2024年05月20日更新
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とは?計算式や割引率・メリット・デメリットを解説【企業価値算定】
DCF法とは企業価値計算手法の1つですが、計算式に割引率などの数学的概念が多く理解が難しい面があります。この記事では、DCF法とはどのようなものか、計算式や割引率、メリット・デメリットなどを初心者の方向けにわかりやすく解説します。
目次
1. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とは何か【企業価値算定】
M&Aの売却価格は、買い手企業・売り手企業の経営者が交渉し、お互いが納得した価格で成立します。その過程では、客観的な評価ができる理論的な売却価格を計算し、それを参考に価格交渉するのが一般的です。
この理論的な価値評価を「企業価値評価」または「企業価値算定」といいます。企業価値の計算手法にはいくつかの種類がありますが、最もよく使われる手法の1つが「DCF(Discounted Cash Flow)法(ディスカウントキャッシュフロー法)」です。
この章では、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)とはどのような計算手法なのか、関連用語である「FCF(フリーキャッシュフロー)」の概要や、企業価値を計算するその他の方法などを解説します。
DCF法とは
DCF法とは企業価値を計算する手法の1つであり、「ディスカウントキャッシュフロー法」の略です。ディスカウントを日本語に訳して、「割引キャッシュフロー法」と呼ばれることもあります。
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を簡単に説明すると、事業計画書からその会社が将来どれくらいの利益(フリーキャッシュフロー)を得るか計算し、将来の不確定性やリスクを「割引率」として考慮したうえで計算式から企業価値を求める手法です。
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)のような、将来の利益から企業価値を計算する手法の総称を「インカムアプローチ」といいます。
企業価値とは
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)は企業価値を計算式から算定する手法ですが、そもそも企業価値とはどのようなものなのでしょうか。
企業価値は「企業価値を高める」のように漠然とした価値を表すこともあれば、時価総額と同じような意味で使われる言葉でもあります。
時価総額も、会社の価値を表す1つの指標ではあります。DCF法による企業価値を示す場合は、無形資産や非事業用資産なども考慮し、そこから計算した将来のフリーキャッシュフローを割引率で調整した計算式によって導き出される数値をさすのが一般的です。
企業価値を算出する他の方法
企業価値を計算する手法はDCF法以外にも多数存在し、それらはコストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの3種類に大別されます。
コストアプローチとは、純資産を元に企業価値を計算する手法であり、簿価純資産法・時価純資産法が代表的です。
インカムアプローチとは、会社の将来の収益を予想して企業価値を計算する手法で、DCF法以外に収益還元法などがあります。
マーケットアプローチとは、ほかの会社を参考にして企業価値を計算する手法で、代表的なものは類似会社法・市場株価法などです。
【企業価値を計算する方法】
コストアプローチ | ・簿価純資産法 ・時価純資産法 |
インカムアプローチ | ・DCF法 ・収益還元法 |
マーケットアプローチ | ・類似会社法 ・市場株価法 |
FCF(フリーキャッシュフロー)とは
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を理解するためには、計算式に出てくるFCF(フリーキャッシュフロー)の概要を知っておく必要があります。
FCF(フリーキャッシュフロー)とは、営業活動によって生じたお金の増減(営業キャッシュフロー)から、設備投資・有価証券の取得・固定資産の取得などで生じるお金の増減(投資キャッシュフロー)を引いた計算式で求めるものです。
実際にDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)でFCF(フリーキャッシュフロー)を計算する際は、法人税率や利息の支払率などを考慮して、もう少し厳密な計算式を使うこともあります。
FCF(フリーキャッシュフロー)の計算式は以下のとおりです。
- FCF(フリーキャッシュフロー)=(営業キャッシュフロー)+(投資キャッシュフロー)
2. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)のメリット・デメリット【企業価値算定】
