収後のPMIは、以下の手法・やり方によって、統合を完了させています。
【買収・M&A後のPMIの手法・やり方】
- 経営面の統合プロセス
- 制度面の統合プロセス
- 業務面の統合プロセス
- 事業面の統合プロセス
- 意識面の統合プロセス
①経営面の統合プロセス
1つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、経営面の統合プロセスです。PMIを始める際、まずは以下の手法・やり方を経て、次の統合プロセスに移ります。
- 経営戦略の確認・策定・発表
- 適材適所の配置転換
- 経営・企業理念の浸透
経営戦略の確認・策定・発表
経営面における1つ目の統合プロセスは、経営戦略の確認・策定・発表です。クロージングの後、デューデリジェンスの情報を反映させた計画をもとに、当事会社で今後の統合計画を確認し合い経営戦略を策定します。
その後、買収・M&Aを済ませたことを従業員へ伝えます。交渉の間に外部へ漏れないよう、従業員への発表は、クロージングの後やクロージング日に伝えるのが一般的です。
適材適所の配置転換
経営面における2つ目の統合プロセスは、適材適所の配置転換です。PMIの実行は、設けるすべての部門に及ぶため、各部門を把握できる人材を配置する必要があります。
必要な人材を配置できても、PMIと並行して通常の業務もこなさなければなりません。選定した人材の負担を軽くする場合は、専門のチームを設けてPMIに専念させる・外部に協力を依頼するなどの対応を取りましょう。
経営・企業理念の浸透
経営面における3つ目の統合プロセスは、経営・企業理念の浸透です。従業員は「急に会社の統合が行われた」と感じるため、これまで貫いてきた理念をすぐに変えることは困難です。経営者同士で理念を理解し合っても従業員にまで及ばなければ、今後の経営に影響が現れるでしょう。クロージングを終えてから徐々に互いの企業理念を浸透させる必要があります。
互いの理念を把握してもらい、相手の文化を受け入れることを促して文化の上下を意識させないことが、経営・企業理念を浸透させるポイントといえるでしょう。
②制度面の統合プロセス
2つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、制度面の統合プロセスです。雇用に関する制度は、会社の存続を左右しかねません。
以下で取り上げる手法・やり方を把握して、統合後も事業をスムーズに展開できる体制を整えましょう。
- 人事制度の見直し
- 報酬・退職金制度の見直し
人事制度の見直し
制度面における1つ目の統合プロセスは、人事制度の見直しです。2つ以上の会社が統合されるため、それぞれの人事制度を適用すると、出身会社ごとに差が生じます。これでは、1つの企業として、まとまりに欠けるでしょう。
そこで、PMIにより、人事制度の見直しが実行されます。策定する人事制度は、労働条件や、就労規則、制度の移行にかかるコストなどで、各社の人事制度を確認した後、統合後の経営に見合った人事制度が定められます。
どちらの人事制度に合わせても問題が生じやすいため、統合後の企業を想定し、新しい人事制度を策定するつもりで人事制度を見直してください。
報酬・退職金制度の見直し
制度面における2つ目の統合プロセスは、報酬・退職金制度の見直しです。PMIにより、統合した後の会社に、基本給や賞与、手当、退職金などを合わせます。
報酬・退職金制度の見直しによっては、従業員の離職を招きかねません。不公平と感じさせないためにも、報酬・退職金の制度は慎重に行いましょう。
統合した後の経営について、重要な役割を与えたい人材がいれば、これまでの報酬体系や退職金制度を維持することを伝えてください。必要な人材を会社に引き留められます。
③業務面の統合プロセス
3つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、業務面の統合プロセスです。業務面の統合プロセスを怠って、業務の効率低下やコストの増加などを招かないためには、以下の手法・やり方を選択しましょう。
- 間接・競合部門の統廃合
- システムやノウハウの導入・改善
間接・競合部門の統廃合
業務面における1つ目の統合プロセスは、間接・競合部門の統廃合です。PMIにより、直接部門(営業・製造・開発など)を支援する間接部門の統廃合を図ります。間接部門とは、総務や人事・経理・情報システムを担う部門です。
