買収・M&A後のPMIとは?重要性や手法、流れ、ポイント、事例を徹底解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

この記事では買収・M&A後のPMIについて、PMIの特徴、手法や流れ、ポイント、買収後におけるPMIの重要性やメリットなどを解説します。自社のPMIに生かすために買収後のPMIに失敗した事例なども取り上げますので、ぜひ参考にしてください。

目次

  1. PMIとは
  2. PMIの重要性
  3. PMIの開始タイミング
  4. PMIの実施期間
  5. PMIの成功ポイント(買い手側)
  6. PMIの成功ポイント(売り手側)
  7. PMIの流れ・プロセス
  8. PMIの具体的項目
  9. PMIの失敗事例
  10. PMIの成功事例
  11. PMIに関する質問
  12. PMIの相談先
  13. PMIのまとめ
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1. PMIとは

まずは、買収M&A後のPMIとは何かを見ていきましょう。

PMIの概要

PMIとは、英語のPost Merger Integration(ポスト・マネジメント・インテグレーション)の略であり、買収や合併の後に行われる統合プロセスのことを指します。

M&Aの成功はPMIの成功次第といえるほど重要なプロセスであり、期待する経営効果が実現できるかどうかは、PMIがうまくいくかどうかにかかっていると言われるほどです。

M&Aで統合するものは各案件で違いますが、方針の統一、企業文化の融合、コスト削減、取引先の共有などが主で、これらを経営統合によるシナジーと呼びます。

2. PMIの重要性

中小企業庁「中小PMガイドライン ~中小M&Aを成功に導くために~」より

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

想定されるM&Aリスク

M&Aが本当の意味で成功したといえるのは、M&A前に想定していたシナジーや売上拡大などが得られた後であり、M&A後のリスクを最小化するために行われるのがPMIです。そのため、M&A後に想定される主なリスクにはどのようなものがあるのかを、PMI前に理解しておく必要があります。

M&Aリスクとして考えられるのは主に以下の3つがあり、PMIをしっかり行うことでこれらのリスクを最小限にとどめることが可能です。

  • 従業員から理解が得られず離職してしまう
  • 業務統合がうまくいかず現場が混乱する
  • M&A実施前に想定していたシナジーが得られない

上記のなかでも従業員の離職は業務に直接的な影響を与えうるリスクです。キーマンとなる人材が離職してしまうと事業運営に支障きたしかねないため、事前対策を行うとともにPMIも慎重に進めていく必要があります。

PMIはM&Aのリスクを最小化し、シナジーや効果を最大化するために不可欠な工程です。PMIを成功させるためにはしっかりと計画をたて、買い手・売り手が協力して進めなければなりません。

PMIの効果

企業の買収後に行うPMIは、どのような点で重要と判断されるのでしょうか。買収後のPMIは、以下の点が重要です。

シナジーの最大化

買収後のPMIがうまくいけば、シナジーの最大化に期待することができますPMIによって重複する事業や資源、原材料、管理・生産体制などを整理すれば、事業の効率化・生産性の向上・コスト削減を図りながらサービス・製品の質向上を図ることが可能です。

また、管理・会計・間接業務や販売チャネル・販売網・営業ノウハウを相互活用したり、整理したりするのも効果的なので、状況に合わせてPMIの計画をしっかり立てておく必要があります。

PMIの計画が不十分だったり工程を怠ってしまうと、シナジー効果が得られなかったり発揮までに時間がかかったりする要因ともなるため、徹底したPMIの策定に加えて統合プロセスに優先順位をつけたり、買収・M&A後に現れるリスクや問題に対応したりすることが重要です。

従業員の不安解消

売り手側の従業員にとって、M&Aによって経営陣が交代したり自身の職場環境が変わったりするのは非常に大きな出来事です。

新しい環境に馴染めなかったりM&A後の経営方針について十分な説明がなかったりすれば、従業員の離職にもつながります。

万一、売り手側の従業員が大勢離職してしまうようなことがあれば、M&A後の事業運営に大きな影響を及ぼしかねません

このようなリスクがあることを経営陣は十分理解しておき、M&A後はできるだけ早く従業員との個人面談や説明会を行い、不安や疑問を解消しておくことが重要です。

【関連】M&Aのシナジー効果とは?分析に使うフレームワーク、メリットが得られた事例も紹介| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. PMIの開始タイミング