企業価値の計算方法は、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)以外にもさまざまなものがあります。どれもメリット・デメリットがあり、完璧な計算方法は存在しません。
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を使う際も、そのメリットとデメリットを理解しておくことが大切です。
この章では、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)のメリットとデメリットとして経営者が知っておきたい基本的な事項を解説します。
DCF法のメリット
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)は、会社の将来性やのれん(営業権)をより現実的に評価できるのが大きなメリットです。
一方で、コストアプローチやマーケットアプローチでは、会社の将来性やのれんを直接的に計算に組み込むことはありません。
将来性やのれんを組み込む点は、DCF法はこれから成長していくベンチャー企業などの価値評価に向いている方法です。大企業の企業価値の計算では多くの場合でDCF法が使われています。
DCF法の主なメリットは以下のとおりです。
- 大企業やベンチャー企業の評価に向いている
- のれん(営業権)の評価に向いている
DCF法のデメリット
DCF法のデメリットは、評価の過程に恣意的な要素がある点が挙げられます。割引率や永久成長率といった値は、DCF法を使う専門家がそれぞれの判断で決めなければなりません。
同じ会社をDCF法で計算しても、誰が計算するかによって企業価値が変わる場合があります。現在の資産を計算するコストアプローチに比べると、計算が複雑になるのもDCF法のデメリットです。
DCF法では、割引率や残存価値をはじめとしたさまざまな数学的要素が出てきます。経営者にとって、なぜ自社の価値がこの値段になるのか納得しづらいケースも考えられます。
DCF法の主なデメリットを以下にまとめました。
- 評価の過程に恣意的な要素がある
- 計算が複雑
3. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)の算定方法【企業価値算定】
経営者自身がDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)の計算式の詳細を知る必要はありませんが、基本的な計算式を知っておけば、専門家が計算した企業価値をある程度、理解して判断できるようになります。
この章では、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)の算定方法に関して、専門家ではない経営者が押さえておきたい知識を解説します。
DCF法の計算式
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)における企業価値の計算式は、以下のように表せます。
下の計算式では最初の3年分のみを記していますが、実際は4年後、5年後と続く無限級数になることを覚えておきましょう。
【DCF法の計算式】
- (1年目のFCF)/(1+割引率)+(2年目のFCF)/(1+割引率)²+(3年目のFCF)/(1+割引率)³+...
計算の手順
ここからは、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)の計算手順を4つのステップで解説します。
フリーキャッシュフローの計算
まずは事業計画などから1年後・2年後・3年後とそれ以降のFCF(フリーキャッシュフロー)を計算し、リスクや不確実性に応じて割引率を設定します。
FCFは企業が自由に使えるお金のことです。企業はFCFから借入金の返済、株主への配当、事業拡大のための設備投資を行います。
FCFがマイナスの企業の場合、企業を維持するために、銀行借り入れ・第三者割当増資・資産売却などの手段で資金調達が求められます。
割引率の計算
割引率の値は、将来のリスクや不確実性が大きいほど大きくなる仕組みです。各項の分母の(1+割引率)は、2年目は2乗、3年目は3乗、4年目は4乗と年数分だけ掛け算します。
(1+割引率)は1よりも大きいので遠い未来ほど値が大きくなり、分母が大きくなることはその項の値は小さくなります。
遠い未来の項ほど値が小さくなりゼロに近づいていくので、無限に遠い未来まで計算しても値が無限大になることはなく、最終的にはある決まった値が計算式から求められる仕組みです。
実際は無限に遠い未来まで厳密に計算はできないので、後で解説する「残存価値」などを利用して計算式を簡略化します。
ターミナルバリューの設定
その後、ターミナルバリュー(TV)を設定します。具体的な計算式は以下のとおりです。
- ターミナルバリュー=予想期間の最終年度のフリーキャッシュフロー÷(割引率-永久成長率)
永久成長率はインフレ相当率である0~1%とするケースが多く、ゼロで算定されるケースも多いです。
企業価値の算出