複数の会社を1つの会社にまとめるため、重複する部門を1つに集約し、スムーズに業務を行える体制を整える必要があります。競合する部門も統廃合が必要です。競合する部門を抱えていると、経営効率が下がり、コストや人件費がかさんでしまいます。そこで、統合・廃合を行い、経営効率を高めて、コストの削減に努めるでしょう。
システムやノウハウの導入・改善
業務面における2つ目の統合プロセスは、システムやノウハウによる導入と改善です。統合に合わせて、新しいシステムを導入し、業務の効率や問題点を改善します。特に、会社の根幹を担う基幹業務や、仕入れから供給までの物流システムについて、改善や導入を行うでしょう。
ノウハウは当事会社の影響力を避けるために、外部に協力を仰いで客観性を維持するケースが一般的といえます。
④事業面の統合プロセス
4つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、事業面の統合プロセスです。統合によって生じる重複や無駄を把握して、事業の効率化やシナジーの獲得などを図ります。
事業面の統合プロセスは、以下の手法・やり方が挙げられます。
- 取引先の見直し
- 商品・サービス・製造品の廃統合
取引先の見直し
事業面における1つ目の統合プロセスは、取引先の見直しです。共通する資材などを購入している場合は、取引先を見直して、取引条件の変更や納品期間の短縮などを図ります。
商品・サービス・製造品の統廃合
事業面における2つ目の統合プロセスは、商品・サービス・製造品の統廃合です。シナジー効果を得るために、商品・サービス・製造品を見直し、重複するものを取り止めたり1つにまとめたりします。
提供までの効率性を高めて重複による無駄を取り除くと、スケールメリットの獲得が可能です。
⑤意識面の統合プロセス
5つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、意識面の統合プロセスです。企業同士が1つになっても、従業員への配慮を考えなければPMIは成功に至りません。
意識面の統合プロセスでは、次の手法・やり方が挙げられます。
- 全従業員・社員へのフォロー
- 社内の垣根の排除
全従業員・社員へのフォロー
意識面における1つ目の統合プロセスは、全従業員・社員へのフォローです。経営陣の意識を統合するほか、抱えている従業員の意識を合わせる必要があります。
しかし、すぐに従業員の意識を変えるのは難しいため、統合の目的や今後の経営方針、互いの企業文化などを伝えて、不安を抱かないように気を配りましょう。
社内の垣根の排除
意識面における2つ目の統合プロセスは、社内における垣根の排除です。統合を済ませても、社員同士に壁ができると、業務に支障が及んで統合後の経営が妨げられるでしょう。社員向けの研修や、役員・部門長向けのワークショップ、社内広報などで、統合した会社への理解を深め、ふさわしい環境を整えてください。
4. 買収・M&A後のPMIのメリット
買収・M&A後のPMIには、どのようなメリットが見られるのでしょうか。PMIを利用すると、以下のメリットが得られます。
- 経営戦略・企業理念・展望などをスムーズに浸透させられる
- 経営統合したことによるリスクを極力減らせる
- 事業の効率化・生産性の向上・コスト削減が期待できる
①経営戦略・企業理念・展望などをスムーズに浸透させられる
1つ目は、経営戦略・企業理念・展望などをスムーズに浸透させられる点です。急速に統合を進めてしまうと、従業員たちは困惑し、新しい組織に反発する事態が想定されます。
その点、買収後にPMIを行えば、段階を踏んで新会社の方針を提示することが可能です。これなら、従業員に受け入れる時間を与えられ、反発や離職を減らせるでしょう。
②経営統合したことによるリスクを極力減らせる
2つ目は、経営統合によるリスクの軽減です。複数の会社が1つになる買収とM&Aでは、統合によりリスクが発現することがあります。例えば、買収した事業の売上が想定を下回る・キーマンの離職・想定したシナジーを得られないなどのリスクです。
しかし、買収後にPMIを行えば、事業がもたらすキャッシュフローの最大化・キーマンの引き留め・管理と内部統制などにより、統合によるリスクを減らせます。
③事業の効率化・生産性の向上・コスト削減が期待できる
3つ目は、事業の効率化・生産性の向上・コスト削減を望める点です。買収後にPMIを実施すると、重複する事業や資源、原材料、管理・生産体制などを統一できます。