中小企業庁「中小PMガイドライン ~中小M&Aを成功に導くために~」より

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

PMIはいつから取り組むかによって、シナジー発揮などM&A実施前に想定していた効果が十分得られるかどうかが変わります。

上図は中小企業庁「中小PMIガイドライン」のなかで公表されているデータです。データをみると、M&A工程の早い段階からPMIの検討・計画策定を行ったケースほど、期待どおりの結果あるいは期待を上回る効果を実感できていることがわかります。

PMIの実行は当然クロージング後ですが、成功させるためにはPMIの方向性の決定や計画策定などは交渉時から進めておくことが重要なポイントです。また、PMIは買い手側企業だけで成功できるものではないため、売り手側企業と方向性や具体的な計画を協議しておく必要があります。

4. PMIの実施期間

PMIを行ったからといって、M&Aの効果がすぐに発揮されるわけではありません。一般的に、PMIに取り組んでから実際にシナジーなどM&Aの効果が得られるまでには1年程度はかかるといわれています。

事業の内容によっては数年かかって初めてM&Aの効果が十分発揮されるという場合もあるので、PMIはその期間を見越して長期的に取り組むことが重要です。

また、PMIは計画策定だけでなく、売り手企業・買い手企業の経営陣だけでなく担当従業員の間で信頼関係が築けていなければ構築されていなければ成功させるのが難しくなります。

M&Aを行う際は、成立後のPMIに必要な時間も見越したうえで計画をたて、売り手企業・買い手企業はコミュニケーションを取りながら協力して進めていくことが成功のカギです。

5. PMIの成功ポイント(買い手側)

買収・M&A後に実施するPMIには、いくつかのポイントがあります。統合後の経営・事業展開をスムーズに行うためには、以下のポイントを押さえて行いましょう。

統合初日までにPMI案を完成させる

1つ目に挙げる買収後に実施するPMIのポイントは、統合初日までにPMI案を完成させることです。統合を終えてからPMIを策定すると、リスクや問題に対処できず、スムーズに事業を展開させられません。

デューデリジェンスの段階からPMIの計画を策定すると、PMI案に後から発現するリスクや問題を反映させることができます。

強いリーダーシップを発揮する経営者や役員の存在

強いリーダーシップを発揮する経営者や役員も、PMIを成功させるためには重要や役割を担います。たとえば、買収やM&Aでは、ステークホルダーたちにしっかりと説明を行える経営者や役員の存在が必要です。

統合を行うと、従業員や取引先、株主の不安を駆り立てるため、会社にとって重要な存在をないがしろにすると統合後の経営に影響が及びかねません。PMIは、社内にステークホルダーへの説明責任を果たせる人物やリーダーシップを発揮できる経営者・役員の存在がポイントといえます。

PMIを実行する人材の確保

3つ目に挙げる買収後に実施するPMIのポイントは、各部署・各企業に人材を確保しておく必要があります。PMIには、各部署・企業に精通した人物が不可欠です。

PMIの専門チームに各部署・企業から選出した人材を加えて、PMIの実施を任せると効率的に進めていくことができ、成功しやすくなります。また、PMIにふさわしい人材は、早い段階で選定・確保することがポイントです。

明確な目標を掲げて発信する

4つ目に挙げる買収後に実施するPMIのポイントは、明確な目標を掲げて発信する点です。統合を実施すると、組織や経営者の変更により、利益が減少するリスクを負ってしまいます。

つまり、ステークホルダーには、買収・M&Aの実施について、責任所在のほか目標も明確にしなければなりません。PMIでは、事業計画やシナジー効果などにデューデリジェンスを反映させて目標を明確にして発信しましょう。

焦らない

買い手企業は多額の資金を投じてM&Aを行うため、できるだけ早く投資額を回収したいと考えるのは当然ですが、焦ってPMIを進めるのは得策とはいえません。

投資回収を急ぐばかりに十分な検討をせずに改革を進めてしまうとPMIが失敗する可能性が高くなり、M&Aの効果が発揮されない事態も考えられます。

投資額をどう回収していくかはPMIを進めるうえでも必要なことですが、M&A直後は売り手企業と買い手企業の信頼関係は十分築けていないことが多く、焦って統合を行うと従業員の反発につながるリスクもあります。買い手側企業は時間をかけてPMIに取り組むという意識をもち、丁寧に進めていくことが重要です。