最後に、各期のFCFに関して割引率を用いて現在価値を算出し、各期の現在価値のFCFとTVを合算することでDCF法による企業価値を算出します。
4. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)の割引率【企業価値算定】
DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)にはさまざまな数学的概念が出てきますが、それ以外に知っておきたいのは「割引率」です。
割引率の概要を知っておけば、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)の基本となる計算式を理解できます。
DCF法の割引率とは
割引率とは、将来得られると予想されるキャッシュフローが現在どれほどの価値に相当するかを計算するための値です。DCF法の割引率の計算では、「加重平均資本コスト(WACC=Weighted average cost of capital)」と呼ばれる計算式が使われます。
例えば、同じ1億円でも、ほぼ確実に得られる1億円と不確実性の高い1億円なら、現在価値が高いのは確実に得られる1億円です。
リスクが高いフリーキャッシュフローには割引率を高くすることで、現在の価値を低く設定できます。
5. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)に関わるその他の要素【企業価値算定】
前述の割引率はDCF法で重要な概念ですが、それ以外の要素も知っておくとDCF法をより深く理解できます。この章では、DCF法の計算式で割引率に次いで重要となる、残存価値と永久成長率の概要を解説します。
残存価値とは
DCF法の計算式には各年度の利益を予測した値が出てきますが、事業計画はせいぜい数年先までしかできないので、遠い未来の利益は求めようがない問題もあります。
残存価値とは、事業計画を立てた年度より先のフリーキャッシュフローを簡略化して求めて算式に組み込むためのものです。
残存価値の計算式は、事業計画を元に予測したフリーキャッシュフローの、その次の年のフリーキャッシュフローを求め、さらにその値を割引率で割ることで求められます。
DCF法の計算式は、残存価値の値次第で計算結果が違ってくるので、残存価値は割引率と並んで重要な要素です。
残存価値の計算式は以下のとおりです。
- 予測最終年度の次年度のFCF/割引率
永久成長率とは
残存価値とは遠い未来のフリーキャッシュフローを単純化して求める計算式ですが、残存価値の値をそのまま使うだけでは正確性に不安があります。
永久成長率とは、残存価値をより現実に即した形に修正するための考え方の1つであり、遠い未来の利益が一定の割合で増え続けると仮定するものです。
残存価値の計算式に永久成長率を組み込むと以下の計算式になりますが、永久成長率の設定には恣意性が伴うので、実際に計算を行う専門家がそれぞれの考え方や判断で決めることになります。
事業から予想される成長率やその国のインフレ率などを考慮して決めるのが一般的です。
- 予測最終年度の次年度のFCF/(割引率-永久成長率)
6. DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)の結果と信頼性【企業価値算定】
DCF法は、企業価値の計算手法の中では比較的信頼度の高いものです。会社の事業のさまざまな要素を割引率などの数学的な概念に落とし込んでいるので、多くの単純化と恣意的要素が含まれています。
DCF法の結果を信じ込み、交渉でDCF法が出した価格にこだわりすぎてしまうのは、M&Aの失敗につながる要因ともなり得ます。
DCF法は一定の信頼がある計算手法ではあるものの、M&Aの売却価格は最終的には売り手と買い手が納得するかが重要です。DCF法を参考にしつつ、経営者自身が納得できる価格を目指すのがよい方法だといえます。
7. M&AとDCF法に関する相談先
M&AではDCF法などで企業価値を計算しますが、納得のいく価格でM&Aを行うためには、専門家に相談して相手探しや交渉などをスムーズに進めていくことも大切です。
M&A総合研究所は、中小企業のM&Aに数多く携わっています。豊富な経験と知識を持つM&Aアドバイザーが在籍しており、M&Aのご相談から成約までフルサポートします。
料金体系は完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)で、着手金は譲渡企業様・譲受企業様とも完全無料です。無料相談は随時、受け付けていますので、DCF法や割引率およびM&Aに関して疑問などがある場合は、お気軽にM&A総合研究所までお問い合わせください。
8. DCF法のまとめ
DCF法とは、事業の将来性から企業価値を算定するインカムアプローチの1種であり、割引率などの数学的概念を駆使した計算式を使います。
経営者自身も割引率などDCF法の基本的な内容を知っておくと、専門家が行うDCF法による自社の評価を理解しやすいです。
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