すると、事業が1つにまとまるため、効率性が上がり、生産性も高められるでしょう。管理・会計・間接業務を統合したり、販売チャネルや販売網、営業ノウハウ、生産の拠点などをまとめたりすると、人件費のカットにもつながります。
取引先を見直し、同じ資源や原材料を使用すれば、コスト削減にもなるでしょう。
5. 買収・M&A後に実施するPMIを成功させるポイント
買収・M&A後に実施するPMIには、いくつかのポイントがあります。統合後の経営・事業展開をスムーズに行うためには、以下のポイントを押さえて行いましょう。
【買収・M&A後に実施するPMIのポイント】
- 統合初日までにPMI案を完成させる
- 強いリーダーシップを発揮する経営者や役員の存在
- 各部署・各企業に人材を確保する
- 明確な目標を掲げて発信する
①統合初日までにPMI案を完成させる
1つ目に挙げる買収後に実施するPMIのポイントは、統合初日までにPMI案を完成させることです。統合を終えてからPMIを策定すると、リスクや問題に対処できず、スムーズに事業を展開させられません。
デューデリジェンスの段階からPMIの計画を策定すると、PMI案に後から発現するリスクや問題を反映できます。
②強いリーダーシップを発揮する経営者や役員の存在
2つ目に挙げる買収後に実施するPMIのポイントは、強いリーダーシップを発揮する経営者や役員の有無です。
買収やM&Aでは、ステークホルダーたちにしっかりと説明を行える経営者や役員の存在が必要です。統合を行うと、従業員や取引先、株主の不安を駆り立てるため、会社にとって重要な存在をないがしろにすると統合後の経営に影響が及びかねません。PMIは、社内にステークホルダーへの説明責任を果たせる人物を抱えていることが、ポイントといえます。
③各部署・各企業に人材を確保する
3つ目に挙げる買収後に実施するPMIのポイントは、各部署・各企業に人材を確保しておく点です。PMIには、各部署・企業に精通した人物が必要といえます。
PMIの専門チームに各部署・企業から選出した人材を加えて、PMIの実施を任せましょう。統合への理解を高められ、統合後の経営がスムーズに運びます。PMIにふさわしい人材は、早い段階で選定・確保することがポイントです。
④明確な目標を掲げて発信する
4つ目に挙げる買収後に実施するPMIのポイントは、明確な目標を掲げて発信する点です。統合を実施すると、組織や経営者の変更により、利益が減少するリスクを負ってしまいます。
つまり、ステークホルダーには、買収・M&Aの実施について、責任所在のほか目標も明確にしなければなりません。PMIでは、事業計画やシナジー効果などにデューデリジェンスを反映させて目標を明確にしましょう。
PMIを成功させるには?
PMIを成功させるには、M&A当事者の経営・管理手法をどちらかに合わせて、事業活動を標準化することが大切です。どの領域に対する変革を重点的に行うか、その方向性と速度、経営のビジョンなど、譲渡側と譲受側の経営幹部などがしっかりとコミュニケーションを取って認識を共有する必要があります。
PMIを進める速度が早ければ、従業員のモチベーションが下がったり、オペレーションに混乱を起こしたりすることもあるでしょう。統合変革の必要性を従業員に納得させるためには、経営幹部などの強力なリーダーシップやマネジメントが欠かせません。
PMIを進めると、さまざまな想定外の課題が起こり得ます。課題が生じたときは、元の計画から柔軟に対応することを検討して、課題に優先順位をつけて進めることが成功のポイントです。
6. 買収・M&A後のPMIに失敗した事例
PMIの計画をしっかり立てなければ、買収・M&A後のPMIに失敗することがあるでしょう。ここでは、自社の買収・M&AとPMIに生かせるよう買収・M&A後のPMIに失敗した事例を取り上げます。
- マイクロソフトによるノキア携帯端末事業の買収
- 米国ウォルマートによる西友の買収
- NTTコミュニケーションによる米国ベリオの買収
- パナソニックによる三洋電機の買収
- セブン&アイHDによるそごう・西武の買収
①マイクロソフトによるノキア携帯端末事業の買収
1つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、マイクロソフトによるノキア携帯端末事業の買収です。アメリカのマイクロソフトは、2014年の4月に、ノキアの携帯端末事業を買収しています。