放任はしない

M&A直後は信頼関係が十分構築されていないため互いの配慮は必要ですが、気を使いすぎて意見を言わなかったりコミュニケーションを積極的に取らなかったりすることはよい結果を招きません。

当事者からすれば気を使っているつもりでも、必要な議論や意見交換を行わなければ放任していることと同じ状態ともいえます。PMIは売り手企業と買い手企業が同じ意識をもち協力しなければ成功させるのは極めて困難です。

相手に対して配慮することは重要ですが、放任はせずに意見交換やコミュニケーションを積極的に行うことが、PMIの成功には不可欠といえるでしょう。

PMIを成功させるには?

PMIを成功させるには、M&A当事者の経営・管理手法をどちらかに合わせて、事業活動を標準化することが大切です。どの領域に対する変革を重点的に行うか、その方向性と速度、経営のビジョンなど、譲渡側と譲受側の経営幹部などがしっかりとコミュニケーションを取って認識を共有する必要があります。

PMIを進める速度が早ければ、従業員のモチベーションが下がったり、オペレーションに混乱を起こしたりすることもあるでしょう。統合変革の必要性を従業員に納得させるためには、経営幹部などの強力なリーダーシップやマネジメントが欠かせません。

PMIを進めると、さまざまな想定外の課題が起こり得ます。課題が生じたときは、元の計画から柔軟に対応することを検討して、課題に優先順位をつけて進めることが成功のポイントです。

6. PMIの成功ポイント(売り手側)

PMIを成功させるためには、売り手側企業も意識すべき点があります。PMIは、買い手側企業・売り手側企業が協力して初めて成功するものです。売り手側企業も以下の点を意識してPMIを進めていく必要があります。

オーナーからの説明

M&Aは売り手側企業の従業員にとって大きな出来事であり、少なからず不安に感じる場合がほとんどです。そのため、どのような理由でM&Aが行われたのか、自身の今後はどうなるのかなど不安点が解消されなければ、離職や反発につながる可能性もあります。

PMIを成功させて事業運営を円滑に進めていくためには、従業員の理解と協力が不可欠です。売り手企業のオーナー(経営者)は従業員に対して、M&Aを行った理由や将来のビジョン、従業員の処遇などを自身の言葉で丁寧に説明して理解を求める必要があります。

また、従業員への説明会を開く場合は、買い手側企業の経営陣にも出席してもらい、経営方針などを話してもらうのもよい方法です。

信頼関係の構築

M&Aでは、買い手側企業のほうが売り手側企業より規模が大きいケースが多いです。そのため、売り手側企業は買い手が企業にPMIやその後の事業運営について提案や意見があっても、言い出しにくいというケースもあるかもしれません。

このようなことを伝えれば関係が悪化するのではないかと心配する気持ちもわかりますが、提案や意見を言うことはむしろよい結果につながるケースが多いです。

買い手側企業も互いの事業成長につながる提案や意見は取り入れたいと考えるケースが多く、お互いに本音を伝えることは信頼関係がより強固になるきっかけともなります。売り手側企業は受け身になりすぎず、信頼関係を構築できるよう積極的に働きかけることも重要です。

変化を恐れない

M&A後は新しい体制で事業を進めていくことになるため、売り手側企業にとっては少なからず変化が起こるということです。自社独自のやり方で長く事業を行ってきた場合、変化に戸惑いを感じるかもしれません。

ですが、自社(事業)が今後さらに成長・発展するためには、新しい方法を取り入れていくことも必要です。自社の良い伝統は残していくべきものですが、改善点やチャレンジすべきことは変化を恐れずに取り組むことが成長・発展につながることもあります。