買収の目的は、携帯端末の普及・開発の加速化・ユーザーの獲得です。ノキアが開発・提供していたWindows Phoneを買い取り、携帯端末の普及と開発の加速化を狙っていました。ノキアを通じて、10億人の利用者をマイクロソフトのサービスに引き込もうとしていました。
ところが、買収後、携帯端末市場でシェアの拡大に至っていません。これは、後手に回ったハードウエア事業の買収、徹底されていない差別化に加えて、ノキアのブランドを消滅させたことにあります。
ノキアブランドには一定数のユーザーがいたので、PMIでノキアブランドを残し、携帯端末のハードウエア事業を続けていれば、一般消費者向けのシェアを失うことなく、コアなファンを取り込めたでしょう。
②米国ウォルマートによる西友の買収
2つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、米国ウォルマートによる西友の買収です。ウォルマートは、2002年に業務提携を行った後2008年4月に西友を買収し、完全子会社としました。
しかし、2017年12月期の決算では当期利益を0円として、赤字の解消を図ったものの、2018年12月期の決算では、当期純利益がマイナス6,600万円、利益余剰金をマイナス57億4,600万円としています。
ウォルマートが、多額の累積赤字に陥った要因は、PMIによる価格設定の変更です。ウォルマートは、エブリデー・ロープライスの戦略により、特売日を設けずに低価格の商品を毎日販売しています。
西友もこの戦略を用いてシェアの拡大を狙いましたが、消費者は安い価格設定に慣れてしまい、他店の特売日にはお客を奪われ、思うように売り上げが伸ばせていないと考えられます。
③NTTコミュニケーションズによる米国ベリオの買収
3つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、NTTコミュニケーションズによる米国ベリオの買収です。NTTコミュニケーションズは、2000年5月に、ホスティングサーバーを提供するベリオを約55億ドルで買収しています。
買収の目的は、ベリオのIPネットワークを活用した、ネットワークサービスの統合です。サービスの質を高めることで、サービスエリアをアジア・アメリカへと広げ、ヨーロッパへの拡大も見込んでいました。
ところが、買収直前に起きたインターネットバブルの崩壊や、現金による買収のほか、経営ノウハウ・人材不足の状態で買取ったことで、株価の下落や、ストックオプションの行使による人材の流出を招き、8,000億円以上の損失を計上しています。
④パナソニックによる三洋電機の買収
4つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、パナソニックによる三洋電機の買収です。パナソニックは、2009年12月に、三洋電機の株式を取得し、子会社としました。
買収の理由には、両社のノウハウを共有した、シナジーの獲得を挙げています。ところが、三洋電機ののれん代として、2,500億円を減損処理として計上しました。
PMIが失敗した要因は、円高・韓国企業の台頭による民生用リチウムイオン電池事業の価値低下と、リチウムイオン電池事業のシナジー効果の低下にあります。
円高に加え、韓国企業が安価なリチウムイオン電池を開発したことで、シェアを奪われました。三洋電機との開発では、両社の技術は共有性に欠け、ほとんどシナジーを得られないことが判明し、人材の流失を招いています。
⑤セブン&アイHDによるそごう・西武の買収
5つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、セブン&アイHDによるそごう・西武の買収です。セブン&アイHDは、2006年6月に株式取得と株式交換を行い、そごう・西武を完全子会社としています。
買収の目的は、富裕層の取り込みです。事業領域の幅を広げて、総合的な量販店事業に拡大することが狙いでした。ところが、共同販促などによるシナジーが想定を下回ったことで、思うように利益を挙げられていません。2017年2月期の第2四半期決算では、そごう・西武は122億円の減損損失を計上しています。
そして、2017年にそごう神戸店と西武高槻店の事業を、エイチ・ツー・オー リテイリングへ売却しました。
7. 買収・M&A後のPMIに成功した事例
この章では、買収・M&A後のPMIに成功した事例を見ていきましょう。
- JTによるRJRI、Gallaherの買収
- 日本電産による買収
- サントリーホールディングスによるビーム社の買収
- 楽天による買収
- KDDIによる買収