売り手側企業は、M&Aを企業が成長するよいきっかけだと前向きにとらえ、PMIに取り組んでいくと成功しやすくなるでしょう。

7. PMIの流れ・プロセス

買収前後のPMIはどのような流れ・プロセスで進められるのでしょうか。上記で紹介したPMIの手法・やり方は、以下の流れ・プロセスによって実行されます。

①買収・M&A前の検討

買収前後のPMIにおける流れ・プロセスの1つ目は、買収・M&A前の検討です。基本合意を結ぶ前に、トップ同士の会談を通じて、最終契約後のPMIに関する計画を検討します。

PMIの実行は、買収後に行いますが、PMIの計画を練るのはクロージング前の段階です。ここで大まかな計画を立てれば、PMIの策定や実行を早められます。

②デューデリジェンスの情報をもとにPMIを策定して統合方針を決定する

買収前後のPMIにおける流れ・プロセスの2つ目は、デューデリジェンスの情報をもとにした、PMIの策定と統合方針の決定です。

デューデリジェンスで発覚した会社の状況やリスク、シナジー効果の度合いなどを、PMIの計画に反映させます。そして、統合を進める手法や順序、統合の速度などを両社で話し合い、PMIの総合方針を決める流れへと進みます。

③ランディング・プランを策定する

次はランディング・プランの策定を行います。ランディング・プランとは、クロージングから3~6か月の間に優先的に取り組むべき課題についての計画です。

ランディング・プランでは主にデューデリジェンスでわかった事項やリスクを検討することとなり、たとえば人事や労務・経営管理・組織などの見直しなどを進めていきます。

ランディング・プランの対象は経営・制度・業務・事業・意識面の5つであり、ランディング・プランを策定する目的は見落としたリスクや把握するのが難しかった問題を反映させるためです。両社が協働して事前の計画を見直したら、ライディング・プランを実行する流れに移行します。

④100日プランを決める

買収前後のPMIにおける流れ・プロセスの4つ目は、100日プランの決定です。100日プランは、クロージングから100日までの間に策定する計画をさします。

PMIを開始してから100日間はまず「緊急度の高いテーマに取り組む」ことから始め、そして「PMIという長期的な取り組みを支える体制構築」が重要なポイントです。

一般的にM&A後に企業(事業)が成長・発展するまでには1~2年程度は見越しておかなければならないため、売り手企業・買い手企業は実務担当者の負担も考慮のうえスケジュールをたてる必要があります。

⑤統合の実行・モニタリング

ランディング・プランや100日プランを進めていくうえでは、進捗状況の確認や効果の検証も適宜行う必要があります。進捗状況にちては築地あるいは週次で把握しておき、新しい課題が出てきた場合はその対応についての協議も必要です。

また、実務担当者同士でコミュニケーションができているか、従業員のモチベーションはどうなのかといった部分を知っておく必要があります。PMIは長期的に取り組まなければならないため、実務担当者の負担に十分配慮することも必要です。

そのほか、月次・週次といったタイミング以外に成約から1年後をひとつの目安として、PMIの各施策についての全体進捗や売り手企業・買い手企業の関係性を再確認し、計画のブラッシュアップを行うとより効果的にPMIを進めていくことができます。

8. PMIの具体的項目

買収後のPMIは、どのような手法・やり方で行われるのでしょうか。買収後のPMIは、以下の手法・やり方で統合を進めていきます。

①経営面の統合プロセス

1つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、経営面の統合プロセスです。売り手企業と買い手企業の企業文化や経営理念には、少なからず違う部分があります。

経営面の違いは、たとえ小さく感じてもそのまま事業運営を進めてしまうと、組織面で軋轢が生じる要因ともなりかねないものです。

もし組織面で軋轢が生じれば、やがて人材流出や衝突につながる可能性もあるため、経営面の統合プロセスを丁寧に進めていく必要があります。

経営戦略の確認・策定・発表

経営面における1つ目の統合プロセスは、経営戦略の確認・策定・発表です。クロージングの後、デューデリジェンスの情報を反映させた計画をもとに、当該会社で今後の統合計画を確認し合い経営戦略を策定します。

その後、買収・M&Aを済ませたことを従業員へ伝えます。交渉の間に外部へ漏れないよう、従業員への発表は、クロージングの後やクロージング日に伝えるのが一般的です。

適材適所の配置転換

経営面における2つ目の統合プロセスは、適材適所の配置転換です。PMIの実行は、設けるすべての部門に及ぶため、各部門を把握できる人材を配置する必要があります。

必要な人材を配置できても、PMIと並行して通常の業務もこなさなければなりません。選定した人材の負担を軽くする場合は、専門のチームを設けてPMIに専念させる・外部に協力を依頼するなどの対応を取りましょう。

経営・企業理念の浸透

経営面における3つ目の統合プロセスは、経営・企業理念の浸透です。従業員は「急に会社の統合が行われた」と感じるため、これまで貫いてきた理念をすぐに変えることは困難です。経営者同士で理念を理解し合っても従業員にまで及ばなければ、今後の経営に影響が現れるでしょう。クロージングを終えてから徐々に互いの企業理念を浸透させる必要があります。

互いの理念を把握してもらい、相手の文化を受け入れることを促して文化の上下を意識させないことが、経営・企業理念を浸透させるポイントといえるでしょう。

②制度面の統合プロセス

2つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、制度面の統合プロセスです。人事・総務・雇用・法務など制度面の統合では、売り手企業・買い手企業の従業員の労務環境や現場環境まで落とし込み、双方の認識を一致させる必要があります。

制度面の統合では経営戦略・現場ノウハウ・マネジメントの3つを意識することが重要ですが、その際は少なからず従業員の混乱や反発が起こり得ることも想定し、対応を考えておくことも必要です。

人事制度の見直し

制度面における1つ目の統合プロセスは、人事制度の見直しです。2つ以上の会社が統合されるため、それぞれの人事制度を適用すると、出身会社ごとに差が生じます。これでは、1つの企業として、まとまりに欠けるでしょう。

そこで、PMIにより、人事制度の見直しが実行されます。策定する人事制度は、労働条件や、就労規則、制度の移行にかかるコストなどで、各社の人事制度を確認した後、統合後の経営に見合った人事制度が定められます。

どちらの人事制度に合わせても問題が生じやすいため、統合後の企業を想定し、新しい人事制度を策定するつもりで人事制度を見直してください。

報酬・退職金制度の見直し

制度面における2つ目の統合プロセスは、報酬・退職金制度の見直しです。PMIにより、統合した後の会社に、基本給や賞与、手当、退職金などを合わせます。

報酬・退職金制度の見直しによっては、従業員の離職を招きかねません。不公平と感じさせないためにも、報酬・退職金の制度は慎重に行いましょう。

統合した後の経営について、重要な役割を与えたい人材がいれば、これまでの報酬体系や退職金制度を維持することを伝えてください。必要な人材を会社に引き止められます。

③業務面の統合プロセス

3つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、業務面の統合プロセスです。M&A後は、業務インフラ・システム・オペレーションなどの統合も必要となります。

しかし、これらの統合作業は手間が非常にかかるうえ、多額のコストを要するケースも多いです。あまりにコストと時間を費やしすぎては、かえってM&Aのメリットを減らすことにもなりかねません。

そのため、M&Aで期待できる効果を考慮したうえで優先順位や範囲などを決定することが重要です。また、その際は、実務担当者の負担も考慮して、無理のないスケジュールを策定する必要があります。

間接・競合部門の統廃合

業務面における1つ目の統合プロセスは、間接・競合部門の統廃合です。PMIにより、直接部門(営業・製造・開発など)を支援する間接部門の統廃合を図ります。間接部門とは、総務や人事・経理・情報システムを担う部門です。

複数の会社を1つの会社にまとめるため、重複する部門を1つに集約し、スムーズに業務を行える体制を整える必要があります。競合する部門も統廃合が必要です。競合する部門を抱えていると、経営効率が下がり、コストや人件費がかさんでしまいます。そこで、統合・廃合を行い、経営効率を高めて、コストの削減に努めるでしょう。

システムやノウハウの導入・改善

業務面における2つ目の統合プロセスは、システムやノウハウによる導入と改善です。統合に合わせて、新しいシステムを導入し、業務の効率や問題点を改善します。特に、会社の根幹を担う基幹業務や、仕入れから供給までの物流システムについて、改善や導入を行うでしょう。