①JTによるRJRI、Gallaherの買収
JTは、1999年5月にRJRIを買収しました。2007年4月にGallaherを買収しています。これらの買収は、国際的な競争力を高めるために実施されました。買収によって困難な海外M&Aの理解を深め、経験を積んでスケールの拡大も可能にしています。
経験に基づいて前もって準備を行い、PMIを短期間で行ってシナジー効果を早期に得ました。その結果、海外市場向けに対する販売本数の水準が約8割です。
②日本電産による買収
日本電産は、2019年11月までに66件のM&Aを実施した企業です。経営は悪化しているが技術力のある会社を買収し、経営を改善して立て直すことにより事業を広げています。
日本電産は「高値づかみをしない」「買収によるシナジー効果」「PMI・経営の関与」に重点を置いてM&Aを行いました。日本電産は、最初のステップで値段を抑えたりPMIへ積極的に関与したりして失敗する確率を低くしたことが、成功における要因の一つといえます。
③サントリーホールディングスによるビーム社の買収
サントリーホールディングスは、2014年1月にビーム社を買収しています。この買収は、世界各地において、両社の強いブランド展開にプラスして販売網・技術交流などを通したシナジー効果を狙って行われました。M&A後、サントリーにおけるウイスキーの販路・業績が拡大しています。
この成功の要因に、トップが、徹底して現場レベルとコミュニケーションをとったことが挙げられます。互いの理解が進むことで、シナジーも得られました。ビーム社の独立性をキープしながら放任することなく進行したことも成功のポイントです。
④楽天による買収
他の企業があまり前向きにM&Aを実施していない2000年代から、楽天はM&Aを実施している企業です。楽天は、楽天トラベルや楽天証券などの前身の会社を買収しました。
楽天は、インターネット基盤と証券、旅行など、いろいろな分野を結びつけて売上高を上げ、売上面・コスト面で大きなシナジーを発揮させてそれぞれの分野で成功しています。
上手にシナジーを発揮させ、業務範囲を広げたことが成功事例となっています。日常的な分野である楽天市場、楽天ブックス、楽天トラベルなどのほか、楽天証券や楽天銀行など幅広い分野で事業を広げました。
⑤KDDIによる買収
KDDIは、買収によるインフラを整えるクロスセル、スマホコンテンツの強化などにおける観点で、M&Aを促進してきました。
KDDIはM&Aを実施して、CATV、固定電話、携帯電話、インターネットを一気通貫したサービスを提供し、これらをまとめて割引になるプランを作って業績を広げました。通信とライフデザインを融合させて事業も拡大し、新しい価値に対する投資を行っています。KDDIの成功は、既存事業とのシナジーやサービスの融合を進めたことがポイントです。
8. 買収・M&Aの際のPMIの相談先
PMIの良し悪しによって、統合後の経営に影響が及びかねません。M&A仲介会社を利用すれば、各分野の専門家による統合の支援を受けられます。統合前に戦略の策定を行ったり、各セクションに必要な統合を計画に盛り込んだりするなど、PMIのサービスを通じて会社の事業展開・シナジーの獲得をサポートしてくれます。
買収・M&AにおけるPMIの相談は、M&A総合研究所へ
買収・M&AにおけるPMIのご相談は、ぜひM&A総合研究所へお任せください。M&A総合研究所では、買収・M&Aに精通したM&Aアドバイザーが案件をフルサポートします。
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9. 買収・M&A後のPMIまとめ
買収・M&A後のPMIについて、PMIの概要や、手法・やり方、流れ・プロセスなどを紹介しました。取り上げた失敗例を見ると、不十分なPMIにより想定したシナジーを得られなかったり、必要な人材が離れてしまったりするなど、統合後の経営に悪い影響が及んでいます。
買収・M&Aを成功させるためには、徹底したPMIが重要です。
【買収後に実施するPMIのポイント】
- 統合初日までにPMI案を完成させる
- 強いリーダーシップを発揮する経営者や役員の存在
- 各部署・各企業に人材を確保する
- 明確な目標を掲げて発信する
これから買収・M&Aを行う方は、上記のポイントを踏まえつつ、M&A専門家の力を借りることをおすすめします。
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