ノウハウは当該会社の影響力を避けるために、外部に協力を仰いで客観性を維持するケースが一般的といえます。

④事業面の統合プロセス

4つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、事業面の統合プロセスです。M&Aによって2つ以上の企業(事業)が統合されれば、当然のことながら重複する部分や無駄がみえてきます。

事業面での統合プロセスでは、売り手側企業・買い手側企業の重複しているサービスや類似製品は統廃合したり、仕入れ先の統一・絞り込みなどを行い、より利益やシナジーが大きくなるよう精査・判断が必要です。

取引先の見直し

事業面における1つ目の統合プロセスは、取引先の見直しです。共通する資材などを購入している場合は、取引先を見直して、取引条件の変更や納品期間の短縮などを図ります。

商品・サービス・製造品の統廃合

事業面における2つ目の統合プロセスは、商品・サービス・製造品の統廃合です。シナジー効果を得るために、商品・サービス・製造品を見直し、重複するものを取り止めたり1つにまとめたりします。

提供までの効率性を高めて重複による無駄を取り除くと、スケールメリットの獲得が可能です。

⑤意識面の統合プロセス

5つ目に挙げる買収後におけるPMIの手法・やり方は、意識面の統合プロセスです。意識面の統合はPMIのなかで最も難しく、デリケートだといわれています。

企業が事業運営を行うためには従業員が不可欠ですが、これまで違う環境・経営理念のもとで働いていた従業員同士が同じ意識をもって業務にあたるというのは難しいケースも多いものです。

そのため、組織内で派閥ができたり意識面の違いから離職者がでたりしないよう、適切な情報を共有し理解を得ることを意識しながら意識面のPMIを進めていかなければなりません。また、従業員の意見をしっかり聞いてPMIに反映させることは、結果としてリスク回避につながります。

全従業員・社員へのフォロー

意識面における1つ目の統合プロセスは、全従業員・社員へのフォローです。経営陣の意識を統合するほか、抱えている従業員の意識を合わせる必要があります。

しかし、すぐに従業員の意識を変えるのは難しいため、統合の目的や今後の経営方針、互いの企業文化などを伝えて、不安を抱かないように気を配りましょう。

社内の垣根の排除

意識面における2つ目の統合プロセスは、社内における垣根の排除です。統合を済ませても、社員同士に壁ができると、業務に支障が及んで統合後の経営が妨げられるでしょう。社員向けの研修や、役員・部門長向けのワークショップ、社内広報などで、統合した会社への理解を深め、ふさわしい環境を整えてください。

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9. PMIの失敗事例

PMIの計画をしっかり立てなければ、買収・M&A後のPMIに失敗することがあるでしょう。ここでは、自社の買収・M&AとPMIに生かせるよう買収・M&A後のPMIに失敗した事例を取り上げます。

①マイクロソフトによるノキア携帯端末事業の買収

1つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、マイクロソフトによるノキア携帯端末事業の買収です。アメリカのマイクロソフトは、2014年の4月に、ノキアの携帯端末事業を買収しています。

買収の目的は、携帯端末の普及・開発の加速化・ユーザーの獲得です。ノキアが開発・提供していたWindows Phoneを買い取り、携帯端末の普及と開発の加速化を狙っていました。ノキアを通じて、10億人の利用者をマイクロソフトのサービスに引き込もうとしていました。

ところが、買収後、携帯端末市場でシェアの拡大に至りませんでした。これは、後手に回ったハードウエア事業の買収、徹底されていない差別化に加えて、ノキアのブランドを消滅させたことにあります。

ノキアブランドには一定数のユーザーがいたので、PMIでノキアブランドを残し、携帯端末のハードウエア事業を続けていれば、一般消費者向けのシェアを失うことなく、コアなファンを取り込めたでしょう。

②米国ウォルマートによる西友の買収

2つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、米国ウォルマートによる西友の買収です。ウォルマートは、2002年に業務提携を行った後2008年4月に西友を買収し、完全子会社としました。

しかし、2017年12月期の決算では当期利益を0円として、赤字の解消を図ったものの、2018年12月期の決算では、当期純利益がマイナス6,600万円、利益余剰金をマイナス57億4,600万円としています。

ウォルマートが、多額の累積赤字に陥った要因は、PMIによる価格設定の変更です。ウォルマートは、エブリデー・ロープライスの戦略により、特売日を設けずに低価格の商品を毎日販売しています。

西友もこの戦略を用いてシェアの拡大を狙いましたが、消費者は安い価格設定に慣れてしまい、他店の特売日にはお客を奪われ、思うように売り上げが伸ばせていないと考えられます。

参考:西友合同会社、 KKR & CO. INC.、 楽天株式会社、ウォルマート・インク「KKRと楽天、ウォルマートから西友株式取得完了」

③NTTコミュニケーションズによる米国ベリオの買収

3つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、NTTコミュニケーションズによる米国ベリオの買収です。NTTコミュニケーションズは、2000年5月に、ホスティングサーバーを提供するベリオを約55億ドルで買収しています。

買収の目的は、ベリオのIPネットワークを活用した、ネットワークサービスの統合です。サービスの質を高めることで、サービスエリアをアジア・アメリカへと広げ、ヨーロッパへの拡大も見込んでいます。

ところが、買収直前に起きたインターネットバブルの崩壊や、現金による買収のほか、経営ノウハウ・人材不足の状態で買取ったことで、株価の下落や、ストックオプションの行使による人材の流出を招き、8,000億円以上の損失を計上しています。

参考:NTTコミュニケーションズ株式会社「 Verio Inc. Verio社の株式公開買付けによる買収・合併について」

④パナソニックによる三洋電機の買収

4つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、パナソニックによる三洋電機の買収です。パナソニックは、2009年12月に、三洋電機の株式を取得し、子会社としました。

買収の理由には、両社のノウハウを共有したシナジーの獲得を挙げています。ところが、三洋電機ののれん代として、2,500億円を減損処理として計上しました。

PMIが失敗した要因は、円高・韓国企業の台頭による民生用リチウムイオン電池事業の価値低下と、リチウムイオン電池事業のシナジー効果の低下にあります。

円高に加え、安価なリチウムイオン電池の開発を韓国企業が行ったため、シェアを奪われました。三洋電機との開発では、両社の技術は共有性に欠け、ほとんどシナジーを得られないことが判明し、人材の流失を招いています。

⑤セブン&アイHDによるそごう・西武の買収

5つ目に紹介する買収後のPMIに失敗した事例は、セブン&アイHDによるそごう・西武の買収です。セブン&アイHDは、2006年6月に株式取得と株式交換を行い、そごう・西武を完全子会社としています。

買収の目的は、富裕層の取り込みです。事業領域の幅を広げて、総合的な量販店事業に拡大することが狙いでした。ところが、共同販促などによるシナジーが想定を下回ったことで、思うように利益を挙げられていません。2017年2月期の第2四半期決算では、そごう・西武は122億円の減損損失を計上しています。

そして、2017年にそごう神戸店と西武高槻店の事業を、エイチ・ツー・オー リテイリングへ売却しました。

参考:株式会社セブン&アイ・ホールディングス「株式交換契約締結に関するお知らせ」

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10. PMIの成功事例

この章では、買収・M&A後のPMIに成功した事例を見ていきましょう。

①JTによるRJRI、Gallaherの買収

JTは、1999年5月にRJRIを買収しました。2007年4月にGallaherを買収しています。これらの買収は、国際的な競争力を高めるために実施されました。買収によって困難な海外M&Aの理解を深め、経験を積んでスケールの拡大も可能にしています。

経験に基づいて前もって準備を行い、PMIを短期間で行ってシナジー効果を早期に得ました。その結果、海外市場向けに対する販売本数の水準が約8割です。

参考:日本たばこ産業株式会社「特集:Gallaher社の買収について」

②日本電産による買収

日本電産は、2019年11月までに66件のM&Aを実施した企業です。経営は悪化しているが技術力のある会社を買収し、経営を改善して立て直すことにより事業を広げています。

日本電産は「高値づかみをしない」「買収によるシナジー効果」「PMI・経営の関与」に重点を置いてM&Aを行いました。日本電産は、最初のステップで値段を抑えたりPMIへ積極的に関与したりして失敗する確率を低くしたことが、成功における要因の一つといえます。

③サントリーホールディングスによるビーム社の買収

サントリーホールディングスは、2014年1月にビーム社を買収しています。この買収は、世界各地において、両社の強いブランド展開にプラスして販売網・技術交流などを通したシナジー効果を狙って行われました。M&A後、サントリーにおけるウイスキーの販路・業績が拡大しています。

この成功の要因に、トップが、徹底して現場レベルとコミュニケーションをとったことが挙げられます。互いの理解が進むことで、シナジーも得られました。ビーム社の独立性をキープしながら放任することなく進行したことも成功のポイントです。

④楽天による買収

他の企業があまり前向きにM&Aを実施していない2000年代から、楽天はM&Aを実施している企業です。楽天は、楽天トラベルや楽天証券などの前身の会社を買収しました。

楽天は、インターネット基盤と証券、旅行など、いろいろな分野を結びつけて売上高を上げ、売上面・コスト面で大きなシナジーを発揮させてそれぞれの分野で成功しています。

上手にシナジーを発揮させ、業務範囲を広げたことが成功事例となっています。日常的な分野である楽天市場、楽天ブックス、楽天トラベルなどのほか、楽天証券や楽天銀行など幅広い分野で事業を広げました。

⑤KDDIによる買収

KDDIは、買収によるインフラを整えるクロスセル、スマホコンテンツの強化などにおける観点で、M&Aを促進してきました。

KDDIはM&Aを実施して、CATV、固定電話、携帯電話、インターネットを一気通貫したサービスを提供し、これらをまとめて割引になるプランを作って業績を広げました。通信とライフデザインを融合させて事業も拡大し、新しい価値に対する投資を行っています。KDDIの成功は、既存事業とのシナジーやサービスの融合を進めたことがポイントです。

11. PMIに関する質問

M&Aを初めて行う場合、PMIはどのように進めていくのか、準備すべきことはあるのかなど疑問も多いはずです。ここでは、PMIに関して多く聞かれる質問とその回答を紹介します。

M&A成約前に確認しておくべき項目はありますか?

売り手企業側から多く聞かれるのは「M&A成約前に確認すべき項目はなにか」というものです。個々のケースによって確認しておくべき内容は変わる部分もありますが、必ず確認すべき項目としては以下の5つがあります。

  1. 経営者(オーナー)がM&A後に引退する場合、社内に後継者となる人物がいるか
  2. 管理会計を導入しているか
  3. 経理業務の担当者が経営者(オーナー)の親族である場合、M&A後に退任する予定なのか
  4.  適切なKPI(重要業績評価指標)が管理されているか
  5. 中長期計画・経営ビジョンは策定されているか

なお、売り手側企業の状況やM&A内容によっては、ほかに確認しておくべき事項もあるので、担当アドバイザーに確認しておくことをおすすめします。

12. PMIの相談先

PMIの良し悪しによって、統合後の経営に影響が及びかねません。M&A仲介会社を利用すれば、各分野の専門家による統合の支援を受けられます。統合前に戦略の策定を行ったり、各セクションに必要な統合を計画に盛り込んだりするなど、PMIのサービスを通じて会社の事業展開・シナジーの獲得をサポートしてくれます。

買収・M&AにおけるPMIの相談は、M&A総合研究所へ

買収・M&AにおけるPMIのご相談は、ぜひM&A総合研究所へお任せください。M&A総合研究所では、買収・M&Aに精通したM&Aアドバイザーが案件をフルサポートします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。PMIも統合が円滑に進むようにサポートします。無料相談を随時受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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13. PMIのまとめ

買収・M&A後のPMIについて、PMIの概要や、手法・やり方、流れ・プロセスなどを紹介しました。取り上げた失敗例を見ると、不十分なPMIにより想定したシナジーを得られなかったり、必要な人材が離れてしまったりするなど、統合後の経営に悪い影響が及んでいます。

買収・M&Aを成功させるためには、徹底したPMIが重要です。

【買収後に実施するPMIのポイント】

  • 統合初日までにPMI案を完成させる
  • 強いリーダーシップを発揮する経営者や役員の存在
  • 各部署・各企業に人材を確保する
  • 明確な目標を掲げて発信する

これから買収・M&Aを行う方は、上記のポイントを踏まえつつ、M&A専門家の力を借りることをおすすめします。

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